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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

かばの あかい あせは、ひやけどめ なの?

カバの赤い「汗」は皮膚を日ざしから守るのか ── 血でも汗でもない液の正体

カバの赤い分泌液は皮膚を日ざしから守るのか ──2種類の色素と、実験室の結果の限界

分野:生きもの

かばは、あかい 汗あせを かく と いわれて います。でも ちでは ありません。でた ばかりの ときは、いろが ない ねばねばした えきです。

この えきは、おひさまの ひかりを ふせぐ のでしょうか。ひやけどめの ような はたらきが ありそうだと いう ことと、まだ わかって いない ことが わかります。

カバは「血の汗」をかく、と昔からいわれます。ところが、その液は血ではなく、体から出た直後は色さえついていません[3]。この液の色のもとになる2つの色素は、紫外線を吸う性質をもつと報告されています[4]。

では、赤い液は強い日ざしから皮膚を守る日焼け止めなのでしょうか。実験室で分かったことと、生きたカバについてはまだ言えないことが分かります。

カバの「血の汗」は、血ではない。しかも分泌された直後は無色で、数分で赤く、のちに茶色へ変わる[3]。この色の変化を追った研究から、2種類の色素が見つかり、どちらも紫外線を吸収することが報告された[4]。では、これは日焼け止めと呼べるのか。

色素の性質、実験室で確かめられたこと、生きたカバについて言えないこと、そして日焼け止め説への疑問が分かる。

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1. あかい えきは、ちなの?

1. 「血の汗」は血でも、ふつうの汗でもない

1. 色が変わる分泌液 ── 血ではなく、厳密には汗でもない

かばが みずから あがった ところを みると、はだが あかく ぬれて いる ことが あります。それで むかしから「ちの あせ」と よばれて きました。

でも、あれは ちでは ありません[1]。ふつうの 汗あせとも すこし ちがいます。かばの 皮膚ひふには、あせを だす ちいさな 汗腺かんせんが ないと、じてんには かいて あります[2]。かわりに、もっと おおきくて ふかい ところに ある ところから、ねばねばした えきが でて きます[1]。

この えきは、でた ばかりの ときは いろが ありません。すう ふん たつと あかく なり、そのうち ちゃいろに かわります[3]。

いろが ないものが、どうして あかく なるのでしょう。

カバが水から上がったとき、体が赤っぽくぬれていることがあります。そのため昔から「血の汗」と呼ばれてきました。世界大百科事典も、カバの皮膚に汗腺はなく、赤い色素をふくむ分泌物を出す腺がある、と説明しています[2]。

この分泌物は血ではありません。報道では、厳密には汗でもなく、もっと大きく深い腺から、目に見える皮膚の穴を通って出ると紹介されています[1]。

いちばん意外なのは色です。出た直後は無色でねばりけがあり、数分のうちに赤くなり、やがて茶色に変わります[3]。血の色に見えて、実は時間とともに変わる色なのです。

では、この色をつけているのは何者なのか。調べた人たちがいます。

カバの分泌液は、血ではなく、厳密には汗でもない。二次資料の報道によれば、より大きく深い腺から、肉眼で見える皮膚の穴を通って出る[1]。世界大百科事典も、カバの皮膚には汗腺がなく、赤い色素を含む分泌物を出す腺があると記し、この分泌物が「血の汗」と呼ばれる、と説明する[2]。

いっそう不思議なのは色の経過である。分泌された直後は無色でねばりけがあり、数分のうちに赤くなり、やがて色素どうしが結びついて(重合して)茶色になる[3]。つまり「赤い汗」という呼び名は、変化の途中の一場面を指しているにすぎない。

では、この色の変化を起こしているのはどんな物質か。それを取り出そうとした研究がある。

2. かばの えきの あかい いろは、なにで できて いるの?

2. 取り出された2つの色素は、紫外線を吸いとっていた

2. ヒポスドリック酸とノルヒポスドリック酸 ── 紫外線を吸収する2つの色素

2004ねん、にほんの けんきゅうグループが、かばの えきから 2しゅるいの 色素しきそを とりだしました。ひとつは あかい いろ、もうひとつは だいだいいろ です[4]。

この 2つの 色素しきそは、どちらも 紫外線しがいせんを よく すいとる と わかりました[5]。紫外線しがいせんは、ひやけの げんいんの ひとつに なる ひかりです。

ひやけどめも、紫外線しがいせんを ふせぐ ものです。だから けんきゅう した ひとたちは「ひやけどめのような はたらきを するのでは」と かんがえました[5]。

ちなみに、この 色素しきそは とても こわれやすく、とりだした だけでは すぐ いろが かわって しまいます。ねばねばの えきと いっしょに はだの うえで かわくと、すう じかんは いろが のこると されて います[3]。

2004年、京都薬科大学の橋本貴美子さんたちと慶應義塾大学の研究者が、カバの分泌液から色のもとになる2つの色素を取り出し、科学雑誌『Nature』に報告しました[4]。ひとつは赤い色素のヒポスドリック酸、もうひとつは橙色のノルヒポスドリック酸です。

実験室で調べると、どちらの色素も、光の吸収が紫外線の領域でいちばん強くなりました[5]。紫外線から可視光までのかなり広い範囲の光を吸います。紫外線をさえぎる材料になりうる性質で、これが「日焼け止めのような働き」と言われる根拠です。ただし、この部分は報道による紹介で、原典の論文までは読めていません。

つまり、題名の問いへの現時点の答えは「そう働く可能性がある」です。ただし、これは取り出した色素を調べた実験室の結果で、生きたカバの肌で日焼けが減ることを確かめた資料は、今回の材料の中にはありません。

ちなみに、取り出した色素はとても不安定で、すぐに色が変わります。粘液といっしょに皮膚の上で乾くと、数時間は色が保たれるとされ、粘液が色の変化を遅らせるのではないかと考えられています[3]。仕組みはまだ分かっていません。

もうひとつ、研究者たちが調べたことがありました。細菌です。

2004年の報告では、京都薬科大学の橋本貴美子らと慶應義塾大学の研究者が、カバの分泌液の色の変化に関わる色素を調べ、橙色のノルヒポスドリック酸と赤色のヒポスドリック酸の2種類を単離した[4]。二次資料の突き合わせによれば、2つとも光の吸収が紫外線領域でピークになる。これは取り出した色素の実験室での性質で、日焼け止めに似た働きの可能性を示すものにとどまる[5]。吸収は紫外線から可視光に及ぶ。

ここで押さえたいのは、根拠の種類である。わかったのは「取り出した色素が紫外線を吸う」という化学的な性質であって、「生きたカバの皮膚が日焼けしにくい」という生物としての効果ではない。前者から後者を直接導くことはできない。

色素自体もきわめて不安定で、粘液と一緒に皮膚の上で乾くと数時間は色を保つ[3]。粘液が色の変化を遅らせると考えられているが、その仕組みは未解明とされる。

紫外線の吸収だけでなく、同じグループは別の性質も調べていた。

3. かばの きずは、ばいきんから まもられて いるの?

3. 赤い色素は、実験室の試験で細菌2種がふえるのを抑えた

3. 抗菌作用 ── 実験室の試験で2種の細菌の増殖を抑えた赤い色素

けんきゅうでは、あかい 色素しきそが 細菌さいきんの ふえかたも おさえた と ほうこく されて います[1]。細菌さいきんは、びょうきの もとに なる ことも ある ちいさな いきものです。

これは 試験しけんの ために 細菌さいきんを そだてた ところに、あかい 色素しきそを くわえた実験じっけんの けっかです。かばの からだの うえで おきた ことでは ありません。

かばの きずが ばいきんに やられにくい のは、この 色素しきその せいかも しれない、と けんきゅう した ひとたちは かんがえて います[1]。でも、これも まだ「かも しれない」です。

実験室の試験では、赤い色素が、病気の原因になる細菌2種の増えかたを抑えました。緑膿菌と肺炎桿菌という名前の細菌です[1]。

これを見て研究者は、カバの傷が感染しにくい理由はここにあるのかもしれない、と考えました[1]。カバの皮膚は、日ざしを防ぐだけでなく、細菌から守る働きももつのかもしれません。のちに同じグループがまとめた総説も、この色素が日焼けと感染の両方から皮膚を守る「薬」のように働くのではないかと推定しています[6]。

ただし、これも実験室での結果です。生きたカバの傷口で同じことが起きるかどうかは、この資料からは言えません。

では、日焼け止めという見方に、疑問は出ていないのでしょうか。

赤い色素は、実験室の試験で、病気の原因になる細菌2種、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)と肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の増殖を抑えた[1]。研究者は、カバの傷が感染しにくい理由かもしれないと見る。同じ研究室の総説は、この色素が日焼けと感染の両方から皮膚を守る「薬」のような働きをもつと推定したとされる[6]。

ただし条件を整理すると、観察されたのは培養した細菌に対する効果であって、生きた動物の傷での感染率を比べた結果ではない。仮説としては筋が通るが、検証は残っている。

色素の性質は紫外線にも細菌にも働くらしい。ならば、日焼け止め説に弱点はないのか。

4. ほんとうに ひやけどめ だと いえるの?

4. 日焼け止め説への疑問と、動物園の説明

4. 日焼け止め説への疑問 ── 化学者の指摘と、カバの暮らし方

ひやけどめだと いう みかたに、ぎもんを だす ひとも います。

ある かがくしゃは、しょくぶつ からできた 紫外線しがいせんを ふせぐ ものは、ひとの ひやけどめに すると とても こわれやすい ものが おおいと のべました。あかく そまる ひやけどめは、うれそうに ないとも いっています[1]。

また、からだを ひやす やくめは、かばが みずに はいって ひやすので おおきくない、と する けんきゅうしゃも います[1]。

どうぶつえんの せつめいも あります。かばは よる げんきに うごく どうぶつで、いちにちの ほとんどを みずの なかで すごします。それは はだが 紫外線しがいせんや かんそうに よわい ことと かんけいが ある、と どうぶつえんは せつめい しています[7]。

やせいの かばは、ひるは きしべで やすんだり みずの なかに いたりして、よるに りくに あがって くさを たべに いきます[2]。

日焼け止め説に、疑問がないわけではありません。ある化学者は、植物由来の紫外線を吸う物質は、人の日焼け止めにするとひどく不安定なものが多いと述べました。赤橙色に染まる日焼け止めは売れそうにない、とも言っています[1]。体の熱を逃がす役目についても、カバは水に入って冷やすので大きくないとする研究者がいます[1]。

一方、京都市動物園の回答では、カバは夜行性で1日の大半を水中で過ごし、それは皮膚が紫外線や乾燥に弱いことと関係があると説明されています。汗のような分泌物はアルカリ性の粘液で、紫外線や乾燥から皮膚を守るとしています[7]。

野生のカバの暮らしも手がかりです。昼は岸辺で休んだり水中にとどまり、夜になると陸に上がり、踏みならした道を通って草を食べに行きます[2]。陸にいる間は水の外で皮膚が空気にさらされるので、そのときに粘液が皮膚を覆っていれば役に立ちそうです。ただ、これは暮らしぶりからの推理で、証明された話ではありません。

疑問と説明を並べると、実験室で分かったことと、まだ分からないことの境目が見えてきます。

日焼け止め説には批判もある。化学者のGavin Greenoakは、植物由来の紫外線吸収物質はヒト用の日焼け止めにするとひどく不安定なものが多いと指摘し、赤橙色に染まる製品は売れそうにないと述べた[1]。この指摘は、カバでの効果そのものへの反論ではなく、人用の製品に使えるかという別の問いに向けたものである。体温調節の役割は、カバが水に入って冷やすため大きくないとする研究者もいる[1]。

では、なぜ皮膚を守る液が必要なのか。京都市動物園は回答で、カバは夜行性で1日の大半を水中で過ごし、これは皮膚が紫外線や乾燥に弱いことと関係する、と説明している。分泌物はアルカリ性の粘液で、紫外線や乾燥から皮膚を守るとする[7]。

野生では、昼は岸辺で休息するか水中にとどまり、夜間に陸へ上がって踏み分け道を通り、草を食べに出る[2]。陸に出る時間に粘液が皮膚を覆う、という筋道は考えられるが、観察で示された因果ではない。

以上から、現時点で言えるのは「色素は紫外線を吸い、一方は細菌も抑える。生きたカバでの日焼け防止の効果は、直接は示されていない」ということになる。

5. このつづきは、どこで しらべられる?

5. 残された問いを、どう追いかけるか

5. 未解明の点と、原典の読み方

かばの あかい えきは、ちでも ふつうの あせでも なく、紫外線しがいせんを すいとる 色素しきそを ふくんで いました。ひやけどめの ように はたらく かもしれない、と いう ところまでが、いま わかって いる ことです。

どうぶつえんに いったら、かばが みずの なかに いる じかんと、りくに いる じかんを、とけいで はかって みましょう。みられる じかんの はんいで だいじょうぶです。かいた ことは、のーとに のこして おくと あとで くらべられます。

わからない ことは、どうぶつえんの ひとに きいて みるのも いい ほうほうです。

カバの赤い液は、血でもふつうの汗でもなく、紫外線を吸う色素をふくむ粘液でした。色素の1つは細菌の増殖も抑えました。ここまでが、実験室で分かったことです。

残っている問いは、生きたカバでも日焼けを防いでいるのか、色を保つ粘液の成分は何か、です。これらはまだ解決していないとされます。

この色素について、慶應義塾大学の研究室の業績ページには、2006年の合成の報告、2007年の総説、2015年の構造の見直しなど、その後の研究の書誌が並んでいます[6]。日本語の資料で、研究の続きを追えます。動物園に行く機会があれば、カバがいつ水の中にいて、いつ陸に上がっているかを観察し、気づいたことを飼育員さんに質問してみるのもいいでしょう。

整理すると、確かなのは「赤い液は血ではなく、粘液である」「2種類の色素が紫外線を吸収する」「赤い色素は試験管内で2種の細菌の増殖を抑えた」の3点である。未解明なのは、生きたカバでの日焼け防止の効果、粘液が色を保つ仕組み、色素のもとになる物質の詳細などである。

原典をたどるなら、慶應義塾大学の研究室の業績ページに、色素の構造の見直し(Chemistry Letters, 2015)、合成(Tetrahedron Letters, 2006)、総説(Pure and Applied Chemistry, 2007)の書誌がある[6]。今回、Nature 本誌の記事そのものは読めなかったので、読み比べるなら原典に当たるのがよい。

本稿の記述は主に報道と百科事典によっている。自分で確かめるなら、記事内の日本語資料(動物園の回答、百科事典、Nature ハイライト)を読み比べ、「分かったこと」と「推測」がどう書き分けられているかを見るとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

報道と百科事典は二次資料。原典のNature論文は本文の確認ができていないので、記述はそれらの突き合わせによる。

  1. Science News「Red sweat: Hippo skin oozes antibiotic sunscreen」 https://www.sciencenews.org/article/red-sweat-hippo-skin-oozes-antibiotic-sunscreen (分泌物の性質・抗菌試験・疑問の声)
  2. コトバンク「カバ」(世界大百科事典・日本大百科全書) https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%90-1518423 (皮膚の特徴・1日の暮らし)
  3. Nature news (2004) https://www.nature.com/news/2004/040524/full/news040524-7.html (色の変化)
  4. Nature ハイライト「カバのスキンケアの秘密」(Nature Asia) https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/2914 (2種類の色素の発見)
  5. Mongabay「Hippo sweat could serve as sunscreen, insect repellent」 https://news.mongabay.com/2005/08/hippo-sweat-could-serve-as-suncreen-insect-repellent/ (紫外線の吸収)
  6. 慶應義塾大学 才川研究室 業績ページ https://www.applc.keio.ac.jp/~saikawa/msynktxa/public_html/rsrch_smmry_n_pblctns/research.html (後続研究の書誌)
  7. 京都市動物園 Q&A https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/uploads/image/Q730.pdf (動物園の説明。検索抜粋で確認)

なおした ところ

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