1. ハイエナは、ほんとうに たべのこしを あさるの?
1. ハイエナは、ライオンの食べ残しをあさるだけなのか
1. 「死肉あさり」のイメージと、研究者の説明のずれ
ゆうがたの くさはらで、ヌーが たおされました。そこへ ライオンと ハイエナが あつまって きます。さて、この えものは だれの ものでしょう。
ハイエナは、よその えものを ぬすむ いきものと 思われがちです。でも、さっぽろの 円山どうぶつえんは、ハイエナを 「あしが はやくて 体力も ある、すぐれた かりゅうど」と しょうかいして います。たべる ものの 6わり いじょうは、じぶんたちで つかまえた えものだそうです。
アフリカの ンゴロンゴロと いう ばしょを しらべた けんきゅうでは、ライオンの ほうが ハイエナの えものを とる ことが おおいと いわれて います。
じゃあ、ハイエナは ライオンに まけてばかりなのかと いうと、そうでも ありません。つぎの 章で、その わけを 見て みましょう。
夕方のサバンナで、ヌーが倒されました。すぐにライオンとハイエナが集まってきます。さて、この獲物はだれのものでしょうか。
ハイエナというと、ほかの動物の獲物をあさる姿を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが札幌市円山動物園は、ブチハイエナを俊足と体力をもつ優秀なハンターと紹介し、食べるものの6割以上は自分たちで捕らえた獲物だと説明しています[2]。「6割以上」は下限の言い方なので、実際にはもっと多い可能性もあります。
ンゴロンゴロ・クレーターを調べてきた研究プロジェクトは、さらに意外なことを書いています。一般に信じられているのとは逆に、ライオンのほうがハイエナから獲物を奪う回数が多い、というのです[1]。ただしこれは、ンゴロンゴロでの話です。どの地域でも同じとは言えません。
数を見ると、この説明にも納得がいきます。同じ資料には、クレーターにはブチハイエナが最大550頭、成獣のライオンは25〜40頭ほどいる、とあります[1]。数は年や時期で変わりますが、最大の数どうしで割ると、ハイエナはライオンの約14倍(550÷40)から22倍(550÷25)です。この数のハイエナが、ライオンの食べ残しだけで暮らすのは難しそうです。円山動物園の「6割以上は自力で狩る」という説明とも、つじつまが合います。では、両方が集まったとき、獲物はどうやって決まるのでしょうか。
ヌーが倒れたところへ、ライオンとハイエナが集まってくる。獲物はだれのものになるのか。その前に、ハイエナの食べ物の中身を確かめておく。
札幌市円山動物園は、ブチハイエナを俊足と体力をもつ優秀なハンターと説明し、食べるものの6割以上は自分たちで捕らえた獲物だとしている[2]。「6割以上」は下限であり、6割ちょうどという意味ではない。ケニアのマサイマラで調べられたハイエナの群れ(Talek群)では、肉の「5%を除く全部」を狩りで得たという別の研究も紹介されている[3]。
そのうえでンゴロンゴロの研究プロジェクトは、ライオンのほうがハイエナから獲物を奪う回数が多いと述べる[1]。ただしこれはンゴロンゴロの結果で、すべての地域に当てはまるとは限らない。同じ資料は、クレーターにブチハイエナが最大550頭、成獣のライオンが25〜40頭いるとする[1]。上限どうしで割ると、ハイエナはライオンの約14倍(550÷40)から22倍(550÷25)になる。数は年や時期で変わるので、あくまで目安の計算である。この数の差に、円山動物園の「6割以上は自力で狩る」という説明を重ねると、ハイエナが死肉だけで生きる構図は成り立ちにくいと考えられる。
それなら、同じ獲物に両者が集まったとき、勝ち負けは何で決まるのか。
2. メスの ライオンが あいてなら、かずが ものを いうの?
2. メスライオンが相手なら、数が決め手になる
2. メスライオンが相手のとき:ハイエナの数と「獲物を守れる比」
ドイツの ベルリンの けんきゅうチームは、1996ねんから ンゴロンゴロで、ハイエナと ライオンを ずっと 見て きました。
どちらも、おなじ ぐらいの かずの ヌーを つかまえて いました。そして、えものを めぐって あらそう ことが ありました。メスの ライオンが あいての ときは、ハイエナが 3ばい いじょう いれば、えものを まもれたと つたえられて います。
でも、じっさいの あらそいは、おもいきり とっくみあうような ことは めったに ありません。どちらかが さきに ひいて、けっちゃくが つきました。
ちなみに、べつの しりょうでは、「6ばい いじょう」と かいて あります。かずが おおいほど ゆうりだ、と いうところは おなじです。
ベルリンの研究チームは、1996年からンゴロンゴロでハイエナとライオンを観察してきました。2002年の新聞解説によると、両者はほぼ同じ数のヌーを仕留め、その後、獲物をめぐって競い合いました[4]。
相手がメスライオンのとき、勝敗を左右したのは数でした。ハイエナがメスライオンの3倍以上いると、ハイエナが獲物を守れたと報じられています[4]。たとえばメスライオンが4頭なら、ハイエナは12頭以上、という計算です。
実際の場面は、映画のような激しい取っ組み合いばかりではありません。取っ組み合いはまれで、多くの場合、どちらかが先に引き下がって決着がついたとされています[4]。
ただし、必要な数の比は資料で食いちがいます。ンゴロンゴロの研究プロジェクトは、メスと若いオスの群れが相手なら、少なくとも6倍の数が要ると書いています[1]。3倍か6倍か、ここでは1つに決められません。分かるのは、メスライオンが相手のときは、ハイエナの数が多いほど有利になる、という大まかな向きです。では、群れの中にオスのライオンがいたら、どうなるのでしょう。
ベルリンの研究チームは、1996年からンゴロンゴロでハイエナとライオンを観察した。2002年の新聞解説によると、両者はほぼ同じ数のヌーを仕留めており、獲物をめぐる競い合いは、そのあとに起きた[4]。つまり、争いの出発点では、どちらも「狩る側」だったことになる。
では、争いの結果は何で決まったのか。メスライオンが相手のとき、ハイエナがメスの3倍以上の数なら獲物を守れたと報じられている[4]。たとえばメスが4頭なら、ハイエナは12頭以上という計算になる。ただし激しい取っ組み合いはまれで、どちらかが先に引くことで決着した[4]。体を傷つけ合う危険を、双方が避けている様子がうかがえる。
注意すべき点がある。この3倍という数字は新聞解説の言い方で、論文本文は今回確かめていない。しかも、必要な数の比は資料によって異なる。研究プロジェクトは、メスと若いオスの群れが相手なら少なくとも6倍の数が必要としている[1]。3倍と6倍の差は、相手の群れの構成や、数え方の条件のちがいによる可能性があるが、資料からは断定できない。したがって、ここで言えるのは「メスが相手なら、数が多いほどハイエナに有利」という向きまでである。
それでは、オスライオンがいる場合、この数の法則はどうなるのか。
3. オスの ライオンが 一とう いたら、どうなるの?
3. オスライオンが1頭いると、ハイエナは数があっても引き下がった
3. オスライオンが1頭いるとき:獲物をめぐる争いでは数の有利が出なかった
ここからが、いちばん おどろく ところです。ンゴロンゴロの かんさつでは、おとなの オスの ライオンが 一とう いると、ハイエナは かずに かんけいなく えものから ひきさがりました。
おとなの オスの ライオンは、ハイエナの やく 2ばいの 大きさ、3ばいから 4ばいの おもさが あると いわれます。ハイエナが たくさん あつまっても、おおきな ちがいが あります。
メスの ライオンが あいてなら、かずが おおい ほうが ゆうりでした。でも、オスの ライオンが 一とう いる ときは、かずの ちからが つかえなかったのです。
「かずが おおければ かてる」と いうのは、あいてが メスの ばあいの おはなしでした。
ベルリンの研究チームの観察では、オスライオンが1頭いると、ハイエナは数に関係なく獲物から引き下がりました[4]。獲物をめぐる競争の場面での観察です。
理由として、研究プロジェクトは体の大きさの差をあげています。成獣のオスライオンは、ハイエナの約2倍の体格と、3〜4倍の体重をもつとされます[1]。ハイエナが何頭集まっても、オスライオンは獲物を支配するか、横取りするとされています。ただし、これは獲物の取り合いの場面での話で、2種の関係すべてを表すわけではありません。
体重が3〜4倍というのは大きな差です。メスライオンが相手なら、数をそろえれば獲物を守れましたが、オスライオンが1頭いるときは、その数の有利が出なかった、というのが観察の結果です。
ここまでは、ンゴロンゴロという1つの場所の話でした。ほかの場所でも同じなのでしょうか。
メスライオン相手の数の有利が出なくなるのが、オスライオンがいる場面である。ベルリンの研究チームの観察では、オスライオンが1頭いると、ハイエナは数に関係なく獲物から引き下がった[4]。
この差を生む理由として、ンゴロンゴロの研究プロジェクトは体格を挙げる。成獣のオスライオンは、ハイエナの約2倍の体格と3〜4倍の体重をもち、何頭のハイエナが集まっても、獲物を支配するか奪い取るとされる[1]。体重の差は、体の大きさだけでなく、力の差としても効いてくると考えられる。ただし、ここで言えるのは獲物の取り合いの場面に限った話で、2種の関係すべてを表すわけではない。
メスライオン相手には数が決め手になるのに、オスライオン相手の取り合いでは数の有利が出ない。その分かれ目は、ライオン側の体格と組んでいる数にあると読める。ただし、この読み方は主にンゴロンゴロでの観察に基づく。では、場所が変わると、力関係も変わるのか。
4. ばしょが かわると、えものの ゆくえも かわるの?
4. 場所や調べ方が変わると、数字も変わる
4. 場所が変わると何が変わるか:数字の動きと、置いた死骸の観察
ケニアの マサイマラで しらべた べつの けんきゅうでは、ハイエナは にくの 「5%を のぞく ぜんぶ」を かりで てに いれたと しょうかい されて います。
ある かんさつでは、ハイエナは えものの 5から 20%を ライオンに とられると いわれます。セレンゲティでは、ごはんの やく 3ぶんの 1が たべのこしだったそうです。「かりで てに いれた わりあい」と「ごはんに しめる たべのこしの わりあい」は、べつの すうじです。場所と しらべた じきで、すうじは おおきく うごきます。
南アフリカでは、おいた にくを カメラで しらべました。ライオンが さきに たべる ことが おおいのですが、ハイエナの たべる りょうや はやさが めだって へる ことは ありませんでした。
ライオンと ハイエナは、けんかばかり して いる わけでは なさそうです。
場所を変えると、数字は大きく動きます。ケニアのマサイマラで調べられたハイエナの群れは、肉の「5%を除く全部」を狩りで得たと紹介されています[3]。ンゴロンゴロの研究プロジェクトの説明とは、様子がちがいます。
ほかの観察も紹介されています。ブチハイエナは獲物の5〜20%をライオンに奪われる、セレンゲティでは食事の約33%が死肉だった、という数字です[3]。「狩りで得た割合」と「食事に占める死肉の割合」は別の数字なので、並べて比べないよう注意が要ります。さらに、調べた時期、場所、数え方で数字は大きく変わります。観察の古さもちがうので、ンゴロンゴロの数字と単純に比べることはできません。
南アフリカのズールーランドでは、死骸を置いてカメラで見張る研究が行われました。ライオンが優先的に食べ、オスがいると特に優位でしたが、ハイエナの食べる量や速さに目立つ損失はありませんでした[5]。ライオンは大きな死骸を好み、ハイエナは小さな死骸も食べる、という使い分けも見えました。ハイエナが、ライオンのいる場所のほうで死骸を早く見つけられる面もあったそうです[5]。
ただし、これは置いた死骸の実験で、自分で狩った獲物の話ではありません。それでも、2種が「いつも奪い合うだけ」の関係ではないことは見えてきます。
場所が変われば、数字も変わる。マサイマラのハイエナ(Talek群)は、肉の「5%を除く全部」を狩りで得たという研究が紹介されている[3]。Kruuk の観察として、ブチハイエナは獲物の5〜20%をライオンに奪われる、セレンゲティでは食事の約33%が死肉だった、とも紹介されている[3]。「狩りで得た割合」と「食事に占める死肉の割合」は、測っているものが別である。
これらを1つの表に並べたくなるが、それは危うい。調べた時期、場所、数え方が別々だからである。原著を直接確かめていない数字もあり、ンゴロンゴロの結果と単純に比べることはできない。数字の動きは、動物たちの暮らしが場所で変わる可能性を示す、というところまでに読むのが安全である。
では、2種は奪い合うだけの関係なのか。南アフリカのズールーランドで、死骸を置いてカメラで調べた研究(Amorós ら、2020年)は、ライオンが優先的に食べ、オスがいると特に優位だと示した。それでも、ハイエナの食べる量や速さに目立つ損失はなかった。ライオンは大きな死骸を好み、ハイエナは小さな死骸も食べる、という使い分けも見えた。ライオンがいると、ハイエナが死骸を早く見つけやすい面もあった[5]。
この実験は、置いた死骸が相手で、自分で狩った獲物の話ではない。この点では、ンゴロンゴロの観察とは別の場面である。ただし、2種の関係が単純な勝ち負けだけではなさそうだという手がかりにはなる。では、この話を、自分の手でどう確かめられるだろう。
5. けいさんして、どうぶつえんで 体つきを 見て みよう
5. 数を計算して、動物園で体つきを見る
5. 数字を自分で計算し、原典に当たる
きょう できる こと
かみに「ハイエナ」と「メスの ライオン」の かずを かいて みましょう。たとえば メスの ライオンが 4とう いたら、ハイエナは 3ばいなら なんとう いるでしょう。6ばいなら どうでしょう。けいさんして みます。そこに オスの ライオンが 一とう くわわると どうなるかも、じぶんの ことばで かいて みましょう。
おでかけで できる こと
どうぶつえんで ハイエナを 見る ことが あれば、あしの ながさや 体の かたちを、よく 見て みましょう。「かりゅうど」と いわれる わけが、かんじられるかも しれません。
紙の上で計算する
メスライオンが4頭いるとき、ハイエナが「3倍」なら何頭、「6倍」なら何頭でしょう。計算して、2つの資料の数字の差が、実際の群れで何頭ぶんの差になるかを、目で見てください(答えは12頭と24頭です)。そこにオスライオンが1頭加わると、この計算が使えなくなる理由も、ノートに書いてみましょう。
動物園で見る
ブチハイエナのいる動物園では、体つきや脚の長さをよく見てください。円山動物園の説明のように、狩りに向く体かどうかを、自分の目で考えるきっかけになります。
2つの数字を並べる
この記事に出てきた「ハイエナが狩りで得た割合」と「食事に占める死肉の割合」を、紙に書き出してみましょう。どちらも調べた場所と時期がちがいます。条件のちがう数字を並べると何が困るのか、ノートに書いてみてください。円山動物園のページ[2]は日本語で読めます。
計算で確かめる
メスライオンが4頭いるとき、ハイエナが3倍なら12頭、6倍なら24頭である。2つの資料の差は、実際の群れでは12頭ぶんの差になる。オスライオンが1頭加わると、この比が意味をもたなくなる理由は、第3章の体格のちがいと合わせて考えられる。
2つの比を並べて比べる
記事に出てきた「3倍」(新聞解説[4])と「6倍」(研究プロジェクト[1])を紙に書き、それぞれの相手(メスライオンか、メスと若いオスの群れか)と、数字の出どころを並べてみよう。マサイマラやセレンゲティの数字[3]は紹介記事を通した二次的なものなので、「どこで、いつ、どう数えたか」の欄も作って空欄を数えると、数字の読み方が変わるはずだ。円山動物園のページ[2]は日本語で読める。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Ngorongoro Hyena Project: Conflict with lions. https://hyena-project.com/research-topics/conflict-with-lions/ (ライオンの横取り・数・体格)
- 札幌市円山動物園 ブチハイエナ. https://www.city.sapporo.jp/zoo/012-b.html (ハイエナは狩りをする)
- National Geographic: Looking nature in the mouth. https://www.nationalgeographic.com/science/article/looking-nature-in-the-mouth (ほかの場所の数字)
- Times Higher Education: Findings: Rumble in the jungle (2002). https://www.timeshighereducation.com/node/38511 (ハイエナの数と獲物の行方の観察)
- Amorós et al. 2020, Oikos/グラナダ大学の紹介. https://ugr.es/node/13568 (置いた死骸の実験)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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