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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ふでの 穂ほには、どうして けが たくさん あつまって いるの?

筆にたくさんの毛が集まっているのはなぜか ── 墨を保つすきま

筆の穂 ── 毛の束が墨をためる仕組みと、熊野筆の作り方

分野:技術

ふでに 墨すみを つけて、紙に 線を ひきます。ふでの 先には、ほそい 毛が いっぱい あつまって います。1本の 毛だけなら、墨すみは すぐに なくなって しまいそうです。それなのに、ふでは 長い 線を 何本でも かけて しまいます。

なぜ、たくさんの 毛が あつまって いると、墨すみを もって いられるの? その ひみつは、毛と 毛の あいだの ほそい すきまに あります。

筆に墨をつけて紙に線を引くと、穂の中から墨が少しずつ出てくる。1本の毛だけでは、墨はすぐに流れ落ちてしまいそうだ。それでも筆が長い線を書けるのは、たくさんの毛が集まって墨をためておける仕組みがあるからです。

答えは、毛と毛のあいだの細いすきまにあります。ここでは、そのすきまが墨をどう引きとめるのか、毛の種類をどう混ぜているのか、熊野の筆づくりを例に見ていきます。

筆の穂は、1本ずつ見ればただの細い毛だ。それでも一度墨を含めば、紙の上に長い線を何本も引ける。墨は毛の表面にべったりとつくのではなく、毛と毛のあいだに引きとめられて保たれていると考えられている。答えは、毛細管現象(毛管現象)にある。

この記事では、(1)すきまが墨を保つ仕組み、(2)毛の長さと硬さを混ぜる理由、(3)穂の中で墨がどう動くか、(4)広島県熊野町の混ぜ方、(5)まだ分かっていないこと、の順に見る。

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1. 毛と毛のすきまが、墨すみをひっぱる

1. 毛と毛のすきまが、墨を引き上げる

1. 毛細管現象 ── 毛と毛のすきまが墨を保つ

ガラスの ほそい くだを 水に たてると、水は くだの 中を 少し 上がります。ほそい くだほど、この 上がり方が 大きく なります。これを、もうさいかんげんしょうと いいます。

ふでの 穂ほでも、毛と 毛の あいだが、ほそい すきまに なって います。そこに 墨すみが はいりこんで、穂ほの 中に たまって いると 考えられて います。毛が たくさん あつまって いるほど、すきまも 多く、墨すみも 多く もてる、という わけです。

毛細管現象は、細い管やすきまの中で液体の液面が外よりも高く(または低く)なる現象です。表面張力が原因で、水のように管の壁をぬらす液体は上がります[4]。

筆の穂では、毛と毛のあいだが、これと似た働きをする細いすきまになっています。1本の毛だけでは、墨を保つすきまが十分にできません。毛を束ねることで、墨を保てる場所が生まれるのです。

毛細管現象は、細い管やすきまの中で液面が外より高く(または低く)なる現象で、表面張力が原因となる。管壁をぬらす液体は上昇する[4]。

毛筆の穂では、毛の束のあいだのすきまが、この現象を起こす細いすきまにあたると考えられる。百科事典も、細い管のほか、2枚の板のすきまでも起こる現象だと書いている[4]。ただし、すきまは円い管とは形がちがうので、管と同じ式でそのまま計算できるとは限らない。2014年に中国の筆を調べた研究は、大量の液体が筆の中で、ラプラス圧(液面の曲がりによる圧力差)、左右で異なる保持力、重力の3つがつり合うことで保たれると説明している[3]。

2. ふでには、どんな 毛が 使われて いるの?

2. 柔らかい毛と硬い毛を混ぜるわけ

2. 毛の種類と長さ ── 墨を持つ毛、形を保つ毛

ふでの 毛には、いろいろな 動物の 毛が つかわれて います。やわらかい 毛は ヒツジなど、かたい 毛は ウマなど の 毛です。イタチや タヌキ、ウサギの 毛も つかわれます[1]。

やわらかい毛と かたい毛を まぜた ふでを、けんごうと いいます。まぜると、弾力だんりょくと 書きやすさを、1本の ふでの 中で りょうほう もたせる ことが できます[1]。

筆の毛には、ヒツジなどの柔らかい毛、ウマなどの硬い毛、イタチ、タヌキ、ウサギなどの毛が使われます[1]。

硬い毛と柔らかい毛を混ぜた筆は「兼毫」と呼ばれます。弾力と書きやすさを、1本の筆の中で両立させるための組み合わせです[1]。また、英語版の百科事典は、長い毛ほど墨を長くもてると説明し、硬い毛は穂先の形を保つのに向くとしていますが、これは傾向で、厳密な規則ではないとも書かれています[5]。

筆の毛は、ヒツジ(柔らかい毛)、ウマ(硬い毛)、イタチ、タヌキ、ウサギなどから取られる[1]。ここでの「たくさん」は、本数だけでなく、長さ・硬さ・種類の組み合わせでもある。

英語版の百科事典は、長い毛ほど墨を長くもてる、硬い毛は穂先を保つのに向く、と説明している[5]。毛の役割を分けて組み合わせるのが兼毫であり、1本で弾力と書きやすさを両立させるための組み合わせといえる。長い毛と硬い毛の役割は傾向であり、筆ごとに組み合わせは変わる[1]。

3. 墨すみは、穂ほの 中を どう うごくの?

3. 毛の形と、向きによって違う墨の保たれ方

3. 円すい形の毛と、向きによって違う保持

毛は、根もとが太くて、先に行くほど細くなっています。この形を、円すい形と いいます。

2014年の研究では、中国の筆の毛の表面に、向きによって ようすが ちがう、大小いくつもの つくりが あると わかって います。その 形と つくりで、墨すみが 向きに よって たもたれ方が ちがう、と 考えられて います[3]。

毛は根もとが太く、先へいくほど細くなる円すい形をしています。2014年の研究は、中国の筆の毛の表面に、向きによって性質がちがう大小の構造があることを報告しています[3]。

研究では、墨の量が釣り合う理由を、ラプラス圧の差、左右で異なる保持力、重力の3つの力で説明しています。題名に「ラチェット(一方向にしか回らない歯車の仕組み)」という言葉が使われていますが、これは毛の向きによって墨の保たれ方に差がつく仕組みをたとえたものと読めます[3]。

毛は根元が太く、先へ向かって細くなる円すい形をしている。2014年の研究(Wangら、Advanced Materials)は、中国の筆の毛の表面に、向きによって性質が異なる大小の多段階の構造があると報告した[3]。

同じ研究は、墨が筆の中に大量に釣り合って保たれるのを、ラプラス圧の差、非対称な保持力、重力の協同で説明する。題名の「ラチェット」は、毛の向きによって液体の保持に差がつく仕組みをたとえた言葉と読める[3]。要旨から読み取れるのは、毛の構造と液体の釣り合いについての説明までである。

4. くまのの ふでづくりは、どう まぜるの?

4. 熊野筆 ── 毛を混ぜ、一本の穂にするまで

4. 熊野筆の起源と、毛を混ぜる2つの技法

ひろしまけんの くまのちょうは、ふでづくりで 有名な まちです。むかし、田んぼの しごとが ない あいだに、きんきの ふでや 墨すみを 仕入れて、帰り道に うって あるいた 人が いた と いわれて います。ふでづくりの はじまりの 一つと 考えられて います[2]。

毛は、箱の 中で まぜたり、水の 中で のばして おりかさねたり して、ていねいに まぜあわせます。どれも 手の しごとです。1975年に、国の 伝統的工芸品でんとうてきこうげいひんに 指定されました[2]。

広島県の熊野町は、筆づくりで知られる町です。江戸時代、農地の少ない家の人たちは、農閑期に近畿地方で筆や墨を仕入れ、帰り道に売り歩いたといわれています。この行商が熊野と筆づくりを結びつけたとされますが、始まりの時期ははっきりしていません。天明年間(1781〜1789年)ごろには行われていたと推定されています[2]。

熊野の筆づくりでは、毛を混ぜる「練りまぜ」と、乾いた毛を箱(盆)の中でまぜてから湿らせて作業する「盆まぜ」が使われます。盆まぜは明治時代に熊野で発達した技法で、大量の毛を効率よくまぜられます[2]。熊野筆は1975年に伝統的工芸品に指定されました。

熊野筆(広島県熊野町)の起源は、江戸時代後期の農閑期の行商にあったとされる。農地の少ない人々が、近畿地方(奈良、大阪、有馬など)で筆や墨を仕入れて、帰り道に売り歩いた。熊野筆の記事も、この話を「言われている」ものとして書いている。始まりの時期は不明とされ、天明年間(1781〜1789年)ごろには行われていたと推定されている[2]。

毛を混ぜる技法には、伝統的な「練りまぜ」(毛の塊を水の中で薄くのばし、折りかさねて混ぜる)と、明治時代に熊野で発達した「盆まぜ」(乾いた毛を盆の中で混ぜてから湿式で仕上げる)がある。盆まぜは大量生産を可能にし、折りかさねる回数を減らした[2]。熊野筆は1975年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定された。

5. まだ分かって いないことは?

5. まだ分かっていないこと

5. まだ、仕組みの全体は分かっていない

墨すみが たくさん ふくまれたとき、毛の 中で どう うごくのでしょうか。紙に ついた とき、墨すみが どう ひろがるのでしょうか。毛の 形と 墨すみの かんけいは、まだ 研究の とちゅうです。

墨の量が多くなったとき、毛の中で墨がどう動くのでしょうか。紙に触れたとき、墨がどう広がるのでしょうか。毛の形と墨の関係は、まだ研究が続いています。

今わかっている研究は、中国の筆を対象にしたものです。日本の筆にそのまま当てはまるかは、論文では扱われていません。

墨の量が増えたとき、毛の中で流れがどう変わるのか、紙に触れた瞬間にどう広がるのかは、まだ仕組みの全体がつかめていない。

今回取り上げた研究は、中国の筆と墨の組み合わせを対象にしたものである。日本の筆、とくに熊野筆の毛の配合や穂の作り方に、同じ説明がそのまま当てはまるかは、論文の中では扱われていない[3]。

6. じぶんでも しらべて みよう

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

ふでの 穂ほを、ふだんは 見えない ところまで よく 見て みましょう。ルーペが あれば、毛が どのように あつまって いるかが わかります。

水を ふくませた ふでを、白い 紙に そっと おいて はなして みましょう。水は どこまで ひろがるでしょうか。おうちの 人と いっしょに、墨すみは つかわず、水だけで やって ください。

もっと しりたい 人は、ふでの さんちの ページ[2]や、ふでの ひゃっかじてんの ページ[1]を 見て みましょう。

筆の穂を、ルーペで拡大して見てみましょう。毛の太さや、毛と毛のすきまのようすを見てみましょう。

水をふくませた筆を白い紙にそっと置き、水がどこまで広がるかを観察しましょう。墨は使わず、水だけで行うのが安全です。

熊野町の産地の解説は、ふでの作り方を文章で確かめる入り口になります[2]。毛の種類ごとの特徴は、百科事典の筆の項目で確かめられます[1]。

毛細管現象は、細いすきまの幅と液体の性質で上がり方が変わる。同じ大きさの筆で、毛の長さや硬さの異なるものを水にひたし、穂のどこまで水が残るかを比べると、毛の組み合わせと保持の関係が見えてくる。結果は筆の作りによって変わるので、比べる条件(毛の種類、穂の長さ、ぬらす時間)をそろえて記録する。

原典は、Wangら(2014年)の論文を、DOIで検索すると要旨が出版社のページで読める[3]。熊野筆の工程は、産地の組合や筆の里工房(熊野町)の公式資料で確かめるとよい[2]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:百科事典(日本語版・英語版のウィキペディア)と、辞典の定義(コトバンク)は、入り口として使うものです。研究は査読つきの学術誌(Advanced Materials)の論文です。細かい数値は原典で確かめてください。

  1. ウィキペディア日本語版「筆」(毛の種類、兼毫、穂の分類)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%86 (ヒツジ・ウマ・イタチ・タヌキ・ウサギなどの毛の性質、弾力と書きやすさを両立させる兼毫)
  2. ウィキペディア日本語版「熊野筆」(起源、盆まぜ・練りまぜ、伝統的工芸品の指定)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%8A%E9%87%8E%E7%AD%86 (江戸時代の行商、盆まぜの発達、1975年の指定。起源は時期が特定できないと明記されている)
  3. Wang, Q., Su, B., Liu, H., Jiang, L. (2014) “Chinese brushes: Controllable liquid transfer in ratchet conical hairs.” Advanced Materials 26(28). https://doi.org/10.1002/adma.201400865 (円すい形の毛、表面の多段の構造、墨の釣り合いをラプラス圧・保持力・重力で説明)
  4. コトバンク「毛管現象」(デジタル大辞泉、日本大百科全書などの定義)。 https://kotobank.jp/word/%E6%AF%9B%E7%AE%A1%E7%8F%BE%E8%B1%A1 (細い管の中で液体が上がる現象と、表面張力・ぬれの関係)
  5. Wikipedia(英語版)“Ink brush”(毛の種類、長い毛は墨を長くもつ、硬い毛は穂先を保つ)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ink_brush (長い毛と硬い毛の役割の説明。百科事典の記述として扱う)

なおした ところ

更新履歴

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