1. しわは なぜ、おなじ ばしょに できるの?
1. 一歩ごとに、同じ場所が曲がっている
1. ボール部の屈曲 ── 歩行1歩ごとに同じ範囲が曲げられる
あるくとき、くつの つまさきの ほうは、ゆかに のこって います。かかとが あがると、あしの ゆびの つけねが ぐっと まがります。
くつの この あたりを「ボールぶ」と いいます。東京の しらべを した ところでは、ボールぶは せまい はんいで するどく まげられ、それが 1ぽ ごとに くりかえされると いいます[1]。
まがる ところが いつも おなじなので、おなじ ところに しわが できます。ふみだす たびに、おなじ ばしょを おりまげて いるのです。
では、まげられた かわは、その とき どう なって いるのでしょう。
足指の付け根が、歩くたびに反る
歩くとき、足は地面に着いたあと、かかとが持ち上がっていきます。このとき、足指の付け根にある関節(中足趾節関節)は、少しずつ反る方向に曲がっていくと、歩行の研究で報告されています[4]。
靴のほうから見ると、東京都立皮革技術センターの資料は、靴のボール部が狭い範囲で鋭く曲げられ、その作用が一歩ごとに加わると述べています[1]。ボール部は、足指の付け根のあたりにあたる部分です。足の関節が曲がる場所と、靴が折れ曲がる場所が重なるので、しわは毎回ほぼ同じ位置にできると考えられます。
同じ資料は、靴底が減ることと並べて、甲に屈曲しわができることを、靴を使えばやむを得ないこととして挙げています[1]。しわは、靴が「歩いた」しるしでもあるわけです。
では、曲げられた革の中では何が起きているのでしょうか。
歩行の立脚期には、足指の付け根の中足趾節関節(MP関節)が、少しずつ背屈していく。Raychoudhuryらの測定では、MP関節の実際の回転軸は、第1〜第5中足骨頭を結ぶ線より、足長の約16%前方にあった[4]。これは関節の軸の位置についての結果で、靴のしわの位置を直接測ったものではない。
一方、都立皮革技術センター台東支所の技術情報誌は、歩行で靴のボール部が狭い範囲で鋭く曲げられ、その作用が一歩ごとに加わると述べる[1]。ボール部は足指の付け根付近に当たるため、足の関節の曲がる位置と靴が折れる位置が重なり、しわが同じ場所に集中すると読むのが自然である。この2つを直接結びつけた資料は、今回の材料には含まれない。
同資料は、靴底の摩耗と並べて、甲部の屈曲しわを「やむを得ない」ものとして扱う[1]。では、曲げられた革の内部では何が起きているのか。
2. まげられた かわは、どこへ にげるの?
2. 曲がった革の中で、しわができるしくみ
2. 革の層構造と、曲がりの内側にしわができる説明
くつの かわは、ウシなどの どうぶつの かわを つかった ものです。なかには、ほそい せんいが たて よこに くみあって います[5]。
くつを まげると、まがりの うちがわの かわは ちぢみます。でも、まえには つまさきの かたい ぶぶん、うしろには あしの こうが あって、にげる ばしょが すくない。くつの ファンが ひとりで かいた かいせつでは、そこで かわの ひょうめんが おりたたまれて、しわに なると かんがえて います[6]。
たとえば、あつい ざっしを ぐっと まげると、まんなかに ふかい おれ目が できますね。まげられた ぶぶんが にげられない ところは、にて います。ただし、かわは かみより のびちぢみ します。
では、いちど できた しわは、のばせば きえるのでしょうか。
革は、繊維が重なってできている
革は、牛皮などの動物の皮の「真皮」からできています。真皮は、表側の乳頭層と、その下の網様層に分かれ、網様層では比較的太いコラーゲン繊維が縦横に交差しています[5]。しなやかさと丈夫さは、この繊維のからみ合いに支えられています。
曲がりの内側で、表面が折りたたまれるという説明
革靴の愛好家による解説では、曲げられた革は、つま先の芯、甲の付け根、足の3つにはさまれて逃げ場がなく、きめの細かい表面の層が折りたたまれてしわになる、と説明されています[6]。これは個人の解説なので、仕組みの一つの見方として読むのがよいでしょう。
同じ解説は、一度できたしわは繊維が傷んでいるため、伸ばしても同じ場所で折れやすいとします。木製のシューツリーを入れると、しわの深まりをやわらげられるともされています[6]。
こうして、しわの位置は足の動きが決め、深さは革のつくりと使われ方が決める、という見通しが立ちます。では、メーカーはこの曲げに耐えられる靴を、どうやって確かめているのでしょうか。
革は動物の真皮でできている。真皮は乳頭層(銀面側)と網様層に分かれ、網様層は比較的太いコラーゲン繊維が縦横に交差する層である[5]。この繊維の交差が、革の引張りと曲げへの強さを支えると考えられる。ただし、銀面側と網様層で繊維の細かさがどう違うかは、今回の公的な資料からは示せない。
曲がりの内側がしわになる説明として、革靴愛好家の解説(個人運営)は、革がつま先の芯・甲の付け根・足の3か所にはさまれて逃げ場を失い、緻密な銀面層が折りたたまれる、という一つの見方を示す。この「折りたたまれる」部分は、この解説の見解である[6]。同じ解説は、一度できたしわでは繊維が壊れているため、伸ばしても同じ位置で再び折れやすく、木製シューツリーでしわの深まりをやわらげられるとする[6]。いずれも一次研究ではないので、「とされる」の水準にとどめて読む。
こうしてしわの位置は足の運動で決まり、発生の仕方は革の層と拘束条件が決める、という見取り図ができる。では、この曲げへの強さは、規格の上でどう測られるのか。
3. くつを なんまんかいも まげる きかい
3. 靴を毎分約140回、試験の上限で最大50万回曲げる試験機
3. 耐屈曲性試験 ── 毎分140±10回・回数の上限50万回・45°と20°
くつの こうじょうには、くつを つづけて まげる きかいが あります。つまさきを とめて、うしろがわを 1ぷんかんに 140かいほど まげます[2]。
まげる ところは、ひとが あるいた ときに まがる ばしょに あうように ならべます。かいすうの うえは 50まんかいです[2]。ずっと つづけると、60じかんほどです。
これは しけんの うえげんで、ひとが あるいた かず では ありません。それでも、ちょうど おなじ ばしょを おりまげる しけんが できて いる のは、しわが きまった ところに できるから でしょう。
では、かわが かたく なると、どうなるのでしょう。
歩いたときの曲がり位置に合わせる
東京都立皮革技術センターの資料によると、靴の耐屈曲性試験では、つま先側を固定し、靴の後ろ側を1分間に140±10回のペースで曲げます。そのとき、実際に歩いた場合の屈曲部が試験でも曲がるように、靴の位置を調整します。回数の上限は50万回です[2]。
上限まで休まず続けた場合、500000÷140で約3570分、およそ60時間になります。ただし50万回は試験の上限で、実際に人が歩く歩数ではありません。
靴の種類で、曲げる角度を変える
屈曲角度は靴のタイプで決まります。紐付きの紳士靴や少年靴(プラットフォーム型でないもの)は45°、婦人用のパンプス(プラットフォーム型)は20°が、SATRA PM92の参考値として紹介されています[2]。これは試験条件で、歩行中の足の実測角度ではありません。
甲の材料だけを切り出して曲げる方法(フレクソメータ法)もあります。22.5°で、1分間に100回ほど往復させ、決まった回数ごとに亀裂を点検します。ISO 17694の性能要件の例では、紳士タウンシューズの甲は革で8万回曲げても、目に見える損傷がないことが求められます[3]。
では、同じように曲げても、割れる靴と割れにくい靴があるのはなぜでしょうか。次は、割れた革の一例と、ゴム長靴を比べます。
靴全体の耐屈曲性試験では、つま先側を固定し、後部を毎分140±10回で曲げる。歩行時の屈曲部が試験でも曲がるよう靴の位置を調整し、回数の上限は50万回である[2]。上限まで続けると、500000÷140で約3570分、約60時間になる。この50万回は試験の上限であり、実際の歩数ではない。
屈曲角度は靴のタイプで決まる。紐付きの紳士・少年靴(非プラットフォーム型)は45°、婦人パンプス(プラットフォーム型)は20°が、SATRA PM92を参考にした値として示される[2]。これは試験条件であり、歩行中の足の実測角ではない。
材料単体では、フレクソメータ法で22.5°±0.5°、往復100±5回/分で試験片を曲げ、一定回数ごとに亀裂を点検する。ISO 17694の性能要件の例では、紳士タウンシューズの甲革は8万回で目に見える損傷がないことを求める[3]。8万回を毎分100回で続けると約13時間である。では、同じ曲げでも、割れが早く出る靴と出ない靴を分けるものは何か。
4. かたく なった かわと、ゴムの ながぐつ
4. 割れた革の一例と、割れにくいゴム長靴
4. 甲革の硬さと屈曲割れ ── ゴム長靴との対比
とうきょうの けんきゅうじょの しりょうに、しんしぐつの かわが はやく われた れいが あります。はりを もたせる ために かたく しあげて あり、そのうえ、はいた ひとの あせで もっと かたく なった ためと かんがえられて います[1]。
これは ひとつの れいです。ぜんぶの くつが そうでは ありません。
いっぽう、ゴムの ながぐつは やわらかく、なめらかに まがるので、ふつうは われません[1]。しわが できても、われないのです。
くつの しわは、あなたの あしと くつが いっしょに あるいた きろくです。
硬めに仕上げた革が、早く割れた一例
先ほどの技術情報誌には、紳士靴の山羊革の甲が早く割れた例があります。見た目に張りを持たせるため、硬めに加工してあり、そのうえ着用者の汗でさらに硬くなったことが、早期の屈曲割れの理由と推定されています[1]。これは一例の推定で、すべての革靴が汗で割れるという意味ではありません。
ゴム長靴は、割れない
同じ資料は、ゴム製の雨靴(ゴム長靴)では、柔軟で曲がりが滑らかなため、一般に屈曲割れは起きないとしています[1]。しわのような曲がりは起きても、割れにはなりにくいということです。
しわの谷は、足が曲がる場所と、一歩ごとのくり返しと、革という材料のかたさが重なってできます。見慣れた靴のしわも、そうやって読むと、歩いた時間の記録に見えてきます。
5. じぶんでも しらべて みたく なったら
5. 自分でも調べてみたくなったら
5. 自分でも調べてみたくなったら
きょう できる ことです。ぬいだ くつを ならべて、しわの ばしょを くらべて みましょう。つぎに、たって かかとを あげて、あしの ゆびの つけねに てを あてます。まがる ところと、しわの ばしょは ちかい でしょうか。
うちに ながぐつが あれば、おなじ ところを みて みましょう。しわは あっても、われは ないかも しれません。
もっと しりたい ときは、とうきょうとの かわの ぎじゅつセンターの ホームページを みて みましょう。
今日できることとして、家にある靴を並べて、しわの位置と深さを比べてみましょう。次に、立ってかかとを上げ、足指の付け根に手を当てて、曲がる場所としわの位置が近いか観察します。革靴、運動靴、ゴム長靴を比べると、しわと割れの違いも見えてきます。
もっと知りたいときは、東京都立皮革技術センターの技術情報誌(出典欄の[1]〜[3])を読んでみてください。靴の試験の規格がどう決められているのかが分かります。
観察としては、手持ちの革靴・運動靴・ゴム長靴で、しわの位置と深さを比べるとよい。立ってかかとを上げ、MP関節に触れて、曲がる位置としわの位置が近いかを観察することもできる。
資料としては、都立皮革技術センター台東支所の技術情報誌No.178・No.210が公開されている(出典[1]〜[3])。試験規格の参考値(SATRA PM92、ISO 17694)の引用元を追うと、靴の評価が規格でどう決まるかが読める。MP関節の動きは、Raychoudhuryらの論文(出典[4])が原典である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
ここに挙げた資料のうち、公的機関の資料と論文を土台にし、個人運営の解説は補助として使いました。
- 東京都立皮革技術センター台東支所『靴の甲部の屈曲割れと縫い目切れ』技術情報誌No.178 https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/178_4.pdf (ボール部の屈曲、早く割れた例、ゴム長靴との比較)
- 東京都立皮革技術センター台東支所『靴の耐屈曲性』技術情報誌No.178 https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/178_5.pdf (試験機の条件、回数の上限、屈曲角度)
- 東京都立皮革技術センター台東支所『靴材料の耐屈曲性試験(フレクソメータ法)』技術情報誌No.210 https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/210_3.pdf (材料の屈曲試験、ISO 17694の要件例)
- Raychoudhury et al. (2014) Frontiers in Bioengineering and Biotechnology https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4266096 (歩行中の足指の付け根の関節の動き)
- コトバンク『皮』(日本大百科全書ほか) https://kotobank.jp/word/皮 (革の層の構造)
- Shoegazing 'In depth: why you can't remove leather creases' https://shoegazing.com/2024/12/15/in-depth-why-you-cant-remove-leather-creases/ (しわが逃げ場のない革の折りたたみとされる説明。個人運営)
なおした ところ
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