1. ひに やけて もようが でる 革って、ほんとう?
1. 日焼けで模様が浮かぶ革小物は、どう作られたのか
1. 「日焼け」を設計した革小物 ── 自然変化との区別
デザインの じむしょ nendo(ネンド)の「Suntan Pattern」は、ひに あたると、さいしょは みえなかった もようが うかんで くる 革の こものです。そのうち、いろが あせて もようは きえて いきます[1]。
ひみつは しかけです。革ぜんたいに ひやけ ようの オイルを ぬり、もようの まわりには ひやけどめと 革の いろの こなを つかって います[1]。ですから、革が かってに もようを えがいた わけでは ありません。
では、しかけの ない ふつうの 革は、どうでしょう。ひに あたると いろが かわる ところは、にて いるのでしょうか。
nendoの革小物「Suntan Pattern」は、革の全体に日焼け用のオイルを塗り、模様の部分にはSPF50の日焼け止めと革色の粉を使っています。そうすると、日光を浴びて使われるうちに最初は見えなかった模様が浮かび、さらに時間がたつと色があせて消える設計です[1]。
ただし、これは革の自然な変化ではなく、デザイン上の仕込みです。革が「日焼けする」ことを逆手に取った作品だと言えます。
では、仕込みのない普通の革では、何が起こっているのでしょうか。
nendoの「Suntan Pattern」は、革の全体にタンニング用オイルを塗り、模様の部分にSPF50の日焼け止めと革色の粉を使うことで、日光と使用によって最初は見えない模様が浮かび、さらに時間がたつと退色して消えるよう設計された革小物である[1]。
これは革そのものの自然な変化ではなく、意図的に仕込まれた演出であり、この記事の主題とは区別する必要がある。ただし、光で革の色が動く、という性質を前提にした作品であることは確かだ。では、仕込みのない植物タンニンなめし革では、色の変化の源は何なのか。
2. いろの もとは、なめしざいの タンニン?
2. 色のもとは、革をなめしたタンニン
2. タンニンの性質 ── 革にタンニン自身の色が残る
どうぶつの かわは、そのままだと くさって しまいます。それを、くさらない 革に する ことを「なめす」と いいます。
タンニンは、植物に ふくまれる なめしざいです。かわの なかの たんぱくしつと つよく くっついて、くさるのを ふせぎます[2]。
この タンニンには、ちゃいろの いろが あります。だから タンニンで なめした 革は、ちゃいろ っぽく なります[3]。革の いろの もとは、なめしざいと いっしょに 革の なかに のこって いる のです。
でも、タンニンには いくつか しゅるいが あります。しゅるいが ちがうと、いろの かわりかたも ちがうのでしょうか。
革を腐らなくする植物の成分
タンニンは、植物に含まれ、動物の生の皮を革にする性質をもつ成分の総称です。皮のタンパク質、とくにコラーゲンと強く結びつくことで、微生物に分解されにくくなります[2]。
色もいっしょに残る
東京都立皮革技術センターの技術資料には、植物タンニンなめしは典型的なノンクロムなめしで、革にタンニンの色がつくと書かれています[3]。つまり、なめし剤は革を守る役目と同時に、革に色をつける役目も持っています。
二つのグループ
植物タンニンは、大きく「加水分解型」と「縮合型」の二つに分けられます。縮合型は、重なり合って水に溶けにくい褐色のフロバフェンという物質を作ります[2]。タンニンの種類によって性質が異なるので、色の変わり方にも差が出ると考えられます。実際に調べた実験が、次の章に出てきます。
タンニンは、動物の生皮を革にする性質をもつ収斂性の植物ポリフェノールの総称で、タンパク質、とくにコラーゲンと強く結合して微生物による分解を防ぐ[2]。結合の仕組みの一例として、カテキンで処理したコラーゲン繊維は収縮温度が約70℃になり、安定化には水素結合と疎水性相互作用が主要な役割を果たすとされる[8]。ただし、これはカテキンの例であり、すべてのタンニンの結合を代表するものではない。
植物タンニンなめしは典型的なノンクロムなめしだが、革にタンニンの色がつくこと、そして植物タンニンの性質が強く革に付与されることが特徴とされる[3]。つまり、革の色の起点はなめし剤そのものにある。植物タンニンは加水分解型と縮合型に大別され、縮合型は重合して不溶性・褐色のフロバフェンを生じる[2]。構造の異なる二群が、光に対しても同じように振る舞うとは限らない。この疑問に、次の実験が答えている。
3. タンニンの しゅるいで、ひやけの しかたは ちがうの?
3. タンニンの種類で、日焼けのしやすさはどう変わるのか
3. 6種類のタンニンの耐光性比較(2008年)
トルコの だいがくの けんきゅうグループが、2008ねんに じっけんを しました。この じっけんでは、2まいの うしの 革から つくった ものを、6しゅるいの タンニンで なめして、ひかりを あてて、いろの かわりかたを はかりました[4]。
けっかは、かっしょくの ふうに なる「しゅくごうがた」の タンニンは いろが すばやく かわり、もう ひとつの なかまの「かすいぶんかいがた」は、かわりかたが ずっと ちいさく なりました[4]。
にほんの ぎじゅつしりょうにも、ミモザや ケブラチョの タンニンは ひやけしやすく、タラの タンニンは ひかりに つよい、と かかれて います[5]。むかしの にほんと、とおい トルコで、おなじ ほうこうの はなしが でて いるのです。
牛革を6種類のタンニンでなめす実験
トルコのエーゲ大学などの研究グループは、2008年に、牛革を6種類の植物タンニンでなめし、人工光のキセノンランプを当てて色の変化を測りました(この実験の範囲での話です)。縮合型はケブラチョ・ミモザ・ガンビア、加水分解型はタラ・栗・バロネアです[4]。
結果は、加水分解型の色の変化が縮合型よりかなり小さいというものでした[4]。
赤と黄の方向へ動く
縮合型のガンビアとケブラチョは赤と黄の方向へ急に変わり、ミモザはゆるやか、加水分解型のタラはさらにゆるやかでした。測定値でいうと、縮合型は赤み(a)と黄み(b)がどちらも増える傾向、加水分解型は黄み(b)が増える傾向でした[4]。
日本の資料も同じ向き
東京都立皮革技術センターの技術資料にも、ミモザやケブラチョは日焼けしやすく、タラタンニンは耐光性がそれらより優れる、という内容が書かれています[5]。実験の向きと合っています。
種類による差を直接比べたのが、2008年の実験である。2枚の牛革から作った試料を、縮合型3種(ケブラチョ・ミモザ・ガンビア)と加水分解型3種(タラ・栗・バロネア)の植物タンニンでなめし、人工光(キセノン試験灯)を当てる試験で色を測ったところ、加水分解型の光による色変化は縮合型よりかなり小さかった[4]。
色の動く方向にも違いがあった。ガンビアとケブラチョは赤と黄の方向へ急激に変化し、ミモザは緩やかで、加水分解型のタラはさらに緩やかだった。CIE表色系のa(赤み)とb(黄み)で見ると、縮合型は両方が増える傾向、加水分解型はb(黄み)が増える傾向を示した[4]。
この結果は、日本の資料とも向きが一致する。東京都立皮革技術センターの技術資料は、ミモザやケブラチョは日焼けしやすく、タラタンニンはそれらより耐光性に優れるとしている[5]。ただし2008年の実験は、人工光源による短時間の試験であり、実際の使用年数にそのまま結びつけることはできない。
4. ひかりを あて つづけると、いろは ずっと かわりつづけるの?
4. 光を当て続けると、色の変化はずっと大きくなるのか
4. 光を当て続けたときの色の変化量 ── 24時間で最大になる
じっけんの おもしろい ところは、いろの かわりかたが、いちほうこうでは なかった ことです。
ひかりを あてはじめて 24じかんまでは、どの タンニンの 革も、いろが どんどん かわりました。かわりかたが いちばん おおきかったのは 24じかんの ころです。それより ながく あてつづけたら、いろの かわりかたは ちいさく なりました。くらさの かわりかたは、革に よって ちがいました[4]。
ただし、この 24じかんは、じっけんで つよい ひかりを あてた じかんです。ふつうの くらしの 1にちの ことでは ありません。
この実験では、色が一方向にだけ動いたわけではありません。光を当てて24時間までは色が変わり続け、色の変化の大きさは24時間ごろに最大になりました。さらに長く当て続けると、変化は小さくなっていきました。暗さの変わり方は、タンニンの種類によって少しずつ違いました[4]。
ここでいう24時間は、キセノンランプを当てる試験の時間であり、日常の24時間とは別のものです。使い込んだ革が同じ順序で変わるかどうかは、この実験だけでは言えません。
では、実際に使われる革では、色の変化はいつ、どれくらい目立つのでしょうか。
光照射の時間経過にも特徴があった。色の変化量は24時間の照射で最大となり、その後は小さくなった。暗さ(明度)の変化は試料によって異なり、24時間より前に最も暗くなるものや、24時間でわずかに明るいものもあった[4]。つまり、色の変化は照射時間に比例して増え続けるわけではない。
ただし、24時間はキセノン試験の照射時間であり、日常の24時間ではない。この実験だけでは、日光や室内光のもとで使われる革に同じ順序の変化がどの時間尺で起こるかは分からない。実使用の革では、どの時期にどれだけ変わるのかを、別の資料で見る必要がある。
5. はじめの 2ねんに、いちばん かわるって ほんとう?
5. 色の変化が目立つのは使い始めの2年? ── 業界団体の調査から
5. 実使用での色の変化 ── 使い始めの2年と、条件による差
イタリアの、植物タンニンで なめた 革を つくる ひとたちの くみあいが、いろの かわりかたを しらべました[6]。
それによると、いろの へんかは じかんが たつほど ちいさく なって、おもに つかいはじめの 2ねんほどに めだつ そうです[7]。
また、ちゃいろに そめた 革は いちばん かわりかたが すくなく、そめて いない しぜんの いろの 革が いちばん おおきく かわりました[6]。ひかり、ねつ、しっけ、てあての ざいりょう、つかう ひんどなど、いろいろな ことが かかわるそうです[6]。
この くみあいは、植物なめしの 革を ひろめる がわです。だから、どの 革でも 2ねんと いう わけでは ないと、おぼえて おきましょう。
イタリアの協会の調査
イタリアの植物タンニンなめし革協会(Consorzio Vera Pelle Italiana Conciata al Vegetale)は、色の変化には温度・熱・光が影響し、使う頻度、まわりの光、湿度、ワックスなどの手入れ剤も関わると述べています[6]。
変化は最初の2年ほどに多い
同じ調査では、色の変化は時間とともに小さくなり、おもに使い始めの2年ほどで目立つとされています。また、タンニン抽出物のもつ強い性質が時間とともに現れ、色が褐色系に寄っていくといいます[7]。
染めた革と、染めていない革
茶色に染めた革は最も変化が少なく、染めていない自然色の革が最も変化が大きかったと報告されています[6]。
読むときの注意
この協会は植物なめし革を広める立場の団体です。「2年」は調査での観察で、どの革でも2年とは限りません。それでも、2008年の実験のようなタンニンの種類による差と合わせて見ると、色の変わり方にはタンニンの種類や使う条件が関わると考えられます。
実際に使われる革では、どう変わるか。イタリア植物タンニンなめし革協会の調査では、色の変化には温度・熱・光が影響し、使用頻度、周囲の光、湿度、ワックスなどの手入れ剤も関わるとされる[6]。色の劣化は時間とともに小さくなり、おもに使い始めの2年ほどで目立つ。また、タンニン抽出物の強い性質が時間とともに現れ、色が褐色系に寄っていくという[7]。
さらに、茶色の革は最も変化が少なく、染めていない自然色の革が最も変化が大きかった[6]。染料が入った革ほど、タンニン本来の色の変化が目立ちにくいという見方もできるが、資料はそこまで述べていない。
注意点が2つある。第一に、これは植物なめし革の普及を図る業界団体の調査であり、「2年」は同調査の観察であって、どの革にも当てはまる数字ではない。第二に、この調査は使用頻度や手入れ剤にも触れているが、「2年」はあくまで同調査の観察である。2008年の実験が示したタンニンの種類による差と、この調査が示した使用条件による差の両方が、色の変化に関わっていると考えられる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること
おうちに 革の さいふや ベルト、くつが あれば、おうちの 人に きいて、みせて もらいましょう。ふだん ひの あたる ところと、おりまげた うらがわや、ふだん かくれて いる ところを みくらべます。
いろは おなじでしょうか。ちがうなら、どんな ちがいかたでしょう。ことばで かいて おくと、あとで また くらべられます。いきなり ひなたに ずっと おくのは、やめましょう。
もっと しりたく なったら
おみせで 革せいひんを みたら、「しょくぶつ タンニンなめし」と かいて ある ものを さがして みましょう。
今日できること
革の財布・ベルト・靴など、家にある革製品を、大人に了解をもらって見せてもらいましょう。ふだん日の当たる面と、折り返しの内側や、普段隠れている部分を見比べて、色の違いを言葉で書き留めます。
タンニンの種類や染めの有無は、見た目だけでは分かりません。ここでは「色の違いがどこに、どんなふうに出ているか」を観察するだけで十分です。強い日なたに無理に置いて試すのは避けましょう。
もっと知りたくなったら
革製品の説明に「植物タンニンなめし」と書かれていたら、どんな色の変化が起こりうるのかを、お店の人や公的な皮革技術センターの資料で調べてみるのもよいでしょう。
家でできる観察
家にある革製品(財布、ベルト、靴など)について、大人の了解を得たうえで、日常的に光が当たる面と、折り返しの内側など光が当たりにくい面を比べて、色の違いを記録する。使用年数や手入れ剤の有無、染色の有無は、見た目では分からないので、表示や購入時の説明で分かる場合だけメモすると、イタリアの調査の観察(使用頻度・手入れ剤・染めの有無)と自分の革製品を照らし合わせられる。意図的に強い日光に長時間さらすことは、革を傷めるおそれがあるため避ける。
資料を読むなら
2008年の実験は、アメリカ皮革化学者協会誌(JALCA)103巻に載ったOzgunayらの植物タンニン革の耐光性の論文(英語)で読める。日本語では、東京都立皮革技術センターの技術資料(150号・152号)が参考になる。イタリアの調査はPelle Al Vegetale Magazineの記事(英語)で公開されている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号は、下のリストの番号に対応します。実験は人工光源での結果、イタリアの調査は業界団体による観察であり、実使用の年数にそのまま当てはまるとは限りません。
- nendo「Suntan Pattern」 https://www.nendo.jp/?p=11887 (日焼けで模様が浮かぶ革小物の仕組み)
- 日本大百科全書(ニッポニカ)「タンニン」(コトバンク) https://kotobank.jp/word/タンニン (タンニンの性質・二つの型)
- 東京都立皮革技術センター 技術資料152号「ノンクロムなめし」 https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/152_3.pdf (革にタンニンの色がつくこと)
- Ozgunayほか「植物タンニン革の耐光性」 JALCA vol.103(2008) https://journals.uc.edu/index.php/JALCA/article/download/3086/2358/3578 (6種類のタンニンの光による色変化)
- 東京都立皮革技術センター 技術資料150号 第4回 https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public_2/150_4.pdf (ミモザ・ケブラチョ・タラの日焼けのしやすさ)
- Pelle Al Vegetale Magazine "How do colors of vegetable-tanned leather change?" https://magazine.pellealvegetale.it/en/?p=5130 (色の変化に関わる条件・染めた革との差。業界団体の調査)
- Pelle Al Vegetale Magazine(同誌の別記事) https://magazine.pellealvegetale.it/en/colors-veg-tan-leather/ (色の変化が使い始めの2年ほどで目立つという調査)
- Madhanほか "Stabilization of collagen using plant polyphenol: role of catechin"(2005) https://repository.ias.ac.in/107857 (カテキンとコラーゲンの結合の一例)
なおした ところ
更新履歴
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