1. ぎゅうにゅうに「たね」を たす
1. 牛乳に「種」を足すと、別の食べ物になる
1. 殺菌した牛乳を冷まし、スターターを加える
ヨーグルトの つくりかたは、じつは あまり ふくざつでは ありません。まず、ぎゅうにゅうを あたためて、わるい 菌を なくします。つぎに、菌が そだちやすい あたたかさまで さまします[6]。
そこへ、ヨーグルトの 種に なる 乳酸菌を くわえます。この 種を「スターター」と いいます。あとは、牛乳の ようきを あたたかい ところに おいて、まつだけです[6]。
ぎゅうにゅうに、すっぱい ものを たしたり、かためる ざいりょうを まぜたり、しないのです。それなのに、どうして かたまるのでしょう。
2. すっぱく したのは、きんだった
2. 酸っぱくしたのは、牛乳の中の菌だった
2. 乳糖から乳酸へ:酸を外から足さず、菌がつくる
ヨーグルトの 種に いる 乳酸菌は、ぎゅうにゅうに ふくまれる「にゅうとう」と いう あまみの もとを たべて ふえます[1]。
ふえる とちゅうで、菌は たくさんの「乳酸」を つくります。これが ヨーグルトの すっぱさの もとです。
つまり、牛乳の なかで、菌が ごはんを たべて、すっぱい ものを うみだして いるのです。ごはんを たべた ぶんだけ、ぎゅうにゅうは すっぱく なっていきます。
乳酸菌は、乳糖を食べて酸をつくる
乳酸菌は、乳糖やブドウ糖を栄養にして増える細菌の仲間の総称で、増える過程で多量の乳酸をつくります[1]。牛乳には乳糖が含まれているので、スターターを入れると、菌は牛乳の乳糖を栄養にして増え、乳酸を出していきます。
ヨーグルトのさわやかな酸味は、この乳酸が牛乳の中にたまることで生まれます。レモンのようにクエン酸を足しているわけではなく、牛乳の甘み(乳糖)が、菌の手で酸味に姿を変えている、といえます。
「発酵」という言葉の中身
この変化を「発酵」と呼びます。菌が栄養を使って別の物質をつくる働きのうち、人間の暮らしに役立つものを、ふつうそう呼びます。ヨーグルトの場合の「別の物質」が、乳酸です。
酸が増えると、牛乳に何が起きるのでしょうか。
3. すっぱく なると、どうして かたまるの?
3. 酸が増えると、カゼインが固まり始める
3. カゼインの凝固:pH4.6は「目安」であって最終値ではない
ぎゅうにゅうには、「カゼイン」と いう たんぱくしつが はいって います。ぎゅうにゅうの たんぱくしつの、およそ 10の うち 8は カゼインです[2]。
カゼインは、ぎゅうにゅうの なかで、とても ちいさな つぶに なって、ちらばって います。この つぶが あるので、ぎゅうにゅうは しろく みえる、とも いわれます[2]。
ところが、乳酸が ふえて すっぱく なると、カゼインは くっついて かたまります[1]。これを「カード」と いい、ヨーグルトの とろりとした からだの もとです。
牛乳の白い色をつくる粒
牛乳のタンパク質の約8割は、カゼインです。カゼインは牛乳の中で「ミセル」という小さな粒になって散らばっています。大きさは直径30〜600ナノメートルで、1ナノメートルは1ミリの100万分の1ですから、大きいものでも0.0006ミリ(600ナノメートル)ほどです。この粒は脂肪の粒と一緒に光を散らして、牛乳を白く見せる一因だとされています[2]。
酸が増えると、粒が固まる
乳酸菌がつくった乳酸が増えていくと、カゼインは固まり、「カード」と呼ばれる固まりになります[1]。牛乳に酸を加えてpH4.6にすると、カゼインが白い固まりになって沈む、という実験的な目安も知られています[2]。これは固まりが現れる目安の数字で、ヨーグルトの最終的なpHを示す数字ではありません。
ここまでで、「菌→乳酸→カゼインが固まる」の道すじは分かりました。では、菌は1種類で足りるのでしょうか。
カゼインは牛乳タンパク質のおよそ80%を占め、牛乳に酸を加えてpH4.6にすると白色の凝集物として沈殿する性質をもつ[2]。牛乳中では直径30〜600nm(0.00003〜0.0006mm)のカゼインミセルとして分散しており、脂肪球とともに光を散乱して牛乳を白く見せる[2]。
ヨーグルトでは、乳糖から生じた乳酸の働きでカゼインが固まり、その固まり(カード)が組織をつくる[1]。ただしpH4.6は、純粋な牛乳に酸を加えて沈殿を見たときの目安であり、ヨーグルトが完成したときのpH値ではない。ヨーグルトの最終的なpHについて、本稿は具体値を示さない。
ここで疑問が残る。菌が酸をつくるだけなら、菌は1種類でも足りそうに見える。それなのに、一般的なヨーグルトで2種類の菌が使われるのはなぜか。
4. ふたつの きんが、たすけあって いた
4. 2種類の菌は、お互いのえさを作り合う
4. ブルガリア菌とサーモフィルス菌の共生
ブルガリアヨーグルトなどでは、ふつう ふたつの 菌が ペアで はたらいて います。「ブルガリア菌」と「サーモフィルス菌」です[3]。
ブルガリア菌は、ぎゅうにゅうの カゼインを こまかく わけて、ペプチドと いう ものを つくります。サーモフィルス菌は、ぎ酸と いう すっぱい ものを つくります[3]。
この ペプチドと ぎ酸が、おたがいの 菌が そだつ のを たすけます。ひとりずつより、ふたりで いた ほうが、はやく ヨーグルトに なるのです[5]。
こういう たすけあいを、共生と いいます。
ペアで働く、2種類の乳酸菌
ブルガリアヨーグルトなどでは、ふつうブルガリア菌とサーモフィルス菌の2種類がペアで働きます。どちらも乳酸菌ですが、得意なことが違います[3]。
ブルガリア菌は、牛乳のカゼインを分解して、ペプチド(タンパク質が少し切れたもの)をつくります。サーモフィルス菌は、ギ酸という物質をつくります。このペプチドとギ酸が、おたがいの菌の増えるのを刺激します[3]。別の研究でも、ブルガリア菌の強いタンパク質分解力で生まれたペプチドやアミノ酸を、サーモフィルス菌が使えるようになる、と説明されています[4]。
助け合うと、早くできる
この「共生作用」で、2種類の菌はお互いの乳酸発酵を高め合い、短い時間でヨーグルトができるとされます[5]。ただし、助け合いの強さは菌株(同じ種類の中の系統)によって違うことが知られています[3]。
ここまでで、牛乳はヨーグルトに変わりました。では、牛乳に入っていたものは全部変わってしまったのでしょうか。
菌が1種類でも酸はつくれるが、ヨーグルトの製造では、ブルガリア菌とサーモフィルス菌の2種を併用する。両者の間には共生と呼ばれる関係がある[3]。
ブルガリア菌は乳中のカゼインを分解してペプチドなどを生成し、サーモフィルス菌はギ酸を生成する。これらペプチドとギ酸が、互いの生育を刺激する[3]。別の論文は、ブルガリア菌の強いタンパク質分解活性が、サーモフィルス菌にとって利用可能なペプチドとアミノ酸の生産を高める、と述べている[4]。ここでカゼインが、固まる材料であるだけでなく、菌の「えさの原料」にもなっている点が興味深い。
整理すると、一方が牛乳のタンパク質を切って相手の栄養を用意し、もう一方が別の物質を返して相手の増殖を後押しする、という物のやり取りになっている。片方だけが得をする関係ではなく、双方の生育が刺激される点が、共生と呼ばれる理由である。また、先に見たように酸の量は菌の数や活動に左右されるため、この助け合いが進むほど、カゼインが固まる酸の量にも早く届くと読める(この因果は資料の直接の記述ではなく、本稿の読み取りである)。
その結果、互いの乳酸発酵が高まり、短時間でヨーグルトができる[5]。ただし、共生の効果の大きさは菌株によって異なる[3]。「2種を混ぜればいつでも同じ速さ」という意味ではない。
この分業は、牛乳の成分をどこまで変えるのか。
5. ぎゅうにゅうは、ぜんぶ かわるの?
5. 牛乳の成分は、全部が変わるわけではない
5. 乳糖の分解率と、ヨーグルトの規格
ヨーグルトに なっても、牛乳の にゅうとうが ぜんぶ なくなる わけでは ありません。ヨーグルトでは、にゅうとうの 10の うち 2から 4くらいが、菌に よって かわって いると いわれます[7]。
のこりの にゅうとうは、そのまま のこって います。菌は、ぜんぶを たべて しまう わけでは ないのです。
それに、にほんでは ヨーグルトの きまりも ある、と メーカーの せつめいに あります。1ミリリットルに、乳酸菌が 1000万こ いじょう いることなど、です[6]。1ミリリットルは、こさじの 5ぶんの 1ほどの りょうです。
乳糖は2〜4割ほど分解される
ヨーグルトのような発酵乳では、乳糖のうち約20〜40%が乳酸菌の働きで分解されている、と説明されています。タンパク質も一部が分解されて、消化されやすいアミノ酸やペプチドになっているともいわれます[7]。つまり乳糖はなくならず、牛乳より少し減っている、というのが正確なところです。
ヨーグルトと名乗るための決まり
明治の解説によると、日本の乳等省令ではヨーグルトは「はっ酵乳」という種類で、無脂乳固形分が8.0%以上、乳酸菌数(または酵母数)が1ミリリットルあたり1,000万個以上と決められているそうです[6]。1,000万は10の7乗で、1億ではありません。1ミリリットルは小さじの約5分の1ですから、その中に最低でも1,000万個の菌がいる計算になります。
牛乳を変えたのは、目に見えない大勢の菌でした。では、最初にこの変化に気づいた人は、どうやって見つけたのでしょうか。
発酵乳では、乳糖は乳酸菌の働きで約20〜40%が分解されており、タンパク質も、消化されやすいアミノ酸やペプチドに一部が分解されている[7]。乳糖が「全部乳酸になる」と読むのは誤りで、残りの乳糖は製品中に残る。
明治の解説によると、日本の乳等省令ではヨーグルトは「はっ酵乳」に区分され、無脂乳固形分8.0%以上、乳酸菌数(または酵母数)1,000万個/ml以上と定められている[6]。1,000万個は107個であり、1億(108)の10分の1にあたる。この数は、製品が「菌が働いた発酵乳」であるための下限として読むのが妥当で、製造中の実際の菌数を示すものではない(菌数は発酵が進むほど増える)。
では、これだけの仕組みを、人はいつ、どうやって見つけたのか。
6. さいしょの ヨーグルトは、ぐうぜん?
6. 最初のヨーグルトは、偶然の出来事だったといわれる
6. 起源の説:偶然入り込んだ菌と、日本への伝来
むかしの 人は、菌の ことを しりませんでした。それでも、ヨーグルトの ような ものは、ずっと むかしから あったと いわれます。
どうぶつを かって ちちを とる くらしが はじまった ころ、きの おけや かわの ふくろに いれて おいた ちちに、たまたま 乳酸菌が はいって、ヨーグルトに なったと いう はなしです[8]。
たしかな きろくが あるわけでは なく、「そう いわれて いる」と いう はなしです。菌が みえなくても、「こうすると おいしい もの が できる」と たしかめた 人が、いたのかも しれません。
牧畜の始まりとともに
ヨーグルトの起源は、紀元前数千年前、人が牧畜を始めたころまでさかのぼるといわれます。木の桶や革の袋に入れておいた乳に、偶然乳酸菌が入り込んでできた、という説明です[8]。
これは確かな史実というより、「そう伝えられている」という話です。ただ、菌の存在も乳酸も知らない時代に、乳を置いておくと別の食べ物になる、という経験が積み重なったことは想像できます。
菌が見えなくても、手順は続いた
日本には、奈良時代に乳を煮つめた「酪」の形で伝わったとされています[9]。ここまでの仕組み(乳糖、乳酸、カゼイン、2種の菌)は、のちの研究で分かったことで、昔の人は仕組みを知らないまま、結果を手がかりに受け継いできたことになります。
起源については、紀元前数千年前、人が牧畜を始めたころから作られていたとされ、木桶や革袋に入れた乳に乳酸菌が偶然入り込んで発酵した、という説明がある[8]。これは確定した史実ではなく、一つの説明である。日本では奈良時代に「酪」として伝わったとされる[9]が、これも資料によって言い方が異なり、現在のヨーグルトと同じものだったかは分からない。
注目したいのは、乳酸、カゼイン、共生といった仕組みが分かったのは、ずっとあとの研究だという点である。昔の人は、菌も酸も知らないまま、結果がうまくいった方法を受け継いだと考えるのが自然だ。現在の製法が、殺菌・冷却・スターター添加という「余計な菌を入れず、狙った菌を入れる」手順になっているのは、その経験を菌の知識で組み直したものと読める(これは資料の記述ではなく、本稿の読み取りである)。
ここまでの道すじを、自分の目で確かめる方法はあるか。
7. ヨーグルトの ふたを みてみよう
7. ヨーグルトのカップから、道すじをたどり返す
7. 製品の表示と原典で、記事の主張を照らし合わせる
おうちに プレーンヨーグルトが あったら、カップの うらを みてみましょう。「しゅべつ」や「げんざいりょう」に、ぎゅうにゅうと ともに、乳酸菌の なまえが かいて あるかもしれません。
ぎゅうにゅうと くらべて、さわりごこちや においが どう ちがうかも、スプーンで すくって、みてみましょう。たべる ときは、あまさや すっぱさも、ゆっくり あじわって みてください。
この ページに でて きた ことばを、おうちの 人に はなして みるのも いいですね。
家にあるもので確かめられること
家にプレーンヨーグルトがあれば、カップの表示を見てみましょう。「種類別」にある「はっ酵乳」や、原材料欄の菌の名前が、この記事の内容とつながります。メーカーによって、書いてある菌の名前が違うこともあるかもしれません。
牛乳とヨーグルトを少しずつスプーンにとり、色や、すくったときの重さ、においを比べるのもよい観察です。食べ物ですから、冷蔵庫から出して長く置いたものは口にしないでください。
もっと知りたくなったら
「共生」の話は、日本の生物工学会の特集記事にまとまっています。菌株による違いなど、この記事で触れきれなかった内容は、出典欄の資料で読めます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。数字や言い回しは、各資料の内容にもとづいて、自分の言葉で書き直しています。
- 明治ヨーグルトライブラリー「用語辞典」 https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/style/dictionary/ (乳酸菌・カード・乳糖から乳酸への変化)
- Jミルク「牛乳のたんぱく質」 https://www.j-milk.jp/findnew/chapter2/0404.html (カゼインの割合・ミセル・pH4.6)
- 日本生物工学会「生物工学会誌 88巻11号 特集」 https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/8811_tokushu_2-1.pdf (2種の菌の共生)
- Differential Amino Acid Uptake… (PMC9505316) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9505316/ (混合培養での酸性化・ペプチドとアミノ酸の利用)
- 明治ヨーグルトライブラリー「ヨーグルトの研究室」 https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/yogurt/02/01/ (共生作用と発酵時間)
- 明治「知っ得!品質マメ知識 ヨーグルト編」 https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/knowledge/yogurt_processing/ (製法・規格)
- 明治「ヨーグルトの栄養」 https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/lovable-milk/yogurt/nutrition/ (乳糖とタンパク質の分解)
- 明治ヨーグルトライブラリー「ヨーグルトの研究室」 https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/yogurt/01/ (起源の説)
- コトバンク「ヨーグルト」(世界大百科事典) https://kotobank.jp/word/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%88 (スターター・日本への伝来)
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