1. 桃太郎の まちでは、なにが えらばれたの?
1. 認定されたのは、建物ではなく「桃太郎の物語」
1. 桃太郎伝説のまちでは、何が認定されたのか
岡山県には、桃太郎の ふるさとだと いわれる 場所が あります。むかし、吉備津彦命という 人が、温羅と よばれた おにを たいじした という おはなしが つたわって います。これが、むかしばなしの 「桃太郎」の もとに なったと いわれて います[2]。
2018ねんに、この おはなしが 日本遺産に えらばれました。おはなしに かかわる 場所や ものが、27こ あつめられて います。でも、えらばれたのは 1つの たてものでは なく、おはなしの 全体です。
では、日本遺産は、なにを する しくみなのでしょう。
岡山県には、桃太郎の「ふるさと」として語り継がれてきた地域があります。吉備津彦命(きびつひこのみこと)が、温羅(うら)と呼ばれた鬼を退治したという伝説で、これが昔話「桃太郎」の原型になったとされています[2]。
「桃太郎伝説の生まれたまち おかやま」は、2018年5月24日に日本遺産に認定されました。構成文化財は27件です[2]。ここで目をひくのは、認定されたものが1つの建物や遺跡ではなく、伝説という「物語」だということです。27件の場所や物は、その物語でつながれています。
では、日本遺産とは、そもそも何を認める制度なのでしょうか。文化庁の説明では、地域の歴史的な魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語る「ストーリー」を認定するもので、2015年度に始まりました[1]。
岡山県の「桃太郎伝説の生まれたまち おかやま」は、2018年5月24日に日本遺産に認定された。内容は、吉備津彦命(きびつひこのみこと)が、温羅(うら)と呼ばれた鬼を退治したという伝説である。この伝説は、昔話「桃太郎」の原型になったとされる。ここは「とされる」という強さで書かれており、桃太郎の起源がここだと確定した話ではない[2]。
注目したいのは、認定の単位である。構成文化財は27件あるが、認定されたのは27件それぞれではなく、それらを貫く1つの物語だ。つまり、個々の建物や遺跡を指定して守る文化財制度とは、認定の対象の置き方がちがう。
では、そのような認定を、なぜ国が行うのか。文化庁の説明によれば、日本遺産は、地域の歴史的な魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーを認定する制度で、2015年度に始まった[1]。以下、世界遺産との目的のちがいから順に見る。
2. 世界遺産とは、どこが ちがうの?
2. 世界遺産とどこがちがうのか:守る制度と、つなげて語る制度
2. 世界遺産と何がちがうのか:保護が目的の制度と、活用・発信が目的の制度
世界遺産は、たいせつな ものを 守る ことが、だいじな ねらいです。日本遺産は、すこし ちがいます。あちこちに ある 文化財を ものがたりで つないで、たくさんの 人に 知って もらう ことが ねらいです[3]。
夜空の 星は、1つずつ では ばらばらです。でも 線で むすぶと、星座の かたちに なります。日本遺産の マークも、「点から 線、面へ」という 考えを あらわして いる そうです[4]。ただし、星座は たとえです。日本遺産が 星座を つくる しくみだと いう わけでは ありません。
日本遺産は、まもらない しくみでは ありません。守る ことより、つかって つたえる ことに ちからを いれる ところが、ちがいます[1]。
世界遺産や文化財の指定は、価値を認めて守ることが目的です。一方、日本遺産は、あちこちに点在する文化財を「面」として活用し、発信することで、地域を元気にするねらいがあります[3]。
この制度ができる前は、文化財が一つずつ個別に保存され、活用されてきたため、地域全体の魅力が伝わりにくいという課題があったと説明されています。そこで、世界遺産のようにテーマやストーリーでまとめて見せる考え方がとられました。ロゴは「点から線、面へ」を表しているといいます[4]。夜空の星は1つずつだとばらばらですが、線で結ぶと星座の形に見えてきます。ただ、これはイメージをつかむためのたとえです。
注意したいのは、日本遺産が「守らない制度」ではないことです。文化庁は、既存の文化財の価値づけや、保全のための新たな規制をすることを目的にしていないと説明しています[1]。主な目的が、守るよりも、まとめて活用し、情報発信や人材育成などを進めることにある、というちがいです。
世界遺産や文化財指定は、価値を認めて保護することが主目的である。これに対し日本遺産は、地域に点在する遺産を「面」として活用・発信し、地域活性化を図る点に特徴がある[3]。
なぜ、この発想が出てきたのか。創設の背景として、文化財が個々に保存・活用されてきたため、地域全体としての魅力が十分に伝わらなかったことが挙げられている。そこで、世界遺産のようにテーマやストーリーで包括的に捉え、「点」を「面」にして見せる方法がとられた。ロゴも「点から線、面へ」を表しているという[4]。ただしこの背景とロゴの意味は報道による説明で、制度の公式な定義文ではない。
誤解しやすい点が1つある。日本遺産は、保護をしない制度ではない。文化庁は目的を、地域に点在する文化財をパッケージ化して活用し、その中で情報発信や人材育成・伝承、環境整備などを効果的に進めることとして説明している。既存の文化財の価値づけや、保全のための新たな規制は目的に含まれない[1]。つまり両者は優劣ではなく、守ることを主にするか、つないで使うことを主にするかという役割の分担である。
3. どんな おはなしが えらばれるの?
3. どんな物語なら選ばれるのか:学校の跡をつないだ最初の例
3. 文化財の説明だけでは選ばれない:認定される物語の条件と、最初の例
えらばれる おはなしには、きまりが あります。その 土地の むかしからの できごとや くらしに 根ざした、つたえ話や ならわしが ある ことが 1つです。もう 1つは、その 地域の よさを あらわす、はっきりした テーマが ある ことです[5]。たてものが りっぱだと せつめい する だけでは、たりません。
はじめに えらばれた 18の おはなしの 1つは、むかしの 学校の あとを つないだ ものです。水戸の 弘道館や、足利学校の あとなど、4つの 県に あります。ばらばらの 場所を「学ぶ 心」という ことばで つなぐと、1つの おはなしに なります[6]。
認定される物語には条件があります。地域の歴史的な経緯や風土に根ざした伝承や風習を踏まえていること、そして地域の魅力を示す一貫したテーマがあること、などです[5]。文化財の価値を説明するだけでは、物語とは見なされません。
制度が始まった2015年4月に認定された18件の中に、「近世日本の教育遺産群」があります。水戸の旧弘道館、足利市の足利学校跡など、4県に残る旧学校跡で構成された物語です[6]。
それぞれの学校跡は、別々の場所に、別々の持ち主のもとにあります。それでも「学ぶ心」「礼節」という共通のテーマでつなぐと、昔の人びとが学びをどう大切にしたかを、旅をしながら追える一続きの話になります。点だった場所が、順番に歩ける線になるわけです。
認定を受ける物語には、条件がある。報道や解説によれば、地域の歴史的経緯や風土に根ざした伝承・風習を踏まえていること、地域の魅力に関する明確なテーマがあることなどである[5]。ここで大事なのは、文化財の価値の説明だけでは足りないという点だ。個々の建物が立派でも、それを貫く話がなければ、日本遺産の物語にはならない。
実例を見る。制度が始まった2015年4月に認定された18件の1つに、「近世日本の教育遺産群—学ぶ心・礼節の本源—」がある。水戸市の旧弘道館(こうどうかん)、足利市の足利学校(あしかががっこう)跡など、4県にある旧学校跡で構成される[6]。
では、なぜこれが「物語」になるのか。各学校跡は別々の場所にあり、別々に保存されている。しかし「学ぶ心」「礼節」というテーマで束ねると、昔の人びとが学びをどう扱ったかを、複数の地域を巡りながら読み取れる。個別には1つの史跡にすぎないものが、テーマによって順にたどれる線になる。点を面にするという先の考え方を、そのまま形にした例といえる。なお、ここでの「学ぶ心」「礼節」というテーマの読み取りは、報道が示す題名と構成を、筆者が整理したものである。
4. えらばれると、どうなるの?
4. 認定されると何が起きるのか:100件の目標と、3年間の支え
4. 認定の数と支援:100件の目標、104件の実績、3年間の財政支援
この しくみは 2015ねんに はじまり、さいしょの 年に 18この おはなしが えらばれました[6]。2020ねんの 東京オリンピックの ころまでに、100こ ぐらいを えらぶ ことが めあてでした[4]。
2020ねんどには、69この もうしこみの うち、21こが えらばれました。6ねんかんで、ぜんぶで 104こに なりました[7]。21を 69で わると、やく 0.3です。だいたい 3つに 1つが えらばれた わりあいです。
えらばれた 地域は、3ねんかん、文化庁から おかねの たすけを うけられます[7]。
この制度は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見すえて作られ、2020年までに100件ほどを認定することが目標とされました[4]。2015年4月に最初の18件が認定され[6]、その後も毎年認定が続きます。
最後の募集になった2020年度は、69件の申請から21件が新たに認定されました。2015年度から2020年度までの6年間で、認定は合わせて104件です。目標の100件を超えました[7]。この年は申請69件に対して認定が21件なので、認定数÷申請数は約0.30です。およそ3件に1件が選ばれた割合になります。
認定された地域には、3年間、重点的な財政支援があります[7]。ただし、新しい募集は2020年度で当面最後とされました。
支援が3年間なら、その先はどうなるのでしょうか。
この制度は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて創設された。2020年までにおよそ100件を認定する目標が立てられ、政府の計画にも盛りこまれたとされる[4]。まず2015年4月に18件が認定され[6]、その後も毎年認定が続いた。
結果はどうだったか。最後の募集となった2020年度は、69件の申請に対し21件を新たに認定した。2015年度から2020年度までの6年間の認定は、合計104件である[7]。目標の約100件を上回った計算になる。ただし、この104件は「認定された件数」の累計であり、のちの取り消しで現在の件数は変わっている。現在の総数はここでは示さない。また、この年の申請69件を認定21件で割ると約3.3で、およそ3件に1件弱が選ばれた割合になる(認定数÷申請数で約0.30。他の年度の割合は別に計算が要る)。
認定された地域には、認定後3年間、重点的な財政支援が行われる[7]。新規募集は2020年度を当面最後とされた。募集が止まれば、認定済みの物語をどう保つかが次の課題になる。では、支援の期間が終わったあと、物語は誰が、どう続けるのか。
5. えらばれた あとも、おはなしを かたり つづけないと どうなるの?
5. 認定のあとも物語を語り続けているか:継続審査と、初めての取り消し
5. 日本遺産は認定後も審査される:継続審査と初の取り消し
日本遺産は、1回 えらばれたら ずっと そのまま、では ありません。あとから 見なおす しくみが あります[8]。
2025ねん 12月の はっぴょうでは、見なおしの 9つが ぜんぶ つづく ことに なりました。そのうち 2つは「じょうけんつき」です[8]。
いっぽう、2025ねん 2月には、「古代日本の 『西の 都』」の えらばれた ことが とりけされた、と つたえられて います[9]。その おはなしを、来た 人が その 場所で かんじられるか、まちの 人に 知られて いるか、まわりの まちと いっしょに とりくめて いるかなどが、見られました[10]。ここで だいじなのは、文化財の ねうちが だめと された わけでは ない ことです。おはなしを かたり つづける とりくみが、見られたのです。
日本遺産の認定は終身ではなく、総括評価と継続審査があります。2025年12月24日の文化庁の発表では、2016年度と2019年度に認定された物語のうち、再審査の6件は4件が「認定継続」、2件が「認定継続(条件付き)」、点数評価の3件はすべて「認定継続」となりました[8]。
一方、2025年2月には、日本遺産「古代日本の『西の都』」(太宰府天満宮など30件の構成文化財)の認定が取り消されたと伝えられています。制度ができて初めてのことでした。理由は取組実績や計画の内容が不十分とされたことです[9]。国会の会議録では、周辺への誘客や周遊のしかた、自治体どうしの連携、地域での認知度の不足などが取り組みの課題として挙げられています[10]。
見落とせないのは、文化財そのものの価値が否定されたわけではないことです。評価されたのは、物語を伝え、人を迎える取り組みでした。認定後も、地域が物語を伝える取り組みを続けているかが見られます。
認定は終身ではなく、総括評価と継続審査がある。2025年12月24日の文化庁の発表によれば、2016年度と2019年度に認定された物語のうち、再審査を行った6件は4件が「認定継続」、2件が「認定継続(条件付き)」となり、点数評価を行った3件はすべて「認定継続」となった[8]。審査の結果、9件がいずれも認定を維持したことになる。
その一方で、2025年2月には、日本遺産「古代日本の『西の都』」(太宰府天満宮など30件の構成文化財)の認定が取り消されたと伝えられている。制度創設以来初という。取り消しの理由は取組実績や計画の内容が不十分とされたことである[9]。国会の会議録では、周辺への誘客や周遊の方策、自治体間の連携、地域での認知度の不足などが取り組みの課題として挙げられている[10]。
この出来事から読み取れるのは、評価の対象が何かということだ。文化財そのものの価値が否定されたのではなく、物語を伝え、来訪者を迎え、住民と共有する取り組みが評価された。保護を目的とする文化財の指定が「価値があるから守る」のに対し、日本遺産は認定後の活用や発信の取り組みも評価する制度だと示している。これは、制度の主な目的が活用・発信にあると先に確認した点とつながる[1]。支援が3年間で終わることを考えあわせると、認定後の継続審査は、物語を語る手が止まっていないかを確かめる仕組みと読める。
6. じぶんの まちの 「点」を、1つの おはなしに して みよう
6. 自分の町の「点」を3つ選び、1つの物語にしてみる
6. 自分の町の「点」を3つ選び、共通のテーマで結んでみる
きょう できる こと
いえの ちかくで、気に なる 場所や ものを 3つ えらんで、紙に かきます。たとえば、ふるい 神社、大きな 木、むかしから ある お店です。つぎに、3つを つなぐ 1つの ことばを 考えます。「水」「市場」「あそび」など、なんでも かまいません。ことばが 見つかると、3つが 1つの おはなしの 登場する 場所に 見えて きます。
しらべる とき
おうちの 人と いっしょに、文化庁の 日本遺産の サイトを 見て、ちかくに 日本遺産が あるか さがして みましょう。でかけるときは、おとなと いっしょに 行って ください。
今日できること
家の近くで気になる場所や物を3つ選び、保護者と一緒に見られる範囲で紙に書き出します。たとえば古い神社、大きな木、昔からあるお店などです。次に、3つをつなぐ言葉を1つ考えます。「水」「市場」「あそび」など、何でもかまいません。共通の言葉が見つかったとき、ばらばらだった3つが1つの物語の舞台に見えてくるはずです。
出かけてできること・公式情報
文化庁の日本遺産のサイトで、近くに認定地域があるかを調べてみましょう[1]。出かけるときは、保護者と一緒に、交通や天候に気をつけて行ってください。物語の構成文化財を実際に歩くと、地図で見ていた点が線になる感覚をつかめます。
自分の住む地域の点を3つ選び、共通のテーマで結べるか試すとよい。たとえば古い神社、大木、老舗の店などを書き出し、「水」「市場」「遊び」のような一語でつないでみる。条件で見た「一貫したテーマ」を、自分の手で作る練習になる。テーマが言えないときは、何が足りないのかを考えること自体が、認定される物語の難しさを実感する手がかりになる。
資料を読むなら
日本語の一次資料として、文化庁の日本遺産ポータル[1]と、2020年度の認定を伝える文化庁の報道発表[7]、2025年12月の総括評価・継続審査の結果[8]がある。数字や条件は更新されることがあるので、最新の版を確かめるとよい。岡山市のページ[2]では、桃太郎伝説の構成文化財を日本語で確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 文化庁 日本遺産ポータル「日本遺産とは」. https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/about/ (制度の定義と目的)
- 岡山市「桃太郎伝説の生まれたまち おかやま(日本遺産)」. https://www.city.okayama.jp/kankou/0000004627.html (認定日と構成文化財の数、伝説の内容)
- 日本総研「日本遺産」解説. https://www.dlri.co.jp/report/ld/302457.html (世界遺産とのちがい)
- トラベルボイス「日本遺産」創設の記事(2015年10月1日). https://www.travelvoice.jp/20151001-51711 (創設の背景・ロゴ・100件の目標)
- 文化庁「日本遺産について」. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/nihon_isan/index.html (認定される物語の条件)
- トラベルボイス 最初の認定の記事(2015年4月27日). https://www.travelvoice.jp/20150427-41949 (最初の18件と教育遺産群)
- 文化庁 報道発表(2020年度の認定). https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/92323501.html (認定数・財政支援)
- 文化庁 日本遺産総括評価・継続審査の結果. https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94306801.html (継続審査の結果)
- 旅マガ「古代日本の『西の都』」認定取り消しの記事. https://tabi-mag.jp/nishinomiyako/ (認定取り消しの事実)
- 衆議院 会議録(2025年2月28日). https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/003421720250228002.htm (取り消しをめぐる課題)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。