1. ゆびは、ものの おんどを かんじて いるの?
1. 指は、物の温度を感じているのか
1. 皮膚は、物の温度そのものを感じ取っているのか
じつは、ゆびは「ものの おんど」を そのまま はかっては いません。ゆびが かんじるのは、さわった ところの おんどが、どれくらい さがるかです[1]。
へやの なかの ものは、ふつう、ひふより ひくい おんどです。さわると、ゆびから ものへ ねつが にげて いきます。ねつが はやく にげる ものほど、ゆびの さわった ところは、ぐっと つめたく なります。
ひふには、つめたさを かんじる ところと、あたたかさを かんじる ところが あります。つめたさを かんじる ほうが かずが おおく、きゅうな へんかに よく はんのうする と いわれます[1]。だから、さわった ばかりの「ひやっ」は、とくに わかりやすいのです。
では、ねつは、なぜ アルミでは はやく にげて、きでは ゆっくりなのでしょう。
指は、さわった面からどれくらい熱が移るかを感じています。さわった面の温度がどれくらい下がるか、つまり熱がどれくらい奪われるかが、「冷たさ」の正体です[1]。
部屋に置かれた物は、ふつう皮膚より低い温度です。皮膚の安静時の温度は周囲の物より高いのがふつうなので、さわると指から物へ熱が移ります[1]。熱がたくさん、速く奪われるほど、指のさわった場所は大きく冷えます。
皮膚には、温かさを感じる受容器と、冷たさを感じる受容器があり、別々の経路で脳へ伝わります。冷たさの受容器のほうが数が多く、急な変化によく反応するとされています[1]。さわった瞬間の「ひやっ」が目立つのは、このためと考えられます。
また、皮膚の温度が約30〜36℃の範囲は、冷たくも温かくも感じにくい「無関帯」といわれます(資料による目安です)。この範囲から外れる変化が、感覚として届きます。
では、同じ部屋の金属と木で、指から奪われる熱がちがうのはなぜでしょう。
結論を先に述べる。皮膚が感じているのは、物の温度そのものではなく、触れた面の温度がどれだけ下がるか、すなわち熱がどれだけ奪われるかである[1]。
室温に置かれた物は、通常、皮膚温より低い。安静時の皮膚温は周囲の物より高いのがふつうなので、触れると皮膚から物へ熱が流れる[1]。奪われる熱が大きいほど、触れた面は大きく冷える。
感覚の側には、温受容器と冷受容器があり、別々の経路で伝わる。冷受容器のほうが数が多く、急な変化により敏感に反応するとされる[1]。接触直後の冷たさが目立つのは、この性質と整合する。また、皮膚温が約30〜36℃の範囲は「無関帯」と呼ばれ、冷たくも温かくも感じにくい。これは資料によって幅のある目安であり、個人や部位でも変わる。
では、同じ室温の金属と木とで、皮膚から奪われる熱が変わるのは、物のどんな性質によるのか。
2. さわった ところの おんどは、きんぞくと きで どれくらい ちがうの?
2. 触れた面の温度は、金属と木でどれくらい違うのか
2. 触れた面の温度は、アルミとマツでどれほど違うと計算されるか
ふたつの ものが ふれると、さわった めんの おんどは、ふたつの あいだの どこかに おちつきます。ちょうど まんなかとは かぎりません。ねつを やりとりしやすい ほうに ひっぱられます。
たとえば、ゆびの おんどを 33℃、ものを 20℃と して、けいさんして みます。これは、りくつの うえの かんたんな けいさんです。ほんとうの ゆびの おんどでは ありません。
アルミの いたに さわると、さわった めんは 20.5℃ぐらい。ほとんど ものの おんどの まま、つまり ゆびが ぐんぐん ひやされる ことに なります[2]。
マツの きでは、28℃から 30℃ぐらい。ゆびの おんどと、あまり かわりません。だから、ひやっと しにくいのです。ちがいは 8℃ほどに なります[2]。
どうして、ここまで ちがうのでしょう。ねつの つたわりやすさだけで きまるのでしょうか。
2つの物が触れ合うと、触れた面の温度は、両者の中間あたりで落ち着きます。ただし、ちょうど真ん中ではありません。熱の受け渡しをしやすい側に引っぱられます。物理では、これを接触温度と呼び、それぞれの「熱浸透率」で重みづけした平均になります[2][1]。
試しに計算してみます。皮膚を33℃(熱浸透率1.0)、物を20℃として、熱浸透率はアルミ約23.7、マツ約0.36〜0.66とします[2]。アルミに触れた面は約20.5℃、マツでは約28〜30℃になります。差は8℃ほどです。
この計算は、どちらも無限に厚く、ぴったり接触するという理想化をおいたものです。実際の指は、血流もあり、接触も完全ではありません。数字は「こうなる傾向」を示すもので、実際の指先の温度ではありません。
アルミに触れた面は、物の温度に近いままで、指は冷やされ続けます。木に触れた面は、指の温度に近いままなので、指はあまり冷えません。これが、同じ温度なのに触感がちがう仕組みの核です。
では、「熱の伝わりやすさ」の差が1000倍なのに、熱浸透率の差が数十倍なのはなぜでしょう。
接触温度の考え方を使うと、この差を数字で見積もれる。半無限体どうしが完全に接触するという理想化のもとでは、触れた面の温度は、両者の温度を熱浸透率eで重みづけした平均になる。T = (e₁T₁ + e₂T₂)/(e₁ + e₂) である[2]。熱を受け渡しやすい側の温度に、触れた面は引き寄せられる。
皮膚を33℃・e = 1.0、物を20℃とし、アルミe = 23.7、マツe = 0.36〜0.66(kJ/(m²·K·√s))で計算した。アルミ側は、(23.7×20 + 1.0×33) ÷ 24.7 ≒ 20.5℃。マツ側は、e = 0.36のとき約29.6℃、e = 0.66のとき約27.8℃で、ざっと28〜30℃になる。鉄(e = 15.9)は約20.8℃、銅(e = 36.9)は約20.3℃で、アルミと大差ない[2]。
ただし、これは理想化した式の値で、実際の指先の温度ではない。実際には血流があり、接触も不完全で、皮膚は一様な物体でもない。それでも、接触係数が大きい物ほど接触温度が低くなるという傾向は、ほかの資料でも示されている[1]。
ここで疑問が残る。熱伝導率の差は1000倍以上なのに、式に入る熱浸透率の差は、36〜66倍で収まるのはなぜか。
3. ねつの つたわりやすさだけでは、どうして たりないの?
3. 「熱の伝わりやすさ」だけでは、なぜ説明が足りないのか
3. 熱伝導率だけでは、なぜ触感の差を説明しきれないのか
ねつの つたわりやすさは、アルミで 237、きは 0.12 から 0.17 くらいです[3]。きは アルミの 1000ぶんの 1 いかです。くうきでも 0.026 ほどです。
でも、さわった めんの おんどを きめるのは、「ねつの つたわりやすさ」と「ねつを ためられる りょう」の、りょうほうです。この ふたつを まとめた かずを、ねつしんとうりつと いいます[2]。
アルミと マツで くらべると、ねつしんとうりつの ちがいは 36ばい から 66ばいです。1000ばい いじょうの ちがいは、「ためられる りょう」も いっしょに はかる と、ちいさく なります。
それでも、36ばいは おおきな ちがいです。ゆびの ほうが ひくい かずの ほうなので、さわった めんは、おもに ものの かずに ひっぱられます[1]。
では、ものが ゆびより あつかったら、どうなるのでしょう。
熱伝導率は、アルミ約237、木材約0.12〜0.17(単位はW/(m·K)。木は樹種や乾き具合で変わる目安)です[3]。アルミは木の1000倍以上、1400〜2000倍ほどになります。
ところが、さわった面の温度を決めるのは、熱の伝わりやすさだけではありません。物が熱をためこめる量も関係します。この両方を合わせたのが熱浸透率で、「熱伝導率×密度×比熱」の平方根で表されます[2]。
アルミの熱浸透率約23.7に対し、マツは約0.36〜0.66です。差は約36〜66倍。熱伝導率の差よりずっと小さくなります。別の資料の表でも、アルミ24、ガラス1.50、アクリル0.59、発泡材0.22、皮膚1.17(同じ考え方の接触係数)と、おおむね同じ並びです[1]。
「金属は熱伝導率が高いから冷たい」という説明は、まちがいではありません。ただ、触れた面の温度は熱伝導率だけでは決まらず、熱浸透率で見るほうが近いのです。
この考え方は、熱い物にも当てはめられます。何が起こるのでしょうか。
熱伝導率λ(W/(m·K))は、アルミ約237(CRCハンドブックの値としてMITの資料に記載)、木材は樹種で約0.12〜0.17(マツ・オークなど。乾燥度や繊維の方向で変わる目安)である[3]。アルミは木の1400〜2000倍ほどになる。空気は25℃で約0.026と、さらに小さい。
ところが、接触温度を決めるのは熱伝導率λだけではない。熱浸透率e = √(λρc)には、密度ρと比熱c、すなわち単位体積あたり熱をためる量も入る[2]。λが1000倍違っても、木とアルミの密度と比熱の組み合わせの違いが一部を相殺し、eの差は縮む。実際にマツ0.36〜0.66、アルミ23.7で、差は約36〜66倍である。
別の資料でも、アルミ24、ガラス1.50、アクリル0.59、発泡材0.22、皮膚1.17(接触係数、×10³ J/(m²·s½·K))という並びが示され、接触係数が大きい物ほど接触温度が低くなるため、金属は冷たく感じる、と説明されている[1]。
高校や中学の解説では、「木は空気を多く含むので熱伝導率が低く、温かく感じる」と、熱伝導率だけで説明することが多い。これは入り口としてはよいが、触れた面の温度を決めるのが熱浸透率であることを見落としやすい。
この式は、物の温度が皮膚より高くても成り立つ。そのとき向きはどうなるのか。
4. あつい ものに さわると、きんぞくは どうなるの?
4. 熱い物に触れると、金属はどうなるのか
4. 皮膚より熱い物では、なぜ金属のほうが熱く感じるのか
おなじ しくみは、あつい ものでも はたらきます。ものが ゆびより あつい ときは、むきが ぎゃくに なります。きんぞくの ほうが あつく かんじます[4]。
ねつを うけとりやすい きんぞくは、さわった めんが ものの おんどに ちかく なるからです。たとえば、ひなたに ある きんぞくの バックルで、やけどの おそれが ある と いわれます[4]。
けいさんの ようすを みましょう。ものが 60℃、ゆびが 33℃の とき、アルミに ふれた めんは 59℃ぐらい。きだと 42℃ぐらいです。これも りくつの うえの かんたんな けいさんです。
あつい ものは、ぜったいに さわらないでください。しらべるのは、おうちの ひとが いる ときに、はなしを きくだけにして おきましょう。
物が皮膚より熱いときは、向きが逆になります。熱浸透率の大きい金属ほど、触れた面が物の温度に近づくので、金属のほうが熱く感じます[4]。日なたに置かれた車のシートベルトの金具で、やけどのおそれがあるのは、この例です。
前の章の式をそのまま使います。物が60℃、皮膚が33℃(熱浸透率1.0)のとき、触れた面の温度は、アルミ(23.7)で約58.9℃、マツ(約0.5)で約42℃です。これも、理想化した計算の値です。
冷たい物でも熱い物でも、同じ式が当てはまります。違うのは、物の温度が皮膚より高いか低いかだけです。熱浸透率の大きい物は、触れた面を「自分の温度」へ強く引き寄せる、と言い換えられます。
金属が冷たく感じる理由と、熱く感じる理由は、同じ性質の裏表です。熱い物に実際にさわる必要はありません。式を使って、頭の中で確かめるだけで十分です。
では、人間の指は、材料の違いをどれくらいの差で見分けられるのでしょう。
物が皮膚より高温のときは、同じ式から向きが逆になることが導かれる。熱浸透率の大きい金属ほど接触温度が物の温度に近い(高い)ため、金属のほうが熱く感じる。日なたに置かれた金属のバックルでやけどのおそれがある、という例が挙げられている[4]。
前章の式で試算する。物60℃、皮膚33℃・e = 1.0のとき、アルミ(e = 23.7)は (23.7×60 + 33) ÷ 24.7 ≒ 58.9℃、マツ(e ≒ 0.5)は (0.5×60 + 33) ÷ 1.5 = 42℃となる。ここでも半無限体・完全接触という理想化が前提で、実際の指の温度ではない[2]。
要は、冷たさと熱さは、同じ性質の裏表である。熱浸透率が大きいほど、触れた面は相手の温度に引かれやすく、小さいほど皮膚の温度が保たれる。物が皮膚より低温か高温かで、結果が反転するだけだ。
ここから、取っ手や持ち手に木や樹脂が使われることが多い理由を、熱浸透率の小さい素材ならば触れた面が熱くなりにくい、と推測できる。ただし、これは式からの推測であり、個々の製品の設計意図を示す資料は用いていない。
ここまでは理論の話だった。では、人の感覚は実際にどれくらいの差から材料を見分けられるのか。
5. ひとは、どれくらい ちがえば みわけられるの?
5. 人は、どれくらいの差から材料を見分けられるのか
5. 人は熱の手がかりだけで、どの程度の差まで材料を区別できるか
ある けんきゅうでは、目で みず、さわった ときの つめたさだけで ざいりょうを みわけられました。ねつしんとうりつと にた かずが 3ばい いじょう ちがえば、みわけやすかったと ほうこく されています[1]。
この けんきゅうの じょうけんなら、アルミと マツの ちがい(36ばい いじょう)は、この ものさしを おおきく こえます。
べつの けんきゅうでは、4わり ちがう もけいの ざいりょうでも、みわけられました[1]。ゆびは、おもっているより こまかく ちがいを かんじて いるのかも しれません。
人は、目を閉じても、温度の手がかりだけで材料を見分けられることが知られています。ある研究では、接触係数が3倍以上違う材料なら、確実に区別できたと報告されています[1]。
アルミとマツの差は36倍以上ですから、この基準なら難なく区別できる大きさです。別の研究では、熱拡散率が43%違う模擬材料でも区別できた、と報告されています[1]。
もちろん、これらは実験室で条件をそろえた報告です。日常では、表面のざらつきや重さ、見た目も手がかりになります。それでも、「冷たさ」は指が材料を見分ける、れっきとした手がかりの一つだと考えられます。
人が温度の手がかりだけで材料を区別できることは、実験でも報告されている。Ho と Jones の研究では、接触係数が3倍以上異なれば確実に区別できたとされる。Bergmann Tiest と Kappers の研究では、熱拡散率が43%異なる模擬材料も区別できた[1]。
アルミとマツの熱浸透率の比は約36〜66倍であり、この閾値の10倍以上ある。したがって、理論上の差は、感覚が識別できる大きさを十分に上回る。
注意したいのは、これらが条件をそろえた実験室での結果で、1つの数値が日常のあらゆる場面に当てはまるわけではないことだ。表面の粗さや重さ、見た目も、日常の判断に加わる。
6. おうちの ものを、つめたい じゅんに ならべて みよう
6. 家の物を「冷たい順」に並べると、何が見えるか
6. 家の物で「冷たさ」の順番をつくり、計算と比べる
おうちの ひとに はなして、へやに ずっと おいて ある ものを、いくつか あつめます。スプーン、きの しゃもじ、プラスチックの コップなどです。
ゆびの はらで、じゅんばんに、そっと さわります。どれが いちばん ひやっと するか、じぶんの ことばで ならべて みましょう。あつい ものや、とがった ものは つかいません。
きんぞくは ひやっと、きや プラスチックは そうでも ない はずです。どうして そうなるのか、この きじの ことばで、おうちの ひとに せつめい してみましょう。
同じ部屋に長くあった物を、いくつか集めてみてください。金属のスプーン、木のしゃもじ、プラスチックのコップ、紙の本などです。熱い物や、とがった物は使いません。
指の腹で順番にそっと触れ、「冷たい順」に並べます。金属がいちばん冷たく、木やプラスチックは、それほどでもないはずです。ただし、手が冷えていると差が小さく感じやすくなります。手を温めてから、同じ場所に同じ時間だけ触れると、比べやすくなります。
並べたあとで、「熱伝導率の順」と「熱浸透率の順」を想像して比べると、なぜ金属と木の差が1000倍ではなく数十倍の差に感じられるのか、考えやすくなります。資料としては、この記事の出典の[1]から[4]が入り口になります。
同じ室温に長く置いた物(金属のスプーン、木のしゃもじ、プラスチックのコップなど)を、指の腹で順に触れ、「冷たい順」を作る。手が冷えていると感度が変わるので、手を温め、触れる場所と時間をそろえる。熱い物や鋭い物は使わない。
この順番を、表で調べた熱浸透率の順(アルミ約24、ガラス約1.5、アクリル約0.59、発泡材約0.22)と比べると、自分の指がどこまで細かく差を拾うかを、理論値との対応で見ることができる。熱伝導率の順で並べた場合と、並びに食い違いがあるかも比較できる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数値と考え方は次の資料から。理想化した計算は、記事の筆者が出典の式と数値で再計算した。
- Material recognition based on thermal cues(PubMed Central) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5902225/ (温受容器・冷受容器、接触係数の表、人が区別できる差)
- Wikipedia: Thermal effusivity https://en.wikipedia.org/wiki/Thermal_effusivity (熱浸透率の式と数値、マツの熱浸透率、接触温度の式。式はどちらも無限に厚く、ぴったり接触する理想化の場合)
- MIT 6.777J Material Property Database https://web.mit.edu/6.777/www/matprops/aluminum.htm (アルミの熱伝導率。木材と空気は Engineering ToolBox の値)
- How Everything Works: Why metal feels cold https://howeverythingworks.com/why-metal-feel-cold/ (熱い金属でやけどのおそれ)
なおした ところ
更新履歴
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