1. 春に さく 花は、いつ 木の 中で できるの?
1. 来年の花は、今年の夏にもう木の中にある
1. 花芽は前年の夏に分化する ── 冬の剪定が実を左右する理由
あんずの 花は、うめや さくらより 早い 春に さきます。うす いろの 花びらが 五まい ある 花です[5]。
この 花に なる 小さな め(はなめ)は、まえの 年の 夏に つくられます[1]。さく 半年も 前から、木の 中で じゅんびが 始まって いるのです。
だから、冬に えだを きる ときは、気を つけます。夏に できた 花の めを きりおとすと、その 年の 花が へって しまうからです[1]。
夏に できた めは、さむい 冬を どう すごすの でしょう。
アンズは、桜より早い早春に、淡い桃色の5枚の花びらをつける花を咲かせます(品種によっては八重もあります)[5]。この花になる「花芽」は、前の年の夏につくられます[1]。
スペインの研究報告にも、アンズは冬の終わりに咲くが、花芽は前の夏に分化する、と書かれています[2]。地中海性気候の産地での話なので、日本でまったく同じ時期になるとは限りません。
この性質は、冬の枝の手入れに関わります。剪定のとき、夏にできた花芽まで切り落とすと、翌春の花が減ってしまうからです[1]。花は、春ではなく、前の夏から数えて半年ほどの準備の結果なのです。
では、夏にできた花芽は、冬をどう越えるのでしょうか。
アンズの花芽は、前年の夏に分化する。花は冬の終わりから早春に開くが、その元になる芽は半年以上前に形成を終えている。スペインのアラゴン農業研究機関の報告でも、アンズは冬の終わりに咲くが、花芽は前の夏に分化するとされている[2]。これは地中海性気候の産地での報告で、日本の産地では時期がずれる可能性がある。
栽培上は、この時間差が剪定の方針を決める。冬に枝を整理するとき、前年夏に形成された花芽を切り落とせば、そのぶん翌春の花が失われるからだ[1]。花は、咲く時期の木の状態だけでなく、前の夏の木の育ちにも支えられている。
花は、桜より早い早春に、淡桃色から桃色の5弁で開く。品種によっては八重もある[5]。では、夏にできた花芽は、冬のあいだ何をしているのか。次の章は、アンズが冬の寒さを必要とする話である。
2. あんずの めは、冬の 寒さを 数えて 目ざめるの?
2. 冬の寒さがたまるまで、芽は目ざめない
2. 低温要求量 ── 休眠から覚めるために必要な寒さと、品種差
あんずの めは、冬に ねむって いる ように なります。この ねむりから 目ざめる ためには、ある だけの 寒さに あたる ことが いります[3]。
たとえば、目ざまし時計のようなものです。寒さが たまって いって、その あんずに 合った おおきさに なると、「もう 起きても いいよ」と 合図が 出る、と 考えると わかりやすいでしょう。ただし 本当は、木が 数を 数えて いるわけでは ありません。
その 「決まった おおきさ」は、あんずの しゅるいごとに、大きく ちがいます[3]。
もし 冬が あたたかすぎて、寒さが たまらなかったら、どう なるの でしょう。反対に、寒さが 足りて 目ざめた あとは、安心して いいの でしょうか。
冬の木の芽は、眠っているような状態になります。この眠りから覚めるには、決まった量の低温(冬の寒さ)にあたることが必要です[3]。
目覚まし時計にたとえると、寒さが少しずつたまり、その品種に必要な量に届くと「起きてよい」という合図が出るようなものです。ただし、実際に木が寒さの量を数えているわけではなく、芽の中の変化の結果です。
必要な寒さの量(低温要求量)は、品種によって大きくちがいます[3]。しかも、その量の測り方には何通りかあります。同じアンズでも、目ざめる早さが品種で変わるのは、このためだと考えられます。
寒さを待って眠っていた芽が、目ざめたあとはどうなるのでしょうか。霜の研究に、気になる結果があります。
冬の芽は、気温が上がってもすぐには開かない。休眠から覚めるには、品種ごとに決まった量の低温にあたる必要があり、この必要量(低温要求量)は品種間で大きく異なる[3]。つまり、芽が休眠から出るまでに必要な寒さの量が、品種ごとにちがう。その量の測り方にも複数の指標があり、どれを使うかで数字は変わる。
ここで注意したいのは、「木が寒さを数える」という言い方が、たとえにすぎない点だ。目覚まし時計のように、一定の寒さがたまると合図が出る、と考えると理解しやすいが、実際の仕組みは芽の中の生理変化であり、資料もそう書いている。具体的な低温時間は、品種や測り方で差があるので、ここでは数値を挙げない。
低温要求量が満たされた芽は、休眠から出る。では、そこから花が開くまでの間に、何が起こるのか。次の章は、むしろ目覚めたあとのほうが危ない、という研究の話である。
3. 目ざめた あとの めは、しもに 弱いの?
3. 目ざめた芽は霜に傷みやすい、という研究
3. 霜害と脱休眠後の感受性 ── 外見が変わらないまま花の内部が凍る
スペインで あんずの しゅるい(モニキ)を 2年間 しらべた 研究では、花の めは、冬の 寒さを 十分に すませて 目ざめた あとに、しもで いたみやすく なりました[4]。
そのとき、外から 見ると、めは ふつうの まま です。でも 中を ひらくと、花の おしべや めしべが こおって、茶色く なって いる ことが あります[4]。
反対に、寒さが 足りなくて まだ ねむって いる 間は、この 研究では、しもで いたんだ 話は 出て きませんでした[4]。
早く さく あんずは、春の 来るのを 待ちきれない ぶん、むずかしい 勝負を して いる のかも しれません。これは 一つの 研究で、場所や しゅるいで ちがう ことも あります。
さいた 花は、どうやって 実に なるの でしょう。
スペインの特定の品種(Moniqui)を2年間調べた研究では、アンズの花芽は、必要な低温を満たして休眠から出たあと、芽がふくらむ前の時期に、霜で傷みやすいとされています。外から見ても変化はありませんが、中を開くと、おしべやめしべが凍って褐色に変わっていることがあります[4]。
面白いのは、寒さが足りず、まだ休眠中の芽では、この研究で霜害が記録されなかった点です[4]。眠っているあいだのほうが、霜の害が出にくかったことになります。
この研究の条件では、休眠から出たあとの芽が霜で傷みやすいということです。早咲きのアンズは、冬の寒さを待って目ざめ、その後の霜にも気をつけなければならない、細い道を進んでいるのかもしれません。これは特定の品種・産地の研究の結果であり、日本での被害そのものを示すものではありません。
霜をくぐって咲いた花は、すぐ実になるのでしょうか。
スペインの特定品種(Moniqui)を2年間調べた研究では、アンズの花芽は、必要な低温を満たして休眠(エンドドーマンシー)から出たあと、芽がふくらむ前の時期に、霜害を受けやすかった。外見は変わらず、おしべ・めしべの内部が凍結して褐変する。反対に、寒さが足りず休眠中の芽では、この研究で霜害は記録されなかった[4]。
この結果は逆説的に見える。冬の寒さを十分に「数えた」芽ほど危険が大きく、休眠が続いているあいだは霜害が記録されなかった。この研究の条件では、休眠から出たあとの芽が霜で傷みやすかった、ということだ。
ただし、これは要旨にある限られた条件の結果で、品種や産地で差があり、日本の被害を示すものでもない。では、霜を越えて咲いた花は、実になるのか。次の章は、開花から収穫までの時間と、受粉の話である。
4. 花が さいてから、実が うれるまで どのくらい?
4. 花から実まで、およそ2か月半
4. 開花から収穫までの時間 ── 長野県の例と、核の中の杏仁
ながの県では、いちばん ゆうめいな 「へいわ」と いう あんずが、4月の なかごろに 花を つけます。そして 6月の おわりから 7月の はじめごろに うれます[6]。
花から 実まで、およそ 2か月半です。この 数は、4月と 6月・7月の 日づけから 出した 目安で、場所や 年で かわります[6]。
実は まるくて、はばが 3〜4センチ ほど。うれると だいだい色に なります[5]。ひとつが 40グラム くらいです[6]。
実の 中には、かたい からに 入った たねが 一つ あります。この たねは、食べないで ください[5]。
ところで、花が さいても、かならず 実が つくとは かぎりません。
5. あんずは、ひとりでは 実に なりにくいの?
5. 花粉の相手がいないと、実がつきにくい
5. 自家不和合性と結実の不安定さ ── 受粉樹・人工授粉・育種
あんずの おおくの しゅるいは、自分の 花ふんだけでは、実が つきにくい とされます。そこで、べつの しゅるいを 近くに 植えたり、人が 花ふんを つけたり します[1]。
ひとりでも 実る しゅるいも あります。ぜんぶが 相手を いる わけでは ありません[1]。
日本の 研究所は 1970年から、あんずの かけ合わせを 行っています。「実が 安定して つかない」ことを、育てる 上での 大きな こまりごとの 一つと して いるからです[7]。
なえ木から 育てると、実が とれるまで、ふつう 3〜4年 かかります[1]。花の じゅんび、寒さ、しも、花ふんの 相手。いくつもの むずかしい ところを こえて、はじめて 実が とれる のです。
アンズの多くの品種は、自分の花粉だけでは実がつきにくいとされます。2品種以上を近くに植えたり、人が花粉をつける人工授粉をしたりすると、実ができやすくなります[1]。一方で、自分の花粉でも実のなる品種もあり、「全部がだめ」というわけではありません。
農研機構(果樹研究所)は1970年から、アンズの交配による品種づくりを続けてきました。その理由として、主要な品種に自家不和合性が多く、実のつき方が不安定なことを、栽培上の大きな問題にあげています[7]。
苗木から育てると、収穫できるまで基本的に3〜4年かかります。また、寒さには強い一方で、暑さにはあまり強くないとされます[1]。
夏の花芽、冬の寒さ、目ざめたあとの霜、花粉の相手。実がなるまでには、いくつもの関門があります。では、そのアンズを、里ごと育てた土地はどんなところでしょうか。
アンズの主要品種には、自分の花粉では受精しにくい自家不和合性が多く、そのため結実が不安定になりやすい。栽培では、2品種以上を近くに植えて受粉を助けたり、人工授粉を行ったりする[1][7]。ただし、自家結実しやすい品種もあるので、「アンズは全部だめ」とは言えない。
農研機構(果樹研究所)は、この問題への対応を目的のひとつに、1970年から交雑育種を行ってきた[7]。農研機構の報告では、主要品種に自家不和合性が多く、結実が不安定なことが栽培上の大きな問題とされている。育種は、気候や霜と同じく、実らせるための工夫の一つといえる。
苗木から育てると、収穫まで基本的に3〜4年かかる。耐寒性は強いが、耐暑性は強くないとされる[1]。夏の花芽、冬の寒さ、霜、受粉。一年の関門を越えて、ようやく実が結ぶ。この木を、一つの里ごと育ててきた土地が長野県にある。
6. 「あんずの 里」は、どうして できたの?
6. 長野県千曲市の「あんずの里」は、どう生まれたのか
6. 千曲市森・倉科地区 ── 松代藩が栽培を奨励したと伝わる経緯
ながの県の ちくま市には、「あんずの 里」と よばれる ところが あります。花が さく 3月の おわりごろから 4月の はじめには、ひと目で たくさんの 花が 見わたせる ことから、「一目10万本」と いわれます[8]。
ここに あんずが 来た わけは、むかしの お話が つたわって います。えどの 前の ころ、げんろくの じだいに、ある ひめが とつぐ ときに、ふるさとの たねを 持って 来た、と いわれます[8]。
この たねは せきを 止める くすりに なるので、その 土地を おさめて いた はんが、あんずを 植える ことを すすめた、と いう 話です[8]。
花の 時期は、あんずの しゅるいや 年で かわります。
長野県千曲市の森・倉科地区は「あんずの里」とよばれ、開花は3月下旬から4月上旬、一度に多くの花が見わたせることから「一目10万本」と形容されます[8]。先ほどの長野県の例(4月中旬)と日づけがちがうのは、品種や場所、年によって開花が前後するからと考えられます。
由来として伝わるのは、江戸前期の元禄のころ、伊予宇和島藩主の娘・豊姫が、松代藩主の真田幸道に嫁いだ際、故郷のアンズの種を持ちこんだという話です[8]。
種がせき止めの生薬になるため、松代藩が栽培を奨励し、広まったともいわれます[8]。どちらも「といわれる」伝承で、断定はできません。
咲く時期は早く、霜にも弱い。そんな木を、薬にもなる木として育て続けた人たちがいた、と考えると、この里の景色の見え方も変わってきます。
千曲市の森・倉科地区は「あんずの里」と呼ばれ、開花は3月下旬から4月上旬で、「一目10万本」と形容される[8]。開花日が前の章の「平和」(4月中旬)とずれるのは、品種・地点・年の差によるのだろう。
由来として伝わるのは、江戸前期の元禄期、伊予宇和島藩主の娘・豊姫が松代藩主・真田幸道に嫁いだ際、故郷の種を持ちこんだという話である。のちに、種が咳止めの生薬になることから、松代藩が栽培を奨励して広まったとされる[8]。あくまで伝承として伝わる話である。
種を薬として評価した藩の側から見ると、霜や受粉の難しさがあっても、植え続ける理由があったことになる。どこまでが事実で、どこからが後世の物語なのか。それを読み分ける手がかりは、次の章の原典にある。
7. あんずの 一年を、自分で たしかめるには?
7. 咲く順番と、里の花を、自分の目で追う
7. 原典に当たる ── 資料の読みどころ
近くの こうえんや 学校に、あんずの 木が あるか、おうちの 人と さがして みましょう。うめや さくらと、さく じゅんばんを くらべるのも おもしろい でしょう。
まい年 おなじ 木で さいた 日を メモすると、今年は 早い、おそいと わかります。寒かった 冬の 次の 年は どうか、考えて みるのも いい でしょう。
ながの県の 「あんずの 里」へ 出かける ときは、長野県の かんこうの ページで 花の 時期を 見て から 行きます。
近所の公園や学校の庭に、アンズの木がないか探してみましょう。ウメやサクラと、咲く順番を比べるだけでも、冬の寒さの影響を考えるきっかけになります。
同じ木が咲いた日を毎年メモすると、寒い冬のあとと暖かい冬のあとで、咲く日がずれるかを自分でたしかめられます。
千曲市の「あんずの里」を訪ねるなら、開花時期を長野県公式観光サイト「GO NAGANO」などで確かめてから出かけるのがおすすめです。
この記事の核心にあたる主張は、次の原典で確かめられる。花芽の夏分化はスペインCITA Aragónの報告、低温要求量の品種差は『Plants』(2023)の論文、霜害の感受性はJABFQの論文が出発点になる。いずれも海外の研究で、日本の産地の数値ではない。
国内の栽培事情は、農研機構の果樹研究所の資料(結実不安定と育種)と、各県の農業試験場の報告で読める。千曲市の由来は、長野県公式観光サイトの記述が入口になる。
身近な観察では、地域のアンズの開花日を毎年記録すると、冬の気温との関係を自分で調べるきっかけになる。ここまでの話は、一つの木の一年を、半年先の準備から追ったものだった。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
花芽の時期、寒さと霜、受粉と結実、千曲市の由来は、以下の資料による。海外の研究は、日本の産地の数値ではない。
- ハイポネックス「アンズの育て方」 https://www.hyponex.co.jp/plantia/22696/ (花芽の時期・受粉・収穫までの年数)
- CITA Aragón(スペイン)アンズの花芽分化の研究報告 https://citarea.cita-aragon.es/bitstream/10532/4461/1/rep2019_036.pdf (花芽分化の時期・英語)
- Chilling Requirements of Apricot Cultivars(Plants, 2023) https://doi.org/10.3390/plants12173025 (低温要求量の品種差・英語)
- Flower bud drop and pre-blossom frost damage in apricot(Journal of Applied Botany and Food Quality) https://ojs.openagrar.de/index.php/JABFQ/article/view/2105 (霜害を受けやすい時期・英語)
- コトバンク「アンズ」 https://kotobank.jp/word/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BA (花・果実・種・杏仁)
- 神奈川県「農産物の上手な利用法(アンズジャム)」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450009/p580799.html (長野県での開花・収穫の時期)
- 農研機構 果樹研究所「アンズ育種」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/kakenhou20-4anzukeiteki.pdf (交雑育種と結実の不安定さ)
- 長野県公式観光サイト GO NAGANO「あんずの里」 https://www.go-nagano.net/nature-and-outdoors/id21051 (開花時期・由来の伝承)
なおした ところ
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