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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

雷雲らいうんから 反物質はんぶっしつが とびだす ことが あるの?

雷雲から出た陽電子の信号を、4500km先の衛星がとらえた:宇宙線と「逃走電子とうそうでんし」の関係

雷雲の逃走電子と宇宙線:地球ガンマ線フラッシュと陽電子の観測は、雷の何を示したか

分野:宇宙・天文

2009ねんの 12月、宇宙うちゅうを まわる 衛星えいせいが、ふしぎな ひかりを とらえました。雷雲らいうんの うえから、反物質はんぶっしつの なかまが とびだして きた のです。

どうして かみなりの くもから、そんな ものが でるのでしょう。この メモでは、宇宙うちゅうから ふる つぶと、くもの なかで ふえる 電子でんしの はなしが わかります。

2009年12月、エジプト上空を飛ぶNASAのフェルミ衛星が、ふしぎな信号を受け取りました。約4500km離れたザンビアの雷雲から出た、反物質の仲間である陽電子のしるしを、衛星がとらえたのです。雷雲の中で、いったい何が起きているのでしょうか。

この記事では、雷雲の中で電子がなだれのように増えるしくみと、そのタネを空から運ぶ宇宙線の役割、日本の冬の雷や金沢の市民の観測までが分かります。

2009年12月14日、エジプト上空のフェルミ衛星は、約4500km離れたザンビアの雷雲から届いた陽電子(反物質の電子)の信号を記録した。2011年にNASAが発表したこの観測は、雷雲が反物質のビームを宇宙へ撃ち出すことを示す直接的な証拠とされる。雷雲の中で、どのような過程がそれを可能にするのか。

この記事では、逃走電子のなだれ的な増加、そのタネとしての宇宙線、冬の雷や市民の観測から見えてきた最近の成果と、宇宙線が雷の引き金になるかという未決着の問いまでが分かる。

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1. 雷雲らいうんの うえから、なにが とんで きたの?

1. 4500km先の衛星が受け取った、雷雲からの陽電子

1. 雷雲から出た陽電子の信号を、4500km離れた衛星が受け取った経緯

2009ねん12月14にち、衛星えいせいは エジプトの うえを とんで いました。かみなりの くもは、4500キロメートルも はなれた ザンビアに ありました。

それでも 衛星えいせいに ひかりの しるしが とどきました。地球ちきゅうの 磁石じしゃくの ちからの すじに そって、つぶが ながれて きたからです。

その つぶは、陽電子ようでんしです。電子でんしと そっくりで、でんきの ぷらすと まいなすが ぎゃくの、反物質はんぶっしつの なかまです。

2011ねんに、アメリカの NASAは「雷雲らいうんから 反物質はんぶっしつの ビームが でて いた」と はっぴょう しました。

ただし、かみなりが ぜんぶ 反物質はんぶっしつを つくる わけでは ありません。かみなりの くもに ともなう、とても みじかい ひかりと いっしょに みつかった のです。

2009年12月14日、フェルミ衛星はエジプトの上空にいました。嵐はそこから約4500km離れたザンビアにありました。それでも衛星の検出器は、陽電子が衛星の中の電子と出会って消えるときに出る511,000電子ボルトのガンマ線を記録しました。陽電子は地球の磁力線にそって飛び、衛星までたどりついたのです。2011年、NASAなどの研究チームは、これを「雷雲が反物質の粒子のビームを作る、初めての直接的な証拠」として発表しました[2]。

ただし、「雷がいつも反物質を作る」わけではありません。この信号は、雷雲の上に生じる「地球ガンマ線フラッシュ」という短い現象にともなって見つかったものです[2]。

発表されたしくみはこうです。嵐の上のほうの強い電場が、電子をなだれのように上向きに加速します。その電子がガンマ線をたくさん出し、一部のガンマ線が電子と陽電子のペアに変わって、大気の外へ飛び出します[2]。では、なぜ雷雲の中で、電子はそんなに勢いよく増えるのでしょうか。

フェルミ衛星は、2009年12月14日にエジプト上空を飛んでいた。一方、その信号を生んだ嵐は約4500km離れたザンビアにあった。それでも衛星の検出器が信号を捉えられたのは、陽電子が地球の磁力線にそって運ばれたためである。陽電子が衛星内の電子と出会って消滅するときに511,000電子ボルトのガンマ線が出るので、この線スペクトルが陽電子の存在を示す手がかりになった。2011年にNASAなどは、雷雲が反物質の粒子ビームを作ることの初めての直接証拠として発表している[2]。

ここで言い切りを避けるべき点がある。観測されたのは地球ガンマ線フラッシュ(TGF)という短い現象にともなう信号であり、一般の雷放電のたびに反物質が出るという意味ではない[2]。

発表の説明では、嵐の上部の強い電場が電子のなだれを上向きに起こし、その電子が多量のガンマ線を放出する。そのガンマ線の一部が電子と陽電子のペアに変わり、大気の外へ出ていくとされる[2]。では、空気中を進む電子が、なぜ止まらずに増え続けるのか。

2. 電子でんしは、どうして とまらずに ふえるの?

2. 速い電子ほど止まりにくい:なだれの「タネ」は空から来る

2. 速い電子ほど空気のブレーキを受けにくい:逃走電子のなだれと、宇宙線というタネ

じてんしゃで はしると、はやく なるほど かぜの ていこうが つよく なります。ところが 電子でんしは ぎゃくで、あるところまでは、はやい ほど 空気くうきから うける ブレーキが よわく なります。

雷雲らいうんの なかには、つよい 電気でんきの ちからが はたらく ところが あります。そこでは、じゅうぶん はやい 電子でんしは ブレーキに かって、どんどん はやく なって いきます。これを「逃走電子とうそうでんし」と よびます。

はやい 電子でんしが 空気くうきに ぶつかると、あたらしい 電子でんしが はじき だされます。それが また はやく なって、ねずみ算の ように ふえて いきます。

この ふえ方の「たね」に なる はやい 電子でんしの なかまが、宇宙うちゅうから ふって くる つぶ、宇宙線うちゅうせんです。宇宙線うちゅうせんが 空気くうきに ぶつかると、たくさんの 電子でんしが うまれます。

電子は速くなるほど、空気から受けるブレーキの力が弱まります。その力は、エネルギーが約150万電子ボルト(1.5MeV)のあたりで最小になります。そして地上の気圧の空気では、電場が1メートルあたり約20万ボルト(200kV/m)を超えると、十分に速い電子は止まらずに加速され続けます。これが「逃走電子とうそうでんし」です[1]。ふつうの放電が起きる電場は約200万ボルト毎メートルなので、その約10分の1で始まる計算です。

逃走電子が空気の分子にぶつかると、新しい高速の電子がたたき出されます。それがまた加速され、なだれのように増えます。これが「逃走破壊」です[1]。

ただし、なだれにはタネが要ります。逃走に必要な最低限のエネルギーは0.1〜1MeVほどで、ここより速い電子がなければ始まりません。宇宙線が空気にぶつかると、二次的な粒子が雨のように降る「空気シャワー」ができます。10の15乗電子ボルトの宇宙線なら、約100万個の二次電子(平均約30MeV)が出て、その一部がタネになりうるとされます[1]。1つの宇宙線が、雷雲の中で大きななだれの出発点になるかもしれないのです。

荷電粒子が物質中を進むときに受ける阻止力(ブレーキの力)は、電子の場合、エネルギー約1.5MeVで最小になる。そのため、空気中の電場が約200kV/m(2kV/cm)を超えると、十分速い電子は加速のほうが勝って走り続ける。これが逃走電子である。通常の放電が起きる約2MV/mと比べると、約10分の1の電場で足りる。なお、この200kV/mは地上気圧の空気中での値で、気圧や高度によって変わる。また、1.5MeVはブレーキが最小になるエネルギーであり、逃走に必要な最小のエネルギー(0.1〜1MeV程度)とは別の量である[1]。

逃走電子が空気の分子をたたくと新たな高速電子が生まれ、それも加速される。こうしてなだれ的に増える現象が逃走破壊である。この考え方の源は、霧箱の発明者でもあるC.T.R.ウィルソンが、雷雲の電場で電子が逃走する可能性を論じた1920年代半ばの論文にある(年は資料により1924年・1925年と分かれる)。なだれ的な増加そのものは、1992年にグレヴィッチらが予言した[1]。

だが、なだれには臨界エネルギー(0.1〜1MeV)より速い「種」の電子が要る。その供給源の候補が宇宙線である。宇宙線が大気に入ると空気シャワーが発生し、10の15乗電子ボルトの一次粒子で約10の6乗個、平均約30MeVの二次電子が出る[1]。ただしこれは種になりうるという話で、宇宙線が雷の唯一の原因という意味ではない。この点は第6章で改めて扱う。

3. 宇宙うちゅうを みる きかいが、地球ちきゅうの ひかりを みつけた?

3. 宇宙を見る衛星が、偶然とらえた地球の閃光

3. 宇宙のガンマ線バーストを探す装置が、偶然捉えた地球ガンマ線フラッシュ

1994ねん、アメリカの NASAの 衛星えいせいが、おもしろい ひかりを みつけました。この 衛星えいせいは、もともと 宇宙うちゅうの とおくで おこる ガンマ線の ひかりを しらべる ための ものでした。

ところが、そのなかに 地球ちきゅうの 空気くうきから くる、つよい ひかりが まじって いたのです。いまは「地球ちきゅうガンマ線フラッシュ」と よばれます。

この ひかりは、1000ぶんの 1びょうほどの、あっと いう まの できごとです。それでも せかいで 1にちに 500かいほど おきて いると、すいていされて います。およそ 3ぷんに 1かいです。ほとんどは だれにも みられて いません。

1994年、NASAのコンプトンガンマ線観測衛星に載っていた装置BATSEが、地球の大気から来る強いガンマ線の閃光を見つけました。本来、BATSEは宇宙のガンマ線バーストを調べるための装置です。探していたのは宇宙の現象でしたが、そこに地球側の現象が混じっていたのです[3]。のちに「地球ガンマ線フラッシュ(TGF)」と呼ばれるようになりました。

TGFは0.2〜3.5ミリ秒ほどのごく短い現象で、エネルギーは最大約2000万電子ボルトに達します。世界で1日に約500回起きていると推定されています(見積もりには幅があり、約50回/日という試算もあります)。500回なら、86400秒を500で割って約170秒、つまりおよそ3分に1回の計算です。それでも、ほとんどは観測されていません[2]。

この閃光が、第1章の陽電子と結びつきます。TGFは雷雲の中の電子のなだれが出すガンマ線だと考えられています。そのガンマ線が陽電子を作り、衛星が見たのです。

1994年、NASAのコンプトンガンマ線観測衛星に搭載されたBATSEが、地球の大気に由来する強いガンマ線の閃光を検出した。BATSEの本来の目的は宇宙のガンマ線バーストの観測であり、地球側の現象は偶然の副産物だった。のちにTGFと呼ばれる[3]。

TGFは0.2〜3.5ミリ秒ほどの短い現象で、エネルギーは最大で約2000万電子ボルトに及ぶ。世界で1日に約500回起きると推定されるが、観測される数はずっと少ない。この500回は推定値であり、RHESSI衛星からは約50回/日という見積もりもある。500回/日をそのまま計算すれば、約170秒、およそ3分に1回となる[2]。

では、このTGFの正体は何か。第1章のフェルミ衛星の観測を踏まえると、雷雲中の逃走電子のなだれが出すガンマ線の一部が、電子・陽電子のペアに変わって宇宙へ出たものと説明される。つまり逃走電子の理論と、衛星観測がここでつながった。

4. にっぽんの ふゆの かみなりで、なにが わかったの?

4. 新潟の冬の雷が、地上でとらえた陽電子と中性子

4. 2017年の冬の雷で捉えた中性子と陽電子:光核反応という説明

2017ねん2月6にち、にいがた県の 柏崎かしわざき市で、ふゆの かみなりが おちました。きょうとだいがくの 榎戸えのとさんたちは、4だいの ほうしゃせんけんしゅつきで ようすを しらべて いました。

かみなりの すぐあと、陽電子ようでんしの しるしが きろくされました。ほかにも、中性子ちゅうせいしという つぶの しるしも みつかりました。

けんきゅうチームは、こう かんがえて います。かみなりで うまれた ガンマ線が、空気くうきの なかの 窒素ちっその 原子核げんしかくに ぶつかり、こわれやすい ものが できて、そのあと こわれて 陽電子ようでんしが でたと いう せつめいです。

宇宙線うちゅうせんが 空気くうきに ぶつかる ときも、にた ことが おきます。かみなりも、おなじ しごとを するかも しれないのです。

2017年2月6日、新潟県柏崎市で冬の雷が落ちました。京都大学の榎戸輝揚さんたちは、4台の放射線検出器で観測していました。雷の直後、検出器は中性子と、電子と陽電子が出会ったときのガンマ線(0.511MeV)の信号を記録しました[4]。

研究チームの解釈はこうです。雷で生まれたガンマ線が、大気中の窒素の原子核にぶつかり、「光核反応」が起きます。すると不安定な同位体ができ、それがこわれるときに陽電子が出る、という説明です[4]。

ここで面白い点があります。炭素13・炭素14・窒素15などの同位体は、これまで大気中の宇宙線との反応でだけ自然に作られると考えられていました。雷もその作り手になりうる、と研究チームは考えています[4]。なお、どの同位体が実際に雷で観測されたかまでは、断定されていません。

日本海側の冬の雷は、雷の直接のきっかけがよく分かっておらず、核反応にともなう粒子が関係する可能性があるとされます[5]。宇宙の粒子と同じ仕事を、雷もするのかもしれません。

2017年2月6日、新潟県柏崎市の冬の雷で、京都大学の榎戸輝揚らは、4台の放射線検出器を使い、雷の直後に中性子と、陽電子の対消滅による0.511MeVのガンマ線を捉えた[4]。

この解釈では、雷が生んだガンマ線が大気中の窒素の原子核にぶつかり、光核反応が起きる。その結果できた不安定な同位体が崩壊するときに陽電子が出た、と説明される[4]。これは雷が陽電子を地上近くで作る道すじの一つで、第1章のTGF由来の陽電子とは、場所も出方も異なる。

さらに重要なのは、炭素13・炭素14・窒素15などの同位体が、これまで大気中の宇宙線との相互作用でのみ自然に作られると考えられてきた点である。雷もその作り手になりうる、と研究チームは考える。ただし、どの同位体が雷で実際に観測されたかまでは、断定されていない[4]。

日本海側の冬の雷は、雷の直接のきっかけがよく分かっておらず、核反応にともなう粒子が関係している可能性があるとされる[5]。宇宙線が大気で起こす反応と、雷が起こす反応が、同じ原子核に働いているという見方は、雷と宇宙線の関係を考える手がかりになる。

5. 雷雲らいうんの ひかりは、しゃしんに うつせるの?

5. 雷雲のガンマ線を画像に:研究者と金沢の市民の観測

5. 雷雲ガンマ線の画像化と、金沢の市民サポーターによる観測

TGFの ほかに、雷雲らいうんは、なんぷんも つづく ガンマ線も だします。かみなりの ひかりと は おなじ ときに ならない のが ちがいです。くもの なかで ふえた はやい 電子でんしが だす、と かんがえられて います。

2022ねん1月14にち、わせだ大学だいがくの 片岡かたおかさんたちは、この ひかりを せかいで はじめて がぞうに しました。4ふんほど つづいた できごとでした。

かなざわ市では、2021ねん12月30にち、おうちに おいた ちいさな ほうしゃせんモニター「コガモ」が 5か所で ガンマ線を みつけました。

しらべると、ガンマ線を だす 電子でんしを はやく する つよい ところの ちかくから、かみなりが はじまって いました。

雷雲は、TGFとは別のガンマ線も出します。「雷雲ガンマ線」は数分間続き、稲妻とは同期しません。雲の中でなだれ的に増えた電子が出していると考えられています。TGFが短く、稲妻に伴って観測されることが多いのとは対照的です[6]。

2022年1月14日、早稲田大学の片岡淳さんたちは、コンプトンカメラという装置で、雷雲ガンマ線の画像化に世界で初めて成功しました。約4分間のできごとでした[6]。ただし、雲の中のどこでどのように電子が加速されるのかは、まだ十分には分かっていません。

金沢市では、2021年12月30日、市民サポーターの家などに置いた小型放射線モニタ「コガモ」の5地点が、雷雲ガンマ線を検出しました。電波やレーダーのデータと合わせて分析すると、ガンマ線を出す電子を加速する強い電場の領域の近くから、雷の放電が始まったことが分かりました[7]。

研究室だけでなく、家の庭先に置かれた装置も、雷の始まりの手がかりを集めているのです。

雷雲からは、TGFとは別に雷雲ガンマ線も出る。数分間続き、稲妻とは同期しない。雲の中でなだれ的に増えた相対論的な電子の制動放射と考えられている。TGFが短く、稲妻に伴って観測されることが多いのと対照的である[6]。

2022年1月14日、早稲田大学の片岡淳らがコンプトンカメラで雷雲ガンマ線の画像化に世界で初めて成功した(約4分間のイベント)。ただし、雲のどこでどのように電子が加速されるかは、十分には解明されていない[6]。

一方、金沢市では2021年12月30日、市民サポーター宅などに置いた小型放射線モニタ「コガモ」5地点が雷雲ガンマ線を検出した。電波・レーダーのデータを合わせた分析から、ガンマ線を出す電子を加速する強い電場領域の近くから雷放電が始まったことが示された[7]。この結果は、雷の始まりと電子の加速が空間的に近いことを示す。だが、宇宙線と雷雲の相互作用が雷の始まりに影響するかどうかは、検証の途中にある課題として残る[7]。

6. 宇宙線うちゅうせんが かみなりの はじまりなの?

6. 宇宙線は雷の引き金なのか:まだ決着していない問い

6. 宇宙線は雷の引き金になるのか:ロシアとカザフスタンの3800回の落雷の解析

ここまで読むと「宇宙線うちゅうせんが かみなりを おこすの?」と おもいますね。じつは、まだ けっちゃくして いません。

ロシアと カザフスタンの けんきゅう者は、3800かいの らくらいの 電波を しらべました。もし 宇宙線うちゅうせんだけで はじまるなら、とても エネルギーの たかい 宇宙線うちゅうせんが いりますが、そんな ものは めったに ありません。

でも、くもの なかの みずや こおりの つぶで おきる ちいさな 放電が ちからを ふやせば、もっと よわい 宇宙線うちゅうせんでも せつめいが つく、と かんがえて います。

つまり、「宇宙線うちゅうせんが かみなりの たねを はこぶ かもしれない。でも ほんとうに そうかは けんしょう ちゅう」と いうのが、いまの ところです。

ここまで読むと、「宇宙線が雷の引き金なのだろうか」と思うかもしれません。けれども、この問いはまだ決着していません。

2013年、ゲレヴィッチとカラシュティンは、ロシアとカザフスタンで起きた3800回の落雷の電波パルスを解析しました。宇宙線だけで放電を始めようとすると、約10の17乗電子ボルトという非常に高いエネルギーの宇宙線が必要になりますが、そのような宇宙線は稀すぎて、観測データを説明しきれないと述べています[8]。

一方で、雲の中の水や氷の粒で起きる微小な放電が、宇宙線がきっかけの放電を増幅すれば、約10の12乗電子ボルトの宇宙線でも説明できる、という可能性も示しました[8]。

つまり、宇宙線は雷のタネの電子を供給しうるものの、引き金だとは言い切れません。金沢の観測のように、電子の加速と放電の始まりの位置関係を、さらに集める段階にあります。

宇宙線が雷の引き金かどうかは、未決着の問いである。第2章で見たように、宇宙線は逃走破壊のタネの電子を供給しうる。しかし、それが放電開始の直接の原因かは別の問題だ。

2013年、ゲレヴィッチとカラシュティンは、ロシア・カザフスタンの3800回の落雷から得た電波パルスを解析した(Physical Review Letters 110, 185005)。宇宙線だけで説明しようとすると約10の17乗電子ボルトの宇宙線が必要になるが、そのようなものは稀すぎて、測定データを正当化できない、と述べた。一方、水や氷の粒の微小放電が宇宙線を起点とする絶縁破壊を増幅すれば、約10の12乗電子ボルトの宇宙線でも説明できるとした[8]。10の17乗と10の12乗では、必要なエネルギーが10万倍ちがう。

この論文は仮説の一つであり、結論ではない。金沢の観測が示した電場領域と放電開始点の近さ[7]のような地上観測が増えれば、仮説を検証するデータになる。宇宙線を雷の「タネの供給役」と見るか、「引き金」と見るかは、今も観測と理論が詰めている途中にある。

7. かみなりの ニュースを 読んで、くらべて みよう

7. 雷と宇宙のつながりを、自分の目と数字で追う

7. 雷の観測を手がかりに:原典と数字の読み方

きょう できる こと

かみなりが ひかってから おとが きこえるまでの びょうすうを かぞえて みましょう。3びょうなら、ほぼ 1キロメートル はなれて います。いえの なかで かぞえて みましょう。そとへ でたり、まどの そばで みたり しないで ください。

しらべる とき

きょうとだいがくや わせだだいがくの ホームページに、かみなりの ガンマ線の ニュースが あります。おうちの ひとと いっしょに みて みましょう。

今日できること

雷が光ってから音が聞こえるまでの秒数を数えてみましょう。3秒で約1km、10秒なら約3km離れています。数えるのは家の中で、窓のそばには近づかないでください。外に出てはいけません。

雷雲の下で見える稲妻は、地上の私たちの目に届く現象です。一方、雷雲では稲妻とは別に、目には見えないガンマ線が出ることもあります。陽電子が見つかったのは地上の稲妻の光ではなく、衛星がとらえた短いTGFにともなう信号でした。

資料を読むなら

京都大学の研究ニュース[7]や、早稲田大学のプレスリリース[6]は日本語で読めます。金沢の観測は、市民が参加する形の研究として紹介されています。

今日できること

雷が光ってから音が聞こえるまでの秒数を数え、音速(約340m/s)をかけると、雷までのおおよその距離が出る。10秒なら約3.4kmである。必ず建物の中から観察すること。

資料を読むなら

京都大学の研究ニュース[7]、早稲田大学のプレスリリース[6]、JSTのサイエンスポータル[5]は日本語で読める。逃走破壊や宇宙線と雷の引き金の議論をもっと知りたいときは、本文で引いた資料の題名やキーワードを手がかりに、日本語の解説を探してみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。

  1. Physics Today: Runaway breakdown and the mysteries of lightning. https://physicstoday.aip.org/features/runaway-breakdown-and-the-mysteries-of-lightning (逃走電子・宇宙線のタネ・歴史)
  2. AGU / NASA 報道発表: Spacecraft catches thunderstorms hurling antimatter into space(2011年). https://news.agu.org/press-release/spacecraft-catches-thunderstorms-hurling-antimatter-into-space/ (雷雲の陽電子・TGFの数)
  3. Wikipedia: Terrestrial gamma-ray flash. https://en.wikipedia.org/wiki/Terrestrial_gamma-ray_flash (TGFの発見)
  4. Nature Asia 注目のハイライト(雷と光核反応). https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/12273 (冬の雷の観測)
  5. JST サイエンスポータル(2017年12月1日). https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20171201_01/ (冬の雷のきっかけ)
  6. 早稲田大学 プレスリリース(2022年9月29日). https://www.waseda.jp/top/news/83827 (雷雲ガンマ線の画像化)
  7. 京都大学 研究ニュース(2023年7月10日). https://www.kyoto-u.ac.jp/research-news/2023-07-10-1 (金沢の市民観測)
  8. APS Physics: Synopsis (PRL 110, 185005). https://physics.aps.org/articles/v6/s67 (宇宙線と雷の引き金)

なおした ところ

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