1. いなずまの なまえの 「いね」は、なにを いみして いるの?
1. 稲妻の「稲」は、雷が稲を実らせると考えられたから
1. 「稲の夫」という名:雷が多い季節と稲の結実期の重なり
「いなずま」は、稲に 妻と 書きます。この 「つま」は、おくさんだけでなく、おっとや ふうふの あいてを さす ことばでした。「いねの つれあい」と いう いみで、いなずまと いう なまえが できた という せつが あります。
わけは、いねの みのる ころに、かみなりが よく なる からです。むかしの 人は、かみなりの おかげで いねが みのると かんがえて いました。いなずまは、いねの つれあいの ように 見えて いたのです。
では、本当に いなずまが いねを みのらせるのでしょうか。それを 見る まえに、いなずまが どうやって できるのかを 見て みましょう。
「稲妻」は、「稲の夫」という意味だとされています。「つま」はもともと、夫婦のどちらも指す言葉でした。稲が実る時期に雷がよく起こるため、雷の光によって稲が実ると考えられていたことから、この名がついたという説明が辞典に載っています[1]。
雷が稲の「相手」に見えたのは、季節が重なっていたからです。稲が実るころに、空では雷が多く起こります。昔の人にとって、稲の実りと雷は、同じ時期に田んぼと空で起こる出来事でした。
語源には諸説あり、この説明は辞典に載る説の一つです。それでは、本当に雷は稲に何かをするのでしょうか。その答えを見る前に、まず雷がどうやって生まれるのかを知っておく必要があります。
「稲妻」の語源について、デジタル大辞泉は「稲の夫(つま)」の意と説明する。「つま」は配偶者を指し、夫婦のどちらにも使われた語である。稲の結実期に雷が多く起こるため、雷によって稲が実ると考えられていた、というのが理由である[1]。
この見立ての根拠は、季節の一致である。稲が穂をつけて実る時期と、雷雲が盛んに発達する時期が重なっていたので、雷が稲に何かを与えていると見ても不自然ではなかった。ただし語源の説明は辞書によって表現が異なる可能性があり、これは説の一つとして読むのがよい。
では、雷は実際に稲へ何かを届けているのか。この問いは第4章で扱う。そのためにはまず、雷という放電がどう起こるのかを確認する必要がある。
2. くもの 中で、どうやって 電気が わかれるの?
2. 雲の中で、氷の粒がぶつかると電気が分かれる
2. あられと氷晶の衝突と、雲の上下に分かれる電荷
いなずまは、積乱雲という 大きな くもの 中で できます。夏の くもは、7キロメートル いじょうの 高さに なる ことも あります。
この くもの 中には、「あられ」と 「ひょうしょう」が あります。あられは 小さな 氷の つぶで、ひょうしょうは もっと 小さな 氷の けっしょうです。この 2つが ぶつかる ときに、電気が わかれると かんがえられて います。
ある つめたさの ところでは、ひょうしょうが プラス、あられが マイナスの 電気を もつと かんがえられて います。かるい ひょうしょうは 上へ はこばれ、おもい あられは 下に のこります。それで、くもの 上のほうが プラス、まん中から 下が マイナスに なります。
たとえば、ふゆの 日に 手を こすって、ドアの とってに さわると、ぱちっと する ことが あります。くもの 中でも、おなじような ことが、ずっと 大きな はんいで おきて いるのです。ただし、くもの 中の くわしい しくみは、いまも 研究が つづいて います。
雷は、発達した積乱雲の中で起こります。気象庁によると、雷雲の背丈は夏で7km以上、冬で4km以上になります[2]。
雲の中には、「あられ」と「氷晶(ひょうしょう)」という氷の粒があります。氷晶は小さな氷の結晶で、あられは小さな氷の粒です。この2つが衝突すると、電気を帯びて、プラスとマイナスに分かれると考えられています[2]。
アメリカ気象局(NWS)の説明では、とくに電気がたまりやすいのは、上昇気流があって、温度がマイナス15〜25℃になる嵐の中心部です。そこで氷晶は正(プラス)に、あられは負(マイナス)に帯電します。軽い氷晶は上昇気流で上へ運ばれ、重いあられは下に残るので、雲の上部が正、中〜下部が負に分かれます[3]。
雲の中で電気が分かれる細かい過程は、今も研究が続いています[3]。ここまでが「電気を貯める」段階です。では、たまった電気は、どうやって地面まで届くのでしょうか。
雷は発達した積乱雲で起こる。気象庁の解説では、雷雲の背丈は夏で7km以上、冬で4km以上とされ、雲の中であられと氷晶(小さな氷の結晶)が衝突することで電荷が分かれると考えられている[2]。
アメリカ気象局(NWS)の説明は、この過程をもう少し具体的に述べる。主な帯電域は嵐の中心部で、上昇気流があり、温度がマイナス15〜25℃の範囲にある。そこで氷晶は正に、あられ(graupel)は負に帯電する。軽い氷晶は上昇気流によって上へ運ばれ、重いあられは下に残るため、雲の上部が正、中〜下部が負になる[3]。
ここには条件がつく。NWSは、帯電の正負は温度などの条件で変わる可能性があり、この過程の細部は現在も研究されていると述べている[3]。氷晶が正、あられが負という向きは、このマイナス15〜25℃の範囲での説明であって、すべての雷雲に当てはまる一般則と読むべきではない。
電気を貯めただけでは、光は見えない。たまった電荷が、どのような順序で地面まで届くのかを次に見る。
3. 光は、くもから おりるの? 地面から のぼるの?
3. 明るい光は、じつは地面から雲へ向かって走る
3. 階段状の先駆と上向きの光:放電路が地面とつながる順序
たまった 電気は、まず くもから 地面に むかって、すこしずつ 進みます。これを 「せんく」と いいます。まるで かいだんを おりる ように、ぴょん、ぴょんと 進むので、「かいだんじょうの せんく」と よばれます。
この とき、地面の 高い ところ、たとえば 木や たてものの 上からも、上へ のびる 小さな 電気の すじが 出ます。くもから おりる すじと、地面から のびる すじが ぶつかると、電気の みちが つながります。
みちが つながると、電気が いっきに 地面へ むかいます。そして、わたしたちが 見る いちばん 明るい 光が 生まれます。この 光を、「きかんらいげき」と いいます。
この 光は、見た目では くもから 地面へ おりるように 見えます。でも、本当は みちを 下から 上へ むかって、のぼって います。いなずまは、地面から くもへ 走る 光なのです。
さらに、いなずまは 1回で おわらない ことが おおいです。みちを 通って、2回か 3回、あたらしい 電気が やって きます。そのたびに 光るので、ちかちかと ちらつく ように 見えます。
雲の下にたまった負の電気は、まず階段状先駆(ステップトリーダー)となって、雲から地面へ向かってのびていきます。名前のとおり、一気にではなく、段階的に進みます[4]。
地面近くの高いものからは、上向きのストリーマーという正の電気の筋がのびます。雲から降りてくる先駆が、このストリーマーのどれかと接触すると、雲と地面が放電路でつながります。すると雲にたまっていた電気が、一気に地面へ向かって流れ出します[4]。
このとき私たちが見る強い光が、帰還雷撃です。見た目は雲から地面へ降りるようですが、光は放電路を下から上へ伝わります[5]。つまり、稲光は「地面から雲へ走る光」です。
話はここで終わりません。典型的な負の雷では、最初の先駆と帰還雷撃のあとに、2〜3回、ダートリーダーという先駆と帰還雷撃が続きます。複数の帰還雷撃が続くため、稲光はちらつくように見えます。12回を超える例もあります[6]。
ここまでで、雷がどうやって生まれ、どの向きに光るかが分かりました。冒頭の問いに戻りましょう。雷は本当に稲を実らせるのでしょうか。
雲の下部に貯まった負の電荷は、まず雲から地面へ階段状先駆(ステップトリーダー)として降りてくる。放電路は連続的にではなく、段階を踏んで伸びる。その間、地上の高い物体からは、上向きの正のストリーマーが伸びる。下向きの先駆が、これらのストリーマーのどれかと接触すると、放電路が雲と地面をつなぎ、電荷が一気に地面へ流れる[4]。
このとき観測される明るい閃光が、帰還雷撃である。肉眼では雲から地面へ降りるように見えるが、実際の光は放電路に沿って下から上へ伝わる[5]。見た目と物理的な向きが逆になる点が、この現象の核心である。
雷はこれで終わらない。典型的な負の雷では、最初の先駆と帰還雷撃のあとに、すでにできた通り道を進むダートリーダーと、それに続く帰還雷撃が、2〜3回繰り返される。複数の帰還雷撃が稲光のちらつきとなり、12回を超える例も報告されている[6]。
以上が「どうやって光るのか」の骨格である。次に、冒頭の問いに戻る。放電が大気に何を残すのか。
4. かみなりは、本当に いねを みのらせるの?
4. 雷は空気を変えている:昔の人の見立ては半分だけ当たっていた?
4. 雷が作る窒素酸化物:「雷が稲を実らせる」という見立ての検証
かみなりが 光る とき、空気の 中の 「ちっそ」から、「ちっそ さんかぶつ」と いう ものが できる ことが あります。ちっそは、くうきの 大部分を しめる 気体です。この ちっそ さんかぶつが、年に どれくらい できるかは、見つもりの はばが 大きいと いわれます。
ちっそは、いねを ふくむ 植物にとって だいじな ものです。だから、「かみなりが いねを そだてる」という むかしの 見かたは、まったくの まちがいでは なかったのかも しれません。
ただし、かみなりが つくる りょうは、見つもりの はばが 大きく、いねの できに どれだけ 力が あるかは わかって いません。かみなりの 多い 年は たくさん とれる、と はっきり しめした 研究は 知られて いません。
むかしの 人は、いねの みのりと かみなりが 同じ ころに おこる ことを、よく 見て いました。その 見かたの 中に、空気が かわる という 本当の ことが かくれて いたのは、おもしろい ことです。
雷が光るとき、空気中の窒素の分子が分かれて酸素と結びつき、窒素酸化物ができます。世界全体で、雷がつくる窒素酸化物は、窒素の質量にして年に5±3テラグラム、つまり500万トン前後と見積もられています[7]。1テラグラムは100万トンなので、誤差の幅がとても大きい見積もりです。
窒素は、植物が育つために欠かせない成分です。雷でできた窒素酸化物は、雨に溶けて硝酸塩という形で地上に届くと説明されることがあります。そう考えると、「雷が稲を実らせる」という昔の見立てには、本当に空気が変わっているという根拠がありました。
ただし、稲作への効果は別の話です。雷がつくる量は見積もりの幅が大きく、雷が多い年は豊作になると示した研究も知られていません。昔の人の見立てを「当たっていた」と言い切ることはできません。雷が空気に何かを残す、という点だけが、確かな部分です。
雷の放電では、空気中の窒素分子が分かれて酸素と結びつく。こうして雷は窒素酸化物(LNOx)を作る。シューマンとフントリーザーの2007年の総説は、世界全体のLNOxの年間窒素質量を、5±3テラグラム(500万トン前後)と見積もった[7]。1テラグラムは100万トンなので、不確かさの幅が大きい推定値である。
窒素は植物の生長に必要な元素で、窒素酸化物は雨に溶けて硝酸塩として地表へ届くと一般には説明される。この点で、昔の人の「雷が稲を実らせる」という観察は、大気が変わる現象を捉えていたとも読める。
ただし、稲作への効果は、別に検討する必要がある。この量は見積もりの幅が大きく、雷が多い年に豊作になることを支える研究は知られていない。また、上の総説は窒素酸化物の発生量を扱っており、稲の収量には触れていない。したがって「半分当たっていた」という言い方は、空気が変わる事実と、稲が実る因果を分けたうえで、前者についてのみ成り立つ。
5. いなずまは、いま 世界で なんかい おきて いるの?
5. 世界では毎秒約44回。それでも最初の一歩は分かっていない
5. 全球で毎秒約44回の放電と、いまだ未解明の「開始」
アメリカの NASAが 人工えいせいで しらべた ところ、世界ぜんたいで、かみなりは 1びょうに およそ 44回 おきて います。1年に なおすと、14おくかい くらいです。これは、44に 1年の びょうすうを かけた けいさんの 数です。
その およそ 9わりは 陸の 上、のこりの 1わりが 海の 上で おきます。いなずまは 人に 見られなくても、毎びょう どこかで 光って いるのです。
ところが、いちばん はじめの ところは、まだ 分かって いません。くもの 中で 電気が たまる ことは 分かって いても、さいしょの 一歩が どう はじまるのかは、いま 研究者が しらべて いる ところです。
6. いなずまを 見たら、やって みたい ことは?
6. 光ってから音まで、何秒かかるかを数えてみよう
6. 光と音の時間差を使った、雷までの距離の見積もり
おうちの 中から 見て みよう
かみなりが 光ったら、すぐに 「いち、に、さん」と 数えて みましょう。ゴロゴロと 音が 聞こえるまでに、なん秒 かかったでしょうか。
光は とても はやく、音は おそいので、光が 先に とどきます。音は 1秒で 340メートルほど 進みます。3秒 かかれば、およそ 1キロメートル はなれて いる ことに なります。
ただし、かみなりが 聞こえたら、外には 出ません。まどの そばを さけて、おうちの 中から 見ましょう。
しらべる ときは
気象庁の ホームページに、かみなりの 子ども向けの せつめいが あります。おうちの 人と いっしょに 読んで みましょう。
光と音の差を数える
雷が光ってから音が聞こえるまでの秒数を数えると、雷までの距離が見積もれます。光は毎秒約30万km進むので、ほとんど一瞬で届きます。音は毎秒約340mなので、遅れて届きます[10]。たとえば5秒かかったら、約1.7km離れている計算です。
数えるのは、建物の中から、窓越しに見るときだけにします。雷の音が聞こえたら、屋外にいるのは危険なので、まず建物の中に入ります。
名前を調べる
「稲妻」のほかにも、「稲光」という言葉があります。国語辞典や、気象庁の雷のページ[2]で、雷に関わる言葉を調べて比べてみると、昔の人が空をどう見ていたかが分かります。
光と音の差で距離を見積もる
光は毎秒約30万km、音は毎秒約340mで進む[10]。光と音はほぼ同時に生じるが、光はほぼ瞬時に届くのに対し、音は距離に比例して遅れる。したがって、光ってから音が届くまでの秒数に340mをかければ、おおよその距離が分かる。音の速さは気温などで変わるため、これは目安である。計測は屋内から行う。
名前から調べる
「稲妻」の語源は、複数の国語辞典で表現が異なる可能性がある。大辞泉[1]のほかの辞書と比べてみると、語源説の言い方の差が見える。
原典にあたる
気象庁の雷の解説[2]は日本語で読める。NWSの雷の科学のページ[3]〜[6]は英語だが、図入りで段階を追って説明している。雷が窒素酸化物を作る量の見積もり[7]は、不確かさの幅まで書かれていて、数字の読み方を学ぶ材料になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- デジタル大辞泉「稲妻」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E7%A8%B2%E5%A6%BB (「稲の夫」説)
- 気象庁「雷」. https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder1-0.html (雷雲の高さと氷の粒の衝突)
- NWS Lightning Science: Electrification. https://www.weather.gov/safety/lightning-science-electrification (帯電の仕組み。英語)
- NWS Lightning Science: Connection with the ground. https://www.weather.gov/safety/lightning-science-connection-ground (先駆と上向きストリーマーの接触。英語)
- NWS Lightning Science: Return stroke. https://www.weather.gov/safety/lightning-science-return-stroke (帰還雷撃。英語)
- NWS Lightning Science: Dart leaders. https://www.weather.gov/safety/lightning-science-dart-leaders (ちらつきの仕組み。英語)
- Schumann & Huntrieser (2007), Atmospheric Chemistry and Physics. https://acp.copernicus.org/articles/7/3823/2007/acp-7-3823-2007.html (雷が作る窒素酸化物の量。英語)
- NASA SVS Lightning Climatology. https://svs.gsfc.nasa.gov/hyperwall/index/data/events/2012/2012-ams/lightning.txt.html (世界の雷の頻度。英語)
- 早稲田大学 研究紹介(雷・宇宙線). https://www.waseda.jp/top/news/91856 (雷の開始が未解明であること)
- 気象庁 こども向けQ&A. https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/a3_16.html (光と音の速さ)
なおした ところ
更新履歴
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