1. だれが うたって いるの?
1. 鳴くのはオスだけ ── 腹に楽器をもつ
1. 発音器官はオスの腹部にある
せみの 声を 出すのは、おとなの オスだけです[1]。メスは うたいません[2]。
オスの おなかには、音を 出す ぶひんが そろって います。メスは、音を 出す ための 体の つくりが オスと ちがいます[2]。
オスの おなかの 中は、ほとんど からっぽに 見える しゅるいも います[1]。空気の 入った 大きな 空間です。この からっぽが、あとで だいじな やくめを します。
2. 音の もとは、へこむ まく
2. 「パキッ」とへこむ膜 ── ティンバル
2. 発音膜(ティンバル)の構造とクリック音の発生
おなかの 上の ほうに、左と 右に 一つずつ、すじの 入った まくが あります。これが 音の もとです[3]。
むしの 中の きんにくが この まくを ひっぱると、まくが ぺこっと へこんで 「パキ」と 鳴ります。きんにくが ゆるむと もどって、また 音が 出ます[3]。
下じきの すみを ゆびで おして、はなすと ぺこぺこ 鳴るのに にて います。ただし セミの まくは、すじが じゅんばんに おれて いくので、一つの 音では なく、音の れんぞくに なると いわれます[4]。
腹の第1節にある、すじの入った膜
発音膜(ティンバル)は、オスの腹の第1節の左右に一つずつあり、すじ状の「肋」が入っています[3]。発音筋が膜を引くとへこんで「パキ」と音が出て、筋肉がゆるむと膜が元に戻ってまた音が出ると説明されています[3]。
順番に折れる肋
オーストラリアのセミ(ミナミアブラゼミの仲間)では、長い肋と短い肋が交互に並んだ膜が調べられました。筋肉が縮むと肋が一本ずつ内側へ折れ曲がり、クリック音が続けて出る、という報告です[4]。
プラスチックの下敷きの端を押すと、ぺこっと音が出ます。膜の音も、そうした「へこむ音」が連なったものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。ただし、日本の種類でも同じ形かどうかは、この資料だけでは分かりません。
3. きんにくより 早い 音?
3. 筋肉の動きより、ずっと速い音
3. 筋収縮の頻度と鳴き声の振動数のずれ
ある しゅるいの せみの 声は、一びょうに 三百かい ぐらい ふるえる、とても はやい 音です[6]。でも、きんにくが 一びょうに ちぢむ 数は、百かいより 少ない と 考えられて います[5]。
どうして、はやい 音が 出るのでしょう。きんにくが 一回 ちぢむと、まくの すじが じゅんに おれて いき、その たびに 「パキ パキ」と 何回も 鳴るからです[5]。
きんにくが ちぢむ うごきに あわせて、まくが たくさん 鳴る しくみです。
1回の収縮で、何回もクリック
日本のセミ4種の発音筋を調べた研究では、構造は昆虫の飛ぶ筋肉に近いものでした。多くは、1回の神経の合図で1回縮む「同期型」とされますが、その中の1種(P. capitata)では、神経の合図と縮み方の対応がずれる「非同期型」の可能性も指摘されています[5]。
一方、鳴き声の振動数は、調べられた種の一つで1秒あたり234〜389回に達します[5]。教育サイトも、セミは1秒に300〜400回ほどの音の波を出せると説明しています[6]。
数がこれだけ違うのは、1回の筋収縮で複数のクリックが出るためと考えられています。筋肉が縮む頻度は、1秒に100回を下回ると見込まれています[5]。
解説では、1回の収縮で「肋の数の2倍」のパルスが出ると説明されています[3]。
4. おなかの 中の からっぽ
4. 空っぽの腹が、音を大きくする
4. 腹部の空洞 ── ヘルムホルツ共鳴器としての空気袋と鼓膜
まくの 音は、それだけでは 小さな 音です。これを 大きくするのが、おなかの 中の 大きな ふくろです。中は 空気で いっぱいです[7]。
あきびんの 口に 息を ふくと「ぼー」と 鳴ります。びんの 中の 空気が ふるえて、音が 大きくなるからです。せみの おなかにも、びんに にた しくみが あると 考えられて います[7]。
びんの 音が まわりに 出るのは、口の ところ。せみでは、音は おなかの うすい まくなど、おなかの 一部から 外へ 出ると 考えられて います[7]。
空気の袋が「びん」になる
腹の大部分を占める大きな空気の袋は、気管が広がってできたものです[1]。1992年の研究では、この空気の袋を「びんの中の空洞」、腹にある薄い膜(鼓膜)を「びんの口」に見立てたモデルが提案されました。ヘルムホルツ共鳴器と呼ばれる、空きびんと同じ種類の共鳴です[7]。
この研究で調べたセミでは、音は主に鼓膜から外へ放射されました。ティンバルの音が空洞の中で響き、鼓膜から外へ出ていきます。ただし、鼓膜だけが出口とは限りません。腹弁は、音色の調整に関わるともいわれます[10]。
実験室の話と、外で聞く声
この結果はオーストラリアの種などで調べられたものです。日本のセミにも同じ仕組みがある可能性があります。細かい寸法や割合は、種によって異なるかもしれません。
5. 音を あわせる ひみつ
5. 共鳴のタイミングに合わせる
5. クリック列の共鳴周波数への整合
ぶらんこを おす とき、ちょうど いい ときに おすと、どんどん 大きく ゆれます。まくの 音は、おなかの ふくろが ゆれやすい 早さに あわせて つづきます[7]。
オーストラリアの ある せみでは、まくの 音が 二回か 三回 つづくと、しぜんの 鳴き声と にた、ながく のびる 音に なりました[7]。
ただし ぶらんこは 人が おしますが、せみの 音は まくが 自分で 出して います。
音の粒をそろえる
1992年の研究によると、オーストラリアのセミでは、ティンバルの音は、腹の空洞が揺れやすい振動数に合わせて連なった形で出ています[7]。ブランコを、揺れる速さに合わせて押すのと似ています。
オーストラリアのセミを使ったこの研究では、共鳴するクリックが2〜3回続くと、自然の鳴き声に似た、長くゆっくり減っていく音になりました。このときの音の高さは約4.3キロヘルツでした[7]。
ただし、ブランコは人が押しますが、セミの膜は自分で折れて音を出します。ここは、たとえと少しちがうところです。
この研究で調べたオーストラリアのセミでは、ティンバルは腹部共鳴器の固有振動数に整合したパルス列を与える。C. australasiaeでは、共鳴する2〜3個のクリックが連なると、自然の鳴き声に近い、長くゆっくり減衰する音パルスが得られた(約4.3kHz)[7]。
6. こえの たかさは、なにで きまる?
6. 声の高さと種類のちがい
6. 空洞の体積と音の高さ ── 種ごとの鳴き声の違い
せみの 声の 高さは、おなかの ふくろの 大きさなどで きまる、と いわれます[8]。大きな 体の せみは、ひくい 声に なりやすい とも いわれます。
ただし これは そうなりやすい、という 話で、ぜんぶの せみが そうとは かぎりません。
せみの しゅるいごとに、ふくろの 大きさや、おなかの ふたの 動かし方が ちがいます。だから、声も ちがう、と いわれて います[10]。
空洞の大きさで、高さがきまる
共鳴する音の高さは、空洞の体積と鼓膜の面積などで決まります。体が大きいセミは低い声になる傾向がある、と説明されています[8]。空きびんの口に息を吹いたとき、びんの形や口の大きさが同じなら、中の空気が多いほど低い音になるのと同じ考え方です。
ブラダーゼミ(ふくろのような腹をもつ種)の研究では、鳴き声の共鳴は約850ヘルツでした。これとは別に、空洞の有効な体積を増やすと共鳴の周波数が下がることも示されています。また、腹部が伸びると、外に出る音の振幅が約2倍になった、という結果もあります[9]。
種類ごとの声のちがい
種類ごとに空洞の大きさや腹弁の動き方が違うため、鳴き声も違ってくる、とされています[10]。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日 できること
あきの ペットボトルか あきびんの 口に、くちびるを あてて、そっと 息を ふいて みましょう。「ぼー」と 鳴ったら、水を すこし 入れて、もう一度 ふきます。おなじ いれものに 水を たして、いきの つよさを なるべく そろえて ふきます。空気の 部分が 小さくなると、音の 高さは どう かわるでしょう。せみの おなかの からっぽと、同じ 考え方です。水は こぼさないように、あさい 入れものの 上で やります。
出かけて できること
としょかんの ずかんで、せみの おなかの 中の ずを さがして みましょう。からっぽが どのくらい 大きいか、くらべて みられます。
くわしく 知りたい とき
はくぶつかんの せみの ページに、せみの 体や 声の しつもんが のって います[2]。
今日できること
空のペットボトルや空きびんの口に、そっと息を吹いて鳴らします。容器を1つに決め、同じ容器に水を少しずつ足して、息の強さをなるべくそろえながら、音の高さがどう変わるかを聞き比べてください。水はこぼれてもよい浅い入れ物の上で行います。ヘルムホルツ共鳴器のモデルを、家の中で確かめる実験です。
出かけてできること
図書館で、セミの図鑑や昆虫の解説書を探し、腹の断面図を見てみましょう。空洞の大きさを、種類ごとに見比べられます。
もっと調べるなら
大阪市立自然史博物館のセミのページ[2]と、国立国会図書館のレファレンス協同データベース[10]が入り口になります。メスが鳴かない理由や、種ごとの声のちがいを調べたいときに開いてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
記事で使った資料の一覧。それぞれ、どの事実に使ったかを添えた。
- セミ - Wikipedia(日本語) https://ja.wikipedia.org/wiki/セミ (オスだけが鳴くこと、共鳴室の位置、空洞の説明)
- 大阪市立自然史博物館 セミQ&A https://www2.omnh.jp/learning/ent/semi/questions.html (メスに発音膜がないこと)
- 岩本裕之「セミの鳴き声を作る仕掛け」生物物理58(5), 245(2018) https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/58/5/58_245/_pdf (ティンバルと発音筋の説明)
- Young & Bennet-Clark (1995) J Exp Biol 198:1001 https://journals.biologists.com/jeb/article/198/4/1001/6996/The-Role-of-the-Tymbal-in-Cicada-Sound-Production (膜と肋の構造)
- Iwamoto (2017) Zoological Letters 3:15 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5581462/ (発音筋の収縮頻度と鳴き声の振動数)
- Ask A Biologist(アリゾナ州立大学) https://askabiologist.asu.edu/cicada-sound (1秒あたりの音の波の数)
- Bennet-Clark & Young (1992) J Exp Biol 173:123 https://journals.biologists.com/jeb/article/173/1/123/737/A-Model-of-the-Mechanism-of-Sound-Production-in (腹部の共鳴器モデル、クリック列)
- Bennet-Clark & Young (1994) J Exp Biol 191:291 https://journals.biologists.com/jeb/article/191/1/291/6772/The-Scaling-of-Song-Frequency-in-Cicadas (声の高さと空洞の大きさ)
- Bennet-Clark & Young (1998) J Exp Biol 201:701 https://journals.biologists.com/jeb/article/201/5/701/7873/Sound-Radiation-by-the-Bladder-Cicada-Cystosoma (ブラダーゼミの共鳴)
- レファレンス協同データベース(国立国会図書館) https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000136523&page=ref_view (空洞と腹弁、種類ごとの違い)
- Tymbal - Wikipedia(英語) https://en.wikipedia.org/wiki/Tymbal (音の大きさの目安)
なおした ところ
更新履歴
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