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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ミツバチは、どうして スズメバチを さしもしないで たおせるの?

ミツバチの「蜂球」は、刺さずにスズメバチを倒す ── 熱と二酸化炭素で、耐えられる温度が下がる

ニホンミツバチの熱殺蜂球 ── 熱とCO2で、オオスズメバチの致死温度が下がる

分野:生きもの

ニホンミツバチは、おおきな オオスズメバチを、さす ことも なく、みんなで まるく つつんで たおす ことが あります。つつまれた スズメバチは、10ぷんいないに うごかなく なります。

ところが、ほんとうに ふしぎなのは、ここからです。スズメバチは、まるの なかより あつい 47どでも、10ぷん いきのびた じっけんが あるのです。では、なにが ちがうのでしょう。この きじを よむと、ミツバチの ぎりぎりの ちえが わかります。

ニホンミツバチは、大きなオオスズメバチを刺さずに、数百匹で球のように包んで倒すことがあります。つかまったスズメバチは、10分以内に動かなくなると報告されています。

ところが、同じくらいの温度の中でスズメバチを10分間置く実験では、生きのびました。それなのに、なぜ球の中では倒れるのでしょうか。この記事を読むと、熱のほかに働いているものと、耐えられる温度が「約2℃」下がる実験が分かります。

ニホンミツバチ(Apis cerana japonica)がオオスズメバチを包んでつくる蜂球は、中が平均約47℃に達したと1995年に報告された[1]。ところが2009年の実験では、スズメバチは47℃まで10分間生きのび、蜂球の中の温度は最高でも45.9℃だった[2]。熱だけでは説明がつかない。

では、何が足りないのか。この記事を読むと、CO2を増やした空気で致死温度が約2℃下がる実験と、湿度の高さが冷却を妨げるという解釈が分かる。

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1. ミツバチは、スズメバチが きたとき どうするの?

1. スズメバチが来たとき、ミツバチは何をするのか

1. 蜂球をつくる ── 数百匹が一匹を包む

オオスズメバチが ミツバチの すに ちかづくと、ニホンミツバチは にげません。たくさんの ミツバチが、スズメバチの まわりに あつまります。

そして、スズメバチを ぎゅっと つつんで、おだんごのような まるい かたまりに なります。これを「ほうきゅう」と よびます。500ぴき いじょうが あつまった という ほうこくも あります[1]。

ミツバチは ちいさくて、スズメバチは おおきい のに、たたかい かたが ふしぎです。ミツバチは、さして たおすので なく、なにか ほかの ちからを つかって いるようです。

オオスズメバチは、ミツバチの巣を襲い、働きバチを捕まえる大きなハチです。ニホンミツバチは、これに襲われると、巣から出てスズメバチの周りに集まり、数百匹で包みこんで球になります。これが「蜂球」です。1995年の報告では、500匹以上が一気にスズメバチを包んだとされています[1]。

ただし、匹数は報告によって約400〜500匹以上と幅があり、1回ごとにちがうようです。刺し傷がないことも報告されていて、毒針ではなく体で囲む戦い方のようです。球の中では、何が起きているのでしょうか。

オオスズメバチ(Vespa mandarinia japonica)に襲われたニホンミツバチは、働きバチが多数で相手を取り囲み、蜂球をつくる。1995年のOnoらの報告では500匹以上が素早く包みこみ、球の中の平均温度は約47℃に達したとされる[1]。匹数は研究によって400〜500匹以上と幅があるため、数字は目安として読むのがよい。

刺すのではなく包む戦い方は、体の大きさの差を数でおぎなっているともいえる。では、包まれた球の中で、スズメバチの体に何が起きるのか。

2. さされて いないのに、なぜ スズメバチは たおれるの?

2. 刺されてもいないのに倒れるのはなぜか ── 熱だけでは足りない実験

2. 傷なし・10分以内 ── 熱だけでは説明できない結果

つつまれた スズメバチを しらべると、さされた きずは ありませんでした。それでも 10ぷんいないに うごかなく なります[2]。

まるの なかは あつく、いちばん たかい ときで 45.9ど でした。「あつさで たおれたのかな」と おもいますよね。

そこで、けんきゅうの ひとたちは、スズメバチだけを 47どの へやに いれて みました。すると、10ぷん たっても、スズメバチは いきのびたのです[2]。

ほうきゅうの なかより あつい へやで たすかる。つまり、あつさだけでは ないのです。

つかまったオオスズメバチは、10分以内に死にます。体を調べても刺し傷はなく、蜂球の中の温度は最高で45.9℃でした[2]。

ここで研究者たちは、熱だけの影響を調べる実験をしました。スズメバチだけを、蜂球の外で温度を上げた装置に入れたのです。すると、47℃になっても、10分間は生きのびました[2]。蜂球の中の最高温度より高いのに、生きていたことになります。

熱のほかに、球の中だけにある何かが、スズメバチの耐える力を弱めているようです。その正体は何でしょうか。

SugaharaとSakamotoの2009年の研究は、蜂球に捕らえられたオオスズメバチが10分以内に死ぬこと、刺し傷はないこと、球内の温度は最高45.9℃であることを示した。一方、制御実験では、スズメバチは47℃まで10分間生きのびた[2]。原著は、蜂球内の温度だけでは死を説明できないと結論している。

1995年の平均約47℃と2009年の最高45.9℃は数字がずれているが、どちらも蜂球が46℃前後に達する点では近い。大事なのは、球の中の温度が、スズメバチを10分で倒すのに「足りない」点にある。では、何がそれを補うのか。

3. まるの なかの くうきが かわって いたの?

3. 球の中の空気が変わると、耐えられる温度が下がる

3. 二酸化炭素濃度と致死温度 ── 約2℃の低下

しらべると、ほうきゅうの なかの くうきは、ふつうの くうきと ちがって いました。ミツバチが たくさん あつまって いきを するので、にさんかたんそが ふえて いたのです。

ふえた にさんかたんそは、3.6パーセントほど でした[2]。

にさんかたんそを ふやした くうきと、ふつうの くうきを くらべる じっけんを しました。すると、スズメバチが たえられる あつさが ひくく なりました。10ぷんの じっけんで、ふつうの くうきでは 47〜48どで しんだのに、にさんかたんそが 3.7パーセントほどに ふえた くうきでは 45〜46どで しんだのです[3]。ミツバチは 50〜51どまで たえます[2]。

たとえば、おふろの おゆが 46どと 51どでは、おなじ「あつい」でも かなり ちがいます。ただし ほんとうは、おふろの はなしでは なく、ミツバチと スズメバチの たえられる あつさに 5どほどの さが ある、という はなしです。

ミツバチは ほうきゅうの なかで へいきで、スズメバチだけが つらく なる。その ちょうど あいだに、まるの あつさが あるのです。

球の中の空気を測ると、二酸化炭素(CO2)の濃度が上がっていました。たくさんのミツバチが集まって呼吸するためで、形成から0〜5分で最大3.6±0.2%に達しました[2]。

そこで、CO2を約3.7%にした空気の中で、耐えられる温度を調べました。報道によると、10分間の実験で、ふつうの空気ではオオスズメバチは47〜48℃の範囲で死にました。それが、CO2が増えた空気では45〜46℃の範囲で死にました。約2℃の低下です[3]。一方、ミツバチの致死温度は50〜51℃で、スズメバチとの間に約5℃の開きがあります[2]。

球の温度は46℃前後で、ふつうの空気での限界(47〜48℃)に近い温度です。CO2が増えて限界が45〜46℃に下がると、球の温度がその限界に届きやすくなります。ミツバチにとっては、まだ4〜5℃の余裕があります。研究では、温度とCO2が両方そろうことが大切だと結論づけられました[2]。

では、CO2はスズメバチの体に何をしているのでしょうか。

Sugaharaらは、蜂球内のCO2濃度が形成後0〜5分で最大3.6±0.2%に達することを測定した。そして、CO2を約3.7%に調整した空気中で致死温度を調べると、オオスズメバチは45〜46℃、ニホンミツバチは50〜51℃だった。10分間の実験で、通常の空気ではスズメバチが47〜48℃の範囲で死んだと報じられており、CO2が約3.7%に上がると死ぬ温度が約2℃下がった[2][3]。

これは、2の「47℃で10分は生きのびた」という結果と矛盾しない。47℃は致死温度(47〜48℃)の下限付近で、10分では致死に達しなかったと読める。蜂球は46℃前後に達するので、通常の空気でも限界に近いが、CO2で限界が約2℃下がると球の温度が限界に届きやすくなる。ミツバチ自身の致死温度は50〜51℃で、スズメバチとの差は約5℃ある。温度だけでもCO2だけでもなく、両方の組み合わせが効くと結論された。なお、実験に使ったCO2は約4%と低く、ヒトの呼気を使った実験だった。

では、なぜCO2が増えるとスズメバチの耐性が落ちるのか。

4. あつさに よわく なる、もう1つの わけは?

4. 湿度も上がると、スズメバチは体を冷やしにくくなる

4. 湿度90%超と蒸発冷却の阻害(2012年の報告)

2012ねんの けんきゅうでは、ほうきゅうの なかが、5ふんいないに 46どに なり、にさんかたんそは 4パーセント ちかくに なる ことが わかりました[4]。

そのうえ、3〜4ふんで しつどが 90パーセントを こえます。しつどが たかいと、あせが かわきにくく、からだが ひえにくく なります。

むしあつい へやで、あせが ベタベタして すずしく ならない ことが ありますよね。スズメバチも、からだから ねつを にがしにくく なっていると かんがえられて います。ただし ほんとうは、スズメバチが ひとのように あせを かく わけではありません。

2012年に玉川大学などが発表した研究では、蜂球は捕まえて5分以内に46℃、CO2は約4%になり、相対湿度は3〜4分で90%を超えました[4]。

湿度がこれだけ高いと、汗のような水分の蒸発が進みにくくなり、体の熱を逃がしにくくなります。実験では、CO2を増やした空気で致死温度が約2℃下がりました。研究者は、高湿度が蒸発による冷却を妨げている可能性があると解釈しています[4]。細かい仕組みは、これからの研究です。

一方、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの致死温度は、どんな条件でも50〜51℃で、ほぼ同じでした[4]。ミツバチの体は、球の中の条件にも耐えられるようです。

2012年のZoological Science 29:30は、蜂球内の温度が捕獲後5分以内に46℃に、CO2濃度が約4%に、相対湿度が3〜4分で90%超に達することを報告した。実験ではCO2の増加で致死温度が約2℃下がり、研究者は、高湿度が蒸発冷却を妨げる可能性を解釈として示している[4]。この機構は解釈の段階で、断定はできない。

注目すべきは、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの致死温度が条件によらず50〜51℃でほぼ等しい点だ。蜂球の温度(46℃前後)は、スズメバチの限界(CO2が増えた空気で45〜46℃)とほぼ重なり、ミツバチ自身の限界(50〜51℃)からは数℃手前にある。この余裕が、味方を守ったまま敵だけを倒す条件になっていると考えられる。

では、そもそもミツバチは、なぜこの高温を自分でつくれるのか。

5. ミツバチは、どうして あつさを つくれるの?

5. 球の熱は、どこから来て、どう調整されるのか

5. ミツバチは冬の発熱を蜂球に使い、脳で熱を感じる

ミツバチは、ふゆに、みんなで あつまって からだを ふるわせ、あたたまります。ほうきゅうの あつさは、この ふゆの ちえを、てきから まもる ために つかって いる ものだと されて います[4]。

また、ほうきゅうを つくる ミツバチの のうでは、ねつを かんじる ぶぶんが はたらいて いることも わかって きました[5]。

ミツバチは、冬になると巣の中で集まって球をつくり、飛ぶための筋肉を震わせて熱を出します。蜂球は、この冬ごしの熱のつくり方を、敵から身を守るために使ったものだと考えられています[4]。

東京大学の研究紹介では、蜂球をつくっているニホンミツバチの脳で、「キノコ体」という高次の中枢の一部の神経細胞が活動していたとあります。高い温度にさらしただけでも似た活動が見られたため、球の高温の情報が脳で処理されていると考えられています[5]。

では、この技はどんなミツバチでも使えるのでしょうか。

ミツバチは冬、越冬クラスターを形成して飛翔筋を震わせ発熱する性質をもつ。蜂球は、この生理を防衛へ転用したものとされる[4]。冬の保温と敵への防衛が、同じ発熱の仕組みでつながっていることになる。

東京大学の紹介によれば、蜂球を形成するニホンミツバチ働きバチの脳で、高次中枢のキノコ体を構成する神経細胞の一部が活動する。高温にさらすだけでも似た活動が見られたため、蜂球の高温情報が脳で処理されると推測されている[5]。つまり、ミツバチは熱を出すだけでなく、感じて調整している可能性がある。

では、同じ道具を、世界のミツバチは持っているのか。

6. ほかの ミツバチも、おなじ ことが できるの?

6. セイヨウミツバチは、なぜこの技を使わないのか

6. セイヨウミツバチが蜂球をつくらない理由と進化

じつは、ヨーロッパから きた セイヨウミツバチは、ほうきゅうを つくりません[5]。

ニホンミツバチは、アジアで スズメバチと いっしょに くらして きた ミツバチです。そのため、この わざを みがいて きたと かんがえられて います。

てきと いっしょに くらした ながい じかんが、ミツバチに あたらしい ちえを おしえたのかも しれません。

ヨーロッパ原産のセイヨウミツバチは、この行動をとりません。蜂球は、アジアのミツバチ、とくにニホンミツバチで進化したと考えられています[5]。

オオスズメバチと同じ地域で長く暮らしてきたニホンミツバチが、数百匹で球をつくって敵を倒す技を身につけたと考えられています。一方、セイヨウミツバチとニホンミツバチの致死温度は、ほぼ同じです[4]。ちがいの一つは、集まって熱やCO2、湿度を高める「行動」のようです。

セイヨウミツバチ(Apis mellifera)は蜂球をつくらず、この行動は、アジアのミツバチ、特にニホンミツバチで進化したと考えられている[5]。ニホンミツバチはオオスズメバチと同じ地域で共存してきたため、選択圧がかかったと推測できる。

2012年の報告では、両種の致死温度は条件によらず50〜51℃でほぼ等しい[4]。ちがいは生理的な耐熱性ではなく、集団で熱・CO2・湿度を高める行動にあることになる。これは因果を断定できる段階ではなく、進化の過程の詳しい検証は今後の課題だ。

残る問いは、このような小さな差を、ほかの生きものも使っているのか、という点だ。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

今日できること

りょうてを あわせて おわんのように して、くちの まえで いきを ふきこんで みましょう。てのひらが、むっと あたたかく しめって きます。ミツバチの ほうきゅうの なかも、むしあつい くうきが たまって いると おもって みましょう。

出かけてできること

こうえんの はなで、ミツバチを みて みましょう。ちかづき すぎず、とおくから みるのが やくそく です。

きじを よんで みよう

この きじの かずを、ほうきゅうの なかと そとで ならべて みましょう。まるの あつさ 46どと、ミツバチが たえる 50どの あいだは、なんどくらい ありますか。

今日できること

両手を合わせてお椀の形にし、口の前で息を吹きこんでみましょう。手のひらが、むっと温かく湿ってきます。蜂球の中では、ミツバチの呼吸と体温でこれに近いことが起きていると想像できます。

出かけてできること

公園で花にきたミツバチを遠くから観察してみましょう。近づきすぎないことが約束です。

記事の数字で考えてみる

球の温度(46℃前後)、スズメバチの限界(45〜46℃)、ミツバチの限界(50〜51℃)を紙に書いて並べてみましょう。ミツバチとスズメバチで、余裕にどれだけ差があるか分かります。

今日できること

両手をお椀にして息を吹きこむと、手のひらが温かく湿る。蜂球内のCO2や湿度の上昇を想像する手がかりになる。

出かけてできること

公園や花壇で、ミツバチが花に来る様子を遠くから観察する。巣箱や巣には近づかない。

資料を読むなら

Ono et al. 1995(Nature 377:334)と Sugahara & Sakamoto 2009(Naturwissenschaften)は、蜂球の温度とCO2に関する報告。2012年の Zoological Science 29:30 は、湿度と蒸発冷却を扱う。記事の数字(球46℃前後、スズメバチ45〜46℃、ミツバチ50〜51℃)を並べると、蜂球の内と外の違いを自分で書き出せる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の数値は、抄録・報道・大学の研究紹介で確かめた範囲のものです。

  1. Ono et al. (1995) Nature 377:334 https://www.nature.com/articles/377334a0 (蜂球の大きさと温度)
  2. Sugahara & Sakamoto (2009) Naturwissenschaften https://doi.org/10.1007/s00114-009-0575-0 (致死温度とCO2濃度)
  3. National Geographic (2009) https://www.nationalgeographic.com/science/article/bees-kill-hornets-with-carbon-dioxide-emissions-and-local-warming (通常空気での致死温度)
  4. Zoological Science 29:30 (2012) http://www.bioone.org/doi/abs/10.2108/zsj.29.30 (湿度・越冬の熱の転用)
  5. 東京大学 研究紹介 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/articles/a_00024.html (脳の活動・進化)

なおした ところ

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