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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

おなかの きんが 1ぴきも いない マウスを 作ると、なにが わかるの?

菌を入れたら、食べる量は減ったのに体脂肪が増えた ── 無菌マウスで分かったこと

無菌マウスの実験は何を切り分けたのか ── 菌なしで生きられるかという問いから、免疫・体脂肪・ストレス反応まで

分野:からだ

マウスの おなかに すむ きんを、ぜんぶ なくして 入れなおすと、食べる りょうは へるのに、からだの あぶらが 2しゅう間で 6わりほど ふえた、という 研究が あります[5]。

きんは、からだの 中で なにを して いるのでしょう。それを しらべるために 作られた「むきんマウス」の ことを 知ると、きんを 1つずつ 入れて くらべる という やり方が 分かります。

おなかの菌を持たない無菌マウスに、通常のマウスの腸内細菌を入れると、食べる量はむしろ減ったのに、2週間ほどで体脂肪が約60%増えた、という研究があります[5]。60%は体脂肪の増加率で、体重の増え方ではありません。

菌は体の中で何をしているのか。それを知るために作られたのが「無菌マウス」です。なぜ菌のいない動物が役に立つのか、何を入れて何を比べるのか、免疫・体脂肪・ストレスの3つの例から分かります。

Bäckhedらは2004年、無菌マウスに通常マウスの腸内細菌を入れると、摂食量が減ったにもかかわらず、2週間以内に体脂肪が約60%増えたと報告した(PNAS、抄録による)[5]。60%は体脂肪の増加率であり、体重や食事量の比ではない。

では、菌のいない動物をなぜわざわざ作るのか。無菌マウスは、菌の働きを「あり」と「なし」で比べるための基準になる。この記事では、その成り立ちと、免疫・体脂肪・ストレス反応で何が切り分けられたかが分かる。

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1. きんが いない どうぶつは、生きられるの?

1. 「菌がいない動物は生きられるのか」という問い

1. パスツールの問いと、無菌動物による答え(1885〜1890年代)

1885ねんごろ、フランスの パスツールという 学者が、ふしぎな 予想を 書きました。生まれた ばかりの どうぶつに、きんを ぜんぶ ころした 食べものだけを あげたら、生きて いけなく なるのでは ないか、という 予想です[1]。

パスツールは「そう 思いこんで いるだけかも しれない」と 先に ことわって います。それでも この 問いが、きんの いない どうぶつを 作る じっけんの はじまりに なりました。

答えは、1890年代の なかばに 出ました。ドイツの ベルリンで、ナッタルさんと ティーフェルダーさんが、きんの いない モルモットを 育てました。きんが いなくても、食べものは こなれて、モルモットは 生きられたのです[2]。

じゃあ、きんは いなくても いい 子なの? ところが、そうとも 言えません。つぎの 章で、きんの いない マウスが ふつうの マウスと どう ちがうかを 見て みましょう。

1885年ごろ、フランスのパスツールは、生まれたばかりの動物を殺菌した食べ物だけで育てたら、生きられなくなるのではないか、という予想を書いたと伝えられています[1]。ただしこれは先入観かもしれないと断った上での予想で、どちらの結果でも歓迎するという立場でした。

この問いに答えたのが、ベルリンのナッタルとティーフェルダーです。1890年代なかば(資料により1895年と1896年に分かれます)に、菌のいないモルモットを育て、細菌がいなくても消化と生命が成り立つことを示しました[2]。最初の無菌動物はマウスではなくモルモットでした。

では、菌がいなくて平気なのだとしたら、菌はただの居候なのでしょうか。生きられることと、同じように育つことは別の話です。無菌動物を何世代も安定して育てられるようになると、この差が見えてきます。

パスツールは1885年、新生動物を滅菌した飼料だけで育てれば生存できなくなるだろうという予想を、先入観かもしれないと断ったうえで書いた。ただし結果はどちらでも歓迎するという姿勢で、断定ではない[1]。

この問いに実験で答えたのが、ベルリンのナッタルとティーフェルダーである。無菌のモルモットを育て、細菌がいなくても消化と生命が成り立つことを示した[2]。年は論文受付の1895年と、引用文献表の1896年で資料が割れるため、ここでは「1890年代なかば」とする。また、最初の無菌動物はマウスではなくモルモットだった。最初の無菌マウスは、実中研の資料によれば1958年に米国で作られた。ただし誰が作ったかは、確認した資料には書かれていない。

ところが、生存できるという答えは、菌が不要だという意味にはならない。そもそも無菌動物は、数日の観察ではなく世代をまたいで維持できなければ、比較の基準として使えない。その条件を満たす技術が、次章の主題である。

2. きんゼロの マウスは、どうやって 作るの?

2. 菌ゼロのマウスを作る ── 帝王切開とアイソレータ

2. 無菌マウスの作り方 ── 帝王切開・アイソレータ・里親(1946年〜)

おなかの 中の きんは、赤ちゃんが 生まれる とき、おかあさんから もらいます。だから、生まれる 前に、おかあさんの おなかから マウスを とりだせば、きんが つく 前に まもれます[4]。

この とりだし方を「ていおうせっかい」と いいます。とりだした 赤ちゃんは、きんの 入れない 大きな ふくろのような はこ(アイソレータ)の 中で 育てます。ミルクを 人の 手で あげる ことも、きんの いない おかあさんマウスに 育てて もらう ことも あります[4]。

1946ねん、アメリカの ノートルダム大学の レイニアーズさんたちが、ステンレスの はこと、強い ねつで きんを ころす そうちを 組みあわせて、きんの いない どうぶつを 何世だいも 育てました[2]。

日本では、じっけんどうぶつ中央研究所が 1961ねんに 研究を はじめ、50ねん いじょう つづけて います[4]。

こうして、きんが いる マウスと いない マウスを くらべる 土台が できました。

おなかの菌は、ふつう生まれるときや生まれた直後に母親からもらいます。そこで、無菌マウスは、母親のおなかから帝王切開で無菌的に取り出した胎子を、菌を通さない容器(アイソレータ)の中で育てて得ます。育て方は、人工哺育にするか、無菌の里親マウスに育てさせるかの2通りです[4]。

この方法を何世代も続けられるようにしたのが、1946年、アメリカのノートルダム大学のLOBUNDで、レイニアーズらが組み立てた装置です。ステンレスのアイソレータと、高温高圧で殺菌するオートクレーブを組み合わせて、無菌のげっ歯類を代々維持しました。ラットは帝王切開で取り出し、人の手で授乳したと報告されています[2]。

日本では、実験動物中央研究所(実中研)が1961年に無菌マウスの研究を始め、50年以上にわたって代々維持してきました[4]。無菌の状態は、一度作れば終わりではなく、毎日の世話で守り続けるものです。

さて、こうして育った無菌マウスは、通常のマウスとどこが違うのでしょう。

無菌マウスは、母親から菌をもらう前に取り出す、という発想で作られる。具体的には、帝王切開で無菌的に胎子を取り出し、アイソレータ内で人工哺育するか、無菌の里親に育てさせる[4]。

この方法を実験室の標準にしたのが、1946年のレイニアーズらである。ノートルダム大学のLOBUNDで、ステンレス製アイソレータとオートクレーブを組み合わせ、無菌のげっ歯類を何世代も維持した。ラットは帝王切開で取り出し、人の手で授乳した[2]。数日間だけ無菌にするのではなく、世代をつないで維持できたことが、比較実験の基準を作るうえで決定的だった。

日本では実中研が1961年に研究に着手し、50年以上継代維持してきた[4]。

では、この「基準」となるマウスは、通常のマウスと比べて体の何が違うのか。まず外から見える違いと、免疫の違いを見る。

3. きんが いないと、からだの 中は どう ちがう?

3. 菌がいないと、体の中は何が違うのか

3. 無菌マウスの体の特徴 ── 盲腸・ビタミンK・腸の免疫組織

きんの いない マウスは、おなかの 中が ふつうと ちがうと 言われて います。「もうちょう」と いう 部分が 大きく ふくらみ、水や ねばねばが たまるのです[6]。

また、ふつうの マウスは、おなかの きんが ビタミンKという えいようを 作って くれます。むきんマウスでは、えさに ビタミンKを 足して あげる ひつようが あると 言われます[7]。

いちばん ちがうのは、びょうきから からだを まもる しくみです。ちょうの 中にある、まもりの ための 場所が 小さく、まもりの 道具に なる ぶっしつも 少ない ことが 分かって います。ところが、ふつうの マウスの きんを 入れると、これらは ふつうに 育ちます[3]。

きんは、からだの まもりを 育てる てつだいも して いたのです。

無菌のげっ歯類の特徴は、盲腸が大きくふくれることだと言われます。粘液や消化酵素、水がたまるためで、系統によっては盲腸が体重の最大約20%に達するという報告もあります。ただし20%は最大の例で、遺伝的背景によって差があります[6]。

栄養面では、通常のマウスでは腸内細菌がビタミンKをつくっているので、無菌マウスには餌にビタミンKを加える必要がある、と説明されています[7]。

もっと大きな違いは、免疫です。無菌マウスでは、腸の免疫組織が十分に育ちません。パイエル板が小さく、腸の上皮に入りこむリンパ球が少なく、分泌型IgAという抗体が低いことが知られています。通常のマウスの菌を入れると、これらが正常に発達します[3]。

菌は、免疫の「育ち」に関わっていることになります。では、どんな菌がどの部分を育てているのでしょうか。

無菌のげっ歯類は、盲腸が大きくふくらむことが特徴とされる。粘液物質・消化酵素・水がたまるためで、B6系統では盲腸が体重の最大約20%に達する例がある。ただし20%は最大値で、遺伝的背景によって差が大きい[6]。

栄養面では、通常マウスでは腸内細菌が供給しているビタミンKを、無菌マウスでは餌に添加する必要がある[7]。

免疫では差がはっきりしている。無菌マウスはパイエル板が小さく、上皮内リンパ球が少なく、分泌型IgAが低い。通常マウスの菌を入れると、これらの免疫組織は正常に発達する[3]。したがって、腸内細菌は免疫系が「育つ」ための刺激源の1つと考えられる。

では、その刺激はどの菌から来るのか。全部の菌を一度に入れたのでは、これは分からない。次章は、菌を絞って入れる実験である。

4. きんを 1しゅるいずつ 入れたら?

4. 菌を1種類ずつ入れてみる ── 制御性T細胞の例

4. 菌を限定して入れる ── 大腸の制御性T細胞と食物繊維(2010・2013年)

きんの いない マウスなら、入れる きんを 自分で 決められます。ここが、むきんマウスの いちばん べんりな ところです。

2010ねん、日本の 研究チームが、きんの いない マウスの 大きな ちょうを しらべました。体を おちつかせる 役めの 細ぼう(Tさいぼう)が、ほとんど 育って いませんでした。そこへ、クロストリジウムと いう なかまの きんを 46しゅるい 入れると、ふつうの マウスと 同じ 数まで ふえました[8]。

2013ねんには、理化学研究所などが、もっと くわしく しらべました。この 細ぼうが ふえたのは、食べものに 食物せんいが 多かった ときでした[9]。

きんだけでも、えさだけでも、足りなかったのです。1つずつ 入れて くらべたから、そこまで 分かりました。

無菌マウスの強みは、入れる菌を研究者が選べることです。通常のマウスは何百種類もの菌と暮らしているので、どの菌の仕業か分けられません。無菌マウスなら、「何も入れない」「この菌だけ入れる」を比べられます。

2010年、東京大学などの研究チームは、無菌マウスの大腸で、免疫の暴走を抑える制御性T細胞が大きく減っていることを見つけました。クロストリジウム属の46株を入れると、通常のマウスと同じ数にまで増えたと、JSTが発表しています[8]。大腸のCD4陽性T細胞に占める割合は、約8.8%から約35.7%へ(約4倍)と報告されました。この数字は割合であって、細胞の個数ではありません。

2013年には、理化学研究所などが、クロストリジウム目の細菌を定着させた無菌マウスで、大腸の制御性T細胞が増えるのは、食物繊維の多い餌のときだったと報告しています。短鎖脂肪酸の酪酸が関わるとされました[9]。菌だけでも餌だけでも足りない、ということです。

ここまでは、免疫という「小さな細胞」の話でした。では、体の見た目や重さに響く変化は、あるのでしょうか。

通常のマウスは多種多様な菌と共生しているため、ある変化がどの菌に由来するのかを分けられない。無菌マウスなら「菌なし」「特定の菌だけ」を比べられる。この性質を使った例が制御性T細胞(Treg)の研究である。

2010年、東京大学などは、無菌マウスの大腸でTregが激減していること、クロストリジウム属46株を入れると通常マウスと同数まで増えることを報告した(Science、JST発表)[8]。大腸のCD4 T細胞に占めるTregの割合は8.81%から35.7%へ、約4倍になった。35.7÷8.81≒4.05で桁は合う。ただし、これは割合であって細胞数の比ではない。

では、その増加は菌だけで決まるのか。2013年、理化学研究所などはクロストリジウム目の細菌を無菌マウスに定着させ、Tregが増えるのは食物繊維の多い餌のときだったと報告した(Nature、短鎖脂肪酸の酪酸が関与)[9]。高繊維食でのみ増えたので、菌がいるだけでは不十分だということになる。

こうした「菌と餌の組み合わせ」は、通常のマウスでは分けにくい。無菌マウスを使う実験が、因果を絞りこむ方法であることがわかる。次は、体脂肪の例である。

5. 食べる りょうが へったのに、あぶらが ふえた

5. 食べる量が減ったのに、体脂肪が増えた

5. 菌の導入と体脂肪 ── Bäckhed(2004)とTurnbaugh(2006)

2004ねん、アメリカの 研究チームが、大人の むきんマウスに、ふつうの マウスの おなかの きんを 入れました。すると 2しゅう間で、からだの あぶらが 6わりほど ふえました。食べる りょうは、むしろ へって いました[5]。

あぶらが ふえた わけは、きんが いると、食べものの とうを ちょうが たくさん すい取り、あぶらを 作る はたらきが 進むからだと 考えられて います[5]。

2006ねんには、ふとった マウスの きんと、やせた マウスの きんを、べつべつの むきんマウスに 入れる じっけんが ありました。ふとった マウスの きんを もらった ほうが、あぶらが たくさん ふえました[10]。

ただし、「ふとるのは きんの せい」とは 言えません。きんは、ふとり方に かかわる 理由の 1つに すぎません。

2004年、アメリカの研究チームは、通常のマウスの腸内細菌を無菌の成体マウスに入れました。すると、2週間以内に体脂肪が約60%増え、インスリン抵抗性も現れました。ところが、食べる量はむしろ減っていました[5]。

理由として、菌がいると腸での糖の吸収が増え、脂肪の合成が進むことなどが挙げられています。同じ餌でも、体の使い方が変わるということです。数字は論文抄録の要約による値で、60%は体脂肪の増加率です。

2006年のTurnbaughらの実験は、さらに一歩進みました。肥満マウスの腸内細菌と、やせたマウスの腸内細菌を、それぞれ別の無菌マウスに入れたのです。肥満マウスの菌を受け取った方が、体脂肪が有意に多く増えました。肥満の菌には、食べ物からエネルギーを取り出す力が強い、と著者は結論しています[10]。

これは「肥満は菌でうつる」という意味ではありません。著者は、肥満の唯一の原因ではなく、追加の要因の1つだと述べています。マウスの結果を、そのまま人に当てはめることもできません。

では、菌の影響は、体だけでなく心の動きにまで及ぶのでしょうか。

Bäckhedらは2004年、通常マウスの腸内細菌を無菌の成体マウスに入れると、14日で体脂肪が約60%増え、インスリン抵抗性も出ることを報告した。しかも摂食量は減っていた。この増加は、腸での単糖の吸収の増加、脂肪合成の進行、そしてFiafの抑制によると解釈されている(PNAS、抄録による)[5]。食べる量が減ったのに脂肪が増えたので、摂取量だけでは説明がつかない。菌が、同じ餌からの取り出し方や使い方を変えたと考えるのが自然である。

この「取り出し方」の差を示したのが、Turnbaughら(2006、Nature)の移植実験である。肥満マウスと痩せマウスの腸内細菌を、それぞれ別の無菌マウスに入れた。肥満マウスの菌を受け取った群は、体脂肪が有意に多く増えた。著者は、肥満の腸内細菌叢は食事からエネルギーを取り出す力が増していると結論した[10]。

ただし限界は大きい。著者は、これを肥満の唯一の原因ではなく追加の要因と位置づけている。マウスの結果であり、人にそのまま当てはまるとは言えない。

体の脂肪から、次は、脳とストレスへの反応に目を向ける。

6. きんは、ドキドキにも かかわる?

6. 菌がいないと、ストレスへの反応も変わる

6. ストレス反応と菌 ── 須藤らの研究(2004)

こんどは 心の はなしです。2004ねん、日本の 九州大学の すどうさんたちの 研究チームが、マウスを 動けなく して、ストレスを かけました[11]。

すると、きんの いない マウスは、ふつうの マウスより ずっと 強く、ストレスの ときに 出る ホルモンが 出ました。あたまの 中の BDNFと いう ぶっしつも、少なめでした[11]。

そこへ ビフィズスきんを 入れると、反おうが もどりました。生まれて すぐの 早い うちに きんを 入れた ときだけ、一部が もどりました[11]。

これは マウスで 分かった ことです。人にも そのまま 同じ ことが 起きる とは 言えません。それでも、おなかの きんが、あたまにまで かかわるかも しれない、という 見方を ひらいた じっけんでした。

2004年、九州大学の須藤信行さんらは、無菌マウスに拘束ストレスをかけて、ストレスホルモン(ACTHとコルチコステロン)の反応を調べました。無菌マウスは、通常(SPF)のマウスよりずっと強く反応し、脳のBDNFという物質も低くなっていました[11]。

ビフィズス菌(B. infantis)を入れると、この強い反応はもとにもどりました。生まれて早い時期に菌を入れたときだけ、一部がもどったという結果もあります。つまり、菌をいつ入れるかにも意味がありそうです[11]。

注意したいのは、エーテルという別の刺激では差が出なかったことと、これがマウスの実験だという点です。人の気持ちやストレスの強さが、おなかの菌で決まるという意味ではありません。この実験では、腸内細菌の有無で、マウスの拘束ストレスへのホルモン反応が違いました。

無菌マウスは、こうして免疫、体脂肪、ストレスと、まったく別々の場所で「菌の働き」を見せてくれました。

須藤らは2004年、無菌マウスに拘束ストレスをかけると、ACTHとコルチコステロンの反応が通常(SPF)マウスよりはるかに強く、脳のBDNFも低いことを報告した(J Physiol)[11]。

ビフィズス菌(B. infantis)を入れるとこの亢進した反応は戻り、SPFマウスの糞便を生後早い時期に入れたときは、一部のみ戻った。このため、菌を入れる時期が重要な条件になることが示唆される。一方、エーテル刺激では差が出ない。つまり、どんな刺激でも菌の有無が効くわけではなく、拘束という刺激に対する反応の差だと読むのが正確である[11]。

これはマウスでの結果である。人の気分や心の状態を、腸内細菌で説明できるという主張には使えない。この実験では、「菌なし」のマウスと「菌を足した」マウスを比べることで、腸内細菌の有無によってホルモン反応が違うことが示された。

免疫・体脂肪・ストレスの3例を並べると、無菌マウスの意味が見える。因果を切り分けるための、ゼロ点の基準である。

7. もし 君が けんきゅうしゃなら、なにを そろえる?

7. 比べるとき、何をそろえるか ── 無菌マウスの実験から考える

7. 出口 ── 「比べる条件のそろえ方」を原典で確かめる

むきんマウスの じっけんで だいじなのは、「ちがう ところは 1つだけ」に する ことです。きんを 入れる か どうか だけを ちがえて、あとは 同じに します。

たとえば、おなじ 2つの はちに 豆を まいて、かたほうには 水を あげて、もう かたほうには あげなかったら、どう なるでしょう。水の ほかは、日なた、土の りょう、おなじに そろえます。ためすなら、おうちの 人と いっしょに やって みて ください。

えさの りょうも、けっかを かえる じょうけんの 1つです。2013ねんの じっけんでは、えさの 食物せんいの りょうが ちがうだけで、けっかが かわりました。そろえ わすれると、まちがった 答えに なる かも しれません。

さて、あなたの おなかにも、たくさんの きんが すんで います。それは「からだの 一部」と 言って いいほど、大きな 役めを して いる のかも しれません。もっと 知りたい 人は、下の「出てん」の ページを、おうちの 人と 見て みて ください。

無菌マウスの実験でいちばん大切なのは、「違いを1つだけにする」ことです。菌を入れるかどうかだけを変え、餌も部屋も世話も同じにします。2013年の実験で、餌の食物繊維の量という条件が結果を左右したことは、そろえ忘れが誤った答えにつながりうることを示しています[9]。

身近な形で試すなら、同じ種類の豆を2つの鉢にまいて、片方だけ水の量を変えてみる方法があります。日当たりと土の量は同じにし、毎日同じ時刻に水をあげて、1週間後の芽の高さを比べます。結果を見て、どの条件が効いたかを考える練習になります。

原典を読むなら、理化学研究所とJSTの発表資料が、日本語で読めます[9][8]。Bäckhedらの論文はPubMedの抄録が英語で読めます[5]。

私たちのおなかにも、たくさんの菌がいます。その菌を「体の一部」として見直すと、食べ物や成長の見え方が少し変わるかもしれません。ただし、マウスの結果を人にそのまま当てはめることはできないので、次に知りたいのは「人でも同じことが言えるのか」です。

無菌マウスの実験の本質は、条件を1つだけ変えて比べることにある。2010年のTregの例は、菌の有無だけを変えた単純な比較だった。2013年の例は、そこに餌の食物繊維という第二の条件が加わると結果が変わることを示した[9]。条件のそろえ方が不十分なら、結論は菌の効果として誤って読まれる。

原典に当たるなら、JST・東京大学の発表(2010)[8]、理化学研究所の発表(2013)[9]が日本語で読める。Bäckhed[5]、Turnbaugh[10]、Sudo[11]は英語で読める論文である。まず、各論文の「何をそろえ、何を変えたか」の箇所に注目して読むとよい。

残る問いは、人への当てはめである。マウスの腸内細菌を入れた場合と、人の腸内細菌を無菌マウスに移した場合とでは、解釈に限界がある。無菌マウスの実験は、答えをすぐ与えるものではなく、問いを絞りこむ方法として使われている。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:Reyniers 1949(Nature)と文献目録、2023年のFrontiers in Immunologyの総説、実中研の資料、PMCの論文、Bäckhed・Turnbaugh・須藤らの論文、JSTと理化学研究所の発表、無菌動物の解説記事を使った。約4倍は、割合8.81%と35.7%から筆者が計算した。Bäckhedらの数字は抄録の要約による。

  1. Reyniers ら, Nature, 1949(パスツールの1885年の問いに触れた部分)。 https://www.nature.com/articles/163067a0 (パスツールの問いについて)
  2. Frontiers in Immunology, 2023(無菌動物の歴史の総説)。 https://frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2023.1275109/full (ナッタルらの無菌モルモットと、1946年のアイソレータについて)
  3. PMC3288745(腸内細菌と免疫発達の論文)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3288745 (無菌マウスの腸の免疫組織について)
  4. 公益財団法人実験動物中央研究所 アーカイブ資料。 https://www.ciea.or.jp/about/pdf/archives/archives02.pdf (日本での無菌マウスの研究と作り方について)
  5. Bäckhed ら, PNAS, 2004(PubMed抄録)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15505215/ (菌の導入と体脂肪の増加について)
  6. Nutrients, 2023(無菌げっ歯類の盲腸の肥大と遺伝的背景)。 https://doi.org/10.3390/nu15030636 (盲腸の肥大について)
  7. Taconic, A Brief History of the Use of Microfloras in Gnotobiotic Rodents。 https://www.taconic.com/services/microbiome/brief-history-of-the-use-of-microfloras-in-gnotobiotic-rodents (ビタミンKの補給について)
  8. 科学技術振興機構・東京大学 共同発表, 2010年12月24日。 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20101224-2/index.html (クロストリジウム属46株と制御性T細胞について)
  9. 理化学研究所 プレスリリース, 2013年11月14日。 https://www.riken.jp/press/2013/20131114_1/index.html (食物繊維と制御性T細胞の増加について)
  10. Turnbaugh ら, Nature 444:1027, 2006。 https://ideas.repec.org/a/nat/nature/v444y2006i7122d10.1038_nature05414.html (肥満マウスの菌の移植実験について)
  11. Sudo ら, J Physiol, 2004。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1664925/ (無菌マウスのストレス反応について)

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