1. はなは、どうして むしを よせつけない ものを つくるの?
1. 花はなぜ、虫を寄せつけない成分を作るのか
1. 除虫菊のピレトリンは、植物の護身用の成分とされる
除虫菊は、しろい はなを さかせる くさです。この はなの たねを つつむ ぶぶんに、ピレトリンという せいぶんが あつまります。むしに たべられないように、植物が じぶんで つくる まもりの せいぶん、と いわれます。
ひとは、この せいぶんと、それを ちょっと つくりかえた なかまを まとめて「ピレスロイド」と よびます。さて、ひとは この せいぶんを、いつ、どうやって とりだしたのでしょう。
2. ひとは、いつ この はなを つかうように なったの?
2. 日本に来た除虫菊の種と、取り出された成分
2. 1885年の種の譲り受けと、1924年の成分の分離
にほんでは、明治の ころ、上山英一郎という ひとが、除虫菊の たねを アメリカの ひとから ゆずって もらった、と つたえられて います。1885ねんの ことと される はなしです。
そのあと、じょちゅうぎくの はなから、むしを たおす せいぶんが とりだされました。1924ねんの ことです。はなの なかに、むしに きく ものが あると、やっと はっきり したのです。
日本への導入には、有名な話があります。上山英一郎は1885年(明治18年)、福沢諭吉の紹介でアメリカの植物会社を営むアモアと会い、除虫菊の種を譲り受けたとされます[5]。別の資料では1886年とされていて、年は資料によってずれがあります。
上山はのちに、棒状の蚊取り線香(1890年)、渦巻き型(1895年に考案とされる)を作ったと伝わります。日本で最も古い除虫菊の栽培書も著し、のちに日本の除虫菊の生産量が世界一になるのに貢献したとされます[6]。
一方、花の中の殺虫成分そのもの(天然ピレトリン)が分離されたのは、1924年です[1]。花を乾かして使う時代が先にあり、成分の正体が取り出されたのはずっとあとでした。
取り出された成分には、使いやすい点もありました。ただ、屋外で長く効かせるには、困る弱点があったのです。
日本での除虫菊の歴史は、種の導入から始まる。上山英一郎は1885年(明治18年)、福沢諭吉の紹介で米国の植物会社を営むアモアと出会い、種を譲り受けたとされる[5]。ただし別の資料は1886年とし、導入の年は一定しない。上山は1890年に棒状の蚊取り線香、1895年に渦巻き型(約6時間燃えるもの)を考案したと伝わる。渦巻き型は1895年に考案され、1902年に発売されたという説がある。上山は国内最古とされる除虫菊の栽培書も書き、のちに日本の生産量が世界一になるのに貢献したとされる[6]。
では、成分の正体はいつ分かったのか。意外なことに、栽培と製品化が先に進み、殺虫成分の天然ピレトリンが分離されたのは1924年である[1]。花をそのまま使う段階から、成分を取り出して調べる段階へ移ったことで、成分を設計し直す発想が可能になった。
ただし、取り出した天然品は、長所と弱点を併せ持っていた。
3. てんねんの せいぶんの、いいところと こまる ところ
3. 天然ピレトリンの長所と、屋外での弱点
3. 天然ピレトリンは「速く効くが壊れやすい」成分だった
てんねんの ピレトリンには、いい ところが ありました。あたたかい けつえきの どうぶつ(わたしたちも です)には どくが ひくい、とされます。ゴキブリを おいだしたり、むしに すぐ きいたり する ちからも つよい。
でも、ひかりや くうきの なかの さんそに ふれると、こわれて しまいます。
これは、せっかくの いい せいぶんを、ながく つかいにくく する、おおきな もんだいでした。
4. ひかりに つよい せいぶんは、どうやって できたの?
4. 1949年のアレスリンから、1973年の「光に強い型」へ
4. アレスリンからペルメトリンへ:塩素を入れる改良で光への安定性が上がった
さいしょに ひとが つくった ピレスロイドは「アレスリン」です。1949ねんに、アメリカの くにの やくしょで つくられ、1953ねんごろには、せいひんに なりました。てんねんの せいぶんの、こわれやすい ぶぶんを とりのぞき、すぐ きく ちからは のこしました。
でも、ひかりへの つよさは、まだ たりませんでした。
1973ねん、イギリスの ロザムステッドと いう けんきゅうじょの チームが、ひかりに つよい、あたらしい ものを ほうこくしました。これまでの ピレスロイドより、ひかりに 10ばいから 100ばいも つよい、というのです。むしに きく ちからは そのままで、ほにゅうるいへの どくは ひくい、と かかれて います。
この ときの くふうは、「えんそ」という ものを、せいぶんの ある ぶぶんに いれた ことと されます。これで、ひかりに よる こわれかたが、ぐっと すくなくなりました。
最初の合成ピレスロイドは、1949年に米国農務省(USDA)で作られたアレスリンです。1953年ごろには製品になっていました。天然の不安定な部分を取り除きながら、速く効く性質は保っていました[3]。ただし光への強さは、まだ十分ではありませんでした。
転機は1973年です。英国のロザムステッド研究所のエリオットらのチームが、従来のピレスロイドより光に10〜100倍安定で、昆虫への効き目は保ち、哺乳類への毒性は低い合成エステルを、科学誌『ネイチャー』に報告しました[4]。
注意したいのは、10〜100倍が「従来のピレスロイドと比べて」の数字だという点です。天然ピレトリンとの比ではありません。
この化合物は、ペルメトリンとして知られます。分子の一部のメチル基に塩素の原子を入れる工夫で、光による分解への強さが大きく上がりました[3]。壊れやすい場所に「守り」を足した、と考えると想像しやすいでしょう。ただし、ペルメトリンという名前は、Nature要旨ではなく別の資料の記述にもとづきます。
最初の合成ピレスロイドは、1949年に米国農務省(USDA)で作られたアレスリンで、1953年ごろまでに製品化された。天然の構造の不安定な部分(ビニル基)を除きつつ、速く効く性質は保った[3]。ところが光に対しては、まだ十分に強くなかった。
ここで転機になったのが1973年である。英国ロザムステッド研究所のエリオットらは、従来のピレスロイドより光に10〜100倍安定で、昆虫への活性はビオレスメトリンと同程度、哺乳類への毒性は低い新しい合成エステルを、『Nature』に報告した[4]。この「10〜100倍」は従来のピレスロイドを基準にした値で、天然ピレトリンとの比ではない。しかも要旨に書かれたのは性質であり、化合物の名前ではない。
その化合物がペルメトリンである。PMCの総説は、ペルメトリン(1973年)がメチル基に塩素原子を導入し、光酸化による分解への安定性を大きく改善したと述べる[3]。つまり、壊れやすい化学構造の周りを塩素で保護することで、光での分解を遅らせたと読める。ただし、Nature要旨とPMC総説は別の資料であり、名前と数値の結びつきは後者の記述に依る点に注意したい。
5. どうして むしには ききやすく、ほにゅうるいには おだやかなの?
5. 昆虫に効きやすく、哺乳類に穏やかなのは、なぜか
5. 神経のナトリウムチャネルへの作用と、哺乳類での分解
ピレトリンも ピレスロイドも、むしの しんけいに はたらきます。しんけいは、からだに めいれいを おくる ほそい みちです。この みちが「しまる」のを おくらせて、しんけいを ずっと はたらかせすぎて しまい、むしが うごけなく なる、と せつめい されます。
ほにゅうるい(わたしたちも)では、からだの なかで すぐに こわされやすく、むしより えいきょうが でにくい、と されます。ただし、たくさん すいこんだり あびたり すると、はきけなど からだに よくない ことが でる、という ほうこくが あります。
ねこは とくべつで、こわす ちからが たりず、ちゅうどくに なりやすい と いわれます。ですから、ねこの いる いえでは、おうちの ひとに よく たしかめて もらいましょう。
ピレトリンもピレスロイドも、昆虫の神経にある電位依存性ナトリウムチャネルが閉じるのを遅らせます。そのため神経が興奮しすぎて、麻痺が起こります[3][10]。
哺乳類では、殺虫成分が速やかに代謝・分解されるため、安全性が高い薬剤とされます[2]。肝臓の酵素で分解でき、できた物質の毒性も低いという説明があります[8]。
ただし「無害」ではありません。大量に吸い込んだり浴びたりすると、吐き気や呼吸困難などの影響が報告されています[2]。また、ネコはこの分解酵素が足りず、特に中毒しやすいとされます[8]。使うときは、必ず製品の説明書にしたがうことが大切です。
ピレトリンとピレスロイドは、昆虫の神経の電位依存性ナトリウムチャネルの閉じるタイミングを遅らせ、過剰な興奮と麻痺を起こす[3]。日本農薬学会誌の要旨も、ある化合物がアメリカザリガニとワモンゴキブリの神経軸索膜に、多くのピレスロイドと同様の脱分極性後電位を起こすと報告しており、神経膜への作用を示す[10]。ただしナトリウムチャネルという分子の名は、要旨ではなくPMC本文の記述による。
では、なぜ昆虫に効きやすく、哺乳類に穏やかなのか。愛知県衛生研究所は、哺乳類では殺虫成分が速やかに代謝・分解を受けるため安全性が高い、と説明する[2]。肝臓などのエステラーゼで分解でき、代謝物の毒性も低いとされる[8]。
ただし例外と条件がある。大量に吸い込んだり浴びたりすれば、吐き気や呼吸困難などの影響が報告される[2]。ネコは分解に必要な肝臓の酵素が足りず、特に中毒しやすいとされる[8]。この点は二次資料の記述にもとづくため、製品を使うときは必ず説明書の注意に従うべきである。
6. ひかりに つよく しても、のこる もんだいは?
6. 光に強くしても、残った課題
6. 改良型でも残る、ミツバチへの毒性と抵抗性:ゲノム解読が示す次の入口
ひかりに つよく した ピレスロイドも、ひかりで すこしずつ こわれて いきます。こわれる はやさは、まわりの ようすで かわります。でも、ミツバチや さかななどには、つよい どくに なる ことが あります。
また、か では、ピレスロイドに なれて、ききにくい なかまが ふえて きて います。
2019ねんには、除虫菊の「いでんしの ぜんぶ」が よみとられました。この はなが、せいぶんを どう つくるのか、しらべる ヒントに なります。
光に強くした改良型でも、光で分解されることに変わりはなく、その速さは条件によって変わります[9]。一方で、ミツバチなどの有益な昆虫や、水の中の生きものには強い毒性を示します。
蚊など一部の昆虫では、ピレスロイドが効きにくい抵抗性も広がっています[9]。
2019年12月、大日本除虫菊とサントリー生命科学財団は、除虫菊のゲノムを解読したと発表しました。約71億塩基対で、推定遺伝子は60,080個です。毒性タンパク質や代謝酵素の遺伝子が増えていることも分かり、天然ピレトリンの作られ方の解明につながるとされます[7]。
人が改良した成分と、植物が作る成分。その両方が、まだ調べられ続けています。
光に強くなったからといって、問題が消えたわけではない。ペルメトリンなどの改良型は、光で分解される(速さは条件による)一方、ミツバチなどの有益な昆虫や水生生物には強い毒性を示す[9]。さらに蚊などでは、ピレスロイドへの抵抗性(kdr変異など)が広がっている[9]。
では、元の植物に何が残っているのか。2019年12月、大日本除虫菊とサントリー生命科学財団は、除虫菊のドラフトゲノム(約71億塩基対)を解読し、推定遺伝子数を60,080個と発表した。毒性に関わるタンパク質や代謝酵素の遺伝子が増えていることも分かり、天然ピレトリンが植物の中で作られる仕組みの解明につながるとされる[7]。人が光に強く作り変えた成分の源流にも、まだ調べる余地が残っている。
7. おうちの ひょうじを みて みよう
7. 家にある防虫・殺虫用品の成分表示を読む
7. 製品の成分表示から、ピレスロイドの名前をさがす
きょう できる こと
おうちの ひとと いっしょに、むしよけや さっちゅうざいの うらの ひょうじを、みるだけ みて みましょう。「ペルメトリン」や「アレスリン」のような なまえが あるかも しれません。ちがう なまえの ことも あります。さわったり、ふたを あけたり しては いけません。
しらべる とき
おおさかふの ホームページに、ピレスロイドの はなしが のって います。おうちの ひとと いっしょに よんで みましょう。
今日できること
家族と一緒に、防虫・殺虫用品の裏の表示を、見るだけ見てみましょう。成分名に「ペルメトリン」「アレスリン」などがあれば、この記事の改良型の仲間かもしれません。別の名前の成分のこともあります。開けたり、においをかいだりはしません。
資料を読むなら
大阪府の「ピレスロイド系殺虫剤について」[1]は、日本語で読めます。天然ピレトリンと合成品の違いが短くまとまっています。
今日できること
保護者と一緒に、防虫・殺虫用品の裏の成分表示を、見るだけ確認する。ペルメトリン、アレスリンなど、本文に出た名前が見つかる場合も、別名の場合もある。容器を開けたり触ったりはしない。見つかった名前を、天然のピレトリン(第1章)と比べ、どの改良の流れにある成分かを考えてみるとよい。
資料を読むなら
日本語で読める公的な資料に、大阪府[1]と愛知県衛生研究所[2]のページがある。1973年のNature論文の要旨は、ロザムステッド研究所のリポジトリ[4]から見られる(英語)。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 大阪府「ピレスロイド系殺虫剤について」. https://www.pref.osaka.lg.jp/o100090/kankyoeisei/kininarumusi/satyu_bunrui.html (天然ピレトリンの性質、1924年の分離)
- 愛知県衛生研究所「殺虫剤」. https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/4f/insecticide.html (ピレスロイドの定義、哺乳類での分解)
- Pyrethroid structural modifications history(PMC6861428). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6861428/ (アレスリン、ペルメトリン、作用のしくみ)
- Elliott et al. 1973, A photostable pyrethroid(Rothamsted Repository). https://repository.rothamsted.ac.uk/item/8vx95/a-photostable-pyrethroid (光に強い合成エステルの報告)
- 和歌山県「Made in わかやま 金鳥」. https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/000200/nagomi/w60/24/index.html (除虫菊の種の導入)
- 日本化学会 化学遺産認定(共同通信PR、2017年). https://kyodonewsprwire.jp/release/201703210059 (蚊取り線香の開発、栽培書)
- 大日本除虫菊 ゲノム解読プレスリリース(2019年12月). https://kyodonewsprwire.jp/release/201912044298 (除虫菊のゲノム)
- Wikipedia: Pyrethrin. https://en.wikipedia.org/wiki/Pyrethrin (植物での役割、ネコの感受性)
- Wikipedia: Pyrethroid. https://en.wikipedia.org/wiki/Pyrethroid (改良型の限界)
- 日本農薬学会誌(J-STAGE). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpestics1975/21/2/21_2_179/_article/-char/ja (神経膜への作用)
なおした ところ
更新履歴
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