1. 「口を あけて 待つ」クジラは、ほんとうに いた
1. 「口を開けて待つ」クジラは、本当にいた
1. カツオクジラの待ち伏せ採餌が、2017年に発見された
2017年、日本の 大学の けんきゅうチームが、タイの 海で「カツオクジラ」と いう クジラを しらべて いた。すると、たてに うかんだ まま、口を 大きく あけて、じっと 小魚が 入って くるのを 待つ すがたが 見つかった[1]。
クジラの 多くは、じぶんから えものに むかって いく。でも カツオクジラの この やり方は、じっと 待つだけ。それでも 小魚は、あかりや えさに あつまる ように、じぶんから 口の 中に 入って くる[1]。
2017年、東京大学の研究チームが、タイの海で「カツオクジラ」というクジラを調べていた。すると、たて向きに浮かんだまま、口を大きく開けて、じっと小魚が入ってくるのを待つ姿が見つかった[1]。
クジラの多くは、自分からエモノにむかっていく。でもカツオクジラのこのやり方は、じっと待つだけ。それでも小魚は、明かりやエサに集まるように、自分から口の中に入ってくる[1]。
2017年、東京大学大気海洋研究所の岩田高志氏らの研究チームが、タイ湾に生息するカツオクジラ(Balaenoptera edeni)の採餌行動を観察し、学術誌『カレント・バイオロジー』に発表した。立ち泳ぎの姿勢で水面に浮かび、口を大きく開けたまま、集まってくる小魚を待ち受けるという行動である[1]。
それまで広く知られていたヒゲクジラの採餌行動は、エサの群れに向かって自ら突進する「突進採餌」だった。これに対し、この観察で記録されたカツオクジラの待ち伏せ採餌は、自分からは動かない受動的な方法で、突進採餌に比べて使うエネルギーが小さいという特徴がある。ただし、この行動がカツオクジラの採餌のすべてを占めるとまでは確認されておらず、観察された一つの採餌スタイルという位置づけである[1]。
2. クジラは、のどを ふうせんの ように ふくらませて 水ごと のみこむ
2. クジラは、のどを風船のようにふくらませて水ごとのみこむ
2. 多くのヒゲクジラは「突進採餌」を行う
カツオクジラは めずらしい やり方を する けれど、ほかの おおくの ヒゲクジラは、じぶんから えさの むれに むかって、いきおい よく つっこんで いく。この とき、のどの まわりの スジスジした 皮ふが、ふうせんの ように 大きく ふくらんで、水と えさを まとめて 口に ためこむ(ただし ほんとうの ふうせんでは なく、皮ふが のびて いるだけだ)[2]。
口を とじたら、こんどは 舌で おす ように して、ためた 水だけを 外に 出す。この とき、上あごに ならんだ「ひげいた」が フィルターの やくめを して、水は とおすが、えさは とおさない[2]。
3. なかまと あわを 出して、魚を おいこむ クジラも いる
3. 仲間と泡を出して、魚を追いこむクジラもいる
3. ザトウクジラは「バブルネットフィーディング」で協力する
ザトウクジラは、なかま 数頭で チームを くんで、魚の むれの まわりを ぐるぐる まわりながら、口から あわを 出す。あわの かべが できると、魚は にげられなく なる。そこへ みんなで 口を 大きく あけて、いっきに のみこむ[3]。
この あわを つかった かりの しかたは「バブルネットフィーディング」と よばれる。ひとりでは できない、なかまと きょうりょくする かりだ[3]。
ザトウクジラは、仲間数頭でチームを組んで、魚の群れのまわりをぐるぐる回りながら、口から泡を出す。泡のかべができると、魚は逃げられなくなる。そこへみんなで口を大きく開けて、一気にのみこむ[3]。
この泡を使った狩りのしかたは「バブルネットフィーディング」と呼ばれる。ひとりではできない、仲間と協力する狩りだ[3]。
ザトウクジラは数頭から十数頭でチームを組み、リーダー格の1頭が鳴音を発しながら、魚やオキアミの群れの下でらせん状に旋回して泡を吐き出す。この泡が円柱状のかべとなって群れを取り囲み、逃げ場を失わせたところで、チーム全員が真下から一斉に口を開けて突進し、まとめて飲みこむ[3]。
このバブルネットフィーディングとは別に、ザトウクジラには尾びれで水面をたたいてから採餌する「ロブテイル・フィーディング」という技法もある。2013年、セント・アンドルーズ大学のルーク・レンデル氏らが、1980年から2007年にわたる27年分の観察データをネットワーク分析した研究を学術誌『サイエンス』に発表し、この技法が血縁関係よりも社会的なつながりに沿って広まっていたことを示した。ただし、この研究では餌となる魚の分布や時期も技法の獲得を予測する要因になっており、社会的な伝播だけがすべてを説明するわけではない。それでも、狩りの技が群れの中で学習によって伝わっている可能性を示している[3]。
4. シロナガスクジラは、思って いたより ずっと 大食い だった
4. シロナガスクジラは、思っていたよりずっと大食いだった
4. シロナガスクジラの摂食量は、従来推定の3倍だった(2021年の追跡調査)
ヒゲクジラの このみは しゅるいに よって ちがう。オキアミと よばれる エビに にた 小さな いきものを たべる クジラも いれば、小魚を たべる クジラも いる[4]。
2021年、アメリカの けんきゅうチームが、たくさんの クジラに きろくそうちを つけて しらべた。すると、いちばん 大きい シロナガスクジラは、えさを たくさん たべる きせつには、1日に やく 16トンもの オキアミを たべて いた。これは、クジラの なかまぜんたいで、いままで かんがえられて いた りょうより、さいだい やく 3ばい 多かった[4]。
ヒゲクジラの好みは種類によってちがう。オキアミと呼ばれるエビに似た小さな生きものを食べるクジラもいれば、小魚を食べるクジラもいる[4]。
2021年、アメリカの研究チームが、たくさんのクジラに記録装置をつけて調べた。すると、いちばん大きいシロナガスクジラは、エサをたくさん食べる季節には、1日に約16トンものオキアミを食べていた。これは、クジラの仲間全体で、今まで考えられていた量より、最大で約3倍多かった[4]。
ヒゲクジラの食性は種によって異なり、オキアミなどの甲殻類を中心に食べる種もいれば、小魚を中心に食べる種もいる[4]。
2021年、スタンフォード大学のマシュー・サボカ氏らの研究チームが、加速度計・GPS・カメラなどを備えたタグを321頭のヒゲクジラに取り付け、あわせてドローンでクジラの口の大きさを、ソナーでオキアミの密度を測定するという追跡調査を行い、学術誌『ネイチャー』に発表した。その結果、シロナガスクジラは摂食期の摂食日には平均で約16トンものオキアミを食べており、体重に対する割合は1日あたり5〜30%にのぼることがわかった。これは個体としての1日の摂食量の実測値であり、ヒゲクジラ類全体の摂食量に関する従来の推定(体重の5%未満)と比べると、研究全体では最大で約3倍にあたる量だったと報告されている[4]。
5. クジラの ひげいたは、つめと おなじ せいぶんで できて いる
5. クジラのひげ板は、爪や髪と同じ成分でできている
5. ひげ板の正体は、爪や髪と同じケラチンである
クジラの「ひげいた」は、毛では ない。じつは、人間の つめや かみの毛と おなじ「ケラチン」と いう せいぶんで できて いる(ただし ほんとうに つめでは なく、にた せいぶんの べつの もの だ)。三角の 形を した いたが、上あごの かたがわだけでも 200まいから 400まいほど ならんで いる(しゅるいに よって かずは ちがう)[5]。
クジラの「ひげ板」は、毛ではない。実は、人間の爪や髪の毛と同じ「ケラチン」という成分でできている(ただし本当に爪ではなく、似た成分の別のものだ)。三角の形をした板が、上あごの片側だけでも200枚から400枚ほど並んでいる(種によって数はちがう)[5]。
6. むかしの 人は、クジラの ひげで いろんな ものを つくった
6. 昔の人は、クジラのひげでいろんな物を作った
6. クジラひげは、コルセットから工芸品まで利用されてきた
むかしの ヨーロッパでは、クジラの ひげいたが、女の人の 服の「ほねぐみ」や、かさの ほね、むちなど、いろんな ものに つかわれて いた。とくに 18〜19せいきごろに たくさん つかわれた[6]。
日本でも、えど時代から、かんざしや おさらなどが ひげいたで つくられて きた[6]。
でも、この ころ お肉や あぶら、ひげなどを とる ために たくさんの クジラが とられた ことで、シロナガスクジラなどの かずが 大きく へって しまった。今は、その はんせいから、クジラを とる ことは きびしく かぎられて いる。今の かさの ほねや ふくの ほねぐみは、プラスチックなどの べつの ざいりょうに かわった[6]。
昔のヨーロッパでは、クジラのひげ板が、女性の服の「骨組み」(コルセットなど)や、傘の骨、乗馬用のムチなど、いろいろな物に使われていた。とくに18〜19世紀ごろにたくさん使われた[6]。
日本でも、江戸時代から、かんざしやお皿などがひげ板で作られてきた[6]。
でも、このころ肉や油、ひげなどをとるためにたくさんのクジラが捕られたことで、シロナガスクジラなどの数が大きく減ってしまった。今は、その反省から、クジラを捕ることはきびしく制限されている。今の傘の骨や服の骨組みは、プラスチックなど別の材料に変わった[6]。
ヨーロッパでのクジラひげの利用は中世にさかのぼり、13〜15世紀には武具の袖や小物に使われた記録がある。16世紀以降はファージンゲールと呼ばれるスカートの骨組みに用いられるようになり、18〜19世紀にはコルセットやパニエ、クリノリンといった女性の下着の骨材、傘の骨、乗馬用のムチなど、幅広い用途で使用のピークを迎えた[6]。
日本でも江戸時代中期以降に加工技術が発展し、かんざしや茶托(ちゃたく)、耳かきなどの工芸品が作られた。軽くて弾力があるという特性から、細工物の部品としても利用されたと伝えられている[6]。
一方で、鯨油(灯火や石けんなどの原料)や食肉、そしてこうしたひげなど、クジラのさまざまな部位への需要を背景に、近代以降の大規模な商業捕鯨が進んだ。シロナガスクジラは、捕鯨が本格化する前には推定でおよそ25万〜30万頭いたとされる(出典によって数値には幅があり、たとえば約25万頭とする報道もあれば、約30万頭とする資料もある)が、乱獲によって20世紀なかばには数千頭規模まで落ち込んだとされる。1966年にシロナガスクジラを対象とした商業的な捕獲が禁止され、その後1982年には国際捕鯨委員会(IWC)が対象を広げた商業捕鯨モラトリアムを採択、1986年から効力を持つようになった。近年は回復の兆しがあるとも報告されている。20世紀半ば以降はプラスチックなど人工素材への置き換えも進み、クジラひげが日用品の材料として使われることはほとんどなくなった[6]。
テレビや 図かんの えいぞうで、口の うごきを かんさつしよう
テレビや図鑑の映像で、口の動きを観察しよう
映像資料で、採餌行動の違いを見くらべる
テレビの どうぶつばんぐみや、図かんの えいぞうで クジラを 見る ことが あったら、どんな ふうに えさを たべて いるか かんさつして みよう。じっと 待って いるのか、いきおいよく つっこんで いるのか、なかまと いっしょに あわを 出して いるのか。うごきの ちがいが わかる はずだ。
テレビの動物番組や、図鑑の映像でクジラを見ることがあったら、どんなふうにエサを食べているか観察してみよう。じっと待っているのか、勢いよく突っこんでいるのか、仲間といっしょに泡を出しているのか。動きのちがいがわかるはずだ。
図鑑の映像資料やドキュメンタリー映像で、待ち伏せ採餌・突進採餌・バブルネットフィーディングを見くらべてみよう。同じ「フィルターで濾過する」というしくみを土台にしながら、種によってこれほど違う採餌戦略が進化してきたことが、実際の動きから確認できるはずだ。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
- 東京大学「ヒゲクジラ類における受動的な採餌行動を発見」、academist Journal「タイのクジラの待つだけ採餌 ── カツオクジラは立ち泳ぎをしながら採餌する」、一次論文(PubMed)。 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00609.html https://academist-cf.com/journal/?p=6466 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29112865/ (2017年、東京大学大気海洋研究所の岩田高志氏らの研究チームがタイ湾のカツオクジラで立ち泳ぎしながら口を開けて小魚を待ち受ける「待ち伏せ採餌」を観察し学術誌『カレント・バイオロジー』に発表したこと、これが従来知られていた能動的な突進採餌とは異なる受動的な採餌様式でありエネルギー消費が小さいことは東京大学の公式発表および一次論文(PubMed掲載の抄録)による。観察は58回・31頭を対象に行われたものであり、この行動がすべての採餌を占めると確認されたわけではないことも一次論文の抄録による。カツオクジラが立ち泳ぎをしながら採餌するという生態の詳細はacademist Journalの解説記事による)
- 魚食普及推進センター(大日本水産会)「くじらのヒゲってオシャレのため? ヒゲクジラのヒミツ」、くじらタウン「ヒゲクジラ」。 https://osakana.suisankai.or.jp/s-other/7366 https://www.kujira-town.jp/ecology/toothed-whales/baleen-whale/ (突進採餌の際にのどから腹にかけての畝状の皮膚〈腹部畝〉が大きく広がり大量の海水とエサをためこむこと、上あごに200〜400枚のひげ板が並びフィルターとして機能することは魚食普及推進センターおよびくじらタウンの解説による)
- フリー百科事典『ウィキペディア』「バブルネット・フィーディング」、ナショナル ジオグラフィック日本版「ザトウクジラの狩りは“文化”か?」、一次論文(PubMed)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/バブルネット・フィーディング https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7885/ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23620054/ (ザトウクジラが数頭から十数頭でチームを組み鳴音を発する個体を先導役にらせん状に泡を吐き出して魚やオキアミの群れを取り囲み一斉に突進して飲みこむバブルネットフィーディングの様子はウィキペディアによる。2013年にセント・アンドルーズ大学のルーク・レンデル氏らが1980〜2007年〈27年分〉の観察データをネットワーク分析し尾びれで水面をたたく「ロブテイル・フィーディング」という採餌技法が血縁より社会的つながりに沿って広まっていたことを学術誌『サイエンス』に発表したことはナショナル ジオグラフィック日本版の記事および一次論文(PubMed掲載の抄録)による。この研究では餌となる魚の分布・時期も技法獲得を予測する要因だったことも一次論文の抄録による)
- 日本経済新聞「クジラは想像超える大食いだった 推定の3倍!毎日16t」、AFPBB News「シロナガスクジラの『パクリ』1回、200人分の食事に相当」、一次論文(PubMed)。 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC103AS0Q1A111C2000000/ https://www.afpbb.com/articles/-/2778621 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34732868/ (2021年11月3日付で学術誌『ネイチャー』に発表された、スタンフォード大学のマシュー・サボカ氏らが7種321件のタグ装着データに加え音響測定によるオキアミ密度、ドローンによる口の大きさの測定を組み合わせた追跡調査により、シロナガスクジラが摂食期の摂食日に平均約16トン、体重の5〜30%にあたるオキアミを食べていたことが判明したこと、これがヒゲクジラ類全体の摂食量に関する従来推定〈体重の5%未満〉と比べ研究全体では最大約3倍にあたると報告されたことは日本経済新聞の報道および一次論文(PubMed掲載の抄録)による)
- くじらタウン「クジラのヒゲを原料とする工芸品編」、フリー百科事典『ウィキペディア』「鯨ひげ」。 https://www.kujira-town.jp/news/20200624_20200624/ https://ja.wikipedia.org/wiki/鯨ひげ (ひげ板の主成分が人間の爪や髪と同じケラチンであり断面が三角形で繊維質の房になった縁を持つことはくじらタウンの解説による。上あごに200〜400枚のひげ板が並んで生えることはウィキペディア「鯨ひげ」による)
- フリー百科事典『ウィキペディア』「鯨ひげ」「シロナガスクジラ」、くじらタウン「クジラのヒゲを原料とする工芸品編」、AFPBB News「クジラの個体数は回復していない、専門家らが指摘」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/鯨ひげ https://ja.wikipedia.org/wiki/シロナガスクジラ https://www.kujira-town.jp/news/20200624_20200624/ https://www.afpbb.com/articles/-/2409087 (中世以降のヨーロッパでクジラひげが武具・ファージンゲール・コルセット・傘の骨・ムチ等に使われ18〜19世紀に利用のピークを迎えたこと、日本で江戸時代中期以降にかんざしや茶托などの工芸品が作られたこと、プラスチック等の人工素材の台頭で置き換わっていったことはウィキペディア「鯨ひげ」による。くじらタウンの記事はクジラひげを使った工芸品の存在を紹介しており、細工物への利用を示唆する記述として参照した。シロナガスクジラが捕鯨本格化前に推定約30万頭いたとされ20世紀なかばには数千頭規模まで減少したこと、1966年に商業的な捕獲が禁止されたこと、近年は回復の兆しが報告されていることはウィキペディア「シロナガスクジラ」による。捕鯨前の個体数を約25万頭とする推定、1982年に国際捕鯨委員会が商業捕鯨モラトリアムを採択し1986年から効力を持ったことはAFPBB Newsの報道による。出典間で捕鯨前の推定個体数に幅があることは、両出典を突き合わせて確認した。近代の商業捕鯨が鯨油・食肉・ひげなど複数の部位への需要を背景としていたことは一般に知られている捕鯨史の経緯である)
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