1. 3キロ さきの ものは、見えるの?
1. 3km先の危険は、運転士に見えるのか
1. 約3kmという距離は、運転士の目でどう見えるのか
3キロは、歩くと 40分くらいの 長さです。しんかんせんは、きんきゅうブレーキを かけてから、それだけの 道のりを はしって、やっと とまります[1]。
線路の 先に きけんが 見えても、ブレーキを かけてから とまるまでには、長い 道のりが いります。
とまるのに 長い 道のりが いる わけは、2つ あります。ひとつは、スピードが とても 速いこと。もうひとつは、鉄の 車輪と 鉄の レールが、あまり すべらない 力を 出せないことです[5]。
では、しんかんせんの ブレーキは、自動車より よわいのでしょうか。
東海道新幹線のN700Aは、最高速度の285km/hから非常ブレーキをかけると、約3kmで停止できるとされています[1]。歩けば40分ほどかかる距離です。
新幹線のブレーキは、おおむね4000m以内で止まれるように設計されています。ただし、これは設計の目安で、すべての車両・条件で4000mちょうどという意味ではありません[5]。
これほど距離が長いと、運転士が前方を目で見て危険に気づいてからでは、間に合いません。そのため新幹線は、開業のときから踏切をつくらず、道路とはすべて立体交差にしています(山形・秋田新幹線の在来線区間を除く)[5]。
止まるまでに長い道のりが要るのは、速さが大きいことと、鉄の車輪が鉄のレールの上を転がるため摩擦が小さいことの、2つが重なるからです[4]。では、新幹線のブレーキは本当に弱いのでしょうか。自動車と比べてみます。
東海道新幹線のN700Aは、最高速度の285km/hから非常ブレーキをかけると約3kmで停止できるとされる[1]。徒歩なら40分ほどの距離であり、運転士が前方の異常を目で見つけてから対処できる距離をはるかに超える。このため新幹線は、設計上おおむね4000m以内で止まれるようにブレーキを設定したうえで、開業時から踏切を設けず、すべての道路と立体交差にしている(山形・秋田新幹線の在来線区間を除く)[5]。なお4000mは設計の目安であって、全車両・全条件での実測値ではない。
長い距離の理由は大きく2つに分けられる。1つは速さが大きいこと、もう1つは鉄の車輪が鉄のレールの上を転がるため摩擦が小さく、強い制動力をかけにくいことである[4]。では、本当にブレーキが弱いのか。自動車との比較で検算する。
2. 自動車より、ブレーキが よわいの?
2. 自動車と比べると、ブレーキの強さはどれくらい違うのか
2. 自動車と同じ式で比べると、減速の大きさはどう違うのか
自動車は 時速100キロから、50メートルくらいで とまります[3]。しんかんせんは 3キロ、つまり 3000メートルです。およそ 60ばいも ちがいます。
ただ、この ちがいは ブレーキの つよさだけでは きまりません。スピードが 大きいほど、とまるのに いる 道のりは、ぐんと ふえるからです。
スピードが 2ばいに なると、とまるまでの 道のりは、ふつう 4ばいに なります。3ばいなら 9ばいです。しんかんせんの スピードは 自動車の 2.85ばい。2.85を 2かい かけると、およそ 8ばいに なります。
ブレーキの よわさも ききます。1びょうに どれだけ おそくなるかを 見ると、自動車は 時速29キロくらい。しんかんせんは 時速4キロくらいです[4]。8ばいと、ブレーキの ちがい 8ばいを かけると、およそ 60ばいに なります。
ただし これは、おおまかな けいさんです。ほんとうの ブレーキは、とまるまで いつも 同じ つよさでは ありません。
自動車は100km/hで急ブレーキをかけると、乾いた道でおよそ43〜51mで止まります(JAFのテスト。夏用タイヤ10分山で47.5m)[3]。新幹線の約3000mは、その60倍ほどです。
この差のおもな理由は、速さの2乗です。運動エネルギーは速さの2乗に比例して増えるので[9]、同じ強さで減速するなら、止まるまでの距離も速さの2乗で増えます。285km/hは100km/hの2.85倍で、2.85の2乗は約8倍です。
残りの約8倍は、減速の大きさの違いです。平均の減速を筆者が計算すると、新幹線は約1.05m/s²(1秒に約3.8km/hずつ遅くなる)、自動車は約8.1m/s²(約29km/h)で、新幹線は自動車の約8分の1です。実際、E4系の非常ブレーキの減速度は4.04km/h/s、日本の鉄道車両の非常ブレーキは4〜4.5km/h/sほどとされます[4]。8倍と8倍で、約60倍になります。
この計算が正しいか、実例でも見ておきます。N700Aに乗った人の手持ちGPSの記録(参考値)では、約260km/hで停電してブレーキがかかり、約1分10秒後に停止、走行は約2.8kmでした[14]。1秒に約3.7km/hずつ遅くなった計算で、先ほどの値とほぼ合います。
では、新幹線の減速が自動車の約8分の1しか出せないのは、なぜでしょうか。ブレーキをもっと強くすれば、解決しないのでしょうか。
自動車は100km/hから急ブレーキをかけると、乾いた路面で43〜51m前後で止まる(JAFのテスト。夏用タイヤ10分山で47.5m)[3]。新幹線の約3000mは、その約60倍である。ただし比べるのは、空走(ブレーキが効き始めるまでに進む距離)を含まない制動距離どうしにする。
差の第一の原因は速さの2乗である。運動エネルギーは速さの2乗に比例する[9]。同じ減速度なら停止距離も速さの2乗に比例するため、285km/hは100km/hの2.85倍で、2.85の2乗は約8倍になる。
第二の原因は減速度の違いである。停止距離をd、初速をvとすると、平均の減速度はv²÷(2d)で求められる。285km/hは約79m/sなので、約3000mなら約1.05m/s²(約3.8km/h/s)となる。自動車は100km/h(約27.8m/s)で47.5mとすると約8.1m/s²(約29km/h/s)であり、新幹線の減速度は約8分の1にとどまる。E4系の非常ブレーキの減速度が4.04km/h/s、日本の鉄道車両の非常ブレーキが4〜4.5km/h/s程度とされる点とも合う[4]。8倍と8倍で約60倍になる。
ただし、これは平均値であって、実際の減速度は一定ではない。実測の一例として、手持ちのGPSによる参考値では、N700Aが約260km/hで停電してブレーキが作動し、約1分10秒後に停止、走行は約2.8kmであった[14]。平均で約3.7km/h/sとなり、計算とほぼ一致する。では、なぜ減速度を自動車並みに上げられないのか。
3. ブレーキを もっと 強く かけたら、どうなるの?
3. ブレーキを強くしすぎると、なぜ止まりにくくなるのか
3. 制動力を上げるほど、なぜ止まりにくくなる場合があるのか
しんかんせんの 車輪は 鉄で、走る 道も 鉄の レールです。かたい 鉄と 鉄は、すべりやすいので、タイヤと 道ろのようには つよく つかめません[4]。
ブレーキを つよくしすぎると、車輪が まわらなくなって、レールの 上を すべります。すべりつづけると ブレーキの 力が 下がって、とまる きょりが のびる ことが あります。
そこで しんかんせんには、すべりを 見つける 道具が あります。すべりそうに なると ブレーキを ゆるめて、またとまると、つよくします[4]。
ブレーキは、どうやって とめるのでしょう。車輪と いっしょに まわる 円ばんを、パッドで はさみます。すると ねつが 出ます。はしる 力が、ねつに かわっているのです[11]。
手を こすり合わせると あたたかく なるのと、同じ しくみです。
自動車のタイヤは路面をつかむ力が強いのに、新幹線の鉄の車輪と鉄のレールの間で働く摩擦力(粘着力)には上限があり、車輪が滑り出さない範囲でブレーキをかける必要があります。ブレーキの強さは、この上限で決まります[4]。
この上限を超えてブレーキをかけると、車輪が回らなくなってレールの上を滑ります。車輪が滑り続けると制動力が下がり、止まる距離が延びることがあります。車輪の一か所だけが削れて平らな面(フラット)ができてしまいます。そこで新幹線には、滑りを見つけると制動力をゆるめ、滑りが収まると再び強める装置があります。自動車のアンチロックブレーキと同じ考え方です[4]。
地震のときのように高速から急ブレーキをかけると、ディスクとパッドの間の摩擦熱で、摩擦面が高温になります[11]。止まるとは、運動エネルギーを熱に変えることです。短い時間に大量のエネルギーが熱になるため、ディスクやパッドが高温になりすぎない範囲に、ブレーキの強さは抑える必要があります。
地震を検知して非常ブレーキがかかるときは、レール面にセラミックの粉末を吹きつけて、滑りを防ぐ装置も使われています[8]。弱いのではなく、強くしすぎても止まれない世界で、限界ぎりぎりの力を出しているのです。
この限界を前提に、新幹線は「止まりきれない」ことを受けとめて、安全を守っています。
制動力の上限は、車輪とレールの粘着力、つまり最大摩擦力で決まる。鉄の車輪が鉄のレールの上を転がる鉄道では、自動車のタイヤと路面に比べて摩擦が小さい[4]。JR東日本の技術資料には、新幹線の濡れたレールを想定した粘着係数の基準が、速度が上がるほど小さくなる式で与えられているとされる[7]。ただしこれは設計上の基準であり、実際の摩擦そのものではない。
ブレーキ力が粘着力を超えると車輪が滑走する。滑ると制動力が下がって止まりにくくなり、車輪に平面(フラット)もできる。そのため滑走検知装置が滑りを見つけて制動力をゆるめ、収まると再び強める制御が入っている[4]。地震時の非常ブレーキでは、滑走を防ぐためにレール面へセラミック粉末を噴射する装置も使われる[8]。
熱にも限りがある。ディスクブレーキは、車輪とともに回るディスクにパッド(ライニング)を押し付けて止める。高速から急制動すると、摩擦熱で摩擦面が高温になる[11]。これは、運動エネルギーが熱に変わっているということである。
粘着の限界と熱の限界の内側で、できるだけ大きな減速度を出す。それが新幹線の非常ブレーキの設計である。限界があるなら、止まりきれないことを前提にした安全のつくり方が要る。
4. とまれないなら、どうやって 安全を まもるの?
4. 止まりきれない前提で、新幹線は安全をどうつくったのか
4. 止まりきれない前提で、踏切をなくし600mの基準と別扱いにしたのはなぜか
とまるのに 3キロ いる なら、止まらなくて いい 線路を つくれば よい。しんかんせんは そう かんがえました。
だから、しんかんせんの 線路には 踏切が ありません。道路とは、橋や トンネルで 上と 下に 分かれています[5]。人も 自動車も、線路に 入れないように しているのです。
ふつうの 電車は、ブレーキを かけてから 600メートル いないで とまるように きめられて きました[6]。運転手さんが 目で 見える きょりが もとだと いわれます。しんかんせんは、スピードが ちがうので、ベツの きまりです。
ふつうの鉄道では、非常ブレーキをかけてから600m以内で止まれることが、長く標準とされてきました。もとは、運転士が肉眼で確認できる距離だといわれます。この600mの条件が、在来線の最高速度(おおむね120〜130km/h)を決めてきたとされています[6]。
新幹線は、この条件の外にあります。最高320km/h(線区による)で、止まるまでに4000m前後かかるので、目で見て止めることをはじめから前提にしていません[5]。そこで開業時から踏切をなくしたうえで、地震のような線路の外の出来事には、別の仕組みで備えています。
止まらなくていい線路をつくり、止まるときの距離を短くする。この二本立てが、新幹線の安全の骨組みです。では、地震のようにどうしても避けられない揺れには、どう備えているのでしょうか。
在来線を含む新幹線以外の鉄道では、非常制動の制動距離を600m以下とするのが標準とされる。この600mは運転士が肉眼で確認できる距離に由来するとされ、在来線の最高速度(おおむね120〜130km/h)を事実上決めてきた。なお、この600mは制動距離であり、空走距離は含まない[6]。
新幹線は別扱いで、最高320km/h(線区による)で、4000m以内に止まれるよう設計・設定される。この長さでは、運転士の目視による危険の察知は難しい。そこで開業時から踏切を設けず、すべての道路と立体交差にすることで、線路上の障害そのものを減らす[5]。
止まれないことを前提にして、止める場面そのものを減らし、減らせないものにはブレーキ以外の備えを置く。地震に対する備えは、その代表である。
5. じしんの ときは、どうやって ブレーキを かけるの?
5. 地震の揺れが来る前に、新幹線はどう減速するのか
5. 地震時に停電で自動的にブレーキがかかる仕組みと、その限界
じしんが おきると、しんかんせんは じぶんで ブレーキを かけます。ゆれを 感じる そうちが、大きな ゆれが 来る 前に、電気を 送るのを とめるからです[8]。
電気が とまると、れっしゃは「でんきが 止まった」と 知って、ブレーキを かけます。運転手さんが ボタンを おすのを まつ ひつようは ありません[8]。
ただ、それでも すぐには とまれません。ブレーキを かけたあとも、すこしの あいだは はしりつづけます。それでも、スピードを おとして ゆれの 中に いる 時間を へらすことが、だいじなのです[10]。
地震を検知すると、変電所からの送電が止まります。列車は停電を検知して、自動的に非常ブレーキをかけます。このとき、ふだんの電気ブレーキは使わず、摩擦ブレーキだけを使います。電気ブレーキを使っている最中でも停電が分かるように、回生ブレーキの電力の周波数をわずかに下げる工夫があります[8]。
地震の揺れには、先に来る小さな揺れ(初期微動、P波)と、あとから来る大きな揺れ(主要動、S波)があります。ユレダスのような早期検知は、先に来る小さな揺れをとらえて、大きな揺れが来る前に送電を止めます。基準に達すれば2〜3秒で警報を出し、全線停止させるとされます(2006年の記事)。この2〜3秒は警報までの時間で、停止までの時間ではありません[10]。
2011年の東北地方太平洋沖地震のとき、東北新幹線のある列車(271.3km/h)では、沿岸の地震計が検知して送電が止まり、停電の約3秒後にブレーキがかかりました。揺れの始まりから停止まで、4400m走ったと報告されています(空走を含む距離です)[9]。
同じ報告は、早期検知があっても列車が完全に止まってから地震が来るわけではない、と書いています[9]。速い列車を揺れが届く前に止めるのは難しいので、できるだけ速度を落として、強い揺れの中にいる時間を減らす、という考え方です[10]。
では、その距離を、もっと縮めることはできないのでしょうか。
地震を検知すると変電所からの送電が止まり、列車は停電を検知して自動的に非常ブレーキを作動させる。電気ブレーキ(回生)は使わず摩擦ブレーキのみを使い、回生中でも停電を判別できるよう回生電力の周波数をわずかに下げる工夫がある[8]。
早期地震検知は、初期微動(P波)をとらえ、主要動(S波)が来る前に送電を止めるものである。基準に達すれば2〜3秒で警報を出し全線を停止させるとされる(2006年の記事)が、この2〜3秒は警報までの時間であって、停止までの時間ではない。高速の列車を揺れが届く前に止めるのは難しいため、速度を落とし、大きな揺れの中にいる時間を減らす考え方になる[10]。
東北地方太平洋沖地震(2011年)の東北新幹線の実例では、271.3km/hで走る列車が、沿岸の地震計の検知による送電停止の約3秒後にブレーキをかけた。揺れの始まりから停止まで4400m走っており、これは空走を含み、非常ブレーキ単独の距離ではない。同じ報告も、早期検知で列車が完全に停止してから地震が来るわけではないと述べる[9]。
この前提では、ブレーキの距離を少しでも縮める研究が、そのまま地震時の安全につながる。
6. 3キロを ちぢめる、あたらしい くふうは?
6. 約3kmを、まだ縮められるのか
6. 停止距離を縮める開発は、どこまで進んでいるのか
3キロを みじかく する くふうは、いまも つづいています。新しい ブレーキの パッドで、とまるまでの きょりが 5パーセントほど みじかく なりました[1]。3キロの 5パーセントは、150メートルくらいです。
こまきには、ブレーキを しらべる 大きな きかいが あります。水や 雪を ふきつけて、すべりやすい 日を つくり、ブレーキの 力を たしかめます[12]。
あなたの 家から まっすぐ 3キロ はなれた ところには、なにが ありますか。地図アプリで きょりを はかって、おうちの 人と しらべてみましょう。
N700Aは、新しいブレーキライニングの採用で、地震時の非常ブレーキの停止距離が、従来のN700Aより約5%短くなったと報じられています[1]。285km/hからの約3kmの5%は、150mほどです。N700Sのブレーキシステムも、285km/hからの緊急停止の距離をN700A(3次車)比で約5%短縮できるとされます。ただし、これは別の改良なので、5%と5%を足して10%にはなりません[2]。
JR東海は小牧の研究施設に「ブレーキ総合試験装置」を、2022年春から稼働させています。直径3.2mの大きな輪に車輪を押しつけ、水や雪を吹きつけて滑りやすい状況をつくり、氷点下20度の環境もつくれます。ブレーキを強くしすぎるとスリップするため、適切な力を見きわめるのが目的です[12]。
速度が上がると、距離はもっと長くなります。JR東日本の技術資料によると、E2系(275km/h)の非常ブレーキの停止距離は4000m弱で、初速を360km/hに上げると約7000mに延びるとされます。そのため、360km/hからでも4000m程度に抑えるブレーキが開発の目標になりました[7]。粘着の限界を補うため、空気抵抗を増やす装置も研究され、計算では約500m、試験では約300mの短縮とされています(計算と試験で値がちがいます)。ただし、これは研究・試験の段階の話です[13]。
止まらなくてもいい線路、揺れる前に減速する仕組み、そしてブレーキの改良。新幹線はこの三つで安全を守っています。
自分でできる確かめ方が二つあります。一つ目は、地図で調べることです。地図アプリの距離を測る機能(または縮尺のある紙の地図と定規)で、家の最寄り駅から直線で3kmと4kmの場所に印をつけて、何があるかを見てみましょう。新幹線が止まるまでに走る道のりの長さが実感できます。二つ目は、紙の上の計算です。もし速さが2倍になると、同じ強さのブレーキで止まる距離は何倍になるでしょうか。2乗を使って予想してから、計算してみましょう。
停止距離を縮める改良は続いている。N700Aでは新しいブレーキライニングで、地震時の非常ブレーキの停止距離が従来のN700Aより約5%短縮された[1]。N700Sのブレーキシステムも、285km/hからの緊急停止の制動距離をN700A(3次車)比で約5%短縮できるとされるが、これは別の改良で、足し算はできない[2]。報道では「10%程度」とする資料もあり、本稿は5%を採った。
JR東海は小牧の研究施設で、2022年春から「ブレーキ総合試験装置」を稼働させている。直径3.2mの軌条輪に車輪を押し付け、水や雪を噴射して滑りやすい状況を再現でき、氷点下20度の環境もつくれる。強すぎる制動はスリップを招くので、適切な力を見きわめることが目的である[12]。
高速化で課題はさらに大きくなる。JR東日本の技術資料では、E2系(275km/h)の非常停止距離は4000m弱だが、初速360km/hでは約7000mに延びるとされる。高速化で地震時のリスクが増すのを抑えるため、360km/hからでも4000m程度に抑えるブレーキが開発目標となった[7]。粘着の限界を補う手段として、空気抵抗を増やす装置も開発され、計算では360km/hからの非常ブレーキで停止距離を約500m短縮できると見込まれ、試験での短縮効果は約300mとされる(計算値と試験値で異なる)。ただし研究・試験段階であり、営業車の標準装備とは限らない[13]。
止めなくていい線路、揺れる前の減速、そして制動距離の改良。三つが重なって、新幹線の安全はできている。
自分で確かめるなら、まず地図アプリの距離測定機能(または縮尺のある紙の地図と定規)で、最寄り駅から直線で3km・4kmの地点に印をつけてみるとよい。新幹線が止まるまでに走る道のりの長さが実感できる。次に、速さが2倍になると同じ減速度での停止距離が何倍になるかを、v²÷(2d)の式で予想し、計算してみる。原典としては、JR東日本のTechnical Reviewの2編(出典の[7]と[13])が、数字の根拠を詳しく述べている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数字は報道・技術資料の値を使い、割合と倍率の計算は筆者によるものです。約3kmと約5%の短縮は報道による値で、JR東海の発表そのものではありません。
- 乗りものニュース「新幹線N700Aの停止距離」 https://trafficnews.jp/post/44762 (約3kmと約5%短縮)
- ニュースイッチ(日刊工業新聞)「N700Sのブレーキ」 https://newswitch.jp/p/26656 (N700Sの短縮)
- マイナビニュース(JAFテストの引用) https://news.mynavi.jp/article/20260126-4039569/ (自動車の制動距離)
- Impress Watch(井上孝司)鉄道のブレーキの連載 https://travel.watch.impress.co.jp/docs/series/inoue/1626985.html (減速度と滑走)
- 乗りものニュース「新幹線に踏切がない理由」 https://trafficnews.jp/post/80534/2 (4000m以内の設計)
- 現代ビジネス「在来線の600m規定」 https://gendai.media/articles/-/67187 (600mの基準)
- JR東日本 Technical Review https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_22/Tech-22-11-14.pdf (停止距離と開発目標)
- ニュースイッチ(日刊工業新聞)「地震時の自動停止」 https://newswitch.jp/p/27464 (停電検知と摩擦ブレーキ)
- サイエンスポータル(JST) https://scienceportal.jst.go.jp/stories/20111017_01/ (運動エネルギーと実例)
- ITスコム 安全コラム(2006年) https://www.itscom.co.jp/safety/column/048/ (早期地震検知)
- 日本製鉄技報 第423号 https://www-zam.nipponsteel.com/common/secure/tech/report/pdf/423-15.pdf (ブレーキの摩擦熱)
- 乗りものニュース「ブレーキ総合試験装置」 https://trafficnews.jp/post/119657 (試験装置)
- JR東日本 Technical Review https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_22/Tech-22-07-10.pdf (空気抵抗ブレーキの研究)
- 乗りものニュース「N700Aで測った停電停止」 https://trafficnews.jp/post/56714/3 (GPSの参考値)
なおした ところ
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