1. ひこうきの はやさは、いつも おなじ?
1. 同じ飛行機なのに、行きと帰りで速さが違う
1. 上空1万mの風 ── 対地速度が時速500〜1,000kmに開く
ひこうきが とぶ たかさ、1まんメートルくらいの そらには、とても つよい かぜが ふいて います。ふゆには、もっと つよく なります[1]。
ある パイロットの はなしでは、にしへ むかう ときは むかいかぜで、じそく 500キロメートルくらいしか でない ことが あるそうです。ひがしへ かえる ときは、かぜに のって じそく 900キロメートル、1000キロメートルちかく でる ことも あると いいます[1]。
おなじ ひこうきなのに、はやさが 2ばいちかく ちがう ことに なります。ただし、いつも この かずに なる わけでは ありません。
こんな かぜを、ひこうきは どう つかうのでしょう。
JALのパイロットの話では、冬の上空約1万メートルには強い風(ジェット気流)が吹いています。西へ向かう便は向かい風と戦うことになり、時速500km程度しか出ないこともあります。東へ戻る便は同じ風に乗って、時速900km、ときには1,000km近くまで出るそうです[1]。
500kmと900kmなら、速さはおよそ1.8倍(900÷500)違います。もちろん、パイロットが語った目安で、いつもこの数字になるわけではありません。それでも、これだけ差が出るなら、風を無視して地図の直線を引くのはもったいなさそうです。
ここで疑問が出ます。地図の上で遠回りになっても、風に乗ったほうが得になることはあるのでしょうか。
航空会社のパイロットは、冬の上空約1万mにジェット気流が強く吹き、西へ向かう便では向かい風のため対地速度が時速500km程度にとどまることがあると語る。東へ戻る便は同じ風に乗り、時速900km、ときに1,000km近くになる[1]。比にすると約1.8倍(900÷500)で、同じ機体でも到着までの時間が大きく変わりうる。ただし、これは談話に出てくる目安で、固定の値ではない。
対地速度は、機体が空気に対して進む速さ(対気速度)に、風の速さを足し引きしたものになる。そのため、風が強いほど、向きの違いが所要時間の差に直結する。
では、この差を減らす、あるいは得にするために、経路そのものを風に合わせて曲げてよいのか。そこが次の問いになる。
2. とおまわりの ほうが ちかい こと、あるの?
2. 地図では遠回りでも、空気に対しては近い
2. 最短時間経路は、最短距離とは別ものである
ながれる プールを おもいうかべて ください。ながれと おなじ むきに あるくと、すこし あしぶみ するだけで まえに すすみますね。そらの かぜも、すこし にて います。ひこうきが いるのは、うごいて いる くうきの なかです。
おいかぜの ながれに のれば、ちずの うえでは とおまわりでも、はやく ついたり、ねんりょうが すくなく すんだり します[2]。
あるけんきゅうでは、ひこうきの はやさと たかさが おなじなら、いちばん はやく つく みちが、ねんりょうも いちばん すくないと かんがえて、みちを けいさんしました[5]。
ただし ほんとうは、かぜは ばしょに よって つよさも むきも ちがいます。ながれる プールの ように、ずっと おなじでは ありません。
流れるプールを、流れと同じ向きに歩くと、同じ歩数でもすいすい進みます。飛行機が進むのも、地面の上ではなく、動いている空気の中です。追い風に乗ると空気の中を進む速さが上がり、地図の上では長い道でも飛ぶ時間が短くなることがあります。
飛ぶ時間が短ければ、早く着きます。追い風で飛べば、燃料を減らせたり、そのぶん乗客や貨物を増やせたりするという解説もあります[2]。往路と復路で別の経路を取る世界一周ルートを組むと、行きも帰りも風に乗れる、とも説明されています。
燃料との関係は、論文が整理しています。速さと高度が一定なら、1時間あたりに使う燃料はほぼ一定です。だから、飛行時間が一番短い道が、燃料も一番少なくなります。この研究は、風の分布から最短時間の経路を、最適制御理論という数学の方法で計算しました[5]。
では、風に乗る道は、実際にはだれが決めているのでしょうか。
追い風を使うと、燃料を減らせ、搭載できる乗客や貨物を増やせるという説明がある。往路と復路で経路を変える世界一周ルートも、風に乗るための工夫として紹介される[2]。
ここで大事なのは、「最短時間」と「最短距離」が別ものだという点である。風が一様でない空では、地図上の直線は、対気的な距離がもっとも短い道にならない。Wellsらの論文は、速度と高度が一定なら単位時間あたりの燃料流量も一定なので、飛行時間が最短の経路が最小燃料の経路になると整理し、風の分布から最短時間経路を最適制御理論で求めた[5]。したがって、遠回りに見える線が燃料の面でも合理的になりうる。
この前提は「速度と高度が一定」の場合に限られる点に注意したい。高度を変える運航や、機体の重さの変化は、この単純な図では扱われていない。
では、その最適経路を、実際の運航の中で誰が引き、どれほど守られてきたのか。北大西洋の例を見る。
3. きたたいせいように、まいにち ひきなおす みちが あった?
3. 北大西洋に、1日2回つくられた「空の道」があった
3. 北大西洋OTS ── ジェット気流に合わせて日ごとに引く経路網
ヨーロッパと きたアメリカの あいだの うみを、きたたいせいようと いいます。ここには、かぜに あわせた「そらの みち」が、1にちに 2かい つくられて いました[3]。
みちは、その ひの ジェットきりゅうに あわせて えらばれます。ジェットきりゅうは、そらの たかい ところを ふく つよい かぜの おびです。
ひこうきは、この みちを とおる ことが おおいのです。かぜの ようすが かわるたびに、みちも ひき なおされる という わけです。
ヨーロッパと北米のあいだの北大西洋には、管制機関がその日の風に合わせて決める「組織トラック」(OTS)という道がありました。1日に2回つくられ、ジェット気流の動きに合わせて引き直されます[3]。
道といっても、地面に線があるわけではありません。海の上に目印のように置かれた、空の上の経路のことです。毎日の風を使って、飛行機がたくさん集まる海の上に、風に乗りやすい道を用意していたのです。
毎日引いているこの道は、ほんとうに一番よい道なのでしょうか。
北大西洋では、ヨーロッパと北米を結ぶ便のために、管制機関が組織トラック(OTS)と呼ばれる経路群を1日2回つくってきた。経路はジェット気流に合わせて引き直される[3]。
なぜ洋上でこのような仕組みが必要なのか。この資料から言えるのは、風に合わせた道を前もって用意し、多数の便が同じ道に集まるように調整してきたことまでである。個々の便がどの程度この道を使うかの割合は、この記事では扱わない。
ところが、毎日引き直すことと、毎日最適にすることは同じではない。運用の中身は、2021年の研究で数字を使って検証された。
4. その みちは、ほんとうに いちばん いい みち だった?
4. その道は、最適な経路より数百km長かった
4. 61年続いた経路網は、最適経路より数百km長かった
この みちの しくみは、1961ねんから ほとんど かわらずに つづきました[4]。
ところが、イギリスの レディングだいがくの けんきゅうで、ニューヨークと ロンドンの あいだでは、ふつうの みちが ねんりょうの いちばん すくない みちより、200キロメートルくらい ながい ことが わかりました[6]。ふゆの 3かげつの ひこうを しらべた けっかです[5]。
ねんりょうが さいだい 16%へる かもしれないと いう けいさんも あります。でも これは、いちばん うまく いった ときの かずです[6]。
そして 2022ねん 3がつ 1にち、たかさ 33,000フィートより ひくい ひこうきでは、この みちを つかう きまりが なくなりました[4]。
この道の仕組みは、1961年からあまり変わっていませんでした[4]。そこへ、英国のレディング大学の研究者たちが、風の分布から計算した燃料が一番少ない経路と、実際の道を比べました。
調べたのは、2019年12月1日から2020年2月29日までの、ニューヨーク〜ロンドン便です。冬のおよそ3か月、91日ぶんにあたります。結果は、実際の道は最適な経路より数百km長いのがふつうで、平均では約200km長かったことを示しました[5]。報道発表では、平均で約200km長く、約3か月のあいだに二酸化炭素を約670万kg(6,700トン)減らせた可能性があるとされました[6]。
論文は、空気に対する距離を減らせる余地も示しています。西へ向かう便で0.7〜7.8%、東へ向かう便で0.7〜16.4%です。幅があるのは、飛ぶ速さや、その日のどの道を使うかで変わるためです[5]。「燃料が16%減る」と書かれることもありますが、これは東行きの条件が最もよい場合の上限で、平均ではありません。
こうした研究が、北大西洋の運用を見直す根拠のひとつになりました。2022年3月1日から、33,000フィート(約1万m)以下を飛ぶすべての便で、OTSは廃止されています[4]。
レディング大学の研究(Wellsら、Environmental Research Letters、2021年)は、OTSが1961年の開始からほとんど変わらず運用されてきたことに着目し、風の分布から計算した燃料最適経路と比較した[5]。対象は2019年12月1日〜2020年2月29日のニューヨーク〜ロンドン便である。日数にして91日(12月31日、1月31日、2月29日の合計)で、冬のジェット気流が強い時期にあたる。
結果として、現行トラックを飛ぶ距離は、空気に対する距離で比べると、燃料最適経路より数百km長いのがふつうだった。距離の削減余地は、西行きで0.7〜7.8%、東行きで0.7〜16.4%で、幅は飛行速度とその日のどのトラックを使うかによる[5]。報道発表は、この期間の平均トラックが最適経路より約200km長く、二酸化炭素を約670万kg削減できた可能性と、最大16%の燃料削減の可能性を示した[6]。
ここで16%や16.4%の扱いに注意が要る。これは東行きで、速度と使うトラックの条件が最もよい場合の上限であり、全便の平均ではない。平均的な差としては、約200kmのほうが実態に近い。
こうして数字が示されたことで、運用は変わった。2022年3月1日から、33,000フィート以下の便ではOTSが廃止された[4]。61年(1961年→2022年)続いた「毎日ひく道」が、最適経路との差を根拠に見直されたことになる。ただし廃止の対象は33,000フィート以下の便で、それ以上の高度の扱いはこの資料では分からない。
5. いまは だれが みちを えらぶの?
5. 太平洋では、計算で「自分の道」を選ぶ便が増えた
5. 太平洋のPACOTSとUPR ── 計算速度が経路の決め方を変えた
にほんと アメリカの あいだの たいへいようでも、にたような みちが つかわれて きました。でも ちかごろは、ひこうがいしゃが じぶんで えらぶ みちが ふえて います[7]。
コンピューターが、はやく けいさんできる ように なったからです。かぜの よそうを つかって、ねんりょうが すくなく すむ ひこうの けいかくを、すぐに つくれます[7]。
ある かいぎでは、きまった みちの かずを すこし へらす ことも きまりました[7]。
日本と米国西海岸などを結ぶ太平洋の洋上でも、風を使う道の仕組みがあります。ALPA Japanの報告によると、洋上を飛ぶ便は、固定の航空路(NOPAC)のほかに、PACOTSという管制側がつくる道と、UPR(運航者が自分で選ぶ経路)を使うのが一般的です[7]。
ここ数年は、コンピューターの計算が速くなり、UPRが広がっています。UPRを使うと、PACOTSよりも柔軟で、燃料効率のよい飛行計画を短い時間で計算できるからです。この流れの中で、ユナイテッド航空の日本〜テキサス間のPACOTS2本を廃止することが合意されました[7]。
毎日つくる道を管制側が用意する形から、各社が計算して自分の道を選ぶ形へ。北大西洋で起きた変化と、向きが似ています。
ALPA Japanが伝えたIPACGの報告によると、太平洋洋上を飛ぶ便は、NOPACのほかにPACOTSとUPRを使うのが一般的である[7]。PACOTSは管制側が風などを考えて設定する経路で、UPRは運航者が自ら設定する経路を指す。
近年は計算速度の進歩でUPRが広がっている。UPRなら、PACOTSよりも柔軟で燃料効率のよい飛行計画が、はやく計算できるためである。その結果、ユナイテッド航空の日本〜テキサス間のPACOTS「M」「8」の廃止が合意された[7]。
北大西洋のOTS廃止と、太平洋のUPR拡大は、いずれも「共通の道を事前に決める」から「各社が計算で最適を探す」へという同じ向きの変化として読める。どちらも、共通の道を用意する形から、運航者が経路を計算する形へ動いている。
6. かぜの ほかに、みちを きめる ものは あるの?
6. 風だけでは決まらない ── 高度、立入制限、予報
6. 経路の制約と高度、風予報の役割
ひこうきの みちは、かぜだけで きまる わけでは ありません。JALの パイロットは、みちは ある ていど きまって いて、そのかわり たかさで うまく ちょうせつ して いると はなして います[1]。
ぐんの ひこうが ある くうきや、ロケットを うちあげる ところは、とおれない ことが あります。かざんの はいが ある ばあいも、さけます[7]。
かぜの よそうは、きしょうちょうが ひこうきの ために だして います[9]。アメリカの けんきゅうでは、かぜに あわせた みちで、アメリカを よこぎる ひこうが へいきん 7ふん はやく なる けいさんでした。つよい ジェットきりゅうの ときは、さいだい 1じかんです[8]。
航空路が風だけで決まるわけではありません。JALのパイロットは、航路はある程度決められていて、そのぶん高度でうまく調整していると説明しています[1]。風への対応は、横に道を曲げることだけでなく、高さを選ぶことでも行われます。
道の選び方には、風以外の制約もあります。ALPA Japanの報告では、軍事空域やロケット発射などで飛行が制限される空域や、火山灰への対応について、PACOTSは今も有効な道具だと日米の側が述べています[7]。計算で自由に選べるようになっても、空の上のすべてが自由になるわけではありません。
風の予報は、気象庁が航空機向けにも出しています。アジア太平洋や北太平洋について、高層の高度・気温・風の予想図が公開されています[9]。
2004年公表のNASAの技術ブリーフの計算では、風に合わせた最短時間の経路を使うと、米国を横断する便で平均約7分、強いジェット気流のときは最大1時間、飛行時間が短くなる計算でした[8]。1便ごとの差は小さく見えますが、毎日たくさんの便が飛ぶので、積み重なると大きくなります。
風だけで経路が決まるわけではない。JALのパイロットは、航路はある程度決まっており、その代わり高度で調整していると説明している[1]。風への対応は、水平方向の経路と、飛行高度の両方で行われる。
ALPA Japanの報告では、FAAとJCAB側が、軍事空域やロケット発射などの飛行制限空域、火山灰への対応という点から、PACOTSは今も有効な道具だと述べた[7]。そのため、計算で最適化できる範囲は、使える空域に限られる。
風の予報は、気象庁が航空機向けに、アジア太平洋と北太平洋の高層の高度・気温・風の予想図を提供している[9]。2004年公表のNASAの技術ブリーフは、風の測定点に応じて機首方位を調整する方法(NOWR)で、風最適経路が米国横断便で平均約7分、強いジェット気流のときは最大1時間の短縮になると示した[8]。
研究ごとに対象の便や条件が異なるため、数字をそのまま比べることはできない。
「とおまわり」を じぶんの めで たしかめるには?
風を読む飛行機を、自分の目で確かめるには
経路と風の関係を、一次資料で追うには
今日できること
うちの ちかくの くうこうから でる ひこうきの じこくひょうを ひらいて、いきの じかんと かえりの じかんを ならべて みましょう。ちがいが あるか みて、あれば どうしてかを かんがえて みます。
出かけてできること
ひこうきに のる ことが あったら、いきと かえりで かかった じかんを メモして みましょう。じこくひょうと くらべて みると、おもしろい はっけんが あるかも しれません。
こうしきの 情報
きしょうちょうの サイトには、ひこうきの ための そらの かぜの よそうずが あります。
今日できること
航空会社の時刻表で、同じ2つの空港を結ぶ便を、行きと帰りで並べてみてください。所要時間に差があるか、あるとしたらどちらが長いかを見て、風との関係を考えてみます。差が小さいときもあります。
出かけてできること
飛行機に乗る機会があれば、行きと帰りの実際の飛行時間を記録して、時刻表の数字と比べてみてください。
公式情報
気象庁の航空気象情報のページに、高層の風の予想図の一覧があります。レディング大学の研究紹介ページは、北大西洋の経路が見直された流れを知る入り口になります。
今日できること
同じ2空港間の往路・復路の所要時間を時刻表で比べ、差があれば向きと風の関係を考える。差が小さい区間と大きい区間を見比べるのもよい。
出かけてできること
搭乗時に実際の飛行時間を記録して、時刻表の値と比べる。
公式情報
気象庁の航空気象情報、Wellsらの論文(Environmental Research Letters、2021)、レディング大学の解説ページを一次資料として読み、経路の長さや削減率の条件の書き方を確かめる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、パイロットの談話と解説記事、大学の研究・報道発表、航空関係団体の報告、気象庁の公式ページを突き合わせた。北大西洋の道の運用の細かい数字(使用割合など)は使っていない。
- JAL OnTrip「飛行機×気象雑学」 https://ontrip.jal.co.jp/jalstyle/17753212 (上空の風と速さ、高度による調整)
- Aviation Wire 解説記事 https://www.aviationwire.jp/archives/248934 (追い風の利点・往復で別経路)
- SKYbrary「North Atlantic Operations: Organised Track System」 https://skybrary.aero/articles/north-atlantic-operations-organised-track-system (北大西洋の組織トラック)
- University of Reading「Greener flights across the Atlantic」 https://research.reading.ac.uk/engagement-and-impact/greener-flights-across-the-atlantic/ (1961年からの運用・2022年の廃止)
- Wells他「Reducing transatlantic flight emissions by fuel-optimised routing」Environmental Research Letters (2021) https://centaur.reading.ac.uk/id/eprint/95760 (最短時間経路・空気に対する距離の削減余地)
- University of Reading ニュース(2021年) https://www.reading.ac.uk/news/2021/Research-News/PR854077 (平均約200km・二酸化炭素約670万kg・最大16%)
- ALPA Japan News(IPACG報告) https://alpajapan.org/cms_202306/wp-content/uploads/ALPAJAPANNEWS45-18.pdf (太平洋のUPR・PACOTS・空域の制約)
- NASA NTRS 20110020436 https://ntrs.nasa.gov/citations/20110020436 (米国横断便での風最適経路の時間短縮)
- 気象庁 航空気象情報 https://www.data.jma.go.jp/airinfo/index.html (航空機向け高層風の予想図)
なおした ところ
更新履歴
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