1. どくヘビは、どれくらい あぶないの?
1. 約200種のヘビのうち、命にかかわるのは25種ほど
1. 「毒ヘビの国」の数字を分けて見る ── 種数と、昔からの変化
オーストラリアには、ヘビが 200しゅるいぐらい います。そのうち、いのちに かかわる おそれが あるのは、25しゅるいほどだと されて います[1]。
25を 200で わると、やく 8分の1です。ほとんどの ヘビは、人を いのちの きけんに させるほどでは ないのです。
かまれて なくなる 人は、ぜんこくでも めったに いないと、研究者は 書いて います[2]。どくヘビが 多い ことと、人が いつも きけんに さらされて いる ことは、ちがう 話です。
2. ヘビは、人を おそって くるの?
2. ヘビは人を「攻撃」せず、ふつうは避ける
2. 咬傷はどこで起きるか ── 「避ける」ヘビと足首
ヘビは、人を おそう わけでは ありません。ふつうは、人を さけて います。ヘビの すむ ばしょに ちかづかないのは、かまれる きけんを へらす くふうです[1]。
オーストラリアの 北の ほうで、8年ぐらい つづけた 研究が あります。かまれた ことが たしかな 216人の うち、59パーセントは、足くびや 足を かまれて いました。この 研究では、なくなった 人は いませんでした[4]。
ただし これは、北の 一つの 地いきの 研究です。国ぜんたいの わりあいでは ありません。
ヘビについて、オーストラリア博物館のブログは「人の敷地を尊重して近づかなければ咬まない」「人を避ける傾向がある」と説明しています[1]。ヘビにとって人は、えさでも敵でもなく、できれば出会いたくない大きな動物です。
では、実際に咬まれた人は、どこを咬まれたのでしょうか。北部準州のダーウィン周辺で約8年半続いた研究では、咬まれたことが確実だった216人のうち、59%にあたる127人が足首か足を咬まれていました。この研究では、亡くなった人はいませんでした[4]。
足もとで起きやすい理由を、この研究は述べていません。見えない草むらで、うっかり近づいてしまうからかもしれない、という可能性にとどまります。また、これは北部準州の一地域の研究で、オーストラリア全体の割合ではありません。
ヘビは人を「攻撃」するのではなく、ふつうは避けるとされる。敷地を尊重して近づかなければ咬まないという説明がある[1]。この前提に立つと、咬傷は「ヘビが人に向かってくる」出来事ではなく、「人とヘビが至近距離で出会ってしまう」出来事として整理できる。
これを裏づける材料が、北部準州(ダーウィン周辺)の8.6年間の前向き研究である。咬まれたことが確実だった216人のうち、127人(59%)が足首か足を咬まれており、死者はいなかった[4]。足に集中するのは、見えない草むらや足もとで接触が起きやすいためと読めるが、この解釈は出典が直接述べているものではなく、本稿の推測である。
また、この研究は一地域のもので、全国の割合や牧場特有の傾向を示すものではない。牧場に特化した公的統計は、今回の資料には見つからなかったので、本稿は農地や郊外の研究で組み立てている。では、そうしたヘビは農家にとって、ただの厄介者なのだろうか。
3. ヘビは、のうかの 味方でも あるの?
3. 1匹のヘビが、1年にネズミを50匹以上食べるという推定
3. ヘビは害獣か益獣か ── ネズミを食べる数の推定と、その限界
ヘビは、ネズミを 食べます。マッコーリー大学の 研究者たちは、イースタンブラウンスネークという どくヘビの おとなが、1年に ネズミを 少なくとも 50ぴき、たぶん その 2ばいぐらい 食べると 見つもりました[2]。
農地では、1平方キロメートルに 100ぴきを こえる ことも あるそうです。100ぴきが 50ぴきずつ 食べると、5000ぴきです。
ただし これは 計算での 見つもりです。ネズミが ほんとうに へったかを はかった 数字では ありません。
農家にとって、ネズミは作物や貯蔵した穀物をいためる悩みの種です。そこで登場するのが、ヘビです。
マッコーリー大学の研究者らは、野外のイースタンブラウンスネーク(成体)が1年に少なくとも50匹、おそらく約2倍のネズミを食べると推定しています。農地では1km²あたり100匹を超えることもあるとされます[2]。単純に掛けると、1km²のヘビだけで年に5000匹以上になります。
この計算には前提があります。ヘビの数と食べる数の推定が正しいこと、そして、そのヘビが実際にその土地のネズミを食べていることです。農場でネズミが減った実測ではないので、あくまで見つもりとして受け取る必要があります。
研究者らは、ヘビを許せば薬剤に頼らずに済み、ネズミが運ぶ病気も減る可能性があると論じています。また、咬傷の多くはヘビが攻撃されたときに起こるため、咬傷も減るかもしれないと述べます[2]。これは著者らの主張で、まだ実証されたとは言えません。
農家は一般に、ヘビを駆除すべき害とみなしやすい。しかしMacquarie大学の研究者らは、野外の成体のイースタンブラウンスネークが年に少なくとも50匹、おそらく約2倍のネズミを食べると推定し、農地では1km²あたり100匹を超える密度もあるとする[2]。100×50で、1km²あたり年5000匹以上という計算になる。
これは、ヘビの密度と摂食数の推定を掛け合わせた値であり、農場でネズミが実際に減った実測ではない。上限値でも下限値でもなく、ヘビがいる前提での一つの見積もりと読むべきだ。報道には、ネズミが大発生するとヘビも増えて見かける機会が増えるというものがあるが、出典が報道であり、確かさは弱い。
著者らは、ヘビを許容すれば、殺鼠剤などの薬剤に頼らずに済み、ネズミが媒介する病気も減る可能性があり、「咬傷の多くはヘビが攻撃されたときに起こる」ので咬傷も減るかもしれないと論じる[2]。ただし最後の点は、著者らの主張であって実証済みではない。この論文の題名は「農家は毒ヘビを殺すべきでない理由」であり、立場のある主張として読む必要がある。では、陸の上で足もとに注意すれば済むヘビに対して、クモはどうか。
4. クモは どこに かくれて いるの?
4. セアカゴケグモは、乾いた物かげに巣を張る
4. セアカゴケグモの生息場所と、靴を確かめるという対策
オーストラリアには、セアカゴケグモという どくグモも います。ぜんこくに いて、かわいた ものかげに すを 作ります。いわや 丸太、ものおき、トイレなどです[7]。
あぶないのは メスだけです。そして、すぐに すから 出て こないと いわれて います[1]。
だから、くつや 手ぶくろを みに つける まえに、中に クモが いないか たしかめる ことが、だいじな ならわしです[1]。
クモで、農地や郊外で出会う代表は、セアカゴケグモ(レッドバック)です。全国にいて、乾いた物かげに巣を張ります。岩、丸太、低木、物置、トイレなどが好まれます[7]。
危険とされるのはメスだけで、巣からめったに離れません[1][7]。つまり、クモのほうから歩いてくるのではなく、人が手を入れた場所にいることが多いのです。
そのため、オーストラリア博物館のブログが挙げる基本は、庭仕事の前などに、靴や手袋の中を確かめることです[1]。特別な道具ではなく、日々の小さな習慣が対策になっています。
万一咬まれたときの手当ては、動物によってちがいます。自己判断せず、現地の公的な案内に従って医療機関に相談することが前提です[7]。
牧場や農地で会いやすいクモとして、セアカゴケグモが挙げられる。全国に分布し、岩、丸太、低木、物置、トイレなど、乾いた物かげに巣を張る。危険なのはメスのみで、巣からめったに離れない[7][1]。この習性から、遭遇は「クモが歩いてくる」より「人が巣のある場所に手や足を入れる」形で起きやすいと考えられる。ただしこの推論は出典が直接述べるものではない。
対策の基本は、靴や手袋をはく前に、クモが隠れていないか確かめることである[1]。同じ博物館の資料によれば、年に250件超が抗毒素を受けており、導入以来、死者は出ていない[7]。
応急手当は動物ごとに異なる。咬まれたときは、現地の公的な案内に従って医療機関に相談する[7]。クモの毒に対する抗毒素は、そもそもどう作られているのか。
5. クモの どくに きく くすりは、だれが 作って いるの?
5. ウサギとクモの毒から、ファンネルウェブの抗毒素を作る
5. ファンネルウェブの抗毒素 ── ウサギとクモの毒から作る仕組み
シドニーの まわりには、ファンネルウェブスパイダーという クモが います。むかしは、かまれて なくなる 人が いました。けれども、くすりが 作られて 1980ねんだいからは、なくなった 人は いません[5]。
この くすりは、ウサギに どくを すこしずつ ちゅうしゃして 作ります。クモの どくは、ヘビや とかげを かって いる こうえんで あつめます。この こうえんでは、2000びき いじょうの クモを かって いる そうです[6]。
けれども、これは ぼくじょうの クモでは ありません。シドニーの まわりの クモです。
シドニー周辺にすむシドニー・ファンネルウェブスパイダーは、オスが夏から秋に相手を探して巣穴を出て、裏庭やプールにも現れ、ときに家にも入ります[5]。ただし、これはシドニー周辺の種で、牧場一般にいるクモではありません。
そのクモに対する抗毒素は、1980年代に開発されました。オーストラリア博物館は、導入以来、亡くなった人は出ていないと説明します[5]。導入年は資料によって1980年と1981年に分かれるため、ここでは「1980年代」とします。
この抗毒素は、ウサギに毒を少しずつ注射して作られます。爬虫類公園(Australian Reptile Park)は2000匹以上のクモを飼い、毒を冷凍して、メルボルンの製薬会社CSL Seqirusに送ります[6]。公園は、抗毒素計画の開始後に亡くなった人はゼロで、記録されたこれまでの数は13人だとしています。これは公園自身の資料なので、博物館の説明と合わせて読みます。
こうして、クモの毒を集める人、ウサギ、薬を作る会社がつながって、農家や街の人の安心の土台になっています。
ファンネルウェブ(シドニー周辺の種)は、オスが夏から秋に相手を探して巣穴を離れ、裏庭やプールにも現れ、ときに家にも入る[5]。ただし、この種はシドニー周辺のもので、牧場一般のクモではない。ここでは、クモの話ではなく、抗毒素という仕組みの例として取り上げる。
オーストラリア博物館は、抗毒素の導入以来、死者はいないとし、開発を1980年代とする[5]。爬虫類公園は計画開始を1981年とし、それ以後の死者はゼロ、記録された死者は13人と述べる[6]。年が1980年と1981年で分かれるため、本稿は「1980年代」にとどめる。公園は運営団体であり、博物館の記述と合わせて読む必要がある。
抗毒素の製造は、ウサギに毒を少しずつ注射して作る。公園は2000匹以上のクモを飼い、毒を冷凍してメルボルンのCSL Seqirusに送る[6]。
注目したいのは、安心の土台が、現場の知恵だけでなく、「毒を集める人・動物・製薬」という分業でできている点だ。牧場の安心を考えるとき、ヘビやクモの性質だけでなく、この仕組みも一緒に見る必要がある。では、私たちが自分の身のまわりでできることは何か。
6. わたしたちは、なにを して みよう?
6. 足もとと身のまわりの生きものを、観察してみる
6. 身近な場所にいる生きものとの付き合い方を考える
オーストラリアの 人たちは、ヘビや クモが いる ことを 知った うえで、くらして います。ヘビには ちかづかない。くつの 中を たしかめる。くすりが あることを 知って おく。
あなたの 家のまわりにも、生きものは います。くつを はく まえに 中を ちらっと 見る ことを、1しゅうかん つづけて みませんか。
また、にわや こうえんで、生きものが かくれて いそうな ばしょを さがして みましょう。ただし、さわったり、石を ひっくりかえしたり しては いけません。見るだけに します。
この記事で見たのは、毒ヘビや毒グモを「なくす」のではなく、いる前提で、少しずつ安心をつくる工夫でした。ヘビは人を避け、農家にはネズミを食べる味方になりうる存在でもあり、クモには抗毒素があり、日々の習慣があります。
自分でもできることがあります。靴をはく前に中をのぞく習慣を、1週間続けてみてください。庭や公園では、生きものが隠れていそうな場所を、さわらずに見て探します。石を動かしたり、素手でさわったりはしません。
近所に、ヘビやクモとはちがう「そっと人を避けて暮らす生きもの」がいないか、1週間、見つけた場所と時間をメモしてみてください。見つけるたびに、その生きものが何を食べて暮らしていそうか、想像してみるのも楽しいはずです。
以上から、農地での安心は、種数の少なさ、ヘビの回避行動、ネズミを食べるという役割、抗毒素の製造、日々の習慣が、それぞれ別の層で支えていると整理できる。どれか一つが決め手というより、重ねて成り立っている。
ただし限界も多い。牧場に特化した公的統計は今回の資料になく、ネズミが減った実測も資料にない。ヘビの役割の議論は、一つの研究グループの主張でもある。
自分で確かめる道すじとして、靴をはく前に中をのぞく習慣を試すのがよい。庭や公園で隠れ場所を、さわらずに観察するのもよい。記事中の「100匹×50匹」のような計算を、ヘビの数や1匹が食べるネズミの数を変えて試し、推定がどれほど前提に左右されるかを考えてみてもよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
オーストラリアの毒ヘビ・毒グモについては、博物館の記事や研究者のページ、公園の資料を使いました。英語の資料です。
- Australian Museum「Alert, not alarmed」 https://australian.museum/learn/news/blog/alert-not-alarmed/ (ヘビの種数、ヘビの避ける習性、クモ対策の習慣)
- Shine et al. 2024, Animal Conservation「Why Australian farmers should not kill venomous snakes」(Macquarie University 研究者ページ) https://researchers.mq.edu.au/en/publications/why-australian-farmers-should-not-kill-venomous-snakes/ (死者数、ネズミを食べる数の推定、共存の主張)
- The Conversation「A venomous paradox: how deadly are Australia's snakes?」 https://theconversation.com/a-venomous-paradox-how-deadly-are-australias-snakes-79433 (1882〜92年の推計)
- Currie 2004, Medical Journal of Australia「Snakebite in tropical Australia: a prospective study in the Top End of the Northern Territory」 https://www.mja.com.au/journal/2004/181/11/snakebite-tropical-australia-prospective-study-top-end-northern-territory (咬まれた場所の割合)
- Australian Museum「Sydney funnel-web spider」 https://australian.museum/learn/animals/spiders/sydney-funnel-web-spider/ (ファンネルウェブの習性、抗毒素)
- Australian Reptile Park「Spider venom program」 https://www.reptilepark.com.au/venom-program/spider-venom-program/ (抗毒素の製造)
- Australian Museum「Redback spider」 https://australian.museum/learn/animals/spiders/redback-spider/ (セアカゴケグモの巣、手当ての注意)
なおした ところ
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