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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

コンサートホールの かべや てんじょうは、どうして でこぼこ して いるの?

音楽ホールの壁や天井は、なぜでこぼこしているのか ── 楽友協会ホールから1万枚の白いパネルまで

音楽ホールの壁面拡散 ── 側方反射、拡散体、数論にもとづく設計、エルプフィルハーモニーの壁パネル

分野:技術

ドイツの ハンブルクに ある コンサートホールは、かべと てんじょうが 1万まいを こえる 白い パネルで できて います。パネルは、ひとつずつ けずって つくられました。

どうして ホールの かべは、つるつるに しないで、でこぼこに するの でしょう。この 記事を よむと、でこぼこの わけと、かべの かたちを 数で きめる 人たちの 話が わかります。

ドイツのハンブルクにあるエルプフィルハーモニーの大ホールは、壁と天井が、1万枚をこえる白いパネルでおおわれています。パネルは石膏繊維コンクリートを1枚ずつ削り出して作られました[8]。

なぜコンサートホールの壁は、つるつるの平らにしないのでしょうか。深さのちがう溝、数の並びで決める壁の形、昔のホールの彫像まで見ると、でこぼこが音を散らして客席を包む響きをつくる、という答えと、まだ言い切れないことが分かります。

エルプフィルハーモニー大ホールの壁と天井は、石膏繊維コンクリートのパネル1万枚超をひとつながりの「白い皮」として張った面で、平らな部分は音を直接反射し、深いくぼみの部分は音を散らすと公式に説明される[8]。

では、なぜホールは平らな壁を避けるのか。直接音と反射音の関係、深さの異なる溝による拡散、数論にもとづく設計、そして「拡散は多いほどよい」とは決まっていない点まで、資料から分かる範囲と、まだ言い切れない範囲を分けて示す。

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1. たいらな かべだと、音は どう なるの?

1. 平らな壁は、音を一方向へはね返してしまう

1. 反射音の「遅れ」と「向き」── 平らな壁の問題

ホールで いちばん だいじなのは、音が まわりから つつむように きこえる ことです。そのために、かべに あたった 音が、いろいろな むきから きゃくの 耳へ とどくのが よいと されます[1]。

音は、かがみに ひかりが あたる ように、かべで はね かえります。かべが つるつるの たいらだと、はね かえる 音は、おなじ 方へ そろって いきやすく なります。

横から くる はね かえりは、音に つつまれるような きこえかたに やくだちます。ところが、はじめの 音から ずっと おくれて とどく はね かえりは、方向に かかわらず、やまびこの ような エコーに なって じゃまを する ことが あります[1]。

そこで でこぼこの かべの 出番です。でこぼこの かべは、音を すわないで、ちらします。ですから ホールの ひびきは のこしたまま、エコーや、とくていの 音だけ きつく きこえる くせが、ばあいによっては へらせる、と せつめいされて います[2]。

コンサートホールで大切なのは、音が客席のまわりから包みこむように聞こえることです。三重大学の寺島貴根さんの解説では、直接音から遅れの小さい反射音は直接音を補って音を明瞭にし、横(側方)から来る反射音は「音の拡がり感」に役立ちます。反対に、直接音から大きく遅れた反射音は、エコーになって邪魔をします[1]。

壁がつるつるの平らだと、音は鏡に当たった光のように、決まった向きへまとまって返りやすくなります。客席のある場所には強く届き、別の場所には届きにくい、という偏りが生まれます。

そこで使われるのが、音を散らす「拡散体」です。拡散とは、音のエネルギーを部屋の中に広く行きわたらせること。百科事典(Wikipedia)の解説では、拡散体は音を吸いとるのではなく散らすので、部屋の響きを保ったまま、特定の音だけが強く聞こえる「色づけ」やエコーを、条件によっては抑えられると説明されています[2]。

つまり壁のでこぼこは、飾りというより、音の向きをばらけさせる働きを持つ面です。では、どんな形にすれば音が散るのでしょうか。

ホールの音響設計で望ましいのは、反射音があらゆる方向から客席へ届く状態だと説明される。ここで鍵になるのが反射音の「遅れ」と「向き」である。寺島貴根(三重大学)の解説によれば、直接音から遅れの小さい反射音は直接音を補って明瞭さに寄与し、側方からの反射音は音の拡がり感(音に包まれる感じ)に寄与する。一方、直接音から大きく遅れた反射音はエコーとなり、聞きとりを妨げる[1]。

平らで硬い壁は、入射した音を鏡のように一方向へ返す。そのため、反射が客席の特定の場所に集中し、ほかの場所に届きにくい偏りが生じうる。これを和らげるのが拡散体で、音のエネルギーを空間内へ広く行きわたらせる役割をもつとされる[2]。Wikipediaの解説では、吸音材とちがって音を吸いとらないので、室の残響を保ったまま、特定の周波数が強調される色づけ(coloration)やエコーを、条件によっては抑えられるという。専門書や学会資料での裏づけは、この記事では扱っていない[2]。

注意したいのは、「でこぼこ=エコー消し」だけではない点だ。側方反射を確保することも目的に含まれる。では、散らす面は具体的にどんな形で、どれくらいの大きさが要るのか。

2. ふかさの ちがう みぞを ならべると、どう ちるの?

2. 深さのちがう溝を並べると、返ってくる時間がずれる

2. 深さの異なる溝 ── 反射のタイミングをずらす面と、4分の1波長の目安

よく つかわれる かたちは、ふかさの ちがう みぞを ならべた かべです。みぞごとに 音が そこまで いって もどる 長さが ちがうので、かえって くる 音の タイミングが ほんの すこし ずれます[3]。

すると、ずれた 音どうしが かさなり あって、かがみのように ひとつの 方へだけ もどらず、いろいろな 方へ ちらばります。

たとえば、ボールを かいだんの 上から ころがす ところを そうぞうして ください。たいらな ゆかなら まっすぐ いきますが、でこぼこの ゆかなら ばらばらに はねます。ただし 音は ボールでは なく 波なので、これは すこし にている、という たとえです。

でこぼこ(みぞ)の ふかさは、ちらしたい 音の 波の 長さの 4ぶんの 1 いじょうが めやす だと、せっけいの れいで いわれます[3]。ホール ぜんたいを きめる きまりでは なく、あくまで めやすです。

音を散らす面の代表が、深さのちがう溝を並べた壁です。溝の底まで往復する距離が溝ごとに違うので、同じ音が各溝から少しずつ違うタイミングで返ります。波のずれ方(位相)がそろわないぶん、音は鏡のように一方向へ返らず、いろいろな向きへ広がります[3]。

たとえば階段の上からボールを転がすと、平らな床では一直線ですが、でこぼこの床では向きがばらけます。ただし音は粒ではなく波なので、ボールのたとえは「なんとなく似ている」程度に考えてください。

では、でこぼこはどれくらいの大きさがあればよいのでしょうか。大学の授業資料では、効かせたい音の波長の4分の1以上の深さの凹凸が、拡散体を設計するときの目安として書かれています[3]。波長とは、音の波ひとつ分の長さのことです。ただしこれは設計例の目安で、ホール全体の設計規則ではありません。

音の高さによって波長は違うので、大きなでこぼこは低めの音、細かなでこぼこは高めの音に効きやすい、と考えられます。昔のホールにも、彫像やくぼみといったでこぼこがありました。

シュレーダー型の拡散体は、深さの異なる溝(ウェル)を並べた面である。入射波は溝の底で反射して戻るため、溝ごとに往復距離が異なり、戻ってくる時間と位相がずれる。そのため、反射音は鏡面反射のように一方向へ集中せず、位相のそろい方に応じた多方向へ散る[3]。

設計例で示される目安として、凹凸(溝)の深さが対象とする周波数の波長の4分の1以上であることが挙げられる[3]。筆者の概算として、音の速さを秒速約340m、対象を1000Hzの音とすると、波長は約34cm、その4分の1は約8.5cmになる。ただしこれは目安の読み方の一例にすぎず、ホール全体の設計規則ではない。

この見積もりから、低い音ほど波長が長く、散らすには深い凹凸が要ることが分かる。壁に深さが何種類もあり、しかも並べ方に意味があるなら、それは偶然の飾りか、設計か。昔のホールを見ると、その境目が見えてくる。

3. むかしの ホールにも、でこぼこは あったの?

3. 100年以上前のホールにも、彫像やくぼみがあった

3. 楽友協会ホールとボストン・シンフォニーホール ── 装飾と音の関係

オーストリアの ウィーンに ある 「がくゆうきょうかい」の 大ホールは、1870年に できました。はこのような 四角い かたちで、「金色の ホール」と よばれます[4]。

この ホールを つくった ハンセンは、音の けんきゅうを たよりにせず、じぶんの かんで せっけいしたと いわれます[4]。かべや かざりが 音を はね かえし ちらす ことも、ひびきに かかわる、と せつめいされます。ひびきは ホール ぜんたいの かたちや ざいりょうで きまるので、かざりの やくわりだけは とりだせません。

アメリカの ボストンの シンフォニーホールは、1900年に できました。ウォレス・サビンと いう わかい 学者が、音の 科学で せっけいしました。ウィキペディアの せつめいでは、てんじょうの こうしじょうの かざりや、かべの ぞうの くぼみが、どの せきでも よい 音に やくだつと されます[5]。

ただし、これらの かざりが 音を ちらす ためだったのかは、しりょうから いいきれません。

ウィーンの楽友協会大ホールは、1870年1月6日に開場しました。長さ約49m、幅約19m、高さ約18mの直方体(シューボックス型)で、「黄金のホール」とも呼ばれます。設計したハンセンは、建築音響の研究に頼れず、直感で設計したとされます[4]。

この壁や装飾について、Wikipediaには、反射・拡散する面が強い側方反射をもたらすという説明があります[4]。ただ、このホールの響きは、全体の形や材料などが重なってできるものです。装飾がどれだけ寄与しているかは特定できませんし、散らすために置かれたのかもはっきりしません。

1900年10月15日に開場したボストン・シンフォニーホールでは、ハーバード大学の若い物理学者ウォレス・サビンが音響コンサルタントを務めました。Wikipediaの解説では、科学的な音響原理で設計された最初期のホールの一つとされます。格天井(ごうてんじょう、四角い区切りの天井)と、三方の壁の彫像を収めたくぼみ(ニッチ)が、ほぼどの席でもよい音に役立つ、とも書かれています[5]。

でこぼこは昔からホールにありました。では、散らす壁の形を「勘」でなく、計算で決める人は現れたのでしょうか。

ウィーンの楽友協会大ホールは、1870年1月6日に開場した。長さ約49m・幅約19m・高さ約18mの直方体(シューボックス)型で、設計者のハンセンは建築音響の研究に頼れず、直感で設計したとされる[4]。Wikipediaには、壁や装飾の反射・拡散する面が強い側方反射をもたらすという説明がある[4]。ただし響きはホール全体の形状や材料などによるもので、装飾の寄与は特定できない。

ここで慎重になりたいのは、装飾が拡散のために置かれたとは言えない点だ。設計意図を示す一次資料は今回の範囲にない。大学の授業資料には、昔のホールの彫像や浮き彫りが結果的に壁面を不規則にして音を散らした、という見方があるが、二次的な記述にとどまる。

設計に科学が入った例が、1900年10月15日開場のボストン・シンフォニーホールである。ハーバード大学の若い物理学者ウォレス・サビン(Sabine)が音響コンサルタントを務めた。Wikipediaの解説では、科学的な音響原理で設計された最初期のホールの一つとされ、格天井と、三方の壁の彫像を収めたニッチが、ほぼどの席でも良い音に役立つという[5]。

つまり、でこぼこは経験的にも科学的にも使われてきたが、「どの形が最も散らすのか」を数学で問う段階はまだ先だった。次の章が、その問いである。

4. 音を いちばん ちらす かべの かたちは?

4. 「最も音を散らす壁の形は何か」と問われて、数が使われた

4. 数論にもとづく拡散体 ── シュレーダーの問いと、予測できる設計

1970ねんだいに、シュレーダーと いう 人が、「音を いちばん ちらす かべの かたちは なにか」と かんがえました[6][7]。

はじめは 0と 1の ならびを つかって かたちを つくり、のちには 数の ふしぎな きまりに もとづく せっけいへ すすみました[7]。

すうがくの 先生の 話が ヒントに なった、と つたえられます。1977ねんに ゲッティンゲンで ヴェイユと いう 先生が した おはなしが きっかけの ひとつと されます[6]。

この つくりかたの よい ところは、きめた じょうけんの もとで、できあがる 前に、どれだけ ちるか けいさんして よそくできる ことです[7]。いまでも この かたちは 「シュレーダー・ディフューザー」と よばれ、ひろく つかわれて います[6]。

1970年代、マンフレート・シュレーダーは、数論にもとづく拡散体を考え出したとされます。1977年にゲッティンゲンで行われたアンドレ・ヴェイユの講義(ガウス和や平方剰余という数の性質の話)から着想を得たとされます[6]。

2006年の記事によれば、シュレーダーは約30年前に「最大限の音の拡散をもつ壁の形は何か」と問いました。最初は最大長系列(0と1の並びの一種)で拡散体を作り、のちに平方剰余・原始根という数の性質に基づく設計へ進みました[7]。

この「レシピ」の強みは、設計条件に応じた拡散体の性能を、計算して予測できるようになったことです[7]。数の並びに従って溝の深さを決めれば、どの方向へ散らすかを作る前に計算できます。平方剰余型は今も「シュレーダー・ディフューザー」と呼ばれ、広く使われています[6]。

数学の講義が壁の形の発想につながったという流れは、研究が思わぬ場所で役立つ一例といえます。ただ、拡散体を増やせばよいホールになるとは、限りません。

数論に基づく拡散体は、マンフレート・シュレーダー(Schroeder)が1970年代に考案したとされ、1977年にゲッティンゲンで行われたアンドレ・ヴェイユ(Weil)の講義(ガウス和・平方剰余)から着想を得たと説明される[6]。年を混同しないために補うと、最大長系列に基づく論文は1975年、平方剰余型は1979年ごろと整理されるので、講義の年だけで発明の時期を決めないほうがよい。

Cox と D'Antonio(2006)の記事によれば、シュレーダーは約30年前に「最大限の音の拡散をもつ壁の形は何か」と問い、まず最大長系列の拡散体を作り、のちに平方剰余・原始根に基づく設計へ進んだ[7]。この設計法の成果は、設計条件に応じた拡散体の性能を計算・予測できるようになったことにある[7]。

だから、平方剰余型は設計者が散り方を計算してから壁を作れる道具になった。現在もこの型は「シュレーダー・ディフューザー」として広く使われている[6]。経験と勘に頼っていた壁の凹凸が、数論という言葉で語れる対象になった、と読める。

では、この考えは現代の大きなホールでどう使われているのか。

5. 1万まいの パネルは、音を どうして いるの?

5. 1万枚をこえる白いパネルは、音をどう受けとめているのか

5. エルプフィルハーモニー ── 「白い皮」の平らな部分と、深いくぼみの部分

ハンブルクの エルプフィルハーモニーの 大ホールには、2100の せきが あります。かべと てんじょうは、ひとつなぎの 白い 「かわ」で おおわれて います[8]。

この かわは、1万まいを こえる パネルで できて います。せっこうの せんいを まぜた コンクリートを、ひとつずつ けずって つくりました[8]。

パネルの たいらな ところでは、音が まっすぐ はね かえります。ふかい くぼみの ところでは、音が ちらばります[8]。たいらと でこぼこが まざる ことで、はね かえる 音と、ちる 音の りょうほうを つくって いるのです。

せっけいは、ヘルツォーク&ド・ムーロンと、おんきょうの せんもんか の とよた やすひさ さんです[8]。

エルプフィルハーモニー大ホールの壁と天井は、ひとつながりの「白い皮」で覆われています。パネルは石膏繊維コンクリート製で、1万枚をこえる数が削り出されました。客席は2,100席です[8]。

公式サイトの説明では、パネルの平らな部分では音が直接反射し、深いくぼみのある部分では音が散ります[8]。すべてが散らす面ではなく、返す面と散らす面を一つの壁の中で組み合わせているのです。1枚ずつの形については、削り出されたという以上のことは述べられていません。

設計は建築家のヘルツォーク&ド・ムーロンと、音響家の豊田泰久さんによります[8]。建築の形と音の設計が、最初からひとつの壁としてまとめられた例といえます。

では、壁をでこぼこにするほど、ホールはよくなるのでしょうか。

エルプフィルハーモニー大ホールは、壁と天井を一体の「白い皮」で覆う。パネルは石膏繊維コンクリート製で1万枚超が削り出され、平らな部分では音が直接反射し、深いくぼみの部分では散る[8]。客席は2,100、設計はヘルツォーク&ド・ムーロンと音響家の豊田泰久である[8]。

読み取れるのは、すべてを拡散面にしたのではなく、反射する領域と散乱する領域を同じ面の中で共存させているという点だ。公式の説明は、位置や求められる働きに応じて、平らな部分で直接反射させ、深いくぼみから散らす、というものである。1枚ごとの形が異なるのかには触れていないので、ここでは削り出しとだけ述べる。

こうした大きな面で、拡散がホールの評価とどう結びつくかは、研究者のあいだでも見方が分かれている。

6. でこぼこは、おおいほど よいの?

6. でこぼこは多いほどよい、と決まっているのか

6. 拡散の量をめぐる議論 ── 「多すぎる」と「足りない」、ホールの形のちがい

それが、そうとは かぎりません。Cox と D'Antonio の 文では、ある 有名な ホールを つくる 人は、「ちらしすぎると、バイオリンなどの 高い 音の 音しつが わるくなる」と しゅちょうしました[7]。

べつの 見方では、大きな ホールの 音の ふちょうは、ちらす ものが たりない ことが げんいんと いわれます[7]。

ホールの かたちにも ちがいが あります。東京の サントリーホールは 1986ねんに できました。ぶたいを きゃくせきが ぐるっと かこむ かたちで、「ぶどうばたけ」に にた ブロックに わかれて います[9][10]。

この かたちは、きゃくに ちかい よこの はんしゃ面を たくさん つくる、と せつめいされます[10]。

ですから 答えは、「おおければ よい」では なく、ホールごとに ちょうど よい ところを さがす、です。

『Acoustics Today』(2006年)では、ある著名なホール設計者が「拡散が多すぎると高音の弦楽器の音質に悪い」と主張した一方、別の見方では、一部の大ホールの音響の不調は拡散の不足が原因とされる、と紹介されています[7]。拡散は「多いほどよい」とは決まっていないのです。

ホールの形によって、側方反射のつくり方も変わります。シューボックス型は直方体で、ウィーン楽友協会大ホールが代表例です。ヴィンヤード型は、客席をぶどう畑のように段状のブロックに分けた形で、段差によって客席に近い横の反射面を多数つくります。日本ではサントリーホールがこの型の例とされます[10][1]。永田音響設計のプロジェクト資料には、1986年完成、客席2,006、満席時の残響時間2.1秒と記されています[9]。

ホールの形がちがっても、側方の反射を大切にする点は共通します。壁の凹凸の細かな形は、ホールごとに別の話です。

音楽ホールは、直接音、側方反射、拡散、残響のバランスで、聞こえ方が決まる場所です。その中で壁のでこぼこは、散らし方の調整つまみの一つです。

拡散の量については、見解が割れている。Cox と D'Antonio(2006)は、著名なホール設計者が「拡散が多すぎると高音弦楽器の音質に悪い」と主張した一方で、別の見方では一部の大ホールの不調は拡散不足に由来するとされる、と紹介している[7]。したがって、拡散は多ければよいと決まってはいない。

ホール形状によっても、側方反射の確保の仕方が異なる。直方体のシューボックス型(ウィーン楽友協会大ホールが代表例)に対し、ヴィンヤード型は客席を段状のブロックに分け、段差で客席に近い横の反射面を多数つくる[1][10]。日本ではサントリーホールがこの型の例とされる[10]。設計した永田音響設計のプロジェクト資料には、1986年完成、客席2,006、容積21,000立方メートル、満席時の残響時間2.1秒と記されている[9]。この形の話は、壁の凹凸による拡散の話とは別に考える。

なお、ベランクが1992年の総説で、あらゆる角度からの十分な反射に加え、音響的な「まぶしさ」を消すための凹凸と装飾が必要と述べたという二次引用(Kahle, 2018)がある。これは引用を通じた記述なので、結論の根拠には使わず、読む手がかりとして挙げる。

要するに、壁の凹凸は、遅れの小さい反射、側方反射、拡散、残響のバランスを調整する要素の一つであり、量と配置は、ホールの形や用途ごとに決める必要がある。

7. おうちで 手を たたいて、音の ちがいを きいて みよう

7. 家の中で、手をたたいて響きの違いを聞き比べる

7. 身近な空間で試せることと、原典の読み方

おうちの 人と いっしょに、へやの なかで 手を ぱん、と たたいて みましょう。なにも ない かべの 前と、本だなの 前では、きこえかたが ちがうでしょうか。

ろうかや おふろばなど、ちがう ばしょでも ためせます。ただし、ぜんぶ ちがって きこえるとは かぎりません。ちがいが わからなくても、だいじょうぶです。

つぎに コンサートホールの しゃしんや えいぞうを 見る ときが あれば、かべや てんじょうの かたちを じっくり 見てみましょう。

家具のある場所とない場所で、響きがどう違うかを、手をたたいて聞き比べてみましょう。何も置いていない平らな壁の前と、本棚の前とで、手をぱんとたたきます。これはホールの壁面拡散そのものを確かめる実験ではなく、身のまわりの音の聞こえ方に気づくためのものです。家の人に近くにいてもらうと、感じ方を話し合えます。

浴室や廊下など、別の場所でもできます。聞こえ方の違いは、部屋の広さや家具でも変わるので、本棚だけの効果とは言い切れません。違いが分からなくても、それも一つの結果です。

次にホールの写真や映像を見るときは、壁や天井の凹凸が、平らな面と散らす面のどちらに見えるかを探してみてください。昔の彫像や格天井と、最近のパネルを見比べるだけでも、形のちがいに気づけます。

家でできるのは、本棚の前と何もない壁の前で手を叩き、聞こえ方を比べることである。ただし、これは家具のある場所とない場所の響きの違いを聞く試みで、壁面拡散の実験ではない。部屋の広さや家具でも変わるので、本棚だけの効果とは言い切れない。

紙の上では、音の速さと波長の概算を、自分の知っている音の高さ(周波数)で計算し直し、4分の1波長がどの程度の凹凸の深さになるかを見積もれる。ホールの内装写真で、平らな面とくぼみのある面の配置を探すのもよい。

原典に近い資料としては、Acoustics Today(2006)のCoxとD'Antonioの記事が、シュレーダーの問いから拡散体の設計までを短くまとめている。英語の資料なので、日本語の解説(寺島貴根氏の解説)と読み比べると、用語が分かりやすい。ホールの設計者や音響家が公式サイトで公開している説明も、壁パネルの考え方を知る手がかりになる。

数論という分野が、ホールの壁の形をどこまで決めているのか。この記事の資料からは、拡散体の設計に使われることまでが言える範囲である。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

ホールの反射音と拡散、拡散体の設計、各ホールの概要は、次の資料による。Wikipediaと大学の授業資料は二次的な情報なので、本文では「〜と説明されている」「目安」といった言い方にとどめた。

  1. 現代ビジネス「音楽ホールの音響」(三重大学 寺島貴根氏の解説) https://gendai.media/articles/-/76240 (側方反射・エコー・シューボックス型とヴィンヤード型)
  2. Wikipedia「Diffusion (acoustics)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Diffusion_(acoustics) (拡散の定義、色づけ・エコーを減らす働き)
  3. UBC Wiki「PHYS341 Diffuser Material Choice」 https://wiki.ubc.ca/Course:PHYS341/Archive/2016wTerm2/Diffuser_Material_Choice (溝の深さによる拡散、4分の1波長の目安)
  4. Wikipedia「Musikverein」 https://en.wikipedia.org/wiki/Musikverein (開場日・寸法・設計者ハンセンと響き)
  5. Wikipedia「Boston Symphony Hall」 https://en.wikipedia.org/wiki/Boston_Symphony_Hall (開場日・サビンと格天井・ニッチ)
  6. Wikipedia「Diffuser (acoustics)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Diffuser_(acoustics) (シュレーダーの拡散体とヴェイユの講義)
  7. Cox, T. J. & D'Antonio, P. "Acoustics Today" (2006) https://acousticstoday.org/issues/2006AT/Jul2006/files/basic-html/page20.html (シュレーダーの問い、拡散量をめぐる議論)
  8. Elbphilharmonie「The acoustics」 https://www.elbphilharmonie.de/en/mediatheque/the-acoustics-at-the-elbphilharmonie/221 (白い皮のパネルと音の返り方)
  9. 永田音響設計「サントリーホール」 https://www.nagata.co.jp/projects/2954/ (客席数・容積・残響時間)
  10. Wikipedia日本語「コンサートホール」 https://ja.wikipedia.org/wiki/コンサートホール (ヴィンヤード型・シューボックス型の説明)

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