1. ツバメの しっぽを いじると どうなる?
1. ツバメの尾羽を切ったり足したりすると
1. 一夫一妻のツバメで、尾羽の長さを操作した実験
ツバメの しっぽの 外がわの はねは、オスの ほうが メスより 長く、一羽ずつの ちがいも 大きい そうです[2]。
1988ねんの 実験では、オスの はねを 切って 短く したり、足して 長く したり しました。長く した オスは、短く した オスより 早く 子そだてを はじめ、せいこうの 数に 2ばいを こえる ちがいが 出た と しょうかいされて います[1]。
ふしぎな ことが あります。ツバメは 一ぴきの オスと 一ぴきの メスが つがいに なる 鳥です。あいてが 見つからなくて こまる わけでは ないのに、どうして 長い はねが ひつようなのでしょうか。
ツバメの外側の尾羽は、オスのほうがメスより長く、個体ごとのばらつきも大きいことが知られています[2]。
Møller の1988年の実験では、オスの外側尾羽を切って短くしたり、足して長くしたりしました。長くしたオスは短くしたオスより早く繁殖を始め、繁殖の成功には2倍を超える差が出た、と紹介されています[1]。
ここで考えたくなるのが、「ツバメは一夫一妻なのに、なぜ飾りが必要なのか」という点です。相手が必ず見つかる種でも、メスの好みが飾りの進化に関わりうることを示す実験として知られています[2]。
では、この「メスの好み」という考え方は、もとは誰が言い出したのでしょうか。
ツバメの外側尾羽は、オスのほうがメスより明らかに長く、変異も大きい形質である[2]。Møller(1988, Nature 332:640-642)は、この尾羽を切り足しで長短に操作した。長くしたオスは短くしたオスより早く繁殖を始め、その結果、繁殖成功に2倍を超える差が出たという。原論文は有料で、ここでの数字は後年の解説にある著者談話に頼っている[1]。
この実験が注目されたのは、ツバメが一夫一妻だからである。つがいの相手がどのオスにも見つかる種でも、メスの好みが飾りの進化に関わりうることを示す実験として知られる[2]。
では、「メスが選ぶ」という発想は、いつ、誰が言い出し、なぜすぐには受け入れられなかったのか。
2. 「メスが 選ぶ」と いう 考えは、むかし 受け入れられた?
2. 「メスが選ぶ」はダーウィンの考えだが、ウォレスは認めなかった
2. ダーウィンの「メスの選り好み」と、ウォレスの反対
「メスが あいてを 選ぶ」と 考えた 人の 一人が、ダーウィンです。1871ねんの 本、『人間の 由来』で、メスが きまった オスを 選ぶ ことや、「美しい ものを すく 心」に ついて 書きました[3]。
でも、同じころの けんきゅうしゃ、ウォレスは、この 考えを みとめませんでした。「メスが 選ぶ」は 人間に 近づけすぎた 考えで、そもそも いらない、と 思ったと しょうかいされて います[4]。
ウォレスも、オス どうしの あらそいは みとめて いました。意見は ぜんぶ ちがった わけでは ありません。
では、メスが 選ぶ ところを、どう やって 目で 見て たしかめるのでしょう。
ダーウィンは1871年の『人間の由来』で、メスが特定のオスを選ぶ「選り好み」を論じました。メスの選択を扱った章の見出しには、「美を好む心」という言葉も含まれています[3]。
同じ時代のウォレスは、この考えを受け入れませんでした。「メスの選択」は不要で、人間らしさを動物に持ちこんだ考えだと退け、ダーウィンと論争した、と紹介されています。ただしオス同士の争いは認めていました[4]。
つまり、ツバメの実験のような「見て確かめる」方法がなかった時代には、メスの選択は想像に近い考えとして受け止められやすかったのかもしれません。実際にどう確かめるのかが、次の問いになります。
ダーウィンは1871年の『人間の由来』で、メスが特定のオスに対して示す選り好みを論じた。メスの選択を扱う章の見出しには、「美を好む心(taste for the beautiful)」の語がある[3]。ただし、これは章の見出しの確認にとどまる。本文の細かい議論は、原文で読む必要がある。
同時代のウォレスは、メスの選択の存在そのものを、不要で擬人的な考えだとして退けた。オス同士の争いは認めており、反対の範囲はメスの選択にかぎられる[4]。
論争が長引いた背景には、メスが選ぶ場面を観察や実験で示す手立てが、当時は乏しかったことがありそうだが、この点は資料で支えられていないため、推測にとどめる。現在の研究では、メスのどの段階の選択を見るのかが焦点になる。
3. ニワシドリの メスは、どこで 見きわめる?
3. ニワシドリのメスは、見に来る段階と選ぶ段階で見るところがちがう
3. サテンニワシドリの「見に来る」と「交尾する」は別の段階
オーストラリアに すむ サテンニワシドリは、オスが あずまやを つくって、メスを むかえる 鳥です。メスは その あずまやを 見に きます。
21わの オスの あずまやを、3年に わたって しらべた 研究が あります。メスが 見に くる かずは、オスの 大きさと、一人で おどる 回数と 関係が ありました。かざりは、しゅるいに よって ちがい、青や白の かざりが 多い あずまやには、メスが よく 見に きました[5]。
ところが、じっさいに つがいに なれるかは、オスの 大きさと、あずまやに つばと かんだ 草を ぬる 回数に 関係して いました[5]。
見に くる ときと、えらぶ ときで、見る ところが ちがう のです。しかも、わかい メスと 年上の メスでも ちがう と ほうこくされて います。わかい メスは 青い かざりを、年上の メスは オスの おどりの はげしさを 大事に した そうです[6]。
サテンニワシドリのオスは、あずまやを作ってメスを迎えます。21羽のあずまやを3回の繁殖期にわたって観察した研究では、メスが見に来る頻度は、オスの大きさと単独のディスプレーの回数に関係し、飾りは種類によって関係がちがい、青や白の飾りは訪問の多さと関係していました[5]。
ところが、実際に交尾できるかどうかは、オスの大きさと、あずまやに唾液と噛んだ植物を塗る頻度に関係しました[5]。見に来る段階と、選ぶ段階で、手がかりが入れかわっていたことになります。ただし、これは21羽という1つの集団の結果で、この鳥全体に当てはまる法則とは書けません。
さらに、別の研究グループは、メスの年齢でも見るところがちがうと報告しています。若いメスは青い飾りを重視し、年上のメスはオスの求愛ディスプレーの激しさを重視したそうです。オスが青い飾りを足せる群と足せない群に分けて確かめたと紹介されています[6]。
では、同じメスの好みが、えさのような環境でも変わることはあるのでしょうか。
サテンニワシドリの21羽のあずまやを3繁殖期モニターした研究(Proc R Soc B)では、メスの訪問頻度はオスの大きさと単独ディスプレーの回数に関係し、飾りは種類によって関係がちがい、青や白の飾りは訪問頻度と正に関係した。一方、実際の交尾成功は、大きさと、あずまやに唾液と噛んだ植物を塗る頻度に関係した[5]。メスが見るものが、訪問の段階と交尾の段階でちがうため、複数の合図を段階的に評価していると解釈できる。ただし、これは1集団の観察で、種全体の法則とは言えない。
年齢でも傾向が分かれる。Maryland 大の Borgia らの研究を紹介した記事によると、若いメスは青い飾りを、年上のメスは求愛ディスプレーの激しさを重視した。オスが青い飾りを足せる群と足せない群を比べて確かめたという[6]。ここは二次的な紹介記事に頼っており、論文本体で確かめたい点である。
ここまでは、メスの側の条件(段階・年齢)だった。では、メスの外にある条件、たとえばえさは、好みを変えるのか。
4. グッピーの メスの このみは、えさで かわる?
4. グッピーの橙色とカロテノイド ── 好みはえさで変わる
4. カロテノイド供給とグッピーの配偶者選好の可塑性
グッピーの メスは、体の だいだい色の 点が 大きく あざやかな オスを すきだ と されて います[7]。
この だいだい色は、えさの そうるいに ふくまれる 色の もと(カロテノイド)から できて います。どうぶつは、これを 自分では 作れません[7]。
あざやかな だいだい色の オスは、えさを たくさん 見つけられた オスと 読めますが、これは 考え方の 一つです。
そして、おどろく ことに、メスの このみも、カロテノイドの りょうで かわりました。この 研究では、カロテノイドが すくない えさで 育った メスで、だいだい色の オスへの このみが 強く 出たと ほうこくされて います[7]。このみは、生まれつき きまって いる とは かぎりません。
グッピーのメスは、橙色の斑点が大きく鮮やかなオスを好みます。この橙色は、えさの藻類にふくまれるカロテノイドという色素から来ていて、動物は自分では作れません[7]。
つまり、鮮やかな橙色は、えさをよく見つけられたオスのしるしと読めます。ただ、ここでいう「読める」は解釈で、資料が直接示している範囲は、橙色がえさ由来だというところまでです。
もう一つの発見は、メスの好みがえさ次第で変わることでした。グッピーのメスは、カロテノイドの入手しやすさに応じて好みを変える(表現型の可塑性)と報告されています。この実験では、カロテノイドが少ないえさで育ったメスで橙色への好みが強くなりました。ただし、えさの量などの条件によっても結果は左右されました[7]。また、橙色への好みは、交尾以外でも橙色の物に引かれる性質とつながっているそうです。
ツバメ、ニワシドリ、グッピーの例では、選ぶときの条件によって、メスの好みが変わることがあります。
グッピーのメスは、橙色の斑点が大きく鮮やかなオスを好む。橙色はカロテノイドに由来し、動物は自力で合成できないため、えさの藻類から取りこむしかない[7]。そのため、鮮やかさはえさの得やすさを反映しうる。ただし「反映しうる」は解釈で、資料が直接示しているのは、橙色がえさ由来という点である。
注目点は、メスの好みの側が、カロテノイドの入手しやすさに応じて変わる点にある。PMC に収録された論文は、メスの配偶者選好が、カロテノイド供給に対して表現型の可塑性を示すと報告し、出生後から低カロテノイドのえさで育ったメスで、鮮やかな橙色のオスへの選好が強く出たとする。ただし影響はえさの量の条件にも左右された[7]。橙色への選好は、交尾以外の場面でも橙色の対象に引かれる性質とつながっている、とも述べられる。
つまり、好みは固定された基準ではなく、環境に応じて調整される。ツバメの尾羽、ニワシドリの段階・年齢、グッピーのえさと、条件がちがっても「好みは動く」ことが重なって見える。
5. クジャクは、かざり羽で 選ばれて いる?
5. クジャクの飾り羽でも、研究の結果は分かれる
5. クジャクの目玉模様 ── 日本の野生化集団と、目玉模様を減らした研究
メスの このみの 研究で いちばん 有名なのは、クジャクかもしれません。でも、ここでも 答えは 一つでは ありません。
日本で 野生に なった インドクジャクを 7年 見た 研究では、メスが かざり羽の 目玉もようの かずや 長さで 選ぶ しょうこは 見られませんでした。研究者は、メスは しっぽ いがいの 手がかりで 選んで いるらしい、と 考えました[8]。
べつの 研究では、目玉もようが とても 少ない オスは、メスに ことわられる ことが ある そうです。でも、ふつうの かずの オスの 中では、ほかの 手がかりで 選んで いる かも しれない と しています[9]。
クジャクは、メスの選択の例としてよく知られています。ただ、研究の結果は一つにまとまっていません。
日本の野生化したインドクジャクの集団を7年観察した研究(Takahashi ら、2008)では、飾り羽の目玉模様の数・左右対称性・長さでメスが選ぶ証拠は見られませんでした。著者らは、メスは尾以外の手がかりで選んでいるらしいと結論しています[8]。
別の研究(Dakin と Montgomerie、2011)は、目玉模様をかなり減らしたオスは、メスに拒まれることがあるとしました。ただし、ふつうの範囲のオスの中では、別の手がかりで選んでいる可能性があると述べています[9]。
見るところが、極端な差のときと、ふつうの範囲のときでちがうかもしれない、という見方です。クジャクについては別のメモで詳しく書いているので、ここでは「結果が分かれる例」に絞りました。
Takahashi ら(2008, Animal Behaviour 75:1209)は、日本の野生化したインドクジャク集団を7年間、オス中心・メス中心の両方の観察で調べた。その結果、メスが飾り羽の目玉模様の数・左右対称性・長さで選んでいる証拠は見られず、著者らは、メスが尾以外の手がかりで選んでいるらしいと結論した[8]。
Dakin と Montgomerie(2011, Animal Behaviour 82:21)の結果は、これと完全には対立しない。目玉模様を大きく減らしたオスは、メスに拒まれることがあるが、ふつうの範囲の飾りをもつオスどうしの中では、別の手がかりで選んでいる可能性があるという[9]。
2つの研究を並べると、飾りの有無のような極端な差には反応しても、ふつうの範囲のなかでは別の手がかりが効く、という読み方ができる。ただし、これは2つの研究を突き合わせた読み方であり、どちらの論文も、そこまで言い切ってはいない。
6. 自分でも 見て みたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
やってみよう。近くの 公園で、スズメや ハトを 見て、オスと メスの 見た目が ちがうか、ずかんや おうちの 人と 見くらべて みましょう。ちがいが あるなら、どこが ちがうか、メモします。
その ちがいを、メスは 見て いるのかも しれません。ほんとうに そう なのかは、ここで しょうかいした 研究を、おうちの 人と 読んで みましょう。
次のようなことを、試したり調べたりできそうです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った出典。論文の内容は、要旨・研究ポータルの記述と、解説記事・紹介記事にもとづく。
- Reflections on Papers Past「Revisiting Møller 1988」 https://reflectionsonpaperspast.com/?p=59 (ツバメの尾羽実験と「2倍を超える差」。後年の解説)
- Oxford University Press, Sexual Selection and the Barn Swallow https://academic.oup.com/book/53119/chapter/421992355 (尾羽がオスで長く個体差が大きいこと)
- Darwin, The Descent of Man (1871) https://www.gutenberg.org/cache/epub/2300/pg2300.txt (メスの選択を扱う章の見出し)
- Sexual selection: Another Darwinian process (HAL) https://halshs.archives-ouvertes.fr/halshs-00775415 (ウォレスの反対。二次資料)
- The multiple signals assessed by female satin bowerbirds, Proc R Soc B https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1617158 (21羽・3繁殖期の観察)
- Newswise, Ladies' choice drives male mating display https://www.newswise.com/articles/ladies-choice-drives-male-mating-display (メスの年齢で見るところがちがう。紹介記事)
- Carotenoid availability affects the development of a colour-based mate preference, PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1559943 (グッピーの橙色と、えさによる好みの変化)
- Takahashi et al. (2008) Animal Behaviour 75:1209 の要旨(総合研究大学院大学リポジトリ) https://ir.soken.ac.jp/records/3817 (日本のインドクジャク7年観察)
- Peahens prefer peacocks displaying more eyespots, but rarely (AGRIS) https://agris.fao.org/search/en/records/65dfb3f70f3e94b9e5db8119 (目玉模様を取り除いた研究。検索要約)
なおした ところ
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