1. パリの てんもんだいで、なにが あったの?
1. 無名の実験者は、天文台で何を見せたのか
1. 1851年2月のパリ天文台 ── 学会に無名の実験者の公開実験
1851ねんの 2月、フランスの パリに ある てんもんだいに、たくさんの 科学しゃが あつまりました[2]。
みんなの まえに 立ったのは、レオン・フーコーという 人です。科学しゃの なかまうちでは、まだ 名前を しられて いませんでした。
フーコーが 見せたのは、11メートルの ながい ふりこです。ふりこを ふらせて、じっと 見まもります。すると、ふれる むきが すこしずつ かわって いきました。
科学しゃたちは、「こんな かんたんな 方ほうを、どうして だれも おもいつかなかったのか」と、おどろいたと しょうかいされて います[2]。
1851年2月3日、パリ天文台の子午線ルームは、熱気に包まれていたといいます。見届け役は、台長のアラゴーとポワレでした[2]。
実験をする人は、学会では無名のアマチュア科学者、レオン・フーコーでした。使った道具は、高さ11メートルの振り子です[2]。
フーコーは、同じ年の初めに、自宅の地下室で試していたといわれます。そのときは長さ2メートルの鋼線に、5キログラムの真鍮のおもりでした[4]。小さな振り子で手応えをつかんでから、天文台の大きな振り子へ進んだことになります。
振り子は静かに揺れているだけです。それなのに、揺れる向きが少しずつ回っていきました。見ていた物理学者の多くが、「こんな簡単なことを、まだだれも思いついていなかったのか」と打ちのめされた、と科学館の資料は紹介しています[2]。当時の発言そのままの記録ではなく、紹介文の表現です。
では、何も力を加えていない振り子の向きが、なぜ回って見えるのでしょうか。
1851年2月3日、パリ天文台の子午線ルームで公開実験が行われた。見届け人は台長アラゴーとポワレ、実験者は学会では無名のアマチュア科学者レオン・フーコーで、振り子の高さは11mだった[2]。
フーコーはこれに先立つ1851年の初めに、自宅の地下室で、長さ2mの鋼線と5kgの真鍮のおもりを使った試行を行ったとされる[4]。ただし、この日付と寸法は日本語版Wikipediaの記述にもとづく二次資料で、科学館資料は「1851年、自宅の地下室」とだけ記す[1]。
大阪市立科学館の紹介文は、多くの物理学者が「これほど簡単なことを、だれも思いついていなかったのか」と打ちのめされた様子を描く[2]。これは学芸員の表現であって、当時の発言の引用ではない。1661年にヴィヴィアーニが振り子の向きのずれを観察していたという記述もあるが、単一の二次資料にとどまり、自転と結びつけたのはフーコーだった、という位置づけにとどめる[5]。
では、外から横向きの力を加えていない振り子の振動面が、なぜ回って見えるのか。この問いが次の章の中心になる。
2. まわって いるのは、ふりこ? それとも じめん?
2. 回って見えるのは、振り子ではなく足もとの地面
2. 振動面の見かけの回転 ── 空間に対して一定の向きと、回る地面
ふりこは、ふれる むきを かえて しまう よこからの ちからが くわわらない かぎり、おなじ むきに ふれつづける せいしつが あります。ふれる むきは、うちゅうに たいして かわりません[1]。
ところが、ふりこの したに ある じめんは、ちきゅうと いっしょに、ゆっくり まわって います。
たとえば、かみざらの うえで、えんぴつを いつも おなじ むきに うごかして みます。おさらを ゆっくり まわすと、おさらの 上の せんは、すこしずつ むきが かわって いきます。ふりこも おなじです。じめんが うごくので、じめんから 見ると、ふりこの むきが かわって 見えます。
ただし ほんとうは、えんぴつと ふりこは、うごき方が すこし ちがいます。ここでは、「ふりこの むきは そのまま。じめんが うごくから、むきが かわって 見える」と おぼえて ください。
振り子には、揺れる向きを変えてしまう横向きの力が加わらないかぎり、同じ向きに揺れ続ける性質があります。つまり、揺れる向きは宇宙空間に対して一定です[1]。
一方で、振り子の下にある地面は、地球の自転で動いています。宇宙に対して一定の向きで揺れる振り子を、動いている地面の上から見ると、揺れる向きが回っていくように見えるのです。北半球では、右回り(時計回り)に見えます[1]。
ここで、「振り子が自分で向きを変えている」のではないことに注意してください。変わっているのは、見ている側の地面のほうです。
たとえば、紙皿の上で鉛筆を同じ向きに往復させながら、紙皿をゆっくり回すと、皿の上には向きの変わる線が重なって残ります。振り子と地球の関係も、この紙皿に似ています。ただし、これは向きが回って見える理由をつかむための、たとえです。
3. パンテオンの ものすごく ながい ふりこ
3. パンテオンに吊るした67メートルの振り子
3. パンテオンの公開実験 ── 67mの線と28kgのおもり
天文台の 実けんの つぎ、1851ねんの 3月に、パリの パンテオンという 大きな たてもので、もっと 大きな ふりこの 実けんが ありました[2]。
ふりこの ながさは、なんと 67メートル。おもりは 28キログラム ほどでした[2]。
この 実けんを ゆるしたのは、そのころの 大とうりょう、ルイ・ナポレオンだったと つたえられて います[2]。たくさんの 人が 見に きました。
おもりを はなす ときには、手で おさずに はなす くふうが されたと いわれます[5]。手で おして はなすと、よこむきの ちからが はいって しまうからです。
天文台の実験から1か月ほどあとの1851年3月、パリのパンテオンで、もっと大きな公開実験がありました。巨大な建物なので、使われた振り子は長さ67メートルのピアノ線に、約28キログラムのおもりを付けたものです[2][5]。
使用を許可したのは、当時の大統領ルイ・ナポレオン(のちのナポレオン3世)だったと紹介されています[2]。大勢の見物客が集まったとされます。
おもりを放すときの工夫も伝わっています。手で放すと、横向きの力が入ってしまいます。それを避けるため、おもりを支える糸を燃やし切って、速度ゼロから始めた、といわれます[5]。「何もしない」のが、この実験の肝だったことが分かります。
見物客の目の前で、揺れる向きが少しずつ回っていきました。パリでは、1時間に約11度のペースで回ります[5]。では、この数字は場所によってどう変わるのでしょうか。
パンテオンでの公開実験は、同じ1851年の3月に行われた。巨大な建物のため、67mのピアノ線に約28kgのおもりを付けた振り子が使われ、使用は当時の大統領ルイ・ナポレオン(のちのナポレオン3世)の命令によるものだった[2]。日付は、Wikipediaの記述と科学館の「3月から」で食いちがうため、日にちは扱わない。
おもりは真鍮と鉛とされる。放すときには、糸を燃やし切ってゼロ速度で始める工夫がとられたといわれる[5]。手で放せば横向きの力を与えてしまい、振動面が最初から傾く恐れがあるためだ。周期は約16.5秒ともいわれるが、これはフランス語版Wikipediaのみの記述で、ここでは補足にとどめる。
この装置が示したパリでの回転は、約11度/時である[5]。ではこの数値は、フーコー自身の実験場所に固有の値なのか。緯度が変われば何が変わるのかを、次の章で計算する。
4. 東京では、1しゅうに なんじかん かかるの?
4. 東京では、1周に何時間かかるのか
4. 緯度と回転の速さ ── 15度×sinλの検算
ふりこの むきが まわる はやさは、ばしょで かわります。きたの いちばん はしの 北きょくでは、ふりこの むきは、1日で 1しゅう します[3]。
パリは 北きょくから すこし はなれて います。ここでは、1しゅうするのに 32じかんぐらい かかります。
日本の 東京では、もっと ゆっくりで、およそ 41じかんです[3]。朝に ふりこを ふらせはじめても、1しゅう する ころには、つぎの 日の よるに なって います。
赤どうに ちかい ところほど、まわる はやさは おそく なります。
北極や南極では、振り子の揺れる向きは約1日で1周します。緯度が低くなるにつれて、回る速さは遅くなります[3]。
回る速さは、1時間あたり「15度×sin(緯度)」の式で表せます[3]。地球は1日で1回転、つまり約24時間で360度回るので、1時間あたり約15度です。北極ではそのまま15度です。緯度が下がるほど、その一部しか振り子に伝わらなくなります。
東京(北緯約35.7度)で計算してみます。sin35.7度は約0.58なので、15×0.58で、1時間に約8.8度です。360度を8.8度で割ると、約41時間で1周になります。この東京の値は、辞書にも載っています[3]。
パリ(北緯約48.9度)では、sinが約0.75です。15×0.75で、1時間に約11度、1周は約32時間です。この値は、自分で計算したものです。英語版Wikipediaの数字とも合っています[5]。東京より、パリのほうがずっと速く回ります。
この数字は、観察者の立つ緯度がちがえば、同じ振り子でも見え方がちがうという意味です。では、緯度がゼロの赤道では、どうなるのでしょうか。
振動面の回転角速度は、緯度λで15×sinλ(度/時)と表せる。1周に要する時間は、およそ24時間÷sinλである[3]。15度/時は、地球が約24時間で360度自転する角速度で、正確には恒星日の約23時間56分に由来する。
東京(北緯35度43分)では、sin35.72°≈0.583となり、15×0.583≈8.8度/時、360÷8.8≈41時間で1周する。この東京の値は辞書にも載っている[3]。パリ(北緯48度52分)はsin48.87°≈0.753で、約11.3度/時、1周は約31.8時間と計算できる(自分で計算した値で、英語版Wikipediaの31.8時間と一致する)[5]。
北極・南極(緯度±90度)ではsinλ=1なので、振動面は約1日で1周する。ここで、緯度ゼロの赤道では式の値はどうなるのかという問いが残る。
5. 赤どうでは まわらない? みなみでは ぎゃくむき?
5. 赤道では回らず、南半球では向きが逆になる
5. 赤道と南半球 ── 場所で変わること自体が自転の証拠になる
赤どうでは、ふりこの むきは まわりません[3]。ふりこの むきは、1日たっても そのままです。
みなみの 半きゅうでは、ふりこの むきが ぎゃくむきに まわります[2][3]。きたでは みぎまわりでした。みなみでは、ひだりまわりです。
フーコーの 実けんは、かんたんな ため、すぐに 世かいじゅうで ためされました。フランスだけで なく、イギリスや みなみアメリカでも、まわる ようすが たしかめられたそうです[2]。
ばしょが ちがうと まわり方も かわる。それ自体が、ちきゅうが まわって いる しょうこに なります。
式に、緯度0度の赤道を当てはめてみます。sin0度は0なので、回る速さも0になります。赤道では、振り子の揺れる向きは回りません[3]。
赤道以南の南半球では、回る向きが逆になります。北半球は右回りですが、南半球では左回り(反時計回り)です[2][3]。
この実験は、道具が単純なので、すぐに各地で確かめられました。フランスだけでなく、イギリスや南米でも行われ、南半球では回転の向きが逆になることも確認されたと、大阪市立科学館の資料は書いています[2]。
北極では約1日、東京では約41時間、赤道では回らず、南半球では逆。場所によって、回り方が数字ではっきり変わります。場所で回り方が変わるのは、足もとの地球の自転と結びついているからです。この緯度による回り方の違いが、地球が回っている証拠になりました。
赤道(λ=0°)ではsinλ=0となり、振動面の回転は生じない[3]。南半球ではλが負になるため、回転の向きが逆(反時計回り)になる[2][3]。大阪市立科学館の資料は、実験の単純さから各地で追試が行われ、フランスのほか、イギリスや南米でも南半球での逆回りが確かめられたと述べる[2]。
緯度による変化が証拠になる理由は、こうだ。北極で約1日、東京で約41時間、赤道でゼロ、南半球で逆向きという回転の向きと速さの違いは、観察者の足もとが自転で動いていると考えると、「15度×sinλ」という1つの式で説明できる。各地の実験でこの予測と合う結果が得られたことが、自転の証拠になった。
では、この回転を、実際に自分の目で確かめられる場所はあるのか。
6. かみざらで ためして、かがくかんで 見て みよう
6. 紙皿で振り子の「向き」を再現し、科学館で確かめる
6. 出口 ── 紙皿の再現と、科学館の振り子で確かめられること
おうちで、かみざらと えんぴつで ためして みましょう。
つくえの 上に かみざらを おき、まんなかに 小さく 点を かきます。その 点から、えんぴつを いつも おなじ むきに、まっすぐ まえ・うしろに うごかします。もう かたほうの 手で、かみざらを ゆっくり まわします。
えんぴつの さきを つよく おさえすぎないで ください。さきが とがって いるので、人や かおに むけないように しましょう。
かみざらの 上には、むきが かわる 線が うまれます。ふりこと ちきゅうの かんけいが、これと にて いると かんがえられます。
ちかくの かがくかんで ふりこを 見られる ことも あります。名古屋市かがくかんには、ながさ27.9メートルの ふりこが あります[1]。毎朝 スタートすると かかれて います。
家にある紙皿と鉛筆で、振り子と地面の関係を試せます。紙皿の真ん中に小さな点を打ち、その点から、鉛筆を机に対して常に同じ向きに前後させて線を引きます。もう一方の手で、紙皿をゆっくり回します。
皿の上には、向きがずれていく線が残ります。振り子が揺れる向きは変わらず、足もとが回ると、足もとから見た向きが回る、という関係が目で見えます。鉛筆の先は尖っているので、人に向けないようにしてください。
振り子本物を見られる場所もあります。名古屋市科学館には、長さ27.9メートル、直径27センチ、81キログラムのおもりを使った振り子があり、毎朝スタートされます[1]。日本では国立科学博物館など、戦前から各地の科学館で設置されてきたとされます[2]。
科学館へ行くなら、振り子が揺れる向きを、床の目印と何度か見比べてみてください。数十分たつと、向きが少しずれていることに気づくかもしれません。ご自分の住む緯度の式の値と、見比べるのも楽しいはずです。
家での再現は、紙皿と鉛筆で行える。皿の中心から、鉛筆を机に対して一定の向きで前後させ続けながら、もう一方の手で皿をゆっくり回す。皿上の線は向きが回り続ける。これは「振り子の振動面は宇宙に対して不変、観察者の足もとが回る」の幾何学的な模型である。ただし、実際の振り子の運動方程式とは同じではなく、向きが回って見える、という一点の直観を得るための模型だ。鉛筆の先は人に向けないこと。
実物は科学館で見られる。名古屋市科学館は、長さ27.9m、直径27cm、81kgのおもりの振り子を、毎朝スタートする[1]。大阪市立科学館の資料は、国立科学博物館に戦前から設置された振り子が現在3代目で約20mだと述べるが、現行の公式値は今回確かめていない[2]。
確かめ方の筋道を示す。自分の住む緯度λを調べ、15×sinλを電卓で計算し、360をその値で割ると1周の時間が出る。科学館で床の目印などが見られる場合は、目印と揺れる向きを見比べてみるとよい。振り子の長さや空気抵抗、放すときの横向きの力が結果に影響する可能性があり、予測とずれる場合の原因を考えることが、次の問いになる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:名古屋市科学館と大阪市立科学館の資料、コトバンク(辞書)、Wikipediaを使った。Wikipediaは二次資料なので、日付や寸法の確認にとどめている。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 名古屋市科学館 展示解説「フーコーの振り子」(L101)。https://www.ncsm.city.nagoya.jp/exhibit_files/pdf/L101.pdf (振り子の原理、北半球での回転の向き、名古屋市科学館の振り子について)
- 大阪市立科学館「フーコー振り子ひとつばなし」(2018年)。https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2018/07/201807_04-09.pdf (1851年の公開実験、パンテオン、各地での追試について)
- コトバンク「フーコー振子」。https://kotobank.jp/word/フーコー振子-3217446 (緯度による回転の速さの式、東京の約41時間について。辞書)
- フーコーの振り子(Wikipedia 日本語版)。https://ja.wikipedia.org/wiki/フーコーの振り子 (地下室での試行の寸法について。二次資料)
- Foucault pendulum(Wikipedia 英語版)。https://en.wikipedia.org/wiki/Foucault_pendulum (パリでの回転の速さ、おもりの放し方、ヴィヴィアーニの観察について。二次資料)
なおした ところ
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