1. 三角は、どうして ついて いるの?
1. 横線の端の三角は何を表しているのか
1. うろこは何の名残か ── 楷書と宋代の印刷字体
あなたが えんぴつで 「一」を かく ときは、ただ すーっと 線を ひくでしょう。ふでで かくと、ちがいます。はじめに ぐっと おして、ひいて、さいごに ぴたっと 止めます。止めた ところに、すみが たまって、ふくらみます。
本の 字の 三角は、この ふくらみを うつした ものと いわれて います[1]。この 形の 字を、「明朝体」と よびます。よこの 線は 細く、たての 線は 太いのも とくちょうです。
では、ふでで かいた 字は、いつ 金属の 字に なったのでしょう。
鉛筆で「一」と書くときは、同じ太さの線をすっと引くだけです。筆で書くと、線の始めに力を入れ、引いて、終わりでぴたっと止めます。止めたところに墨がたまり、ふくらみます。
明朝体は、楷書の筆づかいと、宋の時代の印刷用の字体をもとにした形とされます。横線が細く、縦線が太く、横線の終わりに三角がつくのが基本です。この三角が「うろこ」で、筆が止まって墨がふくらむ形を印刷で表したものと説明されることがあります[1]。
名前に「明」がつきますが、明の時代に生まれたと言い切れるわけではありません。宋の時代に始まり、明の時代に整ったという説明を見ました[1]。では、この筆の形は、どうやって日本の印刷に入ってきたのでしょうか。
明朝体は、楷書の骨格をもち宋代に発達した印刷字体を起源とすると説明される書体で、横画が細く縦画が太く、横画の終わりに三角形の「うろこ」がつくのが基本形である。うろこは、書き手が筆先を一瞬止めたときの墨のふくらみを、印刷の字形に置き換えたものだと説明される[1]。
名称に「明」とあるが、明代に生まれたと言い切ることはできず、宋代に始まって明代に成熟したと読める記述が見られる[1]。この説明は英語版Wikipediaにもとづくため、うろこの成り立ちには他の説明もありうる。少なくとも、筆の「止め」が字形の基準の一つとして受けつがれたことが、明朝体を見分ける手がかりになる。
では、手書きの形は、どのような道具を通って日本の本に入ったのか。
2. 「活字」って、どんな もの?
2. 「活字」とは何か ── 同じ形を繰り返す道具
2. 「活字」の範囲 ── 版木から金属活字、そして写植・フォントへ
おなじ 字を たくさん 作るには、そのたびに 手で かくのは たいへんです。そこで、字を 形に して、なんども おして つかう ほうほうが 生まれました。
日本には、770ねんごろに 作られた 「百万塔陀羅尼」と いう、とても 古い 印刷の ものが のこって います。法隆寺に 4万こ あまりが のこって います[3]。
ある はくぶつかんでは、金属の 字だけでなく、あとで できる 写植や パソコンの 字も ふくめて、おなじ 形を くりかえし あらわす ものを 「活字」と よんで います[2]。
同じ文章をたくさんの人に届けるには、そのたびに手で書き写していては追いつきません。そこで、文字を形として作っておき、何度も使う方法が生まれました。
日本に残る最古級の印刷物のひとつが、770年ごろに完成した百万塔に納められた陀羅尼です。100万基の小塔のうち、いま法隆寺に残るのは4万数千基とされます[3]。ただ、これが木版か木活字かは、この記事では言い切りません。
博物館の企画展の説明では、「活字」は金属の活字だけを指しません。写植の書体やデジタルフォントも含めて、文字を同じ字形で繰り返し表すものをそう呼んでいます[2]。この記事も、この広い意味の「活字」で話を進めます。
ところが、日本語で活字を使うには、ほかの言語にはない大変さがありました。次の章では、その現場をのぞきます。
3. 2500この 字の たなから、1つを ひろう
3. 2500種の棚から、1〜2秒で1字を拾う
3. 活字棚と文選 ── 漢字かな交じりが生む種類の多さ
むかしの 印刷所には、字の 金属の かたまりが ならんだ、大きな たなが ありました。ひとつの 書体と 大きさだけでも、およそ 2500しゅるいが ならんだと いわれます[4]。
その たなから、職人さんは、ぶんしょうの じゅんに 字を ひろいます。なれた 人は、1つを 1〜2びょうで ひろい、1じかんに 1500字ほど あつめたそうです[4]。
「の」「し」「て」「を」のように、よく 出る 字は、数百こずつ 用意されました[4]。
ひらがな、カタカナ、漢字が まざる 日本語は、こんなに たくさんの 字が いるのです。
活字を使う印刷所には、字を1つずつ収めた棚がありました。ひとつの書体・大きさだけで、およそ2500種類が並んだといわれます[4]。これは日本語の全字数ではなく、棚の一例です。
原稿を見ながら、この棚から必要な字を拾う作業が「文選」、拾った字を並べて版にする作業が「植字」です。熟練した職人は、1文字を1〜2秒で拾い、1時間に約1500文字を処理できたと紹介されています[4]。「の」「し」「て」「を」のようによく使う字は、数百個ずつ用意されました。
基本のひらがなとカタカナは、それぞれ46字です。それに常用漢字が2136字あり、新聞や教科書で使われます。常用漢字の数は、表の改定で変わることがあります。
種類が多いほど、棚も、拾う手間も増えます。この手間をなくそうと考えた人が、光を使う方法を思いつきます。
活字を扱う現場は、棚から必要な活字を拾う文選と、拾った活字を並べて版にする植字に分かれる。一つの書体・サイズの棚に約2500種類が並び、熟練の職人は1〜2秒で1字を拾い、1時間に約1500字を処理したと紹介されている[4]。2500は一つの棚の例で、日本語の全字数ではない。「の」「し」「て」「を」などは頻度が高いため、数百個単位で用意された。
種類が多くなる理由は、漢字かな交じりの表記にある。基本のひらがな・カタカナが各46字、常用漢字が2136字とされる。ただし常用漢字の数は、表の改定によって変わりうる。
この負担は、文字が増えれば増えるほど重くなる。では、金属の駒を並べる発想そのものを変えることはできないか。
4. 字を、光で うつす
4. 1924年、活字を並べない機械の特許出願
4. 写真植字機の出願 ── 金属の駒を光の像に置きかえる
1924ねん、もりさわ のぶおさんと いしい もきちさんは、「写植」を する きかいの とっきょを 申しこみました[5]。もりさわさんは、かつじを ならべる 手間に こまっていたと つたえられて います。
この きかいは、字が あいた ガラスの ような 板に 光を あてて、レンズを とおして、まっくらな 箱の 中の フィルムに 字を うつします。金属の かたまりは いりません。
フィルムに うつった 字を、印刷に つかう 版に します[5]。
これは、はんこを おすのではなく、しゃしんを とるように 字を うつす やり方です。ただし ほんとうは、字を うつす 板を きめて 光を 当てる 作業が あります。
1924年7月24日、森澤信夫と石井茂吉は、日本初の写真植字機の特許を出願しました(特許第64453号)[5]。動機は、森澤が印刷部で活字を扱う煩雑さに悩んだことだと説明されています。
初代の写植機は、光を通す文字板の下から光を当て、レンズとシャッターを通して、暗箱の中のフィルムに文字を撮影します。それを現像して、印刷用の版にしました[5]。金属の活字を並べる代わりに、文字を光で写す方式です。初代機と改良版では文字板の方式が違うため、ここは初代機の説明です。
ここで大切なのは、文字板に描く「原字」が、人の手で書かれ続けたことです。金属の型が写真のフィルムに変わっても、字の形をどう書くかは、書き手が決めます。
では、パソコンの時代になって、この「原字」はどうなったのでしょうか。
1924年7月24日、森澤信夫と石井茂吉が日本初の写真植字機の特許を出願した(特許第64453号「写真装置」)。森澤が星製薬の印刷部で活字の煩雑さに悩んだことが発明の動機で、石井が共同で特許権者に名を連ねた[5]。
初代機の方式は、光を透す文字板の下から光を当て、レンズとシャッターで暗箱内のフィルム胴に文字を撮影し、現像して印刷用の版にするものだった[5]。金属の活字を並べる工程が、文字を光で写す工程に置きかわったことになる。ただし初代機と改良版では文字板の方式が異なるため、この説明は初代機に限る。
活字の場合、字形は金属の駒に固定された。写植では、字形は文字板の上の原字に移る。ここで、字形の設計者が手で書く原字を描き続ける立場に立った点が、後の書体の歴史につながる。デジタルでは、この原字がどうなるのか。
5. パソコンの 字も、だれかが 作って いる
5. デジタルフォントと、よみがえる写植の書体
5. PostScriptから復刻プロジェクトへ ── 字形の受けつがれ方
パソコンで 出る 字も、だれかが 形を 作って います。日本語は 字の 数が おおいので、つくるのに 時間が かかります。
1987ねんに、アメリカの アドビ社と、日本の モリサワ社が、字の つくりかたを 使わせる やくそくを しました。1989ねんには、日本語を 出せる はじめての プリンターが 売られました[7]。
そのころ、パソコンで 使える はじめての 明朝体は、「リュウミン」で、1989ねんだったと 書かれて います[8]。
2024ねんは、写植の きかいが できてから 100ねんです。モリサワ社と 写研社は、写研の 書体を いまの パソコンで 使える 形に して、2024ねんの 秋から 43しゅるいを 出す よていだと はっぴょうしました[6]。
1980年代、パソコンとプリンターで文字を出す時代が来ます。日本語は数千の表意文字が要るため、独自の形式が必要でした。1987年にアドビとモリサワがフォントのライセンスと製作技術について契約を結び、1989年に最初のPostScript日本語プリンターが発売されたと紹介されています[7]。
DTPに使える日本語フォントとしての最初の明朝体はリュウミンで、1989年です。ヒラギノ明朝体は1993年に出て、2000年にMac OS Xに搭載されました[8]。リュウミンは写植の書体としては1986年に発表されていたので、デジタル版の年と混ぜないよう注意します。
2024年は、邦文写真植字機の発明から100周年でした。モリサワと写研は、石井明朝、ゴナ、ナールなど写研の書体をOpenTypeで復刻するプロジェクトを発表し、2024年秋に43フォントの提供を始める予定だと発表されました[6]。これは発表時点の予定なので、その後の提供状況は公式サイトで確かめてください。
筆の止めは、活字、写植、デジタルと乗り物を変えながら、いまも画面の中にあります。本や画面の文字を、もう一度見直してみてください。
デジタルの日本語フォントは、数千字の表意文字を扱う必要があるため、欧文とは別の仕組みが要った。1987年にアドビとモリサワがフォントのライセンスと製作技術で契約し、1989年に最初のPostScript日本語プリンターが発売された[7]。
DTP用の最初の明朝体はリュウミン(1989年)、ヒラギノ明朝体は1993年に登場して2000年にMac OS Xに搭載された[8]。リュウミンは写植では1986年発表だったとされるため、デジタル版の1989年とは分けて読む必要がある。
2024年は邦文写真植字機の発明から100年で、モリサワと写研は、石井明朝、ゴナ、ナールなどの写研の書体をOpenTypeで復刻するプロジェクトを発表した。2024年秋に43フォントの提供を始める予定だという内容で[6]、これは発表時点の予定であり、その後の提供状況は公式サイトでの確認が要る。
筆の止めから出発した字形は、金属、光、データと媒体を替えるたびに作り直され、そのたびに誰かが原字を描いてきた。手書きの形が、道具の変化を越えて残っていることは、書体の歴史を読む上での大きな手がかりになる。
自分でも しらべて みたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら ── 資料案内
今日できること
本か 新聞の 文字を 1つ えらんで、よこの 線の はしに 三角が あるか 見て みましょう。つぎに、えんぴつではなく、ふでペンで 「一」を かいて、はじめと おわりの 形を くらべて みましょう。
出かけてできること
としょかんの 本で、ふるい 本と いまの 本の 字を くらべて みましょう。おとなの 人と いっしょに 行きましょう。
今日できること
手元の本の明朝体とゴシック体を見比べて、横線の端の三角の有無を確かめてみましょう。次に、筆ペンか毛筆で「一」を書き、始めと終わりの形が、明朝体の三角とどう似ていて、どう違うかを観察してみましょう。
出かけてできること
図書館や博物館で、活字や写植、書体の歴史の展示や資料がないか探してみましょう。
公式情報
企画展の情報や文化財の解説は、博物館ポータルや文化遺産オンラインで調べられます。
今日できること
手元の本の明朝体の横画の終わりと、毛筆で書いた横画の終わりを見比べる。うろこが本当に止めの形と対応しているかを、自分の目で確かめてみる。
出かけてできること
活字や書体の歴史を扱う博物館の展示を調べ、展示解説と本稿の出典の記述に食い違いがないかを比べてみる。
公式情報・資料案内
明朝体の成り立ちは、国立情報学研究所のCiNii Researchで戴勇強氏の論文要旨などの一次に近い資料を探すとよい。英語が読めるなら、Wikipedia(英語版)"Ming typefaces"の記述も補足になる。写植は、モリサワ・写研の公式発表で確認できる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
明朝体の成り立ちに関する出典は二次資料が中心です。活字・写植・フォントの各段階は、複数の資料の記述を突き合わせて書いています。
- Wikipedia「Ming typefaces」 https://en.wikipedia.org/wiki/Ming_typefaces (明朝体の形・うろこの説明。二次資料)
- 博物館ポータル 企画展「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」 https://www.museum.or.jp/event/109640 (「活字」の定義)
- 文化遺産オンライン「百万塔 附 無垢浄光経陀羅尼」 https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/200082 (百万塔の年代と現存数)
- nippon.com「活版印刷」の解説 https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900241/ (活字棚の種類数・文選の速さ・文字数)
- 宣伝会議 アドタイ 写研書体の復刻の発表 https://www.advertimes.com/?p=448897 (2024年の復刻プロジェクトの発表)
- Adobe Typekit blog「Thirty years of Japanese font development at Adobe」 https://blog.typekit.com/alternate/thirty-years-of-japanese-font-development-at-adobe-part-i/ (1987年の契約と1989年の日本語プリンター)
なおした ところ
更新履歴
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