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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

けんさで「ようせい」と 出た 人の うち、ほんとうに びょうきの 人は どれくらい? ── 考え直す すうがく

検査で「陽性」と出た人のうち、本当に病気なのは約8%? ── 考え直すベイズの数学

陽性と出た人のうち、実際に病気なのは約8%になる設定 ── 事前確率と検査の精度から読むベイズ的な考え方

分野:歴史・文化

びょうきの けんさで「ようせい」(びょうきかも しれない という けっか)と 出た 人たちを、ぜんぶ あつめます。その 中で、ほんとうに びょうきの 人は、やく 8%に なる れいが あります。100人の うち 8人ほどです。

どうして、そう なるのでしょう。4つの わりあいを わけて おぼえ、「1000人で かぞえる」やり方と、友だちが 世に 出した 考え方を 見ると、わかります。

病気の検査で「陽性」と出た人たちを集めると、その中で本当に病気の人は約8%。そんな例が、研究で取り上げられています。しかも、お医者さんの多くが、この割合を70〜80%くらいだと答えたと報告されています[1]。

この8%は、「病気の人のうち陽性になる割合」ではありません。「陽性と出た人のうち、本当に病気の人の割合」です。なぜ、これほどずれるのでしょうか。4つの割合を区別して、「1000人で数える」やり方と、生前に発表されなかったベイズの考えが広まった道すじを見ると、新しい情報で予想を考え直す数学のしくみが分かります。

検査で陽性と出た人を集めたとき、その中で実際に病気の人の割合(陽性的中率。個人にとっては事後確率)が約8%にとどまる設定がある。エディの例では、多くの医師がこの値を70〜80%と答えたとされ、真の値との差は約10倍だった[1]。

この8%は、感度(病気の人のうち陽性になる割合)でも偽陽性率(病気でない人のうち陽性になる割合)でもなく、陽性の人全員を分母にした割合だ。差は、最初の割合(事前確率)を忘れることから生じる。4つの割合の区別、1000人に置きかえる方法、ベイズの「見えないボール」の問題、ベイズの規則を使った迷惑メールの判定を通して、新情報で予想を更新する考え方の中身と限界が分かる。

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1. ようせいと 出た 人の うち、びょうきの 人は どれくらい?

1. 「陽性」と出た人のうち、本当に病気の人はどれくらいか

1. 感度80%の検査で陽性になったとき、病気である確率はいくつか

びょうきの けんさを うけて、「ようせい」と 出ました。ようせいは、「びょうきかも しれない」という しるしです。

では、ようせいと 出た 人たちを ぜんぶ あつめたら、その 中で ほんとうに びょうきの 人は どれくらいでしょう。わりあいが 4つ 出て くるので、べつべつの ものとして おぼえます。

  • A びょうきの 人の わりあい:けんさを うける 人の うち、びょうきの 人は 100人に 1人(1%)。
  • B びょうきの 人が ようせいに なる わりあい:びょうきの 人の うち、ようせいに なる 人は 8わり(80%)。
  • C まちがいの ようせいの わりあい:びょうきで ない 人の うち、まちがって ようせいに なる 人は 100人に 9〜10人ほど(9.6%)。
  • D ようせいの 人の 中の、ほんとうに びょうきの 人の わりあい:ようせいと 出た 人たちを ぜんぶ あつめた とき、その 中で ほんとうに びょうきの 人の わりあい。

この メモの 答えは、Dです。やく 8%です[1]。Bの 80%や、Cの 9.6%の ことでは ありません。お医者さんの 多くは、Dを 70〜80%と 答えたと いわれます[1]。10ばいも ちがいます。

ただし、これは 学ぶために 作られた 数の れいです。本当の けんさの 話では ありません。

どうして、こんなに ずれるのでしょうか。

検査の例を一つ

ある検査を、40歳の女性に受けてもらった場面を考えます。この話には、よく似た割合が4つ出てきます。「何の人たちのうち、何の人の割合か」がそれぞれちがうので、先に名前をつけて、別のものとして区別しておきます。

4つの割合の区別(検査の例)
名前何の人たちのうち、どんな人の割合かこの例の値
A 病気の割合(事前の割合)検査を受ける人全体のうち、病気の人1%
B 感度病気の人のうち、検査で陽性になる人80%
C 偽陽性率病気でない人のうち、まちがって陽性になる人9.6%
D 陽性的中率陽性と出た人全員を集めたとき、その中で本当に病気の人約7.8%(約8%)

この記事の答えは、Dです。「約8%」とは、Bでも、Cでもありません。陽性と出た人たちの中で、本当に病気の人の割合です。

ところが、1982年に取り上げられたこの例で、多くの医師はDを70〜80%と答えたと報告されています。正しい値の約10倍です[1]。

別の研究でも同じだった

ギーゲレンツァーという研究者が別の設定で質問したところ(Aが0.8%、Bが90%、Cが7%)、アメリカの医師100人のうち95人が、Dを約75%と答えました。正しくは約7.7%です[2]。

ここで大事なのは、お医者さんが勉強不足だという話ではありません。多くの専門家が同じ方向にまちがえた、という点です。人の直感には、こういうくせがあるようです。もう一つ大事なのは、これは教育用の数字で、実際の医療の判断には使えないことです。

エディの例は40歳女性の乳がんを想定している。まず、似ているが分母のちがう4つの量を区別する。

4つの量の区別(エディの例)
名前分母と分子この例の値
A 有病率(事前確率)検査を受ける人全体のうち、病気の人1%
B 感度病気の人のうち、陽性になる人(P(陽性|病気))80%
C 偽陽性率病気でない人のうち、陽性になる人9.6%
D 陽性的中率(事後確率)陽性の人全員のうち、実際に病気の人(P(病気|陽性))約7.8%

問われているのはDで、約0.078(約8%)だ。Bの0.80ではない。多くの医師はDを0.70〜0.80と答えた。約10倍の過大評価だ[1]。

別の設定でも同様の結果が出ている。ギーゲレンツァーが示した例(A=0.8%、B=90%、C=7%)では、米国の医師100人のうち約95人がDを約75%と答えたが、正しくは7.7%だった[2]。なお、2つの例の数値設定は別なので、混ぜて比べてはいけない。

2つの研究とも、答えが外れた方向がそろっている。計算ミスではなく、判断のしかたに偏りがあるという読み方ができる。数値は教育用の例で、実際の検査の解釈の指針ではない。では、なぜ正しい答えは、こんなに小さくなるのか。

2. 1000人で かぞえて、ようせいの 人の 中を 見る

2. 1000人に置きかえて、陽性の人の内わけを数える

2. 確率を「人数」に直す ── 1000人で数えて、陽性の人の内わけを見る

かんたんに わかる やり方が あります。1000人の 町を 思いうかべて、人数で かぞえる のです。まず、1000人を 4つの かたまりに わけます[2]。

1000人の 4つの かたまり
ようせいに なるようせいに ならない
びょうきの 人 10人8人2人
びょうきで ない 人 990人まちがいの ようせい やく 95人やく 895人

つぎに、ようせいと 出た 人だけを あつめます。8人 たす 95人で、ぜんぶで やく 103人です。この 103人の 中を 見ると、ほんとうに びょうきの 人は 8人。まちがって ようせいに なった 人は、やく 95人です。

103人の うち、びょうきなのは 8人。8を 103で わると、やく 8%です[2]。これが D(ようせいの 人の 中の、ほんとうに びょうきの 人の わりあい)です。

ようせいの 人の ほとんどは、まちがって ようせいに なった 人なのです。びょうきで ない 人が 990人も いて、その 100人に 9〜10人ほどでも、人数は 95人に なるからです。

まちがえやすい ところが、ふたつ あります。

  • 「びょうきの 人の 8わりが ようせいに なる」(B)は、「ようせいと 出たら 8わり びょうき」では ありません。Bは 10人の うち 8人、Dは 103人の うち 8人で、数える もとの 人が ちがいます。
  • 「びょうきで ない 人の 100人に 9〜10人が まちがって ようせいに なる」(C)は、「ようせいの 10人に 1人が まちがい」では ありません。Cの もとに なる 人は、びょうきで ない 990人です。ようせいの 103人の うち、まちがいは 95人も います。

ある 研究者は、150人の お医者さんに 1時間の こうぎを したと 書いています。ようせいの ときの びょうきの かくりつを 正しく わかった 人は、21%から 87%に ふえたそうです[2]。

確率を人数に直す

パーセントのまま考えると、頭がこんがらがります。そこで、1000人の女性がいると考えて、人数で数えます[2]。病気の人はA(1%)なので10人、病気でない人は990人です。

1000人を、病気かどうかと検査の結果で4つに分けた人数
陽性陰性合計
病気の人8人(Bの80%)2人10人
病気でない人約95人(Cの9.6%)。これが偽陽性約895人990人
合計約103人約897人1000人

ここで、陽性と出た人だけを集めます。約103人(8+95)です。この約103人の内わけは、本当に病気の人が8人、まちがって陽性になった人(偽陽性)が約95人。つまり、陽性の人のうち本当に病気なのは8人です。8÷103で約7.8%、つまり約8%。これがDです[2]。

陽性の人の大半が、まちがって陽性になった人です。病気でない人は990人もいるので、少しの「まちがって陽性」でも、人数がふくらみます。

よくある2つの勘違い

  • 「病気の人の80%が陽性になる」(B)を、「陽性と出たら80%の確率で病気」(D)と読むのは勘違いです。向きがちがいます。Bの分母は病気の人10人(8÷10)、Dの分母は陽性の人103人(8÷103)です。
  • 「病気でない人のうち、まちがって陽性になる人は9.6%」(C)を、「陽性の人の約10%がまちがい」と読むのも勘違いです。Cの分母は、病気でない990人(95÷990)です。陽性の103人のうちでは、まちがいが約95人で、およそ9割を占めます。

数え方を知ると変わる

ギーゲレンツァーは、150人の婦人科医に1時間の講義をしたところ、陽性のときの病気の確率を正しく理解した人が21%から87%に増えた、と書いています[2]。

この数字は、書いた本人が自分の講義について報告したものです。ただ、少なくとも、専門家でも新しい見方で数え直すと、答えが変わりうることは分かります。

確率の問題を、人数(自然頻度)に直すと、見通しがよくなる。1000人を想定すると、病気の人(A)は10人、病気でない人は990人だ[2]。

1000人を、病気かどうかと検査の結果で4つに分けた人数
陽性陰性合計
病気の人8人(B=80%)2人10人
病気でない人約95人(C=9.6%。990×0.096≒95)約895人990人
合計約103人約897人1000人

陽性の人全員を分母にして内わけを見る。陽性は計約103人で、その内わけは、実際に病気の人が8人、偽陽性(病気でないのに陽性)の人が約95人だ。したがってD=8÷103≒7.8%(約8%)になる[2]。

陽性の約103人のうち、病気でない人が約95人を占める。病気でない人が圧倒的に多いため、偽陽性率が1割弱でも、絶対数では本物の陽性を大きく上回る。これが、感度が高いのに陽性的中率が低くなる理由だ。

混同しやすい点が2つある。第一に、B(P(陽性|病気)=0.8)とD(P(病気|陽性)≒0.078)は、条件の向きが逆で、分母も異なる(Bは病気の10人、Dは陽性の103人)。Bが高いことは、Dが高いことを意味しない。第二に、C(偽陽性率)の分母は病気でない990人であり、陽性の人数ではない。Cが9.6%でも、陽性の人のうち偽陽性が占める割合は95÷103で約92%になる。

ギーゲレンツァーは、150人の婦人科医に向けた1時間の講義のあと、陽性のときの病気の確率を正しく理解した人が、講義の前の21%から87%に増えたと報告している[2]。ただし、これは筆者本人が自分の講義について述べた数字で、講義の内容や条件まで一般化することはできない。

3. 「さいしょの 予想」が かぎを にぎる

3. 最初の予想が、答えに大きく関わる

3. 事前確率の効き方 ── 陽性のあと、病気の確率が1%から約8%になる意味

けんさを うける 前、びょうきの 人は 100人に 1人でした。これが、「さいしょの 予想」です。

ようせいと わかると、その 人が びょうきである かくりつ(D)は、1%から 8%に ふえました。やく 8ばいです。でも、まだ ひくい 数です。びょうきの 人が 少なかった ために、ようせいが 出ても びょうきとは 言い切れません。

新しい しらせを 聞いて、さいしょの 予想を 作り直す。この 考え方を、「ベイズの 考え方」と いいます。

最初の予想、新しい情報、考え直した予想

検査を受ける前、その人が病気である確率はA(1%)でした。これが最初の予想です。「陽性」という新しい情報を受けとって、その人が病気である確率は、D(陽性と出た人たちの中で本当に病気の人の割合)の約8%に変わりました。約8倍です。

ここが、ベイズ的な考え方の中心です。最初の予想に、新しい情報を合わせて、予想を考え直します。しかも、この約8%は、次の情報を受けとるときの新しい出発点にもなります。

最初の割合が小さいと、予想は動きにくい

1%から8%に上がっても、まだ低いままです。もし最初の予想が、もっと高ければ、同じ「陽性」でも、考え直した予想はずっと高くなるはずです。最初の予想を忘れると、陽性という言葉だけが大きく見えてしまいます。医師の答えが、約75%に偏ったのは、そのためだと読むことができます。

病気の割合A(1%)を事前確率、陽性を見たあとの約7.8%(D)を事後確率と呼ぶ。ベイズの規則とは、事前確率に新しい証拠の効き具合をかけて、事後確率に更新する計算のことだ。

今回の例では、事前確率1%が、陽性という証拠で約8倍になった。ただし、それでも約8%にとどまるのは、事前確率が小さいからだ。事前確率が高ければ、同じ陽性でも事後確率はもっと大きくなる。医師の多くが70〜80%と答えたのは、事前確率を無視して、感度(80%)の数字に引きずられたためという読み方ができる[1]。ただしこの解釈は、答えの偏りから推測したもので、個々の医師の思考過程を直接調べた結果ではない。

更新後の値は、次の証拠に対する新しい事前確率として使える。「考え直した予想を、また考え直す」ことができる点が、この考え方の強みだ。

4. 見えない ボールの 場所を さがす

4. ベイズが考えた「見えないボール」の問題

4. ベイズの問題設定 ── 見えない最初のボールの位置を、左右の数から推す

ベイズは、イギリスの 昔の 人です。1761年に なくなりました。ベイズが 考えた 問いは、こんな ものです。

四角い 台の 上に、ボールを 1つ 投げます。その 場所は、あなたには 見えません。つぎに、友だちが ボールを 何こも 投げて、「さいしょの ボールの 左に 落ちたよ」「右だよ」と 教えて くれます[3]。

左に 落ちた ボールが 多ければ、さいしょの ボールは 右がわに ありそうです。ボールが ふえる たびに、場所の 予想を 作り直して いけます。

これは 考えるための 問題です。本当の 台は ありません。

台の上のボール

ベイズの問題設定は、次のようなものです。四角い台の上に、最初のボールをでたらめに投げます。そのボールの位置は見えません。次に、別のボールを何個も投げて、最初のボールの左に落ちたか、右に落ちたかだけを教えてもらいます[3]。

左に落ちたボールが多ければ、最初のボールは台の右寄りにありそうです。見えない位置を、見えた回数から推し量ります。ボールが1個増えるたびに、予想をつくり直せます。

ここにベイズ的な考え方がある

検査の例とくらべてみてください。「見えないもの」(最初のボールの位置、病気かどうか)について、「見えた手がかり」(左右の数、検査の結果)から予想を作り直しています。形がそっくりです。

ベイズの問題設定は、四角い台に最初のボールをでたらめに投げ、その位置を見ずに、続けて投げたボールが最初のボールの左右どちらに落ちたかの回数だけから、最初のボールの位置(確率p)を推し量るというものだ[3]。最初のボールの位置は観測できず、左右の数だけが証拠になる。

この問題で、左に落ちた数が多いほど、最初のボールは右寄りにあるという関係が成り立つ。観測が増えるたびに、位置についての予想を更新できる。検査の例と同じ構造で、「観測できない量」を「観測できる回数」から更新する枠組みになっている。

原典は、1763年の論文「An Essay Towards Solving a Problem in the Doctrine of Chances」だ。この考えは、ベイズの生前には世に出なかった。では、どうやって広まったのか。

5. 友だちが、のこされた ノートを 世に 出した

5. 生前に発表されなかった考えを、友人が世に出した

5. 死後の出版とラプラスの一般化 ── 1763年から1812年まで

ベイズは、この 考えを、生きている あいだに 発表しませんでした[4]。

のこされた ノートを 見つけたのは、友だちの リチャード・プライスです。プライスは ノートを 整え、ベイズが なくなって 2年後の 1763年に、ろんぶんとして 世に 出しました[3]。

その後、フランスの ラプラスが、この 考えを ひろく つかえる 形に して ひろめたと いわれます[5]。

遺稿を整えた友人

トーマス・ベイズは、のちに有名になる成果を、生きているあいだに発表しませんでした。ベイズの遺稿を整えて出版したのは、友人のリチャード・プライスです[4]。論文は、ベイズが亡くなった2年後の1763年に、王立協会で読み上げられ、雑誌に載りました[3]。

プライスは、この仕事が、自然のしくみには安定した原因があるといえる根拠になると考えていた、という指摘があります[3]。自分の友人の考えに、大きな価値があると信じたのでしょう。

ラプラスが広めた

この考えを、広く使える形にして広めたのは、フランスのラプラスだとされます。ラプラスは1774年の論文で、独立にこの方法を見つけたといわれ、のちに1812年の本にまとめました[5]。ただし、ラプラスがベイズの論文を知っていたかどうかは、歴史家も断定していません。

ベイズ(1761年没)は、のちに最も有名になる成果を生前に発表せず、遺稿を友人リチャード・プライスが編集して出版した[4]。論文は没後2年の1763年に、ロンドン王立協会の雑誌に載った[3]。プライスは補足を加え、この仕事が、自然の秩序に安定した原因があるといえる根拠になると考えていたと指摘される[3]。

ところが、この考えを一般的な形に仕上げて広めたのは、ラプラスだとされる。ラプラスは1774年の論文でこの方法を独立に見つけ、のちに1812年の『確率の解析的理論』にまとめた[5]。なお、ラプラスがベイズの論文を知っていたかどうかは、歴史家も断定していない。

生前に発表されなかった着想が、友人の手で世に出て、別の数学者が一般化した。この経緯が、のちに「ベイズの規則」と呼ばれる考え方の基礎になった。ただし、この呼び名がいつ定着したかは、今回の資料の範囲外だ。

6. めいわくメールも「考え直す」

6. 迷惑メールのフィルタも、予想を考え直している

6. ベイズの規則を使った迷惑メールフィルタ ── グレアムの報告

この 考え方は、いまも つかわれて います。たとえば、めいわくメールを 見分ける しくみです。

2002年8月、ポール・グレアムという 人が、ベイズの 考え方を つかった フィルタを しょうかいしました[6]。メールに ふくまれる 言葉を 手がかりに、「めいわくメールらしさ」の 予想を 作り直して いくと いわれます。

グレアムの 自分の メールでは、見のがした めいわくメールは 1000通に 5通より 少なく、まちがって すてた ふつうの メールは 0通でした[6]。ただし、これは 本人の メールでの けっかです。どこでも この とおりに なるとは かぎりません。

2002年の提案

2002年8月、ポール・グレアムは「A Plan for Spam」という文章で、ベイズの規則を使った迷惑メールフィルタを紹介しました[6]。

メールに含まれる言葉を手がかりにして、そのメールが迷惑メールである可能性を考え直していく、という使い方だと説明されます。1通のメールが届くたび、「迷惑メールらしさ」の予想が、新しい言葉を見るたびに変わっていくイメージです。

数字の読み方

グレアムは、改良したフィルタを自分のメールに使ったところ、迷惑メール1000通のうち、見逃しが5通未満、まちがって迷惑メールとしてはじいた必要なメールは0通だったと書いています[6]。

ただし、これは筆者個人のメールでの結果です。すべてのメールや、他の人の環境で同じ成績になるとは限りません。

グレアムは2002年8月の「A Plan for Spam」で、ベイズの規則を使った迷惑メールフィルタを紹介した[6]。メールに含まれる語を手がかりに、迷惑メールである確率を更新していく方式と説明される。検査の例で「陽性」を新たな証拠としたように、このフィルタでは、メール内の語が新たな証拠になる。

グレアムは、改良版を自分のメールに適用した結果、迷惑メール1000通あたりの見逃しは5通未満(0.5%未満)、誤判定(必要なメールを迷惑メールとして処理)は0だったと述べる[6]。見逃しの割合は、迷惑メールの数を分母とした値だ。ただしこれは筆者個人のメールでの成績で、他の環境や、のちの迷惑メールの変化に対して同じ性能が出る保証はない。

フィルタの結論は確率なので、間違いが起こりうる点は、検査の例と同じだ。では、この考え方を、自分の手で確かめるには、どうすればよいか。

7. 紙の 上で、1000こで かぞえて みよう

7. 「忘れ物ブザー」を、紙の上で数えてみる

7. 出口 ── 自作の例で数える練習と、原典への道

紙と えんぴつで、「わすれものブザー」の 話を かぞえて みましょう。かばんは 本当には 用意せず、1000こ あると 思いうかべて かぞえます。数は、せつめいの ために 作った ものです。

1000この かばんが あります。10この かばんに だけ、水とうが 入って います。水とうが 入って いると、10この うち 8こで ブザーが なります。入って いなくても、990この うち 95こで ブザーが なって しまいます。

まず、ブザーが なった かばんの うち、水とうが 本当に 入って いるのは どれくらいか、予想を 紙に 書きます。つぎに、1000この かばんを 4つの 山に わけて かぞえます。8こと 95この、ぜんぶで 103こ。そのうち 水とうが 入って いるのは 8こです。

予想と くらべて みて、どう 思いましたか。さいしょの 予想が かわった ことが、「考え直す」ということです。

紙と鉛筆を用意して、「忘れ物ブザー」の話を数えてみましょう。数は、説明のために作った例です。

実物は用意せず、紙の上で1000個のかばんがあると想像します。水筒が入っているのは10個だけ。水筒が入っていれば、10個のうち8個でブザーが鳴ります。入っていなくても、990個のうち約95個で鳴ってしまいます。ブザーが鳴ったかばんのうち、本当に水筒が入っているのは何%でしょうか。

先に自分の予想を書いてから、4つの山(水筒あり・ブザー鳴る/水筒あり・鳴らない/水筒なし・鳴る/水筒なし・鳴らない)に分けて数えます。予想と答えがどれくらいちがったか、見比べてみてください。数字を変えて、水筒入りのかばんを100個にしたら答えはどうなるか、試すのも面白いでしょう。

確率を人数や個数に直す練習として、自作の例で試すとよい。実物は要らず、紙の上で数える想像の例だ。1000個のかばんのうち10個に水筒が入り、水筒があれば8個でブザーが鳴り、なければ990個のうち約95個で鳴る、と設定する。ブザーが鳴ったときに水筒が入っている確率は、8÷(8+95)で約7.8%になる。予想を先に書いてから計算し、差を見る。事前確率(水筒入りの割合)を10個から100個に変えて、答えがどう動くかも確かめられる。

原典に当たるなら、ギーゲレンツァーの解説[2]は医師の例と数え方を、エディの例を紹介した心理学の論文[1]は確率の誤判断を、グレアムの「A Plan for Spam」[6]はフィルタの実際を、それぞれ詳しく書いている。いずれも英語で読む資料だ。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:医学・心理学の解説、数学史の解説、迷惑メールフィルタの提案を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. The psychology of Bayesian reasoning (PMC)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4191302/ (検査の例と、医師の答えのずれについて)
  2. APS Observer「Helping physicians understand screening tests will improve health care」(ギーゲレンツァー)。https://www.psychologicalscience.org/observer/helping-physicians-understand-screening-tests-will-improve-health-care (医師100人の答え、1000人に置きかえる数え方、講義の前後の変化について)
  3. An Essay Towards Solving a Problem in the Doctrine of Chances(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/An_Essay_Towards_Solving_a_Problem_in_the_Doctrine_of_Chances (ボールの問題設定、1763年の出版、プライスの考えについて。二次資料。1763年の原論文は doi:10.1098/rstl.1763.0053)
  4. Thomas Bayes(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Bayes (生前に発表されず、友人が出版したことについて。二次資料)
  5. Inverse probability(Wikipedia)。https://en.wikipedia.org/wiki/Inverse_probability (ラプラスの1774年の論文と広まり方についての概説。二次資料)
  6. Paul Graham「A Plan for Spam」(2002年)。http://www.paulgraham.com/spam.html (ベイズの規則を使った迷惑メールフィルタと、筆者個人のメールでの結果について)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。
  •  題名・リード・各章の「何の割合か」の明確化と、人数の表の追加。理由:「約8%」が何の割合(陽性と出た人のうち、本当に病気の人)なのか、誤読されやすかったため。

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