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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

セロリの あの かおりは、なにから できて いるの?

セロリの香りの主役は何か ── 辞典の「アピイン」と研究の「フタリド類」

セロリの香りとフタリド類 ── 「アピイン説」との食いちがいと、香りが味に与える影響

分野:自然

セロリの かおりの もとは、じてんに よく かかれて いる 名前とは、ちがう ものだと いう 研究が あります。

では、なにが あの かおりを つくって いるのでしょう。しかも その かおりの ざいりょうは、スープを おいしく する はたらきまで あると いわれます。この 記事で それが わかります。

セロリの香りの主成分は「アピイン」。食品の解説には、そう説明するものがあります。ところが、香りを調べた研究で主役に挙がるのは、別の成分の仲間です。

食いちがいの理由は何なのか。その成分は味にまで関わるのか。この記事で、研究が示していることと、まだ言えないことが分かります。

セロリの香りの主成分は「アピインとセネリン」と説明する解説がある一方、においの成分を分析した研究が主役に挙げるのは、フタリド類という別の化合物群だ[4][1]。

なぜ一般向けの説明と研究が食いちがうのか。フタリド類は、産地や品種でどれほど割合が変わるのか。味のないこの成分が、スープの味にまで影響するという報告は何を示すのか。以上を、公開されている論文や解説から整理して分かることと分かっていないことを区別する。

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1. じてんに かいて ある 名前は、ほんとう?

1. 辞典には「アピイン」とある。でも研究は別の名前を挙げる

1. 「アピインが香りの主成分」という説明と、研究の食いちがい

セロリを きると、つんと した かおりが たちます。この かおりの もとは、じてんや しょくひんの 本には「アピインや セネリン」と かかれて いる ことが 多いです[4]。

でも、かおりを くわしく しらべた 研究では、ちがう 名前が 出て きます。「フタリド」と いう なかまです[1]。

アピインは、さとうが くっついた 大きな ぶんしの こと だと いわれます。かおりの 研究で しゅやくに なって いるのは、フタリドの ほうです[4]。

ただし、じてんの かいた 人が まちがえた と きめつける ことは できません。ここでは「そう かかれた 本も ある」と ならべて おきます。

セロリを切ったときの、あのつんとした香り。食品の解説には、その主成分は「アピインやセネリン」だと説明するものがあります[4]。

ところが、アピインは糖のついた分子(フラボノイド配糖体)とされ、セロリやパセリに多いことで知られる成分です[5]。2023年には、立命館大学などの研究グループが、アピインを作る酵素の遺伝子を初めて特定したと発表しています[5]。つまり、よく研究されている成分であることは確かです。

一方、においの成分を調べた研究で、セロリの香りの主役として挙がるのはフタリド類という化合物の仲間です[1]。

辞典にはアピイン、においの研究にはフタリド類が挙がっています。

食品の解説や辞典には、セロリの香りは「アピインやセネリンを主成分としたもの」と説明するものがある[4]。しかし、アピインはフラボノイド配糖体、つまり糖のついた分子とされる。セロリやパセリに多く、立命館大学などの研究グループが2023年にその生合成に関わるアピオース転移酵素の遺伝子を初めて特定している[5]。

この記述の根拠は、今回使った資料からは追えない。一方、においの成分を分析した研究が香りの主役に挙げるのは、フタリド類である[1]。

アピインが重要な成分であることと、それが香りの主成分であることは別の話だ。辞典の説明を誤りと断じず、「そう書く本もある」と研究の結果を並べ、どちらの根拠が何を測ったものかを分けて読む必要がある。

2. 12この なかから、かおりの しゅやくを えらぶ

2. 12種の成分から、香りの主役を選び出す

2. においの寄与度を調べる ── 12種のなかのフタリド類

日本の けんきゅう グループは、セロリの かおりを ぶんせきしました。なま の セロリと、ゆでた セロリです[1]。

かおりに 大きく かかわる ものを さがすと、12しゅるい 見つかりました。その 中でも、とくに 大きな やくわりを して いたのは、フタリドの なかま 4つ でした[1]。

この なかまの かおりは「セロリ」「ハーブ」「にた セロリ」の ような もの だと いわれます[2]。

つまり、「セロリらしさ」を 作る ところを、この なかまが うけもって いる ようです。

ゆでると、かおりは かわります。でも、その かわり方は、フタリドの りょうでは せつめい できなかった そうです[1]。

12種を見つけ、4つに絞る

日本の研究グループ(Kurobayashiら、2006年)は、生のセロリとゆでたセロリから、香りへの寄与が大きい成分を12種見つけました[1]。そのうち、3-n-ブチルフタリド、セダネノリド、trans-セダノリド、cis-セダノリドの4つが、セロリ全体の香りにもっとも寄与すると評価されました[1]。

この仲間の香りは、「セロリ」「ハーブ」「煮たセロリ」のような言葉で表されます[2]。においの強さを示す指標(FD係数)でも、フタリド類は最大で3125と、高い値だと報告されています[2]。

ゆでると、別の香りが目立つ

同じ研究では、生のセロリでは青草のような香りの成分が目立ち、ゆでると別の成分が目立つことも示されました[1]。ただ、ゆでたときの香りの変化は、フタリド類の量では説明できなかったとされています[1]。

フタリド類はセロリらしい香りに寄与します。生とゆでたときの違いは、量だけでは説明できません。

香りの主役を探すには、成分を全部数えるだけでは足りない。量が多くても無臭に近い成分はあるからだ。そこでKurobayashiら(2006年)は、生とゆでたセロリから、においへの寄与が大きい成分を12種見つけ、そのなかで3-n-ブチルフタリド、セダネノリド、trans-セダノリド、cis-セダノリドが全体の香りにもっとも寄与すると評価した[1]。

フタリド類のにおいは、研究では「セロリ」「ハーブ」「煮たセロリ」のような言葉で表される。においの強さを示すFD係数は、先行研究の引用として最大3125と報告されている[2]。FD係数はにおいの強さの順位づけの指標で、成分の「量」そのものとは別物だ。

一方、生では青っぽい香りの成分が目立ち、ゆでると別の成分が目立つが、この変化はフタリド類の量では説明されない[1]。フタリド類はセロリらしい香りに寄与するが、加熱による違いはその量だけでは説明されない。

3. おなじ セロリでも、わりあいは ちがう

3. 同じセロリでも、産地で割合は大きく変わる

3. 産地で変わる割合 ── 英国とスペインの8系統の比較

では、フタリドは、どの セロリにも おなじだけ 入って いるのでしょうか。

イギリスと スペインで そだてた 8しゅるいの セロリを しらべた 研究が あります[2]。かおりの せいぶん ぜんぶの うち、「3-n-ブチルフタリド」と「セダネノリド」が しめる わりあいは、イギリスの セロリで 7.1%と 11.6%でした[2]。

スペインの セロリでは、5.3%と 2.6%でした[2]。とくに セダネノリドは、イギリスの ほうが 4ばい いじょう 高く なって います。

ただし、これは かおりの せいぶん ぜんぶに しめる わりあいの へいきんです。ひんしゅや そだつ 場所で かわります。

フタリド類は、どのセロリにも同じ割合で入っているわけではありません。英国とスペインで育てた8系統のセロリの茎を分析した2021年の研究があります[2]。

香りの成分全体にしめる割合は、英国産では3-n-ブチルフタリドが平均7.1%、セダネノリドが11.6%でした。スペイン産では、それぞれ5.3%と2.6%でした[2]。

計算すると、この2つを合わせた割合は、英国産で約18.7%、スペイン産で約7.9%です。セダネノリドだけを比べると、英国産はスペイン産の約4.5倍になります。

ただし、これは揮発する成分全体に対する平均値で、品種や産地、育て方で変わります[2]。「セロリの香りの何割がフタリド」と一つの数字で言えるものではありません。

フタリド類の割合が一定でないなら、香りの強さも一定ではないはずだ。Turnerら(2021年)は、英国とスペインで栽培した8系統のセロリの茎を分析し、フタリド類の割合が産地で大きく異なることを示した。香りの成分全体にしめる平均割合は、英国産で3-n-ブチルフタリド7.1%・セダネノリド11.6%、スペイン産で5.3%・2.6%だった[2]。

2成分の合計は、英国産が18.7%、スペイン産が7.9%で、英国産は約2.4倍にあたる。3-n-ブチルフタリドの差は7.1÷5.3≒1.3倍にとどまるのに対し、セダネノリドは11.6÷2.6≒4.5倍と大きい。同じ「フタリド類」でも、成分によって産地差の大きさが違う。

注意点は、この割合が揮発成分全体に対する平均値であり、系統や栽培環境の影響を受けることだ[2]。栽培条件のどの要素が差を生むのかは、ここで使った資料では分からない。1つの研究を、すべてのセロリに当てはめることはできない。

4. セロリの なかまにも、にた せいぶんが ある

4. セリ科の仲間とも、重なる成分がある

4. セリ科に広がるフタリド類 ── 共通と相違

フタリドは、セロリだけの ものでは ありません。セロリは「セリか」と いう なかまの 草です。このなかまには、フタリドを たくさん もつ ものが います[6]。

たとえば、「シシウド」の なかまや「リグスチクム」の なかまです。ラベージ という ハーブの あぶらにも、セロリと おなじ ような せいぶんが 入って います[6]。

ただし、おなじ かおりに なる わけでは ありません。かさなる ぶぶんが ある くらいです。

セロリの たねには、3%ほどの あぶらが 入って いて、つよい かおりが します[4]。

フタリド類は、セロリだけが持つ成分ではありません。セロリの属するセリ科(Apiaceae)のうち、シシウド属(Angelica)やリグスチクム属(Ligusticum)などの植物に多い化合物群で、セロリの特徴的な香りを担うとされています[6]。

セリ科のハーブであるラベージ(ロベージ)の精油にも、3-ブチルフタリドやリグスチリドなどが含まれ、セロリと共通する成分があります[6]。

ただし、成分が重なるからといって、同じ香りになるとは言えません。共通するのは一部で、割合も香りの全体像も植物ごとに違います。

セロリの果実(種子)には3%ほどの精油が含まれ、強いセロリの香りがあります[4]。セロリの香りは、葉や茎だけでなく種子にもあります。

フタリド類は、セリ科(Apiaceae)のシシウド属(Angelica)やリグスチクム属(Ligusticum)などに多い化合物群で、セロリの特徴的な香りを担うとされる[6]。セリ科のラベージの精油にも、3-ブチルフタリドやリグスチリドなど、セロリと共通する成分が含まれる[6]。

セリ科の植物には、共通するフタリド類をもつものがある。ただし、成分が共通することは、香りの印象が同じことを意味しない。成分の組み合わせと割合が違えば、感じるにおいも違うはずだ。

セロリの果実には3%ほどの精油が含まれ、強いセロリ香があるとされる[4]。香りが葉柄だけでなく種子にもあることは分かる。ただし、その植物にとっての役割(防御など)を直接示した研究は、今回の資料には含まれない。

5. あじの ない かおりが、スープを おいしく する?

5. 味のない香りが、スープのうま味を引き立てる

5. 無味の香り成分によるうま味・甘味の増強 ── 報告の条件と限界

フタリドには、ふしぎな はなしが あります。フタリドそのものには、あじは ありません。

それなのに、とりがらスープに ごく すこし 入れると、うまみや あまみが つよく かんじられた という ほうこくが あります[3]。

いちばん はたらきが 大きかったのは、セダネノリド でした[3]。

ためした 人は、6人から 10人ほどの 大人の 女の人たちでした。入れた りょうも、ほんの わずか です[3]。

どうして そう なるのかは、まだ わかって いません。ただ、セロリが スープや にこみに よく つかわれる ことと、なにか つながりが ある かも しれません。

フタリド類の一部には、自分では味がないのに、味の感じ方を変えるという報告があります。

セロリの香りのフタリド類(3-n-ブチルフタリド、セダネノリド、セダノリド)は、それ自体に味がありません。しかし、鶏ガラスープにごく微量加えると、うま味や甘みが強く感じられたと報告されています[3]。もっとも効果が大きかったのはセダネノリドで、揮発しやすい成分は、揮発しにくい成分よりも効果が大きかったということです[3]。

この報告の読み方

入れた量は、0.2〜0.7 ppmほどという、ごく微量です[3]。試験に参加したのは成人の女性6〜10人で、なぜ味が強く感じられるのかという仕組みは分かっていません[3]。

そのため、「セロリを入れれば何でもおいしくなる」とは言えません。ただ、香りが食べ物の味の感じ方に関わる、という見方の例にはなります。

フタリド類の最後の特徴は、味に対する効果だ(試された3成分についての報告)。Kurobayashiらの報告を紹介した記事(FoodNavigator、2008年)によれば、3-n-ブチルフタリド、セダネノリド、セダノリドは、それ自体に味がないが、鶏ガラスープに微量加えるとうま味と甘みが強く感じられた。もっとも効果が大きかったのはセダネノリドで、揮発成分は不揮発成分より効果が大きかった[3]。

濃度は、3-n-ブチルフタリド0.2 ppm、セダネノリド0.7 ppm、セダノリド0.2 ppmと報告された。評価者は6〜10人の成人女性で、少人数の官能評価だ[3]。

注意すべきは、この記述が原論文ではなく紹介記事にもとづくこと、そして機構が未解明であることだ。なぜ味が強く感じられるのか、その仕組みはまだ分かっていない。したがって「味のない香りが味を変えることがある」という程度に受け止めるのが妥当だろう。

6. セロリの かおりを、じぶんの 鼻で たしかめよう

6. 香りを自分の鼻で確かめて、原典を読んでみる

6. 自分で確かめる方法と、読める資料

セロリが うちに あったら、おうちの 人と いっしょに ためして みましょう。

まず、はっぱを 1まい ちぎって、鼻に ちかづけます。つぎに、手で ぎゅっと もんで、もういちど かぎます。かおりは どう かわりましたか。

パセリが あれば、おなじように かいで みて ください。セロリと おなじ かおりかな、ちがう かおりかな。

りょうりを する ときは、ほうちょうに 気を つけます。おうちの 人と いっしょに やりましょう。

おうちの 人と いっしょに、下の「しらべた もとの じょうほう」を 見て みましょう。

家にセロリがあれば、葉を1枚ちぎって香りをかぎ、次に手でもんでもう一度かぎます。切ったときの香りと、ちぎっただけのときの香りは、同じでしょうか。

パセリなど、同じセリ科のハーブがあれば、香りを比べることもできます。成分が重なる部分があっても、香りの全体は同じではないことが、鼻で分かるかもしれません。

刃物を使うときは、大人と一緒にやってください。

辞典のアピインと、研究のフタリド類。どちらが香りに近いと思うか、かいだあとで考えてみてください。

原典に近いものを読みたいときは、Kurobayashiらの論文[1]が、J-STAGEで読めます。

確かめるなら、セロリの葉を1枚ちぎって香りをかぎ、手でもんでもう一度かぐ。同じセリ科のパセリなどがあれば、香りを比べてみるとよい。成分が重なる部分があることと、香りの全体が同じかどうかは別の問いだ。実際にかいで比べてみよう。辞典のアピインと研究のフタリド類、どちらが香りに近いと思うかも考えてみてほしい。刃物を使うときは、大人と一緒に行うこと。

資料を読むなら、フタリド類を主役に挙げた研究はKurobayashiらの論文[1]がJ-STAGEで読める。産地による割合の差はTurnerらの論文[2]、辞典の説明は[4]、アピインの研究は立命館大学の発表[5]にある。

残る問いは、フタリド類がセロリ自身にとって何の役に立っているかだ。植物自身の防御としての働きを直接示した研究は、今回の資料に含まれない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:論文、報道記事、辞典の記述、大学の発表を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Kurobayashi ほか 2006, Biosci Biotechnol Biochem 70(4):958。https://www.jstage.jst.go.jp/article/bbb/70/4/70_4_958/_article (香りに寄与する成分とフタリド類について)
  2. Turner ほか 2021, Int J Mol Sci 22(21):12016。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8584909 (産地による割合のちがいと、においの表現について)
  3. FoodNavigator 2008「Celery extracts offer flavour enhancing properties」。https://www.foodnavigator.com/Article/2008/01/07/celery-extracts-offer-flavour-enhancing-properties/ (うま味・甘味を強めたという報告の紹介。二次資料)
  4. コトバンク「セロリ」(世界大百科事典・日本大百科全書・食の医学館ほか)。https://kotobank.jp/word/セロリ (辞典の「アピイン」の記述と、種子の精油について。二次資料)
  5. 立命館大学ニュース 2023年7月20日。https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail?id=3251 (アピインとその生合成の研究について)
  6. An overview of natural and synthetic phthalides(ITU 研究情報)。https://research.itu.edu.tr/en/publications/an-overview-of-natural-and-synthetic-phthalides-involved-in-cance/ (フタリド類がセリ科に多いことについて。二次資料)

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