1. うまれたての ヒナは、おなかが すいて いなくても つつくの?
1. 生まれたてのヒナは、お腹がすいていなくてもつつくのか
1. 孵化直後のつつく行動は、栄養状態で調節されていない
たまごから かえった ばかりの ヒナを、じっと 見て いると、くちばしで ちょんちょんと、ちいさな ものを つついて います。だれかに おしえて もらう まえから、つつく うごきは できるのです。
けれど、ふしぎな ことが あります。かえった ばかりの ヒナの つつく うごきは、おなかの すき具合では かわらない、と ほうこくされて います[1]。おなかが いっぱいでも、すいていても、つつくのです。
それが、かえってから 3日ごろに なると、おなかの すき具合に あわせて つつくように なる、と いわれます[1]。この けんきゅうでは 3日ごろに へんかが 見られた、と いう ことです。
では、この 3日の あいだに、ヒナの 中で なにが おきて いるのでしょう。
孵化したばかりのヒナの動きを見ていると、くちばしで小さなものをつついています。つつくことそのものは、教わる前からできるようです。ヒナには、小さな立体的なものをつつく生まれつきの傾向があるとされます[2]。
ところが、ここに意外な点があります。ある総説によると、孵化直後のヒナでは、つつく行動が栄養状態、つまり空腹かどうかで調節されていません。それが孵化後3日ごろには調節されるようになります[1]。お腹がいっぱいでもつつくのが、生まれたばかりのヒナというわけです。
この「3日」は、この総説が報告した目安の日数です。大事なのは日数よりも、つつく動作と空腹が、はじめから一体ではないという点です。では、そのつながりは、どうやってできるのでしょうか。
2. つついて のみこむと、なにが かわるの?
2. 「つついて飲みこむ」経験は、つつく動きに何をもたらすのか
2. つついて飲みこむ経験は、つつく行動を空腹の仕組みに組みこむ条件とされる
ヒナは、つついた つぶを のみこむ うちに、つつく ことと おなかの すき具合を むすびつけて いくと 考えられて います。
ヒナは、つつきます。つつくと、ちいさな つぶが くちに はいります。それを のみこむと、おなかが みたされます。この ながれを くりかえす うちに、「おなかが すいたら つつくと、えさが たべられる」と おぼえて いくのです。
ある ほうこくでは、つついて のみこむ けいけんが、この むすびつきに ひつようで、それだけで 十分かどうかを しらべて います[1]。
そう 聞くと、「すぐに えさを たべないと、こまるのでは」と 心配に なるかも しれません。じつは ヒナは、たまごの きみの のこりを、はじめの 4〜5日ぐらいの エネルギーとして つかえると いわれます[5]。さいしょの おべんとうを もって うまれて くるので、おぼえる ための じかんが すこし あるのです。
ただし、えさを たべなくても だいじょうぶ、とまでは いえません。
鍵になるのは「つついて飲みこむ」という経験だと考えられています。流れはこうです。ヒナがつつく。小さな粒が口に入る。飲みこむと、お腹が満たされる。これを何度かくり返すうちに、ヒナは空腹のときにつつきやすくなり、満腹のときにはつつきにくくなる、と考えられています。
同じ総説は、つついた後に飲みこむ経験が、つつく行動が空腹の仕組みに組みこまれるために必要で、しかもそれだけで十分なのかどうかを検討しています[1]。この経験が結びつきにどう関わるかを検討する考え方です。
ここで、「生まれてすぐ食べないと困るのでは」と思うかもしれません。孵化後のヒナは、卵黄の残りを最初のお弁当のように使え、はじめの4〜5日ほどのエネルギー源になるといわれます[5]。覚えるための時間が少しあるわけです。ただしこれは業界向けのサイトの説明なので、すぐに食べなくてよいとまでは言い切れません。
経験が大切だとして、ヒナは何を食べ物と見なし、どこで食べ物を探せばいいのでしょうか。そこには、そばにいる母鶏が関わっています。
Hogan(2011)の総説は、「つついた直後に飲みこむ」という経験が、つつく行動が空腹の仕組み(hunger system)に組みこまれるために必要であり、かつそれだけで十分かどうか、という証拠を検討している[1]。ここで言う仕組みとは、空腹のときにつつきやすくなり、満腹になるとつつきにくくなる関係を指す。孵化直後にはこの関係がなく、経験を通して結びつくという考え方である。
この考え方は、孵化直後に栄養状態で調節されない事実と整合する。最初から結びついているなら、孵化直後から空腹に応じてつつくはずだからである。ただし、ここで紹介できる根拠は総説の要旨の範囲にとどまる。「必要かつ十分」が実験でどこまで示されたかは、原文で確かめる必要がある。
では、経験を積むまでヒナは飢えないのか。孵化後の卵黄の残りは、はじめの4〜5日ほどのエネルギー源として使えるとされる[5]。そのため、ヒナには覚えるための猶予が少しある。ただし出典は業界向けの解説であり、実際にどれくらい猶予があるかは条件で変わりうるので、「すぐ食べなくてよい」とは言い切れない。
次の問いは、何を食べ物と見なすかである。粒をつつく経験だけでは、砂利と餌の区別は生まれない。そこで母鶏が関わる。
3. おかあさんどりは、ヒナに なにを 見せて いるの?
3. 母鶏は、ヒナの目をどこへ向けさせるのか
3. 母鶏の行動は、ヒナが何を・どこでつつくかに関わる
ヒナが つつくのは うまれつきでも、「なにを」「どこで」つつくかは、まだ わかりません。そこで、おかあさんどりの でばんです。
ある 研究では、おかあさんどりと いっしょに そだった ヒナや、えさを おぼえた としうえの ヒナと そだった ヒナは、うまれて 3日めや 5日めに えさを たべた ばしょを、すきに なりました[3]。そして、ちいさな てがかりに むけた とくべつな しぐさを 見せたのは、おかあさんどりだけでした[3]。
おかあさんどりは、じめんを つついたり、こえを だしたりして、ヒナの 目を えさへ むけるのだと いわれます。「おしえて いる」とまでは いえませんが、ヒナが 見る ものを みちびいて いるようです。
べつの 研究では、そだての おかあさんどりに 育てられた ヒナは、すなじゃりに にた あたらしい つぶを つつきにくい ようすでした(うまれて 9日めの テスト)[3]。小さい ころに 見た ものが、あとの つつきかたに あとを のこすのかも しれません。
ヒナが小さなものをつつくのは生まれつきでも、「何を」「どこで」つつくかは決まっていません。そこで母鶏が関わってきます。
Gajdonらの研究(2015)では、母鶏と育ったヒナや、餌を覚えた年上のヒナと育ったヒナは、孵化後3日・5日に経験した餌場所を好みました[3]。そして、餌の粒のような小さな手がかりに向けた特有の行動を見せたのは、母鶏だけでした[3]。
母鶏が「教えている」と断定はできません。出典の強さも違います。ここでは、母鶏が餌の手がかりに向けた行動をとり、その場にいたヒナの餌場所の好みに違いが出た、というところまでを事実として扱います。
育ち方の影響を示す結果もあります。育ての母鶏に育てられたヒナは、砂利に似た新しい粒をつつきにくかったのです(孵化後9日の試験)[3]。早い時期に何を見て育ったかが、あとの粒のつつき方に関わる可能性を示しています。
ただ、つつきやすい物には、生まれつきの得手不得手もあるようです。次はウズラのヒナの実験を見ます。
Gajdon, Mundwiler & Stauffacher(2015)は、母鶏の有無や年上のヒナの存在が、ヒナの餌場所の選択にどう影響するかを調べた。母鶏と育ったヒナと、餌を覚えた年上のヒナと育ったヒナは、孵化後3日・5日に経験した餌場所を好み、小さな餌の手がかりに向けた特有の行動を示したのは母鶏だけだった[3]。
母鶏がヒナに「教える」のかは、出典によって強さが違い、断定できない。この結果から言えるのは、母鶏が餌の手がかりに向けた行動を見せること、そして同居したヒナに餌場所の好みの違いが現れることである。教える意図の有無は、この報告の範囲では判断できない。
同じ研究では、育ての母鶏に育てられたヒナが、砂利に似た新しい粒をつつきにくかった(孵化後9日)[3]。早期の経験が、新しい粒への反応の強さに関わる可能性を示す。ただし、これは1つの研究の結果であり、どの母鶏でも同じとは限らない。
母鶏の行動は、ヒナの注意の向け先を変える。だが、そもそもヒナの側にも、覚えやすい形と覚えにくい形があるらしい。それを調べた実験がある。
4. ウズラの ヒナは、まるい たまと さんかくで なにが ちがったの?
4. ウズラのヒナは、丸い玉と三角で反応がどう違ったのか
4. ウズラのヒナの形の記憶には、生まれつきの偏りがあるのか
ヒナの がわにも、おぼえやすい かたちが あるのか。それを しらべた 実験が あります。つかわれたのは、にわとりでは なく、ウズラの ヒナです[4]。
うまれて 1〜2日の ウズラの ヒナに、まるい 玉を 見せつづけます。はじめは つつきますが、玉を 見なれて くると、つつかなく なります。そこへ 三角を だすと、ヒナは「あ、あたらしい ものだ」と いうように、また つつきました。
ところが、さいしょに 三角に なれた ヒナに 玉を 見せても、つつきは もどりませんでした[4]。
この ちがいから、研究した 人たちは、玉の ような かぎられた かたちを おぼえやすい、うまれつきの かたむきが あるのかも しれない、と 考えて います[4]。ただ、ほかの せつめいも ありえる、と 研究した 人たち自身が みとめて います。
ヒナの側にも、覚えやすい形があるのでしょうか。それを調べた実験があります。ただし使われたのは鶏ではなくウズラのヒナです。
孵化直後のウズラのヒナは、目立つ小さなものを自分からつつき、食べ物と食べられないものを区別することをすぐに学ぶとされます[4]。1〜2日齢のヒナに丸い玉を見せ続けると、最初はつつきますが、見慣れるとつつかなくなります。ここで三角を出すと、ヒナは新しいものとしてまたつつきました。
逆に、三角に慣れたあとで玉を出しても、つつきは戻りませんでした[4]。玉は覚えやすく、三角は玉とは別物として扱われる、という非対称です。著者らは、玉のような限られた形を覚えやすい生まれつきの傾向を示唆していますが、別の説明の可能性も認めています。
実験は鶏でなくウズラなので、鶏のヒナにそのまま当てはめることはできません。この話からは、ヒナの学び方には、経験や母鶏の行動のほかに、生まれつきの偏りも関わる可能性があります。
Zoological Science(2000)の実験では、1〜2日齢のウズラのヒナに緑の玉を見せ続けて慣れさせた後、三角を見せると新奇なものとして識別され、つつきが回復した。逆に、三角に慣れた後で玉を見せた場合は、玉に対する反応は回復しなかった[4]。
この非対称から、著者らは、玉のように限られた形を覚えやすい生得的な傾向があると示唆する。ただし、著者自身が別の説明の可能性も認めており、断定できる段階ではない。
また、材料はウズラであり、鶏のヒナに同じ結果が出るとは限らない。ここから読み取れるのは、ヒナが白紙で生まれてくるわけではなく、何を覚えやすいかに生まれつきの偏りがありうるという点までである。母鶏や経験による学習は、この偏りの上に積み上がると考えられるが、その具体的な関係はこの資料の範囲では分からない。
では、こうして学んだつつき方は、ヒナが育つにつれてどう変わるのか。
5. つつきかたは、どのくらいで じょうずに なるの?
5. 「つつく回数」と「つかまえる上手さ」は、どう変わっていくのか
5. 粒をつつく回数は生後5週でピークを迎え、虫を捕まえる効率も上がる
ヒナは、はじめから じょうずに つつけるわけでは ありません。にわとりの ヒナを つかった 研究では、つぶの えさを つつく 回数は、うまれて 32日、5しゅうめ ごろに いちばん おおく なり、そのあと へりました[2]。
おなじ じきに、ミルワームという 小さな 虫を つかまえる じょうずさも、あがって いきました[2]。
ただし、5しゅうめは「じょうずに なった」しるしでは なく、つつく 回数が いちばん おおい じきです。ヒナが 大きく なるにつれ、つつきかたも かわって いく、と 考えられます。
生まれた その日に、すべてを 知って いる わけでは ない。つつき方は、日にちを かけて そだって いくのです。
ヒナは、つつけるようになった日から上手とは限りません。鶏のヒナを使った研究(2014)では、粒状の餌をつつく回数は、孵化後32日(5週め)ごろに最大になり、その後は減りました[2]。
同じ頃に、ミルワームという小さな虫をつかまえる効率も、つつく回数の増加と並んで上がっていきました[2]。
ここで気をつけたいのは、5週めは「上手になった時期」ではなく「つつく回数のピーク」だということです。回数が多いことと、上手なことは別です。それでも、虫をつかまえる効率が上がっているので、つつく動きの質が磨かれていく期間があると考えられます。
生まれたその日にすべてできるわけではなく、数週間かけてつつき方が変わっていくのです。
Murphy, Hayden & Kent(2014)の研究によれば、粒状の餌(crumb)をつつく回数は孵化後32日(5週め)で最大に達し、その後減少した。ミルワームの捕獲効率は、つつく回数の増加と並んで上昇した[2]。
注意したいのは、5週めの意味である。これは「つつく技能が完成する時期」ではなく、「つつく回数が最大になる時期」にすぎない。回数と技能は同じ量ではない。ただ、捕獲効率が同時期に上がっていることから、つつく行動が量だけでなく質の面でも変わっていく過程があると考えられる。
孵化直後に空腹と結びつかなかったつつく行動が、3日ごろに空腹で調節されるようになり[1]、さらに数週間をかけて回数と効率が変わっていく。つつく行動の成立は、「ある日できるようになる」ものではなく、段階を踏んだ過程である。ただし、これらは別々の研究の結果をつないだ見取り図であり、同じヒナを追った連続観察ではない点には留意が要る。
6. まわりの とりは、なにを 目じるしに つついて いるのかな?
6. 公園の鳥は、何を手がかりに地面をつついているのか
6. 鶏やウズラの研究結果を、ほかの鳥に当てはめるときの注意
ここまでの はなしは、にわとりや ウズラの ヒナの はなしです。こうえんの スズメや ハトが、おなじ しくみで つついて いるかは、この 記事の しりょうからは わかりません。
それでも、じぶんの 目で 見ると、ふしぎが ふえます。こうえんで、とおくから 鳥を 見て みましょう。
- 地面を つつく 前に、まわりを 見て いるか。
- ほかの 鳥が つついた ところに、あつまって くるか。
とりに ちかづきすぎたり、えさを あげたり しないで、はなれた ところから 見ましょう。見た ことを ノートに 書いて おくと、あとで くらべられます。
ここまでの話の主役は、鶏のヒナとウズラのヒナです。公園のスズメやハトが同じ仕組みでつついているかどうかは、この記事の資料からは分かりません。
でも、問いは持ち帰れます。「見えた何かを、鳥はいつ食べ物と決めているのだろう」。それを自分の目で確かめる方法があります。
公園や川べりで、離れた場所から鳥を見てみてください。地面をつつく前に、周りを見ているか。他の鳥がつついた場所に集まってくるか。見た回数や場所をメモしておくと、比べやすくなります。鳥に近づいたり、餌をあげたりはしないでください。
ここまでの結果は、鶏とウズラのヒナを対象にしたものである。他の鳥や、野外の別の場面に当てはめるときには、次の点に注意が要る。
第一に、3日、32日といった数値は、それぞれの研究の条件での値であり、普遍的な定数ではない。第二に、母鶏の行動が「教える」意味を持つかは断定できない。第三に、ウズラの形の実験は鶏のヒナにそのまま当てはまるとは限らない。
観察に進むなら、公園などで離れた場所から鳥を見て、地面をつつく前の頭の動きや、他の個体の近くに集まる様子を記録する方法がある。野鳥に近づいたり餌を与えたりしないことが前提である。
残る問いは、つつく行動が空腹と結びつく3日ごろまでの間に、ヒナの中で何が変わるのか、である。原典の総説と論文は出典欄にある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
研究の報告や解説のうち、記事で使ったものです。多くは英語の資料で、要旨や概要を確認しました。
- Hogan, J. A. (2011), Rev. Mex. Anal. Conducta 1(2):161-174. https://journals.unam.mx/index.php/rmac/article/view/27000 (孵化直後のつつく行動と空腹の関係)
- Murphy, Hayden & Kent (2014), PeerJ 2:e626. https://peerj.com/articles/626 (つつく傾向、回数のピークと虫をとる効率)
- Gajdon, Mundwiler & Stauffacher (2015), Applied Animal Behaviour Science 164:29-40. https://agris.fao.org/search/en/records/65df369f4c5aef494fe0e1ae (母鶏と餌場所、粒の好み)
- Zoological Science 17(8):1045, Predisposed Visual Memory of Shapes in Quail Chicks. https://bioone.org/journals/Zoological-Science/volume-17/issue-8/zsj.17.1045/Predisposed-Visual-Memory-of-Shapes-in-Quail-Chicks/10.2108/zsj.17.1045.full (ウズラのヒナの玉と三角の実験)
- The Poultry Site, Unlocking the yolk sac as a ready-made lunch box. https://www.thepoultrysite.com/articles/unlocking-the-yolk-sac-as-a-readymade-lunch-box (卵黄の残りがエネルギーになる期間)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 低学年むけの「飲みこむ経験」と母鶏の研究の説明、高学年むけの母鶏の研究の条件の書き方を、分かりやすく直しました(先生の目での読み直しによる)。
- 低学年むけの「飲みこむ経験」とウズラの実験の説明、高学年むけの「飲みこむ経験」の説明を、分かりやすく直しました(先生の目での読み直しによる)。
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