1. たって いるだけで、どこが はたらいて いるの?
1. 動かずに立っているとき、体の中ではどこが働いているのか
1. 立っているだけで、どの筋肉が何をしているのか
たって いる とき、じぶんは なにも して いない ように おもえます。でも、からだは たおれないように、ずっと がんばって います。
たおれないように ささえる 筋肉は、「こうじゅうりょくきん」と よばれます。重力に さからって、からだを おこして おく 筋肉の ことです。
おなかの 筋肉、せなかの 筋肉、おしりの 筋肉、ふとももの 筋肉、ふくらはぎの 筋肉が あてはまると いわれます。
たとえば、ぼうを じめんに たてて、てで ささえて みて ください。てを はなすと、ぼうは たおれます。ぼうの かわりに ささえて いるのが、この 筋肉です。ただし、からだは ぼうと ちがって、まがったり うごいたり できます。
立ち止まって電車を待っている間、私たちは何もしていないつもりです。ところが体の中では、倒れないように支える筋肉が、休まずに働いています。
骨格筋の役目の1つは、重力に逆らって姿勢を保つことです。この役目をもつ筋肉は「抗重力筋」と呼ばれ、体幹では腹筋と背筋、脚では殿筋(おしりの筋肉)と大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)などが当たります[1]。
もう少し細かく見ると、背中の脊柱起立筋、おなかの腹直筋、おしりの大殿筋、ふくらはぎの腓腹筋やヒラメ筋も、抗重力筋に数えられています[2]。立つ姿勢を横から見ると、頭から足首までの体を、これらを含む複数の筋肉が支えています。
ただし、これは「ここだけが働く」という意味ではありません。資料が挙げているのは代表的な筋肉で、体のほかの部分も姿勢を保つことに関わります。
電車を待って立っているだけの人は、運動をしているようには見えない。しかし骨格筋の働きの1つは重力に抗して姿勢を保つことであり、この役目を担う筋肉は(複数あり)抗重力筋と呼ばれる。長寿科学振興財団の健康長寿ネットは、体幹の腹筋・背筋と、下肢の殿筋・大腿四頭筋などがこれに当たると説明する[1]。
具体的な名前を挙げる別の資料もある。ふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋、背中の脊柱起立筋、おなかの腹直筋、おしりの大殿筋、太ももの大腿四頭筋が、抗重力筋に含まれるとされる[2]。ただし後者は健康情報サイトの解説であり、筋肉の名前の一覧が2つの資料で完全に一致するわけではない。ここでは、複数の資料に共通する筋肉(腹筋・背筋・殿筋・大腿四頭筋)を中心に読むのが妥当である。
では、この筋肉が「使われなくなる環境」では何が起きるのか。それを大規模に試しているのが、体を支える負荷が小さい微小重力の宇宙である。
2. うちゅうでは、その 筋肉は どう なるの?
2. 体を支える負荷が小さい宇宙で、立つための筋肉はどうなるのか
2. 微小重力の宇宙では、抗重力筋はどれくらい減るのか
うちゅうステーションの なかでは、からだが ふわふわ ういて、たって ささえる ちからが とても ちいさく なります。
すると、たつ ための 筋肉は、あまり つかわれなく なります。カナダの うちゅうの きかんは、5日から 11日の ひこうで、さいだい 20パーセントの 筋肉が へった けんきゅうが ある、と しょうかい しています。
20パーセントは、「いちばん おおきい とき」の かずです。ぜんいんが こうなる、という ことでは ありません。
だから うちゅうひこうしは、まいにち 2じかん はんほど うんどうを します。ちきゅうでは、たって いる だけでも 筋肉に ちからが かかります。うちゅうでは、からだを ささえる ちからが とても ちいさく なります。そこで うんどうで おぎなうのですが、ちきゅうで たつ ときの ちからと まったく おなじには なりません。
国際宇宙ステーションの中は微小重力で、体は浮かびます。立って体を支える負荷が小さくなると、ふくらはぎ、太もも、背中、首の筋肉が、あまり使われません。カナダ宇宙庁は、5〜11日の宇宙飛行で、最大20%の筋肉の量が失われた研究があると紹介しています。防ぐ方法として挙げられているのは、強い運動と十分な食事です[3]。
この20%は「最大」の値で、5〜11日の飛行を調べた研究です。宇宙飛行士全員に起きる数字でも、長期滞在の平均でもありません。
だから国際宇宙ステーションの宇宙飛行士は、筋力と骨を保つために、毎日2時間半ほど運動します(カナダ宇宙庁の説明。日本の記事には2時間とするものもあり、資料で少し差があります)[3]。1日の仕事の中で、これだけの時間を運動に充てるのです。地上では、立っているだけでも筋肉に負荷がかかっています。宇宙ではその負荷が小さくなるぶんを、運動で補うのです(地上の負荷が運動と同じ効果だという意味ではありません)。
ちなみに、宇宙では背骨の骨と骨の間の椎間板にかかる重力の負荷が小さくなって、身長が1〜2cm伸びることも知られています。帰還後は元に戻ります[4]。ただ、この話は別の記事で詳しく書いたので、ここでは深追いしません。
微小重力で体を支える負荷が小さくなると、抗重力筋は使われる機会が減る。カナダ宇宙庁(CSA)の解説によれば、抗重力筋とは腓腹筋、大腿四頭筋、背中と首の筋肉などを指し、5〜11日の宇宙飛行で最大20%の筋量が失われたとする研究がある。対策として挙げられているのは、強度の高い運動と十分な食事である[3]。ただし運動は筋量の低下を抑えるための対策であり、地上で重力がかける負荷と同じ効果をもつという意味ではない。ここでの20%は「最大」の値であり、飛行期間も5〜11日と短い。全員に起こる数字としても、長期滞在の平均としても読めない。
ISSの宇宙飛行士が毎日運動をするのは、この低下を抑えるためである。CSAは、ISSの宇宙飛行士が運動に1日2時間半を充てると述べている[3]。日本の記事には2時間とするものもあり、時間の数字は資料で食いちがう。「毎日2時間以上」程度に読むのが安全だろう。
なお、重力の負荷が小さくなった椎間板が1つあたり約1mm伸びる結果、身長が1〜2cm伸びることも知られる[4]。ただしこれは「立つための筋肉」の話とは別の現象で、既存の記事で扱ったのでここでは触れるにとどめる。
宇宙では、立つための筋肉を使う機会が減る。地上では立っている間も、その筋肉が体を支えている。ただし、これは宇宙の研究から地上の生活を推測した読み方で、地上の子どもの筋力に直接当てはめた結論ではない。
3. 「まっすぐな しせい」を まもれば、いたく ならないの?
3. 「まっすぐな姿勢」を守れば、腰は痛くならないのか
3. 姿勢と腰痛は因果で結ばれているのか:41本の系統的レビューの総覧
「せすじを のばして!」と いわれた ことが ある ひとも いるでしょう。では、ただしい しせいを まもれば、こしは いたく ならないのでしょうか。
2020ねんに、41この けんきゅうの まとめを さらに まとめて しらべた けんきゅうが あります。しせいや、ながい じかん たつ・すわる ことと、こしの いたみには つながりが ありました。
ただし、しせいが いたみの げんいんだ、と いえるほど、いけんは そろって いませんでした。つながりが ある ことと、げんいんで ある ことは、ちがう ことなのです。
「背筋をのばしなさい」と言われた経験は、多くの人にあるでしょう。では、正しい姿勢を守れば、腰痛は防げるのでしょうか。
2020年に雑誌「Journal of Biomechanics」で発表された研究は、腰痛と姿勢などの身体的な要因を調べた41本の系統的レビュー(研究のまとめ)を、さらに総覧しました。結果は、姿勢や、長く立つ・座ることなどと腰痛には「関連」が記録されているものの、それが原因だと説明できる一致した結論はない、というものです[5]。
ここで大切なのは、「姿勢は腰痛と無関係」とは言っていない点です。関連はあります。ただ、姿勢が痛みの原因だと言い切れるところまでは、研究が一致していない、というのが正確な読み方です。
「背すじをのばせ」という指導は広く行われているが、姿勢を正せば腰痛は防げるのか。Swainらが2020年にJournal of Biomechanicsで発表した総覧研究は、腰痛と姿勢・長時間の立位や座位などの身体的な曝露との関係を扱った41本の系統的レビューを集めて検討した。その結論は、関連は記録されているが、腰痛の原因だという因果的な説明は与えていない、というものである[5]。
この書き方には注意がいる。「姿勢は腰痛と無関係」ではなく、「関連はあるが、因果は一致した結論に至っていない」が原文の趣旨である。たとえば、腰が痛いから座り方が変わった、という逆向きの説明も、関連だけでは排除できない。
ここで、「では、まっすぐ座るほうが安全だ、という考えは若い人の体ではどうなのか」という問いが生まれる。次の章で、その問いに近づく2つの研究を見る。
4. まっすぐ すわる ほうが、くびは いたく なりにくい?
4. まっすぐ座るほうが首は痛くなりにくい、とは限らなかった研究
4. 若者の座り姿勢を追跡した研究と、理想の姿勢は1つではないという主張
オーストラリアで、17さいの わかもの 1000人いじょうの すわり方を しらべ、22さいまで おいかけた けんきゅうが あります。そのうち 686人ほどが、22さいの ときの ようすを おしえて くれました。
すると、この けんきゅうの わかものの なかでは、女の人で、まっすぐ すわる グループの ほうが、つづく くびの いたみが おきやすかった、という けっかでした。男の人では、その ちがいは ありませんでした。
けんきゅうした ひとたちは、おとなには あてはまらないかも しれない、と ちゅういして います。「ねこぜでも だいじょうぶ」という わけでは ありません。
べつの けんきゅうグループは、「せぼねの りそうの かたちは 1つでは ない」と のべて います。たって いるときは あしくびや ひざなど、たくさんの ところで しせいを ととのえられます。すわると、おしりの ほねの あたりから ととのえる ことが おおく、たって いる ときより えらべる ことが すくない、と いう はなしです。
オーストラリアのカーティン大学の研究者たちは、17歳のときの座り姿勢を4つのグループに分け、22歳まで追いかけました。約686人が協力した研究です。その結果、この研究で調べた若者の中では、女性でまっすぐ座っていたグループのほうが、続く首の痛みを経験するリスクが高かったと報告されています(男性では差がなく、すべての女性に当てはまるとは限りません)[6]。
この結果は報道発表にもとづくもので、研究者自身が、成人には当てはまらないかもしれないと注意しています。「猫背のほうが安全」という意味ではなく、「まっすぐ座っていれば首が守られる」とも言い切れない、という読み方になります。
別の研究グループのクレイスらは、99人の健康な若者を調べ、「理想の背骨の姿勢は1つではない」と述べています。立っているときは、足首・膝・股関節・骨盤・背骨など、複数の場所で姿勢を調整できます。ところが座ると、骨盤を基点にした調整が中心になり、立っているときより選べる姿勢が少ないと、この研究グループは述べています[7]。これは一つの研究グループの主張で、定説として決まったわけではありません。
それでも、「同じ姿勢で固まるより、姿勢を変えられることが大事かもしれない」という見方につながります。
カーティン大学のリチャーズらは、17歳時点の座り姿勢を4群に分け、22歳まで追跡した。対象は約686人で、この研究で調べた若者の中では、女性で「まっすぐ座る」群のほうが、続く首の痛みのリスクが高かった。男性では差がなく、すべての女性に当てはまるとは限らない。研究者は、この結果が成人にはそのまま当てはまらない可能性にも触れている[6]。ただし、ここで使った資料は報道発表であり、原論文(Physical Therapy誌、2021年)の本文は読んでいない。したがって、「猫背でも平気」と読むことはできないし、女性に特有の現象だと一般化することもできない。
この結果を理解する手がかりが、クレイスらの2016年の論文(J Bodyw Mov Ther)の解説にある。99人の健康な若者を対象にしたこの研究は、立位では足首・膝・股関節・骨盤・背骨と、姿勢を調整できる場所が多いのに対し、座位では骨盤を基点にした修正が中心で、立位より姿勢の選択肢が少ないと述べた。著者は「理想の背骨の姿勢は1つではない」と主張している[7]。
2つを並べると、「どの姿勢が正しいか」より「姿勢を変えられるか」という見方が浮かぶ。しかし前者は報道発表、後者は解説記事を通した一研究グループの主張であり、強い結論ではない。確かなのは、姿勢と痛みの関係が、「まっすぐなら安心」ほど単純ではないという点である。
5. じぶんの しせいを、ちょっと かんさつ して みよう
5. 自分の立ち方・座り方を観察してみる
5. 資料を読む前に、自分の体で確かめられること
きょう できる こと
かべから はなれて、1ぷん だけ たって みます。ふくらはぎや おしりに てを あてて、ちからが はいる ところが あるか、かんじて みましょう。
つぎに、いすに すわって、あしの ばしょや すわり方を すこし かえて みます。「ここが らく」と おもう ばしょが かわるか、みて みます。むりは しないで ください。
観察してみる
壁から離れて1分ほど立ち、ふくらはぎやおしりに手を当てて、力が入る場所があるか感じてみます。それから椅子に座り、足の位置や座り方を少しずつ変えて、「楽だ」と感じる場所が変わるか確かめます。痛みやつらさがあるときは、すぐにやめます。
立つときと座るときで、力が入る場所や「楽だ」と感じる場所がどれだけ違うかを比べると、「姿勢を変えられることが大事かもしれない」という見方が、少し実感できるかもしれません。
観察の道すじ
壁にもたれずに1分ほど立ち、ふくらはぎ・おしり・おなかに手を当てて、力の入り方を感じ取る。座る姿勢では、足の位置や骨盤の傾きを変えたとき、楽に感じる場所がどう変わるかを調べる。痛みがあるときは中止する。この観察で、「立位は姿勢を調整できる場所が多く、座位は少ない」[7]という主張の意味を、自分の体で想像できる。
原典にあたる
まず日本語の資料[1]で、抗重力筋の定義を確かめられる。そのうえで、腰痛と姿勢の総覧研究[5]はPubMedで要旨が公開されている。カーティン大学の追跡研究[6]は原論文(Physical Therapy誌、2021年)が別にあるので、本文を確かめることで報道発表との差が分かる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「筋肉の種類とその特徴」. https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/kinniku-kinou.html (抗重力筋の定義)
- All About エクササイズ(2014年). https://allabout.co.jp/gm/gc/436301/ (抗重力筋の名前の例)
- Canadian Space Agency, What happens to muscles in space?. https://asc-csa.gc.ca/eng/sciences/osm/muscles.asp (宇宙での筋量低下と運動時間)
- JAXA 有人宇宙技術部門FAQ「宇宙に行くと背が伸びるって本当ですか」. https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000554.html (椎間板と身長)
- Swain et al., Journal of Biomechanics(2020), PubMed 31451200. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31451200/ (姿勢と腰痛の関連)
- Curtin University 報道発表(Richards博士). https://www.curtin.edu.au/news/media-release/new-research-finds-slumped-posture-not-such-a-pain-in-the-neck-after-all/ (座り姿勢と首の痛み)
- Claeys, Atlas of Science「One ideal spinal posture does not exist」(原研究の解説). https://atlasofscience.org/one-ideal-spinal-posture-does-not-exist/ /原研究:Claeys et al., J Bodyw Mov Ther(2016), PubMed 27210850. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27210850/ (立位と座位の調整のしやすさ)
なおした ところ
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