1. ウンシュウミカンの おやは、だれなの?
1. 種なしのウンシュウミカンは、だれの子なのか
1. ウンシュウミカンの両親は紀州みかんとクネンボである
手で つるりと むけて、たねも ほとんど ない ウンシュウミカン。日本で つくられる かんきつの、およそ 7わりを しめて います(2018ねんの はっぴょうの ころ)[1]。
この ミカンの おやは、きしゅうみかんと クネンボです。2018ねんに、けんきゅうの チームが、からだの せっけいずに あたる 遺伝子を ぜんぶ しらべて、わかりました。
おもしろいのは、クネンボも きしゅうみかんの 子だった ことです。ですから きしゅうみかんは、ウンシュウミカンの おやで あり、おじいさんや おばあさんでも あります。
クネンボの もう 一人の おやは、まだ わかって いません。
ウンシュウミカンに たねが できにくいのは、たねを つくる はたらきが よわい せいしつなどを、あわせて もって いるからだと されて います。
手でするりとむけて、種を気にせず食べられるウンシュウミカンは、国内のかんきつ生産の約70%(2018年の発表時)を占めています[1]。この身近なミカンの親は、誰なのでしょうか。
農研機構と国立遺伝学研究所は、2018年2月、ウンシュウミカンの全ゲノムを読み解いたと発表しました。結果は、親が紀州みかんとクネンボというものです。さらに、クネンボも紀州みかんの子であることが確かめられました。クネンボのもう一方の親は、まだ分かっていません[1]。
家系図にすると、紀州みかんはウンシュウミカンの親であり、祖父母でもあります。遺伝子を親から半分ずつ受け取ると数えれば、ウンシュウミカンの紀州みかん由来の部分は、親から2分の1、クネンボ経由で4分の1、あわせて少なくとも4分の3になります(クネンボの未知の親が紀州みかんと近い場合は、もっと増えます)。これは発表の数字ではなく、ここで計算した目安です。
種がほとんどできないのは、花粉をつくる力と卵をつくる力がどちらも弱く、さらに受粉しなくても実が育つ性質が強いためだと説明されています[1]。では、親の紀州みかんとは、どんなミカンなのでしょう。
日本のかんきつ生産の約70%(2018年の発表時)を占めるウンシュウミカンは、種がほとんどなく、手で皮をむける。この性質を持つ品種の親は誰か。農研機構と国立遺伝学研究所は、2018年2月、全ゲノムの解読にもとづいて、両親が紀州みかんとクネンボであると発表した。論文の掲載は2017年12月の Frontiers in Genetics である[1]。
解析では、クネンボ自身も紀州みかんの子であると確認された。もう一方の親は分かっていない。したがってウンシュウミカンは、紀州みかんの子に、さらに紀州みかんが交配されて生まれたことになる[1]。紀州みかんは、親であり祖父母でもある。
遺伝子を親から半分ずつ受け継ぐと単純に数えれば、紀州みかん由来の部分は、直接の親から2分の1、クネンボ経由で4分の1となり、合計は少なくとも4分の3になる。クネンボの未知の親が紀州みかんに近ければ、さらに増える。ただしこの数字は発表にはなく、ここでの計算による目安である。
種のなさについては、発表の用語解説が、雄性不稔、雌性不稔、受粉しなくても実がなる単為結果性の3つをあわせ持つためとする[1]。では、この親にあたる紀州みかんは、どのようなミカンで、ウンシュウミカンはどこで生まれたのか。
2. おやの きしゅうみかんは、どんな ミカン?
2. 親の紀州みかんと、ウンシュウミカンの生まれた場所
2. 紀州みかんの特徴と、ウンシュウミカンの発生地をめぐる記述
きしゅうみかんは、直けいが 5センチほどの 小さな ミカンです。おもさは 30gから 50g。ふくろごとに、たねが あります[2]。
わかやまけんの ありたの ミカンの もとに なった 木で、げんさんは 中国だと されます。ウンシュウミカンが ひろまる まえは、ありたの 木の 代表でした。
ウンシュウミカンは、今から 400ねんから 500ねんまえに、九州で 生まれたと いわれます[1]。かごしまけんの 長島だと する せつも あります[3]。中国から 来た かんきつの たねが、ぐうぜん 目を 出したのだろうと 考えられて います。
そのあと、えだを べつの 木に つなぐ 方ほうで ふやされました。ウンシュウミカンは、きよみや デコポンなど、70を こえる 品しゅの おやにも なって います[1]。
紀州みかんは、直径が5cmほど、重さは30〜50gの小さなミカンで、各房に種があります。和歌山県の資料は、有田みかんのルーツであり、原産は中国で、温州みかんが広まる明治中期より前は有田地域の代表品種だったと紹介しています[2]。
一方、ウンシュウミカンの生まれた場所については、農研機構の発表が「今から400〜500年前に九州地方で発生したとされる」と述べます。農林水産省の広報誌は、より細かく鹿児島県の長島を原産地とし、中国から伝わったかんきつから偶然に芽生えたものと考えられている、と書きます[1][3]。九州と長島は、範囲の広さが違うだけで、食いちがってはいません。
その後、接ぎ木で各地にふやされる中で、枝変わりと呼ばれる変異の系統が選ばれてきました。さらにウンシュウミカンは、清見や不知火(デコポン)など70を超える品種・系統の親にもなっています[1]。
中国から来た紀州みかんが、日本で新しいミカンを生み、それがまた多くの子を残した。では、紀州みかんをさかのぼると、かんきつ全体の家系図はどこへつながるのでしょうか。
紀州みかんは、直径5cm程度、30〜50gと小さく、各房に種がある。和歌山県の資料によれば、有田みかんのルーツで、原産は中国であり、温州みかんが普及する明治中期以前は有田地域の代表品種だった[2]。
ウンシュウミカンの発生地は、資料によって示す範囲がちがう。農研機構の発表は、田中長三郎(1927)の説として、400〜500年前に九州地方で発生したとする。農林水産省の広報誌は、原産地を鹿児島県の長島とし、中国から伝わったかんきつからの偶発実生(偶然の芽生え)と考えられている、と述べる[1][3]。九州と長島は矛盾せず、いずれも推定である。
そのあと、接ぎ木による繁殖の過程で枝変わりの系統が選抜された。ゲノムの大きさは約3億6000万塩基対、遺伝子は約2万9千個と推定される。国内生産の約70%を占めるだけでなく、清見や不知火(デコポン)など70を超える品種・系統の親でもある[1]。
ここまでは、紀州みかんより下の世代の話だった。紀州みかんの上、つまり、オレンジやレモンまで含む家系は、どう組み立てられているのか。
3. オレンジや レモンの 祖先も、同じなの?
3. オレンジやレモンも、3つの祖先でつながるのか
3. 3つの基本種と雑種:オレンジやレモンはどこまで説明できるか
かんきつの かぞくの つながりを ずっと 上へ たどると、3つの 祖先に あつまると いわれて います。マンダリン、ブンタン、シトロンです。マンダリンは、ミカンの なかま。ブンタンは、とても 大きな かんきつ。シトロンは、レモンに 少し にた かたちの、かたい 皮の かんきつです。
オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムなども、この 3つや その 子や まごが、まじりあって できた なかまだと、せつ明されて います[5]。
ただし、3つ だけでは ありません。ほかの 野生の かんきつが まざった ものも あります。
この じっさいの おやと 子の くみあわせは、一つずつ しらべないと わかりません。
日本育種学会誌の総説は、雑種起源のかんきつのゲノムが、基本となる種の大きなDNAの断片をモザイクのように受け継いでいる、と説明します[4]。基本の種とされるのは、マンダリン(ミカンの仲間)、ブンタン(ポメロ)、シトロンの3つです。
百科事典のかんきつの解説では、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムなども、この3種とその子孫、あるいは他の野生種との交雑でできた雑種として説明されています[5]。
ただし、「3つだけ」ではありません。野生種が混ざった種類もあります。ブンタンの学名にも2通りの書き方があります。個々の品種の正確な親の組み合わせは、品種ごとに調べる必要があり、ここで一覧にすることはできません。
ウンシュウミカンの親、紀州みかんは、このうちマンダリンの側に近い仲間です。3つの祖先が、さらに上へつながるとすれば、いちばん古い共通の祖先はどこにいたのでしょうか。
日本育種学会誌の総説(Omura & Shimada, 2016)は、雑種起源のかんきつが、基本種であるシトロン、ブンタン(C. grandis とも C. maxima とも書かれる)、およびマンダリンの大きなDNA断片を受け継いだ「モザイク」のゲノムを持つと述べる[4]。
百科事典は、この見方をもとに、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムなども、3つの基本種と、その子孫、あるいは他の野生種との交雑による雑種として説明する[5]。
ただし「3つだけ」と読むのは誤りで、野生種などほかの祖先の関与も指摘される。また、個々の品種の親子関係は、発表論文ごとに確認が必要で、ここではオレンジやレモンの具体的な親の組み合わせは断定しない。
だとすれば、3つの基本種自体は、いつ、どこで生まれたのか。次に、その問いに近づく研究を見る。
4. かんきつは、どこで うまれたの?
4. かんきつの祖先は、どこで生まれたと考えられているのか
4. かんきつの起源地をめぐる、2つの研究
2018ねんの ろんぶんで、かんきつは、ヒマラヤ山の 南東の ふもとで 生まれたと かんがえられると しめされました。いまの インドの 東と、ミャンマーの 北と、中国の 雲なんの あたりです。
ほかの なかまと わかれ はじめたのは、およそ 1500万ねん前です。そのあと、てんきの ようすが かわった ころに、かんきつの なかまが いっきに ふえたと 考えられて います[6]。
ただし、まだ はっきり 決まった わけでは ありません。日本の けんきゅうでは、900点を こえる かんきつを DNAで しらべて、「もとに なった なかまが 生まれた 場しょは、一つでは なく、なかまごとに ちがうかも しれない」と しめして います[7]。
2018年、科学誌ネイチャーに載ったWuらの研究は、60の系統のゲノムなどを調べ、かんきつ属がヒマラヤ南東のふもと(インドのアッサム東部、ミャンマー北部、中国の雲南西部)で生まれたことを示唆しました[6]。共通の祖先から分かれ始めたのは約1500万年前とされます[5]。
この研究は、自然のかんきつを10種に整理しました。東南アジアでかんきつの種類が急にふえた時期は、後期中新世(約1160万〜530万年前)で、モンスーンが弱まった時期と重なると述べています[6]。
ただし、起源地は一つに決まったわけではありません。日本の科研費の研究(北島宣ほか)は、東アジア・東南アジアのかんきつ900点以上をDNAで調べ、基本種の生まれた場所は1か所ではなく、種ごとに別の地域かもしれないと示しました[7]。「ヒマラヤの南東」は、有力な説の一つです。
さて、この広い分布のいちばん東のはしに、日本があります。日本には、もとからどんなかんきつがあったのでしょうか。
2018年の Wu らの研究(Nature 554:311-316)は、かんきつ属がヒマラヤ南東のふもと(アッサム東部、ミャンマー北部、雲南西部)で生まれたと示唆する[6]。共通の祖先から分かれ始めたのは約1500万年前とされる[5]。
要旨によれば、この研究は自然のかんきつを10種に整理し、東南アジアでの急な種分化が、後期中新世(約1160万〜530万年前)のモンスーンの弱まりと相関すると述べる[6]。これは相関であり、因果を示したものではない。
ところが、起源地が1か所とは限らないとする研究もある。科研費の研究(北島宣ほか)は、東アジア・東南アジアのかんきつ900点以上のDNAを解析し、基本種の生まれた場所は種ごとにちがう可能性を示した[7]。前者は属全体の祖先の位置、後者は個々の基本種の位置を問うており、問いの粒度が異なる。ヒマラヤ南東は有力だが、確定ではない。
この分布の東端に位置するのが日本である。では、日本に固有のかんきつはあるのか。
5. 日本に もとから あった かんきつは?
5. 日本にもとからあったかんきつは、何種類なのか
5. 分布の東端の日本:在来2種と、伝来をめぐる伝承
日本の 山や 野に もとから 生えて いた かんきつ(じせいの かんきつ)は、2しゅるいだけと されて います。タチバナと、おきなわの シークワーサーです[4]。
シークワーサーは、タチバナと ほかの 見つかって いない かんきつの まざった 子らしいと、いわれて います[8]。
ほかに 日本で そだてられて きた ミカンや ユズなどは、大むかしに 外から つたわったと 考えられて います。おはなしでは、とても むかしの 天のうの ころ、ダイダイらしい かんきつが 来たと いわれます[9]。ただし これは、言いつたえです。
日本の けんきゅうでは、ならじだいに あった タチバナ、ユズ、きしゅうみかん、ダイダイ、カラタチ、キンカンが、どう つたわったかも、DNAで しらべて います[7]。
日本は、かんきつの自然分布の東のはしにあたります。日本育種学会誌の総説では、日本在来の種はタチバナとシイクワシャー(シークワーサー)の2つです[4]。
シイクワシャーは、タチバナより遺伝子の組み合わせにちがいが多く、タチバナと未知の種の雑種らしいと報告されています[8]。「らしい」という推定で、断定はされていません。
それ以外の種類は、外から来たと考えられています。百科事典類には、垂仁天皇の時代にトキジクノカクノコノミ(ダイダイといわれる)が導入された、のちに紀州(和歌山県)へ伝えられ、その年は1574年と記されている、という記述があります[9]。年も含めて、いずれも伝承や説を含み、確かな記録とは言えません。
一方、科研費の研究は、奈良時代にあったタチバナ、ユズ、紀州みかん、ダイダイ、カラタチ、キンカンの日本への伝わり方を、DNAから推定しています[7]。昔の話をDNAで読み直す試みが、今も続いています。
日本はかんきつの自然分布の東端にあたり、在来種はタチバナ(Citrus tachibana)とシイクワシャー(C. depressa、シークワーサー)の2つとされる[4]。
ただしシイクワシャーは、タチバナより遺伝子座のヘテロ(対立遺伝子が異なる状態)が多く、タチバナと未知の種との雑種と推定されている[8]。推定であり、断定はされていない。この場合、日本固有の種のうち一つは、すでに雑種である可能性が高いことになる。
では、他の種類はどう来たか。百科事典類は、垂仁天皇の時代にトキジクノカクノコノミ(ダイダイと推測される)が導入され、のち紀州に伝えられ(年は1574年と記される)たと述べる[9]。年を含め、いずれも伝承・説の域を出ない。
これに対し、科研費の研究は、東アジア・東南アジアのDNAの比較から、奈良時代にあったタチバナ、ユズ、紀州みかん、ダイダイ、カラタチ、キンカンの日本への伝わり方を推定している[7]。伝承を、遺伝子の比較で検証し直す作業が始まっている。
なお、古代の記録にある「橘」が、現在の植物名のタチバナだけを指すとは限らないため、記録と種を一対一で結ぶには、慎重さが要る。
6. ちかくの かんきつの おやを さがして みよう
6. 近所のかんきつで、親さがしを始める
6. 家系図を自分で読み、原典へ進む
うちで できる こと
うちに ある かんきつを、いくつか ならべて みましょう。ミカン、オレンジ、レモンなど。名前を ノートに 書き、ふくろの 数、たねの 数、皮の むきやすさ、においを くらべます。「これと これは にている」と、よそうも 書きます。
そのあと
おとなの ひとと、図書かんや 学校で、品しゅの 名前を しらべて みましょう。「親は だれ?」が のって いるかも しれません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 農研機構・国立遺伝学研究所 プレスリリース「ウンシュウミカンの全ゲノムを解読」(2018年2月20日). https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20180220.pdf (ウンシュウミカンの両親・種なしの性質・発生地・子孫)
- 和歌山県 食材コレクション「紀州みかん」. https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/syokuzai/index_d/fil/6kissyumikan_1.pdf (紀州みかんの大きさと特徴)
- 農林水産省 aff 2017年1月号 特集「みかん」. https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1701/spe1_01.html (温州みかんの原産地)
- Omura, M. & Shimada, T. Citrus breeding, genetics and genomics in Japan. Breeding Science 66(1) (2016). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs/66/1/66_3/_html/-char/en (基本種・日本在来の2種)
- Wikipedia “Citrus”. https://en.wikipedia.org/wiki/Citrus (3つの基本種と雑種・Wuらの研究の紹介)
- Wu, G. A. et al. Genomics of the origin and evolution of Citrus. Nature 554 (2018). https://www.nature.com/articles/nature25447 (自然の10種と種の増加の時期)
- 北島宣ほか 科研費 研究成果報告書 20H02980. https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-20H02980/20H02980seika.pdf (基本種の起源地・日本への伝わり方)
- Ishikawa, R. et al. Breeding Science 66(4):490-498 (2016). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs/66/4/66_15151/_html/-char/ja (シイクワシャーの雑種性)
- コトバンク「柑橘類」(世界大百科事典・日本大百科全書). https://kotobank.jp/word/%E6%9F%91%E6%A9%98%E9%A1%9E-48565 (日本への伝来の伝承)
なおした ところ
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