1. とけた スズの 池に うかべます
1. 答えは「溶けたスズの上に浮かべる」こと
1. 溶融スズの浴にガラスを流す ── 板が平らになる基本の仕組み
いまの 窓ガラスの つくりかたは、名前を 「フロート法」と いいます。フロートは、「うかべる」と いう いみです[1]。
まず、砂などの ざいりょうを、炉で とけるまで あつく します。そのガラスを、おなじように あつくて とけた スズの うえに ながします[3]。
スズは ガラスより おもく、ガラスと まざりません[1]。だから ガラスは、スズの うえに ぷかぷか うかびます。
とけた スズの 表面は、おふろの 水の 表面のように、たいらで つるつるです。その うえに ガラスが のると、ガラスの 下の めんも、たいらに なります[2]。ガラスは あつい まま ゆっくり すすむので、上の めんの でこぼこも ならされて、りょうほうの めんが つるつるに なります[2]。
ただし ほんとうは、スズの 池は おふろとは ぜんぜん ちがいます。とけた ガラスも スズも、とても あつい 温度です。
この製法の名前は「フロート法」です。フロートは「浮かべる」という意味で、イギリスのピルキントン社のアラステア・ピルキントンが発明しました[1]。
やり方は、材料の砂やソーダ灰などを炉で約1500℃に熱して溶かし、その溶けたガラスを、同じく熱で溶けたスズの上に流し出すだけです[3]。スズはガラスより重く、ガラスと混ざらない金属なので、液体のガラスを受け止める台になります[1]。
お風呂やプールの水面は、ゆらさなければ、定規をあてたようになめらかです。溶けたスズの表面も、同じように水平で滑らかになります。そこにガラスがのると、下の面は、スズの平らな面にそのまま合います[2]。ガラスは高温のまま運ばれるあいだに、上の面の凹凸もならされ、両面とも磨かなくても平らで滑らかな面になります[2]。ただし本当は、スズの浴は水の風呂とはまったく別物で、600〜1100℃ほどの高温の金属です。
この記事の問い「窓ガラスはどうやって平らに作られるのか」の答えは、ここまでです。この先は、スズが選ばれた理由、厚さの決め方、実用になるまでの話です。
フロート法は、ガラスより重く、ガラスと混ざらない溶融金属であるスズの上に溶融ガラスを流し込み、上下の面が平行で平滑な火造り面(fire polished)の板ガラスを得る方法である[1]。日本語の論文では、発明者を英国ピルキントン社(Pilkington Brothers Ltd.)のアラステア・ピルキントンとしている[1]。
原料は炉で約1500℃に熱して溶かし、約1200℃前後で安定させたのち、スズの浴に送られる[3]。浴に流れ出たガラスは円形に広がり始め、厚さは次第に薄くなる。ガラス・溶融スズ・雰囲気の間の界面張力と重力が平衡に達すると、広がりは止まる[1]。ピルキントン社は、スズの表面が平らなのでガラスも平らになり、浴の上で冷える間に両面が火造りの面になる、と説明している[2]。
下の面は、液体の平滑な面にそのまま接して決まる。研削・研磨の工程が要らないのが、この製法の大きな利点である[1][2]。
2. どうして スズなの?
2. なぜスズ? 温度と空気の工夫
2. スズが選ばれる条件、浴の中の温度、酸化の防止
ガラスを うかべる えきたいに、水は つかえません。ガラスが あつすぎて、水は すぐに じょうはつして しまうからです。スズなら、とけた ガラスより おもくて、まざらず、あつくても 液体の ままです[1]。
ガラスは、スズの 池の うえを ゆっくり すすみながら、だんだん ひえて、かたまって いきます。さいしょは およそ 1100℃、でるときは 600℃くらいです[3]。かたまった あとは、ローラーに のせて はこべます。
スズは あつい ところに ずっと おくと、空気の さんそと くっついて、くずのように なって しまいます。そこで、スズの 池の うえの くうかんは、ちっそと すいその ガスで みたして、空気が はいりにくく して いるそうです[3]。
つぎに、かたまった ガラスは、ながい 炉を ゆっくり とおって、すこしずつ ひやされます。いっきに ひやすと、われやすく なるからです[3]。
ガラスを浮かべる液体は、水ではだめです。熱いガラスに触れた水はすぐ蒸発してしまいます。金属のスズは、溶けたガラスより重く、ガラスと混ざりません[1]。
ガラスは、スズの浴の上を進みながら少しずつ冷えます。入るときは約1100℃で、約600℃まで下がると、ローラーで運べるくらい固まります(目安の温度で、英語版Wikipediaの記述です)[3]。ピルキントン社は、浴の上で冷えるあいだに、磨かなくても表面が火で磨かれたような板になる、と説明しています[2]。
もう一つの工夫は空気です。スズは高温で空気中の酸素に触れると、酸化スズのかすができます。そのため浴の上の空間を窒素と水素のガスで満たし、外の空気より気圧を少し高くして、空気が入りこみにくくしているとされています[3]。
浴から出た板は、徐冷炉という長い炉をゆっくり通って冷まされ、そのあとで切断されます。急に冷やすとひずみが残るためとされています[3]。
3. あつさは、どう きまるの?
3. ガラスを引っぱって、自然に止まる厚さより薄くする
3. 平衡厚さ約6.8mmと、薄くする・厚くする方法
スズの 池に ながされた ガラスは、まるく ひろがって、だんだん うすく なります。でも、ずっと うすく なる わけでは ありません。ある あつさで、ぴたりと とまります。その あつさは、およそ 7ミリです[1]。
もっと うすい ガラスを つくる ときは、できた ガラスを、前に はやく ひっぱります。ひっぱると、ガラスは うすく のびます。うすく しすぎて はばが せまく ならないように、横から おさえる ローラーも つかいます[1]。
いまは、2ミリから 19ミリまでの あつさの ガラスを、はば 2.5〜4メートルの ひろさで つくれます[1]。
スズの上に流れたガラスは、円形に広がって薄くなり、あるところで止まります。このとき止まる厚さを平衡厚さといい、約6.8ミリです[1]。ガラスの重さと、表面が縮もうとする力が、つり合うためです。
この厚さよりも薄い板は、リボン状のガラスを、前へ速く引っぱって作ります。ただ、速く引くだけでは幅まで狭くなってしまいます。そこで、斜めに置いた溝つきのローラー(トップロール)で、リボンの両端を上から押さえ、幅が縮まないようにします[1]。高温で温度のそろった状態で引き伸ばすので、表面にゆがみが出ないと説明されています[1]。
厚い板は、広がりを横から止めて作ります。ガラスに濡れないカーボンのガイドを浴の端に置き、ガラスが横に広がるのを抑えます[1]。こうしてフロート法では、2〜19ミリの厚さ、幅約2.5〜4メートルの板を作れます[1]。
開発のとき、磨き板ガラスの市場の半分は6ミリの厚さでした。自然に止まる厚さが約6.8ミリだったので、引く速さを少し上げるだけで6ミリが作れました。開発者のピルキントン自身が、これを幸運だったと振り返っています[1]。
平衡厚さは約6.8mmとされる[1]。資料によって6mm程度、約7mmとも書かれ、一つの値に決まっているわけではない(ガラスの組成や温度による)。幅と厚さは、主に浴への流入量と、徐冷炉の搬送ロールによるリボンの牽引速度で調節する[1]。
平衡厚さより薄い板は、牽引速度を上げて作る。ただし厚さが減る割合以上に幅が狭くなるため、トップロールでリボンの両端を押さえて、幅の縮みを防ぐ。高温で温度が均一なうちに伸ばすので、表面にゆがみが出ない[1]。平衡厚さより厚い板は、ガラスに濡れないカーボンのフェンダーを浴の端に置き、横方向の広がりを抑えて作る[1]。この方法で、厚さ2〜19mm、幅約2.5〜4mの板ができる[1]。
開発当初、磨き板ガラス市場の約50%が厚さ6mmだった。平衡厚さが約6.8mmだったため、搬送ロールの速度を少し上げるだけで6mmが実現できた。ピルキントン自身が1969年の講演で、これを幸運だったと述べている(論文がPilkington (1969)として引用)[1]。
4. 昔は、どう つくって いたの?
4. 磨いていた時代から、7年がかりの発明へ
4. 磨き板ガラスの代替として ── 1952年の着想から1959年の発表、日本への導入まで
フロート法が できる まえ、たいらで きれいな ガラスを つくるには、できた ガラスを、機械で ごしごし けずって、みがいて いました。手間と お金が かかって、ガラスも むだに なりました[2]。
イギリスの アラステア・ピルキントンさんが、この 方法を 1952年に おもいつきました。じっさいに うまく つかえると わかって、せかいに はっぴょうされたのは 1959年です[1]。おもいついてから、およそ 7年かかりました[2]。
日本には 1960年代に はいって きました。1965年に 日本板硝子、1966年に 旭硝子が、フロートの せいぞうを はじめました[1]。
フロート法の前は、磨き板ガラスという、きれいな平らさのガラスを作るとき、ガラスの板を機械で削って磨く工程が必要でした[1]。ピルキントン社の説明では、高い品質のガラスは、この費用のかかる、むだの多い方法でしか作れなかったそうです[2]。
似た考えは、実は50年も前にありました。1902年に、アメリカのヒールらが、フロート法に似た特許を出しています。ところが当時は、ガラスを連続して溶かして成形する技術がなく、アイデアで終わりました[1]。
ピルキントンは1952年にフロート法を発明し、開発が始まりました。成功が世界に発表されたのは1959年で、実用までに7年かかっています[1]。会社の説明では、安定して利益が出るようになったのは1962〜63年でした[2]。
その後、ピルキントン社は1962年から世界のガラス会社に技術のライセンスを与えました。日本では1964年8月に旭硝子と日本板硝子が政府の認可を受け、1965年に日本板硝子、1966年に旭硝子がフロートの生産ラインを動かしました[1]。
フロート法以前、磨き板ガラスの製造には、フロート法以外では研削・研磨の工程が必要だった[1]。ピルキントン社は、高品質のガラスは費用がかさみ無駄の多い板ガラス製法でしか作れなかった、と説明している[2]。
類似の発想は、1902年にE. Heal、J. H. Forrest、H. Hitchcockらが出願した2件の特許にもあった。当時は連続溶融・成形の技術がなく、アイデアで終わった[1]。ピルキントンの着想は1952年、発表は1959年で、この間に約400万ポンドに上る巨額の研究費が使われたと論文は記す[1]。
着想から安定した収益までは、ピルキントン社の説明で、アイデアを証明するのに7年、継続して信頼でき利益が出るようになったのは1962〜63年である[2]。ライセンスは1962年から始まり、1963年の3基が1985年に100基になった[1]。
日本では、旭硝子と日本板硝子が1964年8月にフロート法の技術導入の認可を受け、1965年に日本板硝子、1966年に旭硝子が生産を始めた[1]。現在、フロート法の板は、磨き板ガラスを置き換え、続いて普通板ガラスも徐々に置き換えた[1]。
5. じぶんでも しらべて みたく なったら
5. 自分でも調べてみたくなったら
5. 自分でも調べてみたくなったら
みずを いれた ペットボトルを ななめに してみましょう。ボトルが かたむいても、みずの 表面は、いつも たいらで よこむきです。とけた スズの うえでも、これに にた ことが おきて います。
それから、おうちの 窓ガラスを、はしから ななめに 見て みましょう。そとの けしきは、ゆがんで 見えるでしょうか。
水を入れたペットボトルを横に倒しても、水の表面はいつも水平です。この「液体の表面が水平になる」性質が、フロート法の土台です。ほかの液体の表面(お茶、牛乳など)でも確かめてみてください。
窓ガラスを斜めから見て、外の景色がゆがんでいないかも見てみましょう。ゆがみが少ないのは、フロート法の板の特徴の一つです。ガラスの透明さそのものの話は、ガラスが透明な理由の記事にあります。
もっと知りたいときは、東京大学ものづくり経営研究センターの論文(大神正道、2008年)が日本語でいちばん読みやすい入口です。板ガラスの成形法がどう入れかわったかまで書かれています。
身近な窓ガラスを斜めから見て、景色のゆがみを観察できる。論文では、網入板ガラスはフロート法では作れず、ロールアウト成形法で作られると説明されている[1]。窓ガラスの種類を見比べて、どちらの方法で作られたのかを考えてみるのもよい。
一次資料への入口は、ピルキントンの1969年の講演(L. A. B. Pilkington, "Review Lecture: The Float Glass Process", Proc. Roy. Soc. Lond. A 314)である。本稿が読んだのは、これを引用した日本語の論文と、会社の公式ページ、Wikipediaにとどまる。浴の温度分布やスズの流れのシミュレーション(AGCの技術報告にある)など、細部は専門の資料に進むとよい。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:製法の仕組みと歴史は、東京大学の研究センターの日本語の論文と、発明した会社自身の公式ページを軸にしました。浴の温度や寸法の数値には、Wikipediaも使っています。
- 大神正道「板ガラス成形技術の変遷 ―フロート法の台頭と技術の棲み分け―」東京大学ものづくり経営研究センター ディスカッションペーパー No.237(2008年10月)。 https://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/dp/pdf/MMRC237_2008.pdf (フロート法の仕組み、平衡厚さ約6.8mm、厚さ2〜19mm・幅約2.5〜4m、1902年の特許、1952年の発明・1959年の発表、研究費、日本への導入)
- Pilkington「Sir Alastair Pilkington」。 https://www.pilkington.com/global/about/education/sir-alastair-pilkington (1950年代初めの着想と7年の研究、1959年の発表、1962〜63年に安定して利益が出たこと、磨き板ガラスとの違い、スズの上でガラスが平らになること)
- Wikipedia「Float glass」(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Float_glass (溶解約1500℃、浴の温度約1100℃から約600℃、窒素と水素の雰囲気、徐冷炉)
なおした ところ
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