1. 赤ちゃんは、1時間に 何回 転ぶの?
1. 歩き始めの赤ちゃんの「17回」を、どう見ればよいか
1. 1時間に17回の転倒は、何を意味する数字か
赤ちゃんが 歩く ところを、じっくり 見た 人たちが います。1さいごろから 1さい半ごろの 赤ちゃんは、見て いた 1時間に 平均で 2,368歩 あるき、17回ほど 転んで いました[1]。
17を 2,368で わると、およそ 140歩に 1回です。歩く 回数が 多い ぶん、転ぶ 場面も あります。
これは 平均の 数です。赤ちゃんに よって、ちがいます。3さいに なる 前は よく 転ぶのが ふつうで、あるき始めが おそかった 子は とくに そうだと、病院の あんないにも 書かれて います[5]。
でも、転ぶのは ただの しっぱいでしょうか。赤ちゃんは、もっと 上手な 動きを もって いるのです。
赤ちゃんが歩く様子を、ふだんの遊びの中で長く観察した研究があります。12〜19か月の子は、観察時間1時間あたり平均2,368歩を歩き、17回ほど転んでいました[1]。17回だけを見ると、転びすぎのようです。しかし2,368歩と並べると、およそ140歩に1回です。多く転ぶのは、それだけ多く歩いているからでもあります。
これは平均で、個人差が大きいことは別の資料にも書かれています。イギリスの医療機関の案内では、3歳になる前に頻繁に転ぶのは普通のことで、歩き始めが遅かった子ではとくにそうだと説明されています[5]。
では、転ぶ回数が多いのは、歩くのが下手だからなのでしょうか。ほかの動き方と比べると、見え方が変わってきます。
ある観察研究では、12〜19か月の乳幼児が観察時間1時間あたり平均2,368歩を歩き、17回ほど転倒した[1]。17回という数だけを見ると多いが、歩数で割ると、約140歩に1回の割合になる。転倒の多さは、歩行量の多さと切り離して評価できない。また、この値は観察した1時間あたりの平均であり、1日の合計や、すべての乳幼児の生活にそのまま当てはまる数ではない。同じ研究の題名が「1日に数千歩、数十回の転倒」とうたっていることからも、研究者が重視しているのは失敗の多さよりも練習の量であることがうかがえる。
この値は平均であり、個人差は大きい。イギリスの医療機関の案内は、3歳未満の子が頻繁に転ぶのは正常な範囲であり、歩行開始が遅れた子ではとくに目立つと述べている[5]。ただし、どの程度の転倒までが発達の一部かの境目は、一律には決めにくい。
では、転倒の多さは、歩行が未熟なことの直接の証拠になるのか。ほかの移動方法と比べた結果を見る。
2. 歩く ほうが 速いのに、転ぶ 数は ふえない?
2. 歩き始めは、はいはいより速いのに転ぶ頻度は同じ
2. 歩き始めの移動は、はいはいより効率が高く、転倒率は同程度
赤ちゃんは、歩く 前に、四つんばいで 動けるように なります。その はいはいが 上手な 赤ちゃんと、歩きはじめの 赤ちゃんを くらべた 話が あります。
歩きはじめの 赤ちゃんの ほうが、はいはいの 上手な 子より、速く 遠くまで 行けました。1時間に 転ぶ 回数は 歩きはじめの 子の ほうが 多かったのですが、動いた 長さや 歩数に 合わせて くらべると、転ぶ わりあいは 同じ くらいでした[1]。
この 研究では、速く 遠くまで 動ける ように なっても、転ぶ わりあいは ふえて いませんでした。
歩く前の赤ちゃんは、はいはいで部屋を移動します。同じ研究チームは、歩き始めたばかりの子と、はいはいが上手な子を比べました。
結果は意外でした。歩き始めの子は、はいはいの上手な子より速く遠くへ移動できましたが、1時間あたりの転倒は歩き始めの子のほうが多い(31.5回と17.4回)ものの、移動した時間・歩数・距離あたりで比べると、転ぶ割合ははいはいの上手な子と同程度だったと報告されています[1]。移動の効率は上がっているのに、転ぶ割合は上がっていません。
この結果から、歩き始めの転びやすさを、単純に「歩行が下手だから」と読むのは難しいと分かります。ただし、なぜはいはいをやめて、転びやすい二本足の歩きを選ぶのか、その動機は完全には分かっていません。
では、転びながら歩く赤ちゃんは、足元の変化にどう対応しているのでしょうか。
歩行を始める前、乳幼児は四つ這いで移動する。上記の研究は、歩き始めて間もない子と、四つ這いに熟達した子の移動を比べ、前者の方が速く遠くまで移動したと報告した。1時間あたりの転倒回数は歩行児の方が多かった(31.5回と17.4回)が、移動量(時間・歩数・距離)あたりで比べた転倒率は同程度だった[1]。
この結果は、歩行の転倒率が高いという直感に修正を迫る。移動効率が上がっても転倒率が上がらないなら、転倒の多さは未熟さだけで説明できない。ただし、この研究から言えるのは転倒率の比較までである。すでに上手に移動できる子が、なぜ転びやすい二足歩行に移るのか、その動機の解明にはさらなる研究が必要とされる。
では、転倒の多い歩行の中で、乳幼児は自分の体と環境の変化にどう対応しているのか。
3. 足を ひろげたり、坂で ブレーキを かけたり
3. 足を広げ、坂ではブレーキをかける工夫
3. 姿勢の安定化と、坂でのブレーキ方略
歩きはじめの 赤ちゃんは、足を 大きく ひらいて 歩くことが あります。ふらふらする からだを ささえるための かたちだと いわれて います[6]。
歩く みちも、まっすぐでは ありません。少し 歩いては とまり、また 歩く。ゆるく まがりながら すすむ ことが 多いと いわれて います[2]。
坂の 実験も あります。15か月の 赤ちゃんは、坂が きゅうに なるほど、小さい 歩はばで 歩数を ふやして、速さを おさえました。まるで 自動車の ブレーキです[3]。
赤ちゃんは、ただ 転んで いるのでは ありません。足もとに 合わせて、やりかたを かえて いるのです。
歩き始めの赤ちゃんは、足を大きく開いて歩くことがあります。ぐらぐらする体を安定させるための姿勢だと、アメリカの小児科の団体は説明しています[6]。
歩き方にも特徴があります。短い時間だけ歩いては止まり、まっすぐではなく曲がった道すじをたどる、という報告があります[2]。大人のように、一直線にずっと歩くのとは違います。
坂では、もっとはっきりした工夫が見られました。15か月の子は、坂が急になるほど歩幅を小さくして歩数を増やし、歩く速さが上がりすぎないようにしていました。研究者はこれを「ブレーキ作戦」と呼んでいます。坂の上の縁に近づくときも、小さな歩幅で何歩も進んだと報告されています[3]。
転びながらも、赤ちゃんは足元の状況に合わせて、動きを選んでいるのです。では、転ぶこと自体は、どう見られているのでしょうか。
歩き始めの乳幼児は、重心の不安定さを補うため、足を大きく開いて歩くと説明される[6]。自然な歩行を調べた報告では、連続した歩行ではなく短いかたまりに分かれ、直線ではなく曲線の経路をたどる傾向が示されている[2]。
状況への適応は、坂道の実験が分かりやすい。15か月の乳幼児は、傾斜が急になるほど歩幅を小さくして歩数を増やし、速度の増加を抑える「ブレーキ方略」を用いた。傾斜の上端に近づくときも、小さな歩幅で何歩も進んだ[3]。つまり、速度の制御は、傾斜という条件の変化に合わせて変えられている。歩行は決まった型のくり返しではなく、その場の条件に応じて組み替えられる行動として記述されていることになる。足を広げる姿勢や短いかたまりの歩行も、同じ見方でつながる。
では、これほど工夫しているのに、なお転ぶのはなぜか。転倒は、学習の失敗として扱うべきなのか。
4. 転ぶのは、ためして いる ときも ある?
4. 転ぶことを、環境を探る動きと見る考え方
4. 転倒を環境の探索と見る解釈
ふつうは、練習すれば しっぱいが へると 思います。でも 赤ちゃんは、少し ちがいます。歩き方が 上手に なっても、転ぶ 回数が すっきり へるとは かぎらないのです。
研究の 人たちは、よく 転ぶのは、赤ちゃんが 自分の できる ぎりぎりに ちょうせんして、まわりを たしかめて いる ときに ともなう ことだと 考えて います[2]。
赤ちゃんは、家具に つかまって 横に すすむ こともします。これを クルージングと いい、ひとりで 歩く 前の じゅんびに なると いわれて います[4]。
くつを はかずに はだしで いると、足の うらで ゆかを 感じて、からだが 安定しやすいと いわれます[4]。
ふつう、練習を重ねれば失敗は減ると考えます。ところが、歩き始めの赤ちゃんの記録を見ると、転ぶ回数が着実に減っていくわけではありませんでした。研究者は、赤ちゃんが自分の限界に挑戦しているために、頻繁な転倒が伴うのだと解釈しています[2]。転ぶことを、誤りが残っている印ではなく、環境を探る動きに伴うものと見る立場です。ただし、これは一つの解釈です。
その過程で、赤ちゃんは家具などにつかまって横へ進む「クルージング」をします。壁や人も支えにして動き回ることで、自力で歩く準備を進めると説明されています[4]。
同じ医療機関の案内では、裸足でいると足の裏で床の感触が伝わり、安定やバランスを助けると説明されています[4]。
反対に、ベビーウォーカーは名前に反して、歩く練習の助けにならないと、アメリカの小児科の団体は述べています[6]。イギリスの国民保健サービスも、ベビーウォーカーやバウンサーは、つま先立ちを促し、歩き始めを遅らせるおそれがあると説明しています[7]。
赤ちゃんの練習を邪魔しないために、まわりは何ができるのでしょうか。
練習によって誤りが減るという標準的な見方に対し、歩き始めの乳幼児では、誤りが着実に減るのではなく、限界に挑戦するために頻繁な転倒が伴うと報告されている[2]。転倒を「誤りの残存」ではなく「環境の探索」と見る解釈である。ただし一つの総説の解釈であり、すべての転倒がそうだとは言えない。また、探索に伴うという見方は、転倒を放置してよいという意味ではなく、次の章で述べる備えと両立する話である。
探索を支える行動の一つが、家具や壁、人を支えに移動する「クルージング」で、自立歩行の準備になると説明される[4]。同じ資料は、裸足が足底から床の情報をもたらし、安定やバランスを助けると述べる[4]。
一方、乳幼児用の歩行器(ベビーウォーカー)は、歩く学習の助けにならないとされる[6]。英国の国民保健サービスは、歩行器やバウンサーが爪先立ちを促し、歩き始めの遅れにつながりうると記す[7]。また、カナダの子どもの安全団体は、同国では車輪付きの歩行器の販売が禁止されていることを紹介している[9]。
では、挑戦の結果として転ぶ子を、まわりはどう見守ればよいのか。
5. 転んだ とき、まわりの 人は どう するの?
5. 転んだときと、転ぶ前に、まわりの大人が気をつけること
5. 転倒への対応と、環境の整え方
頭を うったら、すぐ 大人に 知らせます。軽い けがでは、数時間で 少しずつ よく なる ことが あります。大人と いっしょに ようすを 見て、心配な ときは 病院の 先生に 相談します[8]。
でも、何回も はく、頭の いたみが ひどく なる、ぐったりして 目が さめない、歩きにくそうに するときは、すぐに 病院へ 行く サインと されて います[8]。
ころぶ 前の くふうも あります。かいだんの 上には、かべに しっかり とめる ゲートを つけるように、カナダの だんたいは すすめて います[9]。おむつを かえる ときなど 高い ところでは、赤ちゃんから 手を はなさない ことも、すすめられて います[9]。
子どもが転んで頭を打ったとき、すぐ病院に行くべきかは、症状で目安があります。軽い頭のけがでは、症状が数時間で少しずつ軽くなることがあると、アメリカの小児病院は説明しています。悪化したり心配な症状があったりするときは、医療機関に相談してください[8]。
一方、吐くことをくり返す、頭痛がひどくなる、意識を失う、けいれんする、歩きにくい・動きがうまくそろわないといった様子は、すぐ救急で受診が必要なサインとされています[8]。迷うときは、かかりつけ医などに相談してください。
転ぶ前の備えとして、カナダの子どもの安全団体は、階段の上には壁などにしっかり固定するゲートを使うこと、おむつ替え台のような高い場所では子どもから手をはなさないことを勧めています[9]。
赤ちゃんの練習を止めずに、大きなけがにつながりやすい場所だけを守る。転ぶことと安全を、両立させる考え方です。
転倒後の対応は、症状の経過で判断される。アメリカの小児病院の情報では、軽い頭部外傷では、症状が数時間でしだいに軽くなることがある。悪化や心配な症状があれば医療機関に相談する[8]。一方、嘔吐のくり返し、悪化する頭痛、意識消失、けいれん、歩行困難や協調運動の悪化は、すぐ救急を受診すべきサインとされる[8]。個別の判断は医師に相談する必要がある。
事前の備えとして、カナダの子どもの安全団体は、階段上部には壁などに固定するハードウェア取り付け式のゲートを使うこと、おむつ替え台のような高い面では子どもに手を添え続けることを勧める[9]。
これらは、転倒そのものを止めるのではなく、重大な転落が起きる場所を限定する考え方である。練習量を保ちながら、避けたい事故だけを減らすという両立が、ここにある。
6. 自分の 足で ためして みよう
6. 自分の足で、床の感触を確かめてみる
6. 床の感触と歩き方を、自分の体で確かめ、原典に当たる
すべりにくい ゆかの 上で、大人と いっしょに ためせます。まず くつしたを はいて、かたあしで 立って みます。つぎに はだしで、同じ ことを します。足の うらで ゆかを どれくらい 感じるか、くらべて みましょう。
赤ちゃんは、これよりも ずっと 小さな 足で、毎日 たくさん 歩いて います。
また、家の 人に、自分が 歩きはじめた ころの 話を 聞いて みるのも いいですね。
足の裏の感覚を比べる
すべりにくい床の上で、大人のそばで試します。靴下をはいた状態と裸足で、それぞれ片足で立ち、足の裏でどれくらい床を感じるかを比べてください。赤ちゃんで言われる効果が自分に当てはまるかは分かりませんが、「足の裏から情報が入る」とはどういうことかを、体で想像できます。
家の人に聞いてみる
自分が歩き始めたときの様子を聞いてみましょう。何か月ごろか、どんな場所で転んだか。記録が残っていれば、この記事の数字と並べて考えられます。
原典を読むなら(任意)
ここまでの体験だけでも、記事の話は家の中で確かめられます。さらに知りたいときの補足として、歩数と転倒回数の研究[1]と、坂道の実験[3]は英語ですが、図と数字が多く、赤ちゃんの動きの工夫が分かります。
手で確かめる
すべりにくい床で大人のそばにつき、靴下と裸足で片足立ちを比べる。足底の情報の違いを自分の体で意識する試みである。ただし、これは乳幼児の結果をそのまま確かめるものではなく、感じ方の違いを想像する手がかりにとどまる。
数字を自分で計算する
平均2,368歩と平均17回から、1回あたりの歩数は約140歩になる。1,000歩なら約7回。観察された1時間という条件が、日常のすべての時間に当てはまるとは限らない点にも注意する。
原典に当たる(任意の補足)
ここまでの計算と体験は日本語で完結する。さらに確かめたい場合の原典として、歩数と転倒回数は[1]、探索としての転倒の解釈は[2]、坂道のブレーキ方略は[3]が原典で、いずれも英語である。姿勢と家具の使い方は[4]、[6]、安全の面は[8]、[9]が参考になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Adolph et al. "How Do You Learn to Walk? Thousands of Steps and Dozens of Falls per Day." Psychological Science, 2012. https://pzacad.pitzer.edu/~dmoore/2012_Adolph%20et%20al_Learning%20to%20Walk_PsychSci.pdf (1時間の歩数と転倒回数/はいはいとの比較)
- "Learning to Move in a Changing Body in a Changing World." https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10503469/ (歩き方の特徴/転倒の解釈)
- Gill, Adolph & Vereijken. "Change in Action: How Infants Learn to Walk Down Slopes." Developmental Science, 2009. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2769020 (坂でのブレーキ作戦)
- Bedfordshire and Luton Children's Health. "Learning to walk." https://www.bedslutonchildrenshealth.nhs.uk/moving-and-being-active/early-years-movement-skills-and-development/learning-to-walk/ (クルージング/裸足)
- NELFT. "Under 5's." https://www.nelft.nhs.uk/developmental-milestones- (3歳未満で転ぶのは普通)
- American Academy of Pediatrics. "Movement Milestones in Babies 8 to 12 Months Old." https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/pages/Movement-8-to-12-Months.aspx (足を広げる歩き方/歩行器)
- NHS. "How to keep your baby or toddler active." https://www.nhs.uk/baby/babys-development/play-and-learning/keep-baby-or-toddler-active/ (歩行器・バウンサーと歩き始め)
- Children's Hospital of the King's Daughters. "Head injuries in kids: know when to seek medical care." https://www.chkd.org/patient-family-resources/our-blog/head-injuries-in-kids-know-when-to-seek-medical-care/ (頭を打ったときの目安)
- Parachute Canada. "Fall prevention." https://parachute.ca/en/injury-topic/fall-prevention-for-children/ (階段ゲート/歩行器の販売禁止/高い場所)
なおした ところ
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