1. はっぱの あなは、なんの ために あいて いるの?
1. 葉の裏の小さな穴は、何のために開いているのか
1. 気孔は二酸化炭素の入口であり、水蒸気の出口でもある
はっぱの うらがわには、気孔と いう ちいさな あなが たくさん あると いわれます[3]。
この あなから、光合成に つかう 二酸化炭素が はっぱの 中に はいります[3]。いっぽうで、おなじ あなから 水蒸気も そとに でて いきます[4]。
つまり、光合成の ざいりょうを もらう かわりに、みずを すこし てばなす ことに なります。
だから 気孔が とじると、みずは まもれますが、二酸化炭素が はいりにくく なって、光合成は おちて いきます。では、気孔は いつ、どうやって とじるのでしょう。
気孔は、葉の裏側に多く見られる小さな穴で、ガスの出入りと蒸散を受け持っています[3]。光合成の材料になる二酸化炭素は、この穴を通って葉の中に入ります。
ところが、同じ穴から水蒸気も出ていきます。コーネル大学の授業資料は、植物は二酸化炭素を入れるために小さな穴を開け、同じ出入口から水を失うというコストを払っている、と説明しています[4]。入口と出口が共通なので、片方だけを都合よく選ぶことはできません。
この引き換えから、題名の問いの答えの大すじが見えます。気孔を閉じれば水の損失は抑えられますが、二酸化炭素が葉に入りにくくなり、光合成の材料が足りなくなります。では、植物はこの引き換えをいつ、どうやって決めているのでしょうか。
気孔は表皮に属する構造で、葉の下面(裏側)に多く分布し、ガス交換と蒸散を担う[3]。葉に入った二酸化炭素は光合成で炭水化物の合成に使われる。
では、なぜ気孔を単に開けっぱなしにできないのか。コーネル大学の授業資料は、植物が二酸化炭素を取り込むために気孔を開く際、同じ通路を通して水を失うという代償が生じる、と述べる[4]。入口と出口が共通であるため、二酸化炭素だけを選んで通すことはできず、気孔の開き具合は、原料の獲得と水の損失のあいだの取引として決まる。
この構造から、題名の問いに対する基本的な答えが出る。気孔が閉じれば水の損失は減るが、二酸化炭素の供給も減り、光合成の原料が不足する。ただし、供給が減ったあとの光合成が実際にどう変わるのかは、乾燥の強さによって話が変わる。その前に、閉じる引き金と動きを見る。
2. 気孔は、いつ どうやって とじるの?
2. 気孔は、いつ、どうやって閉じるのか
2. 夜と乾燥が引き金になる:孔辺細胞の水分とアブシジン酸
気孔の まわりには、孔辺細胞と いう ふたつの ちいさな くちびるのような 細胞が あります。この 細胞が しぼむと 気孔は とじ、ふくらむと ひらきます[1]。みずを うしなって しぼむ と、あなが とじて、みずが にげるのも ふせげます[2]。
ふだんは、よるに とじるものが おおいと いわれます。くらい ときは 光合成が できないので、二酸化炭素は いりません。みずを むだに うしなう ことも ないからです[2]。
ひるでも、からからに かわくと、植物は アブシジン酸と いう ホルモンの はたらきで 気孔を とじ、みずを まもります[5]。
気孔を開け閉めしているのは、気孔を囲む二つの孔辺細胞です。東京大学の発表では、孔辺細胞が収縮すると気孔が閉じるとされています[1]。フロリダ大学の資料は、孔辺細胞が水を失ってしぼむと、気孔が閉じて空気の交換と水の損失を防ぐ、と説明しています[2]。細胞の中の水の量が、窓の開け閉めに直結しているわけです。
引き金は二つあります。一つは夜です。多くの気孔は夜に閉じます。暗くて二酸化炭素を使う必要がなく、水を無駄に失わずにすむからです[2]。
もう一つは乾燥です。名古屋大学の植物生理学グループは、乾燥にさらされると植物ホルモンのアブシジン酸に応えて気孔を閉じ、水の損失を防ぐ、と研究内容に書いています[5]。体の中の「かわきの知らせ」が、気孔を閉じる合図になっています。
水を守るための決断ですが、そのとき光合成は具体的にどれくらい落ちるのでしょうか。
気孔の開閉は、一対の孔辺細胞の膨圧で決まる。東京大学の発表によれば、孔辺細胞が収縮すると気孔は閉じる[1]。フロリダ大学の資料は、孔辺細胞が水を失ってしぼむ(flaccid)状態では気孔が閉じ、空気交換と水の損失が防がれる、とする[2]。つまり細胞内の水の量が、そのまま気孔の開度の調節器になっている。
では、何がこの調節を動かすのか。一つは夜である。多くの気孔は夜に閉じるが、それは暗所では二酸化炭素を固定する必要がなく、水を無駄に失わないためだと説明される[2]。
もう一つは乾燥ストレスである。名古屋大学の植物生理学グループは、植物が乾燥にさらされると、植物ホルモンのアブシジン酸に応答して気孔を閉じ、体からの水の損失を防ぐと記す[5]。このようにシグナル物質を介するため、気孔は根や葉の水不足を受けて、光の有無とは別に閉じることができる。ただし、ここで引いた資料は閉じる速さや、閉じるときの孔辺細胞の内部の変化までは述べていない。
閉じる仕組みが分かったところで、問いはその先に進む。閉じたとき、光合成は具体的にどう変わるのか。
3. 気孔が とじたら、光合成は すぐ とまるの?
3. 気孔が閉じたら、光合成はそのまま止まってしまうのか
3. 乾燥が軽いときは気孔、強いときは代謝:光合成を制限するものの入れかわり
とじたら 二酸化炭素が はいりにくく なるので、光合成は おちて いきます。ここまでは、いままでの はなしの とおりです。
ところで、からからの ひが つづくと、光合成が おちる わけが かわって くると いう ろんぶんが あります。
かるい 乾燥から、ちゅうくらいの 乾燥までは、気孔が とじる ことが、光合成を おさえる いちばんの わけだと されます[7]。気孔が とじるのは、乾燥への いちばん はやい はんのうだ とも いわれます。
でも、とても つよい 乾燥に なると、気孔よりも、はっぱの 中で 光合成を する はたらきそのものが よわる ことが、おもな わけに なると されます[7]。
気孔が閉じれば、二酸化炭素の入口が狭まるので、光合成は落ちます。これが基本です。ただ、乾燥が続くと、落ちる理由そのものが入れかわるという整理があります。
フレクサスとメドラノが2002年に発表した総説(Annals of Botany)は、C3植物を対象に、気孔が原因の制限と、気孔以外が原因の制限を比べ直しています[7]。それによると、乾燥が軽いから中程度のうちは、気孔の閉鎖が光合成を制限する最大の要因です。気孔の閉鎖は、乾燥に対する最も早い反応だともされています。これはC3植物について、気孔の開き具合の指標を使って整理した話で、葉の中の代謝への影響も、軽い乾燥から並行して始まるとされています。
ところが、乾燥が強くなると、光合成を制限する最大の要因は、気孔ではなく、葉の中で光合成に関わる代謝の働きの低下になります[7]。気孔は早く閉じる合図の役ですが、深い乾燥では、気孔を開け直しても光合成が戻りにくい状態に入っている、という見方につながります。
では、気孔を昼に閉じたままでも、光合成を続けるやり方はあるのでしょうか。
気孔が閉じると二酸化炭素の供給が減るのだから、光合成は気孔に制限される。しかし、乾燥が進むと、光合成を抑える主な要因が入れかわる。フレクサスとメドラノの総説(Annals of Botany, 2002)は、C3植物の乾燥による光合成の低下で、気孔性の制限と非気孔性の制限を比べ直した[7]。
軽度から中程度の乾燥では、気孔の閉鎖が光合成を制限する最大の要因で、これは乾燥への最も早い反応でもあるとされる。この整理はC3植物の総説で、気孔コンダクタンスを乾燥の指標にした解析にもとづく。代謝への影響も軽い乾燥から並行して始まる点には注意が要る。これに対して強い乾燥では、光合成に関わる代謝の働きの低下が、最大の制限要因になる[7]。そのため、深刻な乾燥のもとでは、気孔を開き直させるだけでは光合成は回復しないと考えるのが自然である。
なお、どこからを「強い」乾燥と呼ぶか、その境目を数値で示す説明は、ここで読んだ範囲には見当たらない。また、気孔が閉じた直後に、葉に残った二酸化炭素だけで光合成がどれほど続くのかも、資料から数字では言えない。
こうなると、気孔を閉じることは、光合成を犠牲にしても水を守る選択に見える。ところが、昼に気孔を閉じたまま、光合成の材料をまかなう植物がいる。
4. サボテンは、ひるに あなを とじたまま どうやって そだつの?
4. サボテンは、昼に気孔を閉じたまま、どうやって光合成をするのか
4. CAM植物は、二酸化炭素を取り込む時間と使う時間を分ける
サボテンや ベンケイソウの なかまには、ひるに 気孔を とじて、よるに あける ものが います。この なかまを、CAM植物と よびます[6]。
よるは すずしくて、みずが にげにくい ので、そのあいだに 二酸化炭素を とりこみます。とりこんだ ぶんは、リンゴ酸と いう ものに かえて、細胞の 中の ふくろに ためて おきます[8]。
ひるに なると、ためて おいた リンゴ酸から 二酸化炭素が でて、はっぱの 中に たくさん たまります[8]。あなを とじて いても、光合成の ざいりょうは そろって いる のです。
とりこむ じかんと つかう じかんを わけるので、みずを じょうずに つかえ、すこしの あいだの 乾燥にも つよいと されます[8]。
気孔を閉じて水を守るなら、昼は光合成をあきらめるしかないのでしょうか。サボテンやベンケイソウのような典型的なCAM植物は、そうしません。日本植物生理学会のQ&Aによると、昼は気孔を閉じて蒸散を防ぎ、気温が下がる夜に気孔を開いて二酸化炭素を取り入れます[6]。
夜に入れた二酸化炭素は、リンゴ酸という形で、細胞の中の液胞にためられます[8]。昼になると、そのリンゴ酸から二酸化炭素が放たれ、葉の中の濃度が高くなります[8]。つまり、気孔は閉じたままで、原料の貯金を使いながら光合成を進めるわけです。
ウィンターとスミスの2021年の解説(New Phytologist)は、このように取り込む時間と使う時間を分けるので、CAM植物は水の利用効率が高く、一時的な乾燥にも強いとまとめています[8]。
ここでの驚きは、気孔が閉じていても光合成が続くという点です。光合成が止まる時間を、取り込む時間と切り離しているのです。
気孔を閉じることが光合成の材料の供給を断つのなら、昼の乾燥は避けようがない。ところが、CAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)植物は、この矛盾を時間の使い分けで回避する。日本植物生理学会のQ&Aは、サボテンやベンケイソウなどの典型的なCAM植物が、昼は気孔を閉じて蒸散を防ぎ、気温が下がり露点が低い夜に気孔を開いて、二酸化炭素を取り込む、と説明する[6]。
では、夜に取り込んだ二酸化炭素はどう保管されるのか。ウィンターとスミスの総説(New Phytologist, 2021)によれば、夜の二酸化炭素固定の結果として、リンゴ酸が液胞に蓄積する[8]。昼になると、液胞に蓄えられていたリンゴ酸から二酸化炭素が遊離し、気孔が閉じた葉の内部で高い濃度に達する[8]。その高い濃度が、昼の光合成の原料になる。
この仕組みは、二酸化炭素を取り込む時間と光合成で使う時間を分けることに当たり、同じ総説は、結果として水の利用効率が高く、一時的な乾燥への回復力(resilience)が大きいと位置づける[8]。
ここで引いた資料は、CAM植物以外に、気孔を閉じたまま光合成を続けられる植物があるかどうかには踏みこんでいない。次の章では、この記事の問いが日常にどうつながるかを考える。
5. 気孔の はなしを きいたら、なにが ためして みたくなる?
5. 気孔の話から、次に調べたくなること
5. 残った問いと、原典の読み方
おうちの 植物や、がっこうの そだてて いる はっぱを みて、かんがえて みましょう。
ひるは 気孔を あけて 二酸化炭素を とりこむ 植物が おおいと いわれます。よるは、とじて いる ものが おおいそうです。ただ、はっぱを みただけでは、あなが あいて いるか わかりません。
サボテンは、その はんたいで、よるに あなを あけます。おうちの 人と、サボテンの そだてかたの 本や ずかんで、水やりの ことを しらべて みても いいですね。
ひるに とじたまま そだつ サボテンは、よるに あなを あけて いるのでしょうか。サボテンと ほかの 植物の ちがいを ずかんで しらべて、ノートに ひとつ かいて みましょう。
この記事で分かったのは、気孔を閉じると、水は守れるが、光合成の材料が入りにくくなる、という引き換えです。乾燥が軽いうちは気孔が最大の制限、強くなると葉の中の代謝が最大の制限になること、サボテンが夜に取り込んで昼に使うことも見てきました。
そこから、まだ分からない問いが三つ残ります。気孔が閉じた直後、葉の中に残った二酸化炭素だけで、光合成はどのくらい続くのか。閉じた気孔の中で二酸化炭素を再利用する働きは、どの程度光合成を支えるのか。CAM植物以外に、気孔を閉じたまま光合成を保つ植物はあるのか。いずれも、今回読んだ資料では数字や結論まで示されていません。
家でできるのは観察です。サボテンやベンケイソウを育てている人や図鑑で、水やりの時刻や頻度がどう説明されているかを調べ、夜に気孔を開く性質と結びつけて考えてみます。名古屋大学の植物生理学グループの研究内容や、日本植物生理学会のQ&Aは日本語で読めます。論文の総説は英語なので、題名と要旨から読み始められます。
この記事の骨格は、気孔の開閉が、二酸化炭素の獲得と水の損失の取引であることだ。乾燥が軽いから中程度では気孔の閉鎖が、強い乾燥では代謝の低下が、光合成を制限する最大の要因になる[7]。CAM植物は、夜に取り込み昼に使うことで、この取引のコストを小さくしている[8]。
残る問いは三つある。第一に、気孔が閉じた直後、葉に残る二酸化炭素だけで、光合成がどれだけ続くか。第二に、気孔が閉じた葉の内部で、二酸化炭素を再利用する仕組み(光呼吸など)が、どの程度光合成を維持するか。この点は、今回読んだ資料では、光呼吸などがどの程度光合成を維持するかを定量できなかった。第三に、CAM植物以外に、気孔を閉じたまま光合成を維持できる植物があるのか。
家庭で調べられるのは、観察と文献調査である。サボテンやベンケイソウの育て方の資料が、水やりを夜や朝に勧めるのかなどを確かめ、夜に気孔を開く性質と照らし合わせることができる。ただし、これは気孔の動きを直接確かめるものではなく、飼育の説明が理論と合うかを見る推測にとどまる。
原典としては、東京大学の発表[1]、名古屋大学の研究内容[5]、日本植物生理学会のQ&A[6]が日本語で読める。フレクサスとメドラノの総説[7]、ウィンターとスミスの総説[8]は英語の論文で、本文は無料で公開されている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
2026年10月18日に確認した資料です。
- 東京大学. 植物の"くちびる"の動きを見る ~気孔開閉時における細胞内の構造分布変化を世界で初めて網羅的に解明~. https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/science/7428.html (孔辺細胞と気孔の開閉)
- University of Florida IFAS. Cell Types, Stomate. https://propg.ifas.ufl.edu/01-biology/02-cell-types/10-celltypes-stomate.html (しぼむと閉じる、夜に閉じる理由)
- UC Davis. Virtual Grape Leaves Stomata. https://labs.plb.ucdavis.edu/rost/virtual%20grape%20dreamweaver/Leaves%20Stomata.htm (気孔の場所と二酸化炭素の入口)
- Cornell University. Photosynthesis (BioEE 1610). https://xiangtaoxu.eeb.cornell.edu/teaching/bioee1610/photosynthesis.html (同じ通路での水の損失)
- 名古屋大学 植物生理学グループ. 研究内容. https://plantphys.bio.nagoya-u.ac.jp/research/ (乾燥とアブシジン酸)
- 日本植物生理学会. CAM 植物の気孔開閉. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4584 (CAM植物の昼夜の気孔)
- Flexas J, Medrano H. Drought-inhibition of Photosynthesis in C3 Plants: Stomatal and Non-stomatal Limitations Revisited. Annals of Botany, 2002. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4233792 (乾燥の強さと制限要因)
- Winter K, Smith JAC. CAM photosynthesis: the acid test. New Phytologist, 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9298356 (リンゴ酸と昼の二酸化炭素)
なおした ところ
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