1. ふるい かみは、どこに のこって いるの?
1. 1300年前の戸籍と、崩れる本
1. 702年の戸籍と、1940〜50年代に劣化が目立った紙 ── 寿命の差の入口
1300ねんくらい まえ、702ねんに つくられた 戸籍が、ならの 正倉院に のこって います[1]。
いっぽう、としょかんの しらべでは、1940ねんから 50ねんごろの しりょうが、とくに いたんで いたそうです[2]。
この ふたつの ちがいを、これから 3つの ことで みて いきます。
2. なにから つくるの? ── げんりょうの ちがい
2. 木の皮と、木の幹 ── 原料の違い
2. 靭皮繊維と木材パルプ ── 原料の違いと繊維の長さ
わしは、楮という きの かわから とる、しろい ぶぶんから つくります[3]。ようしは、きの みきの ぶぶんを こまかく した ものが もとです。
楮の 繊維は ほそ ながく、ようしの ものより ずっと ながいと いわれます[4][3]。ながい ひもを くんだ あみは、みじかい いとくずを かためた ものより ちぎれにくい、と かんがえると わかりやすいです。
ただし、かみは ひもの あみでは ありません。ちいさな せんいが からまって できて います。
3. つくりかたは、どう ちがうの?
3. 繊維をほぐす手仕事 ── 傷めない作り方
3. 穏やかな叩解と流し漉き ── 繊維を切らない工程
わしを つくる ときは、げんりょうの せんいを、おだやかに ほぐします。てで ていねいに あつかうので、せんいが きれる ことが ほとんど ないと、ぎょうかいの かいせつでは せつめい されて います[5]。
たとえば、ぎふけんの ほんみのがみは、楮だけで つくり、流し漉きと いう やりかたで すきます。できた かみは、いたに はって、おひさまで かわかします[6]。
この わざは、2014ねんに ユネスコの むけい ぶんか いさんに とうろく されました[6]。
紙をつくる前に、原料の繊維をほぐす作業を叩解(こうかい)といいます。和紙ではこれを穏やかな手仕事で行うため、繊維の傷みが少なく、切断もほとんどなく、繊維の丈夫さがそのまま保たれる、と業界の解説では説明されています[5]。
たとえば岐阜県の本美濃紙は、楮の繊維だけを使い、日本独特の流し漉きで漉いて、板に貼って天日で乾かします。漉くときは前後だけでなく左右にも動かし、繊維を整然と並べます[6]。
この技術は、2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました[6]。ただし、ここで挙げた手作業が、寿命の差の原因としてどこまで効いているかは、資料の説明を紹介するにとどめます。
紙への道のコラムは、和紙が繊維の長い靭皮繊維を使い、しかも原料の叩解を温和な手仕事で処理するため、損傷や繊維の切断がほとんどなく、自然のままの丈夫さを保つと業界解説の立場から説明する[5]。
文化遺産オンラインによれば、本美濃紙は楮の繊維のみを用いて流し漉きで漉き、板に貼りつけて天日乾燥する。縦ゆりに横ゆりを加え、左右にも動かして繊維を整然と並べる[6]。なお、流し漉きでは、トロロアオイの根の粘液(ネリ)が繊維を水中で均等に分散させると説明される[4]。
この技術は2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録された[6]。ただし、手作業のどの要素がどの程度寿命に効くかを実験で示した資料は、本稿では確認できていない。
4. ようしの かみは、どうして いたむの?
4. 洋紙の中の酸 ── 酸性紙が崩れるわけ
4. 硫酸バンドと酸性紙 ── セルロースが切れる仕組み
ようしは、インクが にじまないように、まつやにから つくる ざいりょうを まぜます。それを かみに くっつけるために、アルミニウムを ふくむ くすりを つかいました[2]。
これが みずと はんのうして、酸が できます。さんが、かみの せんいを すこしずつ きって、かみが もろく なります[2]。
こうした つくりかたは、1850ねんごろから、おうべいで ふつうに なりました[7]。わしの ほうは、すくときの さんの つよさが、アルカリから ちゅうせいの あたりに あるのが よい ところと いわれます[5]。
洋紙では、インクがにじまないようにするためのロジンサイズ(松やにを使った薬品)を紙に定着させるのに、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)を使ってきました[5]。これが水分と反応して硫酸ができ、紙のセルロース(繊維の主成分)を分解して劣化させます。これが酸性紙です[2]。
酸性の抄紙法は、1850年ごろから欧米で一般的になったとされます。紙をつくるときの酸性の強さ(pH)は、酸性紙で4〜6、中性紙で7〜8ほどです[7][8]。和紙は漉くときのpHがアルカリ〜中性にあることが、保存性の利点だと説明されています[5]。
原料の繊維が長くても、酸で繊維そのものが切られていくと、長持ちしません。長い繊維という材料と、繊維を切らない環境が、そろって働くことになります。
5. ようしは、どう かわって きたの?
5. 中性紙への転換と、酸を抜く手当て
5. 炭酸カルシウムへの転換と脱酸性化 ── 洋紙側の対応
1982ねんごろ、「百ねんごに、ほんが ぼろぼろに なる」と いう はなしが、しんぶんや テレビでも とりあげられました[8]。
そこで ようしも、さんの でない つくりかたに かわって いきました。まぜる こなを、炭酸カルシウムに かえるなどして、ちゅうせいの かみが つくれるように なりました[8]。
すでに さんせいに なって しまった ほんは、さんを ちゅうわする てあてを します。すると、いのちが 3ばいから 5ばいに のびると いわれます[2]。
6. なんねん もつのか、ほんとうに わかるの?
6. 「1000年」は目安 ── 数字との付き合い方
6. 寿命の数字は目安にすぎず、そのまま断定できない理由
「さんせいの かみは 100ねん、ちゅうせいは 300から 400ねん、わしは 1000ねん」と いう かぞえかたが あります[5]。
けれど これは、しらべて はかった かずでは なく、めやすと して いわれて いる ものです。ほんとうに なんねん もつかは、かみの つくりかたや、おかれた ばしょでも かわります。
紙の寿命は、酸性紙が約100年、中性紙が約300〜400年、和紙は1000年、と語られることがあります[5]。ただし、これは業界の解説にある目安で、実際に測った数字の原典は確認できていません。「和紙は1000年もつ」と言い切るのは避けたほうがよさそうです。
長持ちの理由は、原料・作り方・酸の3つが重なった結果、と読むのがよさそうです。
紙への道のコラムは、寿命の目安を酸性紙約100年、中性紙約300〜400年、和紙1000年と紹介する[5]。ただし、これは業界解説の目安で、実測の原典は確認できていない。「1000年もつ」とは断定せず、言われている数字として読むのが妥当である。
寿命の差は、原料(長い繊維)、工程(繊維を傷めない)、酸性度(酸が繊維を切らない)の3点が重なったものと整理できる。どれか1つだけの効果を切り分けた実験は、確認できていない。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いえで できる こと
- おうちに わしの はがきや ふうとうが あれば、ひかりに すかして、コピーようしと くらべて みましょう。せんいの ようすは、どう ちがうでしょうか。
- ふるい ほんの ページの いろを、あたらしい ほんと ならべて みましょう。ページを むりに おらないで くださいね。
でかけて できる こと
- ちかくの としょかんの ひとに、「ふるい ほんは どうやって まもって いますか」と きいて みましょう。
家でできること
- 和紙のはがきや封筒があれば、光に透かして、コピー用紙と見くらべてみましょう。繊維のからみ方に違いが見えるでしょうか。
- 古い本の紙の色を、新しい本と並べてみましょう。折ったり破いたりしないよう、そっと扱ってください。
出かけてできること
- 図書館で、古い資料をどう守っているかを聞いてみましょう。
公式の情報
- 東京都立図書館の酸性紙資料の脱酸性化処置のページが、出典の中では読みやすい入口です。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った事実を確かめた資料の一覧です。寿命の年数は業界解説の目安を含むため、詳しくは各資料を確認してください。
- 富加町「奈良正倉院に残る最古の戸籍」 https://www.town.tomika.gifu.jp/docs/271.html (702年の戸籍が正倉院に残ること)
- 東京都立図書館「酸性紙資料の脱酸性化処置」 https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/deoxidation/index.html (酸性紙が劣化する仕組み・1940〜50年代の劣化・脱酸の効果)
- 紙への道「和紙の知識(4) 和紙と洋紙との比較」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/japanese-paper/about-japanese-paper-004.html (原料の違い・楮の繊維の長さと寿命)
- アワガミ「和紙の原材料」 https://www.awagami.or.jp/iroha/material/index.html (楮の繊維の長さ・ネリの役目)
- 紙への道「コラム(93) 紙、特に和紙の寿命はなぜ長いのでしょうか」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/column-093.html (穏やかな叩解・ロジンサイズ・漉くときのpH・寿命の目安。年数は実測でない)
- 文化遺産オンライン「本美濃紙」 https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/221884 (本美濃紙の作り方・ユネスコ無形文化遺産登録)
- 紙への道「コラム(14)」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/column-014.html (酸性の抄紙法が1850年ごろ広まったこと)
- 紙への道「紙の基礎講座(8-2) 酸性紙、中性紙とは」 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/basic-lecture-of-the-paper/basic-lecture-of-the-paper-008-2.html (pHの目安・炭酸カルシウムへの転換・1982年ごろの報道)
なおした ところ
更新履歴
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