1. どうして「イスカ」と いう なまえ なの?
1. 名前そのものが「食い違い」を表している
1. 和名「イスカ」は、くちばしの食い違いに由来するとされる
イスカは、まつぼっくりの たねを たべる とりです。いちばんの とくちょうは、うえの くちばしと したの くちばしの さきが、×の ように ずれて いる ことです。
「イスカ」と いう なまえは、この ずれから ついた、と じてんには かいて あります[1]。
いまは「うまく かみあわない こと」を「イスカの くちばしの くいちがい」と いいます[1]。なまえだけでなく、ことばの たとえにも なった とりなのです。
むかしの かんじでは、「まじわる」と「くちばし」を あわせた ことばで かきます。くちばしが まじわって いる、と いう そのままの なまえです。
鳥の名前は、色や鳴き声から付くことが多いものです。イスカの場合は、くちばしの形でした。上下のくちばしの先が交差して食い違っている様子が、名前の由来だと辞典には書かれています[1]。
この特徴は、日本語のことばにもなりました。ものごとがうまくかみ合わないことを「イスカの嘴の食い違い」というのです[1]。鳥の名前が、そのまま「かみ合わない」ことの見本になったわけです。
漢字では「交喙」と書き、読みは「こうかい」です。「交」は交わる、「喙」はくちばしを表すので、交差したくちばしという意味になります[1]。辞典の説明には、イスカはもともと「ねじれてかみ合わない」という意味の古い言葉だったとするものもあります。名前の由来には、くちばしの形に結びつける説明と、この古い言葉の説の2つがあるわけです。
では、こんな形で、鳥は困らないのでしょうか。
鳥の和名は、羽色や鳴き声から付くことが多い。イスカの場合は、上下のくちばしの先が交差して食い違っている形が名の由来だとされる[1]。この特徴は日本語の言い回しにも入り込み、物事がうまくかみ合わないさまを「イスカの嘴の食い違い」という[1]。鳥の名が、そのまま「かみ合わない」ことの見本になったわけである。
漢字表記は「交喙」(こうかい)で、「交」は交差、「喙」はくちばしを意味する。つまり漢字の名も、交差したくちばしという形そのものを指している[1]。辞典の中には、「いすか」はもともと「ねじれてかみ合わない」を意味する古語だったと説明するものもある。和名の語源は、嘴の形に結びつける説明と、この古語説とが併記される、という段階にある。
形の名が付いたのは分かった。では、この食い違いは、鳥にとって不便ではないのか。
2. ずれた くちばしで、どうやって たべるの?
2. 食い違いは、松かさをこじあける道具になる
2. 食い違った先端は、球果の鱗をこじあける形として働く
イスカが たべるのは、まつぼっくりの なかに ある たねです。まつぼっくりは、かたい うろこが かさなって できて います。
イスカは、くちばしを とじる ように して、この うろこを こじあけます[2]。くちばしの さきが ずれて いるので、うろこの すきまに ひっかかり、ひらきやすく なる のでしょう。
ずれる むきは、とりに よって ちがいます。みぎに まがる ことも、ひだりに まがる ことも あります[1]。
おなじ イスカでも、くちばしの むきは ひとりずつ ちがう のです。
イスカは、マツなどの針葉樹の球果(まつかさ)から種を食べます。球果は、かたいうろこ(鱗)が重なってできていて、種はその奥にあります。イスカは、食い違ったくちばしで鱗をこじあけ、種を取り出すと説明されています[2]。
一般に、先がそろったくちばしで、重なった鱗のすきまにある種を取るのは手間がかかりそうです。上下の先が交差していれば、くちばしを閉じながら鱗の間に先を差しこめるので、こじあけるのに向きます。
交差の向きは、右か左かが個体によってさまざまです[1]。同じイスカの仲間のなかに、右曲がりも左曲がりもいるということです。
日本で見られるイスカは、多くが冬鳥です[3]。冬の松林で、松かさをくわえたイスカを探す楽しみがありそうです。
では、生まれたときから、くちばしは食い違っているのでしょうか。
イスカは、マツなどの針葉樹の球果から種子を採食する。京都府のレッドデータブックは、食い違った嘴で球果をこじ開けて種子を食べる、と記している[2]。球果は鱗片が重なった構造で、種子はその鱗片の間に収まっている。ここで、上下の先が交差している形が生きる。くちばしを閉じる動きを使うと、交差した先端が鱗片の隙間に入り、片側の鱗を押し開く力として働くと考えられる。
交差の向きは個体ごとに異なり、右曲がりも左曲がりもいる[1]。どちらの向きが多いかは、種や群れによって違う可能性があるが、少なくとも、同じ種のなかに両方の向きが存在する。
日本のイスカは、多くが冬鳥であり[3]、本州中部以北の一部で少数が繁殖するとされる[2]。この形は生まれつきか、それとも成長で変わるのか。
3. うまれた ときから、ずれて いるの?
3. 生まれたてのくちばしは、ふつうの形をしている
3. ひなの嘴は交差しておらず、成長とともに食い違ってくる
たまごから かえった ばかりの ひなの くちばしは、ふつうの かたちです。ずれて いません[3]。
そだつに つれて、うえと したの さきが すこしずつ まじわって いきます。かかる じかんは、しりょうに よって「1〜2しゅうかん」と する ものや、「すうしゅうかん」と する ものが あり、すこし ちがいます[3][4]。
だから、イスカも はじめは ふつうの とりと おなじ くちばしだと いえます。
生まれたばかりのイスカのひなは、ふつうのくちばしをしています。日本語Wikipediaには、1〜2週間たつと先が交差してくると書かれています[3]。
ただし、英語圏の資料では、巣立ちのころにもまだ交差しておらず、数週間かけて形ができあがっていくとされています[4]。日数は資料によって差があるので、「成長するにつれて、やがて交差する」くらいの受け取り方が安全です。
つまり、イスカは「食い違ったくちばしで生まれてくる」のではなく、育ちながらその形になる鳥です。「食い違い」という名が付いていても、最初からそうだったわけではありません。
ところで、この特徴を名前にしたのは、日本だけなのでしょうか。
日本語Wikipediaによれば、孵化して間もないひなは普通の嘴をしており、1〜2週間たつと先が交差してくる[3]。一方、英語圏の資料は、巣立ちのころにはまだ交差しておらず、完成までには数週間かかるとする[4]。1〜2週間と数週間では、数字がずれている。そこで本稿は期間を断定せず、「成長とともに食い違ってくる」という、両者が共通して述べる点だけを採る。
この事実から言えるのは、食い違いが生まれつきの欠陥や変形ではなく、成長の過程で形づくられるということである。親のくちばしの形が食い違っていても、孵化したひなは普通の形をしている。名前にある「食い違い」は成鳥の姿を指しており、最初から備わっているわけではない。
では、この特徴に注目して名を付けたのは、日本語だけなのか。
4. ほかの くにの なまえも、おなじ ところを みて いる?
4. 学名も英語名も、同じ特徴を指している
4. 学名 Loxia curvirostra・英名 crossbill・漢字「交喙」は嘴の形を指す
イスカの がくめい(せかいじゅうで つかう なまえ)は「ロクシア・クルビロストラ」です。「ロクシア」は ギリシャごで「ななめの」、「クルビロストラ」は ラテンごで「まがった くちばし」の ことだと いわれます[4]。
この なまえを つけたのは、スウェーデンの リンネと いう ひとで、1758ねんの ことです[4]。いまから 270ねんほど まえに なります。
にほんごの「イスカ」も、じてんには くちばしの かたちから ついた、と かいて あります。
えいごでは「クロスビル」と よびます。クロスは まじわる、ビルは くちばしの ことです[5]。
かんじも、ラテンごも、えいごも、みんな くちばしの かたちに かんけいの ある なまえです。
イスカの学名は Loxia curvirostra です。属名の Loxia は古代ギリシャ語で「斜めの・交差した」、種小名の curvirostra はラテン語で「曲がったくちばし」を意味するとされます[4]。この名を付けたのは、スウェーデンの博物学者リンネで、1758年のことです。2026年から数えると約270年前になります。なお、学名の意味の説明は、英語版Wikipediaによるものです。
英語の名前は crossbill です。cross は交差、bill はくちばしなので、こちらも交差したくちばしの意味です[5]。
こうして並べると、漢字の「交喙」、学名、英語名は、どれも交差したり曲がったりしたくちばしを指しています。和名の「イスカ」も、辞典はくちばしの形に結びつけて説明しています。言語も時代もちがう人たちが、この鳥を見たとき、くちばしに目を留めたようです。
この食い違いは、暮らしのリズムにも関わっているようです。
学名 Loxia curvirostra のうち、属名 Loxia は古代ギリシャ語で「斜めの・交差した」、種小名 curvirostra はラテン語で「曲がった嘴」を意味するとされる。この学名は1758年にリンネが与えた[4]。2026年から数えると約270年前である(引き算による計算)。学名の語源の説明は、英語版 Wikipedia による。
英名の crossbill も、交差する嘴の特徴からの命名である[5]。ここまでをまとめると、漢字の「交喙」、学名の Loxia curvirostra、英名の crossbill の3つは、いずれも嘴の形、とくに交差や曲がりを指している。和名の「イスカ」も、辞典はくちばしの形に結びつけて説明している。日本語と欧州の言語で、命名の観点が重なっていることになる。
この一致は偶然ではないと考えられる。この鳥の見た目のなかで、最もはっきり目立つ特徴が嘴だったからだろう(これは本稿の推測であり、各命名者の意図を書いた資料があるわけではない)。ではこの特異な嘴は、暮らしの時期とどう関係するのか。
5. いつ こそだてを するの?
5. 子育ての時期は、松の実の出来で決まるらしい
5. 繁殖期は決まっておらず、針葉樹の実の栄養状態に左右される
たいていの とりは、はるに こそだてを します。でも、イスカは ちがいます。こそだての じきは きまって いません[3]。
まつなどの みを、たくさん たべて、からだの ちょうしが よく なると、こそだてを はじめます[3]。みが おおい ときに、こそだてを するのです。
にほんで みられる イスカは、おもに ふゆに くる とりです。ほんしゅうの まんなかより きたの いちぶで、すこしだけ こそだてを する ことも あります[2]。
6. まつぼっくりを さがして みよう
6. 松かさを手に取ると、イスカの仕事が想像できる
6. 球果を手に取り、辞典と学名で名前をたどり直す
きょう できる こと
こうえんや みちばたで、まつぼっくりを ひろって みましょう。うろこを ゆびで すこし おして、すきまの かたさを たしかめます。イスカが くちばしで こじあける ときの たいへんさを、そうぞうして みます。
しらべる とき
おうちの ひとと じてんで「いすか」を ひいて みましょう。「イスカの くちばしの くいちがい」の ことばも のって います[1]。
今日できること
公園や道ばたで松ぼっくりを拾い、鱗を指で軽く押してみます。かたさや、鱗どうしのすきまの狭さを手で確かめると、イスカが食い違ったくちばしでこじあけるときの手応えが、少し想像できます。
調べるなら
国語辞典や図鑑で「いすか」を引くと、「イスカの嘴の食い違い」という言い回しの載っている例があります。身近な辞書で、鳥の名前が言葉になった例をほかにも探してみると楽しいでしょう。
今日できること
公園などで松ぼっくりを拾い、鱗を指で押して、かたさとすきまの狭さを確かめるとよい。球果をこじあける作業の手応えを、イスカの嘴の形と結びつけて考えられる。
資料を読むなら
国語辞典に載る「いすか」の項目を引き比べると、語源の説明の違いが見える。今回は辞典と Wikipedia が中心だったので、日本鳥類目録や専門の図鑑で和名の由来を確かめれば、古語としての「いすか」の説明の裏づけが取れるかもしれない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- コトバンク「イスカ」. https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AB (名前の由来・言い回し・漢字・くちばしの向き)
- 京都府レッドデータブック2015 イスカ. https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/bio/db/bird0099.html (球果をこじあけて食べること・繁殖の範囲)
- Wikipedia「イスカ」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AB (ひなのくちばし・繁殖・冬鳥)
- Wikipedia, Red crossbill. https://en.wikipedia.org/wiki/Red_crossbill (学名の意味・命名年)
- munahaku「イスカ」. https://munahaku.jp/?p=18911 (英名 crossbill の由来)
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