1. かたの 高さが 1メートルの ゾウ
1. 肩の高さ約1メートルのゾウがいた
1. シチリアの小型ゾウ ── 祖先の約2%の体重
シチリアの 島に いた ちいさな ゾウは、かたの 高さが 0.9メートルから 1.2メートル ぐらいでした。
体重は 252キログラムぐらいと 考えられて います。大むかしの ごせんぞの ゾウは、1万キログラムを こえて いました。ちいさな ゾウは、その 2%ほどです[1]。
ただし、体重は ほねから 計算した 「見つもり」です。べつの けんきゅうでは、おすが 305キログラムぐらい、めすが 168キログラムぐらいと 考えました[2]。数字は けんきゅうに よって ずれます。
シチリア島にいた Palaeoloxodon falconeri は、肩の高さが0.9〜1.2mで、推定平均体重は252kgでした。祖先とされる Palaeoloxodon antiquus は約11,500kgと見積もられ、小型ゾウは祖先の2%あまりです[1]。
ただし、体重は化石の骨から割り出した推定値で、研究によって幅があります。別の骨格の復元では、成獣の雄が約96.5cmで約305kg、雌が約80cmで約168kgとされました[2]。「約」をつけて読む数字です。
なお、この記事でいう「島嶼化」は、島の動物の体の大きさの変化です。島固有の生きものが絶滅していく話は、ほかのメモで扱っています。ここでは体の大きさに絞ります。
2. ちいさいのに、ゆっくり そだった
2. 小さいのに、成長はゆっくりだった
2. 骨組織が示した「遅い生活史」
「ちいさい どうぶつは、はやく 大人に なって、みじかく 生きる」。そう 思いませんか。ネズミなどは、そうです。
ところが、ちいさな ゾウの ほねを くわしく しらべると、ちがう すがたが 見えました。大人に なるまで 15年ぐらい かかり、少なくとも 68年 生きた と 考えられて います[1]。
68年は 「少なくとも」の 数字です。ほんとうの 長さは、わかりません。体は ちいさく なっても、育ち方は ゆっくりの ままだった ようです。
「小さい動物は早く育って短命」という見方は、ネズミなどを思い浮かべると自然です。小型ゾウの骨の内部の組織を調べた研究は、これと食い違う結果を報告しました。約15歳で成熟し、少なくとも68年は生きたと推定されています[1]。
68年は「最低でもこれだけ」という下限の推定で、寿命そのものではありません。それでも、体が小さくなることと、成長や寿命が変わることが、必ずしもセットではなさそうです。
小さくなる仕組みには、体の大きさだけでなく成長の速さも関わるのか。そんな問いが、ここから残ります。
骨組織学的な解析によれば、小型ゾウは約15歳で成熟し、最低でも68年生きた個体がいたと推定される[1]。島嶼の小型化に伴って成長が速く寿命が短くなる、という従来の想定とは食い違う。
68年は下限の推定であり、寿命そのものではない。矮小化と生活史の関係は、種ごとに考える必要がある。
3. 「島の きまり」は あるのかな
3. 1964年、フォスターが見つけた偏り
3. フォスター(1964)とアイランドルール
1964年、フォスターさんと いう 生きものの 学者が、116の 島の どうぶつを、本土の なかまと くらべました。すると、ネズミの なかまは 大きく、ウサギや シカの なかまは ちいさい ことが 多いと わかりました[3]。
これが 「島では、ちいさい ものは 大きく、大きい ものは ちいさく なりやすい」と いう 考えの はじまりです。この 考えは、のちに 「アイランドルール」と よばれる ように なりました。
りゆうは、まだ 「かもしれない」です。天敵が いない 島では、ちいさい どうぶつが 大きく なれる。食べ物が すくない 島では、大きい どうぶつは 体を ちいさく して 生きのびる。そう 考えられて います[3]。
1964年、J.B.フォスターは、116の島の動物を本土の仲間と比べた論文を発表しました。ネズミの仲間は島で大きくなる傾向があり、ウサギの仲間や食肉類、偶蹄類(シカなど)は小さくなる傾向があると報告しています[3]。のちに、この傾向は「アイランドルール」と呼ばれるようになりました。
2005年にはロモリノが、これを「小さい種では巨大化、大きい種では矮小化へ向かう段階的な傾向」と定義し、島の面積や本土からの距離との関係を検討しています[4]。
理由として挙げられたのは、天敵が少なければ小さい動物は大きくなれること、食べ物が限られれば大きい動物は小さくなること、の2つです。ただし、どちらも仮説です。原因が証明されたわけではありません[3]。
4. 日本にも いる、ちいさな シカ
4. 屋久島のヤクシカ
4. ヤクシカ ── 日本の矮小化の例と、本州内の差
日本にも、その れいが あるかもしれません。かごしまけんの やくしまに すむ、ヤクシカです。
ヤクシカは、ニホンジカの なかまの なかでも とくに ちいさく、体の 高さは 80センチメートル ぐらいです。やくしまの 西の ほうでは、大人の めすで 19〜25キログラム、おすで 24〜37キログラムほどと いわれます[5]。あしも 体の わりに みじかい シカです。
ほんしゅうの シカとの 体重の ちがいは、すんでいる ばしょによっても かわります。ちいさく なった わけは、はっきり していません。やくしまには、シカを たべる 大きな けものが いた しょうこが 見つかって いないこと、食べ物を シカどうしで うばいあう ことが、かんがえられて います[6]。
日本での例としてよく挙げられるのが、屋久島のヤクシカです。ニホンジカの亜種のなかでも特に小柄で、体高は約80cm。屋久島西部の成熟した個体の体重は、メスが約19〜25kg、オスが約24〜37kgと報告されています[5]。体のわりに四肢が短いのも特徴です。数字は屋久島西部の個体群のもので、島全体の値ではありません。
小型化の理由として、屋久島には中型以上の肉食獣が自然に分布していた証拠がないことや、食べ物をめぐる同じ種の中での競争が考えられています[6]。ただし、これらは仮説の段階です。
なお、本州のシカの半分ほどの体重という説明も見かけますが、本州の中でも南ほど小さいという話があり、島か本土かだけでは決まらないかもしれません。この点は、出典が弱いので、ここでは傾向として触れるにとどめます。
5. 大きく なった ネズミも いた
5. 逆に大きくなった動物もいる
5. フローレス島の巨大ネズミ ── 巨大化の側
島で 大きく なる ほうの れいも あります。インドネシアの フローレスとうには、頭から おしりまでが 41〜45センチメートルも ある、大きな ネズミが います[7]。ネコぐらいの 長さです。
ふつうの ネズミより ずっと 大きい ですが、なぜ 大きく なったのかは、まだ はっきり して いません。「てきが すくない」などの 考えが あります。
大きい ゾウが ちいさく、ちいさい ネズミが 大きく。ふたつを あわせて 見ると、たしかに 島の 決まりのようにも 思えます。
大きくなる例も知られています。インドネシアのフローレス島には、頭胴長が41〜45cmにもなるフローレスジャイアントラットが今もいます[7]。普通のネズミの仲間より、かなり大きな体です。
フォスターが示した「ネズミの仲間は島で大きくなりやすい」という傾向の、代表的な例にあたります。小型ゾウとヤクシカが「小さくなる側」なら、こちらは「大きくなる側」です。
体の大きさが本土と逆向きに変わる例を並べると、島には何か共通の圧力がありそうに見えます。ただし、次の章で見るように、研究者の意見はそこで一致していません。
フローレス島には、頭胴長41〜45cm・尾長33〜70cmとされるフローレスジャイアントラットが現生し、齧歯類の巨大化の例として引かれる[7]。フォスターの「齧歯類は島で大型化する」という傾向の代表例だが、その二次資料での記載であり、個体差や測定法の詳細は本稿では検討していない。
小型ゾウ・ヤクシカ(矮小化)と巨大ネズミ(巨大化)が揃うと、島嶼化を一つの原理で説明できそうに見える。しかし、一般性については研究結果が割れている。
6. 「きまり」と いえるのかな
6. 「法則」なのか、「偏り」なのか
6. 一般則か、系統ごとの偏りか ── 2つの解析
じつは、学者の 意見は わかれています。
2021年の 大きな 研究では、2千組 あまりの 島と 本土の どうぶつを くらべました。すると、ほにゅうるい・とり・トカゲなどの なかまで、島で 体の 大きさが かわる ようすが、広く 見られたと つたえられました。島が ちいさく、とおいほど、かわり方が つよい ことも あった そうです[8]。
いっぽう、2008年の 研究では、「きまり」と いえるほどの しょうこは ないと 考えました。ある なかまは 島で ちいさく、べつの なかまは 大きく なるだけだ、と いう 見方です[9]。
どちらが 正しいのか、いまも 決まって いません。
2021年、ベニテス=ロペスらは、島と本土の個体群2千組あまりを、進化上の近さを考慮するやり方で調べ、哺乳類・鳥類・爬虫類で島嶼化の傾向が広く見られると報告しました。両生類ではあまり明確ではないそうです。傾向の強さは気候や島の大きさ・大陸からの遠さで変わり、哺乳類と爬虫類では、小さく遠い島ほど強かったとも報告されています[8][10]。
これに対し、2008年のメイリらは、進化上の近さを考慮した大規模データでは「島嶼化の法則」の証拠はない、と結論しました。食肉類・偶蹄類・ヘテロミス科のネズミは島で小さく、ネズミ科は大きくなる傾向が、それぞれの系統ごとにあるだけだという見方です[9]。
この2つの結論は割れていて、片方だけで「証明済み」「否定済み」と言うことはできません。データの取り方や、「法則」と呼ぶ基準の違いが影響するのかもしれません。
Benítez-Lópezら(2021, Nat. Ecol. Evol.)は、島と本土の個体群の対2千組あまりを系統を考慮したメタ解析で調べ、哺乳類・鳥類・爬虫類で島嶼化の傾向が広く見られ、両生類では明確でない(多くは巨大化)と報告した[8]。効果は島が小さく遠いほど強い(哺乳類・爬虫類)とされる[10]。ただし、これらは検索要約・解説に基づく確認で、論文本文は未確認である。
一方、Meiri・Cooper・Purvis(2008, Proc. R. Soc. B)は、系統を考慮した大規模データでは島嶼化の法則の証拠はなく、食肉類・偶蹄類・ヘテロミス科は島で小さく、ネズミ科は大きくなる傾向が、それぞれの系統に固有であるにすぎないと結論した[9]。
両者の結論は割れており、どちらかを決定的とすることはできない。使うデータ、系統の扱い、「法則」の定義が結論に効いている可能性がある。
自分でも しらべて みたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること かみに、ヤクシカの 体重(めす 19〜25キログラム、おす 24〜37キログラム)と、ちいさな ゾウの 体重(252キログラム)を 書いて、ならべて みましょう。「ちいさい」の 中でも、これだけ ちがいます。
出かけてできること どうぶつえんや はくぶつかんの 大きさの ひょうじを、見て みましょう。「本土の なかま」より 小さい どうぶつが いれば、見つけたら 書きとめます。
もっと しりたいとき ちいさな ゾウの 本や、ヤクシカを しらべた けんきゅうを、としょかんで さがせます。「ほんとうに きまりか」は、いまも 研究が つづいて います。
今日できること 紙に、この記事に出てきた動物の体重(小型ゾウ約252kg、ヤクシカ約19〜37kg、ゾウの祖先約11,500kg)を書き写して、並べてみましょう。「小さい」といっても、動物によって大きな差があることが見えてきます。
出かけてできること 博物館の展示で、「祖先」と「島のなかま」の体の大きさが並べて示されていないか探してみます。化石や骨格標本の説明に、推定体重の幅が書かれていれば、この記事の数字と見比べられます。
もっと知りたいとき 「島嶼化」「アイランドルール」の2語で検索し、研究機関や学会の解説から入ると、議論の全体像がつかめます。この2つの語は、この記事の議論の入口として使えます。
今日できること 本稿の推定体重(小型ゾウ252kg、別推定の雄約305kg・雌約168kg、祖先約11,500kg)を紙に書き並べ、推定法で数値がどれだけ動くか、祖先比が何%になるかを自分で計算してみる。
出かけてできること 博物館の展示で、小型ゾウや島の動物の標本の解説を読み、体重推定の幅や、どの部位から推定したかの記載を探す。
公式情報・論文 島嶼化の一般性については、Lomolino(2005)、Meiri ら(2008)、Benítez-López ら(2021)を読み比べると、同じテーマで結論が割れる理由が見える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数値は各資料の記載に基づく。推定値は研究により幅がある。
- Palaeohistology reveals a slow pace of life for the dwarfed Sicilian elephant, Scientific Reports (2021). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8613187/ (体の大きさ・成長・寿命)
- Dwarf elephant, Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Dwarf_elephant (別の推定値。二次資料)
- Foster's rule, Wikipedia(原論文:Foster, Nature 202:234-235, 1964). https://en.wikipedia.org/wiki/Foster's_rule (島嶼化の始まりと仮説。二次資料)
- Lomolino, M.V. (2005) Body size evolution in insular vertebrates: generality of the island rule, Journal of Biogeography 32:1683-1699. https://zenodo.org/records/13450909 (島嶼化の定義。要旨)
- ヤクシカ, Wikipedia(日本語版). https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤクシカ (体の大きさ。二次資料)
- 北海道大学 揚妻直樹氏らの研究資料. https://forest.fsc.hokudai.ac.jp/age/…HP用s2.pdf (小型化の仮説。本文は未確認)
- Flores giant rat, Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Flores_giant_rat (体の大きさ。二次資料)
- Benítez-López et al. (2021) Nature Ecology & Evolution. https://www.nature.com/articles/s41559-021-01426-y (広く成り立つとする解析。要約で確認)
- Meiri, Cooper & Purvis (2008) Proceedings of the Royal Society B 275:141-148. https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2007.1056 (法則ではないとする解析。要約で確認)
- EBD-CSIC(スペイン国立研究機関)による2021年の解説. https://www.ebd.csic.es/en/outreach/news/researchers-confirm-tendency-vertebrates-dwarfism-and-gigantism-islands (島の大きさ・遠さの効果。解説)
なおした ところ
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