1. おなじ 音なのに、なぜ かわって きこえる?
1. 同じサイレンなのに、通りすぎると低くなる
1. 救急車の音が変わる ── 近づく側と遠ざかる側
きゅうきゅうしゃが ちかづいて くると、サイレンは たかく きこえます。目の まえを とおりすぎると、とたんに ひくく なります。
この ふしぎな 音の かわり方は「ドップラーこうか」と よばれて います[1]。
かわるのは、音の 大きさや はやさでは ありません。外で きく 人の 耳に とどく 音の「たかさ」です。ただし、きゅうきゅうしゃの 中に のって いる 人には、サイレンは かわらずに きこえる と 考えられます。のって いる 人は、サイレンと いっしょに うごいて いるからです。
2. 音の なみが ぎゅっと ちぢむから
2. 前の波がつまり、後ろの波が広がる
2. 波長の圧縮 ── 音速は変わらず、波の間隔だけが変わる
音は、なみの かたちで つたわります。みずうみに いし を なげると、なみが ひろがりますね。あれと にて います。
いま、水の 上を すすみながら、1びょうに 1つずつ なみを つくる ふねを 思いうかべて ください。ふねが うごくと、ふねの まえでは、なみと なみの あいだが せまく なります。うしろでは、ひろく なります。
音も おなじです。前に すすむ サイレンの 音は、なみが つまって ぎゅっと ちぢみます。そこに いる 人の 耳には、1びょうの あいだに たくさんの なみが とどきます。この「1びょうに とどく なみの かず」が おおきい ほど、音は たかく きこえます[1]。
ただし、ふねの なみと ちがって、音の はやさ(1びょうに 340メートルくらい)は かわりません[1]。
波の間隔が、前と後ろでちがう
音源が動くと、進む向きの前では音の波長が短くなり、波がつまります。後ろでは波長が長くなり、波が広がります[1]。風がなければ音の速さは変わらず、約340m/sのままです[1]。
耳に入る音の高さは、1秒間に何回の波が届くかで決まります。音源の進む先にいる人には、波の間隔が短い音が届きます。そのため1秒間に届く波の数が増え、高く聞こえます。後ろでは波の数が減るので、低く聞こえます[1]。
水面の船でたとえると
1秒に1つずつ波をつくりながら水面を進む船を考えてみてください。船の前では波と波の間がせまくなり、後ろでは広がります。音もこれと同じ考え方ですが、船の波と違って、音の波が進む速さは音源が動いても変わりません。
3. 「ピー」は 何ヘルツ、どれだけ かわる?
3. 救急車の「ピー」は、実際にどれだけ変わるのか
3. 960Hzの試算 ── 時速60kmで半音弱の約1.7個ぶん
にほんの きゅうきゅうしゃの サイレンは、「ピー」が 960ヘルツ、「ポー」が 770ヘルツと きまって います[2]。ヘルツは、1びょうに なみが 何回 くるか という かずです。
いま、1じかんに 60キロメートルで はしる きゅうきゅうしゃを かんがえます。ちかづく とき、「ピー」は 1010ヘルツくらい。とおざかる ときは、915ヘルツくらい に なります。これは ピアノの はんおん 2こぶん ちかい ちがいです。
この けいさんは、まっすぐ むかって くる ときの 大きめの 数です。道が まがって いれば、ちがいは もっと ちいさく なります。
むかしの きゅうきゅうしゃは、しょうぼうしゃと おなじ「ウー」でした。1970ねん ごろから「ピーポー」が ひろまったのは、まちがえる 人が いたから だと いわれます[3]。
東京消防庁が示すサイレンの音
東京消防庁が示す救急車の電子サイレンは、「ピー」が960Hz、「ポー」が770Hzで、それぞれ0.65秒、1周期は1.3秒です。音量は90〜120dBと定められています[2]。
時速60kmで試算する
救急車が時速60km(秒速約16.7m)で、まっすぐ聞き手に近づくとします。音速を340m/sとして、960Hzの「ピー」を計算すると、近づくときは約1010Hz、遠ざかるときは約915Hzです[1]。この計算はこのサイトの試算で、実際の値は車の速さ・気温・向きで変わります。
この2つの音の比は約1.10です。ピアノの隣り合う音(半音)の比は約1.059なので、半音の約1.7個ぶん、ほぼ半音2つ分の差になります。ただし道が曲がっていれば差は小さく、この値は正面から近づく場合の上限に近いものです。
「ピーポー」はいつから?
昔の救急車は、消防車と同じ「ウー」というサイレンでした。救急車が出ると消防団員が混乱し、問い合わせが相次いだといわれ、1966年に考案された「ピーポー」が、1970年に全国へ広がりました。東京消防庁の導入は1970年4月26日です[3]。
東京消防庁によると、救急車の電子サイレンの規定値は、ピー音960Hz・ポー音770Hz(各0.65秒、1周期1.3秒)、音量90〜120dBだ[2]。ここに前章の式を当てはめる。時速60km(約16.7m/s)、音速340m/sなら、近づくとき960×340/(340−16.7)≒1009.5Hz、遠ざかるとき960×340/(340+16.7)≒915.0Hzになる。
両者の比は1009.5÷915.0≒1.103で、半音の比(約1.059)の約1.7個ぶんにあたる。これは音源が観測者へまっすぐ進む場合の上限値の試算で、道が曲がっていれば、観測者に近づく速さの成分が減るため差は小さくなる。気温でも音速が変わるので、数字は目安だ。
なお、この「ピーポー」は、もともと消防車と同じ「ウー」だった救急車のサイレンが、消防団員の混乱を招いたことを背景に、1966年に大阪サイレン製作所が考案し、神戸市での試験を経て1970年に全国へ広がったとされる(東京消防庁の導入は1970年4月26日)[3]。報道記事にもとづく記述で、細部は一次資料で確かめる価値がある。
4. 汽車に らっぱを ふく 人を のせた
4. 疑いは、走る汽車の上で確かめられた
4. ビュイス・バロは汽車で音の変化を調べた
この ふしぎを さいしょに 考えた のは、オーストリアの ドップラーと いう 人でした。1842ねんの ことです[5]。ただし、はじめは 音の 話では ありません。星の 光の 色の 話でした[5]。
それを 音で たしかめた のが、オランダの ビュイス・バロです。1845ねん 6がつ 3か、ユトレヒトと マールセンと いう 町の あいだを はしる 汽車に、らっぱの なかまの がっきを ふく ひとを のせ、ようすを きく 人が 線路の そばで 音を きき くらべました[4]。
くわしい ようすは、いくつかの しりょうで ちがう ところも あります。
もとは星の光の話だった
ドップラー効果は、1842年、オーストリア出身のクリスチャン・ドップラー(1803〜1853)が、プラハの王立ボヘミア科学協会で発表した論文で提案されました。題名は「二重星の色つきの光について」で、もとは星の光の色の話で、音の話ではありませんでした[5]。ドップラー自身の数学的な例には誤りもあり、同時代から批判がありました[5]。
汽車に楽器の奏者を乗せる
では、それは本当に音でも起こるのか。1845年6月3日、オランダのユトレヒトとマールセンの間で、のちのKNMI(オランダ王立気象研究所)の創設者ビュイス・バロが、蒸気機関車を使った実験を行いました。金管楽器の奏者を乗せ、よい耳をもつ聞き手が音の高さの変化を調べたと伝えられています[4]。
楽器の種類や人数は、資料により食いちがいます。
ドップラー効果の提案は、1842年にクリスチャン・ドップラー(1803〜1853)がプラハの王立ボヘミア科学協会で発表した論文「二重星の色つきの光について」に始まる。もともとの対象は、星の光の色であって、音ではなかった[5]。ただしドップラー自身の数学的な例には誤りもあり、同時代の批判を受けた[5]。
そこで、星ではなく地上で確かめる試みが必要になった。1845年6月3日、オランダのユトレヒトとマールセンの間で、後にKNMIを創設するビュイス・バロが蒸気機関車を使い、金管楽器の奏者と、よい耳をもつ聞き手による実験を行った[4]。KNMIの記事は楽器をホルンとし、他の資料はトランペットとするなど、資料間で細部が食いちがうため、ここでは「金管楽器」とする。
実験が汽車で行われたのは、当時、音源を一定の速さで動かせる身近な手段が、機関車だったからと考えられる。
5. おなじ しくみは、雨ぐもや 血や 星にも
5. 同じ仕組みが、雨雲・血流・星を測る
5. ドップラー法の応用 ── 気象レーダー・血流・赤方偏移・系外惑星
この しくみで、とおい 星の まわりの わく星も 見つけられました。ほかにも つかわれて います。
てんきよほうでは、電波を 雨ぐもに あてて、はねかえって きた 電波の かわり方から、雨つぶや ゆきの うごきを しらべます。気象庁の 20か所の レーダーは、2013ねん3がつに、ぜんぶ この しくみを つかうように なりました[6]。
びょういんでは、からだの 中の 血の ながれを しらべる のに つかいます。星の 光でも おなじです。じっさいに とおざかって いる 星の 光は、すこし 赤い ほうに ずれて 見えます[8]。
雨雲と血流
気象庁は2013年3月14日、名瀬のレーダーの運用開始で、全国20か所の気象レーダーがすべてドップラーレーダーになったと発表しました。電波のドップラー効果で、風に流される雨粒や雪の動きを観測します[6]。
医療では、血管の中を流れる赤血球に超音波を当て、はね返ってきた超音波の周波数のずれから、血液の流れる速さを計算する方法があります[7]。流れの情報を色で画像に重ねて表示する方式は、カラードプラ法と呼ばれます。
光と、遠くの星
光でも同じことが起こります。視線方向に遠ざかる天体の光は、スペクトル線が波長の長い赤いほうへずれて見えます(赤方偏移)。近づけば波長が短くなる青方偏移です。ずれの大きさから、天体の動く速さを求められます[8]。
1995年にミシェル・マイヨールらが、星の光の波長のずれから、ペガスス座51番星のまわりの惑星を見つけたと発表しました。惑星の公転で星がわずかにふらつくのを、光のずれでとらえたのです[9]。星の光の話から始まった考えが、救急車の音をへて、また星に戻ってきたことになります。
音以外への応用で最も身近なのが気象レーダーだ。気象庁は2013年3月14日、名瀬のレーダーが運用を始めたことで、全国20か所の気象レーダーがすべてドップラーレーダーになったと発表した。電波のドップラー効果を使い、風に流される雨粒や雪の動きを観測する[6]。
医療でも、超音波ドップラー法は、赤血球で反射した超音波の周波数のずれから血流の速さを計算する。日本超音波医学会の用語では、カラードプラ法は流れの情報をBモード像の上に色で重ねる方式だ[7]。この記述は雑誌の要旨にもとづく。
光では、視線方向に遠ざかる天体のスペクトル線は波長の長い赤いほうへずれる(赤方偏移)。近づけば短くなり(青方偏移)、ずれの大きさから天体の視線方向の速さが分かる[8]。この視線速度法で1995年、ミシェル・マイヨールらがペガスス座51番星のまわりの惑星を発見したと発表した[9]。惑星の公転で星が周期的にふらつくのを、波長のずれでとらえる方法で、星の光の話から始まった考えが、数式を介して再び星へ戻った形になる。
6. 道ばたで、音の かわる しゅんかんを さがそう
6. 通りすぎる音の「変わる瞬間」を聞きにいく
6. 出口 ── 身近な音で試す聞き方と、資料の読みどころ
きゅうきゅうしゃの 音で なくても だいじょうぶです。しずかな 道ばたで、車や バイクが 通りすぎる 音を きいて みましょう。
ちかづく ときの 音と、とおざかる ときの 音を くらべます。どこで 音が ひくく なったか、耳で さがして ください。
あんぜんの ために、かならず ほどうの おくや、おうちの 人と いっしょに いる ばしょで やって ください。道に 出たり、車に ちかづいたり しては いけません。
歩道の内側など、安全な場所で、通りすぎる車やバイクの音を聞いてみましょう。近づくときの音と、通りすぎた後の音を聞き比べ、いつ音が低くなったかを探します。サイレンでなくても、エンジンの音や走行音で同じ変化が聞こえるはずです。
道路に出ないこと、車に近づかないことは、必ず守ってください。おうちの人と一緒に行くと安心です。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:大学・高専の授業資料、東京消防庁、気象庁、KNMI、事典、報道・解説記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 沼津工業高等専門学校 物理II 第13回「音のドップラー効果」。https://physics.numazu-ct.ac.jp/lecture2023/phys2/phys2-yamazaki/no13/FY2022-physics2-no13.pdf (ドップラー効果の仕組みと式について。試算はこの式を当てはめた当サイトの計算)
- 東京消防庁「救急車電子サイレン音の分析結果について」。https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/content/safetyreport/000007279.pdf (救急車のサイレンの周波数・音量の規定値について)
- 乗りものニュース「救急車の『ピーポー』はいつから?」。https://trafficnews.jp/post/129529 (ピーポーサイレンの由来について。報道)
- KNMI「Doppler-experiment Buys Ballot 160 jaar geleden」。https://www.knmi.nl/over-het-knmi/nieuws/doppler-experiment-buys-ballot-160-jaar-geleden (1845年の汽車の実験について。オランダ語)
- EBSCO Research Starters「Christian Doppler」。https://ebsco.com/research-starters/history/christian-doppler (ドップラーと1842年の論文について。英語、二次資料)
- 気象庁 報道発表 平成25年3月14日。https://www.jma.go.jp/jma/press/1303/14a/doppler130314.html (全国のドップラーレーダー化について)
- 医学書院「エコー法の臨床」ほか。https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402901119 (超音波ドップラー法による血流測定の要旨について)
- コトバンク「赤方偏移」(日本大百科全書ほか)。https://kotobank.jp/word/赤方偏移 (赤方偏移・青方偏移について)
- 日本天文学会 天文月報。https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2015_108_11/108_734.pdf (視線速度法による系外惑星の発見について)
なおした ところ
更新履歴
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