このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

鼻の あなは、においを かぐ ほかに、なにを して いるの?

鼻の穴は、においをかぐほかに何をしているのか ── 空気を整え、左右で交代する通り道

鼻腔の空気調節と鼻周期 ── 吸気を体温近くまで整える働きと、左右の通りやすさが入れ替わる理由の仮説

分野:からだ

鼻の あなの 中では、左と 右の 通りやすさが 交代で かわって います。しらべた げんきな 33人の ぜんいんで、そうでした[4]。

鼻は、においを かぐ ためだけの ところでは ないのでしょうか。空気を あたためたり、ごみを とったり、左右で こうたいしたり する、鼻の はたらきが わかります。

鼻づまりは、風邪や花粉症のときだけに起こるものではありません。健康な33人を調べた研究では、全員で、左右の鼻の通りやすさが入れ替わっていました[4]。

鼻は、においをかぐ入口というだけなのでしょうか。吸った空気をどこまで温めるのか、ごみをどう止めるのか、なぜ左右が交代するのかが分かります。

鼻づまりは病気のときだけの現象ではない。健康な成人33人を24時間調べた研究では、全員に、左右の鼻の通りやすさが入れ替わる「鼻周期」が見られた[4]。

では鼻は、嗅覚の入口という以外に何をしているのか。吸気の温度・湿度の変化、粒子の除去、鼻周期の仮説、副鼻腔の一酸化窒素の研究が、どこまで確かでどこから議論中かが分かる。

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1. 吸すった 空気は、鼻の 中で どう かわるの?

1. 部屋の空気が、肺に着くまでに体温近くになる

1. 室温の空気は、鼻から気管支までにどこまで整うのか

ある 研究に のっている 数字では、ふつうに 息を した とき、鼻の 入口の 空気は 22℃ ほどです。この 空気が、肺はいの 手前の 太い くだに つく ころには、37℃ ほどに なります[2]。体温と ほとんど 同じです。

水の ぶんも ふえます。空気 1リットルに ふくまれる 水は、10ミリグラムから 44ミリグラムへ。4ばい いじょうです[2]。

この 空気づくりの はじまりを して いるのが、鼻です。鼻は、肺はいに 行く 空気を あたため、しめらせ、きれいに します[1]。においを かぐ ほかの、大きな しごとです。

ただし、鼻だけで 37℃に なる わけでは ありません。鼻の おくに ついた ころは 31〜34℃ ほど、しつどは 90〜95% ほどと いわれます[2]。のこりは、その さきの 道で ととのえます。では、鼻の 中の どこで、どうやって あたためて いるのでしょう。

ある総説が引用している数字では、通常の呼吸で鼻の入口にある空気は約22℃です。それが、のどから気管を通って肺の手前の太い管(主気管支)に着くころには、約37℃になります[2]。体温とほぼ同じです。

空気にふくまれる水の量も変わります。空気1リットルあたり約10ミリグラムだったものが、約44ミリグラムへ。4倍以上です[2]。

この「空気づくり」を始めているのが鼻です。MSDマニュアルは、鼻が肺に向かう空気を温め、加湿し、きれいにすると説明しています[1]。においをかぐ以外の、大きな仕事です。

鼻だけで完成するわけではない

ここで注意したいのは、鼻だけで37℃・湿度100%になるわけではないことです。鼻の奥(鼻咽頭)に着くころは約31〜34℃、相対湿度は90〜95%ほどで、数値は研究や条件で幅があります[2]。仕上げは、その先の気管や気管支が受け持ちます。鼻は、いわば空気の「前処理」の係です。

では、鼻の中のどこで、どうやって温めているのでしょうか。

鼻の空気調節を最も端的に示すのは、気道に沿った温度・湿度の変化である。Keck と Lindemann の総説が引く値(Elad らの2008年の論文など)では、通常の呼吸で、鼻の入口で約22℃・10mg/Lだった空気が、主気管支では約37℃・44mg/Lに達する[2]。水分量は4倍以上に増えている。

ただし、これは鼻だけの成果ではない。鼻咽頭に着く時点では約31〜34℃・相対湿度90〜95%にとどまり[2]、体温・飽和状態への到達は喉頭・気管・主気管支と進むうちに完成する。数値は研究や条件で幅があり、「鼻の通過で37℃・100%になる」と読むのは誤りだ。

このような調節を、Elad らは「肺胞に近い状態への調整」と位置づけている。鼻の呼吸の主な役割は、侵入する粒子からの防御と、吸気を肺胞に近い条件へ整えることだとされる[3]。しかも鼻は口より空気が通りにくいのに、健康な人はふつう鼻で呼吸する[3]。通りにくさを引き受けてでも、前処理を鼻にさせているわけだ。では、その調節は鼻の内部のどんな構造が担うのか。

2. はがき 1まいぶんの かべが、空気を あたためる

2. 鼻の中は、ハガキ1枚ほどの「温めるかべ」

2. 鼻腔の粘膜と鼻甲介 ── 面積と狭さが空気との接触を増やす

鼻の 中の かべは、血が たくさん 通る、しめった かべの 皮(粘膜ねんまく)で できて います[1]。

この かべの ひろさは、およそ 100〜200 平方センチメートル。はがき 1まいぶん くらいです[2]。小さな 鼻の 中に、はがきほどの ひろさの かべが おさまって います。

つめたい 手を、あたたかい 手で ひろく つつむと、はやく あたたまりますね。空気も、ひろい かべに ぴったり ふれるほど、はやく あたたまります。ただし 本当は、かべには 血の 道が あるので、手と 手とは すこし ちがいます。

鼻の 中には、空気と かべを ぴったり ふれ合わせる 「びこうかい」という ところも あります[2]。

あたためた 空気が 通る あいだ、鼻の 中では、もう ひとつの しごとも して います。ごみ とりです。

広さと血管が、温めと加湿を支える

鼻の内側は、血管の多い粘膜で覆われています[1]。その表面積は、およそ100〜200平方センチメートル。ハガキ1枚(約148平方センチメートル)とほぼ同じ広さです[2]。顔の中の小さな空間に、ハガキほどの広さの壁がおさまっている計算になります。

この広い壁が空気に触れると、空気は素早く温められ、湿らされます[1]。冷たい手を、広げた温かい手で包むほど早く温まるのに似ています。ただし、鼻の壁は血管のある生きた組織なので、手と手の関係とは少し違います。

空気を壁にぴったり触れさせる

鼻の中には、鼻甲介と呼ばれる部分があります。これが空気と壁を密に触れ合わせる役目をしているとされます[2]。通り道でいちばん狭い鼻弁領域の断面積は、約40平方ミリメートルです[2]。5円玉の穴(面積約20平方ミリメートル)2つぶんほどの細い場所を、空気が通ります。

温めた空気が通るあいだ、鼻の壁は別の仕事もしています。ごみの除去です。

調節の中心は、鼻腔の粘膜である。鼻腔の内側は血管の多い粘膜で覆われ、その広い表面積により空気を素早く温め加湿できる[1]。表面積はおよそ100〜200 cm²で、ハガキ1枚(約148 cm²)に相当する[2]。

面積だけでは接触は増えない。空気が壁から離れた中央を素通りしてしまえば、温まらないからだ。そこで鼻甲介が、吸気と鼻の壁を密に接触させる構造として働くとされる[2]。通り道でいちばん狭い鼻弁領域の断面積は約40 mm²で[2]、5円玉の穴(約20 mm²)2つぶんほどにすぎない。狭い通路に、広い壁を折りこんで接触を稼いでいる。

この構造は、空気抵抗というコストを伴う。冒頭で見たとおり、鼻は口より抵抗が高いのに、健康な人はふつう鼻で呼吸する[3]。温め・加湿に加え、粒子の防御も鼻に任せているからだ。では、空気中のごみを、鼻はどのように止めているのか。

3. ごみは、ねばねばと 小さな 毛が はこびだす

3. 鼻水と線毛のベルトコンベヤーが、ごみを運び出す

3. 粘液線毛クリアランスと粒径 ── 鼻が止める粒子、止めきれない粒子

人は、1日に 2万リットルほどの 空気を 鼻や 口から すうと いわれます[6]。おふろ(200リットルくらい)の 100はいぶんです。その 空気には、ほこりも まざって います。

鼻の かべの 細ぼうは、ねばねばした えき(粘液ねんえき)を 出します。粘液ねんえきが ほこりを つかまえると、かべに ある 線毛せんもうという 細い 毛のような ものが、それを 鼻の あなや のどの ほうへ はこびます[1]。

鼻の 入口の ほうには、鼻毛も あります。大きな ごみを ふせぐ 一部に なると いわれます[2]。

くしゃみも、鼻の 中を きれいに する しごとです。しげきに はんのうして、鼻の 通り道を 自動で そうじします[1]。

ただし、鼻は ごみを ぜんぶ とめる わけでは ありません。大きさに よっては、肺はいの ほうまで とどく ものも あります[2]。

ねばねばの膜と、動く毛

1日に吸う空気は、医師の発言として新聞に紹介された数字で約2万リットルといわれます[6]。家庭用の浴槽(200リットルほど)100杯分です。その空気にはほこりも混ざります。

鼻の粘膜の細胞は、粘液を出します。その表面には、線毛という細い毛のような突起が生えています。粘液がほこりの粒子をとらえると、線毛がそれを鼻孔やのどの方へ運んで、気道から取り除きます[1]。気道の線毛は1秒間に12〜14回動くとされ[6]、小さな動きの積み重ねでごみを運び出しています。

鼻の入口にあたる鼻前庭には鼻毛があり、大きなごみを濾すフィルターの一部として働くとされます。ただし完全には遮れません[2]。くしゃみも、刺激に反応して鼻の通り道を自動的にきれいにする反射です[1]。

止められない大きさがある

ある総説は、粒子の大きさごとの傾向として、直径0.4マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)より小さい粒子と、10マイクロメートルより大きい粒子が、主に鼻で濾し取られると報告しています[2]。逆に言えば、その中間の大きさの粒子は、下の気道まで届きうるということです。鼻は、肺を守る最初の関門ですが、全部を止める壁ではありません。

ここまでは、鼻が「いつも同じように働く」前提の話でした。ところが鼻は、数時間ごとに、働く側を入れ替えています。

異物の除去は、粘液線毛クリアランスが担う。鼻粘膜の細胞が粘液を出し、粘液が粒子をとらえると、表面の線毛がそれを鼻孔またはのどへ運んで気道から取り除く[1]。気道の線毛は1秒間に12〜14回動くとされるが、これは医師の発言として紹介された新聞記事の数値で[6]、論文の値ではない。1日に吸う約2万リットルという空気量も同じ記事による[6]。

鼻前庭の鼻毛は、大きなごみを濾すフィルターの一部とされるが、完全には遮れない[2]。くしゃみは刺激に反応して鼻の通り道を自動的にきれいにする反射である[1]。

粒径によっても働きは異なる。総説は、直径0.4μm未満と10μm超の粒子が主に鼻で濾し取られると報告しており[2]、中間の粒径は下気道まで届きうる。鼻は全粒子を止める装置ではなく、大きいものと極小のものを減らす前処理の層である。ところが鼻は、この前処理の仕事を、数時間ごとに左右で入れ替えている。次に、その入れ替えの実態を見る。

4. 左と 右の 鼻の 通りやすさが、こうたいで かわる

4. 健康な人でも、数時間ごとに左右の鼻の通りやすさが入れ替わる

4. 鼻周期の測定 ── 33人・24時間の調査が示した周期の長さ

かぜを ひいて いないのに、右だけ つまって いる。しばらく すると、こんどは 左が つまる。そんな ことは ありませんか。

これは「鼻周期びしゅうき」と いわれる、鼻の ふつうの うごきです。左右の 鼻の 通りやすさが、こうたいで かわります[4]。鼻の 中の 血の 多い ところが ふくらんで、かたがわの 通り道が せまく なる ためです[4]。

げんきな 33人を 24時間 しらべた 研究では、ぜんいんに 鼻周期びしゅうきが ありました[4]。

こうたいする 間かくは、おきて いる ときは 2時間 ほど、ねて いる ときは 4時間半 ほどでした。ただし これは 平均へいきんで、人に よって だいぶ ちがいます[4]。

では、どうして わざわざ こうたいするのでしょう。

33人を24時間はかった研究

風邪でもないのに、右の鼻だけが通りにくい。しばらくすると、今度は左が詰まる。そんな経験はないでしょうか。これは鼻周期(ネーザルサイクル)という現象で、左右の鼻の通りやすさが、時間とともに交互に入れ替わります[4]。

2016年の論文では、右利きの健康な成人33人が24時間の測定に協力しました。その全員で、鼻周期が見られたと報告されています[4]。

1回の周期の平均は、起きているときが約2.0時間、眠っているときが約4.5時間でした[4]。ただし、ばらつきは大きく、平均とほぼ同じくらいの幅があります。誰もがきっちり2時間ごとに入れ替わるわけではありません。

通り道をせまくするのは「血管の多い組織」

通り道が変わる仕組みは、鼻中隔の前の部分と下鼻甲介にある、血管に富む組織が充血することです。それで片側の通り道がせまくなります[4]。

では、なぜわざわざ入れ替えているのでしょうか。

鼻周期(nasal cycle)は、通りやすい側の鼻孔が時間とともに左右に移る現象である[4]。機序は、鼻中隔前部と下鼻甲介の勃起組織(血管に富む組織)が充血して片側を狭めることによる[4]。

Kahana-Zweig らの2016年の研究は、健康な成人33人に協力してもらい、24時間の鼻の気流を測った。全員で周期が観察された[4]。1回の周期の平均は、覚醒時が約2.0時間、睡眠時が約4.5時間で、睡眠中のほうが長い[4]。

ただし、標準偏差が平均に近いほど大きく、個人差は大きい。対象は右利きの健康な成人33人の平均であり、子どもや鼻に病気のある人にそのまま当てはめることはできない。また、左側が優位な時間と右側が優位な時間の差は小さく(約2.6時間と約2.2時間)、「左のほうが長い」と強調できる差ではない[4]。

つまり、鼻周期は異常ではなく、研究で全員に見られた生理的な現象である。では、この現象には何の意味があるのか。

5. こうたいには、どんな いみが あるの?

5. 左右が交代する理由は、まだ仮説の段階

5. 鼻周期の役割仮説 ── 保護・防御・嗅覚の幅

じつは、こうたいする わけは、まだ はっきり きまって いません。けんきゅうしゃたちが 考えて いる「かせつ」が、いくつか あるだけです[4]。

たとえば、鼻の かべを まもる ため。ごみや 病気の もとから 体を まもる ため。それから、左と 右で かぎやすい においが ちがうので、においの はばを ひろげる ため、という 考えも あります[4]。

においを かぐ とき、人は 鼻から 強く すいます。鼻の おくの 上の ほうに ある においの センサーには、ふつうの 呼吸こきゅうでは 空気が あまり とどかないからです。強く すうと、とどく 空気の ぶんが ふえます[1]。くんくんは、そのための うごきです。

鼻には、まだ ふしぎな はたらきが あります。鼻の まわりの 副鼻腔ふくびくうと いう ところの はなしです。

鼻周期の役割には、定説がありません。研究者があげている仮説は、粘膜の保護と空気調整、異物の除去、呼吸器感染やアレルギーからの防御、左右の鼻で嗅ぎやすいにおいを変えること(嗅覚の幅を広げる)などです[4]。

「粘膜を休ませるため」と言い切ってしまうのは、まだ早すぎます。仮説の段階だからです。

においを「かぐ」ための吸い方

嗅覚の受容器は、鼻腔の上のほうにあります。ふつうの呼吸では空気があまり届きません。においをかごうとして鼻から強く吸い込むと、受容器に届く空気の量が増えます[1]。鼻の穴を通る空気は、静かな呼吸のときと「くんくん」のときで、通り道の使い方が違うのです。

左右で通りやすさが変わるなら、そのときそのとき、においの取りこみ方も変わるのかもしれません。それが上の仮説の1つです。ここからは、空気を整える以外の、鼻にまつわる研究の話です。

鼻周期の機能に定説はなく、仮説の段階にある。Kahana-Zweig らは、粘膜の保護、空気調整や異物の除去、呼吸器感染やアレルギーからの防御、左右の鼻孔が異なるにおいに最適化されることによる嗅覚の幅の拡大などを挙げる[4]。「粘膜を休ませるため」と断定した資料は、ここで扱った範囲にはない。

嗅覚との関係は、鼻腔の構造から説明できる。嗅覚の受容器は鼻腔の上部にあり、安静時の呼吸では空気が届きにくい。においをかぐために強く吸うと、受容器に届く空気量が増える[1]。なお受容体そのものの仕組みは、本稿では扱わない。

ここで重要なのは、鼻周期が嗅覚の幅を広げるという仮説は、においごとに通りやすい側が違うことを前提にしている点である。この前提が成り立つかどうかが、仮説が支持されるかの鍵になる。鼻の機能の中でも、空気の調節や粒子の防御は比較的よく確かめられ、鼻周期や次に述べる一酸化窒素は、研究が続いている。

6. 鼻の まわりで、ふしぎな ガスが うまれて いる?

6. 副鼻腔でつくられる一酸化窒素は、肺へ届くのか

6. 副鼻腔の一酸化窒素 ── 提案された「空気で運ばれる伝令」と、小規模研究の限界

鼻の まわりには、副鼻腔ふくびくうという ところが あります。そこでは、一酸化窒素いっさんかちっそという ガスが、いつも つくられて います。そして 鼻の 中へ 出て いきます[5]。

スウェーデンの けんきゅうしゃたちは、「このガスは、すう 空気に のって 肺はいへ とどき、血の くだを ゆるめる でんれいの はたらきを しているのでは」と 考えました[5]。その ガスは、細きんが ふえるのを おさえる のうどに なる とも いわれます[5]。

ただ、まだ 研究の とちゅうです。げんきな 8人の うち 6人で、鼻で 呼吸こきゅうした ほうが、口より 皮ふから はかった 酸素さんその ぶんが 10% ほど 高かった、という 小さな 研究が あります[5]。でも、ふつうの 人の 酸素さんその とりこみが どれだけ かわるかは、きまって いません。

鼻の周りには、副鼻腔という場所があります。そこでは、一酸化窒素(NO)という気体が絶えずつくられ、鼻の空気の通り道へ出ていくことが分かっています[5]。

スウェーデンの研究者ルンドバーグらは、このNOが吸う空気とともに肺へ届き、血管をゆるめる「空気で運ばれる伝令」として働くのではないかと提案しました[5]。副鼻腔のNOは、細菌の増殖を抑える濃度に達するともされます[5]。

小さな研究の段階にある話

では、鼻で呼吸すると体に酸素が多く入るのでしょうか。健康な8人のうち6人で、鼻で呼吸しているとき、皮膚から測った酸素の分圧が、口の呼吸より約10%高かったという報告があります[5]。人工呼吸中の患者に鼻の空気を加えると血液中の酸素が上がった例(6人で18%)や、心臓手術後の10人で鼻呼吸のほうが肺の血管の抵抗が低かった例もあります[5]。

ただし、どれも数人から十数人の小さな研究です。ふつうの人で鼻呼吸が酸素の取りこみをどれだけ変えるかは、固まっていません。定説ではなく、研究が続いているテーマです。

副鼻腔の上皮では一酸化窒素(NO)が絶えずつくられ、鼻腔へ排出される。Lundberg らは1995年ごろから、NOが吸気とともに肺へ運ばれ、血管を拡張させる「空気で運ばれる伝令(aerocrine)」として働くのではないかと提案した。副鼻腔のNO濃度は、細菌の増殖を抑える水準に達するとされる[5]。

これを裏づける小規模研究がある。健康な8人中6人で、鼻呼吸時の経皮酸素分圧が口呼吸時より約10%高かった。人工呼吸中の患者に鼻の空気を加えると、動脈血の酸素が上がった(6人で18%)。別の10人の心臓手術後の患者では、鼻呼吸のほうが肺血管抵抗が低かった[5]。

ただし、いずれも数人から十数人の研究で、検索で得られた要約をもとにした記述にとどまる。普通の人で鼻呼吸が酸素の取りこみをどれだけ変えるかは、固まっていない。したがって、「鼻呼吸で酸素の取りこみが大きく上がる」と書くことはできず、仮説と小規模な観察の段階にあるテーマとして読むのが妥当である。

7. 左の 鼻と 右の 鼻、どちらが 通りやすい?

7. 左右の鼻の通りやすさを、時間をおいて比べてみる

7. 左右の通気を自分で見てみる ── 測定の限界と、読みたい資料

鼻周期びしゅうきは、自分でも ためせます。ティッシュなどを 用意し、ふだんの 呼吸こきゅうの まま、かたほうの 鼻の あなを 指で そっと おさえて、もう かたほうで 息を して みます。つぎに、はんたいの あなで 同じ ことを します。どちらが 通りやすいかを くらべます。

30分ほど あとに、もう 一度 やって みましょう。通りやすい ほうが かわって いるかも しれません。かわって いないことも あります。苦しく なったら すぐに やめます。かぜを ひいて いる ときは、むりを しないで ください。

大人の人に ききながら、においを かぐ ときの 「くんくん」の 強さも、ふだんの 呼吸こきゅうと くらべて みましょう。

鼻の 中の しごとを もっと 知りたい ときは、MSDマニュアルの かてい向けの ページが、日本語で 読めます[1]。

鼻周期は、道具なしでも観察の入り口に立てます。ふだんの呼吸のまま、片方の鼻の穴を指でそっと押さえ、もう片方で息をしてみてください。次に反対側で同じことをして、どちらが通りやすいか比べます。30分から1時間ほどあけて、もう一度試してみましょう。

通りやすい側が変わっていなくても、おかしくはありません。周期の長さには個人差があり、研究でも平均の幅は大きなものでした[4]。風邪をひいているときや、苦しくなったときは、無理をしないでください。

においをかぐときの強さも、静かな呼吸と比べてみると、鼻の使い分けが分かります[1]。

鼻の働きを日本語で読み進めるなら、MSDマニュアル家庭版の「鼻と副鼻腔」が入口になります[1]。鼻周期の研究は、PLOS ONE に掲載された論文(英語)が公開されています[4]。

家庭でできる観察は、片側の鼻孔を指でそっと押さえて通りの良し悪しを比べ、30分から1時間おきに繰り返すことだ。ただし主観的な印象にとどまり、研究が行ったような気流の測定と同じ精度にはならない。通りやすい側が変わらなくても、周期は個人差が大きく、不思議ではない[4]。苦しくなったら中止し、風邪の最中は無理をしないこと。

資料の読みどころは三つある。①MSDマニュアル家庭版[1]は、鼻と副鼻腔の構造と働きを日本語で概説している。②Keck と Lindemann の総説[2]は、気道に沿った温度・湿度の数値と粒子の大きさごとの濾過の関係を示す。③Kahana-Zweig らの論文[4]は、鼻周期の測定方法と、役割の仮説を並べている。

残る問いは明確だ。鼻周期の意味は何か。副鼻腔のNOは、ふつうの呼吸で肺の酸素の取りこみにどれだけ関わるのか。どちらも、まだ答えが固まっていない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:日本語の医学情報サイト、医学論文、新聞記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. MSDマニュアル家庭版「鼻と副鼻腔」。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/ (鼻の空気調節、粘液と線毛、くしゃみ、嗅覚について。日本語の医学情報)
  2. Keck T, Lindemann J. "Numerical simulation and nasal air-conditioning". GMS Curr Top Otorhinolaryngol Head Neck Surg (2011). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3199825 (温度・湿度の変化、粘膜の表面積、粒子の濾過について。総説)
  3. Elad D, Wolf M, Keck T. "Air-conditioning in the human nasal cavity". Respir Physiol Neurobiol 163:121-127 (2008). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18565805/ (鼻呼吸の役割について。論文の要旨)
  4. Kahana-Zweig R ほか. "Measuring and Characterizing the Human Nasal Cycle". PLOS ONE (2016). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5053491/ (鼻周期の測定結果、周期の長さ、役割の仮説について。論文)
  5. Lundberg JON. "Nitric oxide and the paranasal sinuses". Anat Rec 291:1479-84 (2008)ほか。https://openarchive.ki.se/xmlui/handle/10616/44272 (副鼻腔の一酸化窒素と、小規模な研究について。総説・論文の要約)
  6. 日刊ゲンダイ「年中鼻詰まりは要注意」寺本信嗣医師の発言。https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/health/348091 (1日に吸う空気の量と、線毛の動きの回数について。新聞記事。論文値ではない)

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