1. ボウルって、なんの ための どうぐ?
1. 混ぜる・泡立てる・温める ── ボウルが一日に何度も呼ばれる場面
1. ボウルの役目と語源 ── 丸い器に何をさせるか
ホットケーキを つくる ところを そうぞう して みましょう。こなと たまごを まぜる ときも、ミルクを あわだてる ときも、ボウルを つかいます。
ボウルは えいごの bowl から きた ことばで、もとは ふるい えいごの bolla(ぼっら)、「つぼや さかずき、はち」の ような うつわです。もっと さかのぼると、「まるい うつわ」と いう いみの ことばに たどりつくと いわれます[1]。
まるい うつわは どこでも おなじに みえます。でも、おなじボウルを レンジに いれると こまる ことが あります。それは どうしてでしょう。
ホットケーキの生地を作るところを思い浮かべてください。粉と卵を混ぜ、牛乳を加え、ときには卵白だけを泡立てます。ボウルは台所で、何度も呼び出される道具です。
英語の bowl は、古英語の bolla(壺・杯・鉢)から来た言葉で、さらにさかのぼるとゲルマン祖語の「丸い器」を表す言葉にたどりつくとされます[1]。名前のとおり、昔から「丸くてくぼんだ器」だったことになります。
語源から言えるのは、ボウルの名前がもともと「丸い器」を指していたところまでです。では、同じ丸い器の中で、素材によって何が変わるのでしょうか。まず、電子レンジの場面から見てみます。
bowl は古英語 bolla(壺・杯・鉢)に由来し、ゲルマン祖語で「丸い器」を意味する *bul- にさかのぼる(星印は推定形)。語源はインド・ヨーロッパ祖語の「ふくらむ」を意味する語根とされる[1]。なお、ボウリングの bowl(球)はフランス語 boule に由来する別系統の語で、混同しやすい。
語源が示すのは名前の由来までで、形の機能までは語らない。そこで本稿は、何で加熱するか、何を入れるか、どんな泡をつくるかという使う条件に絞って素材を比べる。同じ丸い器でも、条件が変われば最適な素材が変わる。最初の条件は、電子レンジである。
2. おなじ きんぞくなのに、レンジは だめで オーブンは いいの?
2. 同じ金属なのに、レンジはだめでオーブンはいい理由
2. マイクロ波と金属 ── 加熱の仕組みで変わる容器の条件
ステンレスなどの きんぞくの ボウルは、でんしレンジでは つかえないと されて います[2]。つかえるか どうかは、せつめいしょで たしかめます。
でんしレンジは、マイクロはと いう でんじはを だして、たべものの なかの みずを ぶるぶる ふるわせ、ねつを だします[2]。きんぞくに でんじはが あたると、とがった ところなどから ひばなが でる ことが あるからです[2]。
いっぽう、オーブンは ヒーターの ねつで あたためます。でんじはを だしませんから、きんぞくの さらを つかえる ことが あります[2]。ただし、つかえるか どうかは、せつめいしょで たしかめて ください。
ステンレスなどの金属のボウルは、電子レンジでは使えないとされています[2]。ただし使えるかどうかは製品や機器ごとに違うので、取扱説明書で確かめるのが前提です。その理由は、電子レンジの加熱の仕組みにあります。
電子レンジの加熱は、マイクロ波という電磁波で食品の水分を激しく振動させ、熱を出す仕組みです。金属に電磁波が当たると表面の電子が動き、しわや尖った部分から放電して火花が出るため、レンジ加熱には使えません[2]。
同じ金属でも、オーブン機能はヒーターの熱で温め、電磁波を出さないので、金属製の角皿が使えます[2]。「金属ならすべてだめ」ではなく、「何で温めるか」で決まるわけです。取扱説明書に従うことが前提です。
では、レンジに入れていいガラスのボウルなら、熱いものを入れても安心でしょうか。次の疑問は、ガラスの「耐熱」の意味です。
電子レンジは、マイクロ波で食品中の水分を振動させて発熱させる。金属を入れると、電磁波で金属表面の電子が動き、しわや尖った部分から放電して火花が出るため、レンジ加熱には使えない[2]。ただし、これは資料の一般的な説明であり、金属製品がすべて必ず発火するという意味ではない。使えるかどうかは製品や機器ごとに違うため、取扱説明書に従うのが前提である。
一方、オーブン機能はヒーターの熱で加熱し、電磁波を出さないので、金属製の角皿が使える[2]。同じ金属でも、加熱の仕組みが違えば使える・使えないが逆転する。
では、レンジに使える素材の代表である耐熱ガラスなら、温度に関して心配はないのか。「耐熱」という言葉には落とし穴がある。
3. たいねつガラスは、あつい ままで みずに いれて いいの?
3. 耐熱ガラスでも割れるのは、「温度差」が大きいとき
3. 耐熱温度差と急冷 ── 「耐熱」の数字を読み違えない
オーブンから だした ばかりの あつい ガラスの ボウルを、ぬれた ふきんで もったら、われて しまう ことが あります[7]。
「たいねつ」と かいて あっても、あついものに つよい、と いう だけでは ないのです。たいねつガラスの「たいねつ おんどさ」は、あつく した ガラスを つめたい みずに いれても われない、おんどの ちがいの ことです[7]。
ボウルによって かずは ちがいます。つかう まえに、せつめいしょを よみましょう。
耐熱ガラスのボウルは「熱いものを入れても平気」と思われがちです。ところがメーカーの説明では、「耐熱温度差」は、高温にしたガラスを冷水に入れても割れない温度差のことで、耐熱温度ではないとされています[7]。
たとえば、オーブンで熱したガラスの容器を、濡れた布巾で持つなどして急に冷やすと、割れることがあります[7]。製品ごとに数値が違うので、数字は取扱説明書で確認する必要があります。
ここまでの話は、ボウルを「温める」場面でした。次は、少し温めるだけで失敗しやすい食べ物、チョコレートの場面です。
耐熱ガラスの「耐熱温度差」は、高温にしたガラスを冷水に投入しても破損しない温度差を指し、「耐熱温度」とは別の量である[7]。熱したガラスを濡れ布巾で持つなどして急に冷やすと、温度差で割れることがある。
この数値は製品ごとに異なり、手元のボウルの値は取扱説明書や製品の表示で分かる。大事なのは、「耐熱」と書いてあっても、ガラスは急な温度変化に弱いことだ。温めるのか、冷やすのか、急に変えないかという使い方を、その数値と照らして決める。
加熱の条件が変わるとボウルの選び方が変わる。次の場面は、直火でもレンジでもなく、お湯で間接的に温める湯煎である。
4. チョコを とかす ボウルに、みずが 1てき はいると?
4. チョコレートの湯煎は、ボウルの水気がいちばんの敵
4. 湯煎の条件 ── 温度と水分で変わるチョコレートの状態
チョコレートを とかす とき、ボウルを おゆに つけて あたためます。これを ゆせんと いいます。
この とき、ボウルや へらに みずが ついて いると、チョコレートが ぶんりして しまう ことが あります[5]。おゆが はいったり、おんどが たかすぎたりすると、おなじように ぶんりすると いわれます[5]。
だから、ボウルと へらは みずけを ふきとってから つかいます。ゆせんに つかう おゆは 50〜55どが めやすとされますが、レシピや チョコの しゅるいで かわります[5]。
チョコレートを湯煎で溶かすとき、お湯に直接触れる部分より、ボウルの内側が問題になります。レシピ情報の記事では、50〜55℃程度のお湯を使い、水分(お湯)が入ったり、温度が高すぎたりすると分離すると説明されています[5]。そのため、水分をしっかり拭き取ったボウルとヘラを使うよう勧められています。
温度の目安は、レシピやチョコレートの種類で変わります。ここで見えるのは、ボウルの素材そのものより、「濡れていないか」「お湯が跳ねて入らないか」という清潔さと乾きの条件です。
実は、泡立ての世界でも、ボウルに残る「ある汚れ」が失敗のもとになります。
チョコレートの湯煎では、50〜55℃程度のお湯を使い、水分が入ったり温度が高すぎたりすると分離する、と紹介されている[5]。そのため、水分を拭き取ったボウルとヘラを使うことが勧められる。温度の目安は、レシピやチョコレートの種類で変わる。
この場面で効いているのは、ボウルの素材の性質というより、表面の状態(濡れていないこと)である。次の卵白の泡立てでも、同じように「表面に何が付いているか」が結果を左右する。
5. あぶらが ついた ボウルでは、なぜ あわが つぶれる?
5. 卵白の泡は、ボウルについた油で壊れやすくなる
5. メレンゲと脂質 ── 油が泡の膜を壊す
たまごの しろみを あわだてた ものを メレンゲと いいます。じつは あわは、あぶらに ふれると こわれて しまいます[4]。
ボウルや どうぐに あぶらや きみの あぶらが ついて いると、あわが こわれやすく なります[4]。そこで あぶらを おとした きれいな ボウルを つかいます。
では、おなじ きれいな ボウルでも、ざいりょうで ちがいが でるのでしょうか。
メレンゲは、卵白を泡立てた白い泡です。調理科学の解説では、できた泡は油に触れると壊れてしまうとされ、ボウルや道具に油や卵黄の脂質が付いていると、泡が壊れやすくなります[4]。
だから、卵白を泡立てるときは、油を落とした清潔なボウルが条件になります。ここまでは、素材より「きれいさ」の話でした。
ところが、清潔さだけでは説明できない話があります。同じように洗ったボウルでも、銅でできたボウルだと泡が壊れにくくなると、昔から伝えられてきたのです。
卵白を泡立てた泡は、油に触れると壊れる。ボウルや器具に油、あるいは卵黄由来の脂質が付くと泡の安定性が下がるので、油を落とした清潔なボウルを使う[4]。この段階では、素材ではなく「表面に何が付着しているか」が条件になっている。
ところが、洗い方を同じにしても、ボウルの素材で泡の安定性が変わるという研究がある。銅のボウルである。
6. どうの ボウルで あわが こわれにくい わけは?
6. 銅のボウルでは、なぜ卵白の泡が壊れにくいのか
6. 銅イオンと卵白タンパク質 ── 銅は泡立ちでなく安定性に関わる
どうの ボウルで あわだてた たまごの しろみは、あわが こわれにくく なると いわれます[3]。
けんきゅうでは、どうが「あわだつ ちから」を つよくするのでは なく、あわの 「こわれにくさ」に かかわる と かんがえられて います[3]。ただし、これは「かんがえられて いる」と いう つよさの はなしです。
ボウルの ざいりょうも、ただ かたちが ちがうだけでは なく、あわの ようすに かかわって いる かもしれません。
「泡立ちやすい」のではなく「壊れにくい」
日本調理科学会誌に載った研究の要旨では、銅イオンは泡立つ力には関わらず、泡の安定性に関わると考えられています。卵白のタンパク質(オボアルブミン)の分子どうしに、硫黄と銅と硫黄がつながる架橋ができ、泡の膜の粘り強さと弾力が高まる、という説明です[3]。
ここは「考えられている」という強さで読む話で、「銅のボウルなら必ず」という意味ではありません。
マギーらは、銅の泡を科学雑誌で報告した
料理科学者のハロルド・マギーらは1984年、科学雑誌 Nature に、銅の器具は卵白の泡が加熱しすぎで固まりすぎる危険を減らす、と報告しました。そのとき、金属に結合するタンパク質コナルブミンが関係するという説を出したとされます[6]。
台所の昔からの言い伝えを、科学者が仮説を立てて確かめようとした。科学の読み物としては、ここがいちばん人に話したくなるところです。Nature の報告は書誌から原典にあたれます(本文は購読制)。
日本調理科学会誌の研究では、銅イオンは卵白の泡立つ力には関与せず、安定性に関与すると考えられている。卵白タンパク質のオボアルブミン(卵白に多いタンパク質)の分子間に、S-Cu-S(硫黄・銅・硫黄)の架橋が形成され、泡の膜の粘弾性が高まるという説明である[3]。これは要旨に書かれた説明なので、「考えられている」の強さで読む。
ここで注意したいのは、「泡立ちやすくなる」のではなく「壊れにくくなる」と書かれている点である。
料理科学者ハロルド・マギーらは1984年、Nature 誌で、銅の器具が卵白の泡の加熱しすぎ(固まりすぎ)の危険を減らすと報告し、金属に結合するタンパク質コナルブミン(オボトランスフェリン)が関係するという説を出した[6]。
この話が興味深いのは、「銅のボウルがいい」という台所の経験則に、科学者がタンパク質の仮説で説明をつけようとした点である。日本調理科学会誌の要旨の説明(硫黄と銅の架橋)と、Nature の報告の説明(コナルブミン)は、同じ現象に別の角度から迫っている。台所の経験則と、タンパク質どうしの結合を扱う化学がつながる場面でもある。
7. うちの ボウルを うらがえして みよう
7. 家のボウルの底を見て、素材と使い方を確かめる
7. 取扱表示と洗い方 ── 手元のボウルで確かめられること
おうちの ボウルを ひっくりかえして、そこを みて みましょう。ステンレス、ガラス、プラスチックなど、ざいりょうが かいて ある ことが あります。「でんしレンジ かのう」などの ひょうじも さがして みましょう。
あらう ときは、まず せんざいと ながれる みずで よく あらいます。そのあと ねっとうを かけると、しょうどく の こうかが あります[8]。ただし、ねっとうが つかえない ざいりょうも あります。ひょうじを みて から にしましょう。
おかしを つくる とき、ボウルが どんな ひょうじか、きれいか、みずけは ないか。そんな ことを みる と、あわの ようすが かわるかも しれません。
家のボウルを逆さにして、底を見てみましょう。ステンレス、耐熱ガラス、プラスチックなどの素材名や、「電子レンジ可」「オーブン不可」といった表示が書かれていることがあります。見つけたら、そのボウルが「どんな加熱に向くか」を自分で整理してみてください。
洗うときは、農林水産省が、調理器具はまず洗剤と流水でよく洗い、洗った後に熱湯をかけると消毒効果があると案内しています[8]。ただし、熱湯を使えない素材(プラスチックの耐熱温度など)があるので、表示の確認が先です。
卵白の泡立てに挑戦するなら、銅のボウルがなくても、まず油を落としたきれいなボウルを使うことから始められます。銅の話は、「なぜ?」を調べる入口として、日本調理科学会誌の要旨[3]を日本語で読んでみる価値があります。
手元のボウルの底や取扱説明書で、素材名と加熱の可否(電子レンジ・オーブン・直火・食洗機)を確認すると、本稿の条件がそのまま当てはまるかを自分で確かめられる。
洗浄については、農林水産省が、調理器具はまず洗剤と流水でよく洗い、洗った後に熱湯をかけると消毒効果があると案内している[8]。ただし熱湯が使えない素材(プラスチックの耐熱温度など)があるため、表示を優先する。
資料の読みどころは二つある。①日本調理科学会誌の要旨[3]は、銅イオンの作用を「泡立つ力」と「安定性」に分けて述べている点。②Nature の1984年の報告[6]は、料理の経験則に科学者が仮説を立てた例として、書誌から原典に当たれる点(本文は購読制)。ボウルを使う条件(何で温めるか、何を入れるか、泡の安定性は何で決まるか)を分けて考えると、台所の道具が、物理や化学の問いに見えてくる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:語源辞典、家電販売店のサポートページ、日本調理科学会誌の要旨、調理科学の解説記事、レシピ情報サイト、科学雑誌の書誌、メーカーの説明、農林水産省の資料を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Online Etymology Dictionary「bowl」。https://www.etymonline.com/word/bowl (bowl の語源について)
- ノジマ サポートFAQ「電子レンジで使える容器・使えない容器」。https://www.nojima.co.jp/support/faq/10807/ (電子レンジと金属、オーブンとの違いについて)
- 日本調理科学会誌 46巻5号 要旨(J-STAGE)。https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/46/5/46_335/_article/-char/ja/ (銅イオンと卵白の泡の安定性について。要旨のみ)
- 家電Watch「下ごしらえの科学」。https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/precooking/1163077.html (泡と油の関係について。解説記事)
- macaroni「チョコレートの湯煎」。https://macaro-ni.jp/85300 (湯煎の温度と水分について。レシピ情報の記事)
- McGee, H., Long, S. & Briggs, W. "Why whip egg whites in copper bowls?" Nature 308, 667–668 (1984)。https://www.nature.com/articles/308667a0 (銅のボウルと卵白の泡の報告。書誌の確認で、本文は購読制)
- HARIO 耐熱ガラスFAQ。https://www.hario.com/faq/glass_1.pdf (耐熱温度差の意味について。メーカーの説明)
- 農林水産省「食中毒予防(科学的な調理)」。https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/science_cooking.html (調理器具の洗い方について)
なおした ところ
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