1. はるの きに ぶらさがる、ハチの だんごは なに?
1. 春の木にぶら下がるハチの団子は、新しい家を探している
1. 分蜂群は木に団子状にとどまり、次の巣を探している
はるの 4がつから 5がつごろ、木の えだに、ハチが だんごのように かたまって ぶらさがる ことが あります。これは、ニホンミツバチの 「ぶんぽう」と いう ひっこしです[1]。
ふるい すでは、むすめの あたらしい じょおうに すを ゆずります。ふるい じょおうは、たくさんの はたらきバチを つれて、あたらしい すめる ばしょを さがしに とびたちます[1]。
とびたった むれは、すぐには ひっこしません。ちかくの 木に かたまって、つぎの いえが みつかるまで まちます。おとなしい むれが 多いと いわれます[1]。でも、ちかづいたり さわったり しないで、はなれて みましょう。
この「まっている むれ」が、キンリョウヘンの はなに あつまる ハチです。
春の4〜5月ごろ、ニホンミツバチの巣では引っ越しが起こります。古い女王蜂は、娘の新しい女王に巣を譲り、たくさんの働き蜂を連れて、新しい住みかを求めて飛び立ちます。これが「分蜂」です[1]。春は繁殖の季節で、働き蜂が増えると、先代の女王が働き蜂の半分ぐらいを連れて出ていく、という説明もあります[2]。
飛び立った群れは、すぐには新居に入れません。近くの木の枝などに団子のように固まってとどまり、次の住みかが決まるまで待ちます。鳥取県の資料は、この間の群れはおとなしく、やがてどこかへ飛び去ると説明しています[1]。おとなしい群れでも、近づいたり触ったりせず、離れて見ましょう。
木にぶら下がった団子の中には、女王蜂と、たくさんの働き蜂がいます。家を持たない群れが、家を探している最中の姿です。
そんな群れが、蜜も花粉もないランの花に、なぜ寄ってくるのでしょうか。
ニホンミツバチの分蜂は、春の4〜5月ごろ、女王蜂が娘の新女王に古い巣を譲り、多くの働き蜂を連れて新しい営巣場所を求めて飛び立つ行動である[1]。繁殖期に働き蜂が増えると、先代の女王が半数ほどの働き蜂とともに出ていく、という説明もある[2]。
飛び立った群れは、すぐ新しい巣に入るわけではない。近くの木などに団子状に固まって待機し、営巣場所が決まるまでとどまる。この間の群れはおとなしく、やがてどこかへ飛び去るという[1]。ただし、おとなしい群れでも近づいたり触れたりしてはならない。つまり分蜂群は、古い巣を新女王に譲り、次の巣を探している一時的な群れである。
群れの規模や、女王蜂と働き蜂の数の内訳は、使った資料には書かれていない。分かるのは、群れが一時的な状態にあり、その間に次の巣を探すという点までである。
ここに、蜜も花粉も出さない花が関わってくる。群れが花に寄る理由が採餌でないとすれば、何が引きつけているのか。
2. みつの ない はなに、ハチが よって くる わけは?
2. 蜜のない花に、ハチを呼ぶものは「におい」
2. 報酬のない花を訪れる理由は、花の香りにある
キンリョウヘンは、ニホンミツバチに とって、みつも かふんも もらえない はなです[2]。それでも ハチは あつまります。ハチを よぶのは、はなの においです。
この はなの においは、ニホンミツバチの 「なかまを よぶ においに にている」と いわれます[2]。はたらきバチが なかまを よぶ ときに だす においです。
けんきゅうでは、はたらきバチ、おすバチ、じょおうバチ、そして ぶんぽうの むれまで が、この はなに ひかれると ほうこくされて います[3]。
つまり、ハチは はなを たべに くるのでは ありません。なかまを よぶ においに にて いるので、ひきつけられると かんがえられて います。ただ、なぜ はなが そんな においを だすのかは、まだ わかって いません。
キンリョウヘンは、ニホンミツバチにとって蜜源にも花粉源にもなりません。それでも大勢が集まる理由として、花の香りがニホンミツバチの集合フェロモンに近いことが関わっているとされています[2]。集合フェロモンとは、仲間を呼び寄せるときに働き蜂が出すにおいの物質です。花の香りには働き蜂の大あご腺にある物質が含まれ、花がハチの分泌物をまねているという考えが有力ですが、花にとってそれにどんな意味があるのかは分かっていません[3]。
2013年に日本の研究者らが「ズーロジカル・サイエンス」誌に出した報告によると、この花は、ニホンミツバチの働き蜂だけでなく、雄蜂、女王蜂、そして分蜂群や逃去群(巣を捨てて出ていく群れ)まで引きつけます[3]。
ここが面白いところです。ハチは食べ物を求めて来るのではありません。巣を探している群れにとって、仲間のにおいに似た香りは、「ここに集まれ」という合図に近いのかもしれません。ただし、ハチの側がそう受け取っているかどうかまでは、資料からは分かりません。
では、花はどんな物質で、働き蜂のにおいをまねているのでしょうか。
キンリョウヘンは蜜源にも花粉源にもならないが、ニホンミツバチが大勢集まる。その理由として、花の香りが集合フェロモンに近いことが関わるとされる[2]。
2013年の報告(菅原ら)は、この花が働き蜂・雄蜂・女王蜂のほか、分蜂群や逃去群まで引きつけると述べる[3]。逃去群とは、巣を放棄して出ていく群れである。なお、セイヨウミツバチの群れではこの現象は見られないとされるが、その点は二次的な記述にとどまるため、ここでは確かな事実としては扱わない。
花が報酬を出さずにハチを呼ぶとき、考えられる説明は「ハチが好むにおいをまねる」ことである。報告では、そのにおいの正体として、特定の2つの物質が示されている。次の章で、その中身を見る。
3. 2つの においを まぜないと、はなは はたらかないの?
3. 花のにおいは2つの物質の混合で、片方だけでは効かない
3. 3-HOAAと10-HDAの混合物 ── 単独では誘引しない
けんきゅうした 人たちは、はなの においを しらべました。すると、ハチを よぶ ものは、2つの ぶっしつが まざった ものでした[3]。
おもしろいのは、1つだけでは ハチが あつまらない ことです。2つを あわせて、はじめて はたらきます[3]。たとえば、かぎを あける ために、2つの さきが そろって いる ような ものです。ただし、これは たとえで、ほんとうの しくみとは ちがいます。
この 2つは、はたらきバチの 「あごの ちかくの せん」にも ある ものです[3]。はなは、ハチの からだの ものを まねして、においを つくって いると かんがえられて います[3][4]。
誘引の本体は、2つの物質を混ぜたものでした。3-ヒドロキシオクタン酸と、10-ヒドロキシ-(E)-2-デセン酸です。報告では、この2つが一緒にあるときだけハチを引きつけ、どちらか1つだけでは誘引できません[3]。
この2つは、どちらも働き蜂の大あご腺(頭にある、あごの近くの腺)に見られる物質です[3]。神戸大学の博士論文の要旨も、キンリョウヘンは、ハチの大あご腺から出るフェロモンをまねしてニホンミツバチを誘引していると述べています[4]。
たとえば、2種類の鍵がそろわないと開かない箱を考えてください。ただし、本当のしくみは鍵と錠前ではなく、においのまじりぐあいです。それでも、「1つでは足りず、組み合わせが要る」という点が似ています。
この論文では、混ぜる割合や、においが届く距離は、資料から読み取れていません。ここは、さらに調べる余地のあるところです。
実は、もっと前から、においに集合フェロモンと同じ成分があることは知られていました。それなのに、なぜ今回の発見は新しかったのでしょうか。
2013年の報告では、誘引の活性本体は3-ヒドロキシオクタン酸(3-HOAA)と10-ヒドロキシ-(E)-2-デセン酸(10-HDA)の混合物であり、どちらか一方だけでは誘引しない[3]。どちらも働き蜂の大あご腺に存在する物質で、花はハチの分泌物を擬態していると考えられる[3]。神戸大学の博士論文の要旨も、この擬態と2物質の混合という結論を述べ、分蜂群を捕らえるルアーの作成につながると記している[4]。
「単独では誘引しない」とは、混合が必要という意味であり、混合比の数字が示されているわけではない。この記事で参照できた要旨や抜粋からは、2物質の比率・濃度や、においの届く距離は分からない。
ここで疑問が出る。花の香りに集合フェロモンと同じ成分があることは、それ以前から指摘されていた。それが分かっていたのに、なぜ2013年の報告が重要になるのか。
4. まえから ある「なかまの におい」では、どうして ダメ だったの?
4. 先に分かっていた「同じ成分」だけでは、説明にならなかった
4. ナサノフ腺の成分と大あご腺の成分 ── 先行研究が説明しきれなかったこと
じつは、2001ねんの ほうこくでも、はなの においに、はたらきバチの 「ナサノフせん」と いう ところから でる、なかまを よぶ においと おなじ ものが まじって いると いわれて いました[5]。
けれど、その ものが ハチの むれを よんだと いう ほうこくは ありませんでした[5]。おなじ ものが ある から あつまる、とは かんたんに いえなかった のです。
そこで、あとの けんきゅうで、「あごの ちかくの せん」の ものを 2つ あわせると、ハチが あつまる ことが わかりました[3]。
けんきゅうは、ひとつ わかると、つぎの なぞが でて くる もの です。
2001年に、玉川大学の菅原道夫さんたちが出した報告には、こう書かれています。キンリョウヘンの花の香りには、ニホンミツバチの働き蜂のナサノフ腺(おなかの先にある腺)から出る集合フェロモンと同じ成分が含まれていると、以前から報告されている。しかし、その成分が群れを引きつけたという報告はない[5]。
つまり、「同じ成分があるから集まる」とは、単純には言えなかったのです。成分が似ていることと、それが実際にハチを呼んでいることは、別の話だからです。
2013年の報告は、この溝を埋める方向に進みました。ナサノフ腺ではなく大あご腺の物質で、しかも2つを混ぜたときにだけ誘引する、という結果を示したからです[3]。
この流れから分かるのは、「においに成分が含まれていること」と「その成分が行動を起こさせること」は、実験で別々に確かめる必要がある、ということです。
では、こうした発見は、現場でどう生かされているのでしょうか。
2001年の菅原らの報告は、キンリョウヘンの花香にニホンミツバチの働き蜂のナサノフ腺由来の集合フェロモンと同じ成分が含まれることを先行研究として挙げつつ、その成分が群れを誘引したという報告はない、と先行研究の限界を指摘している[5]。成分の一致は誘引の十分条件ではなかった。
2013年の報告は、誘引の本体を大あご腺由来の3-HOAAと10-HDAの混合物に求め、2物質が揃って初めて誘引が起きることを示した[3]。成分の存在と行動への効果を、別々の実験で確かめる必要があることを示す例である。
ここで押さえたいのは、腺の名前の違いである。2001年の報告が挙げたナサノフ腺と、2013年の報告が挙げた大あご腺は、別の腺である[5][3]。前者の成分は花に含まれていても群れを呼んだという報告がなく、後者の2物質は混ぜたときに誘引が確かめられた。同じ「ハチのにおい」でも、どの腺の、どの成分を、どう組み合わせるかで結果が変わりうる、と読める。
なお、キンリョウヘンのにおいが偵察の最中に効くのか、群れがすでに行き先を決めてから寄ってくるのかは、資料からは分からない。ここは分かっていない部分として残る。
では、養蜂の現場では、こうした性質はどう使われてきたのか。
5. ようほうの 人は、この はなを どう つかうの?
5. 養蜂をする人は、この花を待ち箱のそばに置く
5. 分蜂群の捕獲に使われてきた経験と、定着率の見方
ようほうを する 人たちは、むかしから、この はなの せいしつを しって いました。ぶんぽうの むれが、キンリョウヘンの はなに あつまる ことは、むかしの ほうこくにも あります[6]。
むれを つかまえる ために、人は 「まちばこ」と いう はこを 木の ちかくなどに おきます。ミツバチが すを つくる ために、ひっこす さきに なる はこです。
この はこの そばに キンリョウヘンを おくと、むれが はなに ひかれて あつまり、はこの 中に はいって すを つくりやすい ようだ、と 鳥取けんの しりょうは しょうかい しています[1]。
むれが はいった あとの はなは、かじられて ぼろぼろに なる そうです[1]。ハチが それだけ、はなに あつまった あかしかも しれません。
しゅみで ようほうを たのしむ 人にも、この はなで むれを つかまえる 人は おおいと いわれます[2]。
分蜂群がキンリョウヘンの花に集まる現象は、福田さん(1988年)や佐々木さん(1992年)によって報告されていました[6]。研究の前から、養蜂をする人たちは、この性質を知っていました。
捕まえ方は次のとおりです。人は「待ち箱」という、ミツバチが住みつくための巣箱を用意します。その箱のそばに花を置くと、花に惹かれるのか集まってきて、定着する率が高いようだと、鳥取県の資料は紹介しています[1]。資料には、花に団子状に固まった分蜂群が、箱の中へ入っていく写真が載っています。
群れが入ったあと、花は、ハチにかじられてぼろぼろになると書かれています[1]。蜜も花粉もないのに、ハチはそれだけ花に集まり、かじるほど関わっているわけです。
趣味の養蜂では、キンリョウヘンの香りで分蜂群を捕らえることが多いといいます[2]。
では、いつも花が手に入るとは限りません。花を使わない方法はあるのでしょうか。
分蜂群がキンリョウヘンの花に集まる現象は、福田(1988年)や佐々木(1992年)によって報告されていた[6]。学術的な誘引物質の特定よりも前から、養蜂家の経験として知られていたことになる。
鳥取県の資料は、花に団子状に固まった分蜂群が箱に入った写真を載せ、箱のそばに花を置くと、花に惹かれて集まり、定着する率が高いようだと紹介している[1]。ここでの「定着する率が高いようだ」は、数字の裏づけのない、観察にもとづく表現である点に注意したい。群れが入ったあと、花はかじられてぼろぼろになるともある[1]。
趣味の養蜂でも、この花の香りで分蜂群を捕らえる人は多い[2]。春は繁殖期で、働き蜂が増えると先代の女王が半数ほどを連れて引っ越す。春は分蜂が起こる季節なので、捕獲の機会が生まれる[2]。
ただ、花は季節や栽培の都合に左右される。花を使わない方法はあるのか。
6. ほんものの はなが なくても、ハチを よべるの?
6. 香りをまねた人工ルアーと、報告から見える現場の姿
6. 人工ルアーの位置づけと、報告数から読む現場の使われ方
キンリョウヘンの においを まねした 「まちばこ ルアー」と いう ものが、2013ねんの はるに うられはじめました[7]。ニホンミツバチを 45日まで よぶと せつめいされて いますが、これは つくった ところの せつめいです[7]。
ある サイトに よると、ぶんぽうの むれを みつけた 人たちの ほうこくの うち、およそ 9わりが、キンリョウヘンか ルアーを つかった もの だそうです。はなと ルアーが、それぞれ 45%、どちらでも ない ものが 10%です[7]。
ただし、これは ほうこくを した 人たちの 中の わりあいです。山や もりに いる すべての むれの わりあいでは ありません。
におい 2つを あわせる ことが、はなの ひみつだと わかった から、人の つくる ルアーも できた のかも しれません。
キンリョウヘンの香りを使った「待ち箱ルアー」は、2013年の春に発売された代用品です。ニホンミツバチを最長で45日引きつけると説明されていますが、これは製品を売る側の自己申告で、効果の保証ではありません[7]。
分蜂報告を集めるあるサイトでは、2018年の報告のうち約90%が、キンリョウヘンか待ち箱ルアーを使ったものでした。内訳は、ルアーが45%、キンリョウヘンが45%、どちらでもないものが10%です。毎年3,000件以上の分蜂報告が集まるといいます[7]。
ただし、この数字は、報告した養蜂家の中での割合です。野生にいる全部の分蜂群のうち、どれだけがキンリョウヘンやルアーに寄るかを示すものではありません。「約90%」は、そのサイトに報告した人たちの数字だと読む必要があります。
花でもルアーでも、人の側が誘う仕掛けを用意することで、群れが「新しい家」に入りやすくなる。そう考えると、この研究は、野生の暮らしと人の暮らしのあいだにある工夫に見えてきます。
キンリョウヘンのにおいを使った待ち箱ルアー(Machibako-Lure)は、2013年の春に発売された代用品で、ニホンミツバチを最長45日誘引するとされる。ただしこの45日は製品側の説明であり、効果を保証する値ではない[7]。
同サイトの運営者による分蜂報告マップでは、2018年の報告のうち約90%がキンリョウヘンかルアーを使ったもので、内訳はルアー45%、キンリョウヘン45%、どちらでもない10%である。毎年3,000件以上の分蜂報告が集まるという[7]。
この「90%」の読み方には条件がある。これは報告者の中の割合であって、野生の全分蜂群のうち、花やルアーに寄る群れの割合ではない。誘引の手段を使った人ほど報告する、という偏りもありうる。数字は現場の使われ方を知る手がかりになるが、誘引の効果を直接示すものではない。
なお、2物質の混合が誘引の本体であることは、ルアー作成の根拠にもなりうると神戸大学の博士論文の要旨は記す[4]。
最後に、ニホンミツバチの群れが巣を探すとき、群れの中で何が起きているのかを、比較の材料として見ておく。
7. むれは、どうやって あたらしい いえを きめるの?
7. 群れは、偵察蜂の「投票」で新しい家を選ぶ ── セイヨウミツバチの研究から
7. 巣探しの意思決定 ── セイヨウミツバチの観察と、ニホンミツバチに当てはめられない点
ニホンミツバチでは まだ よく わかって いませんが、なかま の セイヨウミツバチでは、くわしい けんきゅうが あります。
ひとつの むれは およそ 1まんびき。そのうち 数百ぴきの ハチが、いえの こうほを さがしに いきます[8]。いい ところを みつけた ハチは、むれに もどって、ダンスを します。いい ところ ほど、ダンスを ながく おどります[8]。
ひとつの ところに 15ひきほど あつまると、「しゅっぱつ」の あいずに なります。けつだんまで 16じかんほど かかった と いう ほうこくです[8]。
これは セイヨウミツバチの はなしで、ニホンミツバチの かずでは ありません。キンリョウヘンが、この さがす なかの ハチにも きくのか、ほうこくは まだ ありません。
参考に、同じミツバチの仲間のセイヨウミツバチの巣探しを見てみます。アメリカのコーネル大学のシーリーさんたちの研究では、1つの群れは約1万匹で、そのうち数百匹の偵察蜂が候補地を探しに出かけます[8]。
よい場所を見つけた偵察蜂は、群れに戻ってダンスをします。よい場所ほどダンスを長く踊り、最高の場所では約100回転、まあまあの場所では約12回転でした。1か所に約15匹の偵察蜂が集まると出発の合図となり、決定までに約16時間かかったと報告されています[8]。
ただし、これはセイヨウミツバチの数字です。ニホンミツバチの偵察蜂の数やダンスの回数、決定にかかる時間は、この記事で使った資料では分かりません。また、キンリョウヘンのにおいが、偵察の最中の群れにも効くのか、すでに行き先を決めた群れが寄ってくるのかも、分かっていません。
比較の例として、セイヨウミツバチの巣探しを挙げる。Seeley と Visscher の研究(コーネル大学の発表による)では、1群は約1万匹で、数百匹の偵察蜂が候補地を探す。よい場所ほど長くダンスを踊り(約100回転と約12回転)、1か所に約15匹が集まった時点で出発の合図となり、決定までに約16時間かかった[8]。
これらはセイヨウミツバチの数字であり、ニホンミツバチにそのまま当てはめることはできない。ニホンミツバチの偵察蜂の数、ダンスの回数、決定にかかる時間は、使った資料では分からない。
では、キンリョウヘンの2物質のにおいは、偵察の最中に効くのか、それとも群れが行き先を決めてから寄るのか。この点は、現時点で分かっていないとされる部分である。だから、2物質の混合が誘引の本体だと分かった後も、「いつ、どの段階で」効くのかという次の問いが残る。
8. はるに ぶんぽうの むれを みつけたら、どうする?
8. 春に分蜂の群れを見かけたら、どうするとよいか
8. 分蜂群を見かけたとき ── 近づかずに観察する
はるに、木の えだに ハチの だんごを みつけたら、ぶんぽうの むれかも しれません。ハチは おこると さす ことが あります。ちかづいたり、さわったり、石を なげたり しては いけません。おとなの ひとにも しらせましょう。
とおくから、よく みて みましょう。だんごは どれくらいの おおきさ でしょう。どんな ところに ぶらさがって いるでしょう。しばらく したら、いなく なって いる かもしれません。ぶんぽうの むれは、つぎの いえを みつけて、とびたった のかも しれません[1]。
キンリョウヘンの はなが さいている ところを みかけたら、そのまわりに ハチが いるか、とおくから みて みても おもしろいでしょう。みつを すう ハチと、においで よる ハチは、ちがうかも しれません。
春、木の枝に団子のようにハチが固まっているのを見かけたら、それは分蜂の群れかもしれません。刺激されると刺すことがあるので、近づいたり、触ったり、石を投げたりするのはやめましょう。離れたところから、静かに見るだけにします。
観察のポイントは、「いつまでそこにいるか」です。団子は、次の住みかが決まるまでの一時的な姿で、やがて飛び去ります[1]。数日のうちに消えるのか、数時間で消えるのかを、同じ場所で見てみると、群れの待ち時間が実感できます。
キンリョウヘンの花を見かけたら、その花の近くに、ミツバチが寄ってきているかどうかも見てみましょう。蜜を吸いにくるハチなのか、においにひかれて集まるハチなのか、見分けは簡単ではありません。それを考えること自体が、観察の入り口になります。
観察したことは、日付・時刻・場所・団子の大きさ・天気をノートに書いておきます。春に同じ場所を何日か見ると、群れがいた時間や、花のまわりのハチの数を比べられます。ハチには近づかず、花や木にも触れないでください。
春に木の枝などに団子状に固まった群れを見かけたら、分蜂群の可能性がある。刺される危険があるため、近づく・触る・石を投げる行為は避け、離れて観察する。
観察できる点は、群れが同じ場所にとどまる時間である。次の営巣場所が決まるまでの待機の姿であり[1]、数時間で消えるのか数日続くのかは、場所や状況によって違いうる。同じ場所を何度か見て記録すれば、待ち時間のばらつきが見える。
キンリョウヘンが咲いている場所では、蜜を吸いに来るハチと、においに引かれて来るハチの区別を考えてみるとよい。
原典に当たるなら、2013年のZoological Scienceの論文(PubMedで要旨が読める)と、菅原らのミツバチ科学の報告(玉川大学のリポジトリ)が手がかりになる[3][5]。ほかに、神戸大学の博士論文の要旨[4]、鳥取県の資料[1]がある。
ただし英語の要旨を読まなくても、日付・場所・団子の大きさ・花の周囲のハチの数をノートに記録すれば、離れた場所から自分のデータを作れる。同じ場所を何日か見て、群れが消えた日時を書き留めるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の[数字]は、下の出典の番号です。要旨や検索結果の抜粋で確認した資料は、その旨を用途に書いています。
- 鳥取県「ニホンミツバチの分蜂について」 https://www.pref.tottori.lg.jp/item/366914.htm (分蜂の説明、待ち箱と花の紹介)
- 和楽web「キンリョウヘン」の記事 https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/84808/ (蜜源にならないこと、趣味の養蜂での使われ方)
- Sugahara et al. 2013, Zoological Science 30(2):99-104 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23387843/ (要旨を確認。誘引する対象、2物質の混合)
- 神戸大学 博士論文(D2003210) https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/D2003210/D2003210.pdf (要旨の抜粋。擬態とルアーへの展望)
- 菅原ほか「ミツバチ科学」22(2) 2001 https://tamagawa.repo.nii.ac.jp/record/676/files/22-2_2001_079-082_Sugahara.pdf (検索結果の抜粋。ナサノフ腺の成分と先行研究の限界)
- 菅原ほか「ミツバチ科学」26(4) 2005 https://tamagawa.repo.nii.ac.jp/record/503/files/26-4_2005_159-162_Sugahara.pdf (検索結果の抜粋。分蜂群が花に集まる現象の報告)
- Japan Natural Beekeeping「Getting bees」 https://japan-natural-beekeeping.org/post/getting-bees (待ち箱ルアー、報告マップの数字。製品側の説明を含む)
- Cornell Chronicle 2006「Honeybee decision-making ability rivals any department committee」 https://www.news.cornell.edu/stories/2006/04/honeybee-decision-making-ability-rivals-any-department-committee (セイヨウミツバチの巣探しの比較)
なおした ところ
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