1. セロリの はっぱと くきは、どちらが かおりが つよいの?
1. 葉と茎では、香りの主役の量がちがうのか
1. 香りへの寄与が大きい成分と、葉・葉柄の定量比較
セロリの くきを かじる まえに、いちばん うえの はっぱを 1まい ちぎって、はなに ちかづけて みましょう。くきより はっぱの ほうが かおりが こいと かんじる ひとも、いるでしょう。
セロリの かおりの おもな もとは、フタリドと いう なかまの せいぶんだと、2006ねんの にほんの けんきゅうで わかりました[1]。
べつの けんきゅうでは、おなじ ひんしゅの はっぱと くきを くらべて います。フタリドの ごうけいは、はっぱが 78.89、くきが 25.76 で、はっぱの ほうが 3ばいほど おおい あたいでした[2]。ただし、これは ひとつの ひんしゅの はなしです。
つまり、この ひんしゅでは、フタリドの なかまは くきにも はっぱにも ありますが、はっぱの ほうが おおい あたいでした。
香りの主役は、茎にも葉にもいる
セロリの茎をかじる前に、いちばん上の葉を1枚ちぎって鼻に近づけてみてください。茎より葉のほうが香りが濃いと感じる人もいるでしょう。
香りの正体を、2006年に日本の研究者たちが調べました。セロリの葉と茎を、生のものとゆでたもので分析し、香りに効く成分を12個見つけています。その中で、全体の香りにいちばん大きく関わると評価されたのが、フタリド類という仲間の成分(ブチルフタリド、セダネノリド、セダノリド)でした[1]。
葉と茎を同じ品種で比べると
では、その成分は葉と茎のどちらに多いのでしょうか。2022年の中国の研究者らの論文に、1つの品種の葉と葉柄(食べる茎)を同じ方法で分析した表があります。フタリド類の合計は、葉が78.89、葉柄が25.76で、葉のほうが3倍ほど大きい値でした[2]。
この数字は、基準にした物質に対する相対値で、単位は示されていません。品種も1つだけなので、「どのセロリでも3倍」とは言えません。それでも、香りの主役は茎にも葉にもあり、葉のほうが多い、という答えの形は見えてきます。
セロリの香りを決めているのは何か。2006年の日本の研究は、葉と茎の生試料・ゆで試料から香気に寄与する成分12種を同定し、全体の香りへの寄与が最も大きいと評価されたのは、フタリド類(3-n-ブチルフタリド、セダネノリド、トランス/シス-セダノリド)だったと報告した[1]。
では、この成分は葉と葉柄でどれほど違うのか。2022年の論文は、1品種(Siji Lvxiangqin)の根・葉柄・葉の揮発性成分を同じ条件で測っている。フタリド類の合計は、根が35.45、葉柄が25.76、葉が78.89で、葉は葉柄の約3.1倍にあたる[2]。ただしこの値は内部標準(2-オクタノール)を基準にした相対値で、単位は明示されていない。そのため「何mg」とは読めず、1品種だけの結果なので、一般化もできない。食べる部分では、葉のほうが香りの主役を多くもつ、と読むのが妥当だろう。
2. はっぱは、なんでも くきより おおいの?
2. 葉は、どの成分でも茎より多いのか
2. 成分によって逆転する ── リモネンと他の研究
おなじ けんきゅうで、レモンなどにも ある「リモネン」と いう せいぶんも しらべて います。こちらは、くきが 187.69、はっぱが 119.30 で、くきの ほうが おおかった のです[2]。はっぱが ぜんぶ かちと いう わけでは ありません。
ほかにも、5つの ひんしゅを しらべた けんきゅうでは、かおりの りょうや ならびかたは、くきより はっぱの かんけいが おおきいと されて います[3]。ポーランドの はっぱセロリでは、あぶらの りょうが はっぱ 0.68%、くき 0.24% でした[4]。
なぜ、はっぱと くきで ちがう せいぶんを ためるのかは、しりょうからは いえません。
茎のほうが多い成分もある
同じ2022年の表には、フタリド類以外の成分も並んでいます。D-リモネンという成分は、葉柄が187.69、葉が119.30で、今度は葉柄のほうが多くなっています。一方、β-ミルセンやカリオフィレンは、葉のほうが多い成分でした[2]。
葉と茎の香りは、「葉が強い、茎が弱い」と一列に並べられるものではなく、成分ごとの量の組み合わせがちがうようです。
ほかの研究では
5品種の揮発性成分を調べた2023年の研究は、香りの量と分布が、葉柄よりも葉に強く左右されると報告しています[3]。葉セロリというポーランドの品種では、精油の量が葉身で0.68%、葉柄で0.24%と、葉身のほうが多くなっています[4]。0.68÷0.24でおよそ2.8倍です。ただし、これは水やりをした株の値で、茎を食べる品種でもなく、栽培条件で変わります。
なぜ葉と茎でちがう成分をためるのか、植物にとってどんな役目があるのかは、今回あたった資料からは言えません。
葉が全面的に濃いのかというと、そうではない。同じ表で、D-リモネンは葉柄187.69に対して葉119.30で、葉柄のほうが約1.6倍多い。β-ミルセンやカリオフィレンは葉のほうが多い[2]。成分ごとに、多い部位が入れかわるわけである。
この傾向は、他の研究にも見える。5品種を比べた2023年の研究は、揮発性成分の量と分布が葉柄より葉に強く影響されると述べ、関連遺伝子の発現も葉のほうが高いものが多かったという[3]。ただし、これは検索で得た要旨にもとづく記述で、数値には立ち入らない。ポーランドの葉セロリでは、精油が葉身0.68%、葉柄0.24%(灌水した株)で、比にすると約2.8倍になる[4]。ただし葉セロリは茎を食べる品種とは別で、灌水の有無で値が変わるため、これも「葉が濃い」という傾向の一例にとどまる。
なぜ部位で成分が違うのか、という理由そのものは、入手できた査読資料では説明されていない。成分の量と割合が違う、というところまでが、いま言えることである。
3. ゆでると、セロリの かおりは どうなるの?
3. ゆでると、香りの顔ぶれが入れかわる
3. 加熱による香気組成の変化 ── 青葉の香りからゆでた香りへ
なまの セロリでは、あおい はっぱのような かおりの せいぶんが めだちます。ところが、ゆでると、べつの せいぶんが めだって きます[1]。
うんどうかいの リレーで、はしる ひとが こうたい する ようすに にて います。ただし ほんとうは、ゆでる あいだに、あたらしい せいぶんが できて、そちらが めだつのです。
かおりが かわるのは、フタリドの りょうが へった からでは なく、この あたらしい せいぶんの せいだと されて います[1]。ゆでた セロリが、なまより おだやかに かんじられる のは、この ためかも しれません。
生とゆでたもので、目立つ成分が変わる
2006年の研究では、生のセロリで目立った成分は、青葉の香りのもとである(Z)-3-ヘキセナールと(Z)-3-ヘキセノールでした。ゆでたあとには、2-メチルブタン酸、ソトロン、β-ダマセノン、β-イオノンが目立つようになりました[1]。
変化の原因は、フタリド類の量ではない
研究者たちは、ゆでたときの香りの変化は、フタリド類が減ったためではなく、加熱でできるこれらの成分が原因だと考えています。その結果、生のときの「青くスパイシーな」印象が弱まる、と説明されています[1]。
ゆでるとセロリの香りが穏やかに感じられるのは、この入れかわりのためかもしれません。ただし、ここで紹介した数値は生とゆでたものの違いで、葉と茎それぞれの加熱による変化を示すものではありません。
同じ研究は、加熱の影響も調べている。生の試料では、(Z)-3-ヘキセナールと(Z)-3-ヘキセノールの2つの青葉系成分が優勢だった。これに対し、ゆでた試料では、2-メチルブタン酸、ソトロン、β-ダマセノン、β-イオノンの4つが優勢になった[1]。
注目すべきは、香りの変化の原因が、主役のフタリド類の量の変動ではないとされる点である。つまり、フタリド類は生でもゆでても香りの土台として残り、加熱でできる成分が前面に出ることで、「青くスパイシーな」印象が弱まる、という説明になる[1]。
ただし、ここで紹介した数値は生とゆでの違いを示すもので、葉と葉柄それぞれの加熱による変化を示すものではない。前の2つの章で見た葉と葉柄の違いに、加熱の影響がどう重なるかは、別に見る必要がある。
4. セロリの かおりは、くにに よって すきが ちがうの?
4. 日本と欧米で、好まれるセロリの香りは違うのか
4. 品種の選ばれ方と、日本への伝来をめぐる説
にほんで おおい セロリは、きいろっぽい いろの、かおりが やさしい ひんしゅの なかまです[5]。
いっぽう、ヨーロッパや アメリカでは、にこむ りょうりに つかう ため、こい いろと こい かおりの みどりの ひんしゅが おおく つかわれて います[5]。
セロリは、1500ねんだいの おわりごろ、かとう きよまさが ちょうせんから もちかえったと いう せつが あります。むかしは「キヨマサニンジン」と よばれた そうです[6]。みんなが たべる ように なったのは、しょうわ30ねんだいの ことでした[6]。
黄色種と緑色種
セロリは、茎や葉の色で、黄色種・緑色種・中間種・赤色種・白色種に分けられます。日本では、香りのやさしい黄色種のコーネル系が多く出まわっています。欧米では、加熱して料理に使うため、濃い色と香りが好まれ、緑色種が主流です[5]。
同じ種類の野菜でも、食べ方によって、選ばれる香りの強さが変わるわけです。
キヨマサニンジンと昭和30年代
日本には、16世紀末の朝鮮出兵のとき、加藤清正が持ち帰ったという説があり、「キヨマサニンジン」と呼ばれたと伝えられています[6]。広く食べられるようになったのは、食生活が洋風になった昭和30年代です[6]。なぜ広まらなかったのかまでは、資料には書かれていません。
香りの強さは、品種の選択にも関わる。茎葉の色により、黄色種・緑色種・中間種・赤色種・白色種に分けられ、日本では香りの穏やかな黄色種のコーネル系が多い。欧米では加熱調理が主体なので、濃い色と香りの緑色種が主流になっている[5]。つまり、「香りが強い」ことは、調理法しだいで、長所にも短所にもなる。
では、日本人はいつからセロリを食べているのか。16世紀末の朝鮮出兵のときに加藤清正が持ち帰り、「キヨマサニンジン」と呼ばれたという説明があるが、あくまで伝承であり、定説とはされていない[6]。広く食べられるようになったのは、食生活が洋風化した昭和30年代とされる[6]。伝来したとされる時期から普及まで370年ほどの間があるが、その理由を直接述べた記述は、今回の資料にはない。
5. はっぱと くきは、どう つかいわけると いいの?
5. 台所では、茎と葉をどう使い分けるのか
5. 部位による調理の使い分けと、保存・栄養の記述
やさいの ことを まとめた くにの きかんの しりょうでは、くきは、なまの まま かじるのが いちばんと すすめられて います。いちばん そとがわの すじは かたいので、ほうちょうを あてて、てまえに ひくと とれます[6]。ほうちょうは、おうちの ひとに つかって もらいましょう。
はっぱは、えいようが たかいと されて、つくだに ふうにも できます[6]。ビタミンCや カロテンが くきより おおいと される せつめいも あります[5]。
ほぞんする ときは、はっぱと くきを わけると いいそうです。はっぱの ほうが、みずが にげやすい ためです[6]。
茎はそのまま、葉は刻んで
農畜産業振興機構(ALIC)の資料は、茎の部分は生のままかじるのが一番だと紹介しています。新鮮なものほど外側の筋が固いので、茎の端に包丁を当てて、手前に引くようにすると取れます[6]。刃物は大人が扱いましょう。
葉は栄養価が高く、佃煮風にもできると勧められています。茎よりビタミンCやB1・B2、カロテンが多いという説明もありますが、成分表の数値では確かめていないので、「多いとされる」にとどめます[5]。
保存するときは分ける
葉のほうが水分が逃げやすいので、保存では葉と茎を分けるのがよいそうです[6]。野菜として使うのは若い葉と茎の部分で、取り除かれた外側の葉は、野菜ジュースや調味料、スープの素などに加工されています[5]。
調理での使い分けは、ここまでの成分の違いと重なる。ALICの資料は、茎は生のままかじるのが一番、葉は栄養価が高く佃煮風にもできると勧める。新鮮なものほど外側の筋が固いので、茎の端に包丁を当てて手前に引いて取る[6]。茎の外側の筋を取るのは、食べやすさのための処理で、香りとは別の話である。
保存では、葉のほうが水分が逃げやすいため、葉と茎を分けるのがよいとされる[6]。栄養については、葉は茎よりビタミンC・B1・B2・カロテンが多いという説明が公的資料にある[5]。ただし、日本食品標準成分表の部位別の数値では確かめておらず、強くは言えない。
また、野菜として出荷される際には、取り除かれた外葉が野菜ジュースや調味料、スープの素などの加工用に回される[5]。香りの濃い葉は、家庭で刻んで香りづけに使う以外にも、加工食品の原料にもなっている。
葉を すてる まえに、かおりを くらべて みよう
捨てる前の葉で、香りを比べてみる
部位ごとに香りを比べる ── 家でできる確かめ方と資料
きょう できること
セロリを かったら、はっぱを 1まい、くきを すこし ちぎって、べつべつに かいで みましょう。かおりの つよさや、においの かんじは、おなじでしたか。ちがいましたか。
つぎに、おうちの ひとに、はっぱと くきを すこしずつ ゆでて もらいます。ゆでた あとも かいで、なまの ときと くらべます。ねっとうと ほうちょうは、おうちの ひとに おねがいしましょう。
今日できること
セロリの葉と茎を少しずつちぎり、生のまま香りを比べてみましょう。次に、大人に頼んで、それぞれを少しゆでてもらい、ゆでたあとの香りも書き留めます。
この記事で見た研究は、1品種の相対値や、検索の要旨にもとづく部分もあります。自分で比べた結果が、記事の説明と合うかどうかを見るのも、一つの確かめ方です。熱湯と刃物は大人が扱い、近づきすぎないようにしましょう。
もっと知りたくなったら
日本語の資料では、農畜産業振興機構の「今月の野菜 セルリー」が入口になります。英語の資料にも挑戦したい人は、香りの成分の名前が載っている2006年の日本の研究や、葉と葉柄の比べ方が詳しい2022年のFrontiers in Plant Scienceの論文を開いてみるとよいでしょう。
家でできる比較
葉と葉柄を少量ずつちぎり、生のまま、次にゆでたあとで、香りの強さと質を書き留める。熱湯と刃物は大人が扱う。条件をそろえるため、同じ株の同じ高さの葉と茎を、同じ時間だけゆでるとよい。資料の表はあくまで1品種の相対値で、自分の結果が合わなくても、品種や条件の違いで説明できる。
資料を読むなら
成分の同定と加熱の影響は、2006年のBiosci Biotechnol Biochem 70(4)の論文(J-STAGE、英語)に、葉と葉柄の定量比較は2022年のFrontiers in Plant Scienceの論文(英語)にある。日本語では、農畜産業振興機構の「今月の野菜 セルリー」が、品種や調理を含めた全体像をつかむ入口になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号は、下のリストの番号に対応します。葉と茎の数値は、1品種の相対値です。検索の要旨だけで確かめた資料は、数値を書かず、傾向の紹介にとどめています。
- Kurobayashi et al. 2006, Biosci Biotechnol Biochem 70(4):958-965(J-STAGE) https://www.jstage.jst.go.jp/article/bbb/70/4/70_4_958/_article (香りの重要成分と、生・ゆでの変化)
- Li et al. 2022, Frontiers in Plant Science 13:1010780 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2022.1010780 (葉と葉柄の成分の比較。1品種の相対値)
- Sun et al. 2023, Int J Mol Sci 24(17):13343 https://www.mdpi.com/1422-0067/24/17/13343 (5品種の比較。検索の要旨にもとづく)
- Rożek ほか 2016, Acta Sci. Pol. Hortorum Cultus 15(1):149-159 https://bibliotekanauki.pl/articles/11543360.pdf (葉セロリの精油量。検索の抜粋にもとづく)
- 農畜産業振興機構(ALIC) 野菜情報 今月の野菜 セルリー(2019年9月) https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/1909_yasai1.html (品種、外葉の加工、葉の栄養の説明)
- 農畜産業振興機構(ALIC) 野菜情報 今月の野菜 セルリー(2009年12月) https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/0912_yasai1.html (伝来の説、食べ方、保存)
なおした ところ
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