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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

あかとんぼは、なぜ あきに よく みるの? やまと いろの ひみつ

赤とんぼはなぜ秋によく見かけるのか ── 山へのひっこしと、色が変わるしくみ

赤とんぼはなぜ秋に目立つのか ── 高地への季節移動と色素の酸化還元

分野:生きもの

「あきに なると あかとんぼが ふえたね」がっこうの かえりみちで、そんな はなしを きいた ことは ありませんか。

たんぼや かわの うえを、たくさんの あかとんぼが とんで います。でも この むし、なつの あいだは どこに いたのでしょう。いろが あかいのは、なぜでしょう。

「秋になると赤とんぼが増えたね。」学校の帰り道で、そんな話を聞いたことはありませんか。

田んぼや川の上を、たくさんの赤とんぼが飛んでいます。でも、この虫は夏の間どこにいたのでしょうか。体の色が赤いのは、なぜでしょうか。このメモでは、山へのひっこしと、体の色が変わるしくみを、研究からたどります。

「秋になると赤とんぼが増えた」と、大人が話すのを聞いたことがあるかもしれない。田んぼや川の上を、群れで飛ぶ姿もよく見る。

だが赤とんぼは、夏の間どこにいたのか。体の色が赤いのはなぜか。このメモでは、標高の高い場所への移動、産卵を遅らせるしくみ、色素の酸化還元という3つの手がかりから、この問いをたどる。

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1. あかとんぼは、いつ うまれるの?

1. 赤とんぼが生まれるのは、実は初夏

1. 羽化は初夏 ── 低地の水田で生まれるアキアカネ

「あかとんぼ」は、なんしゅるいかの とんぼを まとめて よぶ なまえです。いちばん よく みられるのが 「アキアカネ」です[1]。

みずの なかで そだった こどもは、はるの おわりから なつの はじめに、そらを とべる おとなに なります。たんぼや いけの ちかくで おこる ことです[1]。

つまり、あかとんぼが うまれるのは 「あき」では ありません。なつが はじまる ころなのです。

「赤とんぼ」は、成熟すると体が赤くなるトンボをまとめて呼ぶ名前で、日本には何種類もいます。中でも一番よく見られ、代表とされているのが、アキアカネ(Sympetrum frequens)です[1]。

アキアカネは、5月末から6月下旬ごろ、田んぼやため池で成虫になります。水の中で育った子ども(ヤゴ)が、水ぎわの草などにのぼり、皮を脱いで、羽のある成虫になるのです[1]。生まれてすぐの体は黄色っぽく、まだ赤くありません。

つまり、赤とんぼが生まれるのは秋ではなく、田植えのころの初夏です。では、夏の間、赤とんぼはどこにいるのでしょうか。

「赤とんぼ」は、成熟すると体が赤くなるトンボ(アカネ属など)の総称で、日本には何種類もいる。中でも個体数が多く、代表とされるのがアキアカネ(Sympetrum frequens)である[1]。

羽化は5月末から6月下旬にかけて、低地から低山地の水田やため池で起こる。水中で育った幼虫(ヤゴ)が水ぎわの植物などにはい上がり、脱皮して翅のある成虫になる[1]。羽化直後の成虫は未成熟で、体色は黄色みを帯びている。

つまり、赤とんぼの誕生は秋ではなく初夏に起こる。ではなぜ、夏の間は見かけず、秋になって目立つのか。次章から、その行き先を追う。

2. なつの あいだ、どこに いるの?

2. 夏は山の上で過ごす ── 暑さを逃れるひっこし

2. 高地への移動 ── 平均気温22〜23℃がめやすに

うまれて すうじつは、たんぼの ちかくで たべものを とります。でも、なつの あつさが きびしく なると、やまへ ひっこします[1]。

すずしい やまの うえで、あつい なつを すごすのです。だから、なつの あいだ、まちや たんぼでは、あかとんぼに あまり あわないのです。

生まれて4〜5日、田んぼの近くで食べ物をとった後、赤とんぼは高い山へ移動を始めます。低地の気温が30℃を超えるようになると、生きていくのが難しくなるためだと考えられています[1]。

石川県農業短期大学の上田哲行さんが1988年に発表した研究では、平均気温がおよそ22〜23℃を超えるようになった地域から、山への移動が始まっていました[2]。標高1000メートルを超えるような場所まで飛んでいくこともあります。

だから、真夏に低い土地で赤とんぼを見かけることが少ないのは、山へ移動しているためだと考えられます。

羽化後4〜5日間、水域周辺で餌をとったのち、アキアカネは高標高地への移動を始める。低地の夏季の高温(30℃を超える気温)では生存が難しくなることが、この長距離移動の要因と考えられている[1]。

上田哲行(1988年、石川県農業短期大学研究報告)は、平均気温がおよそ22〜23℃を超える時期・地域から、この移動が起こると報告した[2]。移動先は標高1000メートルを超える高原や山地に及ぶこともある。

つまり真夏、平地でアキアカネを見かけることが少ないのは、山へ移動しているためだと考えられる。ただし、地域全体の個体数そのものが減っていないかどうかまでは、この記述だけでは確かめられない。

3. やまの うえで、なにを して いるの?

3. 山の上での準備 ── 体を育てて、産卵は先のばし

3. 生殖休眠 ── 産卵を数か月遅らせるしくみ

やまの うえでは、たくさん たべます。からだの なかでは、こどもを のこす じゅんびが すすんで、からだは まえより おもく なります[1]。

でも、たまごは すぐには うみません。ふゆを ちゃんと こせる、すずしい きせつに なるまで まつのです。この まつ じかんは、2かげつから 3かげつも あります[2]。

山の上では、たくさん食べて、卵巣らんそうや精巣せいそうなどの体の中の器官を育てます。栄養をためて、体重はもとの2〜3倍にまで増えることもあります[1]。

けれども、卵はすぐに産みません。卵が冬をきちんと越せる涼しい季節になるまで、産卵を先のばしにするのです。上田哲行さんの研究では、この「待つ」期間は2〜3か月にもおよぶといいます[2]。体は育っているのに、繁殖だけは足止めされている状態です。

高標高地では活発に餌をとり、卵巣らんそう・精巣せいそうなどの内部器官を発達させる。体重は最終的に、羽化直後の2〜3倍にまで増加するとされる[1]。

一方で、産卵はただちには始まらない。上田(1988年)は、アキアカネが2〜3か月という昆虫としては長い前生殖期間を示すとし、これを「卵が冬を越せる涼しい季節まで、産卵開始を遅らせるための季節調節」と説明している[2]。体の成熟と、繁殖行動の開始が切り離されている点が興味深い。

4. あきに なると、やまを おりる

4. 秋、山を下りてくる ── 大群になって

4. 秋雨前線と共に始まる下山

すずしい かぜが ふく あきに なると、あかとんぼは やまを おります。おおぜいで、いちどに おりて くることも おおいそうです[1]。

たんぼや かわの うえに、いっせいに すがたを あらわすので、「きゅうに ふえた」ように かんじるのです。でも ほんとうは、なつの あいだも どこかで いきて いて、やまから もどって きただけなのです。

秋になり、秋雨前線が通るころ、赤とんぼは大群になって山を下りてきます[1]。上田哲行さんの研究でも、秋の初めに、待っていた成虫が低地へ戻り、繁殖行動を始めることが報告されています[2]。

田んぼや川の上に、いちどにたくさんの赤とんぼが現れるので、「急に数が増えた」ように感じられます。でも実際には、夏の間もどこかで生きていて、山から戻ってきただけなのです。

秋、秋雨前線の通過のころから、アキアカネは大群を成して山を下り、平地・丘陵地・低山地へと移動する[1]。上田(1988年)も、生殖休眠を経た個体が秋の初めに低地へ帰還し、繁殖を始めると報告している[2]。

田んぼや川の上に一斉に姿を現すため、「秋になって数が増えた」という印象を受けやすい。しかし個体群としては夏の間も存在しており、目に入る場所が変わっただけだと考えられる。むしろ、羽化直後の初夏がもっとも個体数の多い時期で、夏の高地での死亡などにより、秋には幾らか減っているとみるのが自然である(この点を直接数えて確かめた資料は、今回は見つからなかった)。

5. きいろから あかへ、いろが かわる

5. なぜ赤くなるのか ── 色素の酸化還元

5. 色素の酸化還元 ── ビタミンCで数時間のうちに赤くなった実験

あかとんぼの あかい いろの もとは、からだの なかに ある いろの もとです。わかい ときは きいろっぽく、おとなに なると あかく かわります[3]。

けんきゅうでは、わかい オスに、レモンなどに ふくまれる 「ビタミンC」を 注射ちゅうしゃすると、すうじかんで あかく なりました[3]。いろが かわるのは、からだの なかの かがくの へんかだったのです。

やってみよう

りんごを うすく きって、はんぶんには なにも つけず、もう はんぶんには レモンじるを ぬって みましょう。しばらく おいて、いろの ちがいを くらべて みましょう。レモンじるの 「ビタミンC」に、いろが かわるのを ふせぐ ちからが あります。

成熟した赤とんぼの赤は、「オモクローム」という色素からできています。この色素には、酸化した形(黄色)と、還元した形(赤色)があり、成熟したオスでは赤い還元型がほとんどを占めるようになります[3]。

2012年、研究チームは、未成熟なオスに、還元剤として働く「ビタミンC」(アスコルビン酸)を注射ちゅうしゃする実験をしました。すると、わずか数時間で黄色から赤色に変わったのです[3]。年をとって自然に赤くなるのを待たなくても、化学的に色を変えられることが示されました。

体の右半分と左半分で色がちがう、めずらしい個体も見つかっています。細胞ごとに、色素の酸化・還元が別々に制御されている証拠だと考えられています[3]。

やってみよう

りんごを薄く切り、片方には何もつけず、もう片方にはレモン汁をぬってみます。しばらく置いて、色の変化を比べてみましょう。レモン汁に含まれるビタミンCには、切り口の色が変わるのを防ぐはたらきがあります。赤とんぼの色を変えた実験でも、ビタミンCの同じような還元のはたらきが使われています。

成熟に伴う体色変化の正体は、「オモクローム」という色素の酸化還元状態の切りかえである。酸化型は黄色、還元型は赤色を示し、成熟したオスの個体では還元型の割合が90〜100%に達する。この関係は、ショウジョウトンボ属(Crocothemis servilia)とアカネ属2種(Sympetrum darwinianum、S. frequens)で確認された[3]。

Futahashiら(2012年、米国科学アカデミー紀要)は、未成熟なオスと成熟したメスに、還元剤であるアスコルビン酸(ビタミンC)を注射する実験を行った。数時間のうちに黄色から赤色へと変化したという[3]。加齢によって不可逆に赤くなるのではなく、酸化還元状態という、原理的には可逆なしくみで色が決まっていることになる。

さらに、体の左右で色が異なる個体も観察されており、色素の酸化還元が細胞単位で制御されている可能性を示している[3]。

やってみよう

リンゴを薄く切り、断面の片側だけにレモン汁を塗って置いておく。切り口が茶色くなる変化は成分の酸化によるもので、ビタミンC(アスコルビン酸)はこれを還元し、酸化を防ぐ物質として働く。赤とんぼの体色を変えた実験と同じ、ビタミンCの還元作用を、身近な食材で確かめられる。

6. じぶんでも しらべて みたく なったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

あきに、たんぼの まわりや こうえんの みずべを みに いって みましょう。あかとんぼを みつけたら、いろを よく みて みましょう。まっかな こも いれば、きいろっぽい こも います[3]。

  • つかまえないで、みるだけに しましょう。
  • なんびき いるか、かぞえて みましょう。
  • かぞくや ちかくの ひとに、「むかしは もっと いたか」を きいて みましょう。ちいきに よっては、のうやくや たんぼの みずの かんりの かわりかたで、あかとんぼが まえより へって いると いわれて います[4]。

秋に、田んぼの周りや公園の池を見に行ってみましょう。赤とんぼを見つけたら、色をよく観察します。真っ赤な個体もいれば、黄色っぽい個体もいます。色のちがいから、成熟した個体か、まだ若い個体かを考えてみましょう[3]。

  • つかまえずに、見るだけにします。
  • 同じ場所で、何匹くらいいるか数えてみます。日によって数がちがうかもしれません。
  • 家族や近所の人に、「昔はもっと多かったか」を聞いてみましょう。地域によっては、農薬や田んぼの水管理の変化で、赤とんぼが以前より減っていると報告されています[4][5]。

秋、田んぼの周辺や公園の池を観察してみるとよい。個体の体色(赤の濃さ・黄色みの残り方)を記録すれば、成熟の進み具合を自分の目で確かめられる[3]。

  • 捕獲はせず、目視のみで観察する。
  • 同じ地点・同じ時間帯で個体数を数え、日による変化を記録する。
  • 地域の人に聞き取りをしてみる。1990年代後半以降、アキアカネは各地で大きな減少が報告されており、強い殺虫剤と、圃場整備にともなう田んぼの乾燥化が重なった影響だと分析されている[5]。赤とんぼの仲間には、水管理の変化そのものが生息地を減らしている種もいる[4]。自分の住む地域の田んぼがどう管理されているかを調べると、生きものの数とのつながりが見えてくるかもしれない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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  1. フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「アキアカネ」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/アキアカネ (羽化の時期・場所、高温を避けた高地への移動、生殖腺の発達と体重の増加、秋雨前線を機とした山からの帰還、成虫の見られる時期。尾園暁ら『日本のトンボ』文一総合出版・井上清ほか『トンボのすべて』トンボ出版などを典拠とする)
  2. 上田哲行(1988)「アキアカネの生活史の多様性」石川県農業短期大学研究報告 18号。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bulliac/18/0/18_KJ00000059964/_article/-char/ja (平均気温22〜23℃を超える地域から高地への移動が始まること、2〜3か月におよぶ長い前生殖期間、秋初めの低地への帰還と繁殖開始)
  3. Futahashi, R., Kurita, R., Mano, H., Fukatsu, T. (2012) “Redox alters yellow dragonflies into red”. Proceedings of the National Academy of Sciences 109(31): 12626-12631. https://doi.org/10.1073/pnas.1207114109 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3412017/ (体色を決める色素の酸化型・還元型、成熟したオスで還元型が90〜100%を占めること、アスコルビン酸〈ビタミンC〉の注射で数時間のうちに赤く変わったこと、体の左右で色が異なる個体の観察)
  4. 東川航・吉村真由美・八木剛・前藤薫(2019)「水田地帯における赤とんぼの衰退と保全に関する課題 ── 生息地利用の視点から ──」陸水学雑誌 80(3): 107-124。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/80/3/80_107/_article/-char/ja (種によって衰退の要因が異なること。止水性のアキアカネなどは農薬の影響、流水をともなう水域にすむミヤマアカネは水管理の近代化による生息地の減少)
  5. 中西康介・横溝裕行・林岳彦(2024)「統合的なアプローチで可能になる因果推論:アキアカネは農薬によって激減したのか」保全生態学研究(早期公開)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/advpub/0/advpub_2304/_article/-char/ja (1990年代後半以降の急激な減少が、殺虫剤〈フィプロニル・イミダクロプリドなど〉と、圃場整備にともなう田んぼの乾燥化との複合的な影響によることを、複数の手法を統合して示した研究)

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