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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

あきの よるに なく むしは、だれに むけて うたって いるの?

秋の夜の虫の声は、だれに向けた歌なのか ── 羽をこするオスの歌と、その聞き手たち

秋の夜の虫の声は、だれあてのメッセージか ── 羽をこするオスの歌、声を頼りに来るハエ、卵で越す冬

分野:生きもの

あきの よるの コオロギの こえを、むかしの 人は こう ききなした、と つたえられて いる。「かた させ、すそ させ、つづれ させ」。「ふゆが くる まえに、きものの やぶれを ぬって おきなさい」と きこえたんだ[17]。

でも、なく むしは、人に そんな ことを いって いるわけじゃ ない。あの こえは、だれに むけた ものなのかな。どうやって 出して いるのかな。冬に なったら、なく むしは どう なるのかな。

秋の夜のコオロギの声を、「肩刺せ、裾すそ刺せ、綴つづれ刺せ」と聞きなした、と伝えられている。冬が来る前に、着物のほころびを縫っておけ、という催促に聞こえたのだ。ツヅレサセコオロギという名前も、この聞きなしによる、と辞典は説明している[17]。

でも、鳴いている虫は、人間に冬じたくを急がせているわけではない。あの声は、ほんとうはだれに向けたものなのか。どうやって出しているのか。声の主は、冬にどうなるのか。羽のしくみから、ハワイの島で起きたことまで、資料を読みながら考えてみる。

秋の夜に聞こえるコオロギの声を、「肩刺せ、裾すそ刺せ、綴つづれ刺せ」と聞きなした、と伝えられている。冬が来る前に、着物のほころびを縫っておけ、という催促だ。ツヅレサセコオロギという名前は、この聞きなしによる、と辞典は説明している[17]。

だが、鳴いている虫のほうは、人間に冬じたくを急がせているわけではない。あの声は、ほんとうはだれに向けたものなのか。どうやって出していて、虫ごとにどこがちがうのか。声の主は、冬にどうなるのか。羽のしくみから、ハワイの島で起きたことまで、資料を読みながら考える。

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1. こえは、くちじゃなくて はねから 出て いる

1. 声を出しているのは、口ではなく羽

1. 羽をこすり合わせる ── オスの発音器のしくみ

スズムシや コオロギの こえは、くちから 出て いない。はねを こすりあわせて 出して いる[1]。なくのは、オスだけだ[3]。

はねの ねもとには、ヤスリのような ぎざぎざの ところと、それを ひっかけて はじく ところが ある。こすると、ぎざぎざが つぎつぎに はじかれて、こまかい ふるえが 生まれる。はねが いっしょに ふるえて、きれいで 大きい おとに なる[4][5]。

くしの はを、つめで すーっと はじくと、ジーッと おとが する。それに すこし にて いる。ただし ほんとうの むしの ぎざぎざは、もっと ずっと こまかくて、ものすごく はやく はじかれる。

スズムシやコオロギの声は、口ではなく、羽から出ている。オスの前羽には、ヤスリのようにぎざぎざした部分と、それをひっかけて弾く部分があり、左右の羽をこすり合わせると音が出る[1]。鳴くのはオスだけだ[3][16]。

こすり器がやすり部の歯を1本ずつ弾くたびに、細かい振動が起こる。虫の筋肉の動きは、そこまで速くない。それでも、歯が次々に弾かれるので、高い音になる[4]。そのうえ、こすり合わせた2枚の羽が同じ振動数でいっしょに共鳴して、澄んだ音が大きく出る[5]。

くしの歯を爪で弾くと、ジーッと音がする。虫のしくみも、少し似ている。ただし本当は、虫のヤスリの歯はずっと細かく、弾かれる速さもけたちがいだ。

スズムシやコオロギの声を出しているのは、口ではなく前羽(前ばね)だ。オスの前羽にはヤスリ状の発音器(やすり部)と、それを弾く部分(こすり器)があり、左右の羽をこすり合わせて音を出す[1]。鳴くのはオスだけだ[3][16]。

フタホシコオロギの仲間(Gryllus bimaculatus)を調べた2011年の研究では、右の羽にあるヤスリが、左の羽のこすり器の上を動く形になっていた。そして、鳴いているあいだ、2枚の羽は同じ振動数(歌の基本の高さ)で共鳴し、2枚がつながった振動子のようにはたらいていた[5]。

筋肉の収縮はゆっくりだが、歯が次々に弾かれることで振動が速くなり、高い音になる。このような機械的な「周波数を増やす仕かけ」は、虫の発音でよく使われるものとして紹介されている[4]。

くしの歯を爪で弾くと、ジーッと音がする。虫のしくみも、ヤスリのような部分を弾く点では似ている。ただし本当は、虫のヤスリの歯はずっと細かく、共鳴で音を澄ませる仕かけがつく。

2. だれに きかせて いるの?

2. 声の宛先は、メスとライバル

2. 3種類の歌と、前あしの耳 ── 声の宛先はだれか

コオロギの オスの うたは、1しゅるいでは ない。とおくの メスを よぶ うた。ちかくに 来た メスに きかせる うた。ほかの オスと けんかに なった ときの うた[3][7]。

メスは、よぶ うたを たよりに、こえの する ほうへ あるいて くる[9]。きく ための 耳は、まえあしの ひざの あたりに ある[3]。

だから、あの こえは、人に むけた ものでは ない。むかしの 人の「つづれ させ」は、人が じぶんの くらしに あわせて きいた もの、だったんだね。

コオロギのオスは、目的のちがう歌を使い分ける。遠くのメスを呼ぶ「誘引歌」(呼び鳴き)、近づいてきたメスに向けた「求愛歌」、ほかのオスと出会ったときの「闘争歌」だ[3]。エンマコオロギの解説にも、遠くのメスを呼ぶ声、近くに来たメスに求愛する声、ライバルを追い払う声の3つがあると書かれている[7]。

メスは誘引歌を頼りに、声のするほうへ歩いていく[9]。音を聞く耳は、前あしにある。すねにあたる節のつけ根の両側に、鼓膜の器官がある[3]。人でいえば、ひざのあたりだ。

音の高さも、そろっている。フタホシコオロギの誘引歌は、体の大きさにかかわらず、ほぼ一定の高さ(5.8キロヘルツ付近)に保たれている。メスの耳もこの高さに合わせてあり、音程の外れたオスは相手にされにくいのではないか、と研究者は推察している[6]。

つまり、あの声は人に向けたものではない。メスと、ライバルのオスに向けたものだ。「綴れ刺せ」は、人が自分の暮らしに引きつけて聞いた、聞きなしだった。

コオロギのオスは、少なくとも3種類の歌を使い分ける。遠くのメスを呼ぶ「誘引歌」(呼び鳴き)、近づいてきたメスに向けた「求愛歌」、ほかのオスと出会ったときの「闘争歌」だ[3]。エンマコオロギの解説も、遠くのメスを呼ぶ声、近くに来たメスに求愛する声、ライバルを追い払う声の3つがあると書いている[7]。

メスは、誘引歌の型を見分けたうえで、鳴いているオスの位置を探して歩いていく[9]。音を受けとる耳は、前あしにある。脛節けいせつ(すねにあたる節)のつけ根の両側に、鼓膜の器官がある[3]。人にたとえれば、ひざのすぐ下だ。

音の高さも、そろっている。宮下惇嗣氏の解説によれば、フタホシコオロギの誘引歌は、体の大きさや、羽の共鳴する部分の大きさにかかわらず、5.8キロヘルツ付近のほぼ一定の高さに調節されている。これは一般的な88鍵のピアノのいちばん高い音(約4.2キロヘルツ)よりも高い。メスの耳もこの高さに合わせてあるため、音程の外れたオスはメスに相手にされにくいのではないか、と推察されている[6]。

声の宛先は、人ではない。遠くのメスと、近くのメスと、ライバルのオスだ。「綴れ刺せ」は、人が自分の暮らしに引きつけて聞いた聞きなしで、虫の側の意味とは別のものだった。

3. こえの ちがいを、むしと 人は どう ききわけるの?

3. 声のちがいを、虫と人はどう聞き分けるか

3. 拍子と聞きなし ── 声の聞き分けと、昔と今で逆といわれる松虫・鈴虫の名前

むしの なかまごとに、うたの リズムが ちがう。メスは、じぶんの なかまの リズムを ききわける[9]。

人は、ことばに おきかえて ききわけて きた。スズムシは「リーン、リーン」[1]、マツムシは「チンチロ、チンチロ」[2]、エンマコオロギは「コロコロコロリー」[14]。

ところが、むかしは「松虫まつむし」と「鈴虫すずむし」の なまえが、いまと はんたいだった、という はなしが ある[2]。もし そうなら、こえは おなじでも、人が つける なまえの ほうが かわった ことに なる。

もう ひとつ。むしは、あたたかい よるほど はやく、さむい よるほど ゆっくり なく。1897ねんに アメリカの 人が、コオロギの なく はやさで 気おんが わかると かいた[10]。

虫は、リズムで聞き分ける

鳴き声は、虫の種類ごとにちがう。フタホシコオロギの研究では、メスは自分の種の誘引歌を見分けて、鳴いているオスへ向かう。歌は、短くてほぼ規則的なパルスが、くり返しのまとまり(チャープ)になっている。人工的に作った歌でメスの反応を調べた実験を解析すると、パルスの間隔とまとまりの作りの組み合わせが、メスが近づくかどうかをよく説明した[9]。

人は、ことばで聞き分ける

人の耳には、スズムシは「リーン、リーン」[1]、マツムシは「チンチロ、チンチロ」[2]、エンマコオロギは「コロコロコロリー」[14]と聞こえる。童謡「虫のこえ」でも、マツムシは「チンチロチンチロチンチロリン」、スズムシは「リンリンリンリン」だ[18]。

ところが、昔の呼び名は今と反対だったらしい。『世界大百科事典』は、平安時代の文学によく出てくる「すずむし」は今のマツムシで、今のスズムシは、声が松風の音に似ることから「松虫」と呼ばれていた、と説明する[2]。もしそうなら、声は同じでも、人がつける名前のほうが入れかわったことになる。ただし江戸時代には、すでに意見が分かれていた[2][18]。

気温でも、声は変わる

1897年、アメリカの物理学者ドルベアは、コオロギが鳴く速さは気温で変わる、と短い記事に書いた。華氏で1度上がるごとに、1分間に鳴く回数が約4回ふえる。たとえば60°F(約16°C)で1分に約80回、70°F(約21°C)で約120回だ[10]。記事は、どのコオロギかを書いていない。日本の虫にそのまま当てはめられるとは限らないが、暖かい夜ほど速く鳴く、という傾向は、聞き比べで確かめられる。

虫は拍子で聞き分ける

声は、虫の種類ごとにちがう。フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)では、メスは自分の種の誘引歌を見分け、鳴いているオスの位置を探して歩く。オスの歌は、短くてほぼ規則的なパルスが、くり返しのまとまり(チャープ)にまとめられた構造をしている。人工的に作った歌でメスの反応を調べ、ニューラルネットワークで解析した2013年の研究は、パルスの間隔と、チャープの構造の組み合わせが、メスが近づくかどうかをよく説明する、と報告した[9]。音の高さだけでなく、リズムが目印になっている。

人は聞きなしで聞き分ける

人の耳には、スズムシは「リーンリーン」[1]、マツムシは「チンチロチンチロ」ときに「チンチロリン」[2]、エンマコオロギは「コロコロコロリー」[14]と聞こえる。童謡「虫のこえ」でも、マツムシは「チンチロチンチロチンチロリン」、スズムシは「リンリンリンリン」と歌われる[18]。

ところが、平安時代の人が呼んでいた名前は、いまと同じではなかったらしい。『改訂新版 世界大百科事典』は、平安文学によく出てくる「すずむし」は今のマツムシのことで、今のスズムシは、声が松風の音に似ることから「松虫」と呼ばれていた、その後、名称と実体が入れかわって今に至る、と説明する[2]。『日本大百科全書』のスズムシの項も、『古今和歌集』の時代には、スズムシの声を松風の音になぞらえて松虫と呼んだ、と書く[1]。

江戸時代の随筆にも、この話題がある。今の聞き方(チンチロリンは松虫)はもとを取りちがえたのだ、と書いた随筆が紹介されている一方[2]、『嬉遊笑覧』(1830年成立)の喜多村信節は、チンチロリンは松虫だという説を支持した[18]。当時から、考えは一つではなかった。平安の人が実際にどちらの声をどの名で呼んでいたかは、残った文章から推し量るしかない。

気温でも声は変わる

もう1つ、声が大きく変わる条件がある。気温だ。1897年、アメリカの物理学者ドルベア(Amos Dolbear)は、『アメリカン・ナチュラリスト』誌の短い記事で、野原のコオロギが鳴く速さは気温とともに変わる、と報告した。華氏で1度上がるごとに、1分間に鳴く回数がおよそ4回ふえる、という関係だ。たとえば60°F(約16°C)で1分に約80回、70°F(約21°C)で約120回になる[10]。記事は、どの種のコオロギかを書いていない。日本の虫にそのまま当てはめられるとは限らないが、暖かい夜ほど速く鳴く、という傾向は、聞き比べで確かめられる。

4. こえを ねらう ハエが いた

4. 声をたよりに来るハエと、静かになった島

4. 寄生バエと、ハワイ・カウアイ島で起きた「声のない羽」の広がり

こえは、メスを よぶだけでは ない。ほかの ものも よんで しまう ことが ある。

アメリカの ある けんきゅうしゃが、コオロギの うたを ろくおんして ながして みた。すると、ハエの メスが とんで きて、スピーカーに つけた コオロギに、こどもを うみつけた。ハエの こどもは、コオロギの からだの 中で そだつ[11]。

ハワイの ある しまでは、コオロギの こえが ほとんど 聞こえなく なった。うたわない はねの オスの ほうが、ハエに みつかりにくかった。だから のこりやすかった、と 考えられて いる。うたわない オスは、うたって いる オスの そばに いて、メスに あう[12][13]。

これは ハワイの はなし。日本の コオロギで おなじ ことが おきて いる わけでは ない。

声は、メスを呼ぶだけではない。呼びたくない相手まで呼んでしまうことがある。

1975年、アメリカの研究者ケイドは、録音したコオロギの声を流すと、寄生バエのメスが飛んできて、スピーカーにとりつけたコオロギに幼虫を産みつけることを報告した。幼虫はコオロギの体に潜りこみ、中で育つ[11]。

ハワイのカウアイ島には、このハエ(Ormia ochracea)が1989年より前にアメリカ本土から入ってきていた[13]。島のコオロギ(Teleogryllus oceanicus)は、日本のエンマコオロギと同じ Teleogryllus 属の仲間だ[12][15]。ある解説によると、調査チームは2001年には島でコオロギの声を1回しか聞かなかった。1990年代の終わりから2003年ごろまでのおよそ20世代で、島の集団は、ほとんど声を出さない集団に変わった[13]。2006年の論文も、島のオスの大多数が通常の羽から声のない羽に移ったのは、20世代以内のことだったと報告している[12]。

声を出さなくなったのは、羽の変化のためだ。ヤスリとこすり器がほとんどない「平らな羽」(フラットウィング)のオスが増えた[13]。研究者たちは、声を出すオスが寄生バエに狙われるため、声のない羽が有利になった、と考えた[12]。声のないオスは、鳴いているオスの近くにいて、その声に引かれて来るメスに出会う。これは「サテライト行動」と呼ばれる[12]。

ただし、これはハワイでの話だ。日本のコオロギで同じことが起きているわけではない。

声は、メスを呼ぶだけでなく、呼びたくない相手まで呼んでしまうことがある。1975年、アメリカの研究者ケイド(W. Cade)は『サイエンス』誌に、録音したコオロギの声にヤドリバエ科のハエ(寄生バエ)のメスが引かれることを報告した。実験室では、ハエはスピーカーにとりつけたコオロギに幼虫を産みつけ、幼虫は外骨格(体をおおうかたい皮)にもぐりこんで、体内で育った。著者は、こうしたハエが、コオロギのオスの繁殖行動やオス同士の競争に影響しているのではないか、と推測している[11]。

その影響が、はっきり見えた島がある。ハワイ諸島のカウアイ島では、Ormia ochracea というこのハエが、1989年より前にアメリカ本土から入っていた[13]。島の野外コオロギ(Teleogryllus oceanicus)は、日本のエンマコオロギと同じ Teleogryllus 属の仲間だ[12][15]。ある解説によると、調査チームは2001年に島を訪れたとき、コオロギの声を1回しか聞かなかった。1990年代の終わりから2003年ごろまでのおよそ20世代で、島の集団は、ほとんど声を出さないものに変わった[13]。2006年の論文も、島のオスの大多数が通常の羽から声のない羽に移ったのは、20世代以内のことだったと報告している[12]。

声が消えた原因は、羽の変化だった。ヤスリとこすり器がほとんど失われた「平らな羽」(フラットウィング)のオスが増えたのだ[13]。2006年の論文で、Zuk らは、声で宿主を探す寄生バエの強い自然選択のもとで、性的な信号である「歌」がほとんど消え、代わりに声のない型が広がった、と報告した[12]。声を出さないオスは、鳴いているオスの近くにいて、その声に引かれて来るメスに出会う「サテライト」の行動をとる[12]。

ただし、この話はハワイの島のものだ。日本のコオロギに同じことが起きているわけではない。声は、メスにも敵にも届く。

5. こえが きこえるのは、いつまで?

5. 声が聞こえるのは、一生のうちのわずかな時期

5. 卵で冬を越す ── エンマコオロギの1年と、声が聞こえる期間

エンマコオロギの 1ねんを 見て みよう。春の おわりごろ、土の 中の たまごから ようちゅうが 生まれる。60〜70日 かけて、なんども かわを ぬいで(脱皮だっぴ)、8月ごろに おとなに なる[15][21]。

オスは、おとなに なって 3〜4日で なきはじめる。メスは、2しゅうかん ぐらい たつと、土の 中に たまごを うみはじめる[15]。

おとなの すがたで いるのは、あきの あいだの すうかげつ ぐらい。冬に なる まえに たまごを のこして、たまごの すがたで 冬を こす[14][16]。スズムシや マツムシも、たまごで 冬を こす[1][2]。

「つづれ させ」と きこえる ころ、メスは 土の 中に たまごを うんで いる。つぎの 年に 生まれる なかまだ。

エンマコオロギの1年を、横浜植物防疫所の資料に沿って並べてみる[15]。卵は土の中で冬を越し、5月下旬から6月上旬にふ化する。幼虫の期間は60〜70日で、9〜10回脱皮して、8月から成虫が現れる。ふ化は5〜6月ごろ、成虫は8〜11月ごろ、という書き方は日本語版ウィキペディアにもある[21]。オスは羽化して3〜4日で鳴き始める。メスは羽化して2週間ほどたつと、土の浅いところに産卵し始め、9月下旬から10月上旬まで産み続ける。

成虫が見られるのは、8〜11月だ[14]。スズムシなら、成虫が見られるのは8月上旬から10月上旬ごろとされる[8]。成虫の姿で見られるのは、1年のうち、この数か月ほどだ。残りの大半は、卵や幼虫の姿で過ごす。

本州のコオロギは、冬になる前に産卵して死に、卵で冬を越すものが多い[16]。スズムシもマツムシも卵で冬を越す[1][2]。「綴れ刺せ」と聞かれた声の主は、冬の着物ではなく、卵を残す準備をしていたことになる。

エンマコオロギの1年を、横浜植物防疫所の資料(2010年)に沿って並べる[15]。年1回世代を回す虫で、卵は土の中で冬を越し、5月下旬から6月上旬にふ化する(日本語版ウィキペディアも「翌年の5〜6月頃に孵化」と書く[21])。幼虫の期間は60〜70日で、成虫になるまでに9〜10回脱皮し、8月から成虫が現れる。オスは羽化して3〜4日で鳴き始める。メスは羽化して2週間ほどたつと、土の浅いところに産卵し始め、9月下旬から10月上旬まで産み続ける。

成虫が見られる時期は、エンマコオロギで8〜11月[14]、スズムシで8月上旬から10月上旬[8]、マツムシで8〜11月[2]とされる。成虫の姿で見られるのは、1年のなかのこの数か月ほどだ。残りの大半は、卵や幼虫の姿で過ごす。

越冬のしかたは、種や地域で異なる。ただ、日本の本州などの温帯に生息するコオロギ類は、冬になる前に産卵して死に、卵で冬を越すものが多い[16]。エンマコオロギ[14]、スズムシ[1]、マツムシ[2]は、卵で越冬する種として書かれている。

「綴れ刺せ」と聞かれた声の主は、冬の着物ではなく、卵を残す準備の季節にいた。声が聞こえる時期は、繁殖の時期と重なっている。

6. じぶんで しらべて みよう

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

おうちの 人と いっしょに、まどを あけて、よるの こえを きいて みよう。そとに 出る ときも、おうちの すぐ そばだけ。くらい 道、みずの ある ところ、しらない ばしょには いかない。まどの 中から きくだけでも、ちゃんと しらべられる。

きこえた とおりに「リーン」「コロコロ」と ノートに かいて、なん しゅるい きこえたか かぞえて みよう。なんにちか かさねると、こえが へる 日が あるかも しれない。その日の さむさも、いっしょに かいておく。

えどの 人たちも、あきの よるに、むしの こえを ききに 出かけて いた。「道灌山聴虫どうかんやまむしきき」という 絵が のこって いるよ[20]。おうちの 人と いっしょに、ながめて みて。

窓を開けて、夜の声を聞いてみよう。外に出るなら、大人といっしょに、家のすぐそばだけにする。暗い道や水辺、知らない場所には行かない。窓の内側から聞くだけでも、調べることはできる。

聞こえた声を、聞こえたとおりに書き、何種類あるかを数える。数日おきに続けて、声の数が減る日があるか、その日の気温はどうか、を並べてみる。暖かい夜と寒い夜で、同じ声の速さがちがうか、10秒間に聞こえる回数を数えて比べてもよい。

江戸の人たちは、秋の夜に道灌山どうかんやままで虫の声を聞きに出かけた。『江戸名所図会』には「道灌山聴虫どうかんやまむしきき」の絵がのっている[20]。国立国会図書館のページでも、道灌山の絵を見られる[19]。

声そのものは、家の中から自分で調べられる。窓を開け、同じ時刻に10分ほど聞く。外に出るなら大人といっしょに、家のすぐそばだけにして、暗い道や水辺、知らない場所には行かない。聞こえた声を聞こえたとおりに書きとめ、気温(天気アプリの数字でよい)と並べる。数日おきに続けると、声の種類が減る日や、声が消える日が見えてくる。

もう1つは、速さを比べる方法だ。同じ声を10秒間聞いて、「リーリー」が何回聞こえたかを数え、暖かい夜と寒い夜で比べる。ドルベアの式[10]を日本の虫にそのまま使うことは考えず、暖かいほど速くなるかだけを見る。

資料を読み比べるなら、コトバンクでスズムシとマツムシの項[1][2]を並べると、名前の入れかわりの書き方の差が見える。ハワイのコオロギについては、論文の概要[12]と、一般向けの解説[13]を読み比べられる。江戸の虫聞きは、『江戸名所図会』の「道灌山聴虫どうかんやまむしきき」[20]や、国立国会図書館の電子展示[19]にある。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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  1. 「スズムシ」『日本大百科全書』『改訂新版 世界大百科事典』『百科事典マイペディア』ほか(コトバンク掲載)。 https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%82%B7-71987 (卵で越冬、成虫は8月ころから、リーンリーンと鳴く、オスが羽をこすり合わせて鳴く、古今集のころはスズムシを松虫と呼んだ)
  2. 「マツムシ」『日本大百科全書』『改訂新版 世界大百科事典』ほか(コトバンク掲載)。 https://kotobank.jp/word/%E3%81%BE%E3%81%A4%E3%82%80%E3%81%97-3171370 (チンチロ鳴く、成虫8〜11月、卵で越冬、松虫と鈴虫の呼称が古今で逆転しているという記述)
  3. 東京大学 無脊椎動物脳プラットフォーム「コオロギの特徴的行動」。 https://www.brain.rcast.u-tokyo.ac.jp/ivbpf/…(コオロギの特徴的行動) (誘引歌・求愛歌・闘争歌の3種類、オスの前翅の発音器、耳は前肢の脛節基部の両側)
  4. Bennet-Clark, H. C. (1999) "Resonators in insect sound production: how insects produce loud pure-tone songs", Journal of Experimental Biology 202: 3347–3357。 https://journals.biologists.com/jeb/article/202/23/3347/8331/Resonators-in-insect-sound-production-how-insects (英語の総説論文。ゆっくりした筋収縮を高い音に変える機械的な仕かけと、共鳴で音を作る虫の例)
  5. Montealegre-Z, F., Jonsson, T. & Robert, D. (2011) "Sound radiation and wing mechanics in stridulating field crickets (Orthoptera: Gryllidae)", Journal of Experimental Biology 214: 2105–2117。 https://journals.biologists.com/jeb/article/214/12/2105/10304/Sound-radiation-and-wing-mechanics-in-stridulating (英語の論文。フタホシコオロギで、右の羽のヤスリを左の羽のこすり器が掃くこと、2枚の羽が同じ振動数で共鳴すること)
  6. 宮下惇嗣「コオロギ求愛ソングにおけるピッチ安定性 ― 音痴な鳴き声ではメスに振り向かれない?」academist Journal。 https://academist-cf.com/journal/?p=6406 (フタホシコオロギの誘引歌は5.8キロヘルツ付近。体の大きさに関係なく音の高さが一定、と推察されている)
  7. 直翅類.jp「エンマコオロギ」。 https://www.orthoptera-jp.com/teleogryllus-emma (遠くのメスを呼ぶ声、近くに来たメスに求愛する声、ライバルを追い払う声の3つ)
  8. 直翅類.jp「スズムシ」。 https://www.orthoptera-jp.com/meloimorpha-japonica-japonica (成虫の時期は8月上旬から10月上旬、リーンリーンという鳴き声)
  9. Meckenhäuser, G., Hennig, R. M. & Nawrot, M. P. (2013) "Critical Song Features for Auditory Pattern Recognition in Crickets", PLoS ONE 8(2): e55349。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0055349 (英語の論文。フタホシコオロギのメスは自分の種の誘引歌を見分けて声のほうへ歩く。歌はパルスとチャープの構造で、パルスの間隔が重要)
  10. Dolbear, A. E. (1897) "The Cricket as a Thermometer", The American Naturalist 31 (371): 970–971。 https://www.jstor.org/stable/2453256 (英語の短い記事。コオロギの鳴く回数と気温の関係。華氏1度あたり1分に約4回、60°Fで約80回、70°Fで約120回)
  11. Cade, W. (1975) "Acoustically Orienting Parasitoids: Fly Phonotaxis to Cricket Song", Science 190 (4221): 1312–1313。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.190.4221.1312 (英語の短い報告。録音したコオロギの声に寄生バエのメスが引かれ、スピーカーにとりつけたコオロギに幼虫を産みつける)
  12. Zuk, M., Rotenberry, J. T. & Tinghitella, R. M. (2006) "Silent night: adaptive disappearance of a sexual signal in a parasitized population of field crickets", Biology Letters 2 (4): 521–524。 https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2006.0539 (英語の論文。ハワイ・カウアイ島のコオロギで、寄生バエの圧力のもと、歌が消えて声のない型が広がったこと、サテライト行動)
  13. カリフォルニア大学バークレー校 Understanding Evolution「Quick evolution leads to quiet crickets」。 https://evolution.berkeley.edu/evo-news/quick-evolution-leads-to-quiet-crickets/ (英語の解説。ハエは1989年より前に米国本土から、2001年に声を1回だけ聞いた、およそ20世代、羽のヤスリとこすり器がほぼ失われた)
  14. 教育出版 こん虫ずかん「エンマコオロギ」。 https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/docs/pages/rika/guide/insect/enmakoorogi.html (成虫は8〜11月、卵で冬を越す、コロコロコロリーと鳴く)
  15. 横浜植物防疫所「エンマコオロギのPRA報告書」(平成22年11月)。 https://www.maff.go.jp/j/syouan/keneki/kikaku/pdf/ennma_pra.pdf (学名 Teleogryllus emma、年1回世代、5月下旬〜6月上旬にふ化、幼虫期間60〜70日・9〜10回脱皮、8月から成虫、産卵は9月下旬〜10月上旬まで。PDFは、文字を抜き出すと文字化けすることがある)
  16. 「コオロギ」ウィキペディア日本語版。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%AE (鳴くのはオスだけ、前脚の脛節に耳、温帯のコオロギ類は冬の前に産卵して死に卵で越冬するものが多い)
  17. 「綴刺蟋蟀(ツヅレサセコオロギ)」『デジタル大辞泉』ほか(コトバンク掲載)。 https://kotobank.jp/word/%E7%B6%B4%E5%88%BA%E8%9F%8B%E8%9F%80-572019 (「肩刺せ裾刺せ綴れ刺せ」と聞きなしたことによる名前、と説明する項目)
  18. 小学館「ことばのまど」第47回「秋を告げる松虫・鈴虫の鳴き声は?」。 https://kotobanomado.jp/column/1103/ (童謡「虫のこえ」の松虫と鈴虫の擬音、『嬉遊笑覧』の見方、江戸の虫聴き)
  19. 国立国会図書館「錦絵と写真でめぐる日本の名所」電子展示会「道灌山」。 https://www.ndl.go.jp/landmarks/sights/dokanyama/ (道灌山は江戸時代に虫聴きの名所として知られ、秋に文人たちが月を見ながら松虫や鈴虫の音に聴き入った、という説明と、関連する錦絵)
  20. 東京都立図書館「江戸名所図会 5巻」より「道灌山聴虫」。 https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/portals/0/edo/tokyo_library/modal/index.html?d=5460 (『江戸名所図会』は天保5〜7年(1834〜1836)刊、道灌山は虫聞きの名所で、松虫やキリギリス、鈴虫などの声を夜通し楽しむために人が集まった、という解説)
  21. 「エンマコオロギ」ウィキペディア日本語版。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%82%B3%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%AE (卵越冬、ふ化は翌年の5〜6月ごろ、成虫は8〜11月ごろ)

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