1. ヘビの あかちゃんは、なにで からを やぶるの?
1. 殻を破る道具は、本物の歯だった
1. 殻を破る道具としての卵歯 ── 有鱗類では「本物の歯」である
たまごの なかの ヘビの あかちゃんは、そとへ でたいと おもって います。でも、たまごの からは かたくて、うでも あしも ありません。
そこで やくに たつのが、うえの あごの まえに ある、ちいさな は です[1]。この は で からを やぶったり、きったり します。
トカゲの なかまの けんきゅうでは、これが ほんものの は だと せつめい されて います[1]。ほんものの はなら、どう やって できるのでしょう。
卵の中のヘビの子は、狭い殻の中から出なければなりません。でも、手足はなく、殻は硬い。そこで役に立つのが、上あごの先にある小さな歯、卵歯です。
トカゲの仲間(ニワカナヘビ類)を調べた2024年の論文は、ヘビ・トカゲの仲間(有鱗類)の卵歯を「孵化のとき、殻を破ったり切ったりするための本物の歯」と説明しています。場所は上あごの前の骨(前上顎骨)です[1]。
「本物の歯」とは、ふつうの歯と同じように、歯の芽から作られる歯という意味です。では、ふつうの歯と同じ順序で育つのでしょうか。
有鱗類の卵歯は、孵化時に殻を破る・裂く・切るための器官で、前上顎骨に生じる本物の歯とされる。ニワカナヘビ類(Lacerta agilis)を調べたKaczmarekら(2024)の報告による[1]。
ここでいう「本物の歯」は、ほかの歯と同じく歯の発生過程から作られることを指す。そのため、問うべきは「何に使うか」だけでなく、「どういう過程で作られるか」である。
2. たまごの はは、ふつうの はより さきに そだつの?
2. 卵歯は、ふつうの歯より先に育つ
2. 卵歯は、通常の歯と同じ段階を踏み、しかも先に育つ
この けんきゅうでは、らんしの もとは、ふつうの はと おなじ じゅんばんで そだつと ほうこく されて います[1]。
そして、ふつうの まえの はより、らんしの ほうが さきに そだちます[1]。
らんしは、うまれた あと、ふつうは すうじつで ぬけます[1]。しごとを おえると、やくめを おえて います。
では、ヘビの らんしは、どう やって できるのでしょう。
3. 1ぽんの はは、2つの はの もとで できていた
3. 1本の卵歯は、2つの歯の芽が合体してできる
3. 歯胚の合体 ── 卵歯が大きくなる方法
ヘビの らんしは 1ぽんです。でも、4しゅの ヘビを しらべた けんきゅうで、この 1ぽんは、しらべた ヘビでは、2つの はの もと(はのめ)が まんなかで くっついて できると ほうこく されました[2]。
たとえば、ふたつの ちいさな しゃぼんだまが くっついて、ひとつの おおきな しゃぼんだまに なる ような ものです。ただし、はの もとは しゃぼんだまのように かんたんに くっつく わけでは ありません。
ヘビの らんしは、ほかの はより ずっと おおきく、いちばん はやく でて くる はの ひとつです[3]。おおきな はを つくる ほうほうの ひとつが、はのめを くっつける ことだと かんがえられて います[3]。
この くっつくのを、じゃまして みたら どうなるのでしょう。
ヘビの卵歯は1本です。ところが、マサリク大学などのチームが4種のヘビで調べた論文では、この1本の卵歯は、2つの歯胚が体の中央の線(正中線)で合体して、1本の大きな歯になると報告されています[2]。ただし論文は、ヘビ全体に共通とは限らないとしています。歯胚は、歯のもとになる細胞のかたまりです。
2種類のヘビが合体した、というのではありません。1匹のヘビの口の中で、左右から育った歯の芽が、真ん中で1つになるのです。たとえるなら、左右から伸びた2本の道が、真ん中の交差点で1本の太い道につながるようなものです。ただし、実際の歯胚はもっと複雑に変化するため、似ているのは「2つが1つになる」ところだけです。
ヘビの卵歯はふつうの歯よりかなり大きく、最初に出る歯の一つです[3]。研究者は、大きな歯を作る方法の一つが、複数の歯胚の合体だと考えています[3]。
では、この合体を止めると、何が起きるのでしょうか。
ヘビの卵歯は単一だが、4種のヘビを調べたFonsらの研究では、2つの歯胚が正中線で合体して1本の大きな歯になると報告された[2]。ただし論文は、ヘビ全体に共通とは限らないとし、たとえば Natrix natrix では2つの歯胚の証拠が報告されていないと述べる。
この合体は、複数の歯胚が融合して大きな歯を作る方法(原文で congrescence とされる現象)の一例と位置づけられる。ヘビの卵歯は、ほかの歯よりかなり大きく、最初に萌出する歯の一つである[3]。大きな歯を、ゼロから巨大な1つの歯胚で作るのではなく、2つを合わせる方法をとる、という解釈である。
では、この合体は本当に「2つの歯胚の合体」なのか、実験で確かめられるのか。
4. くっつくのを とめると、はは 2ほんに わかれた
4. 合体をじゃますると、歯は2本に分かれた
4. 培養実験と、祖先の卵歯が2本だった可能性
けんきゅうの ひとたちは、はの もとを しけんかんの ような ところで そだてて、くっつくのを じゃま して みました[3]。
すると、2つの はの もとは くっつかず、べつべつの ちいさな はに なりました[3]。1ぽんに なるのは、はじめから きまって いた ことでは なく、くっつく ことで きまって いたのです。
この けっかから、ヘビの そせんには、らんしが 2ほん あったかも しれないと かんがえられて います[3]。ただし、これは「かもしれない」と いう はなしです。
じっさい、ヤモリの なかまには、らんしが 2ほん ある しゅが います。マダガスカルの ヤモリの ひとつでは、うまれた とき、うえの あごの まえに 2ほんの らんしが ありました[4]。
研究チームは、歯の芽を体の外で育てる培養という方法で、合体のようすを調べました。培養の途中で合体をじゃますると、2つの歯胚は別々の小さな歯になりました[3]。
この結果は、育ちつつある卵歯が、本来は2本の歯を作れる力をもっていることを示します。そこから、ヘビの祖先には卵歯が2本あった可能性がある、と考えられています。ただし、これは「そうかもしれない」という示唆です[3]。
実際、ヤモリの仲間には2本の卵歯をもつ種がいます。マダガスカルのヤモリの一種(Paroedura picta)は、孵化したとき上あごの前に2本の卵歯があり、ふつうの歯のような2つの山ではなく、丸い2つの隆起をもっていました[4]。ヤモリの2本は、ヘビの卵歯と比べる手がかりになります。ただし、ヤモリの2本がヘビの祖先と同じ形かどうかは、この資料からは分かりません。
では、同じように殻を破る道具をもつワニやカメは、どうなのでしょうか。
Fonsらは、培養下でこの合体に介入すると、2つの歯胚が別々の小さな歯になることを示した。卵歯の発生中の組織が、2本の歯を作る潜在力をもつことを裏づける結果とされる[3]。このためヘビの祖先に卵歯が2本あった可能性が示唆されるが、これは示唆であり、断定ではない。
比較の材料になるのがヤモリである。Zahradnicekら(2012)は、Paroedura picta の孵化時に前上顎に卵歯が2本あり、通常の歯の二尖(2つの山)とは異なり、丸い2つのエナメル質の隆起をもつと記した[4]。ただし、ヤモリの2本とヘビの合体の関係を直接つなぐ記述は、手元の資料にはない。
では、有鱗類以外の爬虫類は、同じ道具をどう作っているのか。
5. ワニや カメの 「らんし」は、はでは なかった
5. ワニやカメの「卵歯」は、歯ではなく皮ふでできている
5. カルンクル ── 歯ではなく、角質化した上皮
ワニや カメの あかちゃんも、はなの さきに、からを やぶる ための ものが あります。でも、これは はでは ありません。かたく なった ひふの でっぱりです[5]。
ワニの この でっぱりは、うまれて しばらくすると なくなると いわれます[6]。
ヘビや トカゲの らんしは、ほんものの は。ワニや カメの でっぱりは、ひふ。おなじ しごとを する どうぐなのに、ざいりょうが ちがうのです[1][5]。
とりの ひなの くちばしの さきに ある でっぱりも、はでは ありません[6]。
ワニ、カメ、ムカシトカゲの仲間がもつのは、歯ではなく「カルンクル」です。上あごの先、鼻の軟骨の上にある、厚く角質化した上皮でできています[5]。
ワニ類では、これが丈夫な皮膚の一部で、孵化後しばらくすると吸収されるといわれます。百科事典には「2か月足らず」とあり、種による差もあります[6]。鳥のひなの卵歯も、歯ではなく角質の突起です。
ヘビやトカゲの卵歯は本物の歯なので、歯胚から作られます。カルンクルは皮膚が厚くなったものです。2つの論文は、ヘビ・トカゲの卵歯とカルンクルを、別々の構造として区別しています[1][5]。
同じ「殻を破る道具」でも、作りは別でした。
ワニ・カメ・ムカシトカゲ類には歯の卵歯はなく、カルンクル(caruncle)をもつ。カルンクルは、上あごの先、鼻軟骨の上に位置する、肥厚した角質化上皮である[5]。歯胚から作られる有鱗類の卵歯とは、組織の起源が異なる。
ワニ類のカルンクルは、丈夫な皮膚の一部で、孵化後に吸収されるとされる。百科事典には「2か月足らず」とあるが、種による幅がある[6]。鳥類のひなの卵歯も歯ではなく、角質の突起である。
Kaczmarekらは「カメ、ムカシトカゲ、鳥、ワニ類のカルンクルと対照的に、有鱗類の卵歯は本物の歯である」と区別している[1]。したがって、同じ殻を破る役割の構造が、歯由来のものと皮膚由来のものに分かれる、と整理できる。ただし、これを「別々に進化した」とまでは、2資料から断定できない。
この違いは、鼻先の突起を見るだけでも気づける。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
ヘビや トカゲの あかちゃんが、たまごから でて くる しゃしんや どうがで、うえの あごの まえに ちいさな でっぱりが 見えるか さがして みましょう。しゃしんに よっては、らんしが 見えない ことも あります。おうちの ひとと いっしょに 見ます。
出かけてできること
どうぶつえんや はくぶつかんで、ヘビや トカゲの てんじを 見たら、うえの あごの まえを 見て みましょう。いきものには さわらず、とおくから 見ます。
こうしきの 情報
はくぶつかんや どうぶつえんの ホームページに、ヘビや トカゲの せつめいが のって いる ことが あります。
今日できること
ヘビやトカゲの赤ちゃんが卵から出てくる写真や動画(日本語の解説つきのもの)を見て、上あごの前に小さな突起が見えるか探してみてください。写真や動画によっては、卵歯が見えないこともあります。
出かけてできること
動物園や博物館の爬虫類の展示で、孵化の解説や標本があれば、鼻先を見てみましょう。生き物には触れず、離れて見ます。
公式情報
爬虫類を飼育・展示している動物園や博物館の解説ページに、卵歯やカルンクルの説明が載っていることがあります。
今日できること
本文の「ヘビ(合体して1本)」「ヤモリ(2本)」「ワニ・カメ(皮膚由来)」を、表にして整理してみる。どの資料にどう書かれていたかも併せて書くと、確かなことと仮説の区別がつけやすい。
出かけてできること
爬虫類の展示のある博物館・動物園で、孵化の標本や写真があれば、鼻先の構造に注目する。生体には触れない。
公式情報
博物館や動物園の爬虫類の解説(日本語)に、卵歯やカルンクルの説明がないか探してみる。見つかれば、自分で作った表と照らし合わせる。出典欄の論文は英語なので、さらに深く知りたくなったときの入り口として置いてある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
ヘビ・トカゲの卵歯は論文と研究機関の公開情報に、ワニ・カメ・鳥は論文と百科事典の記述に依拠した。ワニの孵化後の期間は、百科事典の記述に基づく。
- Kaczmarek et al. 2024, Zoological Journal of the Linnean Society 201(4)(ニワカナヘビ類の卵歯) https://academic.oup.com/zoolinnean/article/201/4/zlae096/7730431 (有鱗類の卵歯は本物の歯・発生・脱落)
- Fons et al. 論文情報(マサリク大学) https://muni.cz/en/research/publications/1647696 (ヘビの卵歯は2つの歯胚の合体)
- ブフトバ研究室ページ(Fons et al.の紹介) https://ueb1.sci.muni.cz/ofiz/?p=3224 (培養実験・歯胚の合体)
- Zahradnicek, Horacek & Tucker 2012, Journal of Anatomy 221(3) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3458625 (ヤモリの2本の卵歯)
- Fenelon et al. 2021, bioRxiv(卵歯とカルンクル) https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.10.12.464116v1.full (カルンクルは角質化した上皮)
- Wikipedia「Egg tooth」 https://en.wikipedia.org/wiki/Egg_tooth (ワニ・鳥の卵歯の概要。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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