1. うしは、1日に どれくらい あるくの?
1. 牧場の牛は、1日にどれくらい歩いているのか
1. 放牧牛の歩行距離は、平均7km前後で、牧地によって大きく変わる
ぼくじょうに はなされた うしは、草を さがして 1日じゅう すこしずつ あるきます。ある 研究の まとめでは、へいきんで 1日 およそ 7キロです[1]。
7キロは、小学生の 通学路を 何回も 行き来する ぐらいの 道のりです。ただし これは めやすで、ぼくじょうの 広さで 大きく かわります[1]。
日本でも はかった 人が います。1962年の 夏、島根の 大学の 人たちが、1日 24時間 うしを 見つづけました。和牛は 4.3キロ ほど、ホルスタインの なかまの わかい うしは 5.7キロ ほど あるいて いました[2]。
おなじ 草地の 馬は 13キロ。うしの 3分の 1から 半分 ほどの 道のりです。この けんきゅうでは、うしの 歩いた 道のりは 馬より 短かったようです。
では、そんなに あるいて、からだは どれくらい よけいに はたらいて いるのでしょう。
牧場の牛は、草を探しながら1日じゅうゆっくり歩いています。総説に引用された値では、放牧牛は平均でおよそ1日7km歩きます[1]。ただし、これは牧地の広さや個体によって幅のある目安です。
日本での実測もあります。1962年の夏、島根農科大学の研究者が24時間の観察を行い、1頭が牧草地で歩いた距離は黒毛和種で平均4.3km、ホルスタイン雑種の育成牛で5.7kmでした[2]。同じ牧草地のアラブ雑種の馬は13.1kmで、牛は馬の3分の1から半分ほどです。
ただし観察は8月下旬の1週間で、小規模な調査です。今の牧場すべてに当てはまる数字ではありません。それでも、牛は馬よりずっと少ない距離を、ゆっくり歩いていることが分かります。
では、その歩行は、体にどれくらいの追加の負担になっているのでしょうか。
放牧牛はどれくらい歩くのか。先行研究を引いた2025年の論文によれば、放牧牛は平均して1日およそ7km移動し、草を食べる時間が7〜9時間、休む時間が約11時間とされる[1]。ただしこれは総説での引用値で、牧地の広さや個体によって幅がある。
日本の実測としては、島根農科大学が1962年8月25〜31日に行った24時間観察がある。牧草地を歩いた距離は黒毛和種4.278km、ホルスタイン雑種の育成牛5.668kmで、同じ草地のアラブ雑種馬は13.091kmだった[2]。4.278÷13.091は約0.33で、牛は馬の3分の1〜半分弱である。調査は1週間・小規模なので、現在の牧場に一般化はできない。
数字だけを見ると、牛は馬よりずっと「歩かない」動物である。では、その距離は、エネルギーの面ではどれほどの負担なのか。ここから先が本題になる。
2. 1日 6キロ あるいても、どれだけ よけいに つかれるの?
2. 1日6km歩いても、消費エネルギーの上乗せは1割ほどにとどまる計算
2. 時速3kmで安静時の約1.46倍 ── 1日6kmの歩行は1.04〜1.11倍に収まる
研究者が、うしを 時速 3キロで あるかせて、息から 出る にさんかたんそ(ガスの 一つ)の 多さを はかりました。じっと して いる ときの 1.46倍の 速さで 出して いました[4]。
この 数字から、研究者は 「1日 6キロ あるくと、じっと している ときの 1.04〜1.11倍の エネルギーを 使う」と けいさん しました[4]。
2時間で 6キロ あるけば 1.04倍、6時間 かけて ゆっくり あるけば 1.11倍です。1日 24時間の うち、あるいて いる 時間は ほんの すこしだからです。
べつの 研究の 人も、あるく ことが 草を 食べる うしの ひつような エネルギーに あたえる えいきょうは「小さい」と まとめて います[3]。
ただ、あるく のが ずっと らくな わけでは ありません。ところが、のぼり坂に なると どうなるのでしょう。
研究者たちは、アンガス種の去勢牛(体重約285〜290kg)を平らな道で時速3kmで歩かせ、呼気中の二酸化炭素の量からエネルギーの使い方を調べました。歩いているとき、牛は安静時の約1.46倍の速さで二酸化炭素を出していました[4]。
この数字から、研究者は1日6km歩く場合を計算しています。2時間で歩けば安静時の消費エネルギーの1.04倍、6時間かけてゆっくり歩けば1.11倍です[4]。1日24時間のうち、歩いている時間はごく一部だからです。
別の研究でも、歩くコストは放牧牛の必要エネルギーに小さな影響しか与えない、と結論づけられています[3]。
ただしこの1.04〜1.11倍は、実測値そのものではなく、1.46倍がゆっくり歩いても変わらないという仮定を置いた計算です。そして、これは平らな道の話でした。坂ではどうでしょうか。
牛のエネルギー消費は、呼気中の二酸化炭素の量から見積もれる。アンガス種の去勢牛(約285〜290kg)が平地を時速3kmで歩くと、安静時の約1.46倍の速さで二酸化炭素を出した[4]。
この係数を使うと、1日6kmの歩行が安静時の消費エネルギーに与える上乗せは、2時間(時速3km)で歩く場合1.04倍、6時間(時速1km)の場合1.11倍となる[4]。検算すると、2時間が1.46倍・残り22時間が1倍なら、(22+2×1.46)÷24≒1.04、6時間なら(18+6×1.46)÷24≒1.11で、確かに合う。
注意すべき点が2つある。1つは、この値が「1.46倍が低速でも成り立つ」という仮定つきの計算であること。もう1つは、測定が平地・去勢牛という限られた条件であること。それでも、別の実験で平地の歩行コストが体重100kgあたり1kmで約9.0kcalと測られ、著者が「放牧牛の必要エネルギーへの影響は小さい」と結論している点[3]と矛盾しない。
では、条件を変えて斜面にしたら、この「小さな影響」はどう変わるのか。
3. 坂を のぼると、どれくらい たいへんに なるの?
3. 坂を登ると、平らな道の約1.8倍のエネルギーが必要になる
3. 傾斜6%では平地の約1.8倍 ── 「小さな影響」の限界を確かめる
アンガスという しゅるいの うし 7頭で、平らな 道と のぼり坂を くらべた じっけんが あります[3]。
体重 100キロ あたり、1キロ あるくのに 使う エネルギーは、平らな 道で だいたい 9.0キロカロリー、6%の のぼり坂では だいたい 16.4キロカロリーでした[3]。
16.4を 9.0で わると 1.8に なります。のぼり坂を 歩く ときの エネルギーは、平らな 道の およそ 1.8倍です。10倍では ありません。
自分で 坂を のぼった とき、いきが きれるのと にて いますね。うしも、坂では 平らな 道より エネルギーを 多く 使って います。
それでも 1日の 全部の 時間と くらべると、どう なのでしょう。
先ほどとは別のアンガス種の去勢牛7頭(体重約298kg)を使った実験では、体重100kgあたり1km歩くのに、平地で約9.0kcal、傾斜6%の登りで約16.4kcalが必要でした[3]。
16.4÷9.0は約1.8です。登りの歩行コストは平地の約1.8倍です。ただし10倍もかかるわけではありません(これはエネルギーの量の比で、つらさの倍率ではありません)。
体重約300kgなら、平地1kmで約27kcal(9.0×3の計算)、6%の登りなら約49kcalの目安です。1日7km歩いたとしても、すべて平地なら約190kcalという計算になります。
著者らは、この程度のコストは放牧牛の必要エネルギー全体に小さな影響しか与えない、と結論しました[3]。ただし、1日じゅう急な坂を歩く牧地では、この結論の見え方は変わるかもしれません。
そもそも、牛は1日のどんな時間を歩くことに使っているのでしょうか。
斜面ではどうなるのか。Di MarcoとAelloの実験では、アンガス種の去勢牛(約298kg)7頭の歩行コストが、平地で体重100kgあたり1kmで9.0±1.14kcal、傾斜6%の登りで16.4±2.18kcalと測られた[3]。16.4÷9.0≒1.82で、登りの歩行コストは平地の約1.8倍である(エネルギー量の比であり、疲労の倍率ではない)。
同じ体重約300kgで、1km平地を歩くと約27kcal、登りは約49kcal、1日7kmが平地なら約190kcalという計算になる(いずれも上の数値からの単純な掛け算)。著者は、歩くコストは放牧牛の必要エネルギーへの「小さな影響」にとどまると結論した[3]。
ただし、この結論は条件つきである。傾斜6%は緩やかな斜面で、さらに急な牧地や、起伏のある山の放牧では、同じ結論が当てはまるとは限らない。平地と登りの比は1.8倍だが、起伏のある道を長く歩けば、その差は積み上がっていく。
歩行そのもののコストは小さいとして、残る問いは、牛が1日の時間をどう配分しているかである。
4. うしの 1日は、じつは 歩くより 休む じかんが 長い?
4. 牛の1日は、歩くより食べて休む時間のほうが長い
4. 時間配分から見ると、歩行は1日の一部にすぎない
うしは 1日の うち、草を 食べて いる 時間が 7〜9時間、休んで いる 時間が およそ 11時間と いわれます[1]。のこりは 4〜6時間ほどなので、あるく 時間は 1日の 一部だと 考えられます。
ある 見つもりでは、からだが 1日に 使う エネルギーは、立って いるとき 11.7、あるいて いるとき 19.7、草を 食べて いるとき 22.4という 数字です[1]。
あるく ほうが 立つより 1.7倍ほど 多い ですが、草を 食べる ほうが、あるく ときより 多いのです。うしに とって あるく ことは、草を 食べる 場所を うつる ための ことでも あるのですね。
ほんとうに 「つかれない」のでしょうか。
1日の時間配分を見ると、草を食べる時間が7〜9時間、休む時間が約11時間といわれます[1]。24時間から引くと、残りは4〜6時間ほどです。歩く時間はその一部と考えられます。
行動別の1日あたりの維持エネルギーを見積もった値も引用されています。立つ行動で11.7、歩く行動で19.7、採食で22.4(代謝体重あたりのkcal)です[1]。歩くのは立つのの約1.7倍(19.7÷11.7)ですが、採食はさらに大きく、約1.9倍(22.4÷11.7)です。
歩く時間が短く、歩く速さもゆっくりで、しかも草を食べるほうがエネルギーを使う。これが、1日数km歩いても体にこたえにくいことの背景だと考えられます。
ただし、これは「疲れない」と言い切れる話でしょうか。
1日の時間配分は、先行研究の引用値で、採食7〜9時間・休息約11時間とされる[1]。24時間から引くと残りは4〜6時間ほどで、歩行はその一部と考えられる。
行動別のエネルギー見積もりとして、立つ11.7、歩く19.7、採食22.4(kcal/代謝体重0.75/日)がTedeschiとFoxの値として引かれている[1]。歩行は立位の約1.7倍だが、採食は約1.9倍で、歩行より大きい。
つまり牛のエネルギー収支は、歩行そのものより、採食に多くを使う構造をしている。歩行は、草を食べる場所を移る活動でもあり、ゆっくりとした速度と限られた時間が、上乗せを小さくしていると考えられる。
とはいえ、エネルギーが小さいことと「疲れない」ことは別の話である。
5. 牛は、ほんとうに つかれないの?
5. 「疲れない」と言い切れない理由と、分かっていること
5. エネルギーの上乗せが小さいことは、疲労の小ささを証明しない
うしが 「つかれるか どうか」を 直せつ はかった 研究は、今回 しらべた 中では 見つかりませんでした。分かって いるのは、あるく ことで 使う エネルギーの 上乗せが 小さい ことです。
だから 「つかれない」と 言い切る ことは できません。でも、ゆっくり あるき、食べて 休む じかんが 長い ことで、うしは あるく 毎日を すごして いると 考えられます。
牛が疲れるかどうかを直接測った研究は、今回の資料では見つかりませんでした。分かっているのは、歩行によるエネルギーの上乗せが小さいことと、1日の大半を食べて休む時間が占めていることです。
さらに、調査は島根の1週間の観察、アンガス種の去勢牛での実験、論文に引用された平均値と、条件がさまざまです。「牛は何km歩いても平気」とは言えませんが、「ゆっくり歩き、長く休む」暮らしが、毎日の歩行を支えていると考えるのは自然です。
牛の疲労を直接測定した研究は、今回確認した範囲では見つからなかった。したがって、答えは「疲れないわけではないが、ゆっくり歩くため、エネルギーの上乗せが小さい」の範囲にとどまる。
また、根拠の条件を振り返っておく。歩行距離は1962年夏の1週間の観察と、先行研究の平均値。歩行コストは去勢牛を使った実験とモデル計算。時間配分は総説での引用値である。年齢・性別・牧地・季節で結果が変わる余地は残る。
ただし、ばらばらの研究が、歩行そのものの負担は小さいという点でそろっていることは、読み取れる。疲れの正体を探る研究は、これからの課題だろう。
6. じぶんの 足で、くらべて みよう
6. 自分の歩き方で、牛の数字を確かめてみる
6. 身近な条件で、歩行コストの比を体感する
お家の 人と いっしょに、いつもの 道を ゆっくり あるく ときと、いそぎ足で あるく ときで、息の あがり方を くらべて みましょう。
のぼり坂が あれば、平らな 道と 息の きれ方を くらべて みても いいですね。うしの 1.8倍は うしの 数字なので、人で ぴったり 同じとは かぎりません。
走らない、車に 気を つける、人の 少ない 安全な 道を えらぶ、ことを わすれずに。
家から学校や公園までの道を、地図で測ってみてください。牛の1日7kmと比べると、どれくらいでしょうか。
また、同じ道をゆっくり歩くときと急いで歩くときで、息の上がり方や脈の速さを比べるのも面白いかもしれません。坂のある道と平らな道では息の上がり方がどう違うかも比べられます。ただし、牛の1.8倍という数字を人で確かめられるわけではありません。無理をせず、車や人に気をつけて、安全な道で試してください。
牛の歩行について詳しく知りたい人は、出典欄の論文(英文)や、各地の畜産試験場・大学の放牧に関する資料を探してみるとよいでしょう。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
論文の導入部の引用値と、一次研究(実験・観察)を並べて使った。数値は条件つきの目安で、牧地・品種・年齢で幅がある。
- Frontiers in Veterinary Science 2025 (先行研究の引用値) https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2025.1620584/full (歩行距離・時間配分・行動別エネルギーの引用)
- 島根農科大学研究報告12巻「放牧牛の生理・生態に関する研究(I-5)」(1964) https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/4007?locale=en (24時間観察の歩行距離)
- Di Marco & Aello 1998, Journal of Range Management 51(1):9-13 https://rangelandsgateway.org/node/20196 (平地と登りの歩行コスト)
- Méndez, di Marco & Corva 1996, Animal Science 63:39-44 https://www.cambridge.org/core/journals/animal-science/article/energy-expenditure-of-cattle-walking-on-a-flat-terrain/1B50B30F28CF1ECB57D90D873631728B (歩行時のエネルギー消費と1日6kmの計算)
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