1. かたむきを かんじる、耳の 中の しくみ
1. かたむきを感じる、耳の中のしくみ
1. 前庭という器官が、平衡感覚をつかさどる
耳の おくには、音を きく ぶぶんの ほかに、「ぜんてい」と いう ぶぶんが ある。この ぜんていの 中に、ちいさな いしが 入った ふくろが あって、体が どちらに かたむいて いるかを かんじとって いる[1]。
もう1つ、耳の おくには わっかの ような かたちを した「はんきかん」と いう ぶぶんも ある。こちらは、体が くるっと まわった ときの うごきを かんじとる[1]。
耳の奥には、音を聞く部分のほかに、「前庭」という部分がある。この前庭の中に、小さな石が入った袋があって、体がどちらにかたむいているかを感じ取っている[1]。
もう1つ、耳の奥には輪っかのようなかたちをした「半規管」という部分もある。こちらは、体がくるっと回ったときの動きを感じ取る[1]。
内耳には、聴覚をつかさどる蝸牛のほかに、平衡感覚をつかさどる前庭器官がある。前庭器官はさらに「耳石器」と「半規管」の2種類に分かれる。
耳石器は「卵形嚢」と「球形嚢」という2つの袋からなり、それぞれの中に耳石を含んだ膜がある。卵形嚢は体の水平方向の動き、球形嚢は垂直方向の動きと重力の向きを感じ取る。一方、半規管は3本の輪状の管が互いに直交する向きに配置されており、体が回転する動きを感じ取る。同じ「平衡感覚」でも、直線的な動き・重力と、回転運動とでは、別々のセンサーが担当しているのだ[1]。
2. おもさの ちがいを つかった、からだの センサー
2. 重さの違いを使った、体のセンサー
2. 耳石という「おもり」が動きを伝えるしくみ
耳石は、たんさんカルシウムと いう、貝がらや たまごの からと おなじ せいぶんで できて いる。まわりの えきたいよりも おもいので、体が かたむいたり うごいたり すると、じゅうりょくに ひっぱられて、少し うごく[2]。
耳石の下には、うごきを かんじとる 小さな 毛が びっしり はえて いる。耳石が うごくと、この 毛も いっしょに まがる。それは、水を 入れた ペットボトルに ビーだまを 1つ 入れて かたむけると、ビーだまが ころがって、そこに ある 毛を おす のと にて いる(ただし ほんとうは、ビーだまでは なく、もっと 小さな 石の つぶだ)。毛の まがりが しんけいを つうじて のうに つたわり、「体が かたむいた」と わかる しくみだ[2]。
耳石は、炭酸カルシウムという、貝がらやたまごの殻と同じ成分でできている。まわりの液体よりも重いので、体がかたむいたり動いたりすると、重力に引っぱられて、少し動く[2]。
耳石の下には、動きを感じ取る小さな毛がびっしり生えている。耳石が動くと、この毛も一緒に曲がる。その曲がりが神経を通じて脳に伝わり、「体がかたむいた」と分かるしくみだ[2]。
耳石が体の傾きを感知できるのは、それが周囲を満たすリンパ液よりも比重の大きい炭酸カルシウムの結晶でできているからだ。頭が傾いたり、体が加速・減速したりすると、耳石を含む膜(平衡砂膜)が重力や慣性によってわずかにずれ動く。
その下には有毛細胞という感覚細胞が並んでおり、耳石の動きによって細胞表面の感覚毛が曲げられると、電気信号が発生する。この信号が前庭神経を通じて脳へ送られ、体の傾きや直線的な加速度として認識される。耳石そのものには感覚がなく、あくまで「動くおもり」として、周囲の感覚毛にずれを伝える役割を担っている[2]。
3. 魚の 耳石は、年れいを 教えて くれる
3. 魚の耳石は、年齢を教えてくれる
3. 1日1本の「日輪」で、魚の年齢が分かる
人の 体で かたむきを かんじとる 耳石は、魚にも ある。でも 魚の 耳石には、もう 1つ べつの やくわりが ある。魚の 耳石は、体が 大きく なる ときに いっしょに そだつ。魚に よっては、えさが すくない ふゆに そだちが とまる ため、木の ねんりんのような すじが 1年に 1本 できる[3]。
じつは、この ねんりんとは べつに、もっと こまかい すじも ある。この こまかい すじは、1日に 1本ずつ ふえる「にちりん」だ。にちりんを かぞえると、魚が 生まれてから 何日 たったのかまで わかる[3]。「イシモチ」と いう 魚は、頭の 中に とくに 大きな 耳石を もって いる ことから、この 名前が ついた[3]。
人の体でかたむきを感じ取る耳石は、魚にもある。でも魚の耳石には、もう1つ別の役割がある。魚の耳石は、体が大きくなるときに一緒に育つ。魚によっては、えさが少ない冬に育ちが止まるため、木の年輪のようなすじが1年に1本できる[3]。
じつは、この年輪とは別に、もっと細かいすじもある。この細かいすじは、1日に1本ずつ増える「日輪」だ。日輪を数えると、魚が生まれてから何日たったのかまで分かる[3]。「イシモチ」という魚は、頭の中にとくに大きな耳石を持っていることから、この名前がついた[3]。
平衡感覚のセンサーとして働く耳石は、魚の内耳にも存在するが、そこにはもう一つ別の使い道がある。魚の耳石にも、体の成長とともに新しい炭酸カルシウムの層が付け加わっていく。魚種によっては、餌の少ない冬に成長が止まるため、切断面には樹木の年輪に似た同心円状の輪紋(年周輪)が1年に1本現れ、これを数えることで年単位の年齢査定ができる(輪紋の周期性は魚種ごとに確かめる必要があり、年に2本できたり、成長停滞による偽の輪ができたりする例もある)[3]。
1971年以降の研究で、この年周輪とは別に、もっと微細な輪紋が1日に1本形成されていることが分かってきた。これは「日周輪(日輪)」と呼ばれ、これを数えることで、年単位ではなく日単位での年齢推定が可能になる。水産研究の現場では、稚魚がいつ生まれ、どれくらいの速さで成長しているかを追う手がかりとして使われている。スズキ目ニベ科の「イシモチ(石持)」という魚は、頭部にとくに大きく硬い耳石を持つことがその名の由来になっている[3]。
4. 耳石が ずれると、めまいが おきる
4. 耳石がずれると、めまいが起きる
4. 良性発作性頭位めまい症、耳石が迷い込むとき
耳石は、ふだんは きまった ふくろの 中に おさまって いる。でも 何かの きっかけで、そこから はがれた かけらが「はんきかん」に まよいこんで しまう ことが ある[4]。
はんきかんの 中に かけらが 入ると、頭の むきを かえた ときに、じっさいには うごいて いないのに「ぐるぐる まわって いる」と かんじて しまう。これが、あたまを うごかした ときに おきる、げんいんの 1つだ[4]。
5. 耳石を もとの ばしょに もどす
5. 耳石を元の場所に戻す治療
5. 頭位治療 ── 耳石を半規管から追い出す
この めまいには、とくべつな くすりでは なく、頭を いろいろな むきに ゆっくり うごかして、まよいこんだ かけらを もとの ばしょへ もどす ちりょうほうが ある[4]。
ただし、どちらの むきに どう うごかすかは、耳鼻科の 先生が しんさつして きめる。じぶんだけの はんだんで やらず、めまいが つづく ときは 耳鼻科を たずねよう。
このめまいには、特別な薬ではなく、頭をいろいろな向きにゆっくり動かして、迷いこんだかけらを元の場所へ戻す治療法がある[4]。
ただし、どちらの向きにどう動かすかは、耳鼻科の先生が診察して決める。自分だけの判断でやらず、めまいが続くときは耳鼻科をたずねよう。
良性発作性頭位めまい症の治療には、頭部を段階的に異なる位置へ動かし、重力を利用して迷い込んだ耳石を半規管の外へ誘導する「頭位治療」が用いられる。代表的な方法に、耳石が入り込んだ半規管の種類ごとに手順が異なる「エプリー法」などがある[4]。
めまいを起こしている耳がどちらか、どの半規管にかけらが入り込んでいるかによって、適切な頭の動かし方は変わる。回転性のめまいが続くときは、自分で対処しようとせず、耳鼻咽喉科の医師による診察と処置を受けよう。
じぶんでも しらべて みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
あんぜんな ばしょで、目を とじて、かた足で 立って みよう。目で 見て たしかめられない ぶん、耳の おくの 耳石が どれだけ たよりに なって いるかが わかる。ころばない ように、まわりに ものが ない ところで やろう。
安全な場所で、目を閉じて、片足で立ってみよう。目で見て確かめられないぶん、耳の奥の耳石がどれだけ頼りになっているかが分かる。転ばないように、まわりに物がないところでやろう。
安全な場所で目を閉じて片足立ちをすると、視覚に頼れないぶん、平衡感覚だけで姿勢を保つ難しさを体感できる(転倒に備え、まわりに物のない場所で行うこと)。また、アジの塩焼きや煮魚など、尾頭付きの魚を食べる機会があれば、頭の中から白く硬い耳石を探してみるのもおもしろい。その小さな石に、魚が生きてきた日々が刻まれている。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
- めまいプロ「平衡機能の解剖と病態生理|内耳の働き」、キッズネット「前庭器官」。 https://www.memai-pro.com/ear/function.htm https://kids.gakken.co.jp/jiten/dictionary03400571/ (内耳の前庭器官が耳石器(卵形嚢・球形嚢)と半規管に分かれること、耳石器が水平・垂直方向の動きと重力を、半規管が回転運動を感じ取ることはめまいプロによる)
- フリー百科事典『ウィキペディア』「耳石」、看護roo!「なぜ身体をまっすぐに保てるの?」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/耳石 https://www.kango-roo.com/learning/6611/ (耳石が脊椎動物の内耳にある炭酸カルシウムの結晶からなることはウィキペディア「耳石」による。耳石を含む膜の下に感覚毛を持つ有毛細胞が並び、耳石の動きが感覚毛を曲げて電気信号を生じさせるしくみは看護roo!による)
- 北海道立総合研究機構水産研究本部「試験研究は今 No.34 魚の年齢の調べ方について」、大日本水産会 魚食普及推進センター「魚の耳石の役割は?耳石で何がわかるの?」、フリー百科事典『ウィキペディア』「耳石」。 https://www.hro.or.jp/fisheries/publication/ima/o7u1kr00000020ux.html https://osakana.suisankai.or.jp/shokuiku/9341 https://ja.wikipedia.org/wiki/耳石 (餌の少ない冬に成長が止まるため年輪状の輪紋(年周輪)が1年に1本できること、年周輪による年齢査定が水産資源調査に使われていることは大日本水産会魚食普及推進センターによる。1971年以降の研究で年周輪とは別の微細な輪紋(日周輪・日輪)が1日に1本形成されることが分かり、これにより日単位の年齢推定や稚魚の成長率追跡ができるようになったことは北海道立総合研究機構による。イシモチという魚の名前が頭部の大きな耳石に由来することは大日本水産会魚食普及推進センターによる)
- MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」、めまい耳鳴り難聴の情報サイト「エプリー法とは?」。 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/19-耳-鼻-のどの病気/内耳の病気/良性発作性頭位めまい症 https://www.memai-kobe.jp/16035013676014 (通常は卵形嚢・球形嚢に収まっている耳石のかけらがはがれて半規管(とくに就寝中は重力の向きの関係で後半規管)に迷い込むことで良性発作性頭位めまい症が起こること、この病気がよくみられる病気の一つであることはMSDマニュアル家庭版による。治療として頭部を段階的に動かし耳石を半規管の外へ誘導する頭位治療(エプリー法等)が用いられ、耳石が入り込んだ半規管の種類によって手順が異なることはMSDマニュアル家庭版およびめまい耳鳴り難聴の情報サイトによる)
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