1. ひばなと かみなりは、なかま なの?
1. ドアノブの火花と雷は、同じ仲間なのか
1. 火花と雷は、同じ放電の現象として扱われる
ふゆの かわいた ひ、ドアノブに ふれた とたん、ぱちっと いたい ことが あります。あれは、からだに たまった でんきが、ひばなに なって とんだ のです。
かみなりも、でんきが ひばなのように とぶ ことです。きしょうちょうでは、かみなりを「くうきの なかで、プラスと マイナスの でんきが おおきく わかれて、ほうでんする こと」と せつめいして います[2]。
とぶ ときの おとが かみなりの おとで、ひかりが いなずまです。ちいさな ひばなと おおきな かみなりは、おなじ なかまの できごとです。
火花も雷も、空気が電気を通した瞬間
冬の乾いた日にドアノブで「ぱちっ」となるのは、体にたまった静電気が火花になって飛ぶからです。ライターやガスコンロの着火の火花も同じ仲間で、こうした現象は「絶縁破壊」と呼ばれます[1]。ふだんは電気を通さない空気が、電気の通り道に変わってしまう現象のことです。
気象庁は、雷を「大気中で大量の正負の電荷分離が起こり、放電する現象」と説明しています。放電のときに出る音が雷鳴、光が電光です[2]。ドアノブの「ぱちっ」という音と光は、ごく小さな雷鳴と電光にあたると考えるとつかみやすくなります。
では、同じ仲間なら、同じ条件で起きるのでしょうか。そこで、火花が飛ぶのに必要な電気の強さを数字で見てみます。
2. ひばなが とぶには、どれくらいの でんきが いるの?
2. 火花が飛ぶには、1cmあたり約3万ボルトが目安
2. 絶縁破壊に要る電場の大きさ ── 約2〜3MV/mという幅
ひばなが とぶ ためには、とても つよい でんきが いります。ちじょうの くうきでは、1センチの すきまに、およそ 3まんボルトが めやすです[1]。
コンセントの でんきは 100ボルトです。くらべると、すごく おおきな かずです。
ただし、これは めやすです。くうきの しめりぐあいや、ふれる ものの かたちで かわります。
1cmの隙間に3万ボルト
地上の空気で火花を飛ばすには、1cmあたりおよそ3万ボルトの電気の強さが必要だと説明されています。これは、家のコンセントの100ボルトとは、比べる条件がちがう数字です[1]。コンセントの100ボルトは電圧、こちらは距離あたりの電気の強さ(電場)だからです。
ここで大事なのは、3万ボルトは「1cmの隙間」での目安だということです。電気の強さ(電場)は、電圧を距離で割ったもので、隙間が2倍になれば、同じ強さを保つのに電圧も2倍いります。計算すると、1mmの隙間なら約3000ボルトです。
この値は一つに決まるわけではありません。ある総説は、標準的な気圧の空気で約2MV/m(1cmあたり約2万ボルト)としており、資料によって2〜3MV/mほどの幅があります[3]。湿度や電極の形、気圧でも変わるため、「約」の目安として受け取ってください。
阪大の解説では、地上の大気で絶縁破壊を起こすには1cmあたりおよそ3万ボルトの電場が必要とされ、コンセントの100Vと対比される[1]。ただし、これは1cmの隙間での目安で、電場とは電圧を距離で割った量だ。同じ電場なら隙間が1mmの場合は約3000Vで足りる。
値は資料で幅がある。Gurevichらの総説は、大気圧の空気で絶縁破壊の閾値を約2MV/mとする[3]。1MV/mは1cmあたり1万Vに当たるので、約2万V/cmだ。阪大の約3万V/cmは3MV/m、つまり2〜3MV/mの範囲に入る。湿度・電極の形・気圧などで変わるため、以降は「約2〜3MV/m」を基準に読む。
この基準を持って雷雲に目を向けると、火花とは桁の合わないものが見えてくる。
3. くもの なかで、でんきは どうやって たまるの?
3. 雲の中で、電気はどうやって分かれてたまるのか
3. 積乱雲内の電荷分離 ── あられと氷晶の衝突
かみなりを うむ くもは、せきらんうんです。なかには、あられと いう ちいさな こおりの つぶや、もっと ちいさな こおりの つぶが あります。
これらが はげしく ぶつかると、したじきで かみを こすった ときと おなじように、でんきが うまれます[1]。
うえの ほうは さむく、あられは マイナス、ちいさな つぶは プラスの でんきを おびます。おもい あられは したに、かるい つぶは うえに わかれ、くもの なかで プラスと マイナスが わかれます[1]。
下敷きで髪をこすったのと同じ起き方
雷を起こすのは、背の高い積乱雲です。この雲の中では、数mmほどの氷の粒「あられ」と、もっと小さな氷の結晶「氷晶」が、激しくぶつかり合っています[1]。
ぶつかると、下敷きで髪の毛をこすったときと同じように、静電気が生じます。周囲の気温が低い雲の上のほうでは、あられが負(マイナス)、氷晶が正(プラス)の電気を帯びます[1]。
あられは重いので下へ、氷晶は軽いので上へ分かれていきます。こうして雲の中で正と負の電気が大きく分かれ、これが電荷分離です[1]。
電気がたまっていくところまでは、ドアノブの火花と同じ考え方で説明できます。それでは、たまった電気が火花の条件に届いた、と言えるのでしょうか。
積乱雲内では、数mmの氷の粒である霰(あられ)と、小さな氷晶が激しく衝突し、静電気が生じる。気温の低い上部では霰が負、氷晶が正に帯電する。重い霰が下へ、軽い氷晶が上へ分かれることで、雲の中に電荷分離が生まれる[1]。
ここまでは、冬に下敷きで髪をこすったときと同じ「摩擦による帯電」の延長で説明される。だから、電荷分離が十分に進めば、空気が絶縁破壊を起こす電場に達して雷になる、と考えるのが自然に見える。この予想を確かめるには、雲の中の電場を実際に測るしかない。
4. くもの なかを はかったら、かずが あわなかった
4. 気球で雲の中を測ったら、火花の約10分の1しかなかった
4. 雷雲内の電場の実測 ── 閾値の約10分の1という結果
くもの なかの でんきの つよさを、きゅうに つけた そうちで はかった ことが あります。1990ねんだいに、アメリカで おこなわれました[1]。
すると、いちばん つよい ときでも、ひばなが とぶ ときの 10ぶんの 1ほどしか ありませんでした[1]。
ひばなの つよさに とどかない のに、かみなりは おきます。「かみなりが はじまる きっかけは、じつは よく わかって いません」と、けんきゅうした ひとも かいて います[1]。
測るほど、数字が合わなくなった
1990年代、アメリカのオクラホマで、気球に測定器をつけて雷雲の中の電気の強さを測る観測が行われました。結果は、最大でも、空気が火花を飛ばすのに必要な強さの約10分の1ほどでした[1]。
先ほどの数字で計算すると、1cmあたり約2000〜3000ボルトです。火花が飛ぶ強さに、1けた届いていません。
これは一つの観測だけの話ではありません。ある総説は、雷雲の中で測られた電場はどれも、ふつうの絶縁破壊に必要な値よりかなり小さいと述べています[3]。
こうして、雷が始まる最初のきっかけは、まだ分かっていないことになっています[1][3]。ただし、観測できた範囲の数字であり、雲の中のどこでも測れたわけではない点には注意が必要です。
1990年代に米国オクラホマで、気球を用いて雷雲内の電場が測定された。観測された値は、最大でも絶縁破壊に必要な電場の約10分の1ほどだった[1]。前章の約2〜3MV/mを基準にすると、約0.2〜0.3MV/m、1cmあたり約2000〜3000Vという計算になる(この数字は筆者が上の資料値を割ったもので、測定値そのものではない)。
Gurevichらの総説も、雷雲内のすべての電場測定で、従来の絶縁破壊に必要な値を大きく下回る値が得られると述べ、何が雷を始めるのかは分かっていないと整理している[3]。測定の倍率は研究や条件により幅があるため、「約10分の1以下」と読むのが安全だ。
ここで話は、雷の開始には、ふつうの絶縁破壊とは別のしくみが働いているのではないか、という方向に動く。
5. かみなりの「さいしょの ひとすじ」は、なにが つくるの?
5. 雷の「最初の一歩」をつくるものは何か ── 考えられている仮説
5. 雷の開始をめぐる仮説 ── 逃走電子モデルと、その由来
はっきりした こたえは、まだ ありません。ただ、いくつか かんがえが あります。
たとえば、うちゅうから とんで くる つぶが つくる でんしが、なだれのように ふえて きっかけに なる、という せつが あります。
どれが ただしいか、まだ きまって いません。これから しらべる ところです。
仮説は複数あり、答えは決まっていない
雷の始まりについては、いくつかの仮説が出されています。その一つが、宇宙線が作る高エネルギーの電子が「なだれ」のように増えるという説です。ただし、どれが正しいかはまだ決まっていません。
宇宙線が作る電子の仮説は、古くからあります。「逃走電子」というアイデアを最初に提案したのは、霧箱の発明で有名なC.T.R.ウィルソンで、およそ100年前の1925年でした[1]。逃走電子とは、電場で加速され、空気の分子にぶつかってもスピードを落としにくい電子のことです。
この電子は、宇宙線が作る電子が「種」になる、とも考えられています。有力な仮説の一つですが、これが雷の引き金になりうる、という段階にとどまっています[3]。
6. はじまった かみなりは、どうして ながい みちを つくれるの?
6. 一度始まった放電は、弱い電場の中も進める
6. ストリーマとリーダー ── 閾値より低い電場の領域への伸長
いちど はじまると、ひばなの ような でんきの みちが のびて いきます。この みちは、まわりの でんきが よわい ところにも すすめる ことが あります[4]。
かみなりの みちの くうきは、さいだいで 3まんど ほどにも なると いわれます。たいようの ひょうめんの 5ばいほどです[5]。
この みちが きゅうに ひろがって ちぢむので、おとが うまれて、かみなりの おとに なります[5]。
道ができると、弱い電場の中でも進める
放電が始まったあとの話は、少し分かっています。「ストリーマ」と呼ばれる細い放電は、まわりの電場が絶縁破壊の値より低い場所にも進めることが、論文で示されています[4]。ストリーマは空気だけでなく、窒素やアルゴン、水や油の中でも起きます。
ストリーマは、電子のなだれから「リーダー」や「アーク放電」という太い放電へ進む過程で、大事な役をもつとされます[4]。
雷の通り道の空気は、最大で約3万℃に達することがあります。太陽の表面の約5倍の温度です。この道が急に膨らみ、すぐ縮むことで音波が生まれ、雷鳴として聞こえます[5]。
ただし、「だから雷は始まれる」とはつなげられません。ここで見た進み方は、始まったあとの話です。始まりの謎は、そのまま残っています。
始まりとは別に、始まったあとの放電の進み方は、一定の理解がある。Ebertらのレビューによると、ストリーマは、ストリーマがない状態での局所電場が絶縁破壊の値を下回る領域にも伝わる。ストリーマは電子なだれから、リーダーまたはアーク放電に至る過程で重要な役割をもち、空気に限らず、窒素やアルゴンなどの気体や、水・油でも起こる[4]。
NOAAは、雷の通り道の空気は最大で約5万°F(約3万℃)に達し、太陽表面の約5倍としている。急な膨張と収縮が音波となり、雷鳴として聞こえる[5]。ここで注意したいのは、ストリーマが低い電場の領域にも伝わることは、雷がどう始まるかの説明にはならない点だ。進み方と、始まり方は別の問いである。
7. ふゆの かみなりぐもから、ガンマせんを うつした
7. 冬の雷雲のガンマ線を、初めて画像にした観測
7. 雷雲のガンマ線イメージング ── 2022年の観測と、原典の読み方
かみなりの はじまりを しらべる ために、くもから でる、めに みえない ひかりの なかまを とらえた ひとたちが います。
2022ねん、わせだ だいがくなどの チームが、にいがたけんの ふゆの かみなりぐもから でる ガンマせんを、せかいで はじめて がぞうに しました[6]。
ガンマせんは、でんしが ふえる ときに でると かんがえられて います。でも、くわしい しくみは、まだ ぜんぶは わかって いません。
つぎに ふゆの ドアノブで ぱちっと した とき、ちいさな ひばなと、くもの なかの おおきな ひみつを おもい出して みて ください。
見えない光で、雲の中をのぞく
雷の始まりを探る手がかりに、雷雲から出る放射線の観測があります。1980年には、航空機で雷雲の中を飛ぶと、数秒間だけ放射線が増えることが観測されました。いまの「ガンマ線グロー」に当たります[1]。
2022年9月、早稲田大学・理化学研究所・大阪大学のチームが、新潟県十日町市松代の冬の雷雲から出るガンマ線を、世界で初めて画像にとらえたと発表しました。観測は2022年1月14日に行われました[6]。
ガンマ線グローは、電子がなだれ式に増えて出ると考えられています。しかし、その仕組みは完全には分かっていません[6]。
この記事で使った数字は、上の出典の表にある阪大の解説やガンマ線の発表で確かめられます。電場の「約10分の1」が資料でどう書かれているか、自分の目で読み比べてみてください。ドアノブの火花を見るたびに、雲の中の問いを思い出せるはずです。
雷の開始を調べる手がかりの一つが、雷雲から出る放射線だ。1980年には、航空機で雷雲内を飛ぶと数秒間の放射線の増加が観測された。現在のガンマ線グローに当たる[1]。
2022年9月29日、早稲田大学・理化学研究所・大阪大学のチームは、新潟県十日町市松代で2022年1月14日に観測した冬の雷雲のガンマ線を、コンプトンカメラで世界で初めて画像にとらえたと発表した[6]。ガンマ線グローは電子がなだれ式に増えて制動放射を出すと考えられるが、機構は完全には分かっていない[6]。
雷の開始は、複数の仮説の段階にある。この記事の「約10分の1」「約2〜3MV/m」という数字は、阪大の解説[1]とPhysics Todayの総説[3]の2件で方向が一致するが、倍率は測定で幅がある。資料どうしを読み比べ、割った数字がどの単位で書かれているかを自分で確かめると、見え方が変わる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
雷の仕組み・測定値・仮説に関する資料。数字の用途は各項目に記した。
- 和田有希「雷・雷雲から放出される放射線」(大阪市立科学館 館誌2024年5月号)。https://www.sci-museum.jp/wp-content/uploads/2024/05/universe202405_04_09.pdf (火花の条件、雷雲内の電場の実測、逃走電子の提案、ガンマ線グロー)
- 気象庁「雷」。https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder1-0.html (雷の定義、雷鳴と電光)
- Gurevich, Zybin "Runaway breakdown and the mysteries of lightning", Physics Today. https://physicstoday.aip.org/features/runaway-breakdown-and-the-mysteries-of-lightning (絶縁破壊の閾値、雲内の電場の測定、開始の謎)
- Ebert, Sentman (2008) J. Phys. D 41 230301. https://homepages.cwi.nl/~ebert/EdRevJPD08.pdf (ストリーマ、リーダーに至る過程)
- NOAA / National Weather Service "Lightning Science: Thunder". https://www.weather.gov/safety/lightning-science-thunder (雷の通り道の温度、雷鳴)
- 早稲田大学ニュース「世界で初めて雷雲を直接ガンマ線でイメージング」(2022年9月29日)。https://www.waseda.jp/top/news/83827 (冬の雷雲のガンマ線の画像化)
なおした ところ
更新履歴
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