1. ももの たねの なかには、なにが はいって いるの?
1. 桃を食べたあとの硬い種の中には、何が入っているのか
1. 果肉のすぐ内側に何があるか ── 核の中の種子と、バラ科の仲間たち
ももを たべおわると、ごつごつした かたい たねが のこります。この かたい ところを わると、なかに、もう ひとつ ちいさな たねが はいって います。
この なかの たねに、アミグダリンと いう ぶっしつが ふくまれて います。うめ、あんず、さくらんぼ、すもも、びわも、ももと おなじ バラの なかまで、おなじ ぶっしつが たねに あると いわれます[1]。
でも、おいしい みを たべても へいきなのに、たねだけ ちがうのは ふしぎです。たねの なかで、なにが おきるのでしょう。
モモを食べ終えると、ごつごつと硬い核が残ります。割ると中に、種子(仁)が入っています。この種子に、アミグダリンという物質が含まれています。
農林水産省の説明では、アミグダリンはビワ・アンズ・ウメ・モモ・スモモ・オウトウ(サクランボ)などバラ科の植物の、種子や未熟な果実に多い天然のシアン化合物(青酸配糖体)とされています[1]。東京都の資料にも、モモ・アンズ・ウメの種子が例に挙がっています[2]。つまり、モモだけの特別な話ではなく、バラ科の果物に広く見られる性質です。
「配糖体」とは、糖がくっついた形の物質のことです。アミグダリンは、マンデロニトリルという物質に糖(グルコース)が2個結びついた形をしています。ところで、この物質を持っているだけで毒になるわけではありません。毒が出るには、ある条件が要ります。
モモを食べ終えたあとに残る硬い核を割ると、中に種子(仁)がある。この種子に含まれる物質がアミグダリンで、農林水産省の資料によれば、ビワ・アンズ・ウメ・モモ・スモモ・オウトウなどバラ科植物の種子や未熟な果実に多い、天然のシアン化合物(青酸配糖体)である[1]。東京都の資料もモモ・アンズ・ウメの種子を例に挙げており[2]、モモ固有というより、バラ科の果物に広く共通する性質として扱われている。
構造は、マンデロニトリルに2個のグルコースが結合した配糖体である[1]。配糖体は糖がついているぶん安定で、それ自体が直ちに青酸を出すわけではない。では、何が引き金になるのか。この章の問いは、次の章で酵素の働きとして答えが出る。
なお、日本の公的資料はビワの種子を中心にしたものが多く、モモはバラ科の例の1つとして並記される形が多い。そのためこの章では、モモだけの中毒の話に踏みこまず、バラ科に共通する仕組みとして述べる。モモ個別の話は、バラ科一般の仕組みと区別して扱う。
2. どうして、かじるまでは なにも おきないの?
2. 毒が「砕くまで出ない」のは、なぜか
2. 酵素と接触するまで青酸が出ない ── β-グルコシダーゼと2段階の分解
ひみつは、ふたつの ものを べつべつに しまって おく ことです。
たねの なかには、アミグダリンと、それを こわす「こうそ」が はいって います。ふだんは はなれて いて、であいません。かじって つぶすと、ふたつが まざって、せいさん(シアンかすいそ)が できます[3]。
ふたつの ようえきを まぜて かたまる せっちゃくざいに にて います。まぜるまでは かたまりません。ただし、ほんとうの たねは、もっと ふくざつな しくみです。
この しくみは、むしや どうぶつに かじられた ときに、はたらくと いわれます[3]。では、せいさんが でると、からだには どうなのでしょう。
ヒントは、2つのものを別々にしまう、という工夫にあります。
青酸が出るには、酵素が必要です。まず、β-グルコシダーゼという酵素がアミグダリンから糖を外します。次に、残ったマンデロニトリルが、ベンズアルデヒドと青酸に分かれます。この分かれる反応は、ヒドロキシニトリルリアーゼという酵素が助けることがあります[3]。ふだんは、アミグダリンと酵素が離れた場所にしまわれているため、反応は進みません。
ところが、動物にかじられるなどして組織がつぶれると、2つが出会って反応が始まります。たとえるなら、混ぜるまで固まらない2液タイプの接着剤のようなものです。ただし、実際の種子の中はもっと複雑で、たとえはあくまで目安です。
この物質は、虫や草食動物から植物を守る働きを持つと説明されます[3]。これは、植物の働きとして見たときの説明で、植物が意図して作ったという意味ではありません。アーモンドの苦い品種でも、砕いたり噛んだりすると青酸が生じるとされています[4]。
では、出た青酸は、人の体にどう影響するのでしょうか。
青酸が出るには酵素が要る。まずβ-グルコシダーゼがアミグダリンを加水分解し、続いて生じたマンデロニトリルが、ベンズアルデヒドと青酸(HCN)に分解される。この分解はヒドロキシニトリルリアーゼが促すことがあり、酵素なしで自然に進む場合もある[3]。細胞の中で、配糖体と酵素は別々にしまわれているため、組織が無傷のあいだは反応が進まない。ところが、草食動物にかじられるなど組織がすりつぶされると、両者が接触して青酸が放出される[3]。
この反応のしくみから、種子を割る・噛む・粉にするといった「つぶす操作」が、毒性の出方を左右するという見方が成り立つ。アーモンドの苦い品種でも、砕く・噛むと青酸が生じるとされる[4]。
この物質は、虫や草食動物から植物を守る働きを持つとされる。ただし、これは機能としての説明で、植物が意図して毒を用意したという意味ではない。進化の過程で残った性質を、あとから防御と呼んでいる点に注意したい。
2液を混ぜて初めて固まる接着剤は、近い例えになる。ただし実際の種子は、組織の構造や酵素の量も関わる複雑な系である。では、出た青酸は人にどう働くのか。
3. おいしい みは、へいきなの?
3. 青酸が出るとどうなるのか。熟した果肉は大丈夫なのか
3. 摂取量と形が問題になる ── 熟した果肉と、粉末にした種子の差
せいさんを たくさん たべると、あたまが いたく なったり、きもちが わるく なったり する ことが あります[2]。
こうした おそれは、たねや、まだ じゅくして いない みに あると いわれます。うれた みには、せいさんの もとは ごく わずかだと、びわを れいに せつめいされて います[1]。
とくに あぶないのは、たねを こなに するなど、いちどに たくさん とれる かたちです。たねは かじったり、たべたり しないで くださいね。
ちばけんは、びわの たねを つかった あんにんどうふの レシピを、とりさげました。たねを つかう りょうりは ちゅういが いると されて います[8]。
青酸を一度に大量にとると、頭痛・めまい・吐き気などの症状が出るおそれがある、と農林水産省や東京都は説明しています[1][2]。アミグダリンは、植物の酵素だけでなく、人の腸内細菌でも分解されるとされます[1]。
それでは、おいしく食べている果肉はどうなのでしょうか。農林水産省の資料では、熟した果肉に含まれるシアン化合物はごくわずかとされます。アミグダリンは果実の成熟とともに分解されるためです[1]。ただしこれはビワを例にした説明なので、モモの果肉にそのまま当てはめて言い切ることはしません。
特に注意が必要なのは、種子を粉末にするなど、一度に大量にとれる形です[1]。千葉県は、ビワの種子を使った杏仁豆腐のレシピを取り下げました。ビワ・アンズ・ウメ・モモの種子には、アミグダリンとプルナシンという天然の有害物質が含まれるためです[8]。
モモの種を食べてみる必要はありません。種子は、観察するだけで十分に面白い題材です。
青酸を一度に大量にとると、頭痛・めまい・吐き気などの中毒症状を起こすおそれがある[1][2]。アミグダリンは植物の酵素のほか、人の腸内細菌でも分解される[1]。そのため、種子を丸ごと飲みこむ場合と、かんで砕く場合、粉末にする場合では、同じ量でも事情が変わりうる。
では、日常に食べている果肉はどう扱われているのか。農林水産省の資料は、熟した果肉に含まれるシアン化合物はごくわずかで、アミグダリンは成熟とともに分解されるとする[1]。ただしこの説明はビワを例にしたもので、モモの果肉にそのまま一般化できるとは、この資料からは言い切れない。種子と果肉では、含まれる量に大きな差があるという範囲で受け取るのが妥当である。
とくに注意が促されているのは、種子を粉末にするなど、一度に大量にとれる形である[1]。千葉県は、ビワの種子を使った杏仁豆腐のレシピを取り下げた。ビワ・アンズ・ウメ・モモの種子には、アミグダリンとプルナシンという有害物質が含まれ、種子を使った料理は注意が必要だからである[8]。
なお、アンズの種子の仁については、1〜2個程度なら健康リスクは生じないとするカナダ保健省の見解(2009年)が、日本の資料に紹介されている[4]。しかしこれはアンズの話であり、モモの種子について「何個までなら大丈夫」と読むことはできない。
4. どくの もとを もつ たねが、どうして くすりに なるの?
4. 毒の材料を持つ種子が、なぜ薬として使われてきたのか
4. 桃仁という生薬 ── 処方に配合される種子と、使い方を決める専門家
ももの たねは、かんぽうで「とうにん」と よばれる くすりの ざいりょうです[5]。「とうかくじょうきとう」などの くすりの おもな ざいりょうだと いわれます。
とうにんには、ちの めぐりを よくする はたらきと、おなかを うるおして うんちを でやすく する はたらきが あると せつめいされます[5]。
ただし、かんぽうの くすりは、いしゃや やくざいしの しどうの もとで つかう ものです。じぶんで ももの たねを つかっては いけません。
漢方では、モモの種子は桃仁(とうにん)という生薬になります。桃核承気湯(とうかくじょうきとう)という処方では、桃核、つまりモモの種子である桃仁が主薬と説明されます[5]。桃核承気湯は、桃仁・大黄・芒硝・桂皮・甘草の5つの生薬でできています[6]。
桃仁は、桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯といった処方にも配合されます[5]。血のめぐりを良くする作用と、腸をうるおして便通を促す作用があると説明されます[5]。
種子の中身には、毒の材料のアミグダリンがあります。では、毒になるものが、なぜ薬の材料にも使われているのでしょうか。資料の範囲では、その理由まではっきり書かれてはいません。ただ、漢方の薬は、医師や薬剤師の指導のもとで、決まった処方として使われます。自分で種を取り出して使うものではありません。
桃仁は、決められた処方の中で使われる生薬です。種子を自分で薬として使うことはできません。
漢方では、モモの種子は桃仁という生薬になる。桃核承気湯は、桃核すなわちモモの種子である桃仁が主薬と説明され、血のめぐりを良くする作用と、腸をうるおして便通を促す作用を持つとされる[5]。
処方の構成は、国立医薬品食品衛生研究所の資料によれば、桃仁・桂皮・大黄・芒硝・甘草の5味である[6]。桃仁はこのほか、桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯などにも配合される[5]。つまり、桃仁は単独で使うというより、他の生薬との組み合わせの中で役割を持つ生薬として扱われている。
ここで、アミグダリンとの関係が問いになる。桃仁の主成分に脂肪油とアミグダリン、酵素エムルシンを挙げる薬用植物園の資料があるが、言えるのは、モモの種子にはアミグダリンがあり[1]、同じ種子が桃仁として使われるという2点である。ここで紹介した資料からは、桃仁の加工や処方の中でアミグダリンがどう扱われるかまでは分からない。
薬として使われることは、誰でも自由に種子を使ってよい、という意味ではない。漢方製剤は、医師や薬剤師の指導のもとで、決められた組み合わせと量で使われる。種子を自分で使ってよいという意味ではない。
5. うめぼしや うめしゅは、どうして たべても いいの?
5. 青梅は食べるなと言われるのは、なぜか
5. 青梅の言い伝えと、加工による減少 ── 暮らしの中の知恵
うめは、むかしから「あおい うちは たべるな」と いわれて きました。あおい うめの たねに、アミグダリンが ふくまれて いるからだと せつめいされます[7]。
いっぽう、うめぼしや うめしゅの ように、かこう すると、てんねんの どくそが へると いわれます[7]。むかしの ひとの くふうが、いまの せつめいと つながって いるようで、ふしぎですね。
ももの たねも、うめの たねも、ももや うめの たねは、くだかれると どくの もとが はたらく しくみを もって います。
ウメには「青いうちは食べるな」という古くからの言い伝えがあります。青梅の核にアミグダリンが含まれるためで、生食は避けて注意するようにと、薬草園の資料は説明しています[7]。
梅干しや梅酒のように加工すると、天然の毒素は減るとされます[7]。昔の人が経験から伝えてきた言い伝えと、現代の成分の説明が、同じ方向を向いているのは面白い点です。
モモもウメも、おいしい果肉を持つ一方で、種子には守りの仕組みがあります。ふだんは果肉だけを楽しめばよく、種子は割らず、そのままにしておくのが安全です。
ウメには「青いうちは食べるな」という古い言い伝えがある。近畿大学薬学部薬草園の資料は、青梅の核にアミグダリンが含まれるためで、生食は避けて注意が必要だと説明する[7]。
梅干し・梅酒のように加工すると天然毒素が減る、という記述もある[7]。経験の積み重ねとして伝わってきた言い伝えが、アミグダリンという成分の説明と、おおむね同じ方向を指している。
バラ科一般の仕組みとして章を並べると、モモもウメも、果肉は食べるものとして利用され、種子には砕くと働く防御の仕組みがある、という共通の構図が見える。種子を「使う」場合は、漢方のように専門家が管理した形に限られ、家庭では割らないことが安全側の選択になる。
この構図が、バラ科のほかの果物にも広く当てはまるのかは、個別の種の研究を読まないと決められない。ここには、読者が調べる余地が残っている。
6. ももの たねの ごつごつを、ながめて みよう
6. 桃の核のごつごつを、割らずにながめてみる
6. 核の表面を観察する ── 観察の手がかりと、原典の読み方
きょう できること
ももを たべた あとの かたい たねを、みずで あらって、かわかします。わったり、なかを たべたり しては いけません。ごつごつや みぞを、よく 見て、えに かいて みましょう。
うめぼしの たねが あれば、ならべて、おなじ ところと ちがう ところを さがして みます。
こうしきの じょうほう
したの しゅってんの、のうりんすいさんしょうの ページが よみやすいです。おうちの ひとと いっしょに 見て みましょう。
家でできること
食べ終わったモモの種を洗って乾かし、割らずに外側だけを観察します。みぞやでこぼこの形をスケッチして、手元にウメやアンズの種があれば、並べて比べてみましょう。種子を取り出して口に入れることはしません。
原典をのぞいてみる
農林水産省のビワの種子についてのページは、日本語で短く読めます。農林水産省のページを読み、アミグダリンが分解される順番を、矢印で図にしてみましょう。出典欄の論文は、仕組みを詳しく書いた原典です。
次の問い
同じバラ科でも、種子の中の量や、分解の進み方は種ごとに違うのでしょうか。調べる手がかりは、出典欄の論文の表にあります。
観察
モモの核を洗って乾かし、割らずに表面のみぞや凹凸を観察する。ウメ・アンズの核があれば、大きさと形を並べて記録する。種子は取り出さない。
原典
Foods 2021, 10(2), 397 は、青酸配糖体と酵素の接触による放出を扱うレビューである。含有量の表も載るが、値は品種や個体で変わる一例値として読む。日本語では、農林水産省のビワの種子のページと、国立医薬品食品衛生研究所の食品安全情報がある。
残る問い
モモの種子に特化した、日本の公的な毒性資料は見つけにくい。バラ科共通の話から、モモ個別の話へどこまで言えるのかが、次に調べたくなる点である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
毒の仕組みは国内の公的資料と論文で、薬としての使われ方は漢方の解説と公的機関の資料で、それぞれ突き合わせた。数値は資料に書かれた範囲だけを使い、モモの種子の摂取量の目安は示していない。
- 農林水産省「ビワの種子について」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/loquat_kernels.html (アミグダリン・分解・果肉と種子の差)
- 東京都 食品衛生の窓 食中毒Q&A https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/anzen/food_faq/chudoku/chudoku23 (中毒症状・種子の例)
- Foods 2021, 10(2), 397 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8069783 (酵素と接触して青酸が放出される仕組み・防御の働き)
- 国立医薬品食品衛生研究所 食品安全情報(食品中のシアン化物) https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/chemical/cyanide/cyanide_3.pdf (砕く・噛むと生じること、アンズの種子の例)
- 日経ラジオ 漢方Today 頻用処方解説 桃核承気湯 https://www.radionikkei.jp/kampotoday/docs/kampo-130911.pdf (桃仁の説明・作用)
- 国立医薬品食品衛生研究所 漢方製剤 桃核承気湯 https://www.nihs.go.jp/dpp/kampo-anzen/list_pdf/027_tokakujokito.pdf (処方の構成生薬)
- 近畿大学薬学部 薬草園 Seasons letter vol.3 https://www.phar.kindai.ac.jp/yakusouen/seasons-letter/vol_03.pdf (青梅と加工)
- 千葉県 ビワの種を使ったレシピ(取り下げの案内) https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/recipe/kajitsu/biwa/annindofu.html (種子を使う料理への注意)
なおした ところ
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