1. おんせんたまごは、ふつうの ゆでたまごと なにが ちがうの?
1. 温泉卵は、ふつうのゆで卵と何がちがうのか
1. 温泉卵では、固まる順番が逆に見える
おんせんたまごは、65〜68℃ほどの おゆに 30ぷんくらい つけて つくると いわれます。おふろより ずっと あついですが、ふっとうした おゆ(100℃)よりは ひくい 温度です[1]。
できあがりは、きみが ほとんど かたまり、しろみは はんじゅくの ように やわらかい 卵です。
ふつうの 卵は、しろみが 先に かたまります。しろみは 58℃ぐらいから かたまり はじめ、きみは 65〜70℃で かなり かたく なると いわれます[1]。それなのに、おんせんたまごでは、しろみが やわらかく のこります。
この ふしぎの ヒントは、しろみの 中に ありました。
日本大百科全書によると、温泉卵は65〜68℃の湯に約30分つけた卵で、卵黄はほぼ固まり、卵白は半熟状になります。半熟卵は理想的には70〜75℃の湯で15分ほど、完熟卵は水から入れて沸騰後8〜10分ゆでたものです[1]。
同じ辞典には、卵白は58℃で固まり始め、62〜65℃で流れなくなり、70℃でほぼ固まり、80℃以上で完全に固くなるという目安もあります。卵黄は65〜70℃でかなり固くなります[1]。
温泉卵の湯は65〜68℃です。この温度は、卵黄がかなり固くなる65〜70℃の入り口にあたります。それなのに、卵白がとろりと残るのは、どうしてでしょうか。ヒントは、白身が一つの材料ではないことにあります。
日本大百科全書は、温泉卵を65〜68℃の湯に約30分つけたもので、卵黄はほぼ凝固し卵白は半熟状とする。半熟卵は理想的には70〜75℃の湯で15分ほど、完熟卵は水から入れて沸騰後8〜10分である[1]。
同じ項目には、卵白は58℃で固まり始め、62〜65℃で流動性を失い、70℃でほぼ固まり、80℃以上で完全に固くなるとある。卵黄は65〜70℃でかなり固くなる[1]。ただし、固まり始める温度や完全に固まる温度は出典によって数℃の幅があるので、単一の値としては読まないほうがよい。
数字だけを見れば、65〜68℃は、卵黄が固くなり始める温度域と重なる。一方、卵白は58℃から変化が始まる以上、少なくとも一部は固まっているはずである。それでも流動性が残るのは、卵白が単一の物質ではないからだと考えられる。次章で、その中身を見る。
2. しろみの 中には、かたまる 温度が ちがう ざいりょうが まざって いるの?
2. 白身の中には、固まる温度がちがう材料が混ざっている
2. 卵白は混合物:60℃台で変性する成分と、80℃台で変性する成分
しろみは、ほとんどが 水ですが、その 中に タンパクしつと いう ざいりょうが 入って います。タンパクしつは、あつさで かたちが かわって、かたまります。
しろみの 中の タンパクしつは、一しゅるいでは ありません。ある ろんぶんでは、おもな ものとして オボアルブミンと オボトランスフェリンが あげられて います。オボトランスフェリンは あつさに よわく、60℃ぐらいで かたちが かわります。オボアルブミンは あつさに つよく、84℃ぐらいまで もちこたえると いわれます[2]。
だから、65℃くらいの おゆでは、あつさに よわい ほうが 先に かたまり、つよい ほうは まだ かたまって いない、と 考えられます。そのため、しろみは とろとろの まま、のこるのでしょう。
ただし、数字は 本や じっけんの じょうけんで、数℃ずつ ずれます。
卵白は、ほとんどが水ですが、その中に何種類ものタンパク質が溶けています。ある論文は、オボトランスフェリンは卵白のタンパク質の12〜13%を占め、熱に弱くて変性温度は60℃、いちばん多いオボアルブミンは84℃と書いています[2]。変性とは、タンパク質が熱でほどけて、もとの形から変わることです。
別の学会要旨も、ニワトリのオボトランスフェリンは卵白の主要成分のなかで最も熱に弱いとしています。鉄イオンが結びつくと、加熱しても固まりにくくなるという実験結果もあります[3](試験管の中での実験で、卵の中とまったく同じとはかぎりません)。
つまり、卵白は温度の低いほうから順に変わっていく、いくつかの材料の集まりです。65℃前後の湯では、熱に弱い成分は変わり始めていても、84℃で変わるオボアルブミンは、まだ大きくは変わっていないと考えられます。これが、白身がとろりと残る理由の有力な説明です。
ここまでを数字にすると、変性温度の差は、60℃と84℃で約24℃あります。同じ卵白の中で、これだけ離れた温度でそれぞれ固まる成分が混じっているのです。ただし、値は文献や条件(pH、金属の有無)で数℃ずれます。同じ論文の中にも、別の値(約63℃と約72℃)が出てきます[2]。
卵白は、水のほかに複数のタンパク質を含む混合物である。PMC11898708の論文は、オボトランスフェリン(ovotransferrin)が卵白タンパク質の12〜13%を占め、変性温度が60℃と耐熱性が低いのに対し、オボアルブミン(ovalbumin)は84℃と耐熱性が高いと述べる[2]。
ただし同じ論文には、別の測定値(オボアルブミン約72℃・オボトランスフェリン約63℃)も載っており、変性温度は文献やpH、金属の有無といった条件で数℃動く。したがって「約60〜63℃の成分と、約72〜84℃の成分がある」程度の幅で読むのが妥当である。
鈴木らの学会要旨(2024)は、ニワトリのオボトランスフェリンが卵白の主要成分で最も熱に弱く、鉄イオン(Fe3+)が共存すると加熱後の凝集と不溶化が抑えられたと報告している[3]。これは試験管内の実験であり、卵の中での挙動とまったく同じとは言えない。
以上を温泉卵に当てはめると、65〜68℃の湯では、熱に弱い成分は変性が進むが、耐熱性の高いオボアルブミンの多くは大きく変わらず、全体としては流動性が残る、という説明になる。ただし、これは複数の資料から導いた解釈であり、温泉卵の白身の状態を成分ごとに直接測った結果ではない。では、この「温度」だけで仕上がりは決まるのか。実は、もう一つの変数がある。
3. おゆの 温度が おなじでも、つける 時間で かわるの?
3. 同じ温度でも、つける時間で白身の固まり方は変わるのか
3. 温度×時間:保持時間で変わる卵白の流動性
日本調理科学会の ろんぶんに、おんせんたまごを しらべた じっけんが あります。おゆを 65℃、68℃、70℃に して、たまごを つけたのです。
まず、たまごの 中心まで おゆの 温度に ちかづくのに、65℃で やく30ぷん、68℃で やく28ぷん、70℃で やく27ぷん かかりました[4]。
つぎに、しろみの ようすです。70℃では 30ぷんで、しろみが ながれなく なりました。ところが 65℃では、210ぷん つけても、しろみには ながれる ようすが のこりました[4]。
おなじ たまごでも、温度が すこし ちがうと、時間が たっても できあがりが かわります。「温度」と「時間」の くみあわせで きまる、ということです。
日本調理科学会誌に載った辰口・大の実験(2019)は、温泉卵の固まり方を、水温65・68・70℃で調べました。
卵の中心が湯の温度に近づくまでにかかった時間は、65℃で約30分、68℃で約28分、70℃で約27分でした。湯につけてからしばらくは、中心はまだ湯より冷たい、ということです[4]。
白身の流動性は、温度で大きく分かれました。70℃では30分で流動性がなくなり、65℃では210分たっても流動性が認められました[4]。210分は3時間半です。それだけ置いても、65℃の白身には流動性が残っていました。ただし、流動性が残るというのは、液体のままという意味ではありません。
湯の温度が5℃ちがうだけで、30分後の白身がこれだけちがう。温泉卵の「ちょうどいい」は、温度と時間の組み合わせで決まるのです。
では、湯につけすぎたら、どうなるのでしょう。
辰口・大(2019)の実験は、温泉卵の凝固状態への加熱温度と保持時間の影響を、水温65・68・70℃で調べたものである[4]。卵の中心が湯の温度に近づくまでの時間は、65℃で約30分、68℃で約28分、70℃で約27分だった。この数分の差は小さく見えるが、中心が湯温に近づく時間の目安になり、「30分つけた」といっても中心がずっと湯と同じ温度だったわけではないことが分かる。
白身の状態は、温度で大きく分かれた。70℃では30分で流動性がなくなり、65℃では210分たっても流動性が認められた[4]。210分は3時間半であり、65℃では、長く置いても卵白が簡単には固まらない。ただし、「流動性が残る」ことは液体のままであるという意味ではなく、「65℃で何分でも固まらない」という主張でもない。
この結果は、前章の成分ごとの変性温度の説明と整合する。70℃は、熱に強いオボアルブミンの変性温度(約84℃)より低いが、卵白全体を流動性のないゲルにするには足りる。一方65℃では、熱に弱い成分が変わっても、全体を固めるには足りない。仕上がりは温度だけでなく、その温度にどれだけ置いたかで決まる。
この「温度×時間」の考え方は、湯につけすぎた場合の失敗にも当てはまる。次章でその例を見る。
4. ゆですぎると、きみの まわりが みどりに なるのは どうして?
4. ゆですぎると黄身のまわりが緑がかるのはなぜか
4. 加熱しすぎの限界:黄身の暗緑色の輪の化学
ゆでたまごを たくさん ゆでると、きみの まわりが くらい みどり色に なることが あります。これは、ゆですぎの しるしです。
広島県の せつめいでは、しろみの アミノさんが あつさで こわれて 硫化水素が でき、きみの 中の 鉄と くっついて、くろい りゅうかてつに なるから、とあります。からだに がいは ないそうです[5]。
ゆでた あとに すぐ 水で ひやすと、おこりにくく なります[5]。
ゆで卵を長くゆでると、黄身のまわりが暗い緑色になることがあります。これは、加熱のしすぎのしるしです。
広島県の食の安全FAQは、卵白のアミノ酸が熱で分解して硫化水素ができ、それが卵黄の鉄と結びついて、黒色の硫化鉄になるためと説明しています。体に害はなく、ゆでたあとすぐに水で冷やすと防ぎやすいそうです[5]。日本大百科全書にも、同じ説明があります[1]。
つまり、温泉卵のようにゆっくり低めの温度で火を通す方法には、この緑の輪が出にくい、とも言えそうです(資料がそう書いているわけではなく、緑の輪が加熱しすぎで起こるという説明からの見通しです)。では、低い温度だけでなく、もっと別のやり方で、黄身も白身もちょうどよく仕上げることはできないのでしょうか。
加熱しすぎると、卵黄のまわりが暗緑色になることがある。広島県の食の安全FAQは、卵白のアミノ酸が熱で分解して硫化水素が生じ、卵黄中の鉄分と化合して硫化鉄(黒色)になるためと説明する。体に害はなく、加熱後に水で冷やすと防ぎやすい[5]。日本大百科全書も、硫化水素と卵黄の鉄から硫化鉄ができ有害ではないと述べており、独立した2つの出典で一致する[1]。
この現象は、白身のタンパク質(アミノ酸)の分解が、黄身の鉄と出会うことで起きる。逆に言えば、白身をそこまで加熱しない低い温度では、この反応は起こりにくいと考えられる(出典はこの見通しを直接述べてはいない)。
ここで問題が見えてくる。低温でじっくり加熱すれば黄身は好みの固さにできるが、白身は固まり切らない。逆に高温では白身は固まるが、黄身が固まりすぎる。同じ卵の黄身と白身は、固まる温度が異なる。この課題に、2025年に新しい答えが出された。
5. おゆと 水を、2ふんごとに いれかえたら どうなるの?
5. 湯と水を2分ごとに入れ替える調理法は、何を目指しているのか
5. 周期的調理:湯と水の入れ替えで、黄身と白身の温度を別々に制御する
2025年に、イタリアの ナポリ大学の 研究者たちが、おもしろい 方ほうを はっぴょうしました。100℃の おゆと 30℃の 水に、卵を 2ふんずつ、こうごに 入れる のです。ぜんぶで 32ぷん つづけます[6]。
けいさんでは、きみは やく67℃で ほとんど かわらず、しろみの 温度は 35℃から 100℃の あいだを のぼったり さがったり しました[6]。ふつうの おんせんたまごの おゆと おなじ くらいの 温度に、きみが たもたれた ことに なります。
できあがった 卵は、しろみが はんじゅくに ちかく、きみは、ひくい 温度で じっくり 火を とおした 卵の きみに いちばん ちかかった、と つたえられて います[7]。
ただし、67℃は コンピューターの けいさんで もとめた 数字で、はかった 数字とは かぎりません。
2025年2月、ナポリ大学のDi Lorenzoらは「周期的調理」を発表しました。100℃の湯と30℃の水に、卵を2分ずつ交互に入れ、合計32分続けるという方法です[6]。
数値シミュレーションでは、卵黄は約67℃でほぼ一定に保たれ、卵白は35〜100℃の間を上下しました[6]。黄身のまわりの白身は、熱い湯と冷たい水に交互にふれて温度が大きく動きますが、黄身は中心にあって熱が伝わるのが遅いので、その温度変化がならされて、温泉卵と同じくらいの温度に近づく、というしくみです(67℃は計算で求めた値です)。
Science Newsは、この卵の白身は半熟卵に近く、黄身は真空低温調理で作った黄身に最も近いと伝えています。黄身のタンパク質は約65℃、白身のタンパク質は約85℃で変性するという説明が付いています[7]。
32分という時間は、温泉卵の約30分とほぼ同じです。違うのは、白身の温度が一定でなく、湯と水を行き来することです。第2章の考え方で言えば、白身の熱に強い成分には高い温度を、黄身には低めの温度を届けようとする工夫、と読めます。
2025年2月6日、ナポリ大学のDi Lorenzo(ディ・ロレンツォ)らは、Communications Engineering 4, 5で「周期的調理」を発表した。100℃の湯と30℃の水に、卵を2分ごとに交互に入れ、計32分続ける。数値シミュレーションでは、卵黄は約67℃でほぼ一定に保たれ、卵白は35〜100℃の範囲で上下した[6]。67℃は、シミュレーションに基づく値であり、実測値と断定してはならない。
この方法のねらいは、前章までの考え方から説明できる。卵黄は65〜70℃でかなり固まるが、卵白の耐熱性の高い成分(ある論文では約84℃)まで固めるには、もっと高い温度が要る。周期的調理では、卵白は35〜100℃の間を推移する。単一の湯の温度では、両方を同時に満たすことはむずかしい。そこで、外側の卵白には熱い湯の高温を何度も届け、内側の卵黄には、熱が伝わるのが遅いことを利用して、平均した低めの温度を保つ、という考え方になる。ただし、この説明は資料から導いた解釈である。
Science Newsは、できた卵の白身が半熟卵に近く、黄身は低温でじっくり加熱した卵(sous vide)の黄身に最も近いと報じた。黄身のタンパク質は約65℃、白身は約85℃で変性するという説明が付く[7]。
調理時間は32分で、温泉卵の約30分と大きくは変わらない。差は、温度の「通り道」にある。温度と時間の組み合わせで決まるという点では、第3章の実験とも同じ原理の延長にある。
6. たまごの ふしぎを、じぶんで たしかめて みよう
6. 卵の断面を見比べて、確かめてみる
6. 断面と原典で、温度×時間を確かめる
きょう できる こと
おとなの ひとと いっしょに、ゆでたまごを 2こ つくって みましょう。(ふっとうした おゆは あぶないので、かならず おとなが やります。)1こは 6ぷん、もう 1こは 12ぷん ゆでて、すぐ 水で ひやします。
わって 見くらべます。しろみと きみの かたさ、きみの まわりの 色が、どう ちがうでしょうか。ノートに 書いて おくと、あとで 見くらべられます。
しらべる とき
おとなに 手つだって もらって、ほかの 時間でも ためして みましょう。時間が ながく なると、どう かわるでしょうか。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 日本大百科全書「ゆで卵」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E3%82%86%E3%81%A7%E5%8D%B5-1431685 (温泉卵・半熟卵・固まる温度の目安)
- Studies on the Efficient Extraction of Ovotransferrin ... (PMC11898708). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11898708/ (卵白のタンパク質の変性温度)
- 鈴木ほか. 日本食品科学工学会第71回大会要旨 (2024). https://www.jstage.jst.go.jp/article/aamjsfst/71/0/71_345/_article/-char/ja (オボトランスフェリンの熱への弱さ)
- 辰口・大「温泉卵の凝固状態への加熱温度と保持時間の影響」日本調理科学会誌 52(5) (2019). https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/52/5/52_345/_article/-char/ja/ (温度と保持時間の実験)
- 広島県 食の安全FAQ. https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/26/foodfaq3-4.html (黄身が緑がかる理由)
- Nature Asia ハイライト「Periodic cooking of eggs」(Communications Engineering 4, 5, 2025). https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/15159 (周期的調理の方法と計算結果)
- Science News「The best way to cook an egg — in 32 minutes」. https://sciencenews.org/?p=3149971 (周期的調理の卵の仕上がり)
なおした ところ
更新履歴
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