1. ためない あぶらって、どこに あるの?
1. ためる脂肪とはちがう、熱をつくる脂肪
1. 貯蔵ではなく熱を出す脂肪、褐色脂肪組織
ふつうの あぶらは、食べた ものの エネルギーを ためて おく ところです。でも 体には、もう ひとつ、褐色脂肪という あぶらが あります。こちらは ためるよりも、ねつを 出す のが 仕事です[1]。
この あぶらは、人の 赤ちゃんに たくさん あります[2]。場所は、首の うしろ、かたの ほねの あいだ、わきの 下、むねの あたりなどです[1]。
あぶらが、どうやって ねつに なるのでしょう。
2. あぶらは、どうやって ねつに なるの?
2. 寒さを合図に、細胞の中で熱が生まれる
2. UCP1による脱共役と、寒さによる引き金
カギに なるのは、細胞の 中の ミトコンドリアです。ふつうは、ここで エネルギーを 体が 使える 形に 作ります。ところが 褐色脂肪の ミトコンドリアには、UCP1と いう たんぱくしつが あって、エネルギーを 作らずに ねつに して にがして しまいます[1]。
たとえば、ダムの 水で 水車を 回して 電気を 作るのに、水車の よこに ぬけ道を 作ると、水は 回さずに 流れて しまいます。UCP1は、この ぬけ道に 少し にて います。ただし 本当は 水では なく、プロトンと いう とても 小さな つぶが ミトコンドリアの 中を 通りぬけます[2]。
この はたらきが 始まる 合図は 寒さです。寒いと、交感神経から ノルアドレナリンと いう ものが 出て、褐色脂肪を 動かします[1]。ふるえずに ねつを 作るので、「ふるえを 使わない ねつづくり」と いわれます。
では、生まれたての 体は、この しくみを どれくらい たよって いるのでしょう。
熱を出す細胞のなかでは、ミトコンドリアが特別な働きをしています。ふつうのミトコンドリアは、プロトンという小さな粒が膜を通って戻るときの流れを使ってATPというエネルギーの形を作ります。褐色脂肪のミトコンドリアにはUCP1というたんぱく質があり、プロトンを別の道から流してしまいます。そのためATPを作る効率が下がり、エネルギーの多くが熱として出ていきます[1][2]。
たとえるなら、水車を回して発電するダムの横に、水車を通らない水路を作るようなものです。ただし実際に流れるのは水ではなくプロトンで、膜をまたいで漏れるように戻っていきます。
この働きの引き金は寒さです。寒さを感じると、交感神経からノルアドレナリンという物質が出て、褐色脂肪が働き始めます[1]。筋肉をふるわせずに熱を作るので、非ふるえ熱産生と呼ばれます。
生まれたばかりの体は、この仕組みにどれくらい頼っているのでしょうか。
熱を出す実体は、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜にあるUCP1(脱共役タンパク質1)である。通常はプロトンが膜を通って戻る流れからATPが作られるが、UCP1はプロトンを別経路で漏らし、酸化的リン酸化を脱共役させる。その結果ATPを作る効率が下がり、エネルギーの多くが熱として放出される[1][2]。
この過程は寒冷で始まる。交感神経からノルアドレナリンが放出され、褐色脂肪が刺激されるためで、筋収縮を伴わないので非ふるえ熱産生(NST)と呼ばれる[1]。熱を出す急な反応も、寒さに慣れて熱を出す能力が高まる過程も、同じ交感神経のノルアドレナリンの制御下にあるという[6]。
では、生まれて間もない個体は、この経路にどれほど頼るのか。
3. 生まれたての 体は、ふるえで あたたまれるの?
3. 生まれたての体は、ふるえだけでは温まらない?
3. 子ヒツジで見る、新生児期の熱づくりの移り変わり
人の 赤ちゃんの くわしい 数字は、ここでは 分かりません。かわりに、ヒツジの 子で 調べた 研究が あります。この 研究では、生まれた ばかりの 子ヒツジでは、ふるえが ねつを 作る わりあいは、100のうち およそ60でした。それが 生まれて 30日たつと、およそ95に ふえて います[1]。
つまり 生まれたては、ふるえの ほかの ねつづくりの 出番が 大きいのです。ヒツジの 子は、褐色脂肪の UCP1に よる ねつづくりが、寒さに なれる ために なくては ならないと されます[1]。ただし これは ヒツジの 数字です。人の 赤ちゃんに そのまま あてはめる ことは できません。
ふるえの ほかの ねつづくりは、ほかの 場面でも 使われて います。
4. 冬眠から、リスは どうやって 目ざめるの?
4. 冬眠中の動物は、どうやって体を温めて目を覚ますのか
4. 冬眠動物の覚醒と、16世紀の発見
この あぶらを さいしょに 見つけたのは、1551年の ゲスナーと いう 人だと いわれます。見つけた 場所は、マーモットという 動物の、かたの ほねの あいだ。見つけた ときは、冬眠と むすびつけて 考えられました[2]。
冬眠する 小さな 動物では、褐色脂肪の ねつが、目ざめを 始めるのに なくては ならないと いわれます[3]。ジュウサンセンジリスと いう リスの なかまの 研究では、冬眠の とちゅうの 目ざめで、体の 温度が 3時間ほどで ふつうの 体温まで もどると されます。この とき、ためて いた あぶらが ねつに かえられます[3]。
ただし これは この リスの 研究で、冬眠する 動物ぜんぶの 数字では ありません。
では、こんなに 大切な あぶらは、大人にも あるのでしょうか。
5. 大人にも、あるの?
5. 2009年まで「大人にはない」と思われていた
5. 2009年の成人での確認と、残された量の問い
2009年まで、褐色脂肪は 赤ちゃんの もので、大人には ないと 広く 思われて いました[2]。
それが かわったのは、2009年です。おなじ 年に、3つの 研究が 同時に 発表され、PET-CTと いう しらべ方の 写真で、大人にも 褐色脂肪が あると 分かりました[4]。ある 研究では、3,640回の PETの しらべを 見なおして、女の人の 7.5%、男の人の 3.1%に、あぶらの すがたが 写って いました。ふつうの 室温で しらべた 人たちの 数字で、大人 みんなの わりあいでは ありません[4]。
場所は、かぎぼねの 上、首、むねの 中ごろの わきなどに 多いそうです[4]。ただし 体重に くらべた 多さは、ネズミなどよりも ずっと 少ないと されます[5]。
褐色脂肪は人の赤ちゃんに豊富ですが、2009年まで、大人にはないというのが広く信じられた見方でした[2]。
その見方を変えたのが、2009年に同時に出た3本の論文です。PET-CTという検査で、大人にも褐色脂肪があることが示されました。そのうち1本は、3,640件のPET検査を調べ、女性の7.5%、男性の3.1%に褐色脂肪の像があったと報告しています[4]。ただしこれは、ふつうの室温で検査を受けた患者さんの数字で、大人全体の割合ではありません。
大人の褐色脂肪は、鎖骨の上、首、胸の中央のわきなどに多く見られます[4]。体重あたりの量は、ネズミなどよりかなり少ないとされています[5]。
量が少ない成人の褐色脂肪がどんな役目を担うのかは、まだ研究が続いている問いです。
2009年まで、BATは成人にはないというのが広く信じられた見方だった[2]。転機は同年、New England Journal of Medicineに同時掲載された3本の論文(Cypess、Virtanen、van Marken Lichtenbeltら)で、PET-CTによって成人にBATが存在することが示された[4]。
総説によれば、Cypessらは3,640件のPET検査を解析し、BATの像が女性の7.5%、男性の3.1%にあった[4]。ただし、これは通常の室温で検査を受けた患者での検出率で、成人全体の保有率ではない。NEJM原文ではなく二次総説による数字である点にも注意がいる。
成人のBATは鎖骨上、頸部、傍胸骨に多く[4]、体重あたりの量はマウスなどのげっ歯類よりかなり少ない[5]。そこで、少量のBATが成人で何を担うのかが、次の問いになる。
6. じぶんでも 調べて みたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
寒い 日に 外に 出たとき、自分の 体が なにを するか、ノートに 書いて みましょう。「首を ちぢめた」「鳥肌が 立った」「ふるえた」など、見える ことだけで かまいません。褐色脂肪の はたらきは 目に 見えませんが、ふるえは 見えます。この 記事で 出て きた 「ふるえの ほかの ねつづくり」と くらべると、どこが ちがうのか、考える きっかけに なります。寒すぎる ところに 長くは いないで ください。
もっと 知りたい ときは、図書館で 体温の 本を さがして みましょう。
寒い日に外へ出たとき、体が何をしたかをノートに書いてみましょう。「首をすくめた」「鳥肌が立った」「ふるえた」など、目で見える反応だけで十分です。褐色脂肪の働きは見えませんが、ふるえは見えます。この記事の「ふるえ以外の熱づくり」と見える反応を並べると、何が別々の仕組みなのか考える手がかりになります。寒すぎる場所に長くとどまらないでください。
体温についてもっと知りたいときは、図書館で人体や生理学の本を探してみるのも一つです。
寒い日に外へ出たとき、体が何をしたかをノートに書き、記事中の数字と並べてみる。「首をすくめた」「鳥肌が立った」「ふるえた」など、目で見える反応だけでよい。BATの働きは見えないが、ふるえは見える。次に、子ヒツジの「ふるえの寄与60%→95%」と、ジュウサンセンジリスの「3時間以内の体温回復」を別の行に書き、どの動物の例かを添える。ヒトの乳児の値ではないと分けて書くと、一般化できる範囲が見えてくる。寒すぎる場所に長くとどまらないこと。
資料を読むなら、総説[1][2][3](いずれも英語)に、ここで使った数字の条件が載っている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:新生児期の体温調節と褐色脂肪の総説、褐色脂肪組織の総説、冬眠動物と成人の褐色脂肪についての論文・総説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Role of BAT and Energy Metabolism in Mammalian Thermoregulation during the Perinatal Period (PubMed Central PMC10339909). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10339909/ (UCP1のしくみ、寒さによる引き金、新生児の分布、子ヒツジの数字について)
- Brown Adipose Tissue—A Therapeutic Target in Obesity? (Frontiers in Physiology, PubMed Central PMC6265308). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6265308/ (1551年の発見、赤ちゃんに多いこと、2009年までの見方について)
- Brown adipose tissue in hibernating mammals (PubMed Central PMC6919643). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6919643 (冬眠する小型の哺乳類の目覚めについて)
- Brown adipose tissue: what have we learned since its recent identification in human adults (Arquivos Brasileiros de Endocrinologia & Metabologia). https://www.scielo.br/j/abem/a/NF7L3d7NZbPxQXwtXnbB6Jn/?lang=en (2009年の3論文、検出率、成人の分布について。二次総説)
- Brown adipose tissue in young adults (PubMed Central PMC6250802). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6250802 (成人の褐色脂肪の量が体重あたりでネズミより少ないことについて)
- Cannon B, Nedergaard J (2004) Brown adipose tissue: function and physiological significance. Physiological Reviews. https://journals.physiology.org/doi/10.1152/physrev.00015.2003 (褐色脂肪の機能と交感神経の制御について。要旨)
なおした ところ
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