1. どうして かたに ちからが はいるの?
1. 発表の前、なぜ肩に力が入るのか
1. 発表を待つ間に肩が上がる:筋肉の緊張は「ほぼ反射」とされる
みんなの まえで はっぴょうする まえ、いつのまにか かたが あがって、手を ぎゅっと にぎって いませんか。
アメリカの しんりがくの 会は、きんにくの きんちょうを、ストレスに たいする「ほとんど はんしゃ」の はんのうだと せつめいして います。けがや いたみから 体を まもる ための 方ほうだ、とも いいます[4]。
きゅうに こわい ことが おきると、きんにくは いっせいに かたく なります。まるで、なにが おきても すぐ うごけるように、体が「かまえる」ようです。
では、その「かまえ」の中では、体の ほかの ところで なにが おきて いるのでしょうか。
緊張は「ほぼ反射」
発表の順番を待つ間、気づけば肩が上がり、手を握りしめている。そんな経験は多くの人にあるはずです。アメリカ心理学会は、筋肉の緊張はストレスに対するほとんど反射的な反応で、けがや痛みから体を守るための方法だと説明しています[4]。
突然のストレスがあると、筋肉は一斉に緊張します。体が「何かあっても、すぐ動けるように」構える、と考えるとイメージしやすいでしょう。ここでは、考えて力を入れているのではなく、体が自動で始めているところがポイントです。
では、この「構え」は、体の中でどう用意されているのでしょうか。
発表の順番を待つ間に肩が上がり、手を握りしめている。多くの人に覚えのある場面だが、アメリカ心理学会は、筋肉の緊張を、ストレスに対するほぼ反射的な反応であり、けがや痛みから体を守る方法だと説明している[4]。つまり、緊張は意志で入れた力ではなく、体が自動で始める準備だという位置づけである。
同じ説明では、突然のストレスで筋肉は一斉に緊張し、ストレスが去ると緊張を緩める。一方、ストレスが続くと、筋肉が常に構えた状態になりうるとされる[4]。「安心すると力が抜ける」は、この前半の流れ、つまり構えが解ける側に当たると読める。ただし、「安心」だけを取り出して直接調べた単独の実験は、今回読んだ資料の中にはなく、本稿の説明はこうした一般的な説明の組み合わせである。
そもそも、構えは体のどこで、どう用意されるのか。
2. こわい とき、からだの なかは どうなるの?
2. 「闘うか、逃げるか」に備える体の準備
2. 交感神経と副交感神経:構える側と、休む側
こわい ものに あったとき、どうぶつは「たたかう」か「にげる」か、すぐに きめて うごく ひつようが あります。
キャノンと いう学者は、どうぶつが こわさに はんのうして、じぶんでは うごかせない「こうかんしんけい」が はたらくと せつめいしました。すると、きんにくへ いく 血の ながれが ひろがり、ちからを だしやすく なります[1]。
こうかんしんけいが はたらくと、しんぞうの うごきや いきが はやく なり、血の あつ力も あがります[3]。
ところが、あんしん した ときは ちがいます。からだを やすませる はたらきが つよく なって、しんぞうの うごきや いきを ゆっくり させます。ふたつの はたらきは、バランスを とりながら 体を 調せつして います[3]。
では、こわさが さった あとの 体は、どう かわるのでしょうか。
キャノンが論じた「闘争・逃走反応」
動物が危険に出会うと、闘うか逃げるかの選択が一瞬で必要になります。生理学者のウォルター・キャノンは、動物が恐怖に反応して交感神経系が働くことを論じました。このとき、筋肉へ向かう血管が広がって、力を出しやすくなります[1]。
交感神経は、運動の場面で骨格筋への血液供給を増やす神経です[2]。危機のときには、心拍数、呼吸数、血圧が上がり、体が興奮した状態になります[3]。
休む側の神経とのバランス
反対に、副交感神経は安静時に重要な役割を果たし、心拍数を減らして血圧を下げます[2]。休息のときには、呼吸数も下がります[3]。二つの神経は釣り合いを取りながら、体を調節しています。
では、緊張を解く側は、実際にどんな場面で働くのでしょうか。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、前者は「闘争か逃走か」の場面で働く。生理学者キャノンが闘争・逃走反応を論じたとき、動物は恐怖に反応して交感神経系が活動し、筋肉向けの血管が拡張して力を出しやすくなるとされた[1]。運動時に骨格筋への血液供給量が増えるのも、交感神経の働きである[2]。
この反応は筋肉だけで完結しない。交感神経は、危機のときに心拍数・呼吸数・血圧を上げて体を興奮させる[3]。筋肉に血液を多く送り、酸素を使って動く準備を整えるためには、心臓と呼吸も同時に加速する必要がある、という流れで理解できる。
対になる副交感神経は、安静時に重要で、心拍数を減らし血圧を下げる[2]。休息のときには呼吸数も下がる[3]。二つは釣り合いを取りながら体を調節するとされる。ただし、この二つの神経の説明は一般的な枠組みであり、筋肉の緊張そのものを個別に述べたものではない[3]。筋肉の緊張については、前章のアメリカ心理学会の説明を合わせて読む必要がある。
構えを作る側と休む側がある。では、危険が去ったとき、実際に何が起きるのか。
3. こわさが さると、ちからは どうなるの?
3. 緊張がゆるむのは、ストレスが去ったとき
3. 構えが解ける条件と、解けないまま続く場合
アメリカ しんりがくの 会の せつめいでは、ストレスが なくなると、きんにくは きんちょうを ゆるめます[4]。あんしんして ちからが ぬける のは、この「かまえ」が ほどける ことと つながって いそうです。
ただし、ストレスが つづくと、きんにくは ずっと かまえた ままに なる ことも ある、と いわれます[4]。
では、じぶんで ちからを ぬく れんしゅうは あるのでしょうか。まず、ためいきを 見て みましょう。
4. ためいきは、からだの リセットなの?
4. 自然に出たため息のあと、筋肉の緊張は下がった
4. ため息と筋電図:自然な場合と、指示された場合の違い
「ふーっ」と いきを はく ためいきは、こまった ときにも、ほっと した ときにも でる と いわれます[7]。
ベルギーの 大学の 人たちは、じっけんで、ためいきの あとの 体を しらべました。じぶんで しぜんに でた ためいきの あとは、きんにくの きんちょうを しめす すうじが さがりました。「ためいきを して ください」と たのまれて した ときは、さがり方が ちいさかった ようです[6]。
べつの じっけんでは、ストレスの ときより、ほっと する ときの ほうが ためいきが おおい けっかでした。ただ、ためいきが 気もちに どんな やくわりを もつのかは、まだ よく わかって いません[7]。
ためいきを すれば かならず ちからが ぬける、というわけでも ありません。じっけんは、しけんの ような ストレスの あとの けっかでした[6]。
実験室で測った、ため息のあとの筋電図
ため息は、困ったときにも、ほっとしたときにも出るとされます[7]。ベルギーのルーヴェン大学などの研究者たちは2010年、ため息のあとの体の変化を調べました。実験では、自然に出たため息のあとで、筋肉の緊張の指標である筋電図の値が下がりました。指示されてしたため息では、回復のときの下がり方が小さかったと報告されています[6]。
ため息の心理的な役割は、まだよく分かっていない
ベルギーの研究者たちによる別の実験(2009年)では、大きな音などのストレスの間よりも、ストレスが終わった安堵の間のほうが、ため息が多く出ました。ため息には呼吸をリセットする働きがありますが、心理的な役割はまだはっきりしていません[7]。また、筋電図の結果は心理的なストレスを与える課題の実験室での出来事で、ため息をつけば必ず力が抜ける、という意味ではありません[6]。
ため息が体の構えを解くきっかけになりうるとすれば、自分から「力を入れてから抜く」ことでも、似たことができるのでしょうか。
ため息は、ストレスのときにも安堵やリラックスのときにも出るとされる[7]。2010年、ベルギーのルーヴェン大学などの研究チーム(Vlemincxら)は、ため息の後の変化を実験で調べた。結果として、自然に出たため息のあとには筋電図の値が下がり、指示されたため息では、回復時の下がり方が小さかった[6]。自然なため息と、指示されたため息で、後の筋肉の様子が違ったのが興味深い点である。
ベルギーの研究者らによる2009年の別の実験は、ストレス下より、ストレスが終わった安堵の条件でため息が多く出たと報告した[7]。ため息には呼吸を元に戻す生理的な働きがあるが、心理的な役割は、この研究の時点でまだ明らかでないとされている。この資料だけでは、ため息が筋緊張をゆるめる仕組みまでは言えない。
読むときの注意が二つある。第一に、2010年の結果は、心理的ストレス課題を使った実験室での結果で、日常のあらゆる場面に広げられるものではない。第二に、ため息で必ず力が抜けるとは言えず、自然に出た場合と指示された場合の差が示されたにすぎない。
では、自然なため息を待つ以外に、自分から力を抜く方法はあるのか。
5. ちからを いれてから ぬくと、どうなるの?
5. 力を入れてから抜く「筋弛緩法」とは
5. 漸進的筋弛緩法:入れてから抜く練習と、効果の見方
まず ちからを いれてから ぬく と、ぬけた かんじが よく わかる、と いわれます。この 考えを つかった れんしゅうが あります。
ジェイコブソンと いう 人が つくった「ぜんしんてき きんしかんほう」です。目を とじて、きんにくに ちからを いれて ゆるめる ことを くりかえし、いちばん ちからが ぬけた ようすに 気づく れんしゅうです[5]。
アメリカの こうてきな きかんの せつめいでは、こういう 方ほうは、いきが ゆっくりに なったり、しんぞうの うごきや 血の あつ力が さがったり する「リラックス はんのう」を ひきだす ものです。ただ、せつめいでは、もくてきごとに こうかを わけて 見て いて、研究の しつに かぎりが ある ものが おおく、こうかは ひかえめです[8]。
つぎの ところで、かたを つかった かんたんな ためしかたを しょうかいします。
入れて、抜いて、違いに気づく
漸進的筋弛緩法は、エドモンド・ジェイコブソンが開発した練習法です。目を閉じ、筋肉の緊張と弛緩を繰り返して、いちばん力が抜けた状態に意識を向けます[5]。
アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、こうしたリラクセーション法を、呼吸がゆっくりになり、血圧と心拍が下がる「リラックス反応」を起こす実践と説明しています。漸進的筋弛緩法は、筋肉に力を入れてから緩める方法です[8]。
効果は「控えめ」
ただし、NCCIHは目的ごとに効果を評価していて、関連する研究の質に限りがあるものが多く、効果は控えめだと述べています。リラクセーション法全体を一つの評価でまとめているわけではありません[8]。万能の方法ではなく、「気づく練習」として試すもの、と考えるのがよさそうです。
実際に、無理のない範囲で試せる形があります。次の章で、確かめ方を書きます。
漸進的筋弛緩法は、エドモンド・ジェイコブソンが開発した。目を閉じ、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し、その状態に意識を向けて、いちばん弛緩した状態を認識する練習である[5]。力を入れた直後のほうが、抜けた感覚は対比で分かりやすい、というのが仕組みの考え方だ。
米国NIHのNCCIHは、リラクセーション法を、呼吸がゆっくりになり、血圧と心拍が下がる「リラックス反応」を引き出す実践と位置づけ、漸進的筋弛緩法は筋肉に力を入れてから緩める方法だと説明している[8]。同時に、効果は目的ごとに評価されており、関連する研究の質に限りがあるものが多く、効果は控えめだとも述べる[8]。
以上から、この練習は、ため息のように自然に任せるのではなく、自分から「力が入っている状態」と「抜けた状態」の差に気づく手段と整理できる。ただし、効果は控えめで万能とは言えない。「安心」と「力が抜ける」の関係を示す直接の証拠ではなく、関連する知見の一つとして読むのがよい。
実際に、無理のない範囲で、自分の体で確かめる形に落とせるか。
6. ためして みよう:かたを すくめて、すとん
6. 肩をすくめて落とす、小さな観察
6. 自分の肩で確かめる:入れる、抜く、比べる
いすに すわって、かたを ゆっくり 耳に ちかづけます。5つ かぞえて、すとんと おとします。
おとした あと、かたが どんな かんじか、よく 見て みましょう。いたく なったら すぐ やめます。
ほっと した とき、ためいきが でる 人は、その あと かたが どう なって いるかも、気に して みて ください。
やってみよう:肩をすくめて、すとんと落とす
いすに座って、肩を耳に近づけるように、ゆっくり持ち上げます。5つ数えてから、すとんと力を抜きましょう。痛みを感じたら、すぐやめてください。落としたあとの肩の重さや温かさを、持ち上げる前と比べてみます。
ほっとしたときに自然に出るため息のあと、肩や手の感じがどうなっているかも、気にしてみると面白いはずです。効果は控えめとされる方法なので、「効くかどうか」ではなく、「力が入っていたと気づけるか」を観察の目的にします。
確かめ方は簡単でよい。いすに座り、肩を耳に近づけるようにゆっくり持ち上げて5つ数え、すとんと落とす。痛みが出たらすぐやめる。持ち上げる前、持ち上げている間、落とした直後で、肩・首・手の感覚を比べる。
ほっとして自然にため息が出た場面でも、同じように肩の感覚を観察できる。ただし、ため息の研究は実験室の心理的ストレス課題の結果であり[6]、日常で同じことが起きるとは限らない。リラクセーション法の研究も質が高いとは言えず、効果は控えめとされる[8]。したがって、これは効果を証明するものではなく、自分の体が「構え」を持っていること、それに気づけることを確かめる観察として位置づけるのが妥当である。
原典を読むなら、2010年のため息の研究(ルーヴェン大学などの研究チーム)の要旨と、NCCIHのリラクセーション法の解説が出発点になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料の一覧です。ため息の研究と米国の公的機関の資料は英語の原文です。
- Wikipedia「闘争・逃走反応」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%97%98%E4%BA%89%E3%83%BB%E9%80%83%E8%B5%B0%E5%8F%8D%E5%BF%9C (キャノンが論じた反応の説明)
- Wikipedia「自律神経系」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB (交感神経と副交感神経の働き)
- カンゴルー「自律神経」 https://www.kango-roo.com/learning/2172/ (心拍数・呼吸数・血圧の変化)
- American Psychological Association「Stress effects on the body」 https://www.apa.org/topics/stress/body (筋肉の緊張はストレスへのほぼ反射的な反応という説明)
- Wikipedia「漸進的筋弛緩法」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%B8%E9%80%B2%E7%9A%84%E7%AD%8B%E5%BC%9B%E7%B7%A9%E6%B3%95 (ジェイコブソンと練習法の概要)
- Vlemincx ら (2010) 「Take a deep breath: the relief effect of spontaneous and instructed sighs」 https://research.vu.nl/en/publications/take-a-deep-breath-the-relief-effect-of-spontaneous-and-instructe/ (自然なため息のあとに筋電図が下がった実験)
- Vlemincx ら (2009) 「Why do you sigh? Sigh rate during induced stress and relief」 https://research.vu.nl/en/publications/why-do-you-sigh-sigh-rate-during-induced-stress-and-relief/ (ストレス時より安堵時にため息が多かった実験)
- NCCIH「Relaxation Techniques: What You Need To Know」 https://www.nccih.nih.gov/health/relaxation-techniques-what-you-need-to-know (リラックス反応と、効果が控えめという評価)
なおした ところ
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