1. 毛と毛のすきまが、墨をひっぱる
1. 毛と毛のすきまが、墨を引き上げる
1. 毛細管現象 ── 毛と毛のすきまが墨を保つ
ガラスの ほそい くだを 水に たてると、水は くだの 中を 少し 上がります。ほそい くだほど、この 上がり方が 大きく なります。これを、もうさいかんげんしょうと いいます。
ふでの 穂でも、毛と 毛の あいだが、ほそい すきまに なって います。そこに 墨が はいりこんで、穂の 中に たまって いると 考えられて います。毛が たくさん あつまって いるほど、すきまも 多く、墨も 多く もてる、という わけです。
毛細管現象は、細い管やすきまの中で液体の液面が外よりも高く(または低く)なる現象です。表面張力が原因で、水のように管の壁をぬらす液体は上がります[4]。
筆の穂では、毛と毛のあいだが、これと似た働きをする細いすきまになっています。1本の毛だけでは、墨を保つすきまが十分にできません。毛を束ねることで、墨を保てる場所が生まれるのです。
2. ふでには、どんな 毛が 使われて いるの?
2. 柔らかい毛と硬い毛を混ぜるわけ
2. 毛の種類と長さ ── 墨を持つ毛、形を保つ毛
ふでの 毛には、いろいろな 動物の 毛が つかわれて います。やわらかい 毛は ヒツジなど、かたい 毛は ウマなど の 毛です。イタチや タヌキ、ウサギの 毛も つかわれます[1]。
やわらかい毛と かたい毛を まぜた ふでを、けんごうと いいます。まぜると、弾力と 書きやすさを、1本の ふでの 中で りょうほう もたせる ことが できます[1]。
3. 墨は、穂の 中を どう うごくの?
3. 毛の形と、向きによって違う墨の保たれ方
3. 円すい形の毛と、向きによって違う保持
毛は、根もとが太くて、先に行くほど細くなっています。この形を、円すい形と いいます。
2014年の研究では、中国の筆の毛の表面に、向きによって ようすが ちがう、大小いくつもの つくりが あると わかって います。その 形と つくりで、墨が 向きに よって たもたれ方が ちがう、と 考えられて います[3]。
4. くまのの ふでづくりは、どう まぜるの?
4. 熊野筆 ── 毛を混ぜ、一本の穂にするまで
4. 熊野筆の起源と、毛を混ぜる2つの技法
ひろしまけんの くまのちょうは、ふでづくりで 有名な まちです。むかし、田んぼの しごとが ない あいだに、きんきの ふでや 墨を 仕入れて、帰り道に うって あるいた 人が いた と いわれて います。ふでづくりの はじまりの 一つと 考えられて います[2]。
毛は、箱の 中で まぜたり、水の 中で のばして おりかさねたり して、ていねいに まぜあわせます。どれも 手の しごとです。1975年に、国の 伝統的工芸品に 指定されました[2]。
広島県の熊野町は、筆づくりで知られる町です。江戸時代、農地の少ない家の人たちは、農閑期に近畿地方で筆や墨を仕入れ、帰り道に売り歩いたといわれています。この行商が熊野と筆づくりを結びつけたとされますが、始まりの時期ははっきりしていません。天明年間(1781〜1789年)ごろには行われていたと推定されています[2]。
熊野の筆づくりでは、毛を混ぜる「練りまぜ」と、乾いた毛を箱(盆)の中でまぜてから湿らせて作業する「盆まぜ」が使われます。盆まぜは明治時代に熊野で発達した技法で、大量の毛を効率よくまぜられます[2]。熊野筆は1975年に伝統的工芸品に指定されました。
熊野筆(広島県熊野町)の起源は、江戸時代後期の農閑期の行商にあったとされる。農地の少ない人々が、近畿地方(奈良、大阪、有馬など)で筆や墨を仕入れて、帰り道に売り歩いた。熊野筆の記事も、この話を「言われている」ものとして書いている。始まりの時期は不明とされ、天明年間(1781〜1789年)ごろには行われていたと推定されている[2]。
毛を混ぜる技法には、伝統的な「練りまぜ」(毛の塊を水の中で薄くのばし、折りかさねて混ぜる)と、明治時代に熊野で発達した「盆まぜ」(乾いた毛を盆の中で混ぜてから湿式で仕上げる)がある。盆まぜは大量生産を可能にし、折りかさねる回数を減らした[2]。熊野筆は1975年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定された。
5. まだ分かって いないことは?
5. まだ分かっていないこと
5. まだ、仕組みの全体は分かっていない
墨が たくさん ふくまれたとき、毛の 中で どう うごくのでしょうか。紙に ついた とき、墨が どう ひろがるのでしょうか。毛の 形と 墨の かんけいは、まだ 研究の とちゅうです。
墨の量が多くなったとき、毛の中で墨がどう動くのでしょうか。紙に触れたとき、墨がどう広がるのでしょうか。毛の形と墨の関係は、まだ研究が続いています。
今わかっている研究は、中国の筆を対象にしたものです。日本の筆にそのまま当てはまるかは、論文では扱われていません。
墨の量が増えたとき、毛の中で流れがどう変わるのか、紙に触れた瞬間にどう広がるのかは、まだ仕組みの全体がつかめていない。
今回取り上げた研究は、中国の筆と墨の組み合わせを対象にしたものである。日本の筆、とくに熊野筆の毛の配合や穂の作り方に、同じ説明がそのまま当てはまるかは、論文の中では扱われていない[3]。
6. じぶんでも しらべて みよう
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
ふでの 穂を、ふだんは 見えない ところまで よく 見て みましょう。ルーペが あれば、毛が どのように あつまって いるかが わかります。
水を ふくませた ふでを、白い 紙に そっと おいて はなして みましょう。水は どこまで ひろがるでしょうか。おうちの 人と いっしょに、墨は つかわず、水だけで やって ください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:百科事典(日本語版・英語版のウィキペディア)と、辞典の定義(コトバンク)は、入り口として使うものです。研究は査読つきの学術誌(Advanced Materials)の論文です。細かい数値は原典で確かめてください。
- ウィキペディア日本語版「筆」(毛の種類、兼毫、穂の分類)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%86 (ヒツジ・ウマ・イタチ・タヌキ・ウサギなどの毛の性質、弾力と書きやすさを両立させる兼毫)
- ウィキペディア日本語版「熊野筆」(起源、盆まぜ・練りまぜ、伝統的工芸品の指定)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%8A%E9%87%8E%E7%AD%86 (江戸時代の行商、盆まぜの発達、1975年の指定。起源は時期が特定できないと明記されている)
- Wang, Q., Su, B., Liu, H., Jiang, L. (2014) “Chinese brushes: Controllable liquid transfer in ratchet conical hairs.” Advanced Materials 26(28). https://doi.org/10.1002/adma.201400865 (円すい形の毛、表面の多段の構造、墨の釣り合いをラプラス圧・保持力・重力で説明)
- コトバンク「毛管現象」(デジタル大辞泉、日本大百科全書などの定義)。 https://kotobank.jp/word/%E6%AF%9B%E7%AE%A1%E7%8F%BE%E8%B1%A1 (細い管の中で液体が上がる現象と、表面張力・ぬれの関係)
- Wikipedia(英語版)“Ink brush”(毛の種類、長い毛は墨を長くもつ、硬い毛は穂先を保つ)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ink_brush (長い毛と硬い毛の役割の説明。百科事典の記述として扱う)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。