1. さいきんは ほんとうに 人の 10ばい いるの?
1. 体の中の細菌は、本当に人の細胞の10倍もいるのか
1. 「細菌は人の細胞の10倍」という数字は、なぜ見直されたのか
体の 中に いる 細菌の かずは、むかしは「人の 細胞の 10ばい」と いわれて いました。
ところが 2016ねんの 見なおしで、ようすが かわりました。体重 70キロの 大人の 男の人を 目安に すると、細菌は やく38兆こ、人の 細胞は やく30兆こ。ほぼ 1たい 1と 見つもられました[1]。
38兆こは、世界の 人口を 80おく人と して、4000ばいを こえる かずです。それでも 細菌ぜんぶの 重さは、やく0.2キロ。たまご 3こ ぶんぐらいです。
これは 計算で 出した 見つもりで、「ちょうど おなじ」と いう 意味では ありません。では、人が 消化できなかった 食べものは、どこへ 行くのでしょうか。
「体の中の細菌は、人の細胞の10倍もいる」。理科の本や記事で、一度は見かけた人もいるかもしれません。ところが2016年に、数え方そのものが見直されました。
体重70kgの標準的な成人男性を基準にすると、細菌は約38兆個、ヒトの細胞は約30兆個。比はおよそ1対1です。細菌の総重量は約0.2kgと見積もられました[1]。体重の0.3%ほどで、卵3個分くらいです(0.2÷70の計算)。
数は上限ではなく推定値で、「ちょうど同じ」と言い切れるものでもありません。それでも、世界の人口を約80億人とすると、細菌の約38兆個はその4000倍以上です。同じくらいの数の細菌が体にすんでいるなら、何を食べて暮らしているのでしょうか。
「体内の細菌数はヒトの細胞数の約10倍」という数字は、長く引用されてきた。これを2016年に見直したのが、Sender・Fuchs・Miloらの推定である。基準は体重70kgの標準的な成人男性で、細菌は約38兆個、ヒトの細胞は約30兆個、比はおよそ1対1と見積もられた。細菌の総重量は約0.2kgである[1]。
これは実測ではなく推定値であり、上限を求めた計算でもない。体重に対する割合は0.2÷70で約0.3%にすぎない。数は同じ桁でも、体の重さにはわずかしか寄与しない。にもかかわらず、世界の人口を約80億人とすれば、38兆個はその4000倍以上にあたる。重さが小さくても、数は多い。
この細菌のほとんどは大腸にいる。では、彼らは何を栄養にしているのか。次は、人が食べたもののうち、人自身が使えずに大腸へ届く部分を追う。
2. 人が こなせない 食べものは、どこへ いくの?
2. 人が消化できない食物繊維は、どこへ行くのか
2. 小腸で消化されない食物繊維は、大腸でどうなるのか
やさいや まめに ふくまれる 食物繊維は、人の 体の 消化の ちからでは、ほとんど こなせません。小腸では こなれにくくて、一部は 大腸まで とどきます[2]。
そこに いる 腸内細菌が、これを つかって ふえます。ある 細菌の なかまは、さとうを こなしたり とりこんだり する しくみに かかわる 遺伝子を 300こ いじょう もっていると 報告されて います[3]。人の 体は、さとうを 切る ための 酵素が ひかくてき 少ない、と いわれます。
人が のこした ごはんを、細菌が ごちそうに する、と 考えると わかりやすいでしょう。ただし 本当は、細菌が「もらって いる」のでは なく、大腸で ふえる 力を もつ、と いう ことです。
では、細菌は 食物繊維を たべて、なにを つくるのでしょうか。
野菜や豆に多い食物繊維は、人の消化酵素では消化されにくい成分の集まりです。小腸では消化されにくく、一部は大腸まで届きます[2]。大腸では、腸内細菌が食物繊維を使います。
腸内細菌のバクテロイデス属の一種には、多糖や糖を分解する酵素、糖を取り込むしくみなどの遺伝子が、あわせて308個あるという報告があります。人の体は、炭水化物を分解する酵素が比較的少ないとされています[3]。人が使えない糖でも、細菌にとっては食べ物になるのです。
人が残したごちそうを、細菌が受け取る。そう言うとわかりやすいのですが、たとえ話の通りに「分けてあげている」わけではなく、届いたものを使って増える力が細菌の側にある、ということです。
では、食べた細菌は、あとに何を残すのでしょうか。
食物繊維は、人の消化酵素では消化されにくい食物中の成分の総体とされる。そのため小腸では消化されにくく、一部は大腸まで届き、そこにいる腸内細菌が利用して増える。人の体は食物繊維を自力ではほとんど分解できないからである[2]。
では、細菌の側にはどんな備えがあるのか。バクテロイデス属の一種、Bacteroides thetaiotaomicron のゲノム解析では、多糖や糖を分解する酵素、糖に結合するタンパク質、取り込みの輸送系、調節因子などの遺伝子が308個見つかったと報告されている。ヒトは炭水化物を分解する酵素が比較的少ない、という対比も述べられている[3]。ただしこれは1種の細菌についての報告であり、腸内細菌全体の話に広げることはできない。
人が消化できずに残した成分が、細菌の食べ物になる。この分担があるから、大腸の中で細菌は増える。では、食べた細菌は、そのあと何を作るのか。
3. さいきんが 食物せんいを たべると、なにが できるの?
3. 細菌が食物繊維を食べると、何ができるのか
3. 発酵でできる短鎖脂肪酸は、腸の細胞にどう使われるのか
水に とける 食物繊維を 細菌が たべて 発酵すると、短鎖脂肪酸と いう ものが できます。そのなかの 酪酸は、大腸の 細胞の えいように なります[4]。
また、酢酸と いう ものも できます。理研の マウスの 研究では、腸の 中で はたらく 抗体の IgAが 細菌に どう 反応するかを かえて、腸内細菌の ととのえに かかわると 報告されて います[5]。
つまり、細菌が 食べて できた ものを、こんどは 体の ほうが つかって いる、と いう つながりが あります。では、体の ぼうえいの はたらきとは、どんな かんけいが あるのでしょうか。
水に溶ける食物繊維を腸内細菌が発酵させると、短鎖脂肪酸ができます。そのうち酪酸は、大腸の細胞の栄養になります。有益な細菌が増えやすい環境をつくる役割もあるとされます[4]。
短鎖脂肪酸の一つ、酢酸についても研究があります。2021年の理化学研究所の発表によると、マウスの研究で、酢酸は腸の免疫抗体IgAの細菌への反応性を変え、腸内細菌の制御に関わると報告されています[5]。
細菌が食べて作ったものを、体が栄養や調整役として使う。この循環があるのです。では、免疫との関わりは、どのくらい調べられているのでしょうか。
水に溶ける食物繊維を腸内細菌が発酵すると、短鎖脂肪酸が生じる。このうち酪酸は大腸の細胞に栄養を与えるほか、有益な細菌が増えやすい環境を整える役割もあると説明される[4]。つまり、細菌の産物が、住処である大腸の細胞の栄養源になる。
別の短鎖脂肪酸である酢酸については、2021年の理化学研究所の発表がある。マウスの研究で、酢酸が腸の免疫抗体IgAの、細菌への反応性を変えることで、腸内細菌の制御に関わるという内容である[5]。栄養としてだけでなく、免疫の側へも働きかける物質である可能性を示す。ただし、各短鎖脂肪酸の量や、人で何が起きているかには、この資料では踏みこまない。
では、細菌の産物は免疫を動かすのか。次に、マウスの実験を見る。
4. 食物せんいで、おなかの ぼうえいが かわるの?
4. 食物繊維を多く食べたマウスで、炎症を抑える免疫細胞が増えた
4. 酪酸は、炎症を抑える免疫細胞をどう増やすのか
理研の 研究チームは、マウスで 実験を しました。食物繊維が 多い えさを 食べた マウスの 腸では、細菌の はたらきが 高まり、酪酸が たくさん できて いました[6]。
すると、体の 中の 炎症を おさえる はたらきを もつ 細胞が、大腸で ふえました。この 細胞は「制御性T細胞」と いいます[6]。
さらに、さいきんの いない マウスに ある 種類の 細菌を すませると、やはり この 細胞が ふえました。細菌の 種類で、体の ぼうえいの ようすが かわる、と いう ことです。
これは マウスの 実験の 結果です。人でも おなじと 言い切る ことは できません。では、細菌は ビタミンも つくるのでしょうか。
理化学研究所と共同研究グループは、2013年にマウスの実験を発表しました(科学誌 Nature に掲載)[6]。食物繊維を多く含む食事を与えたマウスでは、少ない食事のマウスに比べて、腸内細菌の活動が高まり、酪酸が多く作られていました。そして大腸では、炎症を抑える働きをもつ制御性T細胞が増えていました。
別の実験もあります。細菌のまったくいない無菌マウスに、クロストリジウム目の細菌を定着させると、やはり大腸の制御性T細胞が増えました[6]。細菌の種類によって、免疫の様子が変わるということです。
これはマウスでの結果で、人でも同じとは言い切れません。それでも、食べたものから細菌、細菌から免疫へ、という道すじの一例が、実験で示されたことになります。では、細菌が作るのは、こうした物質だけなのでしょうか。
腸内細菌の産物と免疫をつなぐ実験として、理化学研究所を含む共同研究グループが2013年にNature誌へ発表した結果がある。高繊維食を与えたマウスでは、低繊維食のマウスより腸内細菌の活動が高まり、代謝産物の酪酸の産生量が増えていた。そして大腸では、炎症を抑える免疫細胞である制御性T細胞が増えていた。酪酸が、制御性T細胞の分化に重要な遺伝子Foxp3の周辺で、ヒストンのアセチル化を促し、分化を後押しする仕組みも示された[6]。
もう一つの実験では、無菌マウスにクロストリジウム目に属する細菌を定着させると、大腸の制御性T細胞が増えた[6]。つまり、腸内細菌が何をするかだけでなく、どの細菌がいるかも免疫に関わる。
ただし、これらはマウスの結果であり、人でも同じ割合で起こるとは言えない。また、1つの食事条件と1つの物質の組み合わせであり、食物繊維が免疫を直接変えると言い切る根拠にはならない。それでも、このマウス実験では、食べ物、細菌、産物、免疫細胞という4段階がつながる仕組みが示された。では、細菌が作るのは、こうした物質だけなのか。
5. さいきんが ビタミンを つくるなら、ごはんは いらないの?
5. 細菌がビタミンを作るなら、食事はいらないのか
5. 腸内細菌が作るビタミンで、必要量はまかなえるのか
腸内細菌は、ビタミンKという ビタミンも つくる ことが 知られて います。大腸菌などが つくりますが、どれだけ 体に とりこまれて、必要な りょうの どのくらいを まかなうのかは、はっきり していません[7]。
ほかの ビタミンに ついては、細菌の 遺伝子を しらべた 研究が あります。256しゅるいの 細菌を しらべると、8しゅるいの Bの なかまの ビタミンの ひとつひとつを つくる 道を もつ 細菌が、40から65%と 予想されました[8]。
これは 遺伝子から 予想した ものです。じっさいに どれだけ つくられ、人が どれだけ とりこむかは、べつの もんだいです。だから、ごはんから ビタミンを とる ことは、やはり 大切です。
腸内細菌は、ビタミンK2(メナキノン)も作ります。大腸菌やバクテロイデス属などが作ります。ただし、吸収される量や、必要量をどの程度満たすのかは、はっきりしていません。ビタミンKについては、必要量を満たすほどではないとされる、という説明と、少なくとも一部は満たすと考えられている、という説明があります[7]。
B群ビタミンについては、256種のヒト腸内細菌のゲノムを調べた研究があります。8種類のB群ビタミンのそれぞれを作る経路を持つ細菌が、40〜65%いると予測されました[8]。ただし、遺伝子からの予測です。実際にどれだけ作られ、人がどれだけ吸収するかは、別の問題です。
細菌がビタミンを作れることと、食事から取らなくてよいことは、別の話です。この資料だけから、食事が不要になるとは言えません。
腸内細菌がビタミンを作る、という話は、どこまで人の必要を満たすのだろうか。ビタミンK2(メナキノン)は、大腸菌やバクテロイデス属などが腸内で作る。ただし、吸収される量や必要量をどの程度満たすかは明らかでない。必要量を満たすほどではないとする説明がある一方、少なくとも一部は満たすと考えられているとする資料もある[7]。そのため、「腸内細菌だけでビタミンKが足りる」とは言えない。
B群ビタミンについては、ヒト腸内細菌256種のゲノムを解析した2015年の研究がある。8種類のB群ビタミンのそれぞれについて、合成経路を持つと予測された細菌は40〜65%だった。さらに、1種の細菌が全部を作るのではなく、細菌どうしが分担して補い合う可能性が示されている[8]。ただしこれは遺伝子からの予測であり、実際の産生量を測ったものではない。人の吸収量も別の問題である。
予測と実測は異なる。遺伝子があることと、必要な量が作られて体に届くことの間には距離がある。この資料だけから、「細菌がビタミンを作る」ことで「食事から取る必要がなくなる」とは言えない。両者は分けて考えるべきである。
6. ふだんの 食べものの ひょうじを 見て みよう
6. 食べ物の表示から、食物繊維の量を探してみる
6. 食品表示と原典から、食物繊維と腸内細菌のつながりを確かめる
おうちの 食べものの ふくろや かんの うしろに ある ひょうじを 見て みましょう。
- 「食物繊維」の かずを 見つける。 ごはん、パン、まめ、やさいを つかった 食べものの ひょうじで、食物繊維の かずを くらべます。ひょうじが ない ものも あります。見つからない ときは、ひょうじの ある ほかの 食べものを 見て みましょう。
- おうちの 人に きく。 「どんな ものを たべると、食物繊維が とれると いわれて いる?」と、聞いて みましょう。
今日できること
- 食品表示で食物繊維を見比べる。家にあるパンやシリアル、豆、野菜加工品などの栄養成分表示で、食物繊維の量を比べます。同じ分量で並べると比べやすくなります。表示のない商品もあります。
- 理研の発表を読む。理化学研究所のウェブサイトには、2013年の研究のプレスリリースが日本語で載っています。マウスの図や実験の説明を、本文と見比べてみてください。
手を動かして確かめる
- 食品表示を同じ量にそろえて比べる。家にある食品の栄養成分表示から食物繊維を探し、100gあたりに換算して比べる。表示義務のない商品があること、水溶性・不溶性の区別は通常書かれないことにも気づく。
- 原典の読み方。理化学研究所の2013年のプレスリリースと、2016年のPLOS Biologyの推定を見比べる。本文の「細菌の数」「マウスの結果」が、どの条件と推定式から出ているかを探す。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の資料にもとづいています。
- Sender R, Fuchs S, Milo R. Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLOS Biology (2016). https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002533 (細菌と人の細胞の数・重さ)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-001 (食物繊維と消化)
- Polysaccharides utilization in Bacteroides thetaiotaomicron. BMC Genomics (2013). https://link.springer.com/doi/10.1186/1471-2164-14-873 (糖を分解する遺伝子)
- Linus Pauling Institute 微量栄養素情報センター「腸の健康」. https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/健康と疾患/腸の健康概要 (酪酸と大腸の細胞)
- 理化学研究所 プレスリリース (2021-07-15). https://www.riken.jp/press/2021/20210715_1/index.html (酢酸とIgA)
- 理化学研究所 プレスリリース (2013-11-14, Nature掲載). https://www.riken.jp/press/2013/20131114_1/index.html (酪酸と制御性T細胞、マウス)
- 東北大学病院 資料(ビタミンK). https://www.hosp.tohoku.ac.jp/pc/img/tyuuou/hiroba03.pdf (腸内細菌とビタミンK)
- Systematic genome assessment of B-vitamin biosynthesis suggests co-operation among gut microbes. Frontiers in Genetics (2015). https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fgene.2015.00148/full (B群ビタミンの合成経路の予測)
なおした ところ
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